⑧【普天間合意から8年】

◎外交の陰に潜む沖縄の矛盾


 宜野湾市の沖縄国際大学から見る普天間飛行場一帯は、戦前、リュウキュウマツの並木が美しい馬場や肥沃(ひよく)な土地が広がる、本島中部の政治・経済の中心地だったという。この地
に米軍が上陸、接収してできた普天間飛行場は、国道58号と国道330号、県道34号に囲まれた中心部に位置し、周りを民家や学校、公共機関の建物が押し合うように立て込んでいる。
 早いものだ。一九九六年二月、就任間もない橋本龍太郎首相が訪米、カリフォルニア州サンタモニカでクリントン大統領(いずれも当時)に普天間飛行場返還を切り出し、その二カ月後、返
還の日米合意にこぎ着けてから満八年になる。
 日米両政府が交わした返還期限はとうに過ぎた。だが名護市辺野古沖合の代替施設の建設は、環境影響評価がようやく動きだすだけで、施設の完成は十数年後という、不確かな見通ししか立
っていない。
 返還の遅れに基地問題の難しさを考えていたら、昨年十一月にブッシュ米大統領が発表した海外駐留米軍の構成・基地再編の声明に続いて、沖縄駐留海兵隊の削減が現実になるらしいという
ことだ。大統領声明とは別だが、イラクに派遣する三千人を任務終了後、沖縄に戻さず、補充もない。県民の希望どおり海兵隊は縮小されそうだ。
 米軍基地再編で在日米軍がどうなるのか。とりわけ、米軍施設の四分の三が集中する沖縄基地の態様がどう変化するのか、今はまだ分からない。普天間返還がこう着状態のなかで表れた米軍
再編・縮小をどう評価すべきか政府も迷っている。
 型どおり「在日米軍の整理・縮小を望んでいる」とはいうものの、日米安保体制に与える影響ともなると「日本の安全保障、日本の防衛(力)をそぐことになれば極めて重大」という深刻な
返事が返ってくる。
 米同時テロ以降、米国支援を鮮明にし、日米同盟の法的整備をほぼ成し遂げた日本だが、在日米軍の再編に神経質になるのは、「いざという時に日本を守ってくれるのは米国だけだ」(小泉
首相)との安全保障面での米国信仰があるからだ。
 であれば、米軍基地が集中する沖縄はどうなるかが県民の一番知りたいところだが、沖縄問題の琴線に触れるような話には乗ってこない。普天間代替施設の使用期限「十五年問題」での政府
の対応に端的に表れている。
 普天間合意は、日米両政府の利害が一致した政治決着だという単純な事実である。ところがこの政治判断が、沖縄県や地元名護市が代替施設の受け入れを決めた後、基地問題は経済問題にわ
い小化され、沖縄でも問題解決の現実路線が、政府の政策に寄り添うように定着した。
 経済振興という言葉は、ある種の魔力を持っていたし、相次ぐ振興策は既成事実の積み重ねとなって基地問題を変質させたのである。
 世界に活躍の場を求めだした小泉首相だが、いまだに広大な米軍基地が居座る現実に、日本外交の主体性は見いだせない。そして、日米同盟と国際協調を両軸とする小泉外交の内なる矛盾が
沖縄の基地問題に表れている。

(沖縄タイムス 2004年2月8日付)