⑦【意気上がるぬ新年】

◎不安よそに走り出した首相


 日本経済を引っ張る財界人や有力企業経営者らが一堂に会したのだから、会場が華やいだ雰囲気になるのは当然だ。
 小泉純一郎首相を迎え六日、東京・帝国ホテルで開かれた日本経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済三団体による恒例の新年祝賀パーティーは、出席者がようやく回復の兆しを見せた
日本経済に、少しばかりの安心と喜び感じる新春のにぎやかな場となった。
 だが、出席者の気分が今一つ晴れないのは、難しい企業経営を迫られている厳しい現実が出席者それぞれが抱えていたからである。
 年頭所感で日本経団連の奥田碩会長は「内需中心の持続的な成長を確実にしなければならない」と強調したし、経済同友会の北城恪太郎代表幹事は小泉内閣の構造改革に「具体的な姿の不明
りょうさに不安を感じる」と率直に語った。
 回復の兆候が表れたといっても、不況が深刻なのは中小企業だ。この全国の中小企業を傘下に置く日商の山口信夫会頭は「デフレ克服を最優先とする経済運営」を求めている。
 「こんな時期だ。しみたれた新年祝賀会にしたくない」(財界幹部)とはいえ、先行きが判然としない経済状況では、個々の企業マインドまで奮い立たせることは無理。
 小泉改革の先行きが読めないもどかしさ。昨年暮れの年金改革、国と地方財政の三位一体改革は取りあえずの形をなしたが、歳入の半分を国債に依存した異常な国家財政に経済界の危機感は
尋常でない。
 経済の先行きを占う東京株式市場の株価は大きく値を上げて新年のスタートを切った。海外市場の株高や企業業績回復の期待を込めたご祝儀相場とも言えるが、一方で東京外為市場の円ドル
相場は米国の財政赤字や大統領選を控えドルの先安感から一段の円高に進んだ。
 円高不安。これも経済界に潜む景気回復への悪材料である。祝賀会後、記者会見した奥田会長ら財界三首脳は急激な円高への懸念を語った。
 「小泉首相どうしてくれる。信じていいのか」。経済三団体の新年祝賀会は、そう言っているのである。
 ところで当の小泉首相はあいさつで改革の進展を自賛、改革の前途に不安を持つ経済人にも改革路線に変更がないことを重ねて強調した。
 首相は元日早々靖国神社を参拝、またまた世間を驚かせ、中国、韓国両政府をも怒らせた。日本の伝統の初詣で、「すがすがしい気分になることができた」という。
 そして五日の年頭会見では冒頭から自衛隊のイラク派遣に触れ、日本の役割、派遣に際しての万全な対策を強調。すでに先遣隊として活動を始めた隊員に「心からの敬意を表したい」と語っ
た。
 自衛隊のイラク派遣は今月から本格化する。戦闘が続くイラクではどんな事態が起きるかもしれない。多くの戦没者を祀る靖国神社は戦争と切り離せない。首相を参拝に駆り立てた真意は不
明だが、イラク復興支援の先兵となる自衛隊への最高指揮官としての配慮があったのは間違いない。
 重苦しい年明け。首相は一人元気に走りだした。

(沖縄タイムス 2004年1月11日付)