核心評論
☆在日米軍機が95-96年に書け沖縄県・鳥島射爆場での実弾発射訓練で劣化ウラン弾1520発を誤射、と1年後に日本政府へ通報―外務省発表(2月10日)。通知遅れに地元沖縄反発。
【細る信頼の糸】(97年2月20日付)
◎海兵隊への言及が不可避
信頼損ねた日米両政府
在日米海兵隊の戦闘機による鳥島射爆場での劣化ウラン弾発射は、沖縄問題の根深さをあらためて突き付けた。
十七日夜、首相官邸で行われた橋本龍太郎首相と大田昌秀知事の会談は、もともと今年五月に使用期限が来る嘉手納空軍基地など在日米軍十二施設の強制使用問題で知事の理解を得ることを主眼にセットされた。
米国でも限られた施設でしか使用が許されない、劣化ウラン弾の使用という新たな問題が明るみに出たことで、せっかくの会談が気まずい雰囲気になってしまったのは当然だ。
首相は大田知事にひたすら謝った。当初のシナリオになかったことである。
首相の考えを推測すると―。
まず、沖縄の「国際都市形成構想」というバラ色に彩られた将来計画を強力に支援することでできあがった「信頼関係」の延長線上で、昨年の日米合意の根幹となる普天間飛行場の移設問題に知事の理解を取り付ける。
併せて、基地強制使用の突破口を切り開く。そのため誠心誠意、努力を誓う―ことだったろう。
劣化ウラン問題がその腰を折ってしまった。日本政府への連絡が一年後となった米政府は非難されて当然だが、日本政府の問題意識のなさにもあきれてしまう。
▽一報さえあれば
長期化するペルーの日本大使公邸人質事件や国会審議に、首相や梶山静六官房長官が忙殺されている事情はあるが、在京米大使館の連絡からあまり時間を置かずに沖縄県に「一報」の連絡をしておくよう強く指示いれば、状況も変わっていたのではないか。
現に県幹部の一人は「早めに連絡さえあれば県にも対応の知恵があった」と話している。
大田知事は昨年九月、基地強制使用の公告・縦覧の代行に応じた。これで「沖縄県との信頼の糸がつながった」と政府首脳は胸をなで下ろした。しかし今回あらためて噴出した沖縄の不信感は、その「信頼の糸」を過信してしまい問題を軽く見たことへの回答だ。
何が起こるか分からない沖縄問題の複雑さへの慎重さが政府に欠けていた。官邸で大田知事と握手した首相の顔はこわばっていた。知事の表情もぎことなかった。そこに、今回の問題の険しさ、今後の基地問題作業の難しさを見ることができる。
米軍基地強制使用問題で、県収用委員会の第一回公開審理が二十一日開かれる。政府は、米軍用地特別措置法の改正で臨む方針を固めているが、もはや事務的に事が処理されることはないだろう。首相の高度な政治判断こそが迫られよう。沖縄に駐留する米海兵隊の態様である。
▽懐柔策も効果なし
一年前、首相は米サンタモニカ(カリフォルニア州)の日米首脳会談で普天間飛行場に言及。日米両政府は五―七年以内の普天間全面返還で合意した。
クリントン米大統領は九五年十一に予定していた訪日を延期、昨年四月に来日した。日程延期の理由は、議会との対立など国内事情とされたが、この時期は劣化ウラン弾発射とも重なる。もし事件が明るみに出ていれば、九五九月の米兵による暴行事件で沸騰していた反基地運動を泥沼化させる怖れは十分あった。
沖縄の米軍基地縮小は海兵隊の縮小にほかならない。沖縄県民が求めているのも、まさにそれだ。再びもつれた沖縄問題の正常化には、海兵隊を聖域化していては、どんな「懐柔策」もさして効果的とはならない。
首相は四月、今年初めての日米首脳会談に臨む。具体的な海兵隊の削減計画には至らないまでも、何らかの形で沖縄駐留海兵隊のあり方に言及せざるを得ないだろう。
首脳会談のほぼ一カ月後には、嘉手納基地など在日米軍十二施設の使用期限が来る。政治決着はこの機会をおいてない。サンタモニカに続く首相の政治判断が、国内政局の面からも避けられない。
(共同通信編集委員 尾形宣夫)