ウサギの糞

私の性格、趣味に多大な影響を及ぼしたのは親父だと思う。小学校6年の時、
親父は米軍キャンプでコックをした後、営林署に勤めていた。その頃山菜や、
きのこの採りかた、料理の仕方を見て育った。

冬が近付くと親父は、イタチを竹筒の罠に網ですくったカジカを掛け水辺で取っていた。
ウサギも冬になると千歳のママチの奥でいつも一冬50羽程取っていたようだ。
当時ウサギは害獣駆除を目的に、耳を営林署に持って行くと1羽に付き70円で
引き取っていた。70円と言うのはラーメン1杯の値段です。

高校3年の冬、親父と一緒にウサギの罠掛けに行って仕掛け方を習ったが、
自分でウサギを取ってみたくなり、自宅から30分程の空港の前にある灌漑溝
付近で罠を掛けた。

ウサギは夜行性なので、まず針金を藁で焼いて月の光が反射しないようにする。
ウサギの足跡は本筋と遊び筋があり、本筋の獣道に掛けなければ掛からない。
本筋は決して人の足で踏んではならない、その道は二度と使わなくなるからだ。

まず初めての一本を掛ける。雪の上10㎝の所に直径12センチの針金で仕掛ける。
針金を止める木は親指位の太さが良い。それはうさぎが咬み切れない太さで弾力も
あり折れないからである。取り付け終わったらその木の上に赤い布を縛り着けておく。
これは掛けた場所を遠くから見て良く分かるようにする為である。

2時間で20本の罠を取り着け完了、ふと眼をやると本筋に一段高くなった所がある。
これだ!前に親父が言ってた「ウサギの頭が入って罠が締まるのだから、頭が必ず
一番低くなる所に掛けるのが間違いのない掛け方だ」この場所は高さが1メートルあり
ジャンプする所が限定される、と言う事は着地する所も1か所になる。

少し道が広いので小枝を折り数本刺してかけ上がる場所を狭くする
これで完璧なはずだ。帰って親父に話しをすると「それはすごいな、明日が楽しみだな、
しかしお前その罠回収するのは何時だ?もう雪はそんなに振らないし何時までも掛けて
置くのはだめだぞ、俺も今年はもう終わりだ、先週から回収作業してる」と言われる。

掛けっ放しでもいいと思っていたが、営林署の職員はやはり自然とのかかわりの中で
ルールを守っているのだなと驚いた。残念だが今年は明日、回収しながら親父と一緒に
回る事にする。

キーンとしばれた素晴らしい天気の朝、明るくなりはじめた頃家を出る。
雪が解けて長靴が埋まる前に、すべて見終わるようにする為だ。親父が作ったウサギの手袋
これはウサギの毛が中に入り皮が外に出たボッコの手袋、そしてウサギの耳かけをしてさあ出発。

靴の中に雪が入らない様に長靴の上を縄で縛り、私が先頭で罠を見て回るが掛かっていない。
半分程回った時、親父が「あっ掛かっているぞ」という。

よく耳をすますと、「ウッキー」とも「ギー!」ともいうような鳴き声が聞こえる。
急いでそばに近づくと、すごい勢いで飛び跳ね、口から血を吐いている。
親父がナタを出して、「廣、おまえが締めてやれ、罠を掛けた者の責任だ、
最後までお前がやるんだ!」と大きな声で怒鳴られた。一発で頭を殴ると、
後ろ足を痙攣させやがて静かになった。なぜか涙が出た・・・

この日は最終2匹で終わる。
「廣よくやった、来年はないんだな・・」と、寂しそうに言う親父だった。

こうして私の高校生最後の冬は終わった。
もうスグ東京へ就職する私にとって特別な冬であった。