④【軍民共用空港の事業主体】

◎気掛かりな国と県の対立


 「思い込み」は、ときとして人間関係を土壇場まで追い込んでしまうことがある。一人決めでそうと思ってしまうから相手への誤解が膨らみ、互いに引っ込みがつかなくなる。だが、大概の
ことは腹を割って話せば解決する。ところが国家となると、そうはいかない。
 典型的なのはイラク開戦以来の米国の論理だろう。五月一日の戦闘終結宣言から半年が過ぎたが、米英両国が対イラク開戦の大義とした大量破壊兵器の存在は、いまだに確たる証拠がつかめ
ないばかりか、つい最近公表された米調査団の暫定報告でも差し迫る脅威は示されなかった。
 アナン国連事務総長も今年の国連総会演説で米国の先制攻撃を真っ向から批判した。その国連に米国がイラクでの兵員・復興資金の分担を求める新決議案を提出したのは、国連を通じてしか
収拾がつかないと判断したからだろう。
 ブッシュ米大統領やブレア英首相のかつての高支持率は、今では見る影もない。戦争遂行のために情報がねじ曲げられ、政治と情報のゆがんだ関係ばかりが際立っている。大量破壊兵器の存
在は、過去の旧フセイン体制に対する思い込みでしかなくなったようだ。
 同列には論じられないが、普天間飛行場代替施設の民間供用部分の事業主体であらわになった国と県の対立も、思い込みから生じた行き違いの側面があるようだ。
 普天間飛行場の代替施設は米海兵隊基地と沖縄県が要求した民間空港施設を併せ持つ軍民共用空港だ。複雑な基地問題を抱えながら移設が決まった経緯から、国が事業主体として全面的にか
かわるのが筋、というのが県の主張だ。これに対し国は、完成後に県の空港となる民間施設の事業主体になることは法的にあり得ないとの見解だ。
 国も県も調整作業の努力を続けているが、今のところ解決のめどは立たない。事業主体が決まらないため、肝心の環境影響評価(環境アセスメント)の手続きが暗礁に乗り上げ、移設作業も
ずれ込んでしまっている。
 気掛かりなのは移設作業が遅れることだけではない。国と県の考え方の違いが沖縄問題全体に及ぼす影響である。
 普天間問題は代替施設建設の方向付けが決まり、政治の次元から事務レベルの作業に移った。野中広務元自民党幹事長の政界引退表明、首相官邸で事務レベルの最高責任者として沖縄問題に
も深くかかわってきた古川貞二郎官房副長官も退任した。ある官僚OBは「一つの時代の終わり」と言った。沖縄問題がある種の転換期に至ったという意味である。
 思い込みの違いは、代替施設としての海上ヘリ基地構想でも表れた。当時の県政が同構想を拒否したことで国と県の関係は断絶、経済振興策が棚上げされた事実が思い出される。
 事業主体の思い込みが近い将来、「十五年問題」で再現されないとは言い切れない。要注意だ。勘違いや思い込みの溝を埋めた、過去の「政治」への期待はしない方がいい。政治の季節の終
わりは、県の交渉能力が問われる時代の始まりである。

(沖縄タイムス 2003年10月12日付)