"占い"は恐怖の呪縛
大阪府守口市、主婦――小山良子さんの体験。


小山さんは、占いにのめり込んでいった。


 「占い」(運勢)の載っていない雑誌は売れ行きが悪い、と言われるくらい、占い、易、まじないのたぐいは、ますますウケている。ところが、
    「占いは絶対に危険!
 と口調を強めて警告するのは、大阪府守口市の団地に住む主婦・小山良子さん。どのように「危険」なのか。良子さんの体験をたどってみよう。


占いの力が自分にあるのに気づく

 良子さんが27歳の時のことである。家事も一段落し、天気もよいので、向かいの奥さんと戸口のところで世間話をしていた。
 なんとなく手相の話になったので、冗談半分に良子さんが「どれどれ」と、相手の婦人の掌(てのうら)をのぞきこんだ。
 その瞬間、なんとその婦人の過去、現在、未来の出来事が、良子さんにスーッと、映像を見るようにわかるではないか。それだけでなく、耳にささやく"声"まで聞こえてくる。
 「あなた、過去にこんなことなかった?」
 「最近こんなことあったんじゃない?」
 ――どれもこれも、ピタリと当たる。びっくりしたのは、相手の奥さんである。それ以来その婦人は、ちょくちょく来ては頼むようになった。
 良子さんは、自分ながら驚きつつも、得意になってそれに応じるようになった。しかしそれがいけなかった。
 良子さんには、それ以前にもそうした"能力"が、ちょくちょく現われないでもなかった。
 良子さんの生まれは、北九州八幡。小学4年から中学3年までの6年間は、因習の残る熊本県山鹿市で育った。
 家は、祖母の代からの熱心な日蓮宗である。母は、ことのほか熱心で、朝晩のおつとめはもちろん、しばしば良子さんら子どもたちを寺や神社に連れていき、お参りしている。
 また「おこうずいさま」といって、毎朝一升瓶(いっしょうびん)の水を仏壇にささげ、子どもたちは毎日それを飲んでいたという。良子さんと2人の姉は、母の信仰の影響を強く受けた。
 そうしたことと関連してかどうか、良子さんには子どもの頃から、時々不思議なカンが顔をのぞかせていた。たとえば銭湯へ行く。服を見ただけで、服の主がだれか、すぐにピンときたという。


キリストを信じたがやがて教会から離れる

 大阪に就職した。夜は二部の高校へ通った。単調な毎日。だんだん生きていくことが空しくなってきた。
 (こんなにして生きてたって、何の意味もないわ・・・)
 死のう――と決心したのは、大阪に就職してまだ1年とたたないときである。多量の睡眠薬を飲んだ上、手首にカミソリを刺した。
 ところが病院にいる自分を、数時間後に発見した。未遂だった。
 自殺の苦しさを知った良子さんは、死ぬことをあきらめ、寮で毎日寂しい寮生活を送っていた。楽しみといえば、枕元のラジオぐらいである。
 その中で、とくに良子さんの心を強くひきつけたのが、キリスト教番組だった。今まで感じたこともなかった清さや、真実さをその中に発見したように思えた。
 回復後まもなく、良子さんは大阪府堺市の鳳福音教会を訪ねた。予想したように、教会はすばらしいところだった。
 良子さんは、いっぺんに教会が好きになり、奉仕活動にも喜んで参加していた。
 「あの時は、私はイエス・キリストを信じたつもりでいました。でも今思えば、心の底は依然として同じだったんです」(良子さん談)
 一時は教会に熱心になったが、良子さんは再び世の魅力に心が傾くようになった。
 教会から足が遠のいた。そして、創価学会員と結婚することで、教会との心の結びつきの糸も切れた。


エスカレートする"能力"

 向かいの婦人の手相を見たあの出来事以来、近所では、
 「あの人は占いができるそうよ
 という、うわさがたっていた。そして特別親しくもなかった婦人たちまでが、訪ねてきては、「私もみてください」と頼むようになった。
 ある日、近所の会計事務所の婦人が訪ねてきた。良子さんがその婦人を見ると、なんと彼女の後ろに3人の像が、カラーでくっきりと、憎々しげに映っている。
 「奥さん。あなた、3人の人から憎まれていますね」
 良子さんは、一人一人の特徴を説明した。その婦人は顔面蒼白(そうはく)になって、
 「え、え、そうなんです」
 というような具合であった。
 また、近所の女の子が遊んでいた。ところが良・子さんが見ていると、その女の子が駆け出すたびに、良子さんの足がキューンと痛む。そこで良子さんはその母親に、
 「その子の太もものつけ根に、何か病気がありそうよ」
 と告げた。半信半疑の母親は、不安になって、
 その女の子を病院に連れていった。
 「放っておいたら、びっこになるところでした」
 診断した医師は、母親にそう言った。
 また夏に、近所の男の子が淀川べりで、いかだ遊びをしていた。しかし夜になっても帰らない。
 警察や近所の人たちは、いくら探しても見つからないので、
 「あの人に占ってもらおう」
 ということになった。良子さんは、男の子の写真を見せられて、すぐにピンときた。
 「この子はもう死んでいます」
 写真に死相が漂っていたという。


「この子は、もう死んでいます」。

 人々と川べりに行ってみると、良子さんの足がひとりでに動き出し、ある場所でピタリと止まった。と同時に、良子さんの足がびっこのように感じた。さらに、
 「目が痛いよォー、目が痛いよォー」
 という"声"を、良子さんは聞いたという。その真下から引き上げられた男の子の死体は、目と足を痛めていた。
 うわさがうわさを呼んで、良子さんの家には毎日のように、知らない客が来ては、
 「私もみてください」
 と頼む。多い日は、日に6、7人も来た。その中には、遠くからうわさを聞いて、わざわざ来る人や、会社の重役のような人も含まれていたという。
 すでに良子さんは、カミサマ的存在に見られるようになっていた。占いをしていた2年間でみた"客"は千人は下らないという。
 良子さんの霊力は、当初は手相程度のものだったが、回を重ねるたびにエスカレートしていった。
 病人をみると、病気の箇所がすぐにわかる。像がくっきり映る。耳にささやく声が聞こえてくる。
 また写真1枚で、その人のすべてのことが、手にとるようにわかるようになっていた、という。
 道を歩いていても、気持ちが悪くなるくらい、通りすがりの人の心の中が読めるようになっていた。うわさを聞いて、ある民間テレビ局が出演依頼にやって来たが、良子さんは、
 「これ以上"客"が来ると困る」
 と言って断った。


人々と川べりに行ってみると、良子さんの足が
ひとりでに動き出し、ある場所でピタリと止まった。



自分が恐ろしくなった

 ところで、占いをしていた頃の良子さん自身の内面は、どうだったのだろうか。
 「それは、言葉に言えないような恐ろしい毎日でした
 と良子さんは告白する。
 「1日中、だれかが私の後ろで、私を見張っているみたいなんです。それがものすごく恐ろしくて、夜も毎日ほとんど眠れませんでした。
 あんまり苦しいので、酒をがぶ飲みするし、睡眠薬を乱用していました。そのうち、私の目はひきつり、子どもたちまで私を恐れるようになりました」。
 では、そんな占い、やめてしまえば、と思うが、それは絶対にやめられないものだという。
 「絶対に自分の力でそれをやめるなんて、できません。例えばだれかに会うと、その人のことがスーッとわかります。
 それを話さないと、ものすごく自分が苦しくて、いてもたってもおれなくなるんです。そして、占いをすると、どんどん自分の中から力が抜けていくようでした」。
 このままでは、主人や子どもたちに迷惑をかける、と、良子さんは離婚しようと思った。しかし夫の敏夫さんは、むしろ良子さんに同情し、いっしょに酒を飲んで慰めてくれた。


悪霊の力から解放される

 その後、良子さんの心に、ふと聖書を読みたい、という気持ちが起こった。ずいぶん長い間、ほこりをかぶったままになっているはずである。
 そう思いついたと同時に、激しい葛藤が良子さんの心の中で起こった、という。
 「聖書に手を伸ばすと、その手を払うような力を感じました」。
 良子さんは、内面から突き上げてくる激しい"抵抗"にさからいながら、聖書の文字を追った。


聖書に手を伸ばすと、その手を払うような力を感じました。

 そうして良子さんは、やっと、教会へもう一度行く決心がついた。
 翌週の日曜日、良子さんはさっそく、教会に出席した。安原エドワード牧師は、やつれきった良子さんの姿に驚いた。
 翌日、エドワード牧師とキャサリン夫人、それにその妹スーファンさんの3人が、良子さんの自宅を訪問し、励ましたあと、
 「お祈りしましょうね」
 と、手を置いて祝福を祈り始めた。
 その時である。良子さんの内面で、再び激しい"戦い"が起こり始めた。何者かの力が良子さんの中で暴れ始めたのだ。
 「先生!」
 良子さんは叫んだ。
 「私、2年間、占いをやっていました。私、悪霊のとりこになっているんです。このままでは殺されてしまう!」
 エドワード牧師らは、良子さんの告白に驚いた。
 聖書から、占いがどんなに恐ろしい罪であり、神が忌み嫌われる行為であるかを説明し、手を置いて祈った。
 祈り終えた時、長い間良子さんが失っていた平安が、再び戻った。彼女の心は、きよい神の霊(聖霊)に満たされた。
 その日が、占いとの完全な決別の日であった。


占いやオカルトは悪霊からのもの

 それ以来、良子さんはもう、自分があのいまわしい"影"につきまとわれていないことが、よくわかった。あれほど恐怖に満ちていた夜も、平安に休めるようになった。
 酒はピタリとやんだ。その喜びを、さっそく熊本の2人の姉たちに電話で話した。2人の姉とも熱心な日蓮宗の信者だったが、
 「あの良子がクリスチャンになるんなら、キリスト教の方が本物ね」
 と、すぐにキリスト教に興味を示した。姉たちが偶像をすべて焼き払い、クリスチャンとして歩み始めるのに、3か月とかからなかった。
 夫の敏夫さんも、良子さんのあまりの変わりように、姉たちに続いてクリスチャンになり、偶像を焼いた。
 良子さんの一家は今、幸せそのものである。良子さんが占いをやめ、敏夫さんも教会へ集うようになって、やっと家庭に落ち着きと平安が戻った。
 2人の子どもたちも、一緒に毎週教会へ行き、笑顔を取り戻した。
 良子さんは、2年間の恐ろしい体験をふりかえり、次のように結論づけている。
 「占いやまじない、つまり悪魔から来たものには、絶対に興味を示してはいけません。興味を持てば、持った以上のエネルギーで、それに引きずりこまれます。とくに、熱心に占いにこり出したら、大変なことになってしまいます。今、少しでも興味を持っていたら、すぐに手を引くべきです」。
   
――(C)教会新報社刊
      「キリストを知る喜び」より――


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