J【安倍政権の分権改革】

■石原信雄・財団法人 地方自治研究機構会長(元内閣官房副長官)

「地方の多くは好況感がない。分権改革も税源の偏在を是正することが急務だが、中央にはその認識がない。地方交付税を目の敵にするだけでは地域は窮乏する」

                              聞き手 尾形宣夫「地域政策」編集長

略歴

石原信雄(いしはら・のぶお)

1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒。自治省(現総務省)税務局長、大臣官房長、財政局長を経て同省事務次官(86年7月まで)。87年内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮沢、細川、羽田、村山各内閣)=95年2月まで。現在、(財)地方自治研究機構会長、(財)日本法制学会会長。2006年11月、「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」(議長・安倍晋三首相、日本版NSCを検討する組織)メンバー。群馬県出身。

▽改革の手法は変わって当然

尾形 安倍晋三内閣が発足して約百日です。中国、韓国との首脳外交を修復、外交面での評価は高いですが、内政面では、小泉内閣の改革路線を継承すると言っています。

石原 継承するといっても、具体的な政策になれば違うのは当たり前だ。外交問題でも、小泉総理の時代とは違ったニュアンスが出てきている。安倍総理なりのカラーが出てきていると、私は理解している。きつさという点では、小泉さんとは違うが、国に対する誇りという考え方は、小泉さん以上にしっかりしたものを持っておられると思う。それが、政権に就いて早々の中国、韓国訪問になった。

尾形 基本的な部分の路線は変えないまでも、改革の手法も当然変わります。ただ、基本的には、昨年7月の「骨太の方針2006」がベースになりますね。

石原 それは、変わらないと思う。骨太方針は、(政策の)大きな方向づけをしたものだから、その具体化はまず平成19年度の予算編成にかかっている。骨太方針の大きな流れは変わらないにしても、具体化にあたっては、小泉さんとの差が出てきて当然だ。

尾形 小泉さんは、キャラクターが強かった。

石原 全体に同じトーンではないが、小泉さんのキャラクターの強さが表れた、一番典型的な例が郵政民営化だ。自民党の中で、あれだけネガティブな意見があったのに、衆議院を解散してまでも、国民の信を問うという形で実行した。
 一方、それ以外の政策については、基本的な方向はおっしゃったが、内容については、それ程、本人が強く前に出なかった。
 例えば、三位一体改革の国税から地方税への3兆円の移譲は、本人が強くおっしゃって実現した。しかし、それに対応する4兆円規模の補助金改革をやったわけだが、内容については、小泉さん具体的には何もおっしゃらなかった。関係者、特に与党との調整に任せた。
 その結果、本当の意味での補助金の整理ではなくて、補助率の引き下げになってしまった。ただ、地方の負担だけが増えた。これが改革の名に値するのかと批判があるわけだ。

▽補助金の整理は真摯に対応を

補助金の制度は、各省にまたがる問題であったし、時間的な制約があった。だから、これは、政府と与党の関係者に任せた。ということは、各省の力関係で、時間的な制約もあって、あの時に関係者と議論して、要するに時間切れになった。
 短期間に4兆円規模の削減金額を出すためには、補助率削減なら、各省は反対しない。結局、抵抗の少ない方法で、数字を合わせたということ。小泉改革には、本人が具体的な内容まで拘って強力に進めたものと、大きな流れとして枠だけを決め、内容は関係者に任せたという両面があると、私は思う。

尾形 小泉さんの「丸投げ」と言われます。

石原 よく言えば、関係者に任せたと。悪く言えば、本人は判断しなかったと。

尾形 骨太に書かれている、地方分権に絡む項目は内容が抽象的な感じがします。

石原 私は、三位一体改革の理念は正しいと思う。地方自治体は多くの補助金で中央政府にコントロールされている。だから、地方は中央への依存心が出て、自分で考えようという意欲を減退させ、そのことが、回り回って歳出の膨張要因にもなっている。
 要するに、本当の意味での行政効果というものを議論しないで、もらえるものなら何でももらっとけという弊害が補助金には伴う。そこのところが十分、洗い出せなかった。補助金という他人の褌で相撲をとるような分野は減らして、政策は自分で考える。その代わりコストも自分が負担する。それが本来の自治、自立、自己責任ではないか。
 これは大いに進めるべきなのだが、進められなかった最大の理由は、補助金の整理にあたって、補助率の引き下げという安易な方法を選んでしまったからだ。安倍政権も当然、三位一体改革の大方針は引き継ぐと思うから、しっかりフォローしてもらいたい。

▽地方自立の名の下の交付税カット論

尾形 ただ、ポスト三位一体改革となると、霞が関の官僚グループの抵抗は強い。

石原 私が心配しているのは、三位一体改革の中で、地方の自立を求めるという考え方の下に、専ら地方交付税を減らせという方向に議論が行っていることだ。
 交付税は、国税の一部を地方に、一定の基準で配分する。自分の腹を痛めて集めたおカネじゃないから、モラルハザードが起こりやすい。しかし、交付税とは、基本的には、いろいろな立地条件の差で、個々の団体の行財政運営努力に関係なしに、財政力の差が出ている。それは、ある程度、イコールフッティングにしてやらないと、本当に自治体が競い合う条件にならないんじゃないかということで、交付税がある。
 ところが、安倍内閣の閣僚の中には交付税をカットする考えの人が多いように思う。もちろん、財務省が一番、交付税カットに熱心だ。交付税は一つの項目、アイテムとしては一番大きな金額だからカットすると、財政削減効果が大きい。補助金は各省、全部にある。だから、交付税カットが一番やりやすい。敵は総務省だけだ。財界も、補助金でも交付税でもまとめて削れるなら結構だという話になってしまう。
 ただね、基本的に補助金と交付税は違う。補助金は必ずひも付きだから、歳出増加要因になる。交付税は、団体間の財政力の差をある程度、地ならしして、イコールフッティングする仕組みだから、ストレートで歳出増加要因になるわけではない。そこの理解が十分でないように思う。

尾形 新型交付税の議論が焦点のようです。

石原 新型交付税は、総額を減らす話とは関係ない、配り方の問題だ。今までの交付税は、いろいろな財政事情について、いろいろな指標を使い複雑な補正系数など適用して細かい計算をした。それが複雑すぎて分かりにくい。交付税で拾ってもらえるから、自治体の依存心が高くなる―そういう批判だ。
 そこで、今度は配る総額は同じだけれども、配り方を単純化してしまおうと。例えば、人口と面積、それに最小限度の補正を行うことによって配分する。個々の団体の財政需要を増やすようなインセンティブを与えないように配ろうという発想が、新型交付税だ。

尾形 菅総務相も財政諮問会議も、交付税の不交付団体を増やす努力をしなければならないと言っています。

石原 不交付団体を増やす方法として、地方税源を増やす形なら、誰も異存はない。ところが、今は、交付税総額を減らして不交付団体を増やすという議論になっている。そうなると、財源が増えないのに、交付税だけが減るという団体が増えてくる。税収増もないのに、ただ歳出カットということで、不交付団体を増やすとなると、要するに、地方の飢餓状態を広げる話だから、地方の抵抗は強くなる。
 不交付団体を増やすことは、一般論としては、いいことだ。依存財源に依らないで、自前でやれるような状況をつくるためには、自前の財源を増やすということが、前提になるべきだ。自前の財源を増やすことなしに、ただ、配分する交付税を減らす形で、不交付団体を増やすとなると、それは、地方窮乏化政策になる。

▽税源移譲の実態が認識されていない

尾形 全国的に景気は上向きになりましたが、地方経済の地域間格差が歴然としています。

石原 好景気だ、好景気だと言っているけれども、大部分の地方は実感できていない。そういう状況の中で、交付税を減らして、それで、地方税を増やすとなると、お金持ちにより多くの財源を与える。貧乏人から財源を取り上げるという改革になってしまう。
 それで、地域格差の拡大を防ぐとなると、どうやって防いだらいいのですかの議論だ。地方税をトータルとして増やすのではなくて、地方税の課税のあり方を工夫して、なるべく、田舎にも税源がいくような、税目構成にしたら良いと思う。
 具体的に言えば、地方税である法人事業税とか、法人住民税の増税をしたら、東京都や愛知県や豊田市が増えるだけ。法人のない所は増えようがない。
 今度の住民税の税率フラット化で高い税率部分は国税に移して、低い税率部分を地方税に移したから、税源の乏しい団体には、それなりに税源が行った。東京都千代田区なんかは、手取りが10億円減った。それが、本当の意味での地方分権に見合った税源移譲だ。
 さらに言えば、法人関係税は、税率をもっと減らして、国税に移して、その分、地方消費税の地方の取り分を増やしたらいい。トータルが同じであっても、税の配分が貧しい所にいく、税目の組み立て段階で。そういう工夫をしたらいいと思う。
 政府の税制調査会で、法人の企業の活力を高めるために法人税率を下げるという。下げるんなら、あえて言えば、私は地方税で下げればいいと思う。そのかわり、下げた部分を、他の消費課税とか所得課税で地方に戻してやれば、結果的に貧しい団体も税源が増える。その議論が今は、ほとんどされていない。

尾形 どうして議論がないのでしょう。

石原 中央のレベルで地域間の税源偏在の実態が十分認識されていないからだ。

尾形 これぐらい地域間格差が言われながらですか。

石原 税源偏在の実態を知らないからだ。法人関係税を増やせば、東京にいくだけ。そこの議論をどうして、もっともっとしないんだろうか。交付税だけを目の敵にしているけど、交付税は、財政の苦しい自治体の財源。その財源を目の敵にしている。交付税を減らしても東京も豊田市も、ひとつも影響はない。
 行政改革に協力するというのであれば、みんなが痛む改革をやらねばいけない。それは、法人事業税とか法人住民税とか、偏在度のきつい税を減らして、そのかわり偏在度の少ない税目に振り替えなければ駄目だ。

▽新分権委員会の役割は税源偏在の是正

尾形 新しい地方分権一括法の前段として、分権改革推進法案が国会に出されました。 新分権法に基づいて、かつての第一次分権改革をリードした「諸井(虔)委員会」のような委員会が発足します。

石原 新しい分権法に基づく委員会の議論は、そういう議論をしてもらいたいね。税源偏在をどうやって是正するかと。税源偏在を是正することで、地方税を増やせば、交付税を減らしても、特定の貧乏な自治体だけをいたぶることにはならない。
 諸井さんは長く地方制度調査会長をやっていたから、それなりに地方に理解があった。新推進委員会会長を経済界から選ぶ場合でも、地方の痛みの分かる人になってほしい。東京で、活躍している人じゃ駄目だ。私は、関西の経済界の人がいいと思う。もう亡くなったけど、地方制度調査会の会長もやった宇野(収)さんのような人がいいんだが…。

尾形 経済財政諮問会議は、政権交代で性格が変わったと言われます。前政権では改革の機関車役を果たしました。

石原 それは、竹中(平蔵)さん=元担当相・総務相=のキャラクターもある。あの人は、何と言われようと、突っ走る馬力があった。現担当相の太田弘子さんは、思想的には竹中さんと非常に近い。要するに自立重視の方だ。市場原理重視で、官から民への(転換の)信奉者だ。あの人はどちらかというと、努力しない団体が貧乏するのはしょうがないという思想の人だ。

尾形 従来の財政諮問会議は、小泉改革の先兵でした。

石原 小泉さんは、組閣のときに自民党の意向を全く聞かなかった。小泉さんは自民党の大方の支持で総裁なったわけではなくて、国民的な支持でなったという自負があった。閣僚人事は、全く党の意見をきかなかった。政策にしても、重要な政策については、経済財政諮問会議の場で、内閣としての案をまず決めて、それで国会に出す。与党はそれに協力してもらえばいい、という発想で、それまでのように、まず与党と調整して、総務会全会一致で決めた案を閣議決定する手法の逆をいった。
 今回は、党の圧倒的な支持で、安倍総裁が選ばれているから、小泉さんのように、党を敵対視して政策をぶつけていくという形になりにくいんだろう。内閣主導で方針を決めるにしても、与党の理解も得ながらというのがくっつく。

尾形 それだと、安倍首相のリーダーシップが発揮しにくくなりませんか。

石原 それは、まさに、ひとそれぞれの持ち味だ。小泉流は中央突破型だった。安倍さんは、できれば、与党の理解も得て、政策を進めたいと。その政策を進める方向は、改革を進めるという基本路線は変えていない。進める手順というのは個人差がある。

尾形 小泉さんの性格は非常に激しかったので、安倍さんは、ちょっと頼りないと思われるようです。

石原 できれば争いはない方がいい。だから、争うのではなくて、やることはもちろんやるんだという決意は同じであっても、小泉さんの場合は、江戸のけんかは華やかな方がいいみたいなところもあった。その点、安倍流は穏やかに行こうという感じがするから、観客席から見ると物足らないところがあるのだろう。

▽補助金整理は首相の指導力がカギ

尾形 ただ、分権改革は、長い道のりを経て不十分ながら今日に至っています。ポスト三位一体改革をどう進めるかが問題です。地方はもとより、霞が関も政治も認識を変えないと、新しい分権改革は進みません。

石原 だからね、私は、いつも申し上げていた。小泉さんが郵政の民営化と同じくらいの、まなじりを決して「俺はこれだけやるんだ」という陣頭指揮でやらなければできませんよと。霞が関にとっては、補助金は死活問題だから、みんな抵抗する。しかし、これを切らなければ、本当の地方の自立はない。ところが、本人は全くやらなかった。
 安倍さんは、高杉晋作のパワーで分権改革を陣頭指揮でやってもらいたいと思っている。

尾形 やってもらいたい安倍さんは、少しやさしすぎませんか。

石原 与党の理解を得ながらやれるものと、理解を得らないものとがある。その最たるものが補助金整理だ。これは与党の理解を得ていたらできない。与党の議員さん方は、各省の利害と絡んでいるから補助金整理はしたくない。だから、総理の指導力で突っ走らなければできない。
 経済財政諮問会議が、一丸となって、本当の意味での地方の自立を促し、財政改革を本気でやるのなら、まず、補助金整理から入らなければいけない。補助率引き下げでごまかしちゃいけない。

尾形 今度の新分権推進法案で、3年以内に地方分権一括法案を提出することになりますが、次の「一括法」は、どんな中身を期待しますか。

石原 この前の一括法の主たる内容は、機関委任事務制度の廃止だった。今度は、一括法で、補助金廃止をやって貰いたい。そうであれば、抵抗も強いかもしれないけど、本当の改革になる。中央も地方も体質が変わる。
 是非お願いしたいのは、補助金改革を徹底にやると同時に、地方交付税のトータル削減の議論ではなくて、税制改革で地域偏在の是正のための議論をもっと活発にやってもらいたい。地方税のトータルは同じであっても、税目の構成を変えるだけで違ってくる。

尾形 そんな明白なことが分かっていながら、どうしてできないのですか。

石原 税目の構成を変える作業は、まず財務省が無関心だ。トータルが同じなら関心が無い。総務省の中でも税務局は、地方税のトータルを増やしたい。すると東京都など有力な団体の協力がないといけないという認識がある。同じ総務省のなかでも財政局は逆だ。財政局は地域偏在は少ない方がいいという考え方。財政局流に言えば、税の構成を変えるべきだと思っている。
 しかし、税制は財政局の所管ではない。だから、局の守備範囲の問題ではなく、全体の問題として総務大臣なり総理大臣なりが全体の視点でその議論をしないといけない。局任せでは駄目だ。

▽現状に合わない過疎対策の法的役割

尾形 夕張市は財政破綻しましたが、破綻する自治体には、それなりに理由があります。

石原 エネルギー革命で地域の基盤産業がなくなってしまうから、産炭地には手厚い保護をした。再生のためにいろんな手当てを手取り足取りやった。夕張市をはじめ産炭地が地域活性化のためにいろんなアイデアを出したら、国がそれをサポートしたわけだ。それが、将来も国にサポートしてもらえると思ってやった。ところが風向きが変わってしまった。

尾形 ただ、夕張市の振興策は、いかにもお粗末です。

石原 市場原理を無視している。例えば、ディズニーランドのような遊園地をつくったって、どれだけお客が入るかという予測をしない。いいものをつくれば誰かが来てくれるだろうという発想だ。
 交付税だけの議論ではないが、いろんな政策について、離島振興法、産炭地振興法、過疎対策特措法(現在は、過疎地域自立促進特別措置法)などは過保護だ。今までやってきた個々の施策については、大いに見直したらよいと思う。

尾形 過疎対策の対象となる過疎自治体はすごく多いです。

石原 特別措置法の一番の欠陥は、ハードに対する支援措置しかなく、ソフトに対する支援がないことだ。人口減少の流れが止まらない過疎地に、施設を造るのではなく、そこに相応しいソフトを考えなきゃいけない。特措法の唯一の手段は地方債だ。地方債は本来投資的事業にしか財源をあてられない。もっとソフトを支援する手立てを考えるべきだ。

尾形 法律を変えなければいけませんね。

石原 そうだ。はじめは道路が整備されて、それによって企業も進出し、住民の生活が良くなったところもあった。道路なんて一度整備したらすることもない。そして、あまり人も来ないような観光施設を造ったとなってしまう。もっとソフト重視の振興策に切り替えるべきだった。
 ところが国庫補助金は、大蔵省(現財務省)が嫌がっていたから出したくない。だから、地方債を使い、ハード整備をやった。地方債だって最終的には国民の税金が流れていくわけだから、地域振興のためにもっと効果的な方策として何があるのか幅広く議論し、支援の仕方を考えるべきだ。

尾形 財政諮問会議での経産相の意見書で、企業誘致したら支援策をやるというものがありました。企業誘致は非常に難しい現状なのに。

石原 事業税や固定資産税をまけてもらっても、そこが有利な立地条件でないと企業は行かない。そこにある労働力だけを目当てに行くわけではないのだから。

よく話題になったのは、三重県が亀山にシャープの工場を誘致したときに90億円の補助金を出した。それによって、雇用も増え、それ以上の税収が上がったと。それが成功話となって、各県がまねして髄分やっている。でも、これだってその奨励金があるからというよりも、それをきっかけとして、総合的な立地条件を考えて行ったのだと思う。

▽実のある分権政策で「美しい国」を

尾形 安倍首相のキャッチフレーズに「美しい国」があります。しかし、道徳的な話ばかりではなく、本来、国と地方のバランスのとれたものがないと美しくならないと思います。

石原 衣食足りて礼節を知るという言葉があるように、生活条件が経済条件を含めて整わなければ、地域の人は美しくなれない。だから、道徳の問題だけではない。美しい国というのは、経済的裏づけもあって、はじめて本当の美しい国ができると思う。だから、経済政策あるいは本当の実のある分権政策をやることで全国が美しい国になれると思う。

尾形 地方団体の役割は、これからどうなりますか。何を望みますか。

石原 辛い話だが、都市と町村の力の差はどうしてもつくと思う。全国の人口の7割以上は都市に住んでいる。まず都市が自立できる力をつけられるような政策をしたらよいと思う。町村は、いろいろな手を使っても同じになれないから、別途、最低限の行政保障をするための、交付税だけに限らず手立てを考える。
 町村は、しばらくは県がサポートしてやるということでいくしかないのではないか。今は、市町村一本で議論している。力のある都市と力のない町村を一本で議論しているから話がおかしくなる。

尾形 全国知事会はどうですか。

石原 知事会は、当面は自立した都市よりも、立ち行かなくなった町村のケアをしっかりやってもらいたい。そして、道州制への移行は、避けられない流れだと思う。知事会の中でも道州制反対論者は結構いる。それは現状維持論者だ。世の中は変化して進歩しているわけだから、道州制の議論は決して止めてはいけない。 
 (2007年 新年号)