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2008.10.31
 朝から神保町の古本祭りへ。そんな高い本は買わない。でも次の次あたりに書くもののための資料には手を伸ばす。ああ、それにしても増える一方の積ン読本よ・・・

2008.10.30
 スティーブン・キング原作のホラー映画の試写会は行きたかったけど、結局時間切れ。今日はジムの予定だった。祥伝社のゲラは戻したし、異形コレクションは締め切りが延びたので、早くもゲラの届いた『黒影の館』を読み返しながら赤を入れることにする。これはまだ校閲は入っていない。校閲の鉛筆(文字遣いやことばの誤りから内容の矛盾点まで、いろいろと鉛筆が入るんである)が入ると、どうしてもそっちに気を取られて自分としてのチェックが出来ないので、書き下ろしに関しては先に白いゲラをもらうことにしている。
 それと一緒にまたパン作り。今日はライ麦をたくさん入れた田舎パンを焼くぞと宣言して仕事場に来たのだが、テキストを見るとライ麦に水を入れて一晩吸水させるとあり、ありゃりゃ。それでは夕飯に間に合わないので、出来ないことはあるまいと一時間程度で作ってしまう。いい加減なのだ。それでもまあ、見たところはむらにもならずちゃんと焼き上がったよ。そろそろ室温では発酵がおぼつかないので、オーブンと電気マットを併用する。ほんのりあたたか、の設定が出来るマットなので、こういう場合は使いやすい。
 明日は神田古本祭りを覗きに行く予定。

2008.10.29
 朝から出かけた。近場で青梅線の御嶽。渓谷をちょっとだけ歩いて、沢井の酒造で酒蔵見学。昼酒を飲む。ここらへんでは紅葉にはかなり早かったが、シーズンになったらどうせやたら混むことになるから。天気もまあまあで寒すぎず暑すぎず。水のきれいな川を愛でながらの、冷や酒はつくづく美味い。さて、明日はジムだがもちろんその前に仕事するよ。

2008.10.28
 今日も朝から秋晴れ。こんないい天気を逃がしてなるものかという気分になり、なんとか仕事を片づけて明日は出かけようとしゃかりきになる。祥伝社文庫のゲラチェックを根性で終わらせた。郵便局に古本の代金を払い込みにいき、ぐるっと遠回りして帰る。半端な田舎だが空が青いと道ばたの雑草すら美しい。アキノキリンソウの黄色、コスモスの赤紫、ハナミズキの実の真っ赤。そのへんにからんでいたカラスウリの朱色の実を、蔓ごと外して持ち帰り仕事場に飾る。戻って文庫用のあとがきを書く。『紅薔薇伝綺』は自作の中ではわりと好きな方の作品だ。
 シンプルレシピのリンゴパイを作る。練りパイの皮に櫛形のリンゴを並べ、卵と牛乳のソースを流して200度で50分。しかしソースが余ったのでスフレ型に入れてソースだけ焼く。かさっと軽く乾いた感じに焼けた。砂糖はレシピの半分しか入れなかったので、甘さ控えめ、リンゴとバターの味のするパイになり、粉砂糖もかけない。うちはふたりともこういうのが好き。シェリーを飲みながら食す。急にパンやパイ作りの腕が上がったような気がするのは、新しいオーブンの性能がいいかららしい。

2008.10.27
 今日は晴れたがもちろん仕事。でも仕事だけだとわびしいので、夕飯用のパンを焼くことにする。前はオーブンレンジのオーブン機能が物足りなくて別途デロンギの電気オーブンを買ったのだが、これが庫内が小さくていまいち。しかし古いオーブンレンジがぶっ壊れて、無印のオーブンレンジを新調したところ、これがなかなかいい感じ。デロンギのオーブン、要らなくなっちまった。困ったな。
 午前中に『永遠なる神の都』の最終回ゲラを返送。午後から『紅薔薇伝綺』のチェックに入る。

2008.10.26
 ぱっとしないお天気である。SFジャパン新連載の再校ゲラをチェック。返事をメールで送る。それから龍ローマ編の最終回ゲラをチェック。今回は少し長いので、明日に持ち越し。でも明日には送れるだろう。そうしたらすぐに12月に出る文庫の『紅薔薇伝綺』のゲラを見て、29中に終われば映画の試写会に行ける。終わらなかったら諦める。30中に終われば神田古本市に行ける。これまた終わらなかったら諦める、と。

2008.10.25
 今日は北浦和の埼玉県立近代美術館に、アーツ・アンド・クラフツの展示を見に行く。昨日のミレイと同じラファエル前派の流れにあるウィリアム・モリスからマッキントッシュ、ライトまで、テキスタイルや家具を中心に。しかし昨日のブンカムラと違って、呆れるほど空いている。都心でやったらきっと押すな押すなだっろうにと思うといささか気の毒。こっちはのんびり見られて良かったけど。
 浦和に出て、ひいきのイタリアンでランチをして、お茶屋さんが倉でやっているギャラリーに寄って、美味しいほうじ茶を飲んで帰った。昨日から久世光彦の小説を読んでいて、その中に出てきたほうじ茶がやけに美味しそうだったので、注文したくなったんであります。
 帰ったらゲラが来ていて、さあ、明日からまた真面目にお仕事。時間を作って神保町の古本祭りを覗きに行きたいしね。

2008.10.24
 今日は雨だったが友人と約束していたので外出。最初田町の建築会館で現代建築の模型の展示を見る。興味の範囲外なので、まあ普通に面白い。大学の文化祭のノリだった。その後渋谷に出て、ブンカムラでミレイの展覧会。終了間近のせいかやたら混んでいた。ポエム雑誌の挿絵のような、色がきれいで適当に甘美で感傷的な絵が並んでいる。「オフィーリア」も写真の印象よりはずっと色味が明るく、悲劇性は乏しいのが予想とは違っていて意外だった。帰りは新宿の製菓材料店に行く友人につきあって、こちらもライ麦粉と全粒粉、クルミ、レーズンを購入。前から探していたパート・フィロが売っていたので、今度トルコ菓子のヴァクラワを作ってみるぞ。
 帰ってきたら異形コレクションの刊行が来年1月に延びて、締め切りも延びたというメールが来ていた。これなら月末締め切りの祥伝社のゲラを先にチェック出来るので、ちょっとほっとする。ずーっと建築探偵にかかりきりで他のことをうっちゃってきたので、11月にはいろいろ雑用も片づけたいし、本も読みたいのだ。

2008.10.23
 昨日のパンはトルコの胡麻つきパン、シミットみたいなもっちりした食感で、非常に美味しかった。異形コレクションから先月依頼をもらっていて、保留にしてもらっていたのだが、建築探偵が終わったところで「なにか」と考えてもアイディアが全然まとまらない。そんなに短くまとまりそうもないものばかりで、時間が足らないのだ。それがようやくひとつ、あまり時間をかけないで書けそうなネタが見つかり、まだ少し待ってもらえるというので書くことにした。月末までにゲラが二本あるので、おちおちしてはいられないのだが・・・

2008.10.22
 最低限の手直しをしてメール送稿。その後夕飯用のパンを作る。白ごまたっぷり牛乳練りのハードパン。あとは頭が干上がっていてなにも出来ず。

2008.10.21
 建築探偵の入稿は今週中ならOKだというので、今日は一日休むことにする。仕事場に散乱した資料本を取りまとめて、本棚に戻すものは戻し、まだ校閲などの関係で必要になるかもしれないものはダンボールに入れて部屋の横に移動する。どかした下の床にたまった埃やゴミを掃除機で吸い取る。いくらか部屋の中がすっきりした。
 午後から近くを散歩。ハイキングコースの手前だけをさらっと歩いて、駅まで歩く。書店によって立ち読みをして、一冊新書を買って帰宅。『親子という病』 香山リカ 講談社現代新書 建築探偵では親子や家族をテーマに扱うことが多い。意識してというより、家、広い意味での住宅がモチーフになると、必然的にその家に住む家族の葛藤が物語を形作ることになるのだと思う。そして意識しなくても、そこには自分の親子関係がそのままや反対像として投影されることになるようだ。
 健全な親子関係なんてものはない、すべての親子は「親子病」という病気にかかっている、という著者の指摘はまことに端的。しかしいろんな事例を読んでいると、自分の死んだ両親はそう悪い親でもなかったようだな、といまさらのように思う。少なくとも私にはあまり干渉しなかった。たぶん子供にはそんなに興味がなかったのだと思う。おかげで愛されたという実感には乏しいが、その分こちらもさほど愛せなかったことに罪の意識が薄い。しかもすでにお亡くなりになっているので、やっかいなこともない。親に愛されなかった、望まれて生まれてこなかった、という怨念を40や50になってまだ引きずっている人がけっこういるらしいが、そういうのっていまいちわからん。成人したら親の過剰な愛なんて、うざいだけじゃないすか? いや、私が冷血なだけなのかもしれませんがねー。

2008.10.20
 一応ラストまで手入れをして、もう脳みそがしびれた状態でなにもする気力なし。それでもまだ少し時間があったので、南雲堂の「本格ミステリーワールド」と原書房の「本格ミステリベスト10」、それぞれのアンケートというか、来年の仕事予定などを書くコーナーの執筆をしてメールで送稿する。
 建築探偵を無事に書き終えられれば、自分にとってひとつのけじめがついてまたなにか、新しいことが出来るのではないかという気がする。徳間書店SFジャパンの新連載は、そういう意味では篠田の原点回帰と同時に次のステップに向かう新しい試みであるのかも知れない。

2008.10.19
 建築探偵のチェック作業。回収できていない伏線があちこち見つかり、その手当がまだ少しかかる。明日の入稿は難しそうだなあ。

2008.10.18
 燃え尽きたまんま2泊3日あわただしい取材旅行を終えて昨夜帰着。体重の増加にめげる。当面はダイエット態勢だ。しかし一度大きくなった胃を縮めるのはしんどいのだな。今日の昼はダイエット粥のみでは耐えられずりんごをひとつ食べてしまう。
 建築探偵は20日に入稿すれば来年1月には刊行出来るというので、取り敢えずその予定で進行します。来年は年の前半に刊行ラッシュが来そう。

2008.10.14
 お、終わった・・・ も、真っ白に燃え尽きているわたくし。でも明日からの取材旅行には、プリントアウトも担いでいきます。読み返して赤入れなきゃ。まあ、そんなには直さなくていいだろうと期待しているんだけど。しかし今回は、いつにもましてスリルだったなあ。次の一行でなにが起きるかわからないまま書いている、というのもしばしばで。いや、犯人とかは一応決めてあったけど、それは見え見えだろうなあ。隠すための小細工、ほぼなんにもしていないもんね。別に判ってもいいや、と思いつつ書いたから。でも最後の最後に京介が登場して、予測していなかったことばを口にしたので、作者びっくり。
 あ、もう止そう。こんなこと書いてると馬鹿にしか見えん。ま、とにかく取材で三日間留守にします。

2008.10.13
 いよいよ取材旅行の日が迫ってきたので、これはあかんというわけで仕事場にお泊まりして必死で書く。もう徹夜なんてことは絶対出来ないので、夜は10頁書いたところで早めに寝て、結局今日の夕方で、あと1頁あれば終わるだろうというところまでこぎ着ける。そこが404頁。というわけで、全然予測の立たない篠田は、ついに久しぶりに400の壁を突破したのでありました。もう伸びないよ。せいぜい1頁か2頁だよ。ぜーっ、ぜーっと取り組みが終わった直後の相撲取りのように肩で息をしたりして、でもまだ終わったわけじゃない。エンドマークを打ってからも、読んで直して読んで直してゲラが来てまたゲラが来て、本になるまでは長い道。

2008.10.11
 昨日は鮎川賞、ミステリーズ新人賞の授賞式パーティ。いつにも増して人が多くて疲れる。毎年「もういいか」と思いながら、「これくらい出て同業者と顔つなぎしとかないとなあ」と出かけていっては、ぐんなり疲れて帰ってくる。鮎川賞受賞作はまだ手を付けていない。日常の謎らしい。あまり得意な分野ではないが、文章が上手い人だという選評なのでそのへん期待。短編のミステリーズ新人賞は、綾辻行人さん絶賛の作品なので帰りの車中で読む。なるほど、クローズド・サークルの連続殺人における動機は新機軸。
 建築探偵は371頁だが、もちろんまだ終わらない。北海道旅行前に完結というのは、いささか苦しくなってきた。明日明後日しゃかりき書きます。どうしてもホテルだと自宅よりさらに眠れないので、今日はぼけていて使い物になりまへん。

 徳間のSFジャパンで連載を始める吸血鬼もの、イラストレータは担当が「発表しても大丈夫ですよ」といってくれたので書きます。THORES柴本さんです。いわずと知れたトリ・ブラの方です。こらもう、張り切らざるを得ませんね。でもカラーは少し先の楽しみになる見たいです。彼女の絵はインパクトが強いので、あの絵に負けないようにというのと、それに触発されることで自分も新しいものが書ける気がして、そのへんが大変に楽しみ。

2008.10.09
 今日は週に一度のジムの日なので、原稿は363頁目まで。そして明日は鮎川賞なので仕事はほとんど出来ないだろう。いや、パーティは夕方なんだけどね、出かけると思うと落ち着かないし。というわけで、日記の更新は土曜日。

2008.10.08
 358頁目を書いてます。はい、まだ終わりません。当然ながら360では終わらないでしょう。370でもちょっと危ない。380なら、終わるかなあ。なんかずーっと前に、案外コンパクトに300くらいで終わるか、とか書いていたのは誰だといいますか、なによこの見通しの立たなさ加減は。しかしまあ、昔菊地秀行先生が『夜叉姫伝』を書いていたとき、3巻目くらいから次で終わる次で終わるとあとがきに書かれながら、とうとう8巻目まで伸びたんじゃなかったっけ。それと比べればたかだか10頁単位の伸び縮みくらいなんですか。って、威張るようなことでもないわねえ。
 あ、でも今週末は鮎川賞だ。そうするとまた2日はスケジュールが延びる。

2008.10.07
 昨日は徳間のSFジャパンで、冬号から始まる新連載のためのインタビュー。話し相手になってくれたのは旧知のミステリ評論家千街晶之氏。唐突ですが篠田は彼に「ミステリ界の黒執事」というだじゃれたニックネームを捧げました。そこで笑いになったわけだが、これには近代建築マニアの篠田としては「自称建築界の黒羊、下田菊太郎」という背景があるのですよ。篠田読者ならご記憶かと思う実在の建築家ですが、不遇でおへその曲がった彼は自ら建築界の黒羊と名乗ったのね。ブラック・シープ、つまり変わり者、外れ者と。千街君は別段変わり者というほど変わってはいないし(少しはね、でも少しね)、篠田の元担当K嬢が「あざらし入ってる」と名文句を吐いた下田の容貌と比べればずっと端正であられるので、この際パーティの時にはモーニング着て黒執事のコスプレでもしてくれないかな、などと大変馬鹿なことを思いましたです。
 ちなみに新連載は吸血鬼モチーフの長編ファンタジー。小説ノンの「龍」が完結したので、また少し違った視点からこのモチーフをやってみようかな、というのがひとつの理由。あちらは菊地先生に敬意を表した伝奇アクションスタイルでやってきたが、今回はがらっと色合いが変わります。篠田的に申すなら『銀河鉄道の夜』のような、少年同士のせつない友情以上、でも決して恋愛にはなり得ない、そんな話が、ヨーロッパ中世風の異世界で展開します。ボーイズラブじゃあない、いっそ懐かしいジュネ、『風と木の詩』みたいなところもあるかも。そのへんをまったく知らない若い読者には、むしろ新鮮なんではないかな。
 ぜひお願いしたいイラストレータさんは一応OKしてくださったようなのだが、大変お忙しいらしいのでまだちょっと心配。もう大丈夫となったら大々的に告知しますね。SFジャパンはわりとビジュアル重視の雑誌なので、イラストの点数も多いみたい。いずれ本にまとまっても、イラストが収録されるかどうかはわかりませんぜ。篠田の読者ではないがイラストレータさんのファンは、むしろ雑誌を買われる方がよろしいかもね。

2008.10.04
 朝方目を覚ましてからちゃんと眠れなかったので、体調かなりいまいち。なんかと330までは来たが、終わりませんなあ。これでは350は超えますなあ。というわけで、明日は仕事場に泊まり込んでどっと原稿を進めることにする。それから6日はものすごく珍しいことにインタビューがあるので、次の日記の更新は10/7になる予定です。

2008.10.03
 昨日も今日も仕事。やっと320頁。しかし350頁で終わるのか? あんまり確信が持てなくなってきた。日曜日は仕事場に泊まり込んで必死こく予定。

 読了本『火村英生に捧げる犯罪』 有栖川有栖 文藝春秋 こういうスタンダードな本格ミステリをコンスタントに書けるというのが才能だなあと思う。変わった意味で面白かったのが「あるいは四風荘殺人事件」。どう面白かったかを書くとネタバレになってしまうので困るのだけど、無邪気な新本格が全盛だった時代はさすがに過去のものだなとつくづく思わされます。

2008.10.01
 昨日は夜角川の担当と会食。仕事の話はそっちのけで映画の話とかする。翌日になってご馳走様でしたのメールに、会っている時はしなかった「こういうのが書いてみたいです」というようなことを書いて送る。なんとなくめんとむかってそういう話をするのは、妙に気恥ずかしいものがあるんであります。
 今日は出かけた翌日なんで、やっぱりすぐには仕事に入れなくて、朝から風呂に浸かったりして。それでも午後からは建築探偵再開。いよいよクライマックスへ入る、はず、なんだが、どうよっ(なにがよ?)

 読了本『ニホンゴ キトク』 久世光彦 講談社 週刊現代に連載された、使われなくなっていることばを巡るエッセイ。しかし「使われなくなっている」といわれると「えー、うそ」と思ってしまうものも多い。「じれったい」とか「きまりが悪い」とか「面変わり」とか。そりゃまあ人にはよるだろうけど、なんとなく語り手としては神代さんや、神代姉が思い浮かぶあたり、やっぱ古びつつあることばなのかしら。そのうち建築探偵も、注がないと理解してもらえない小説になっちゃいそうだなあ。