←2010

2010.08.31
 最終章を書き出すにあたって、もう一度時間割を確認しようと思って書き出していったら、視点人物によって丸一日のズレがあることが判明。激しく焦りかつ落ち込む。しかし入稿した後で、校閲から指摘されたりしたら、そりゃもうどえりゃあ恥ずかしいこったよー。というわけで、自分で気が付いてまだ良かったがね、と己れを慰めるのだった。
 なぜか突然あんパンが作りたくなり、しかしスーパーで売っているあんこはやたら量が多い上に、もしもまずかったら嫌だよな、というわけで、小豆を買ってきて煮る。篠田は本来ガキの頃から辛党で、甘いものは苦手であった。どら焼きもあんこだけ母に食べてもらって皮を美味しくいただいたのである。カステラみたいなものは好きだったから。しかしうちの母はあんこ好きで、父が不在のときは「夕飯がおはぎ」というような悪逆不道な真似をしたこともあり、あんこは敵でありました。
 年取るにつれて少しずつ、あんこに対する忌避感は薄れていったのだが、自分であんこを作ったのは正真正銘これが初めて。いやあ、人間半世紀以上やってて、まだ初めてなんてことがちゃんとあるもんだねえ。ちなみにあんこはとても簡単に作れました。あんパンの出来は、明日食べるのでまだ不明。でも甘さは控えめであります。

2010.08.30
 諦めてエアコンを買い換えることにした。まあ、いまならエコポイントつくし〜。内需拡大に協力、ですかね。しかし有名メーカーは在庫無しで、決めたところのも一週間はかかる。そしていかれたといっても、前を開いて本体のスイッチを押し込むと、温度調節できない「自動運転」だけは出来るのである、いまのところはだけど。今日もスイッチを入れてみたらなぜか動いて「あら、早まったかな」と思ったら、1時間でばったり停まってしまったので、また本体をぶちっ。新しいのが来るまで、なんとかこれでしのげればいいのだが。
 仕事の方は399頁で、次の章がクライマックス。でもって、その後に長めのエピローグ。予想どおり450の手前では終わるだろう、という気がしてきたが、そのクライマックスはこれから考えるんだよーん。

2010.08.29
 まいったでよー。なんだというと、仕事場のエアコンがいかれてしまったのである。前から少々怪しい兆候はあったのだが、なぜかスイッチを入れたのに勝手に切れてしまう。昨日は仕事場に泊まったので、少し早めに寝て朝涼しい内に始動しましょうと思ったのだが、眠れないんだからどうしようもない。なんというか、はああ〜

2010.08.28
 本郷の立原道造記念館が閉館してしまうというので、友人のナミオカさんを誘って出かける。篠田は立原道造の詩がすごく好きというほどではないのだが、彼が生前自分のために建てるつもりだったバンガローのような、ヒアシンス・ハウスがかなり気に入っているのだった。彼は東京大学建築学科を卒業した若き建築家でもあったのである。結核で夭折してしまったが。
 記念館で彼の遺品やドローイングを見た後、電車を乗り継いで浦和の別所沼公園にあるヒアシンス・ハウスを訪問。これは立原が残した設計プランに基づいて、夢見たとおりの場所に実現されたもの。炎熱の日だったが、窓の多い小さな家の中は風が吹き抜けて意外なほど快適。こんな家が欲しいねえとつくづく思う。
 バスに目の前で行かれたので、てくてく歩いて旧中山道沿いの、古いお茶屋さんの倉にあるギャラリー喫茶楽風(らふ)へ。暑さに疲れた身体に茶カテキンがしみじみとしみ通る。近所の調神社(つきのみやじんじゃ)で、狛犬ならぬ狛兎を鑑賞して帰路へ。

2010.08.27
 朝の内は少し涼しいかなと思っていたのが、やっぱりダメだからエアコン、とスイッチを入れたら、なぜか動いたと思うと停まってしまう。主電源を切ったり、コンセントを挿し直したり、いろいろやるが全然改善されず、そのうち表示部が点灯しなくなってしまい、ゲー、壊れたかと焦る。一応説明書に書いてあった本体の中の「強制運転」スイッチを押すと、温度調節は出来ないがとにかく動くことは動くので、そのまま夕方まで使う。ツレが来ていろいろいじってたらなぜか直った。冷や汗もの。
 読了本『逆奏コンチェルト 奏の2』 徳間書店 イラスト先行競作小説アンソロジー。篠田が参加したのが前半で、こっちは後半。ジャンルとしてはSFとホラー。個人の短編集には収録しづらい作品だと思うので、それぞれの作家のファンは要チェックだと思われ。
 『イスタンブールから船に乗って』 澁澤幸子 新潮文庫 澁澤龍彦の妹さんでトルコ大好きな方の黒海沿岸旅行記。トルコに興味のある方は、他の本には登場しない東部の都市が出てくるのでお勧め。やはりどこの国でも田舎がいいなあと思う。

2010.08.26
 昨日も今日も朝からエアコン。原稿。本日で375頁。書いていて、キャラが自分でしゃべってくれたせりふが出てきて嬉しい。「あっ、そうか。へえ」とか思う。
 しかし今日はジム。+朝用のパンが無くなったので、ちょっと変わったことをしようと思って、食パン生地でレトルトのキーマカレーとゆで卵をまぜたものを包んで、フライパンで焼いて焼きカレーパンにしてみる。朝飯にはどうよという気もするんだけど、感じはそれらしく出来た。これに野沢菜の油炒めとか、つぶあんとか、お焼きのような具を包んでも美味そうだけど、水が出るものはダメだしな。
 ゴーヤ、また雌花が咲き出したが、あまり受粉させても結局大きくならないできゅうりみたいなのが出来てしまうので放置して様子を見ることにする。読者さんから「土は深い方がいいので用土の袋にそのまま植えるといいですよ」というお便りをいただいた。それは深いだろうけど、水はけはどうなんだろう。来年はもう一回り大きなプランタを用意して、土もきちんと作って三度目の正直をやるつもり。まあ、眺めたり、触ったりしているだけで気分転換になるし楽しいのよ。

2010.08.24
 いつもはエアコンもだいたい午後になってからつけ、それまでは風通しだけでがんばっていたのだが、今日は朝からつけずにはいられなかった。まあ、年寄り死んでるしね。中年も死ぬかもしれないし。
 しかし今日は仕事場を出ずに原稿。360を突破。400では終わらないな。450くらいでせめて。
 激辛数独のギブアップしていた問題がひとつ、するっと解けた。しかし他のとは全然解き方が違うんだもん。こりゃわかんねえってー。

2010.08.23
 暑いです。原稿書いてます。代わり映えなくてスイマセン。
 先日書いたように建築探偵ラストは来年1月刊行になったのだが、それに先だって12/6発売の次号メフィストに、冒頭部分の先行掲載+2頁のインタビュー+1頁の「もうひとつのあとがき」という、豪華絢爛(大げさな)な陣容と相成りましたので、ここにお知らせ申し上げます。こんなことはまずもって空前絶後なんで、皆様どうぞよろしく。

2010.08.22
 朝の内はちょいと涼しい。仕事場泊なので早めに始動。昨日買った安い桃を赤ワイン煮にし、朝飯用のパンとして胡桃とレーズンを入れたカンパーニュを焼く。といっても最近は、生地こねはもっぱら機械にやらせて、後は小さく分割して成形発酵焼きだけ。原稿に取り組むが途中でちょいと詰まったので散歩に行く。暑いがいくらか湿度が低い感じ。わしわしと天覧山の上まで上がって降りて、その間ずっと原稿の続きのことを考えているが、暑さのあまり最初の内思いついた「それいいじゃん」がいつか蒸発してわけわかんなくなっている。かなりやばいのであった。345頁は突破したが、全然終わる気配がない。ほんとに400で終わるのか、頼むからわしに聞かないでくれ。

2010.08.21
 昨日は打ち合わせがふたつ。ひとつは角川。東京創元社で出した『風信子の家』が角川に引き取られることになったので、そのゲラをざっと見て、新しい装丁を決める。校閲の基準というのは版元で違うし時期でも違う。「精神分裂病」「自閉症」がNGになったのは最近だが、少なくとも「精神分裂病」が「統合失調症」という名称に変更されたのは時期がはっきりしているので、篠田の小説のように作中時代が明記されている場合は「まだこのときはそのことばはない」という形で拒否出来る。「自閉症」を特に「自閉症みたいな」と比喩的に使うことは、確かに差別的なニュアンスを含んでいていいことではない、というのは理解出来るので、ここは削ることにする。
 後は池袋に出て時間つぶしは例によって書店。最近リブロは端末で在庫の有無と配架位置までが見られるようになったので、買うつもりで来た本を探すのは楽になった。あまり買いすぎないようにと思いながら、衝動買いも2冊。『昭和二十年夏、女たちの戦争』 梯久美子 角川書店 と、『上海に生きた日本人』 陳祖恩 大修館書店 他にも新聞の書評欄などでチェックして置いた本を買い、宅急便で送るほどの量ではなかったので、駅シェルパで頼む。これは西武線の主要駅で買った本を受け取れるサービスだが、午後の依頼は翌日の夕方6時以降というのが、いささか遅い気はする。
 講談社の担当との打ち合わせは、12月刊行予定だった建築探偵最終巻が、刊行点数の関係で1月刊に延ばして欲しいということ。どちらにしろ、こっちは9月末までに書き終えないと後の予定に支障を来すので、あまり関係はない。読者の方には申し訳ないが、作者のせいではないのでなにとぞ文句は講談社にいうて下さい。それからミステリーランドの『魔女の死んだ家』は、来年ノベルスに降ります。元本の形に大変愛着があるし、なんといっても宇山さんが最後に作ってくれた本だけど、建築探偵にも繋がっているのでこれはノベルスに入れてもらうべきものだと思う。
 それから、まだ書き上がってもいないのに気が早いが、最終巻はあとがきで「感想のお手紙を下さった方に作者手書きのお礼はがきを、オリジナルフォトカードでお送りします」という企画をやる予定。

読了本『からくりがたり』 西澤保彦 新潮社 ミステリとも怪談ともつかぬ不思議な読み味の連作短編集。物語はミステリの範疇に着地するとみせて、それでも溶け切れぬ謎が残る。これまでの西澤テイストがひとつに溶け合っている。ただエロティックな描写がやたらと多いので、そういうのが苦手な方はちょっと読みにくいかも。

2010.08.19
 今日はいまいち集中力が切れていてあまり進まず。担当から来たメールに「332頁」と書いてあったので、そんなに進んでいないのに、と焦る。向こうも目玉が夏ばてらしい。
 読了本『トッカン』 高殿円 早川書房 お仕事の中で苦闘しながら成長する女子の姿に、そのお仕事ならではのエピソードや専門知識を含めて読ませるお仕事成長小説というのは、ひとつのパターンとして存在するようだけど、税務署で取り立てをする徴収官というのは、たぶん小説の素材として取り上げられたことはないだろうと思われる。個性豊かな同僚や、同期の天敵女、どう考えても悪役じみた口の悪い上司など、脇役も定石通りの配置で、案の定苦戦苦闘のヒロインは涙にまみれつつ踏ん張り、踏みとどまり、上司も実はいい人だったりして、なかなかに予定調和なのだが、どうしてもヒロインに感情移入して「うんうん、良かったねえ」「これからも頑張ってね」といえないのは、やっぱり税金なんて仕方なく払うけど、払うことにちっとも嬉しくないからだと思います。えー、わかってますよ。だから払いますよ。脱税なんてしたくたってやり方が解らないし、そんなことで時間を食うのは嫌だから。でも、税務署員にだけは説教されたくないな、と思ってしまう、篠田はダメ人間ですか。

2010.08.18
 残っていたゴーヤ4つも育たないうちにきばみかけてきたので取ってしまう。いずれも50グラムから60グラムくらい。雌花が咲いたからって、全部受粉させるのが悪いのか。放置して成り行きに任せる方が正解なのかなあ。
 原稿322頁。

2010.08.17
 暑い。暑すぎる。死にそう。っていうか、脳死んでるしー。原稿牛歩。ゴーヤが育つ前に黄ばみかけたんで、あわてて収穫。どうも実が大きくならないのは、やはりプランタの限界でしょうか。来年は土から考えてみよう。ってそんなこと考えてる場合ですか。

2010.08.16
 311頁。神代先生の章を書き上げた。どんどんミステリから離れていく感じはあるんだが、こりゃもう仕方がないですだ。なるようになれ、行くところまで行けって感じ。

2010.08.15
 ゴーヤの雌花がふたつ咲いたが、雄花がひとつもない。これでは実が実りません。
 今日も仕事場泊。なんで午後より夕刻の方が蒸し暑く感じるんだろう。やっと300ページに到達。でもまだ全然終わらない(泣) あ、それから同人本に繋がるセリフは、読者に不親切だというのと、唐突っぽいというので、止めました。

 読了本『土曜日は灰色の馬』 恩田陸 晶文社 恩田さんの読書とマンガ、映画などに関するエッセイ。創作の源泉に触れる、恩田ファンなら必読かと。
 『コロンバイン銃乱射事件の真実』 デイヴ・カリン 河出書房新社 1999年にアメリカ、コロラド州の高校で起きたこの事件については、つい最近仕事場の書架にあった『そしてぼくは銃口を向けた』 飯塚真紀子 草思社 を再読して記憶を新たにしていたのだが、2000年刊行のこの本の時点ではまったく公開されていなかった資料、自殺した犯人の少年ふたりが残した日記やビデオ、周辺関係者の証言等をすべて踏まえて今回の本は書かれているので、印象が大きく異なる。特に犯人像については、従来いわれていた「いじめ」「悪魔崇拝」「ネオナチ」「スポーツマン嫌悪」などがほぼ完全に間違っていたことが明らかにされている。
 事件の前史、事件当日の生徒や教師、親たちの動き、事件以後の報道や捜査、訴訟、負傷者の治療といった多くのパーツが、情報カードをぶちまけて並べ直したように、時系列とは違った順で配置されているために、登場人物、関係者が非常に多いこともあって、いささか読みにくい、わかりにくいと感ずるところはある。しかし最終章は、事件に向かって計画を加速させていく犯人二人の状況を見せ、ついに殺戮から自殺に至る節と、数年後の後遺症を克服しつつある被害者や、なお癒し切れぬ苦しみを抱えながら生きていく遺族らの横顔を伝える節を交互に配置してスリリング。
 著者は犯人の片方、主犯格のエリックを、他人への共感性を著しく欠いたサイコパスとしていて、そこには一定の妥当性があるように思われる。だがやっぱり、銃器が簡単に手に入るアメリカ社会が問題だと思う。サイコパスが全員犯罪者になるわけではないし、自分の性格と折り合いをつけて生きていく者もたくさんいるということなので、そこを「どうにかする」のは弊害が大きい。エリックはとにかく大量殺戮、大量破壊、テロを指向して爆弾製造に血道を上げたが、ネットなどで得た知識程度では満足な時限爆弾は作れず、そちらは完全に失敗した。だからもしも銃が手に入らなければ、13人死亡23人負傷という結果も大きく変わったはずなのだ。
 ひるがえって日本を思えば、あの秋葉原事件の犯人など、もしも銃が手に入ればコロンバイン事件以上の大量被害者を生み出すことが可能だったろう。彼はサイコパスではないようだが、『そしてぼくは銃口を向けた』の中の死ななかった銃乱射少年のインタビューを読むと、自らを追いつめられた弱者と感じ、行動で示す以外無いという短絡した結論から無差別攻撃を起こすなど、似ているところがある。それが根本的な解決にはならないとは承知の上で銃の規制は有効な対策だろうと思う。でも、そこから先はどうするべきかというのは、日本の問題でもあるのだけど。

2010.08.14
 昨日はフリー編集者のM森さんが陣中見舞いに来てくれておしゃべり。たまに人が来てくれないと、掃除をしないのでひたすら仕事場が汚れてしまう。しかし頭がぼけていて、会話相手としてはいちまいちだったろうなあと反省。
 今日はまた仕事。最近エアロバイクを漕ぐ時間も惜しくて、運動不足が募ってまずいなとは思うものの、また今日も歩かず。296頁なり。数日神代さんの章を書いていて、またまた例によって「あら、こんなこと考えていたんですか、あなたは」みたいになっている。前のエピソードとの対応は、当然ながら公刊されているシリーズに準拠しているが、今回はどうしても入れたいという感じで、以前出した同人本『篠田真由美の秘密の本棚』に掲載した短編中のせりふを使ってしまった。でも、迷いながらである。残すか、消すべきか。いえ、京介が神代さんと差し向かいで酒を飲んでいて、酔った紛れに「神代さん、愛してます」と口走る、それだけなんですけどね。別に色っぽいシーンがあるわけではありません。まあ、普通は酔ってそんなこといわないと思いますが、なんといっても変人京介ですから。

2010.08.12
 ひたすら仕事。300ページ目前。

 読了本『攪乱者』 石持浅海 ジョイノベルス 社会を攪乱する無血テロを行うテロリストの細胞。問答無用で下される指令は奇妙で意味が分からない。その理由を解き明かす探偵役。つまらなくはないが、なんとなくヘンテコリンな読み味です。

2010.08.10
 えっと。暑いです。昨日は夕方友人と池袋の四川料理で、辛いのと餃子を食べる。後は仕事してました。明日はツレが友人と飲んでくるというので、めんどいからまた仕事場に泊まります。

 読了本『六とん4 一枚のとんかつ』 蘇部健一 講談社ノベルス うーん、なんというか。あとがきが面白かった(笑)
 『破滅の箱 トクソウ事件ファイル@』『再生の箱 トクソウ事件ファイルA』 牧野修 講談社ノベルス 牧野さんはときどきすんげえ毒のきつい小説を書くので、うわっ勘弁という感じになってしまうんだが、その毒をいい感じに抑え気味にしてくれると、ストーリー・テリングもキャラも抜群の極上のエンタメになる。これは後者の口でしたね。堪能したけど、おかげで仕事の手が止まっちゃったい。

2010.08.08
 昨日は地元の花火大会。近くの河川敷でちまちまっとやる。昔は板橋の花火大会に例年足を運んだ。ここはかなり大規模で、しかし土手の上にシートを広げて、友人たちと生ビールでわいわいやれて楽しかったのだが、いかんせん足が不便でもよりの駅から30分くらい歩くのと、人出が多いためにトイレが大行列で、座ってるのと同じくらいトイレに並んでいるようになったので、嫌気がさして止めてしまった。近所の花火大会は近いのがなにより。ただ、春は桜の花見がいい河原なので、木の枝越しの花火になっちゃう。いや、出遅れていい場所が取れなかった。その程度は混む。しかし花火というのも、毎年同じようでけっこういろいろと変わってくるものらしく、今年は小さな花火大会にふさわしい、高く打ち上げるより横から眺めるのがベストの花火もあった。下から火柱が上がって、そこに紅白の光の玉がふくらむ、みたいな。
 だがこの花火というやつは、見方を変えれば爆音に閃光に煙に火薬臭で、兵器と似たようなものなわけで、中東の人間が花火に興じることはまずないだろう。花火とわかっていても、嫌な記憶や恐怖感が湧いて我慢出来ないんじゃないか。そう考えると、花火にぱちぱち拍手を送れる日本は平和だな、と思うのだった。
 仕事は現在255ページまで。今夜は仕事場泊まり。夕飯には酒を飲まないこと。さもないとぐだぐだになっちゃう。後で寝る前に飲むけどね。

2010.08.06
 お籠もりを解いて久しぶりに東京。朝一で目黒の庭園美術館に「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」を見に行く。昔買ったバロックのレコードセットのジャケットがこの人で、当時は休みになるとそのレコードをかけたもの。だからその頃から有元の絵は篠田の中でバロック音楽と結びついている。漢字の単語でイメージを表すと静謐で閑雅。安井賞を受賞し若手のポープと称えられながら1985年に38歳の若さで世を去った画家の久々の展覧会だが、予想した以上に観覧者が多かった。年配の人ばかりだけど。でも庭園美術館という箱にも合っていたと思う。
 その後山手線で有楽町に出て、三井ビルの高橋コレクション日比谷というところで現代アート。三人展だが、篠田は山口晃さんのファンなので、それだけ見に行ったようなもの。山口さんは東京メトロのマナー広告とか、最近は本の装丁にもよく登場しているが、日本の伝統的絵巻物画法による緻密なメカ幻想建築幻想が、男の子の感性バクハツでなんとも楽しい。
 その後汐留のパナソニックミュージアムに、20世紀陶芸の革新ハンス・コパー展を見る。これは人に勧められていったので、全然知らなかったんだけど、少しだけ知っていた女性陶芸家ルーシー・リーと共同製作をするところから陶芸家の経歴を始めたドイツ生まれのユダヤ人で、作品は、形態は違うがマチエールは日本の民芸を連想させる。
 その後7丁目ライオンでエビスの生を飲んで帰宅。今日は一日仕事お休み。

2010.08.05
 今日はジムの日なので、原稿はあんまり進まなかったが、でもまあ順調。中盤の展開もどうにか見えてきた感じがある。なので明日は都内の美術館を3カ所まとめて巡ってきます。

2010.08.04
 あ、暑いっす。あんまり暑いんでよるもちゃんと寝た気がせず、朝はぴっかり太陽にたたき起こされ、とうとう一日中エアコンが消せなんだ。原稿は235頁。今日書いたのはミハルとアヤノが差し向かいでパスタを食べるというシーンで、ラブラブってわけじゃないけどわりかしいいムード。と思ったら、いきなりアヤノの悲しい過去が浮上して作者もビックリ。なんで書いてる人間がビックリするんだって、バカでしょう? 自分もバカだって思う。でもちゃんと筋が通って、伏線にもなる回答が向こうからやってきたんだから、驚くよ。篠田いまさら決めました。ミハルの将来。
 読了本『桃色東京塔』 柴田よしき 文藝春秋 東京で刑事やっているノンキャリの若おっさんと、限界集落的過疎村でやはり刑事をやっている同じ警察官の夫に殉職されたまだ20代の女性の、ラブストーリー。ヒロインのプライヴェートにおける事件遭遇率が高すぎる、というのがリアリティにとっての瑕瑾だが、こういう男と女の機微に社会のきしみを重ね合わせる手際というのは、もう柴田さんの名人芸だ。ふたりの関係をどう持っていくかが恋愛ものの〆には一番気になるが、その締め方もとてもよい。
 『白川郷 濡髪家の殺人』 吉村達也 講談社ノベルス 量産作家だと思って侮ると、ときどきヒョッという拾いものがあるよ、という感じの作者だが、これは拾わなくてよし。家が人を殺したというので、物理トリックを期待したら馬鹿を見るし、クビキリの理由は「ここは笑うところかしら」と迷うしかない。屋根の上でささらを鳴らしながらこきりこを歌うおばさん。笑ったらいかんのか。脱力するしかないか。

2010.08.02
 仕事場は東向きで天気がよい夏など日差しで嫌でも目が覚めるのだが、今日は6時過ぎに起きると薄暗い。これだけ曇りなら涼しいだろうと外に出てみたら、とんでもなく生ぬるい湿気に満ちている。午前中はけっこう雨が降ったが、降っている最中でもちっとも涼しくなく、お湯が降っているみたいな感じ。さすがにダメで午後からはエアコンをつけた。
 しかし今回は書くことがかなり固まっていたので、かなり真面目に頑張って215頁に到達。半分来た、かな? この章のラストでは神代先生とモイラが**した。前から書きたかったシーンなので、取り敢えずそこが無事に出せて良かったが、読者的には誰も喜ばないだろうなあ。なにせモイラ、評判悪かったし。作者はとても好きなんですよ、悪女。それも子供の悪女で、頭はいいけどブスで、その自覚があるキャラというのは、わりに珍しいんではないかしらん。
 明日は連れ合いが夜留守なので、面倒だから篠田はまた仕事場に泊まってきます。次の章の登場人物は、ミハルとアヤノであります。

 読了本『あなたに贈る×(キス)』 近藤史恵 理論社ミステリーYA! キスによってのみ伝染する死亡率100%の脳炎が発見され、キスが違法化された近未来社会の全寮制高校を舞台にした、サスペンス・ラブストーリーとでも申しますか。こういう作品を読むと、つくづく自分は女じゃないし、女だったこともないよなあ、と痛感させられてしまう。異国の物語なんですね。自分には絶対書けない。でも、多くの女性が心からの共感とともにこれを読むことでしょう。いかにも近藤さんらしい、美しく、エロティックで、残酷な物語。装丁がまた内容にぴったりで、愛らしい花束を収めた小箱のようで、実によい。こういう本を送り出すことが、電子書籍万能論に対する紙の本支持者側からの回答になると思う。
 『かいぶつのまち』 水生大海 原書房 第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作家の第二作。受賞作の登場人物と設定をそのまま生かしているので、前作を読んでいない篠田にはいまひとつキャラのイメージがピンと来ない恨みがある。しかし文章は達者でキャラ立ちはよく書き分けも確か。ただ、高校演劇がメインの話なのだが、そこに登場する作中戯曲、前作からの主人公が書いた作品というのが、ちっとも面白くないというか、はっきりいってどうしようもなくつまらない。プロットにもかなり無理があるし、クライマックスの犯人を追いつめる場面も無理が過ぎて盛り上がるどころかどっちらける。受賞作はもっと面白かったのかも知れないが、わざわざ読まなくてもいいやという感じ。