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2008.11.30
 北斗学園70頁まで。ぜいぜい。明日はまた外出。

 読了本『ポー・シャドウ』 アルコール中毒の汚名を着せられ不遇の死に見舞われたポーの名誉を回復させようとして、単身謎めいた死の周辺を探ろうとする青年弁護士がたどる冒険、というとかっこいいみたいだが、この主人公が馬鹿丸出しなので全然感情移入できない。ポーの崇拝者なのはいいが、見るからに信用のおけない新聞の切り抜き一枚で、デュパンのモデルになった名探偵がいると信じ込み、彼を発見して謎を解いてもらおうとパリに渡る、という発想方法からして、せいぜい10代前半くらいの子供の考えでしょう。あなた、どういう作品の読み方をしていたのと聞きたくなる。やること全てがこの調子で子供っぽく、仕事を放り出し、恋人を放置し、途中悪漢の情婦によろめいたり、勝手に猪突猛進して殺人犯にされかけたり。それが最後には単なる幸運で、仕事にも戻れ、彼女も帰ってきて、めでたしめでたしとなるんだから超しょうもない。

2008.11.29
 一昨日の早朝、隣のベッドで寝ているつれあいがいきなり「うわっ」と声を上げる。「どうした」と聞くと恥ずかしそうに「夢見た」というのだが、その声には明らかに恐怖の響きがあった。いったいこの男は胸にどんな秘密を秘めているのかと、あまりよくない意味で胸がどきどきしてしまう。君は火村か。
 朝になっておそるおそる「どんな夢だったの」と聞くと「ガス台のところにカメの集団がぞろぞろ」という。人を殺したとかそういうのではないとわかって、少し安心し、かつなかなかシュールな悪夢じゃないかと感心していたのだが、さらに良く聞いてみると、カメはカメでもカメムシだということが判明。シュールでもなんでもない、単にドメスティックな悪夢じゃねえかっ。つまんないことで寝言なんかいうんじゃねえっ。

2008.11.27
 明日姉の所へ持って行くつもりで干しぶどうとクルミ入りのパン・ド・カンパーニュを焼くが、手順を間違えて出来がいまいちなので、急遽もう一度作り直す。今度はまあまあか。あとはジムに行くまで仕事。北斗学園60頁まで。明日はまた外出。

2008.11.26
 今日は理論社の担当を誘って、上野の西洋美術館にデンマークの画家ハンマースホイの展覧会を見に行く。全然日本では知られていない画家だと思うのだが、案外たくさん観覧者はいた。室内画が多いのでフェルメールなんかと引き比べられるらしいが、色盲じゃないかといいたくなるくらいモノクロに近い、そして精神に病を抱えていたんじゃないかと勘ぐりたくなるような暗い雰囲気の絵ばかり描いた人で、1枚2枚見ている分にはわりときれいだな、とか静謐で詩的だなとか思えるのだが、それをずーっと見ていくとだんだんホラーな気分になってきてしまう。自宅の室内を、奥さんを入れて執拗に描いているのだが、その奥さんがほとんど後ろ向きだったり、閉ざされたドアの枠が微妙にゆがんでいたり、根深く病んだムードがある。嫌いじゃないけどね。装幀に使ってみたいような、あるいはこの絵をモチーフに怖い幻想短編を書いてみたいような。本格ミステリではないですね。やっぱ幻想ホラーですかね。絵を見るたびに後ろを向いている女が徐々に振り返るとか、閉じていたドアが少しずつ開いていくとか、ドアを開けて後ろ姿の女を追いかけるが、ちっとも追いつけずにいつも後ろ姿しか見えない。で、ふっと見失ったと思うと真後ろに足音が、とか。人の気配はするのに住人が見つからない家の中を、失った記憶を求めてさまよい歩くとか。

2008.11.25
 昨日書いたのを読み返して赤を入れ、清書。52頁となる。なんか今までに比べると、微妙にテンポが鈍い気がする。北斗学園の設定そのものが、巻を重ねるたびにどんどん重層して複雑になっていく感じなのだ。それはそれで当然のことなのだが、当初のシンプルな子供向けらしさはどうしても薄らいできてしまう。しかし篠田はサザエさんタイプの物語は書けないのだ。ならばあまり長くするのもどうかな、という気がしてくる。まあ、これを書き終えてから考えるとしよう。

2008.11.24
 今日は天気も悪いので、一日仕事場から一歩も出ずにパソコンに向かっていたら、途中30分エアロバイクをこいだけど、それでも夕方で5000歩も歩いていない。血圧も上がってしまって体調悪し。こんなことでは元気な北斗学園の連中を書くのもおぼつかない。でもまあ50頁まで。

 読了本『寒椿ゆれる』 近藤史恵 光文社 捕物帖。このシリーズは雰囲気が良くて好き。朴念仁な主人公の同心がとてもいい味を出している。今回は彼の婚約者として、おろくという個性的な女性キャラが登場し、これがまたなかなかに魅力的な女性だったのだが・・・

2008.11.23
 昨日作った鳥軟骨つくねは、胸肉を使ったのでややぱさついた。今度はもも肉でやってみよう。パンはしっとりとした焼き上がりなので、トーストにすると美味なり。
 北斗学園32頁まで。シリーズが重なると、「前のことの説明」がやっかいになってくる。

2008.11.22
 龍のあとがきを書いて、下巻の原稿データとともに送稿。他に今日やったことは、数独と、白神こだま酵母で食パンを作ることと、鳥の軟骨をフードプロセッサでひいてつくねにするのと、それからやっと少しだけ北斗学園を書き進める。忙しいと思うと料理をしたくなる、という我ながらへそ曲がりな性癖なり。

2008.11.21
 どうせ出かけなくてはならないなら天気のいい日にしようというので、医者に行く。血圧が高め。降圧剤を増やす。不眠も高血圧のせいかもしれない。更年期障害の一番一般的な症状、のぼせとか動悸とかは全然出ないのだが。
 これで当面の出かける用事は済んだので、明日からみっちり理論社をやろうと思ったが、もうひとつ別の仕事があった。龍のラストノベルスにあとがきを書かなくてはならない。あんまり思い残すところはないくらいに書いてしまって、書いてからずいぶん時間が経っているので、話題に困りそうだ。

2008.11.20
 ジムに行く以外は原稿。北斗学園14頁まで。不眠が募って頭がぼけているが、それでも仕事はする。

 昨日会った友人はサウジアラビアからドレスを個人輸入しているのだそうだ。サウジはイスラムの宗主国だから、女は外出時真っ黒クロスケなチャドルで全身を隠さなくてはならない。しかしその下はかなり派手なドレスだったり、逆にジーンズにTシャツだったりするそうで、しかも自分は見られずに他人、まあ男だね、を観察することが可能。つまり男の欲望の視線からは自由になれる、という逆説的な事態もあるわけで、それが考えてみるとなかなか面白い。だって考えてみてよ。ブスだ、ババアだ、デブだっていう、差別だけはチャドルの着用で消滅するよ。
 それなら、強制されるのじゃなかったらチャドル、いいかも。でも日本でチャドル着ることは許されないよね。モロ不審人物だし、コンビニには立ち入りを許されないでしょう。強盗の変装か、あの布の下になにを隠し持ってるかってことになりかねない。

2008.11.19
 二日続けて外出。今月はとにかく予定が多い。明日はジムだし、医者も行かないとならないし、しかし来週は理論社の編集と会うので、それまでに少しは原稿を進めておかないとならない。というわけで、今週末は頑張りませんと。

2008.11.18
 久しぶりに銀座に出て、若菜でお漬け物、伊東屋で卓上カレンダー、木村屋であんパン。友人と会ってキャノンサロンでヴェネツィアの写真展。ミステリの表紙にしたいようなミステリアスな夜霧が素敵でした。

 読了本『まいなす』 太田忠司 理論社ミステリーYA! 最初ヒロインの性格がちょっと共感しづらくて、「ああ、なんかうざったい子だな」と思いながら読んでいくのだが、ちゃんとすべてが物語に繋がって、必然性があって、落ち着くべき所に落ち着く。太田さんは小説が上手い。しかしここのシリーズは、男性作家が女性主人公を描く、というのが妙に多い気がする。篠田は逆だけど。数えてみようかな。
 『明日という過去に』 連城三紀彦 幻冬舎文庫 これも男性作家が女性主人公を描く書簡体ミステリ。小説が上手い作者だというのはわかるが、篠田はつくづく恋愛ものが苦手なのだな。女と男、女と女の情念のもつれ、みたいなものがキモチワルイ。生理的にダメでした。

2008.11.17
 スタバに行って理論社のプロットを練り、とにもかくにも書き出す。このシリーズは、プロローグは少し本編とはトーンが違った過去のシーンを入れることにしているので、そこらはちょいと書きづらいところでもある。本編が始まるといつもの連中が登場することになっているので、そうしたらもうちょい快調に進むだろうというか、進んでくれというか。
 読了本『大相撲殺人事件』 小森健太朗 文春文庫 怪作とかねてより聞き及んでいたミステリが文庫化されたのだが、家の近所の本屋では見つからなくて、池袋でようやく入手。うん、ほんとに怪作だった。トリック的には最初の「土俵爆殺事件」が、面白かったっす。ただし、真面目なミステリ読みの方は読むと怒るかもね。

2008.11.16
 昨日は雑誌「東京人」に載っていた、新鮮で美味しい野菜が食べられる店、練馬区大泉町のLa毛利というレストランに行った。大泉学園だというから、駅から歩いていけるのかと思ったら、たまげたことに歩けば40分。どこの駅から行っても同じくらいかかる。住宅街と畑の中らしい。真っ暗で畑はほとんど見えなかったから、肥料臭さで推測。土曜の夜だったというせいもあるのだろうが、予約で満席。概して味は良く、盛りもとても良く、メインに関しては肉料理二品にしなくて良かった。食べきれなかった可能性があるというくらい。自家製のパンも秀逸。さすがに不便な場所で頑張っているだけのことはある。日本のレストランというのは、「場所がいいと他の点が平気で落ちる」というケースが非常に多い。営業努力しないでも客が入るから、堕落するんだろうね。多少の問題はサーブする女性たちがほぼまったくの素人だということ。真面目にやってはいるんだけど、ビールが飲み終わらないうちにワインを持ってきてしまうのはいくらなんでも、でした。
 今日は12月刊の『紅薔薇伝綺』文庫版の再校ゲラを戻した後、理論社のプロットねり。

2008.11.14
 都内某所湾岸付近で知り合った年若い友人と仕事場近くにハイキングに行く。天候上々。途中その友人との間に、仕事がらみで共通の知り合いがいることが判明。「世間は狭いですなあ」と呆れるが妙に納得もしたりして。山頂で日本酒をやりながら紅葉と青空を愛でる。山を下りて仕事場で趣味の歓談。
 明日は篠田の誕生日なのでちょいと外出。今後外出予定が重なるのだが、はいはい、真面目に仕事も致しますだよ。

2008.11.13
 昨日は軽い睡眠薬を半錠服用。少しぼけるけど不眠よりはましか。
 長編小説を書く作業は、何に似ているかといえばトンネル掘りに似ている。それもノミと金槌を両手に持って人力で岩をほりくずしているイメージ。だが、書き出す前の状況が何に似ているかといえば、今日忽然として思いついた。ドジョウすくいに似ていますね。あの、にょろ、にょろ、にょろにょろにょろ、としたやつを、なんとか捕まえようと悪戦苦闘するのが物書きの書き出し前状態。プロット、イメージ、ことばの一言半句。いたかと思えば指の間をするすると。
 そんなこんなで苦吟しているところに、理論社様から読者カードのコピーがどさどさっ。温かい励ましというか、プレッシャーというか。でも、11歳や12歳の読者から「おもしろいです」といってもらえると、いい歳こいたおばはん物書きは、有り難くてつい涙さしぐんでしまいますわ。

2008.11.12
 どうにも不眠が募ってきてしまって、朝から頭がちゃんと働かない。だらっとして読書や数独に逃げかかるのを何度も追いかけて連れ戻して、どうにか理論社の新作のプロットを考え始める。しかし半年前に考えていたことは、ほとんど頭から消えていて、自分で書いたメモを読み返してもちっともぴんと来ないんだから困ったものだ。

2008.11.11
 ゲラは、表紙のデザインのための写真データを同封するために、送るのは明日にして、今日は仕事場の片づけ。ひとつ長編を書き終えると、資料の大移動。本棚に収めるべきは収め、ダンボールに詰めるものは詰めて、次の仕事のために蓄積してあった箱を引っ張り出す。
 しかし今日は週末に友人が来るので掃除をし、ついでに冬物衣類を取り出して入れ替える作業もした。しかしなんだか、長袖一枚で快適、という時期がほとんどなかったような気がする。気がついたらもう、セーターや、暖かい衣類を考えることに。

2008.11.10
 昨日よりいくらか暖かくてほっとする。西武ライオンズが優勝したので、西武鉄道にお世話になる地域住民にも少しだけ恩恵がある。どんな恩恵かというと、レオの焼き印つきどら焼き1個(大笑)。もちろんしっかり行列していただいて帰りました。ゲラのチェックをデータと手元のプリントアウトに転記。明日は送り返せる。ちょっとだけ休んで、理論社だ!!

2008.11.09
 朝から低く雲がたれ込めて何とも陰鬱な天気。こういうときは別に病気でなくても、気分が鬱っぽくなってしまう。校閲のゲラをチェック。非常にストレスフル。人間がやることである以上、上手下手はあって当然だが、どうも最近校閲者の質が落ちているような気がするのは、単にこちらが年を食って頑迷になっているためか。でも以前も講談社で、『アベラシオン』だったけど、どう考えても校閲が変だとしか思えず、突っ返して最初からやりなおしてもらったことがある。今回もいささかそんなところあり。やっているうちに頭が痛くなってきて、これは絶対に血圧が上がっているぞと思うが、こんな嫌なものを明日に持ち越したくないので、とにかく最後まで見終えてしまう。最後の最後でまた変な鉛筆があって、思わず失笑。ああやだやだ。こんなもの、さっさと送り返して、理論社の長編を考えよう。

2008.11.08
 朝メールボックスを開くと、校閲を通った建築探偵のゲラが夕方に届くという。昨日書き上げた短編を持ってスタバに行き、赤を入れて持ち帰り訂正して送稿。手紙の返事一本。それから数独なんかやってないで本を読もうと、古本祭りで買ってきた久世光彦の『蝶とヒットラー』を手に取ったところで宅急便が来るが、どうせいまから始めてもいくらも進まないだろうと思って読書してしまう。明日は朝からゲラをやろう。

2008.11.07
 ようやく異形の短編を書き終える。40枚足らずの作品にこんなに時間がかかっちゃああかんのう。しかしひとつ終わったと思うとグダグダで、あとは辻先生のミステリを読んだり、数独をやったりして一日終えてしまう。

 読了本『びっくり館の殺人』 綾辻行人 講談社ノベルス 正確には作品は再読もしてない。ノベルス版特典としてラストに袋とじで綾辻氏と道尾秀介氏の対談が収録されていて、これがとても面白かったので、ここに書いておくことにした。通常の解説や評論では、ネタバレ注意報が出されていても、やはり作品の肝を念入りに分析することは遠慮してしまうもの。だがこれは袋とじだし、著者自身が肝の部分を事細かに語り、それにまた熱烈な綾辻愛読者である道尾氏が的確な合いの手を入れるという、まことに希有な対談になっている。この対談のためにも、ミステリーランドの元本をお持ちの方も買っていいのじゃないかと思った次第。

2008.11.06
 ジムに行くまでの間に、ライ麦パンを仕込んで少し異形コレクション。あとは〆をちゃんと書けば終わる。相変わらず不眠気味でぼけ気味。あと10日で55歳の誕生日だが、更年期というのはいつ終わるのでせう。始まるのが遅かったから終わるのも遅いのかなー。

2008.11.05
 通販で新書用の本棚を買った。ノベルスを入れるわけではなく、資料として使う場合が多い岩波新書とかああいうのを入れて仕事場に置くつもりで。ところがこれ、ちょっと横幅が広いのは収まらないのだ。講談社ブルーバックスとか、0.5センチ広いのです。なかなかに悩ましい。
 今日は買い物とか郵便局とか銀行とかばたばたやって、夕方になってやっと異形コレクションの書きかけ短編に戻る。しばらく間が開いてしまったので、気持ちが戻るのに時間がかかる。なんとかこいつは今週中にやり終えて、建築探偵のゲラを迎え撃って、それからいい加減理論社に・・・

2008.11.04
 昨日は講談社ミステリーランド25巻目刊行記念パーティというのがあって、25巻目は菊地秀行さんだというから、もしかしたらその本がもらえるのかなと思ったら、まだゲラでした。しかし執筆者のほとんどが出席していて、西澤保彦さんなんかともすごく久しぶりにお会いする。内田康夫さんが来ていて、宇山さんは彼にも依頼をしていたというのでびっくり。ずらりと並んだ本を前に、写真の宇山さんの顔がなんだか得意そうに見えた。
 出かけた翌日はたいてい使い物にならないんだけど、今日は徳間のSFジャパンのインタビューゲラを返送してから沈没する。西澤さんの新刊を読み、久しぶりに数独したりして休息。だがそうしているとふーっとまた宇山さんのことが思い出され、なんとなく泣きたい気分になってきてしまう。自分の親が死んだよりよほど悲しいのだから、我ながら薄情な人間だ。

 読了本『スナッチ』 西澤保彦 光文社 帯の文句を読むと北村薫さんの『スキップ』みたいだが、全然別の話なのでそのへん間違えないように。ひさびさのSF設定ミステリ。講談社ノベルスで連発されていた頃の外連味が薄れて、情緒的な書き込みが深まり、ミステリ読みには物足らないかも知れないが、小説としては確実に完成度が増していると思う。

2008.11.02
 三日かけて『黒影の館』のゲラを読み終え、細部の訂正をする。まだ書き上げた記憶が生々しくて、いわば、血は止まっているが腫れ上がった傷という感じで、全然冷静に見られない。でも校閲を通したゲラが来るまでは後一週間くらいはあるので、それまでに少しでも頭が冷えることを祈る。

2008.11.01
 建築探偵のゲラ読み続行。先の予定が詰まっているので、あんまりのんびりした気分にはなれない。以前より仕事の手が遅くなったので、忙し感はむしろ強くてしんどい。