始まりはハッピー
マミちゃんのハッピーバースディ
マミちゃんの桑田家はママとパパと弟のつかさ君です。
きょうはマミちゃんの誕生日、犬を飼う約束をしたので、大型ペットショップに来ま
した。
「これこれ走っちゃだめだよ」というパパの声を後ろで聞きながら、二人がいそいで
見に行きます。とっても嬉しくって、ゆっくりなんか歩いていられません。
たくさんの色々な子犬を見て二人は「こっちがかわいい、これもかわいい」となかな
か決まりません。マミちゃんは小さな茶色の、一匹の子犬の前で立ち止りました。
それはヨークシャテリアという犬で、じっとみつめています。
すこし目尻が下がって情けなさそうな顔ですが、気位が高そうでフテクサれた態度に
見えます。
他の犬がシッポを振って愛想を振りまいているのに、自分には関係がないという顔を
しています。

マミちゃんが近づくと「ん?」と言うように顔を上げ、ちょっと首を傾げました。
マミちゃんが笑いかけると立ちあがり、やっと知っている人が来たと言うようにしっぽ
を振ります。
「つかさ私この犬が良い、この犬私を呼んだみたいだ」これに対してつかさ君は
「えっダサーイ、かわいくないじゃん」と言った途端、子犬はつかさ君を見て吠えなが
ら、思い切りジャンプしたのです。まるで二人が来るのを待っていたかのように、
喜びを身体一杯で表し大きな声で吠えます。二人は顔を見合せ大きく頷きました。

「パパー!ママー!決めたこの子が良い、可愛い」と二人して声をあげました。パパは
「どれどれ、うーんあんまり可愛くないな」ママは「私こっちのトイプードルがいいな」
と、言い出しました。マミちゃんは「私が気に入ったみたい」と言います。

そしてつかさ君は「姉ちゃんが決めていいよ、だって姉ちゃんの誕生日だろう」パパが
「うんわかった、わかった、お前たちがそれでよけりゃその子にしよう」と、簡単に決
まったのでした。
服、リード、ゲージ、餌、水入れ、キャリーバッグと大変な量です。店員さんが血統書を
出して、「アメリカでチャンピオンになった経歴もあり、すばらしい血統の犬です」と
言われますが、二人はそれどころではありません。
「僕が抱っこ」
「私が・・・!つかさずるい」と、どちらが抱っこするかですぐケンカです。
「これこれ、交代すればいいでしょう。今、つかさだから今度は姉ちゃん、わかった?」

車に乗ってすぐ、つかさ君が大きな声を上げました。「あっウンチした!」子犬はモゾモゾ」
したかと思ったら、小さなウンチをコロンとしたのです。
「あら可愛いウンチだ、少し匂うね」と、笑ってマミちゃんがいいました。

ママが「あらあら、ウンチを嫌がらないなんて、本当にこの子達犬が好きなんだわ」ママが
ティッシュで取ってあげると、安心したのか大きないびきをかいて眠っています。

まるでこの犬は、栗田家に飼われる為に生れて来たんだなと家族全員が思いました。

そして犬の名前が決まりました“ハッピー”です。この犬も家族もみんなが、幸せになるよう
にと言う意味で全員一致。初めに“ハッピー”といいだしたのはマミちゃんでした。

 しつけ

しつけの役目はパパです。ご飯を上げる時に「待て!」を教えます。しばらくすると、恨めし
そうに見上げて尻尾を振ります。そして「良し」と言うとすごい勢いで食べ始めます。
待てはすぐに覚えましたが、ウンチとシッコは時間が掛かりました。

パパは怒る時はしっかり、鼻をおもらしにこすりつけ、頭をパシンと叩きます、初めは
「ウー!」と言って怒っていましたが、散歩の途中でシッコした時、抱き上げて
「よしよしいい子だ、ちゃんと出来たね」と、耳をくすぐってやると大変喜びました。

朝、夕の散歩にもすぐ慣れ、シッコをする時は『私シッコしてるよ』と目で言います。
半年もすると家族同然、寝る時はパパとママのお布団で。

マミちゃんは「ハッピーはいいなパパとママの布団なんだ。
今日は一緒に寝よう」といって連れて行ってもハッピーはちゃんと出てきます。
パパとママの布団で、寝るもんだと思っているようです。

我が家の主人公

最近買い物に行く時は連れて行ってと、すがって吠えるようになりました。普段は全然吠え
ませんが、その日はいつもより吠えドアにドンドン体当たりをして連れて行けと言います。
「ダメ、ちゃんと御留守番しているの、わかった?」ドアを閉めてもまだ鳴いているようです。

買い物が終わって家のドアを開けると、いつも迎えてじゃれつくハッピーが出て来ません。
「あれーおかしいなー、あっハッピーやった!」マミちゃんが指差す玄関マットの真ん中には、
小さなウンチが一つ。茶の間へ入るとハッピーは、ソフアの後ろで小さくなって震えています。

置いて行かれた事への腹いせ、焼きもちでウンチはしたものの、後で怒られると思って震えて
いたのでしょう。

自己主張もする、頭のいい犬で、すっかり我が家の一員になったハッピーです。

こわがりハッピー

ハッピーはとても怖がりで、気が小さいのです。かみなりのゴロゴロの音や花火の「
ドーン」という音がすると、身体をガタガタと震わせて抱き付いてきます。
きっと空気を震わす振動が怖いのでしょう。

マミちゃんが友達を連れて来た時に「この犬花火のドーンという音がすると、ものすごく
怖がるんだよ」と話すと、ハッピーは思い出したのか、ブルブル身体を震わせテーブルの
下に逃げ込みます。

それを見たマミちゃんと友達は大笑いしました。普通に話をしていても、ちゃんと聞きわけ
ているのには驚きです。近所のチワワがハッピーを見て追いかけて来て、ワンワン吠えました。
ハッピーは尻尾を又の間に入れて、ペタンとフセをして頭を抱えます。
本当に気が小さい優しい犬なんです。

ハッピーの歌手デビュー

パパがアダモの雪が降るの「ラーララ~」と歌っているとハッピーが「ウオ~ン、オオン」
と遠吠えをしました。それはまるで歌っているようです。パパは驚いて「ハッピーお前も
歌っているのか?スゴイスゴイ」と頭を撫でると得意そうな顔をします。
ラララ~と歌いだすと一緒になってハッピーも歌いだします

みんなが揃ったその夜に、もう一度合唱するとマミちゃんは、お腹を抱えて涙をながして
笑っています。
つかさ君が別な歌を唄っても知らないふりで、つかさ君はべそをかきました。
パパだけにするようです。

玄関に誰か来たようですが、気がつきませんでした。
大きな声で「ごめん下さい」という声が聞こえたのは、やっと笑いが一段落した時です。
町内会長の斎藤さんに謝りながら事情を説明すると、是非聞かせてほしいという事になり、
玄関先でお披露目です。会長さんは「スゴイ犬だねテレビに出したら」とまで言って貰い
ました。栗田家のハッピーは本当にハッピーです。

 ハッピーと小雀

家の前には車が六台止められる駐車場があり、四台にはカーポートが付い
ています。今年その柱の中に雀が巣を作りました。ハッピーはいつも
ベランダから見ています。柱の穴から顔を出す子雀が気になって仕方
がないようです。ママが玄関を開けておいたその時、子雀の声がいつもと
違う高い声に変わりました。

さっと飛び出したハッピーの後から出て駐車場を見ると、巣から落ちた
子雀をハッピーが咥えています

「ハッピー!」ママが大きな声で叫ぶとハッピーがパッと口を放しました。  

子雀は驚いたのか、けがをしたのか動きません。
ママがそっと抱き上げると子雀はどこもケガをしていないようです。
そばの柱の上で親雀が羽ばたきしながら大きな声で鳴いています。

ママは「大丈夫だよ怖くないよ、帰してあげるからね」と巣に戻しました。
ハッピーはおちゃんこ座りで黙って見ています。ママがやさしく声を掛けました。
「ハッピー偉かったよ、お前歯を立てないでやさしくして上げたんだね、
いい子だね」聞いていたハッピーは当り前じゃないかと言うように、大きな声で
「ワン!」と吠えました。

ハッピーの決闘
最近ハッピーは一人で裏の土手に行ってシッコをしているようです。ある日
ハッピーがけたたましい声で吠えています。愛子ちゃんが行ってみると、
一メートルはあるヘビがカマ首を立てている。そばにゆっくり近づいたり、
飛び離れたりしながら、ハッピーが懸命に吠えています。
マミちゃんの「キャー」という声にパパが飛び出して来て、棒でヘビを
川に捨てました。

ヘビはユックリ身体をくねらせながら泳いで行きます。ハッピーは真青に
なって震えているマミちゃんを、大丈夫?とでも言うように顔中を、
ペロペロ舐め回します。自分より大きな蛇を見て怖がりもしないで、勇猛果敢に
戦いを挑むハッピーはすごい犬です。気が小さい所と勇気がある所が極端です。

こうしてすっかり栗田家の家族になったハッピーでした。

終わり