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2010.10.31
 昨日は本格ミステリ作家クラブのイベントで、台風の雨風の中神保町の三省堂まで。本来なら青空古本市開催の時期だが、むろんそんなものはすっ飛んでいる。イベントといってもトークショウは辻会長戸川事務局長以下のお歴々が出演で、整理券はとっくに満員だそうだし、こちらはサイン会に加わって理論社のミステリーYA!を売りましょうよ、という芦辺さんの呼びかけで後から参加を決めただけ。しかしぎりぎりに行って迷うのも嫌なので、はやばやと編集者と待ち合わせをすることに。こんな天気で人が集まるのだろうかと思ったら、押すな押すなの盛況ぶりにビックリ。紙袋いっぱいの本を持った人の列に、濡らさずに持ち帰れるのだろうかと他人事ながら心配になってしまう。
 クラブの記念出版本は寄せ書き状態にサインをもらえるので、こんなときにはことに皆さん嬉しかったのではないだろうか。篠田の本をお持ちいただいた方には、急遽作った手製ポストカードをプレゼントさせていただいた。その無くなり具合からして30人くらいは来てくださったのではないかと思っている。もっとのんびりお話が出来るかと思ったら、会場全体が立錐の余地もない有様で、かえってひとりのサイン会より混みようがひどく、ちゃんとお話できなかったのが心残りだ。こんなことなら『建築探偵最終巻2011年1月発売。12月発売のメフィストで先行掲載、インタビュー、あとがきのあとがきが載ります』とチラシでも作って配れば良かった。アホの思案は後からや、というのは本当。
 それからちょっとだけお話しした方で、「お手紙ください」といったら、「サイトの手紙のルールを読んだら萎縮してしまって」といわれて焦った焦った。いまの若い方は特に、普通に手紙の書き方をご存じないらしいと思ったので、そこは婆のお節介といいますか、知らないことならお教えしましょう、という気分で好き勝手なことを書いています。お願いなのであって決して強制ではないし、リターン・アドレスとお名前を外封筒に明記してある限り、ちゃんと全部読んでいますし、怒ることなんて滅多にありません。

 今日は例によって疲労残りの頭ぼけぼけ状態で、それでも文蔵の筆者のページというのに入る自己紹介を書いてみる。それから建築探偵の再校ゲラが来たので、改めてゆっくり読み直す。「混血の子」ということばがすでにNGだというので、いい加減憂鬱になる。3時になって昨日の朝取れた奥歯の詰め物を持って歯医者へ。虫歯も進行していないというので、そのまま取れたのを詰め直してもらう。ホッ。

 読了本 『まんがで読破 黒死館殺人事件』 イーストプレス ネタだな、と思って買う。上記イベントに行ったら、喜国さんも同じ本を持ってはしゃいでいたので笑える。絵はひどいです。館はディズニーランドのンテッド・マンションのようです。貴族的な蘊蓄探偵法水が、なぜかハードボイルドに登場するうらぶれアル中探偵のようです。プロット上も特にラスト近く原作が大きく改編されています。しかしプロットについては、予想したより遙かにまともです。今度『ドグラ・マグラ』を読んでみよう。『虚無への供物』はやらないかな。

2010.10.29
 明日はモロに台風が来るらしい。しかし三省堂のイベントはやるんで、行かぬわけにはいかんのである。
 三省堂のサイトに告知が出ていて、それによるとトークショウの後にあるサイン会にも別途整理券が必要であるらしい。サインする本は会場で販売しているものに限られているらしい。おまけにどの本を売っているか、という問い合わせには応じられないらしい。いろいろ注文の多いタカビーな企画だな、と驚く。まあ、三省堂は場所を貸して、本格ミステリ作家クラブが主催するという形なんで、間際にどんどん話が膨らんで向こうも対応しきれないというのが正直な話ではないだろうか。わざわざ嵐の中を来てもらって、それに値するほどのイベントになるのだろうかといささか不安ではある。しかしまあ、それでも行ってやるぞという奇特な方は、下記サイトの告知をご確認の上、電話で整理券を確保してからおいで下さい。篠田は一応、数は少ないけどオリジナル・ポストカードなどのおまけを用意してお待ちしています。
 http://www.books-sanseido.co.jp/blog/jinbocho/

2010.10.28
 寒くてびっくり。あわててヒートテック下着にフリースを重ね着し、ジーンズの下にはタイツ、と真冬並みの服装をしてしまう。なんか身体の中に暑さでいためつけられた記憶がまだそのまま残っていて、現在の気温との落差に戸惑っているような感じ。皆様、風邪を引かないように気をつけましょうね。
 出かけた翌日というのはどうも毎度使い物にならない。今日はしかたなく、税金を払いに行ったりの雑用と、ひとつ思いついて手元のコピー写真からモノクロのポストカードを製作。「北斗学園のイメージだ」と思ったのでサイン本を購入頂いた方におまけとしてつけようかと。うまくいけばいつもの機械的にサインするようなサイン会ではなく、もう少しゆっくり読者とふれあう時間が持てるかもね。

 読了本『郷愁という名の密室』 牧薩次 小学館 本格ミステリ大賞受賞作家の新作というか、辻先生の新作。別ペンネームで書かれているせいか、いつもの辻節とはちょっと雰囲気が違います。主人公が暗い。それもいまの若者っぽく暗い。外枠はほとんどSFだがあんこは純正本格ミステリ。

2010.10.27
 PHPとの打ち合わせ。12月売りの文蔵1月号から連載する幻想ミステリ短編連作「ホテル・メランコリア」の、です。雑誌は月刊だが、篠田は三ヶ月に一度の登場ということにさせてもらった。昨日一昨日でばばばばっと書いてしまった1本がオープニング。あと2本書いてあるので、手直しはするとしてもストックはあるのだが、その2本を続けてにするか、間にまた違う話を入れるか、ということもある。いつものような出たとこ勝負ではなく、全体の構想を立ててから書き継ぎたいのだが、それが出来るか、篠田。
 10/30に神保町の三省堂本店で、本格ミステリ作家クラブ10周年イベントとして、トークショウをやる。で、別に篠田は出演したりしないので、行くつもりはなかったのだが、熱血漢芦辺拓氏より「理論社応援のためにミステリーYA!で書いた自分の著作を売ってサインしないか」とアジられ、まあほんなら、と腰を上げることにした。たぶん午後5時ぐらいに三省堂本店に行くと、どこかに告知が出ていて、買ってもらった本にサインすることになると思う。どんな感じになるのか、こちらでもさっぱりわからないのだが、古本市の期間でもあることだし、お時間のある方はおいでいただけると嬉しい。というのは、どうみても宣伝が行き届いているとは思われないので、待ちかまえていても誰も来なかった、という可能性が大いにあるからで、こんな情けない話もなかろうと思うのだよ。

2010.10.26
 文蔵連載の短めの短編を一本、どうにか書き上げる。たった二日で書いたので、出来については不安。角川からのゲラ、再校の疑問点のみ。ジャーロからのゲラ、殺人的なスケジュール。

 読了本『幻視時代』 西澤保彦 中央公論新社 高校時代の回顧や同世代同士の推理合戦など、西澤さんお得意の場面は満載でありつつも、毒の要素は少な目で読みやすい。読後感も悪くはない。ただ、タイトルの意味がよくわからない。

2010.10.25
 よしながふみさんのお料理マンガ「きのう何食べた?」の4巻に載っていたリンゴのカラメル煮が美味そうだったので、紅玉リンゴを買ってきた。バタートーストにこれを載せ、さらにバニラアイスをのっけてシナモンを振るというの、しかし、カロリーが高そうだなあ。
 PHPの連作短編。プロローグ的な短い章を頭につけようと思ったのだが、それが連載の一回分となるとちょっと物足りないかしら、などと悩む。まだ少しだけ時間はあるので、水曜日の打ち合わせの時に相談すればいいのだが、その短い一編のタイトルと、オチみたいなものがまだ思いつかないので困る。

読了本『学園祭前夜』 MF文庫 「青春ミステリーアンソロジー」とあるのだが、こういう編者の顔が見えない、つまり編集サイドで企画したのだろう書き下ろしアンソロジーは、当たり外れが大きい。今回は近藤史恵さん、はやみねかおるさんの作品がちゃんと面白く、残る三編はそれよりどっと質が落ちて、中には小説ともミステリともいえないようなものまである。それにタイトルも変で、はやみねさんの作品は「前夜」じゃなく「後夜祭」だ。同じ学校を舞台にしているわけでもなく、ただ高校の学園祭に絡んだ短編を依頼して並べた、というだけの印象。

2010.10.24
 秋晴れは昨日だけだったらしい。朝からどーんと曇天。でも明日は雨のようなので歩けるときに歩こう。ゲラをコンビニに出しがてら散歩。畑の脇で野菜を売っている無人スタンドにあけびがあったので、珍しいと購入。その後軽くご近所ハイキング。いままで入っていない道に道標が出来ていたので、入ってみる。やはり日曜なので人影が濃いが、こういう脇道には誰もいない。帰宅後あけびを食べてみたが、やはりそんなに美味しくはなかった。
 PHPの雑誌で始める連作短編について、頭を引き戻そうとするが、どうも上手く動かない。脳の働きが鈍い感じ。昨日焦って働いた疲れが残っているのかな。どうも困ったもんだ、水曜は打ち合わせなのに。

2010.10.23
 建築探偵ラストのゲラを見る。インタビューのまとめ原稿が来るが、篠田の悪い癖でいじり倒す。ゲラを一応ラストまで、校閲の指摘を中心に見るが、やっぱり白ゲラで読み返したい、という思いが押さえられず、担当に頼み込んで再校の白ゲラをもらうことにする。ついでにメフィストに載る「あとがきりあとがき」も書いてしまう。しかし水曜日にはPHPとの打ち合わせがあるのに、そっちには全然手が着いていない。どうするんだよ、おまえ。

読了本 『「狂い」の構造 人はいかにして狂っていくのか?』『無力感は狂いのはじまり 「狂い」の構造2』 春日武彦 平山夢明 幻冬舎新書
 悪趣味な話の好きなおっさんがふたり、飲み屋でおだを挙げているような本。バッド・テイストは面白いけど、この人たちと同じテーブルで酒は飲みたくないなと思う。きっとすごくまずくて悪酔いするよ。

2010.10.22
 どんよりとして肌寒い。そのくせわしわしと歩くと少し汗ばむ。建築探偵のゲラが来たが、27日にPHPの打ち合わせがあるので、そっちもやらないと、というので気ぜわしい。なのにネット本屋からも本が届いて、読みたくなってしまう。
 だがそんなこともいってられなくなった。ゲラを一度戻して再校の白ゲラをもらうことにしたので、とっとと見終えて返さなくては。インタビューの興しも到着。千街さん、仕事早いなあ。

2010.10.21
 昨日は講談社に行って、12月売りのメフィストに載せてもらう「建築探偵完結宣伝インタビュー」をやる。なにを話してもネタバレなので、当たり障りのない話をちょびっと。第一章の先行掲載というのもやります。売れておくれ。

読了本『隻眼の少女』 麻耶雄嵩 文藝春秋 名探偵だった母の名を襲名した17歳の少女、左目は翡翠の義眼で服装は白の水干に赤い袴。ほとんどアニメかラノベの登場人物だが、こういうのは苦手な人もそこは我慢して読み続ければけっこう驚天動地の結末がある。こんないけずうずうしいトリックと、とんでもない犯行動機をぬけぬけと書くのはさすがにこの作者だ、という感じ。ヒロインの造形も結末に奉仕しているわけなので、本格ミステリの好きな人なら楽しめると思う。しかし帯に「ちょっぴりツンデレ!」って、こういうのは止めて欲しい。オヤジが得意げに若者用語を使って見せている、みたいなしらけた気分がしてしまいます。
『昭和45年11月25日』 中川右介 幻冬舎新書 三島由紀夫が自決した日について、そのときの自分の行動や覚えた感慨を書き記した百人以上の人々の証言をコラージュして、「三島事件が日本人に残したものはなんだったか」を浮かび上がらせる試み。ちなみに篠田は高校生だったが、あんまり文学少女ではなかったので、三島作品もまだ大して読んでいなかったし、なにを感じたか覚えておりません。三島を読み出したのは大学に行ってからだが、三島の選択した死に方は作品を享受するのにあまり関係しなかった気がする。それはそれとして作品は、と分けて読んでいた。
 でも、当日の夜には全国の書店で店頭にあった三島の本が売り切れたというのを読んで、改めて「へーえ」と思った。そうやって買われていった本がどれくらい読まれたかはわからないが、それでも衝撃的事件がマスの購買動機となったんだね、このころはまだ。

2010.10.19
 『美しきもの見し人は』をもう一度頭からチェックする。この期に及んでもミスが見つかるので、まったく油断ならない。キリスト教徒とはいってもカトリック教徒とはいわない、カトリック信徒である、とか、カトリックは聖歌で賛美歌はプロテスタントだ、とか。まあ、普通の読者にはどっちでもいいようなものだけどさ。それももうじき終わるが、明日には『燔祭の丘』のゲラが来る。明日は夜不在なので日記はお休み。

読了本『セカンド・ラブ』 乾くるみ 文藝春秋 読者によって評価が大きく分かれると思う。ボリュームのほとんどを占める恋愛小説部分、1980年代に20代で初めての初々しい恋に落ちる語り手の青年に共感し、感情移入出来る読者ほど、作者の技巧がツボにはまって目をくらまされるのではないだろうか。残念ながら篠田は全然この青年に感情移入出来なかったので、最初から書き方の不自然さで仕掛けの在処が見えてしまったし、展開の中でも、たぶんこう、という見当がついてしまった。わからないのは「なぜそんなことをしなければならなかったか」という動機部分で、そこが最大の謎であるのに、その謎は解かれない。主人公は「永遠の謎」といって、それで話は終わってしまう。カタルシスがない。

2010.10.18
 仕事場の近所にちょっと変わった植物が生えていて、緑色のとげの生えたボール状の果実が成っているんだけど、図鑑を調べたらチョウセンアサガオだった。人も殺せる有毒植物が、案外平気で生えているもんです。

読了本 『ボディ・メッセージ』 安萬純一 『太陽が死んだ夜』 月原渉 東京創元社 第二十回鮎川哲也賞受賞作 どっちも、ごめん。前者は、篠田がかなり早い時点で気がついたネタがそのまま真相だったので、驚かせてくれよー。後者は、アニメみたいな女子校描写に耳がカユカッタ。犯人がここまで残虐な大量殺人を引き起こす動機がぴんと来なかった。

2010.10.17
 『美しきもの見し人は』をラストまで直し終える。あとはルビをチェックしておしまい。原書房本格ミステリベスト10の「作家の近況」を片づける。これは明日送ること。
 昨日から今年の鮎川賞のうちの1冊を読み出したが、自分は賞の選考委員には絶対に向かないとつくづく思う。まあ、こういうものは受賞者がするものだから、まず依頼される恐れはないんで、全然問題ないんだけどね。本筋とはあまり関係ない部分で引っかかってしまうと、それが気になって他の美点がちゃんと評価出来なくなるのです。怪しげな依頼を受けて見知らぬ家に導かれ、そこで一夜を過ごす(依頼内容はそれだけしかわからない)ことになった私立探偵ふたりが、その部屋に置かれていたウィスキーを勝手に飲んで、「眠くなったな」といって怪しみもせずにそのまま眠ってしまう。おまえら、仕事に来たんなら一晩ぐらい徹夜してたらどうだ? この発端の変さに引っかかって、もうあかん。いま半分を少し超えたところだけど、もしかすると謎の答えはこれかな、というのがあって、でも引っかけかも知れない。どっちにしろ我慢して読んでる気分。

2010.10.16
 『美しき』継続中。

 読了本『砂漠の悪魔』 近藤史恵 講談社 初めはありがちの青春ものかと思っていると、話がどんどんとんでもない方に転がっていって、まさかという結末を迎える。近藤さんはどちらかというと女性心理方面が得意の書き手だと思っていたのだが、これはかなり男の話。傑作だと思います。
 『女ぎらい ニッポンのミソジニー』 上野千鶴子 紀伊國屋書店 篠田も女嫌いでした。つまり男性的な価値観(女は男より劣っている)を内面化していて、周囲の同性と自分の中の女性性を嫌悪していたわけです。男性性を崇拝していたわけではないが、とにかく女性性が嫌だった。そして社会の価値観がいまだに男性中心であり続ける以上、女性はミソジニーの洗礼を受けざるを得ないという本書の論は正しいと思う。自分にしてもその残滓はいまも完全に払拭されたわけではない。ただ多くの女性は篠田と違って、だからといって女性文化からドロップ・アウトしてしまうわけではないらしいので、いまの自分の中の「女ぎらい」「女離れ」が社会的な刷り込みだけで生まれたともいえないと感じるけれど、このへんのことを書き出すと長すぎるので、ここでは止めます。
 いまはどちらかというと「男ぎらい」ですね。個々の男性がではなく、社会に居座る男根主義や家父長制的価値観が憎い。心の底から嫌悪し憎悪します。ところで女嫌いmisogynyの反語として男嫌いという英単語はなんだろうと思って辞書を引いたら、反語 philogynyとあり、さすがにマイナーらしくて知らない言葉だなと思いつつ、改めて辞書で引くとこれがとんだ間違い。女好き、とありました。要するにこの単語の視点として想定されているのは「男」なんですわ。なんかこれだけで、エッセイ1本書けそうです。

2010.10.15
 昨日は午後から近くの日帰り温泉にハイキングがてら出かけて、岩盤浴なんかもしてたらたら。前回河辺の温泉はマッサージがボツで懲りたのだが、こっちは入場料が高い分空間も広く、岩盤浴をすると下手なマッサージをしなくてもリラックス効果はある気がする。車で来なかったので安心してビールも飲んだが、帰りのバス停が真っ暗けで閉口。
 今日は継続して『美しき』の直し。この辺の仕事を前倒しで済ませれば、来年春にSFJとジャーロの〆切がモロかぶりするときの対策も年内に打てるだろう。

読了本『ハロウゥイン・ダンサー』 島田荘司 講談社Box 全12巻で完結するというシリーズの8冊目だが、これだけで読めるし傑作だと信を置いている某書評サイトの主が熱弁をふるっていたので、いきなりこれだけ読んでみた。なるほど、島荘の筆力がかなり無茶な(馬鹿なとはいわん)オチを支えていて、ピンで読めるというか、これが全体の中ではどういう繋がりを成すのだろうと逆に好奇心がそそられる。士郎正宗の精緻なイラストは島荘の熱っぽい文体とは距離があるのだが、その距離感もプラスに働いている感あり。講談社Boxのアルミみたいな箱と安っぽい表紙の装丁は正直な話好きではなくて、手に取るのをためらうくらいだったんだが、とにかくイラストが魅力的なんで、開けてビックリ。安っぽい表紙もかえって意外性を高めている、というのはまあ皮肉といいますか。オチを読んでから改めて、前に戻ってイラストの細部を確かめたくなる。
 しかしこのぺこっとした箱と、帯代わりの丸シールはミステリーランドへのオマージュかしらん。

2010.10.13
 4つで980円の激安アメリカ松茸はちゃんと美味だった。焼き松茸とパスタにした。トリュフより松茸の香りがいいと思うのはやはりDNAか?
 本格ミステリー・ワールド2011のエッセイ原稿をメールで送る。祥伝社にゲラを返送する。それから近くのパン屋でパンと牛乳を買い、近くの小山へ上がってランチ。しかし、暑いよ・・・ 途中会った人間以外の生き物。大人の指大の巨大芋虫、アゲハの子かな、2匹、蛇の下半身、おじさんに連れられて山頂にいた柴犬、灰色ぶちの尾の長い子猫。
 待っているゲラがどこも来ないので、光文社の文庫下ろし『美しきもの見し人は』の直しを今日からやることにする。

 読了本『トーマの心臓』 萩尾望都原作 森博嗣 講談社ノベルス マンガのノベライゼーションをする意味がよくわからないと思っていたが、読んでみても作者の意図が全然わからない。好きな作品を自分流に語り変えてみたい、ということなんだろうか。ドイツの話を日本、それも戦前の日本らしいところへ持ってきたのも「?」だが、ここにはそもそも「トーマ」がいない。いや、原作でもトーマは始まったときから死者で、彼がなにを望みなにゆえに死を選んだかというのが謎として物語を牽引し、それがわかったときに、不在の中心であるトーマの周囲に引き寄せられていた少年たち、ユーリ、エーリク、オスカーは、その死を受け入れてそれぞれの道を歩み出すことが出来た、というのがあの作品でしょう? なのにここではそもそも、トーマが書いたあの脅迫のような手紙の文面が出てこないし、ユーリにしてもエーリクにしても全部が漠然としていてつかみ所がない。なにがあるかというと、一人称の語り手に選ばれたオスカーの主観、ただそれのみ。きっと作者はオスカー・ファンなんでしょう。同人本の二次創作というのがせいぜいのところ。

2010.10.12
 夏の暑さは苦手で秋の方がいいと思うのに、なぜか秋の方が体調が冴えない、というのがここ数年の傾向。これも老化の現れか。
 龍のゲラをラストまで見終える。データでチェックしていないので、あまり手が掛けられない。ローマ編はそれだけの時間を取れるだろうか。文庫にあとがきを書く。あとがきを書くのは嫌いではないのだが、文庫下ろしの場合、さらに改めてなにを書けばいいんだ、と困惑してしまう場合が多い。今回は仕方なく、短いエッセイでも書くつもりで書いた。お題は「書き出し型か結末型か」。興味を持たれたら12月にせめて立ち読みしてください。
 本格ミステリー・ワールド2011用の原稿を書く。こういう細かい仕事は、少しでも手の空いたときにさっさと片づけてしまわないと、逆に忘れて取りこぼすことになりかねないから。
 朝のパンが無くなったので、パンを焼こうとして残っていた準強力粉をボールに空けたら虫が付いていた。アーメン。今年は本当にベランダの植物も台所も虫が多い。昨日も今日も10月にしてはあり得ない気温だし、これが温暖化、じゃないよ、亜熱帯化、ということなんですかね。

2010.10.11
 なんだこの天気は。暑いじゃないか。日射しでくらくら。
 今日はトンボーロを作りながら、龍のゲラの続き。優勝を逃した西武系スーパーに行ったら「ご声援感謝セール」をやっていた。一山980円のアメリカ産松茸という、怪しげなものを買ってしまった。北朝鮮産じゃないからいいや。
 書き忘れていた朗報ひとつ。北森鴻さんの未刊行作、「小学三年生」に連載された『ちあき電脳探偵社』というのが、PHPの文芸文庫から、来年の1月か3月に刊行されるそうです。児童向けといっても北森さんだから、楽しみに待ってみましょう。

2010.10.10
 朝まで雨だったのが、上がって晴れたら今度は蒸し暑い。ちょうどいいところに止まろうって気がないのか、おまえはっ(ッて、誰?)
 例によってパーティ後の疲労引きずり状態。眠い。しかし「龍トリノ編」の文庫ゲラに立ち向かう。あんまり久し振りで、なにを書いたか忘れてます。

 ホテルから送った荷物が届いたので、本年の鮎川賞。
『太陽が死んだ夜』 月原渉 ニュージーランドの女子校で起きた殺人事件、だそうだ。

『ボディ・メッセージ』 安萬純一 アメリカ、メイン州で私立探偵が受けた奇妙な依頼・・・
と、まあ、2作とも外国が舞台で、日本人はほんの少ししか出てこない。昔々、ヨーロッパの古城を舞台に日本人の出ないミステリを書いて最終候補に残ったものの、わざわざ選考経過で「良くない例」の引き合いに出された篠田としては、時代は変わるもの、といまさらのように。そらそうだ。鮎川賞も今年で20回。小生が引っかかったのはなんと第二回でありましたよ。

 読了本『密告者ステラ』 ピーター・ワイデン 原書房 ナチス支配時代にゲシュタポの手先となって、ベルリンで隠れ住む同胞の摘発に働いた女性を描いたノンフィクション。特徴はユダヤ人の著者がその女性ステラと十代のとき同窓生で、美しい彼女を憧れの目で見ていた過去があること。だから単純な告発記ではない。また彼女だけでなく、民族抹殺を掲げる戦下で生き伸びるために様々な道を取ったユダヤ人の多様な姿を活写することで、ステラの選択の意味がより鮮明になった。ゲシュタポの手先になったのは彼女だけではない。ユダヤ人といっても一枚岩ではなく、大都会ベルリンの社会に同化して成功し、民族の自覚が希薄化していた中流層が特に危機意識が希薄だったことなど、逃げることなくガス室へ導かれてしまった人々の軌跡も理解が行った。しかし元本は1992年に出て、著者は「なぜ再会したステラを殺さなかった」と詰問する多くの同胞にショックを受ける。そしてステラは1994年、74歳で自殺したという。その自殺に、この本は関与していないのだろうか。
『瑠璃玉の耳輪』 尾崎翠原案 津原泰水 河出書房新社 1927年に尾崎翠が板東妻三郎プロの公募に投じた映画脚本を小説化したもの。とはいっても脚本はかなり粗っぽく、整合性を欠いたものであったらしい。それを再編成して、物語を貫く謎を設定し直したのが津原の手柄。謎の依頼人から左耳に瑠璃玉の耳輪をつけた三人の女性を捜して欲しいという依頼を受けた女探偵岡田明子に、老刑事、女掏摸、片目を無くした女綱渡り師、貴族のお坊ちゃん、変態性欲の富豪といったけばげはしい登場人物多数が絡んで繰り広げる昭和初期風エログロ・グランギニョール劇。ちょっと乱歩の通俗長編みたいで、栗本薫が生きていたら喜んだか、こういうのは自分が書きたかったと切歯扼腕したかも知れない。
2010.10.09
 昨日は鮎川賞のパーティ。しかし年々混雑がひどくなるパーティは、立錐の余地無し。今回は2作同時受賞でそれにミステリーズ新人賞の短編が掲載された雑誌と、20周年記念のワインの小瓶までついて、結婚式の引き出物並に荷物が増えてしまったものだから、宅急便で送らざるを得ずいま本が手元にない。よって受賞作のタイトルも書けません。
 せっかくの連休なのに天気が悪い。寒い。といっても自由業者に連休は関係ないので、明日からまた真面目にお仕事をするです。

2010.10.07
 SFJapanのゲラを返送する。ジャーロの原稿をメール入稿する。それで今日はちょっとお休みしようと思ったら、理論社が民事再生法の適用を申請した、ひらたくいうと潰れた、というニュースが飛び込んできてたまげる。自分が書いた出版社が潰れるというのは、初めての経験だ。しかし、これまでの出版社の破産というのは、だいたい本業以外のことに手を出した結果と相場が決まっていたのに、理論社はそういうことはなさそうな気がするし、売れてる本もいろいろ出していたのになあ。ミステリーYA!の北斗学園も、本当いえば全然けりがついてなくて、しかし実際問題として続きを書く余裕が全然無かったんだけど、書きたい気持ちはあったんで、かなり残念。
 明日は鮎川賞のパーティなので、日記は休み。しかし龍トリノ編のゲラが来るそうだ。有り難いことにいまのところ仕事はとぎれない。

2010.10.06
 本日は昨日届いたSFJapanのゲラをやる。この話は本気で書き出したらとても長くなりそうなのだが、果たしてどこまで描き続けられるかは諸般の事情で分からない。本が売れなくなるかも知れないし、篠田がくたばるのが先かも知れないし。でもまあ、あんまり先の事を気にしても仕方がない。今の自分にやれることをコツコツやっていくだけ。
 散歩して戻ったらジャーロからメールの返事が来ていて、73枚でもOKだといわれたので、それ以上原稿を延ばさないように手入れをする。ふたつとも明日の内に送り出せるな。明後日は鮎川賞のパーティだし、そこで一息入れて次の仕事にかかる。

2010.10.05
 ジャーロ、73枚で一応切れ目。3枚の超過は許されるか。
 天気が辛うじて保っているので散歩。金木犀の香りに呼び止められる季節。コスモスもずいぶん咲いているが、最近はもっぱら黄色オレンジ色コスモスで、以前の白ピンクコスモスはちっとも見ない。不思議。

 読了本『May探偵プリコロ』 魔夜峰央 祥伝社 マンガである。そんでもってミステリである。本格である。篠田は魔夜さんはかなり昔から読んでいるというのは、証拠もあるぞ。『灰色の砦』の中で酔っぱらった少年がコックロビン音頭を踊る、という一節があるのだ。『パタリロ』はいまも続いているらしいが、主人公のパタリロが「あ、パパンがパン。だーれが殺したクックロビーン」といってクックロビン音頭を踊るんですね。で、読者は萩尾望都の『小鳥の巣』の名場面を思い出してウフフと笑うというくすぐり。
 ちなみに『灰色の砦』がクックロビンでなくコックロビンなのは、作中でコックロビンという実在した競走馬の名前が出てきて、それとの伏線になっているからなんでありますが、といっても、誰もそんな伏線は気づきやしませんでしたけどね。いじいじ。ま、それはともかく。
 ギャグマンガの『パタリロ』には本格ミステリおちがかなりあって、白泉社文庫では「パタリロ・ミステリーの巻」なんてのも出ています。有栖川さんが解説を書いてます。しかし『プリコロ』はギャグ控えめの本格ミステリ、主人公はちゃんと論理的に犯人を限定してみせる、ところが犯人は当たっているが推理はことごとく外れる、というのがお約束。これを聞いたときは、きっと主人公の推理はおバカ推理なのだろうと思ったのだが、それは違います。ちゃんとロジカル。どちらかというと、後でわかる真相より彼の推理の方が面白いというのが、ミステリマニアにはクスクス、ウフフでありましょう。というわけでこのマンガ、ディープな本格ファンほど琴線に触れるはずで、こういうマンガはぜひ「メフィスト」あたりに連載してもらいたいですなあ。
 ちなみに篠田は決してディープな本格ファンではないので、魔夜さんのデビュー時の絵柄、ビアズリーを思わせる黒ベタを多用したお耽美な絵が好きでありまして、本格ミステリに徹するべく余分なものをそぎ落とした今回の作風はちょっぴり残念、なのでした。

2010.10.04
 今回のジャーロは雑誌のキャパの関係で70枚くらいでといわれている。すでに50枚書いているのでもうちょっとだが、うまく切れ目がつけられるかどうかまだわからない。

読了本『なぎなた』 倉知淳 東京創元社 ノンシリーズ短編集だが、怪作ぞろいの『こめぐら』と違ってこちらはわりと普通の短編。死神みたいな刑事の出る倒叙もの、叙述トリック、猫ミステリ、若者のグループ探偵もの、最後の一行もの、翻訳ミステリ風警察小説、とまことにバラエティに富んでいる。その切れ味がいずれも微妙に甘い、というところも、なんていうか、倉知さんっぽい。
『ナチスから逃れたユダヤ人少女の上海日記』 ウルスラ・ベーコン 祥伝社 ドイツで何不自由ない生活をしていた少女と両親が、1939年父親がゲシュタポに連行されたことで、当時辛うじて渡航可能だった上海に難民として渡る。金目のものをまったく持ち出せぬまま、混沌の街に降り立った一家は、しかし持ち前の商才や技能を生かしてたつきの道を立て、生活を再建したものの、1943年日本軍の進駐とともにゲットー化した虹口に閉じこめられる。苦難の日々は日本の降伏によって終わり、親子三人は欠けることなくアメリカへ渡ることが出来たので、読後の印象は明るい。ユダヤ人のたくましさにも感動する。日本の敗戦が文字通り祝祭となるのは、日本人にとっては苦いけれどね。それと、彼らの親族でナチの弾圧にも「こんなことがいつまでも続くはずがない」と難民にならずに泰然としていた人々は、いずれも死んでいたというのが怖い。常識は「まさかこんなことが」と思うんだけど、ときにはその常識が通用しないことというのは起きるわけで、そうなった場合自分は逃げられるか。ダメだろうな。
『輝跡』 柴田よしき 講談社 書き下ろし。ひとりのプロ野球選手の軌跡を、彼の周辺にいた女性たちの視点から描いた連作短編みたいな長編小説。野球好きの柴田さんだけあって、とてもリアリティがあり、かついい意味で空前絶後、こういうのは柴田さんでないと書けないだろうな、と思った。

2010.10.03
 山梨に行って来た。初め笛吹川フルーツパークの上にある「ほったらかし温泉」で露天風呂に浸かる。残念ながら曇りなので富士山は根本しか見えず。それからフルーツパークの中を軽く散策して、塩山にある「和菜屋宴」というレストランへ。最近「いい旅夢気分」に登場したのだ。ランチは1500円で懐石風の凝ったおかず4品に黒米ごはん、おみおつけ、フルーツのついたアイスクリームとアイスコーヒーまでついた充実ぶり。
 腹をこなさないとというわけで、勝沼の「旧大日影トンネル」を見学に。使われなくなった古い煉瓦積みのトンネルというのは、最近公開されるところが増えてきて、碓氷峠なんかも見たので、さほど期待していなかったのだが、公開部分だけで1400メートル、片道30分近くかかるというのでびっくり。向こうの明るい出口も見える、とにかくまっすぐのトンネルで、明るくはないものの照明もあるから怖くはない。あそこに出口があるのに30分もかかるなんてありえる? と半信半疑で足を踏み出したが、疑ってはいけない。本当に30分近くかかった。ひたすらまっすぐなトンネルというのは、眺めても距離感が掴みにくいものなのだね。時を経た煉瓦の変色や風化が実に味わい深く、突然「この壁は表紙に使える」とひらめいて、ツレに「そんなことならもっとちゃんとしたカメラを持ってきたのに」とぶちぶちいわれるが、しょーがないじゃん。見てみないとわからないもん。
 宿は大菩薩峠の近くにある裂石温泉雲峰荘。高アルカリ泉で加熱はあるがかけ流し。部屋とか飾り気ゼロだが、素朴系の飯が美味いのと、ここでしか飲めない地元のワインがその料理にマッチして絶品なものだから、移り気の我が家にしては珍しくリピーター。玄関前には犬が複数いてこいつらがまたフレンドリーで可愛い。ばかでかい黒ラブとか、おとなしい柴犬とか。しかしネコと違って、犬は身体を舐めないからけっこう獣臭いね。
 翌日はまたたんまり犬をかわいがって犬臭くなりつつチェックアウト。勝沼で「ぶどうまつり」の開催日というので、車を走らせたが、朝10時からあまりの人出にびびって不戦敗。ぶどうの丘センターで有料試飲。ツレはドライバーだから、彼が目に付いたやつをせっせと飲まされ「どうだ」。大した量ではないと思うものの、こういう飲み方は。って、本来のテイスティングは口に入れて出してしまうもので、そのための容器もちゃんとあるんだけどね、そんなあなたもったいない。我が家の勝沼ワインのセレクトはずーっと昔から岩崎醸造と丸藤醸造なんだが、今回もやっぱりこの2メーカーがダントツに洗練されていて美味いと思いました。
 ここからは帰路。お昼を食べ損ねたので、一般道を帰って青梅街道に入り「沢ノ井」で湯葉入りの蕎麦を食べて純米酒を一本買い、青梅の山の中にある「コノハパン」てアップルシュトレーデルと紅茶をやってパンを買って、河辺で無農薬食品のポランによって帰宅。ああ、楽しかった。