私が小学校3年生の時、母が近所から子豚を貰ってきた。近所で生まれた子豚は
1匹が仮死状態で生まれてしまい、生きるのは難しいだろうと言われたとの事、
「それじゃあ私が貰っていく」と持ち帰ったらしい。


母は早速クレゾールの消毒薬を買って来ました。体を拭き牛乳をあたためてから、
古い着物で包んで母が一晩添い寝
したところ、奇跡的に持ち直したのだった。
ダンボールの中で動くピンク色した体、鼻が潰れてシワが寄っていて、目はまだ開いていない。

「ブギュッ、ギュッ」と泣く声がいつも誰かを呼んでいるようで、ずっと弟たちと眺めていた。
3日もするとおかゆを食べるようになり、鳴き声も「ブヒーッ」と高い声が出るようになった。
しかしおかゆと一緒に色々な物を食べるようになると、ウンチが臭くなりこれには閉口した。
豚と言う動物は、非常にきれい好きである。それはちゃんと一か所にウンチをするし、体を
こすりつけて荒い毛が抜けるくらい、体の手入れをするのである。
残飯を与えながら玄関で飼っていたが、場所が裏の物置になり、抱えられないようになると父が豚小屋を作った。

その頃裏の豚小屋にいつも野良猫が来て、藁の中で寝ているようになった。ある日のこと
「ミヤー、ンミヤー」とコネコの声がすることに気が付いた。あれ?と思って藁の中を
見ると赤ちゃん猫が
4匹いて親猫が「フーッ、フーッ」と歯を剥きだして怒っている。

「ああゴメン子供が生まれたんだね、大丈夫そこでゆっくり育てていいよ」と声をかけ夕方、
もう一度見に行くとコネコが
1匹いるだけで親猫も他の子供たちもいなくなっている。コネコは
ぐったりしていて、泣きもせず気のせいか体も少し冷たくなっているようだ。「母さん大変だ!」
私はスグにコネコを抱き上げて、勤めから帰った母に見せに行った。


母は「ウーンこれは生きるのが難しいかもしれない、まだ赤子だし目も開いていないから、
ダンボールに入れて川に流して来よう」と言う。私は泣きながら「母さんきっと大丈夫だよ、
うちのトンちゃんだってちゃんと生きたんだから・・」そうそう、ちなみに豚の名前はトンちゃんと
言います。

母は笑いながら「そうだね、じゃあ生きるチャンスを上げなきゃね、でもヒロシ
お前ちゃんと自分で面倒見れるか?」と聞かれ涙でクシャクシャな顔を笑いながら、
そっとコネコを抱き寄せたのだった。タオルでくるんで一緒に寝てあげながら

「母さんこの猫の名前サンケにする、だって黒と茶と白がとってもきれいに分かれているんだ」
こうしてコネコは我が家の一員なった。サンケは兄弟では私に一番なつき、学校から帰ると
何処にいてもすぐに飛んで来ます。ゴロゴロとのどを鳴らして足にまとわりついてくる。


そんな時裏の豚小屋には、いつも野良犬が来るようになった。豚の餌を食べに来るその犬は
大きな黒い犬で私が近付くと歯を剥きだして、逆にこっちを威嚇するのだ。私は棒を投げつけて
追い払っていた。ある時学校から帰ると豚小屋の屋根にサンケが乗っている。

「あれどうしたんだろう」と思い近付くと、頭を低くして何かを狙っているようだ。
下にいつもの犬がいると思った瞬間、サンケが犬の顔を目がけて飛び降りた。
「フウギャー、グワー」と言う叫び声と同時に、顔をメチャクチャ引っ掻きさっと
飛び降りたサンケ。デカい犬は「キャンキャン・クーン」と声をあげ、尻尾を股に入れ
スタコラサッサと逃げていった。


私はすごく驚いたが、サンケはどうだと言わんばかりにそっくり返って、私にユックリ
近付き「腹ナゼロ!」の催促です。その日はサンケに鮭が当たりました。

サンケはネズミ取りの名人です。始めに捕まえたのは私がサンケと遊んでいる時、
迎えの家の裏にシャカシャカネズミが出て来たのです。私が「サンケ捕まえろ」と
叫ぶのと同時に飛び出したサンケは、あっという間にそのネズミを咥えて持ってきたのです。

「ヨシヨシ、サンケ良くやった、あっこら食っちゃダメ!離して」と言うとシブシブと
言う感じでネズミを離します。ネズミは頭を噛み砕かれているようで、ピクリともしません。
私は庭の隅に埋めてあげました。それからサンケはネズミを捕まえても食べずに庭の片隅に
置くようになりました。本当に頭がいい猫です。


数年たって下の弟が泣きながら「兄ちゃん・・大変だサンケが・・・サンケが!」
「どうした」と聞くと道路を指さして「あそこ」と言うのです。よく見るとサンケが
道路の道端に寝ているのです。「サンケ!」私は叫ぶなり走り出しました。
車のクラクションの音と、急ブレーキの音がしましたが、私はその場に座り込みました。

「バカヤロー!小僧ひかれたいのかー」そう言って運転手が降りてきましたが、
すぐに黙って立ち去りました。私は「サンケ、サンケどうした」と泣きながら、
抱き上げたもののもう息はしていません。

その日我が家は母さんが取ってくれた
出前のラーメンを弟二人は食べました。「兄ちゃん食べたら?母さん美味しいね」
と久しぶりのご馳走です。すごく食べたかったけど、どうしても食べる気にならず、
そのまま泣きながら布団に入って寝てしまいました。

その夜はサンケの夢を絶対見るぞ、と思いながら寝たのですが、夢を見たかどうかは
覚えていません。

私はこの時から動物が大好きになりました