C【東海経済の強さの秘密】

■水谷研治・中京大学大学院教授(元東海総合研究所=現UFJ総合研究所=社長

「東海経済が好調なのはバブル経済にも浮かれず、自己責任でモノづくりに一生懸命頑張ったからだ。中部国際空港ができ、万博も始まった。天が味方し、地の利も得ている。それと人間だ。「天・地・人」に恵まれた」

略歴

みずたに・けんじ

1933年生まれ、71歳。名古屋市出身。名古屋大学経済学部卒。旧東海銀行(現UFJ銀行)入行、旧経済企画庁(現内閣府)に出向。清水(静岡)、秋葉原・八重洲(いずれも東京)、ニューヨーク各支店長を経て同行調査部長、専務。94年(―99年)東海総合研究所社長、会長。99年から中京大大学院教授、梅村学園理事。経済学博士。

☆1980年代後半の猛烈な円高をいち早く予測、的中させた経済アナリストで中京大学の水谷研治教授に、独り勝ちを続ける東海経済の強さを聞いた。

▽現状は「右肩下がり」の中での上がり、下がり

尾形 昨年10―12月の国内総生産(GDP)は、3四半期連続で前期比マイナスでした。この結果、2004年度の政府経済見通しの達成は怪しくなりました。しかし、担当の竹中平蔵経済財政相は「景気は概ね横這い、やや弱含みの踊り場的状況」と言っています。

水谷 景気はこれまでずっと上昇してきた。しかし現状は、昔と異なり「良い」というところまではきていない。大きな流れから見ると、景気は上がったり、下がったりしながら右肩上がりの成長をしてきたが、現実は右肩下がりになっており、この形が続くだろう。かつてのような右肩上がりの中での「上がり下がり」ではなく、右肩下がりの中での「上がり下がり」だ。だから、景気が上昇するといっても、昔のような高い水準になると考えるのは間違いだ。
 それと今回の上昇が今までと違うのは、景気の波の形が上昇を始めるとグッと上る形ではなく、上がり始めたところで下がりだし、心配しているとまた上がるが、次は下がる。これまでも景気の踊り場はあったが、(短い期間に)2度も3度も(上下することは)ない。これは、景気の足取りが弱いということだ。基本的には、日本では大きなモノ余りが続いているから、景気が上昇しても、また自然に頭を下げてしまう。この要因は今後も続く。

尾形 小泉首相は「改革なくして成長なし」と言っています。

水谷 小泉さんは、本格的に景気を良くしようと思い改革が必要だと言って首相になった。国民もそれを期待している。以前は、景気が落ち込むたびに政府が出動して景気を良くする、それがきっかけとなって全体の景気が上向くのが一般的だった。景気を良くするためにはモノが売れなければならない。売れるようにするため減税をしたり、公共投資でモノを余分に買う。その意味で、政府の赤字が大きくなればなるほど景気は良くなる。だから、政府が犠牲を払った。
ところが、そうしてできてしまった国の膨大な赤字は何とか是正しなければならない。そのため、いったん減税したものを元に戻す必要があるが、それをやって景気が悪くなった典型が、1980年代後半の橋本内閣がやった改革だ。
 小泉内閣ができたときは景気は下がりつつあった。小泉内閣は政策で景気を良くしないと明言している。景気はどんどん下がっていくことが予想された。そこで企業が本気になって合理化をした。

▽合理化はきれいごとではない

尾形 企業は生き延びるための大胆な合理化・リストラをしました。

水谷 合理化とは、よそへしわを寄せるということで、きれいごとではない。しわ寄せは最終的に従業員へということだ。従業員の給与、ボーナスを減らす、雇用も減らした。それで、何とか企業が収益を上げているのが、今回の景気回復の特色だと思う。
従業員の懐は、ちっとも良くならない。従来であれば、景気が良くなるとボーナスが増え、雇用も増加する。それで、購買欲がわいて余分にモノが売れるプラスのサイクルがあったが、今回はそれがない。だから、勢いがつかない。それでいて、政府が無理をしないから反落要因がない。だから、そのまま上がっていくかかといえば、そうではない。経済の力が弱くなって落ち込むのが目先の動きだ。
 長期的には景気の現状に不満足な人が多い。本来ならもっともっと上がるという考えが支配的だ。だが、異常に低いなら心配はない。異常さは、そう長く続くものではない。いずれ、普通の状態に戻るから、それまでの辛抱だということになる。ところが、もしその逆だったらどうか。モノが売れていないと言われるが、目先では、海外でかなり売れている。これだけいいモノをつくっている国はない。買ってくれる代表がアメリカだった。
 アメリカはおカネがないのにモノを買ってくれる。アメリカは第1次世界大戦以後の60年で最高で3600億j貯めた。ところが、それを使い果たし、一昨年は5300億j、昨年は6177億jの赤字となった。借金総額は3兆6000億jとみられ、最高にカネを貯めたときの10倍だ。いつ破綻してもおかしくない。もしアメリカがモノを買わなくなったら、その影響は日本に一番厳しくくる。

▽国は借金の怖さを知らない

 それよりもっと大きいのが国の借金だ。国の債務は538兆円ある。これだけ借金をすると、その大きさはよく分からなくなる。普通の国はモノがあまりない。日本はありすぎるからデフレになっている。しかし、やがては日本もよその国と同じようになる。そのとき、インフレになる。目先は何も問題はないと言われるが、将来を考えると不況が続き、企業はどんどん縮小していくだろう。元気のいい企業は海外で生産し日本に持ってくる。いい製品ができるから、国民も痛みを感じないが、その製品の生産は国内でできなくなる。従って、産業の空洞化は進むと思う。
 日本はいっぱいカネを持っているから買えるが、それを使い果たしたらモノがなくなってしまう。そのとき、つくればいいのだが、つくれない。つくるという技術は生産を続けなければできなくなる。これが、アメリカの現在の姿だ。将来的には、そのとき悪性インフレになる。これは致命的だ。
もう一つ問題になるのは、金利の支払いがどうなるか。今は実質的なゼロ金利で借金している人は助かるが、将来的にはそうはいかない。国債は10年もので最低6%、インフレになったら8%、悪性インフレでは10%以上になる。普通の状態というのはデフレでなければということだ。国の借金538兆円の6%は約32兆円、これを毎年払わなくてはならない。ところが国の収入は税金が44兆円、税金以外が4兆円の合計48兆円だ。しかし、地方への配分で16兆円は出ていく。とすると、企業の売り上げに相当する国の税収は残りの32兆円しかない。金利の支払いが32兆円だから、国が支払うカネは1円もない、これが現実だ。
国は借金の怖さを知らない。現実にある538兆円の借金は、何とかして返さないといけない。永遠に金利を払うのだから。年に24兆円の赤字が出て、10年後には赤字が240兆円に増え、国の借金総額は778兆円になると予想される。金利(国債)を6%とすると、金利支払いは46兆円程になる。
まず、毎年出る赤字をなくすため思い切り支出を減らし、収入を増やすことが必要だ。いままで政府の助成で押し上げてきた水準を下げなければならない。今それをやらないと後ではできない。今の経済状態が低すぎるとか悪すぎるというのは正反対だ。それを国民皆が知って対応しなければならない。

▽本当の改革は半死半生の選択を迫る

尾形 そういう認識が国民にない。

水谷 国民の認識は悪すぎるというものだ。悪すぎるから助けてくれと政府に言っている。政府は助けざるを得ないから赤字を増やさざるを得ない。とんでもない話だ。

尾形 一方で、経済界は小泉さんに頼んでも何もしてくれない、自分でやらなければならにとぼやいています。否応なしに経済界は自ら血を流して猛烈な減量経営を実現しました。橋本内閣が意気込んだ構造改革は自らの政権寿命を縮め、小渕恵三内閣は景気対策で何でもありでした。森喜朗内閣も無策でした。それに比べれば小泉内閣の経済運営は、それなりにうまくいっている感じがします。

水谷 小泉さんは改革をやっていない。経済界が自分の力で這い上がっている。経済の先がどうなるか分からない。アメリカの経済はこのまま続くか、日本の将来がこの先どうなるか、子どもじゃないんだから分かるだろう。分かるんだったら、それに対応するのが当たり前だ。政府に頼んでできる状況か。早めに(自分たちの対応を)やらなければ、どうしようもない。それをやれば体力もつく。

尾形 経済の不振は地域経済にも表れ、各地とも総じて良くありません。竹中さんの現状認識を疑問視する経済アナリストの声が多いようです。

水谷 政府は景気の現状をはっきり言うべきだ。GDPは原則的に伸びていない。その中で全国を見ると、東海地方のように、いいところもある。悪い地域は今後とも下げ続けるだろう。今、東海地方が好調なのは、(域内で生産される製品が)海外でよく売れているからだ。

尾形 しかし先行きを考えると、アメリカの景気は「双子の赤字」を抱え不透明だし、経済界にも懸念があります。さらに、国内では小泉改革で世の中がどうなるのか、「我慢しろ」と言われても改革の先が見えなくて困っています。

水谷 総理が何故、景気の現状を言わないのか理由がある。大ざっぱに言うと、必要な改革は何であるか。要するに大きな財政赤字は駄目、国の借金は返さねばならない。そのため、ものすごく支出を減らさなくてはならない。そして、国はやれないのだから、民間でやれるものは民間にやらせる。その上で大増税が要る。これが改革というものだ。その結果、経済は急落する。GDPが、こんなにゆっくり落ちることはあり得ない。急落する。
それをやらないと、将来的には悪性インフレになって毎年物価が上がって生活水準が下がる「アルゼンチン現象」だ。アルゼンチン現象になるか、ならないかは我々が決める。今しか、そのチャンスはない。改革をやれば経済はものすごく落ちるが、やらなければならない。それを言わずに(改革を)やったのが橋本内閣だ。
 小泉総理は、改革は痛みを伴うと言っているが、手術をしての痛みなどとは全く違う半死半生のような、どうにもならない苦しみを迫られる。

▽一般歳出20%削減、消費税は大幅引き上げ

尾形 水谷さんは1985年の「プラザ合意」後の急激な円高をズバリ言い当てました。その経験から照らすと、日本の改革はドラスティックに進めなければならないと。「半死半生」とは、恐ろしい指摘です。そこまでいきますか。

水谷 いくと思う。だが、小泉さんではできない、かといって、ほかにできる人は誰もいない。小泉さんは赤字を増やさないだけで精いっぱい。しかし、それをやれるのは総理大臣だけだ。例えば、新年度に当たって、今はどんな状況なのか、国民の皆さんは国におんぶで抱っこでいられるか、このままで福祉国家なんてあり得ないとはっきり言わなければならない。
 どれくらいのことが必要かと言えば、国の一般歳出を20%削減し消費税を上げる。その準備をしないといけない。それをやれば景気が落ちる。その分、消費税を上げなければならない。消費税45%は必要だ。消費税が45%になると、使えるカネは半分になり、生活水準も半分にしないといけない。もし5年前に決断していたら、消費税は37−38%でよかった。10年前だったら15−16%で賄えた。改革を先送りしたらそういうことになる。それでも先送りしますか、今やりますかの選択だ。

▽東海の独り勝ちは自己責任の努力

尾形 地域経済動向で示された東海経済の独り勝ちの理由は何ですか。好調とはいえ、企業の景況感は渋いようです。

水谷 小泉改革に期待できない経済界は、自ら改革に取り組んだが、それを一番やったのは名古屋経済、東海経済だ。政府に景気浮揚策を頼むのではなく、自己責任でやっていくのだと考えて努力した。結局、自分で働かなければ何もできない。働くことが一番重要だ。もともとこの地は豊かだ。働けば何とか飯が食える。東海の堅実な考えはモノづくりにも関係がある。モノをつくるのは飛躍がない。飛躍がないから、やっただけしかできない。改良して良くすることの連続だ。それが今日の成果になっている。
 惨憺たる経済の先行きを見越して東海地区は早めに対処している。円安ドル高になれば輸出産業は儲かる。儲かるからうれしいという半面で、それは困ると東海地区の経営者は言っている。何故かといえば、1jは100円とか90円で当たり前だが、それが110円、120円となると儲かりすぎる。そうすると、皆、このまま儲かっていくと考えてしまう。ところが、いざ円ドルの為替レートが普通の状態になったときに、どうにもならないという話がある。こんなことを真剣に言う経営者は東京にはいない。

尾形 東海経済の強さを示す特徴的なデータがあります。輸出額(03年、主要港)は名古屋港が7兆4400億円(全国の18・5%)、製品出荷額(同年)は愛知県が35兆4766億円でいずれも全国トップです。また、有効求人倍率(昨年11月)は愛知県が1位で1・64、三重県が4位の1・32と全国平均(0・92)を上回り、サラリーマン世帯の純貯蓄額(03年)は名古屋市が1316万円でこれも首位(全国平均は687万円)です。ところが、経営者はそれ程浮ついていない。そこに現状認識の慎重さが表れているような気がします。しかし、東海経済の設備投資は高水準です。

水谷 設備投資は大変遅れた。やるべき機械の更新ができなくて今日まできている。一昨年ぐらいからようやく収益が上がってきた。以前なら、その収益でボーナスを出したんだが、今はそれをしない。人も雇っていない。設備をとにかく新しくしようということでカネを使っている。トヨタ労使の賃金交渉にそれが表れている。
 トヨタだって将来つぶれるかもしれないと思っているからだろう。為替相場が1j=50円ぐらいになったらどうしますか。トヨタといえどもペチャンだ。100円ぐらいでいけると思っているのか、ということだ。それを考えたら、心配で夜も寝られない。ということを経営者に言うと皆怒るんだが、会社に帰ると同じことを社員に言っている。日本が駄目になっても、自分の企業は生き延びなければならない。政府が何とかしてくれるなど、甘い考えではやっていけない。
 東海地区の有効求人倍率が高いことは人手不足ということだ。人手不足には、皆困っている。だが、東海地区に来れば働けるというのではなくて、必要としているのは技術だ。だから、そう簡単に労働力を確保できない。機械工業は忙しい、納期も遅れている。納期は遅れても、これからずっと伸びるわけではないので雇用は控えている。

尾形 その昔、「尾張モンロー主義」ということが言われましたが、そのモンロー主義が今の強さにつながった、と言えませんか。

水谷 東海地域では商売をやりにくいという点はある。値引きが激しくてなかなか商売をやりにくい。ここで商売ができたら、全国どこへ行ってもできるという話は昔からある。政府に頼らない、自己責任でやる、これが基本だ。将来までどうしなければならないかは、率直に皆で考えなければならないと思う。そのときに、自分に厳しくなってくるのが嫌だから、皆が考えない。冷静にそれぞれが考えれば良くなる。右肩上がりの成長期は、何もしないでぶら下がっていても良くなったのだが今は違う。

▽企業性悪説では経済振興はできない

尾形 好況な地域と低迷する所を見比べると、結局は地域経営をどういうふうにやるかが問われていると思います。東海経済は伝統的に自動車産業を中心に歩んできたが、最近は三重県の液晶・電子部品などを取り込み、重層的な産業構造をつくり上げました。地域経営の有無が国全体の景況に大きく響きます。

水谷 その意味では、東海地域は地の利を得ている。日本の重心はこの近くの岐阜県武儀郡だし、名古屋中心に道路も鉄道網もある。それと、中部国際空港ができた。それだけじゃなく、ここで仕事をしたら儲かる、だから働く。働く習慣があるかないかで大変違う。企業性悪論があるが、企業をいじめたら来ない。企業も人も皆一緒に仕事をして、それぞれが業績に反映させるんだという気持ちがなければ企業は立地しない。
 企業誘致などと偉そうなことを言って企業を呼んできたが、企業は悪いなどと悪口をいって企業をつぶしてしまう。企業性悪説などと言われるから企業は仕方なく中国とか、東南アジアに行った。それじゃ駄目だ、日本としては。企業は重要なんだということを知らないといけない。企業がなくなったら、人々は生活もできない。そんなことぐらい、どうして分からないのか。

▽中部国際空港、幹線道路整備で優位さ増す

尾形 国内の3番目の国際空港となる中部国際空港「セントレア」が開港しました。その効果は大きいと思います。

水谷 この地域は恵まれている。景気の悪いときに空港工事があったのはプラスだった。さらに、「愛・地球博」という万博で道路が整備された。セントレアの開港は、製造業を中心とする産業基盤が強い中部地域で特に貨物物流におけるメリットが大きい。セントレアは民間企業だ。トヨタ方式で総事業費を大幅に削減したほか、国際空港としての競争力を高める民間の発想が大胆に取り入れられている。
 国内の生産拠点として群を抜く東海だが、将来的には空洞化の危機がないわけではない。しかし東海地域は、開港で企業のグローバル化をスムーズに促し、さらに中国などアジアの巨大マーケットを視野に置いた武器を手にすることになる。高速道路でも、東海環状道路の東半分が完成、第2東名、第2名神道がこの地区だけ通った。

尾形 これまで東海地域で生産される大部分が、遠い成田空港とか関西空港を経由して輸出されていました。それを、セントレアが担うことになります。

水谷 セントレアは、これまでの名古屋空港が持っていた国際貨物30万d、国内貨物6万dの2倍を超える貨物取り扱い能力をもつことになる。そして、効率的な物流システムが確立され、中部圏ばかりでなく国内の重要な物流拠点となる。関西とか東京圏からの荷物も来るだろう。将来的にはリニア新幹線がある。だから、ますます便利になり企業も集まると思う。また、国際港湾として十分でない名古屋港も大至急巻き返さないといけない。
 問題は世界経済がおかしくなったときだ。輸出産業が多いから打撃も大きい。だが、そうなっても東海経済は立ち直ると思う。例の1980年代半ばの円高不況からでも、日本は立ち上がった。一方で、ここでも壊滅的な打撃を受けた窯業や繊維などのように、そのままのところもある。しかし代わりにいろいろな企業が出てきて産業構造は重層的なるだろう。何が生まれるか分からないが、必死になってやれば道は見いだせる。政府が変に手出しをしないほうがいい。

▽「天・地・人」に恵まれた東海経済

尾形 昨シーズンのプロ野球で駐日ドラゴンズがリーグ優勝をしました。落合監督の「オレ流」采配、つまり選手1人ひとりの個性を生かし、勝ち方に派手さはないが基本に忠実な流儀が話題になりました。堅実さという面では、東海経済の強さにも通じるという見方があります。

水谷 オレ流で、人が何と言おうが重要なことはやるんだということはあってもいい。人間の集まりだからうまくいかないこともあるが、そういう点では今、目立っているのはラッキーだ。
 東海地域ではバブル(経済の狂奔)がなかった。そのときも浮かれず、じっくりやっていたからだ。もし、余分なことをやっていたら、けがが大きくて立ち上がれなかった。空港も万博もできたからいい時代だ。良すぎるくらいだ。日が当たりすぎるということもある。しかし背景を見ると、人間が一生懸命頑張っている。人間が一番重要だ。言ってみれば、天が味方した。地の利も得ている。人間が会社のために働く。「天・地・人」だ。地の利は、よそが真似できないから気の毒だが、天は変わる。これから、どういう時があるか見定めてやるべきだろう。

尾形 それは、東海経済の課題ですか。

水谷 そうだ。具体的に言うと課題は堅実さの裏にある。飛躍がない。もっともっと飛躍することだ。いつまでもがっちりやっていればいいかというと、世の中そうではない。いろんなものにトライして、その中で、ひとつが実る。昔から自動車やっていたわけではない。昔は繊維だった。そのために工作機械をつくった。もちろん当時、世界最高の戦闘機零戦をつくったということもある。機械工業は盛んだった。絶えず新しいものにチャレンジしていく。それが将来実るかもしれない。だから飛躍が必要だと私は思っている。

2005年 春季号)