③【小泉政治と自民党総裁選】

◎国の在り方が問われる


 今週末開票の自民党総裁選は、小泉純一郎首相(総裁)と藤井孝男元運輸相、亀井静香前政調会長、高村正彦元外相の戦いというよりも、小泉支持をめぐる最大派閥橋本派の骨肉相食(は)
むし烈なバトルの行方に焦点が移ってしまった。政界きっての実力者、野中広務元幹事長が、小泉再選を阻止するとして、盟友の青木幹雄参院幹事長らとたもとを分かち、今期限りで政界引退
を表明したからだ。
 カネや人事をめぐって血みどろの争いを繰り広げた総裁選はあった。が、今回のように主要派閥が分裂した総裁選は異例だ。確かに過去二年の小泉政治で派閥は弱体化、族政治も勢いをなく
した。今度も派閥の機能不全が証明された。しかし、それは派閥の最期でもないし、新しい時代の幕開けと言うのも早すぎる。
 総裁選後に予想される総選挙をどう勝ち抜くか。そのための「選挙の顔」として世論調査で高支持率を維持する小泉氏が最も好都合だと多くの議員が判断した。この議員心理が派閥の枠を超
えて走らせたのである。
 今の世の中、構造改革に正面切って反対はできないが、改革の各論となると話は別だ。デフレ対策を優先させるべきだとか、過疎問題から「郵政」「道路」改革は慎重にという思いの議員が
実に多い。ところが小泉首相は「改革なくして成長なし」と、政策転換をかたくなに拒否して譲らない。
 では小泉改革は掛け声どおり進んだかというと、そうではない。反小泉勢力の攻勢と官僚の分厚い壁に遭って、「骨太の方針」の「国債発行枠三十兆円」「税制改革」「三位一体改革」は巧
妙に修正、骨抜きにされた。道路公団、郵政事業民営化の工程もすんなり進むか疑わしい限りだ。
 首相は青木氏らの挙党態勢やデフレ対策要求に理解を示したという。これが、橋本派の分裂や堀内派の自主投票につながったのだが、小泉政治の神髄を見た思いだ。仮に小泉再選となっても
、便宜的な再選協力者が宗旨を変えるはずはない。派閥も姿、形を変え生き続けるだろう。権謀術数は政治の常である。
 総裁選では外交も問われている。「9・11テロ」や北朝鮮の核開発・拉致問題で外交・安保論議が活発になったのは当然としても、イラク復興支援特措法に見られるような日米同盟強化に
まい進する姿は奇異に映る。
 イラク情勢の急変で、自衛隊派遣も対米支援から国際協調に軸足を移した再検討が必要になる。検討中の自衛隊海外派遣恒久法は外交理念、目標が明確でない。経済大国にふさわしい支援も
、その道筋や目的、役割をはっきりさせて、はじめて説得力がある。対米関係強化の裏でアジア外交は大丈夫なのか。小泉外交の問題点は少なくない。
 小泉首相の総裁選公約に具体性はまるでなかった。改革も外交も、日本という国の在り方をデザインする手段である。言葉だけが踊る改革や外交では、新しい時代も新しい政治も始まらない

 改革に対する考え方の違いに加えて、対中国、北朝鮮問題に通じた野中氏の引退表明は、小泉政治に対する「自爆テロ」と言えるかもしれない。

(沖縄タイムス 2003年9月14日付)