⑥【自衛隊イラク派遣】

◎盟友ならばいさめる勇気も


 「日本の政治は眠気を誘い、経済は停滞、指導力はひん死の状態。金大中や陳水扁ら力強い政治家に比肩する指導者がいない」
 沖縄サミット(主要国首脳会議)開催一カ月前の二〇〇〇年六月、米ロサンゼルス・タイムズは日本の政治をこう酷評した。小渕恵三首相が急死、代わって森喜朗首相が誕生、衆院選を間近
に控えたころである。
 この米国の対日観が今でも同じとは言わない。「9・11」同時テロ以降、小泉純一郎首相は対米協力を矢継ぎ早に打ち出した。首脳同士の信頼関係もかつてないほど強固だ。
 イラク復興支援特措法に基づく自衛隊派遣の基本計画が閣議決定され、戦後初めて戦闘が続くイラクに自衛隊が派遣される。米政府は小泉首相の決断に感謝しているという。孤立する米国に
とって、掛け替えのない存在と言えるかもしれない。
 小泉首相は基本計画決定後の記者会見で「日米同盟と国際協調に向けて日本の行動が試されるときだ」「理念、国家としての意志が問われている」と熱っぽく言った。
 自衛隊派遣はイラク復興を人道面から支援することが法律が定めた目的だが、テロやゲリラの目標となる恐れもあり、戦闘になるかもしれない。万が一、犠牲者が出た場合どうするのか。小
泉首相の険しい表情から苦渋の決断を読み取れるが、対米協力に一段と踏み込んだとしか見えない。
 基本計画を決めた九日の記者会見を聞いていても、日米同盟と国際協調を盾に自衛隊派遣の正当性を語っただけの印象しか残らない。
 首相は「自衛隊は(イラクの)復興支援に行く。武力行使はしない。戦争に行くのではない」と強調した。武力行使を前提にできない。当然のことだ。だが、現状は米英軍のみならず、国連
機関も民間も無差別テロの対象となった。日本外務省の二人の外交官も死亡した。イラク全土が戦闘状態であることは疑いようもない。
 イラク特措法が定める「非戦闘地域」とは何か。政府は「国家および国家に準ずる組織の戦闘が行われていない地域」と苦し紛れの概念をつくった。周辺事態法の「周辺事態」を地理的概念
でないとしたのと同じだ。
 イラク特措法成立時とは、イラク情勢は全く違う。戦闘は泥沼化、ベトナム戦争をも思い出させる。であればこそ、米国の小泉首相への信頼と期待は大きいと言える。
 時計の針を戻してみる。アーミテージ米国務副長官はブッシュ政権入り前の二〇〇〇年十月、超党派の対日政策提言「アーミテージ報告」をまとめた。日米同盟を米世界戦略の中心と位置付
け、憲法の制約を認めながら日本により大きな貢献と、平等な同盟国となるよう求めた。日米防衛協力は、その筋書きどおり進んでいる。
 状況の変化があるにしろ、米国に同調するだけが同盟ではない。ドイツ、フランス、ロシアなどと協力し米国をいさめる。その上で国連の力を結集する。日本はその役割を担う資格は十分あ
る。時に米国に苦言を呈するのも友好の証だ。日本の道を誤らせてはならない。

(沖縄タイムス 2003年12月14日付)