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2011.12.30
 今日は終日仕事場の掃除。掃除というのはやっているとどんどんはずみがつくもので、適当にしておこうと思ったのに、最後には台所の換気扇のフィルターまで外してしまった。いい加減くたびれた。明日はトイレと廊下と玄関をきれいにして、残る部屋は(仕事場、無駄に広いのです)放置して、後は自宅の書庫を片づけておしまい。コミケに行かなかった分、今年はいつになく真面目にやっちゃいました。例によって三が日は食べて飲んで本読んでごろごろして過ごし、四日から平常運転の予定。皆様どうぞ良いお年を。

 読了本『壺中の天国』 倉知淳 創元推理文庫 10年ぶりの再読。オチは覚えていたのに、なぜか前より面白く感じた。10年前の作品でも全然古びていないのは、作中の大きなモチーフである「オタク文化」が、現在も基本的にはそう大きく変化しないままこの延長線上にあるのと、ディテールを生き生きと造形した作者の手腕のゆえだろう。本格ミステリとしての狙いの独自性、新しさは、ここで論じようとするとネタバレにならざるを得ないのでパスする。しかしミステリ愛好者に限らず、未読の方はお読みになって損はない。きっと楽しい時間が過ごせます。本年最後のお勧め。

2011.12.29
 黒豆の仕上げをしたり、今夜食べるパンを焼いたり、仕事場を少し片づけたりしたが、とうとう、やっぱり、こらえきれなくて読んでしまいました。『奇面館の殺人』。喉の奥から手が出るように待ちかまえている綾辻ファンのかた、ごめんなさい。感想については、下記。

 読了本『奇面館の殺人』綾辻行人 講談社ノベルス 物語の意匠はホラー度がかなり高い。仮面を付けた怪しい館の主というのはありだとしても、招待された客全員が仮面をつけさせられて、という出だしからして相当怖い。高所も怖いが閉所も怖い。そして仮面って閉所としては究極じゃん。綾辻さんのお好きな怪奇マンガの絵なんかが、そぞろまなかいに浮かんで参ります。ラストでちらりと現れる「お宝」としての仮面の真相も、なかなか怖くてぞくぞく。ところがミステリとしてのプロットとか、トリックとかについてはホラー度は低い。登場人物たちのキャラもおとなしく、ストレートでロジカルなミステリ。これは作者自身が「軽やかなパズラー」を意図したとあとがきで書いているので、当然意識的な選択と言うことになる。なにを求めるかという読者側の姿勢によって評価は大きく変わるのだとしても、「うーん、こうきて、こうきて、こう終わりますか、終わっちゃいますか」的な、物足りなさは正直覚えてしまった。なんかずいぶ淡泊だなあと。パズラーよりもゴシックがいいなあ、この怖い仮面にまつわる話の方を読みたいなあ。すみません、趣味です。

2011.12.28
 月曜火曜は毎年恒例、家内忘年会+年末買い出しに。築地やアメ横などは、記憶より微妙に空いている気がした。しっかし、寒いなー。
 今日は仕事場で黒豆と野菜の煮染めを作る。煮染めはこんにゃく、にんじん、れんこん、さいとも、しいたけ、ごぼう、さやえんどうをそれぞれ別に煮る。ごぼうがやたらと長くて多すぎたので、半分はたたきごぼうにする。
 綾辻さんの『奇面館の殺人』が届く。これを読み出すと明日仕事場の大掃除が出来ないじゃないかー。しかし帯に「懐かしくも新しい」と書いてあって、軽くだがショック。そうか、新本格はいまや「懐かしい」ものなのか。

2011.12.25
 やれやれ寒いのである。まだ咳も出るし洟も出るのである。しかしやったぜ、短編ラストに到達。結局74枚。で、これ。「帰ってきた桜井京介、現時点」なのだが、桜井京介的日常は書いてませんので悪しからず。いまのところ、そういうものが書きたいという気持ちが全然起こらない。ただご当人は「家政夫」と名乗っているので、相変わらず神代さんちで掃除洗濯料理の毎日を送っているらしい。凝り性の彼のことだから、きっと掃除は重曹とクエン酸、洗濯はもちろん合成洗剤は使わず、料理もグルメ系ではなくエコとヘルシー系でいろいろ工夫していることでありましょう。神代さんにはあまり酒を飲ませすぎないように、ちゃんと長生きしてもらえるような料理を工夫したりして。蒼は臨床心理士として学校方面で働いているらしいので、ストレスに負けない心と体を作る健康料理がやはり期待されますね。で、ときどきしがらみ関係で推理とかしてます。家政夫探偵京介。なんかすごく似合う気がしてきた。

 読了本『京都 銀月アパートの桜』 浅山泰美 コールサック社 先日京都に行った時、アスタロテ書房で見つけて買ってきた。京都在住の女性詩人のエッセイ集。全然知らない人だけど、北白川にある銀月アパートという建物がちょいと気になって、見学に回った後で行った本屋で見つけたもんだから、「こういうタイミングで見た本は買いだな」と思って購入。しかも建物の外に立っていた大木が紅しだれ桜だとこの本で判り、うわあ、花の咲いてる時に行ってみたい、と激しく思った次第。他にもこの方、晩年の久世光彦さんと交流があったということがわかり、久世さんの本を追いかけている(古本屋で。だって新刊もうないんだもの)自分としては、これも巡り合わせっぽい。

2011.12.24
 眠れないで困るというわけで、昨日は前に医者からもらった弱い睡眠導入剤を1錠飲んだら、眠れたけれどぼけている。どうよ? 風邪は鼻から喉に来て今日の午後からは咳。なんだか急速にフルコースを通過中。早く抜けてちょーだい。短編はもう少し。年内に暫定的にでもラストにたどり着きたいわ。

2011.12.23
 風邪である。昨日は早く布団に入ったのに、鼻が詰まって苦しくてよく眠れなかった。きょうもほぼ一日ぼけている。少しだけ短編を書き進めた。

2011.12.22
 「ホビット」の予告編がYouTubeに出ていて、二度も見てしまった。すっかりきれいどころになってしまった「ロード・オブ・ザ・リング」のフロドと違って、こちらのビルボはちゃんと中年ぽい顔をしている。その分ぞろぞろ登場するドワーフたちの中に二枚目が何人かいるようで、イメージとしてはわがままなジジイだったトーリン・オーケンシールドもけっこうハンサムだ。そして彼らが袋小路屋敷にひしめいて、旅の歌を口ずさむところがなかなか期待をそそってくれる。それからガンダルフがたくさん出てきて、ガラドリエルと軽くからんでいて、そのへんが篠田の萌えツボであります。
 しかし、そんなことをいっていたら(別に因果関係はないんだけど)風邪を引いてしまった。昨日の夜やけに寒く感じたからなあ。鼻がずるずる。今日はジムも途中で切り上げた。早寝しよう。

2011.12.21
 いやあ、今夜は寒い。すっごく寒いっす。金沢は雪だそうで、ぶりが美味しくなる季節だそうです。ああ、いいですねえ、寒ブリ。しかし寒い。
 ポメラで日記は書けても小説はやっぱり書けないねえ、書きにくいねえというわけで、夕方になってからファイルをパソコンに移した。やっぱりこれは長編でなくてもダメですわ。

 読了本『心の視力 脳神経外科医と失われた知覚の世界』 オリヴァー・サックス 早川書房 『妻を帽子と間違えた男』『火星の人類学者』の先生の著作。しかし今回は先生本人が右目に黒色腫を発症させて右目の視力を失うに至る経験談も含まれて、そうか、医者でもガンだとなったら動揺するんだなあといまさらのように。でも、この方の著作は基本的に人間の力と可能性を信じている暖かいトーンなので。

2011.12.20
 ポメラで短編を書き続ける。駅まで行く用事があったので、スタバで一時間ほど。戻ってきて、仕事場でもポメラで続ける。パソコンにコピーすることはもちろん出来るのだが、行ったり来たりさせるのはなんだか面倒で、だったら一渡りラストまで書き終えてからパソコンに移そうか、とか思って。

 読了本『ハドリアヌス ローマの栄光と衰退』 A・エヴァリット 白水社 京都滞在中ホテルで読んでいた。未だに篠田にとってハドリアヌスといえばユルスナールの長編だが、こちらは考古学資料に基づくノンフィクションで読みやすく面白い。帝政ローマというのは皇帝の演説が碑に刻まれて残っていたり、コインの図柄とモットーでそのときの政府の考えが推測できたりするのだということが、いまさらのようにわかった。ただ、ハドリアヌスという人物の内奥には当然のように筆は及ばないので、わりと卑小化されちゃっているようなところがあるんだけど。

『日本版シャーロック・ホームズの災難』 北原尚彦編 論創社 大阪のアラビクで見つけた一冊。はっきりいってホームズはそんなに好きではないんだけど、宇野亜喜良さんのお洒落な表紙に惹かれた。北杜夫の怪作「銭形平次ロンドン捕物帖」、山口雅也これが最初のキッド・ピストルズか「カバは忘れない」も楽しかったが、特に書き下ろしの2作品、元祖ハチャハチャの横田順弥さん「真鱈の肝」と喜国雅彦さんのマンガ「赤毛サークル」が傑作。そしてシャーロキアンの編者の解説もまた。

2011.12.19
 昨日は友人の友達グループの忘年会に混ぜてもらって、久しぶりに学生時代のような宴会を楽しんだ。日暮里の夕焼けだんだんの下にある知る人ぞ知るという感じのエスニック・レストランといっていいものやらなにやら。難民キャンプの雑魚寝のような室内にこたつ板状のテーブルというか台というかを据えて、飲み放題食べ放題4000円とはいっても、料理は向こう様任せで、しかも八時になるとベリーダンスが始まって、その間はほとんど料理は出てこないので、実質食べ物にありつけるのは一時間ちょっとというわけで、落ち着いて美味しいご飯を食べたいとか、恋人たちでしっとりなどという人は間違っても来てはいけませんな店。気の置けない友人グループで騒ぐには面白いけど。
 本日は乳ガンの検診がありまして、こういうのってやはり疲れる。寒いし。

2011.12.17
 年内に出来たら書き上げたいと思っていた短編になかなか着手できないので、今日はポメラを持ってスタバに行った。気が付けば町はすっかり師走風で、おまけに今日は土曜日だから、スタバも混んでいて落ち着かないことおびただしいが、それでも一時間程度キーを叩いて、なんとなく手を付けることだけは出来たなあ、という感じ。しかし明日はとある忘年会に混ぜていただくことになっているので、夜は留守、日記の更新はお休みします。

2011.12.16
 京都旅日記をアップしました。結局新しく打ち直す元気はなくて、ポメラで打ったものを多少手直しした程度。ほとんど食べて買ってのような、芸もない日記であります。右欄の中の「旅日記」をクリックしてください。ちなみに体重は増えておりませんでした。やれやれ。

2011.12.15
 やっと郵便関係の作業と、洗濯物が終了。お金の勘定と旅報告がまだ残っている。今日は午後からジム。いささかしんどい。その前に遅れに遅れたかつくらのアンケートに回答。まだ平常運転とはとてもいえず。

2011.12.14
 京都から帰りました。持っていったポメラはすっかり手になじんだ感はあるのだが、毎日書いていた旅日記をそのままアップするのが適切かどうか、いまひとつ確信が持てなくなってしまった。というのは、特別珍しい体験をしてきたわけでもないのに、どこへ行った、なにを食べたというたぐいのことを逐次的に書いても誰がそんなものを面白がるのかいなあ、という気分になってしまったので。というわけで、数日うちにもう少しまとめてさくっと整理したものを載せるようにしたいと思います。今日は洗濯と、いただいた手紙への返事書き。それもまだ終わっていない。

2011.12.03
 雨音で目を覚まされて寒さに震え上がるが、雨が上がったら急に気温も上昇してきた。旅立ち前の部屋片づけ。
 旅行のため13日まで不在となります。なおその間に、インタビューの載った『2012本格ミステリ・ベスト10』原書房と、『龍の黙示録 最終巻』文庫バージョンが刊行されます。

 読了本『夢違』 恩田陸 角川書店 SFともファンタジーともサスペンスともつかぬ、恩田作品としかいいようのない小説。夢をメディアに記録して第三者が読めるようになった近未来の日本を舞台にしていて、夢を読む仕事をしている青年が主人公で、地方の小学校で起きた集団白昼夢事件の真相を探るべく、ベテランの上役とふたり子供たちの夢を見る。このあたりは清水玲子のまんが『秘密』のテイストが漂う。その後物語は膨らんで、かなり大変なことになるのだが、ラストはわりとあっさりしていて、暗示されている世界は『星の時計のLidell』と似ている気がする。そしてそのへんの絵はとてもきれいなのだが、回収され残った伏線に、なんとなく読後感がもやもやする。SF的な設定と、そこから起こる人類の変化、というあたりはもろSFなのだが、世界の肌触りは未来を見ているというより過去に向いている印象。
 ところで法隆寺のあの観音像は「ゆめちがい」観音ではなく、「ゆめたがえ」観音ではないのかな。「夢違い」というと「人違い」みたいな感じに、つまり夢Aと夢Bを取り間違えるように聞こえてしまう。「ゆめたがえ」なら悪い夢を変える意味に聞こえると思うんだけど。

2011.12.02
 担当と話をしていて、講談社文三からソフトカバーで出した『緑金書房』が来年の4月で2年になるから、同じ4月にノベルスで出し直したいといわれる。だが4月では、メフィストで短編を書けの〆切ともろにかぶってしまう。どちらにしろ短編には年内に手を付けるつもりではいたが、たった2年で版型を変えるならそれなりに手入れをしたいし、出来ればボーナス・トラック的なものも書き下ろしたい。あの話は、もしも依頼があったら続編を書けるように解決しない伏線的なものをいくらか残しておいたのだが、どうもそういう流れはなさそうなので、そのおまけでヒロインの母親のこととか、残った謎をきれいに解決しておきたいのだ。今頃言われてもそんな日程で出来るわけがないやんけ、とかなり切れる。しかし旅行前なので、帰るまでは仕事はしない。今日もひたすら読書。旅行の予定がなかったら、そそくさと仕事を再開せねばならなかったから、その点はラッキー。

 読了本『テレビの黄金時代』 小林信彦 文春文庫 日本のテレビ放送開始が1953年で自分の生まれた年だから、物心ついた時にはすでにテレビが存在していたことになるが、昔のテレビ受像器は死ぬほど高かったから、我が家にテレビが来たのはかなり後の話だ。この本は小林信彦が構成作家としてテレビにかかわった1960年代を中心に描かれた、テレビ番組制作者視点の現代史。小学校から中学校の時代にはけっこうテレビを見ていたんだなあ、番組のタイトルに記憶が濃いものなあと今更のように思う。『黄昏』を書く前にこれを読んでいたら、少し世界が変わったかな。でも子供の神代さんが熱心にテレビを見ていた、というイメージはなんとなく浮かばない。神代家でもなかなかテレビは買わなかったでしょう。あの家、お金なかったし。
 『人生、成り行き』 立川談志 新潮文庫 先日亡くなった噺家立川談志が懇意にしていた聞き手に語った一代記。これを読むと談志ってすごいインテリだったんだなあ、と思う。芸術家でかつ知識人。知り合いになるのはきつそうだけど。篠田は彼の話をちゃんと聞いた覚えがないので、どこまで理解できているかはおぼつかないが、芸談、芸術論としても大変面白い。加えて前著と続けて読むと、時代的に重なることもあって、同じ人が顔を出したりする。永六輔とか。その永さんが、いまやよれよれの老人になってまだラジオに出ているもんねえ。

2011.12.01
 昨日は担当編集者と打ち合わせがあったので、ついでのことに目医者に行ったりちょっと買い物をしたり。あとは本を読んでいた。今日はジムで、その間にやっぱり本を読んだり、パンを焼いたり。こうしたのったら仕事しないで暮らしてると、なんとなく世間に申し訳ないような気分になってくるね。
 異形コレクションの新刊見本到来。書き下ろしのショートショート集『物語のルミナリエ』、12/8頃発売。篠田も参加しています。

読了本『明治の建築家・妻木頼黄の生涯』 北原遼三郎 現代書館 明治初期の日本人建築家の中で、コンドル→辰野のラインから外れてしまったために語られることの少なかった建築家の生涯を描いた小説。自分には面白かったけど、そのあたりの時代や建築に興味がない人には、あまり楽しめないかも知れない。
 『明治の皇室建築』 小沢朝江 吉川弘文館 これもまあ、ディープな建築好きにしかアッピールしにくい本か。自分的に面白く感じたのは、あの赤坂離宮についての分析。大正天皇と皇后の住まいとして建設されながら、平面が左右対称で夫婦の寝室が両翼にとんでもなく離れて置かれていることの珍妙さばかりに目が行っていたが、それは考えが浅かったということがとても具体的に、明らかにされていて「おおっ」と思わず膝を打った。あんまり面白いのでここには書かないけどね。だって、1行や2行では説明しきれないんだもの。うーん、これをネタになにか書きたい。