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2012.11.30
 皆川先生短編をびっしり正味20枚で書き終える。しかし、「どこが皆川先生よ」と頭を抱えるしかない。ああやだ。ああ恥ずかしい。

2012.11.29
 皆川先生トリビュート短編を書き出した。いくら才能がナイナイといっても、そもそも無いものは逆さに振っても出やしない。凡人は諦めて自分に出来ることをなんとか少しでも増しにするべく、せこせこ努力するしかないのだ。ああ、日暮れて道遠し。

2012.11.28
 皆川先生トリビュートの短編を書くのに、せめて頭を皆川モードにしようと思って、本棚から短編集の文庫を抜き出す。『うろこの家』『薔薇忌』『骨笛』 しかし案の定、「うわ書けねえ」と頭を抱える羽目に。短編は最初の一行なんだよ。モチーフはあるんだけど、それを20枚でぴしりと決めるためには、いつもの自分の文体じゃダメなんだ。そしてなにより書き出しなんだ。20枚なんて少ない少ないと文句を言っていたが、『うろこの家』は各編20枚だって。すごすぎるーっ。

2012.11.27
 晴れたが風が冷たい。来年の仕事なのだが、「北斗学園」のデータを文庫の字組に流し込んで、ちょっと直しをしてみる。元本はジュブナイルということでルビも多めで、漢字の使い方も版元基準になっていたりしたので、久しぶりに見るとけっこう違和感がある。文庫にするとわりと薄いめなので、描写など増やすつもり。しかしアキのテンションの高さに自分がまだ合わせられない感じで、早々に撤退。

 読了本『王と夜啼鳥』 松岡なつき 徳間書店 キャラ文庫のシリーズものの外伝。作者は歴史好きなので、考証的なことがきちんとしていて、そのへんの齟齬は気になる篠田も安心して読める。世界史でもスペインのフェリペ二世というのは、どちらかというと悪役系なのだが、その王様がとても魅力的で説得力もある書き方をされているのが嬉しかった。

 『オチケン探偵の事件簿』 大倉崇裕 PHP研究所 理論社ミステリーYA! で二冊出ていたシリーズの新刊。主人公は大倉さんの作品に時々出てくる、ものすごく主体性に乏しくて強引に出られると簡単に引きずられるタイプのお兄ちゃんなのだが、3巻目になるとさすがに成長するというか、だんだん積極性も出てきてそれなりの存在感を発揮してくれて、いささかフラストレーションが解消されたのだった。物語自体も今回が一番面白い。ただ、ミステリと落語ということになると、まだ愛川晶さんの方に軍配が上がるね。こちらは青春学園物という感じ。

2012.11.26
 朝から暗くて陰気な一日。今日は全日お休みと決めていたので、パンを作る他はずっと気楽な読書。そして昼間から入浴剤を入れてお風呂。カタツムリのエキス入りのパックというのをやってみた。ちょっと不気味だったが、確かにお肌はすべすべです。

2012.11.25
 昨日は仕事場近くの紅葉を愛でに散歩に行って、赤からオレンジ、黄色、緑まで、グラデーションの美しさを楽しんだが、今日はまだ陽は射しているが気温は上がらず、夕刻になるとひたひたと寒さが迫ってくる。羊毛室内履きにフリース膝掛け、着る毛布と、いよいよ防寒グッズの出番です。宇宙服みたいな着る寝袋が少し気になっているのだが、トイレに行ったり宅急便が来たりというたびにジタバタして、結局面倒になってしまいそうな気がする。明日は天気が悪いようなので、そうなるとオイルヒータをつけないではいられないだろう。
 『黎明の書』1と2のゲラを宅急便で、3のデータをメールで送って、取り敢えずこの仕事に関してはおしまい。3のゲラが来るのはたぶんすごく先のことでしょう。あんまり長いこと日延べされ続けてきたので、どうしても「ほんとに出るのかね」という気分が消えない。

 読了本 『天才だもの』 青土社 『家族の違和感 親子の違和感』 金子書房 精神科医春日武彦の著書続け読み。この人の本は、なんというか、しらじらと醒めた身も蓋もない感じと、やや露悪的な自分語りが好きなんだけど、この二冊はどっちもあんまりそうでなくて、わりと普通な書き方がちょいつまらなかった。
 『密室蒐集家』 大山誠一郎 原書房 ミステリの、事件とトリックと解明という必要要素だけを取り出したという印象の、いわば非常にストイックな作品。ストーリーもキャラもペダントリもほぼまったくなし。これ以上削いだら推理クイズになってしまいます、というぎりぎり。こういう作品が好きな人が、本当にミステリが好きなんだと思う。

2012.11.23
 昨日は午前中ジム、午後は医者で降圧剤をもらって、池袋でちょいと買い物。意外に暖かかった。今日は天気が悪くなるとわかっていたので、最初から外に出ることは考えず、仕事場でゲラとパソコンとにらめっこ。なんとか日曜日には終わらせて、三巻のデータといっしょに送ってしまいたい。

 読了本『モラトリアム・シアター』 西澤保彦 実日文庫 腕貫探偵の三巻目にして初長編。いつもの西澤ワールドというか、けっこうえぐい愛欲の構図に、なぜか楽しそうな会話や美味しい料理、気弱な男と元気で色っぽい女性陣。ただ「腕貫探偵」という、いそうで絶対にいない、ファンタスティックな存在を軸にしたミステリという点では、ちょっと違っちゃったかなあ、という感じ。

2012.11.21
 仕事は昨日に同じく。しかし明日から天気が下り坂になるらしいとわかって、少しだけ仕事場周辺を散歩する。小学校の運動場のへりに並んだソメイヨシノ、葉がきれいに紅葉して散っている。一枚拾って持ち帰る。

 読了本『夢は枯れ野をかけめぐる』 西澤保彦 中公文庫 枯淡の境地って感じです。

2012.11.20
 仕事は昨日に同じく。天気は良かったが、散歩に出る暇はなかった。年内は遊んでいられるのかと思ったら、なんかとんでもないって感じになってきてしまった。いや、どっちかというと来年の仕事を前倒しにする必要が浮上してきたんで、少し焦っているの。

 読了本『狂桜記 大正浪漫伝説』 栗本薫 角川文庫 いかにも趣味のままに書き流しました、という感じのお話。つまらなくはなかったが、どこかで見たようなというか、自己模倣的な作品でした。
 『ルパン、最後の恋』 ルブラン 早川書房 ルブランの絶筆で完成稿ではないため長らく発表されないまま置かれていたもの。ルパン・ファンにしか勧められない、プロットは最後まで通っているけれど、あらすじに毛が生えたような作品としかいえない。しかしルパンの乳母ビクトワールはまだ生きていたんだね。
 『日和下駄とスニーカー 東京今昔凸凹散歩』 大竹昭子 洋泉社 毎日新聞日曜版に連載されていたとき、毎週楽しみに読んでいた。特定の建築とかではなくて、土地の高低差や川の流れに注目しつつ、永井荷風の『日和下駄』をテキストに東京を歩く。いかにも地味ですが、やはり東京という土地はこの上がったり下がったりがポイントなんだね。地形が町を区切っている。篠田、東京生まれの東京育ちですが、自分の生まれた家と学校の周りくらいしか、こういう地形を意識したことがなかったので、そのへん新鮮。

2012.11.19
 『黎明の書』1と2のゲラに取り組む。暗鬱な日で仕事場から出ず。

2012.11.18
 『黎明の書』1のゲラが来たので、それをやる。やたらと時間がかかってしまったので、あちこち不整合が出てきて自分でもイヤになってしまう。

 読了本『模倣犯』 宮部みゆき 新潮文庫 分厚い5冊の長大な犯罪小説をようやく読み終えた。つまらなくはなかったが、気の滅入るような疲労感の方が強かった。行われた悪と残虐はいかなる道によっても救済されないということが、いやになるほど細密に書かれているからだ。突拍子もないクライマックスだった映画(なぜか原作は読まずに映画だけ見たのだ)とは違って、主犯は満天下におのれの正体を晒した上逮捕されるが、逮捕されたって殺された人間は帰ってこない。そんなことは最初から判っているが、秩序が回復されたというような、カタルシスはまるでない。もちろん作者もそんなことは百も承知で、安直な救済など書かなかったのだろうが、読者はやりきれない。
 真相を推理させたり、謎で引っ張る種類の書き方はされていない、第二巻から犯行を行う側の視点も入っているので、逆にこれが犯人側を完全に隠して、あとでばらす書き方をしていたら、どんな印象になっただろうということが妙に気になった。主犯の名前を前半ではずっとあだ名だけで通していて、後半でやっと本名が出てくるが、そこに別にトリックは存在しない。だから、なんでそういう書き方をしているのかが釈然としない。それと、張られたまま放り出された伏線が複数目について、さすがにこれだけ長い話をコントロールしきれなかったのかなと思った。それはともかく、嫌な話です。後味が悪いです。

2012.11.17
 軽井沢まで紅葉ドライブに。天気が良くて、紅葉はそろそろ終わりだったが、とても気持ちが良かった。信濃追分では古本屋に立ち寄り、欲しかった絶版ミステリをゲット。今日は打って変わって曇りから雨の一日。来るはずのゲラが来なかったので、もう一日遊んでしまうことになった。

2012.11.14
 ミステリの好きな人には常識に類する話題だが、チエスタトンはブラウン神父のシリーズで****人を「見えない人」と呼んだ。侵入してくる犯人を警戒していたのに犯罪が行われる。「誰も来ませんでした」つまり来たのは見えない人、という機知は面白いけどリアルではない。しかしたとえばこれを読んでいるあなたが女性だとして、仕事中にお客とかそういうたぐいの人から「誰かいないの」という種類のことばを投げつけられたことはないだろうか。ミステリで「誰も来ませんでした」には「怪しい人は」ということばが隠れているように、こちらの例では「あんたじゃない、責任ある対応をしてくれる人は」いないのか、という意味だと了解される。もちろん馬鹿にした話だが、いくらもざらにある話でもありますな。
 なんでこんなことを考えたかというと、メイドについての本を読んでいて、「家の掃除などをするハウスメイドは主人の目に触れるべきではないと考えられていた」という記述があったから。ご主人が来たら掃除中でも退出する。廊下で会いそうになったら隠れる。隠れる間がなかったら壁を向いて顔を隠す。いるのはわかっていても、いないものとして振る舞うべき、扱われるべきというわけです。「つまり誰かいないの」ということばはヴィクトリア朝のメイド並みの人権侵害だねえと、いまさらのように思った。
 チェスタトンが「見えない人」のアイディアを思いついたのも、妖精みたいに見えないメイドとか、そんなあたりからかなと想像するが、実際メイドの働くお屋敷でなにか事件が起きたら、彼女らは見過ごされるどころか真っ先に疑われることだろう。ミステリでは、ノックスの十戒の方だったかな、「召使いを犯人にするな」というのがあって、これも差別的という感じがあるけど、ミステリは現実的な犯罪実話とは別の話です、という記号的な意味もあったのかも知れない。
 ただメイドという、社会的な弱者で、こき使われるけどご主人様からは無視される立場の人間が、探偵的な才能を持っているというのは、面白いかも知れないなあとは思う。無視されるからこそ見えるものもあるだろうし、掃除で部屋の中を舐めるように動いていれば、証拠が自然止めに入る、気が付かない相違や齟齬に彼女だけが気づく、というのもあるかもしれない。推理を彼女自身が披露するのは困難だろうから、なにかそのへんで仕掛けがいるだろうけど。まあ、気長に考えてみよう。

 読了本『殺人ピエロの孤島同窓会』 水田美意子 宝島社文庫 12歳の女の子が書いたミステリというので2006年に刊行された作品の文庫化。古本屋で他に買う物がなかったので手を出して、読んでやっぱり後悔した。老い先短いのに、馬鹿な時間のつぶし方をするものではありません。早い話が『バトル・ロワイヤル』の劣化コピーに、多少意外な犯人というオチをくっつけたもの。12歳にしては上手い、という種類の評価の仕方はあまり意味がないよう思います。作者が5歳だろうが70歳だろうが、作品としていけているものはいけている、あかんものはあかん。これは疑似小説。つまり小説にはなっていない習作なので、世に出すべきものではなかったでしょう。現役のミステリ作家だってたいていは学生時代から投稿はして、落ちているんで、それをちゃんと落としてやらない選者はろくではない。敢えて刊行するのは作品の下手物化で、作者本人のためにもならない。大森望氏が下手物好きなのはいまに始まったことではないが、まあ、たぶんそうだろうなと予想しながら手を出したわたくしが悪いのです。

2012.11.13
 天気はいまいちだったが、仕事場から一時間半ほど山を歩いてご近所温泉へ。さすがにウィークデーの朝はそんなに混んでいない。さっとお湯を浴びてから岩盤浴。濡れタオルを持ち込んで頭に乗っけながら、読書で粘る。たんまり汗をかいて、おかげで顔はすべすべ。読んだのはいまさらですか、宮部みゆき『模倣犯』の1。やっぱり宮部さんは小説上手いので面白いのだが、これ、とってもいやあな話。善良な人々がなにも悪くないのにどんどんとひどい目に遭う。宮部さんのあの愛くるしいお顔と表情と、いやあな話のギャップに毎度くらくらします。しかし、やっぱり面白いので続きも読もうと思ってネットで調べたら、えっ、文庫で5冊もあるの。でも1からして、とても分厚い。なんでそんなにたくさん書けるんだろうと、びっくりしてしまう。

2012.11.12
 読了本『英国メイドの日常』『英国執事 貴族をささえる執事の素顔』 村上リコ 河出ふくろうの本 なんかこのところまたメイド関係の本が目について、つい手を出してしまう。この二冊は『エマ』のアニメ版の歴史監修に携わったライターさんの著作。このほかにも同じ人の翻訳した『メイドと執事の文化史』原書房 なんて本もつい買ってしまって、もうこうなったら本格メイド小説でも書かないと本代の元が取れないじゃん。しかし本格メイド小説ってなんだ。『エマ』は本格メイドマンガだったけど、あれはラブストーリーでありました。篠田に恋愛小説は書けまへん。
 そうか、『家政婦は見た』をやればいいんだ。『ハウスメイドは見た』ヴィクトリア朝の美徳に縛られた紳士淑女の裏にくろぐろとひそむ退廃と、そこから発生する絢爛たる地獄絵図を、静かに見続けるメイドの少女。その胸に去来するものは。これじゃミステリではないですね。だったら『メイド探偵』か。昔々筒井康隆さんが書いた『家族八景』という連作短編があった。これはSF版『家政婦は見た』だったけど、メイドが探偵というのは、少なくとも国産ではまだなかったような気が、する。ほんとかな。誰が書いても不思議じゃない気はするけど。『メイド刑事』というのもあったな。こちらは早見裕司さんのラノベで『スケバン刑事』の発展系でありました。だからなによ。

2012.11.11
 今頃は天気が悪いとほんと寒々しくて気が滅入る。メフィストのゲラを戻した他は、ほぼ沈没。『秘密』のラストはいまいちでありました。その他の本も読んだけど、これはっ、というほどのものではなかったので、後でタイトルだけ並べる。
 『ホテル・メランコリア』の表紙と扉、帯のデザインが来た。単行本というのはかさばるし値段も張るし、読者様にはごめんなさい、というところもあるのだが、こうしてデザイン的にいろいろ見せ場があるという点ではノベルスや文庫よりやはり達成感というか、魅力があるのだった。きれいな本を作ってもらえるようで、大変に嬉しい。写真もただの添え物ではない作りなので、どうかお手にとって下さいませ。

 読了本『快楽上等!』 上野千鶴子 湯山玲子 幻冬舎 上野さんの本はわりと読んでいるんだけど、これはいまいちだった。共感を覚えるところが少ないといいますか。
 『きのこる』 堀博美 山と渓谷社 キノコマニアのキノコマニアによるキノコマニアのための入門書。食べるだけではないキノコの魅力。興味のない人にはなんの意味もない本。
 『書物審判』 赤城毅 講談社ノベルス ずっと読んでいるシリーズの初の長編だけど、ネタが薄くて索漠としていた。濃厚な短編を書き続けていた人が、長編を書くとそういう感じになってしまうのはままありますね。

2012.11.10
 昨日は「今日は意地でも仕事はしないっ」と決めて、午前中はベランダのブルーベリーを植え替えたり。午後から池袋に出て、ちまちまとお買い物をして、夜は練馬で日本酒。寒い時期のデパートは、コートやマフラーがじゃまで汗をかいて困るのだが、昨日もその傾向。夜まで暖かかった。今日は朝から素晴らしい晴天で「ああ、ハイキングに行きたい」と思いつつ、南雲堂のムックのゲラと12月のメフィストのゲラをチェックして、今日はおしまい。腕時計の電池を交換してもらう待ち時間に、西武の上に入った山野楽器で時間つぶしがてら買ったCDの一枚「三大テノールinROME1990」を聞く。惜しくもなくなってしまったけど、篠田はでぶオヤジパバロッティのファンであります。リブロで買った本は明日届くだろう。清水玲子『秘密』の新刊がはよ読みたい。

 読了本『くるみ割り人形 白鳥の湖 バレエ名作物語』 ひかわ玲子 集英社みらい文庫 バレエには全然おなじみがないのだが、オペラの話の筋と同じように、こちらもストーリーを取り出すとかなり他愛もなかったり、リアリティに首をひねりたくなったり、というのはままあることだろうと推測する。主眼は踊りを見せることだから、まあお話はないよりあった方が良い、というくらいのものなのだろう。しかし「名作物語」となると、やはり本は本で独立して鑑賞に堪えるものでなくてはいかんだろう。
 実をいうと篠田も子供の頃『バレエ物語』みたいなタイトルの児童書を持っていた。自分に買ってもらったのか、姉のお下がりだったか、その辺は記憶もおぼろだが、内容は「白鳥の湖」「ジゼル」「ペトルーシュカ」「くるみ割り人形」だったと思う。「くるみ割り」はあまり覚えていなくて、しかし最初の三つはなんか暗いというか、不吉というか、「死」の香りが濃厚だった。少なくとも子供が夢をはぐくむより、トラウマになるような話で、おかげで挿絵もいくつかは覚えているほど。死んだ娘が墓地に幽霊となってよみがえって恋人を踊りに誘う「ジゼル」とか、人形同士が殺し合う「ペトルーシュカ」とか、「白鳥の湖」もストーリーとしては暗い。オデット姫は無力でなんにも出来ないし、王子様は阿呆であっさり悪魔に騙されて、結局みんな死んじゃうんだから。
 しかしひかわさんはバレエにはかなりお詳しいらしくて、このリアリティやキャラの魅力に乏しい「白鳥の湖」の話を、ちゃんと一貫性とリアリティのある一編のファンタジーに仕上げている。キャラを曲げた印象はなくて、自然に膨らませて厚みを与えることで、紙人形的な頼りなさ、うすっぺらさを払拭できた。たぶんこれを頭に入れて舞台を見れば、単に「踊りがきれい」というだけでなく、さらっと見ているだけでは不足してしまう物語を脳内補完して、より楽しく興味深く鑑賞が出来るんではないだろうか。そして「くるみ割り人形」はにぎやかで楽しいクリスマスの夜にふさわしい幻想譚。これもせっかくならぜひ舞台を見てみたいと思わせてくれる出来。時節柄、お嬢さんへのクリスマスプレゼント本としてもよろしいかと。

2012.11.08
 一応終わった。『黎明の書 第三巻 双貌の都』 徳間の担当Kくんはこの日記をチェックしているそうなので、ここで連絡。「シリーズ全体で固有名詞などをいくつか変更したいので、そちらの1巻2巻再校ゲラが届いてから送稿することにします。よろしく」
 これで、出るはず。出るんだろうなあ、ほんとに。問題は超多忙な人気イラストレータさんだよ。絵待ちでは別の人別の場所で苦杯を飲んだことがあるんで、正直言ってどきどきだよ。しかし明日は取り敢えず、自分ではどうにもならないことをくよくよ考えるのは止めて、遊ぶよ。池袋に出てちょっとお買い物して、夜は飲みに行く。ハイキングもしたいな。あ、世の中では女性が「お買い物」といったら服を買うことなんだそうだが、篠田の場合は本屋です。それからパン用の小麦粉を仕入れに。準強力粉は池袋まで出ないと売ってないんだよ。

2012.11.07
 昨日と違って晴れたけど、仕事場からは一歩も出ず。ラストを書く前にここまで書いてきたところを読み直して手を入れる。この話が書いてて疲れるのは、描写の密度が濃いからなんだなあとあらためて思った。登場するキャラの描写、舞台の描写、感情の描写が我ながらねちっこい。こういうのは流行らないよなあと思いつつ、しかし歴史物ではないが一種の異世界ものだから、どうしても細かく書き込まないと、というところはあるわけさ。あともうちょっと。誕生日までには終わらせたい。

2012.11.05
 仕事相変わらず。あと30頁くらい書けば終わるというか、話は全然終わらないんだけど、一応3巻目の分量に達するので終わりにする予定。いいように風呂敷広げまくって、まあたぶん5巻か6巻くらいで一区切りつくのではないかと思うのだが、そもそも続きが出せるのかよくわかんないのだよ。って、こんなこといったらますます売れなくなるか。忘れた頃に4巻が出ても、きっとそのときは1から3巻は手に入らなくなっているだろう。でも続けてどんどん書いていいよといわれたら、それも気持ちはチョイ微妙。なんか、すごくエネルギーが要るんだわ、この話。なぜなんだろう。
 昨日の羊シチューは大変けっこうでした。寒くなってくると、こういう煮物汁物が美味しいのが嬉しい。そして出しは骨の髄から出る。羊には羊の匂いがありますが、それがなかったら羊ではありません。それと最近のヒットは豚足料理。豚足丸のまま香味野菜とトマトで軟らかくなるまで炊いて、そっと取り出して骨を抜く。しかるのちにビニール袋に入れて口を閉め、ラップで筒型に巻いて冷蔵庫へ。冷えるとコラーゲンで固まってソーセージ状になるので、これをスライスしてマスタードたっぷりのフレンチドレッシングであえて、ベビーリーフを添えていただきます。時間はかかるが手間はさほどではなく、技術は不用。味は淡泊で、つるりとした食感が面白い。保存が利くので冷蔵庫に入れて、前菜の一品にするのがグッドです。

2012.11.04
 今日は一日仕事場。しかし出かけた翌日というのは、どうしてもスムースに頭が動かない。料理もした。といっても、とても料理とは言えないような簡単なシロモノで、塩胡椒した肉と玉葱とじゃがいもを鍋に入れローリエ一枚に水を入れて煮る。あくは取るがただそれだけ。ただしこの肉が骨付きの羊肉というのが眼目。昔イスタンブールの安食堂で、羊のシチューを食べて絶妙に美味かった。最近は日本でもトルコ料理店がたくさん出来ているが、この「骨付き肉をただ煮ただけ」というようなものはどこでも見たことがない。羊もオーストラリア産の肉はわりと手に入れやすくなったが、骨付きというのはまずお目にかかれないので、普通のかたまり肉でやるとやはりなにか物足りないのだ。それがネットで見つけた北海道の肉屋で、すね肉骨付きぶつ切りというのを売っているのを発見して、送料はかかるし、クールだからそれなりだけど、頼んでしまった。というわけで本日は期待大の羊シチュー。

2012.11.03
 昨日は仕事をしたが、今日はドライブ。群馬県藤岡市でつれあいの知人がやっている個展を見に行くついで。たまたま山道で桜らしいものを見つけて驚いたら、途中に冬桜の名所、城峯公園というのがあるというので立ち寄り。ソメイヨシノと比べると一輪一輪が小さくて、近寄ってみればそれなりにあでやかさを醸し出してはいるが、華やかというよりはひっそりとつつましげな印象がある。その後近くの作り醤油屋、といっても豆腐や湯葉も作っているところでお昼を食べてから、銘木をぜいたくに使った日本家屋をギャラリーにしているところへ行く。帰りは近くの日帰り温泉。祭日なのでどこもかしこも混んでいるが、途中の町はひっそりと人影もまばら。お天気には恵まれてよい気晴らしの一日でした。

2012.11.01
 昨日は奥多摩の高水三山へハイキング。天気はいまいちで紅葉もまだ始まったばかりだが、久しぶりにがんがん足を使った。帰りは沢井に降りて澤ノ井園で絞りたての生酒を飲みながら木々と川を眺め、その後河辺で途中下車して駅前の温泉に。結局後のおまけが楽しみで山に行くというわけ。目が覚めたら脚ががちがち。大腿四頭筋がいけません。階段の下りが特にだめ。痛いというより筋肉が古いゴムみたいに伸縮しなくなっとる。というわけで今日はへろへろとジム。動かした方が少しは増しになるかなと期待したんだけど、どうだろ。
 夕方『ホテル・メランコリア』のカバーデザインが上がってきた。いかにも柳川貴代さんらしい、上品でクラシックな意匠。こうなるともう自分の作品、という感じはあまりしなくなる。結局本というのは、テキストはまんじゅうのあんこであって、あんこなしでは成り立たないけど、あんこだけでも成立しない、ひとつの総合的な作品なのであるな、と思う。つまり書き手はテキストを提供しているけど、それは「本を作る」ということの一部分に過ぎない。