すずめのカンタは、いつもの様に目をさましました。
ママの暖かいお腹の下で、妹のチーちゃんと場所の取り合いをしながら寝たのは、夜も遅くなった頃です。
カンタは雷が大嫌い、昨日もお昼は、雷の光と音にガタガタ震えて、チーちゃんから馬鹿にされました。

夜、お月様から「これこれ早く寝ないと、明日は大雨と雷にしちゃうぞ」と言われましたが、すぐ寝たせいか
すごく天気が良いようです。

 パパが帰って来ました。「ただ今」と云いながら巣の前で宙返り、
そして見事に着地を決めたパパでした。
その時口ばしから毛虫が飛んで、そばの木の枝にくっつきました。パパからのご飯は木の実やミミズで、
とってもおいしい朝ご飯です。
今度はママが交代で出発するのですが、何やら二人でお話です。
パパが云いました。「そろそろカンタは、一人で飛べるようになるはずだ。
まず妹より先に、飛ぶ練習をしてみなさい」

ママがいいました。
ママ達は温泉に行ってから、そばの実ご飯を持って来るからね、二人ともお腹一杯になったでしょう、
すこし眠りなさい」そう言って出かけて行きました。

眠りについてしばらくすると、カンタの耳のそばで、話しかける声がします。
「カンちゃん、起きて、早く起きて、大変だよ。」「ウーン」
「しっ声を出さないで」良く見ると、小さな毛虫が耳元で叫んでいます
「早く逃げないと大変だよ」近くの暗闇の中で、赤く長い物がシュルシュルと音を立てていて、部屋中に
青臭い匂いが立ち込めています。

よく見るとそれは大きな蛇で、赤い舌が音を立てて動いているのです。
赤い舌が口に入ると、今度は大きな牙の生えた耳まで裂けた口が開きます。
カンタには大きな口を開いた蛇が、恐ろしい悪魔のように見えました。

チーちゃんは「怖いよー、助けてー、ママ、パパ」と羽をバタバタ
させながら叫んでいます。弱虫のカンタは翼の中に顔をうずめて、
声も出せずただ黙って震えていました。蛇はチーちゃんを狙って
いるようです。
その時、木の枝に見えていた毛虫が、尻尾の短剣で
蛇の目を刺しました、毛虫はすぐに大きな声で叫びました。

「カンちゃん、毒が効いているうちに、くちばしでつついて下に落として」その声で我に返ったカンタは、蛇をつつきました。
蛇は「ギャー」と恐ろしい声を上げて落ちて行きましたが、カンタも落ちてしまいました。

足をくじいたようでなかなか立ち上がれません。でも一メートルくらい飛ぶことができるので、必死で
その場から逃げる為に、飛んだり、跳ねたり、転がったりしながら、木のほら穴に逃げ込む事ができました。その中で怖さと、足の痛さで、いつの間にか眠ってしまいました。

 大きな雨の音がカンタを起こしましたが、やはり動くことができません。ふと見ると、リスさんが貯めておいた木の実があります。カンタは木の実をたべてまた眠りました。どれくらい寝たのか、いつか聞いた事のある声で目を覚ましました。

「カンちゃん起きて、朝だよ」それはあの毛虫さんでした。「やあ毛虫さんありがとう、おかげで助かった、チーちゃんは?」「大丈夫ママとパパが帰って来たから」それから二人は色々お話をしました。毛虫さんの名前がケムルンパで、カンタパパに連れ去られる前は、パパ、ママ、兄弟が一杯いるクワの木に住んでいた事等です。

そして二人は親友になりました。カンタは相談の結果、ケムルンパの家へ一緒に行く事になったのです。足はまだ痛いけど歩けないほどではありません。
カンタは口ばしにケムルンパを咥えて、チョンチョン飛び跳ねながら歩いて行きます。

しばらく行くと綺麗な川に出ました。魚が水からジャンプして虫を食べています。その魚を鳥がが、さっと咥えて飛び立ちます。二人はとってもびっくりしました。そしてみんな生きるために一生懸命、命のある生き物を取っていることを知りました。

 遠くで何か大きな物音がします。『バシャーン』『ドガッ』と水の音や、岩のぶつかる音のようです。よく見ると大きな熊が「チクショウ、イテーナ、ウオー」と泣いているのです。カンタは聞いてみました。
「どうしたの、どこかいたいの?」「指先にとげがささって取れないんだ」
よく見ると確かにトゲがささっています。「じっとしてて、取って上げるから」そう言ってくちばしで取ろうとしますが、毛が硬くってトゲまで届きません。
そうすると、ケムルンパが毛の間に入ってトゲ迄の隙間を作りました。

そこでカンタが口ばしでトゲを抜いてあげました。熊さんは大変喜び
「勇気がある子すずめ君、君はまだ飛べないんだね、飛べるようにして
あげたいけど、役に立たなくてごめんね」「うん大丈夫、もう少し足が
なおったら練習するから」又二人は旅を続けました。

 水は相変わらず綺麗で、ふとゆるやかな流れを見ると、水の中にカンタと同じように、口ばしに毛虫を咥えた子スズメがいます。カンタは叫んでしまいました「あれ君もけむし君と友達なの?」でも実際には声を出そうと、口を開けたとたん、水の中にケムルンパが落ちてしまいました。

水が鏡になっていたのを知らなかったのです。その時、風が吹いてケムルンパは、流れの中へ巻き込まれてしまいました。
「助けてー!カンちゃん、こわいよう」カンタは驚いて岸辺を走って追いかけました。ケムルンパはクルクル回ったり、水に引きこまれたりして流されて行きます。
「どうしよう、誰か助けてヨー」
石の上に登ったり、水に足をとられらながら、必死になって追いかけました。

 しばらく行くと大きな音が聞こえてきます。あの音は・・・そうきっと
大きな滝があるのです。どうしたらいいだろう。ケムルンパが何か叫んで
いますが声は聞こえません。そしてついに滝の上にやって来ました。

ケムルンパは、滝の上から真っ逆さまに落ちて行きます。突然、確かに
はっきりカンタの耳に、ケムルンパの声が聞こえました「飛べ、カンちゃん、
飛ぶんだー!」その時、ケムルンパは滝の上から、飛び降りて来るカンタの
姿が見えましたが、そのまま気が遠くなってしまいました。
そして、突然自分の身体が、ふわっと軽くなりました。

 そっと目を開けたケムルンパの目の前に、カンタの自信に満ちた
優しい眼差しがあります。カンタは高く空へ駆け登り、ケムルンパと
一緒に、空と風、そして雲の波を楽しみました。

それからケムルンパの家を探しに、一緒に雲の下に降りて行く二人です。
やがて家族が住んでいるクワの木を見つけました。ケムルンパはとても
勇気があって、蛇から助けて貰った事や、今迄の事を話して、家族みんなに
心からお礼を云いました。そしてまた遊びに来る約束もしました。
カンタは気になっていた家族のもとへ一目散に、ヒトっ飛びにました。

 その頃、家ではあの蛇がまたチーちゃんを狙って襲っています。
目はケムルンパにつつかれ、片眼が腫れて塞がり、とても恐ろしい顔です。
パパとママが大きな声で叫んだり、口ばしで突いても、羽で叩いても
びくともしません。カンタも一緒に闘いましたが、蛇はパパの足を
咥えて振り回します。チーちゃんは目をつぶって気を失っているようです。

「あーもう駄目だ」そう思った時、ドシーンと大きな音とともに木が揺れました。蛇がそのまま落ちると、大きな声があたりに響きます。「お前か?俺の大事な友達をいじめる奴は!」そしてその声の主は、思い切り蛇を踏みつけました。

それはカンタがいつか助けてあげた熊さんでした。「ああ熊さん、ありがとう助かったよ」「カンちゃん、飛べるようになったんだ、よかったね。僕を怖がらずにやさしくしてくれた、君を助けることが出来て、すごく嬉しいよ」熊さんは、カンタの家族と握手をして、森へ帰って行きました。

しばらくしてカンタは、ケムルンパに逢いにクワの木を訪ねましたが、
何処にもいません。あのクワの木には、家族が誰もいないのです。するときれいなチョウチョがやって来ました。

「おーいカンちゃん、久しぶり」それはケムルンパでした。
あんなに変なかたちだったのに、とってもきれいで驚きました。カンタは思いました。きっと友達想いでやさしいケムルンパに、神様がご褒美をくれたんだなと・・・。

 二人は静かに、ゆっくり空へ舞い上がりながら、お話を続けます。
幸せな時間がユックリ、マッタリ流れていく春の日差しは、とってもやさしい香りで一杯でした。

                                    おわり