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2008.03.30
 桜も咲いたというのに今日のこの寒さはなに?! 一日仕事場から出ず、料理もしないで仕事。ようやっと『綺羅』の直しが最後まで。今回は、まったくミステリとしての穴はふたつも見つかるし、元本のワープロ変換ミスはあるし、ことばのだぶりとか書き間違いとかもう枚挙にいとまなく、「わあ、ごめんなさい」と頭を抱えることもしばしばで、ほんとひどかった。お恥ずかしい。
 夕方に終わったのであとは休憩。読みかけていたミステリを読み上げる。あ、それから昨日のミルクパンはわりと美味しくできていた。お麩のチャンプルーもいけた。お麩なんて子供のときは味はしないしぷわぷわするだけで頼りないし、なんでこんなもの食べるのだろうとしか思わなかったけど、ひとつには歳のせいか、こういう枯れた食品がけっこう美味。水で戻して絞って、カツオ出汁に溶き卵を吸わせて焼く。それを野菜炒めと合わせていただきました。

 読了本『硝子のハンマー』 貴志祐介 角川文庫 密室ものの本格だと聞いて、遅ればせながら購入読了した。確かにトリックはユニークなんだけど、書き方はいわゆる本格ミステリとは違うから、本ミス大賞の候補にも挙がらなかった、ということなのかな。少なくとも読者がこのトリックを、開示される前に見破ることは不可能だろうし。小説としては面白かったけど。

2008.03.29
 土曜日にポイントが倍になるスーパーで夕飯の買い物、週末特別価格のユニクロでジーンズ一本。パン作りは水の代わりに牛乳を使うミルクパン。安いイチゴでイチゴソース。ジャムほど煮ないというか、砂糖少しで電子レンジ。ヨーグルトに入れよう。夜はわしたで買ってきたもので手抜き沖縄料理。メインはレトルトのてびちだけど、お麩のチャンプルーというのを初めてやることにした。ご飯は黒米入り。
 仕事は依然『綺羅』直し。これを終わらせて、『緑金書房』の2を入稿して、それから「龍」の第五回のゲラをやって、続けて後半を書き出す予定。意外と予定詰まってます。
 理論社「北斗学園」2は結局4/14書店配本だそうだ。1のカバー掛け替えバージョンも、同時に再配本されるはず。かなり雰囲気変わってます。なんというか、にぎにぎしくてマンガっぽい。それも善きかな、という感じです。

2008.03.28
 昨日は午前中ジム。午後からまず神保町。@ワンダーで仁木悦子の文庫本3冊、富士鷹屋で同じく2冊。講談社文庫は一応コンプリート、角川文庫があと2冊。それから銀座に出てわしたショップのセールに。常温で持ち歩けて重くないものだけ選んで買う。財布を忘れて取りに戻って、またあわてて出てきたら、金を足してくるのを忘れ、この時点ですでに持ち金2000円足らず。なのに池袋リブロに行ったら、読みたい文庫が出ていたのでカードで買う。帰りの特急券はスイカで買う。しかしノベルスの台で、『美しきもの』の表紙は完全に浮いていたというか、沈んでいたというか。
 今日は『綺羅』をラストまで直してプリントアウト。ここでまた近所の散歩。桜は同じソメイヨシノでも、場所によってずいぶん開き加減が違う。公園には夜桜用のぼんぼりが下がっておきまりの屋台が出ていたが、花はまだつぼみがほとんどだ。東京とはずいぶん違うものだなと、改めて思う。
 帰宅してエアロバイクを30分漕いで、『綺羅』のプリントに赤を入れ始める。まだ直すべきところがほとんど各頁に見つかるという、我ながらなんと能率の悪いこと。

 読了本『ゲーテ イタリア紀行を旅する』 牧野宣彦 集英社新書 ゲーテの『イタリア紀行』は好きな本なのだけれど、そこに登場する街や建物が写真で見られればもっといい。というわけで旅のアウトラインに引用と写真で作られた本。狙いはいいと思うのだが、なぜか原著より面白くない。原著のユーモアや、旅するゲーテの心躍りといったものが、ちっとも伝わってこないのだ。

 『ファム・ファタル 妖婦伝』 イ・ミョンオク 作品社 サロメ、イブ、リリス、ヘレネなど、画題にされた歴史上神話上あるいは実在の「妖婦」たちを、豊富な図版と共に列挙した本。図の美しさに惹かれて買ったのだが、これまた文章が耐え難いほどつまらない。著者は韓国人の女性なのだが、これらの女たちを「妖婦」と規定してけなしたりまつりあげたりしたのはことごとく男性だったはずなのに、それに対する女性の視点というものがまるで感じられず、男性の言説をそのままなぞっている。まさかそんなことはないだろうと思いながら読んだが、結局最後までそれだけ。なんでこんなものを翻訳したのか、さっぱり理解できない。

2008.03.26
 フォカッチャはいまいちだった。なんかこの人のレシピは甘いのである。250グラムの粉に10グラムの砂糖というのはこころもち多いかな、という程度なんだが。
 今日は一日たれ込めて『綺羅』を書き続ける予定だったが、明日から天気が悪くなるようなのでちょいと散歩に出た。なんともぱっとしない半端な田舎なのだが、さすがにこの季節はやたらと花が咲いていて目が楽しい。白モクレンは実に花樹の王様だなと思う。すっきりと品が良く端正だ。梅は終わったが沈丁花は今が盛りで、狭い道だと香りが満ちている。線路沿いには向かいの家が種をまいたのか、三色スミレやらストックやらが満開。オオイヌノフグリ(それにしてもなんちゅー名だ)に菫に日本タンポポ。ハイキングコースのとば口で引き返して一回り一時間。6000歩弱。
 明日は夜東京で用事があるので、それにいくつか他の用をくっつけて、ジムは午前中にして、ほぼ一日外出につき日記の更新はお休みいたします。

2008.03.25
 駅前までお買い物に出た他はずっと仕事場。『綺羅』の続き。なんとなく今回はあちこち冗長な気がして、とりあえずのプロットに関係のない部分をばしばし切る。ノベルス版も当面は手に入るはずなので、こちらはそういうヴァージョンだということにしよう。
 その他は例の少ないイーストのテキストで、フォカッチャを作る。こねは機械でやらせて、とても簡単。お味のほどは夕飯に食べるのでまだわからない。仕事場のオーブンは小さいので、高温にすると焦げすぎるし焼きむらもひどい。結局テキスト通りにやってもうまくいかないというわけで、どんなに簡単なものでもひとつのレシピをものにするには何回かやる必要がある。

2008.03.24
 パン・ド・カンパーニュ。お店で売っているのはむしろこういう感じだね、というわりときめの粗い生地にしあがった。好みの問題だと思うが、どっちかというと最初の方が好きかな。
 今日は出かけずにずっと仕事をする。『綺羅』の続き。

2008.03.23
 パン・ド・カンパーニュはまだ食べてないけど、ちょっとだれぎみな感じ。冷蔵庫に入れても発酵が長すぎたのか。これなら一晩置くより、昼間様子を見ながらの方が確実かも。うちのオーブンは小さいから、テキスト通りの温度設定だと焦げすぎるみたいだし、なかなか理想通りのパンにはなりませんわ。
 仕事は『綺羅』の直しを開始。こういうのは黙々と続けていれば確実に終わるから、新しい作品を書くよりは気が楽。『月蝕』と比べれば薄くなりそうだから、おまけをつけようかな。

2008.03.22
 外出日が続いたが今日は自宅で、ボルシチを仕込んで、キュウイと大根を干して、パン・ド・カンパーニュを作りかけて冷蔵庫。こね時間が短くて済むのは、篠田のようなずぼら人間には大変有り難い。イーストの量は通常の4分の1以下だから、材料費も経済的だしね。これで明日テキストに書いてあったような、皮はパリッ中はもっちり、気泡も入って嵩高い上級のカンパーニュが出来ればいうこと無しだ。
 あっと、仕事もしてます。「龍」の続きを書かないとならないんだけど、建築探偵文庫下ろしの締め切りは四月末だし、それまでに600枚書くのは厳しい。というわけで、先に文庫の直しをすることにして、今年の文庫下ろし『綺羅の柩』を読み返し始めるんだけど、なんか読みにくい。文章が素直じゃないんだよなあ。というわけで、あんまり直したくないんだけど、やっぱり全面的に手を入れることになるんでしょう。

2008.03.21
 昨日は都内某所で行われた小さな落語会を聞きに行った。昨年原書房から刊行された愛川晶さんの落語ミステリの第二弾が来月出るそうで、そこによく知られた古典落語「野晒し」の後半を愛川さんが書き直した「新編野晒し」が登場する。で、その「新編野晒し」を二つ目の噺家鈴々舎わか馬さんが話してくれたのだが、これがなんと本邦初公開、つまりネタ下ろし。噺は録音されて来月原書房のサイトからダウンロード出来るようになるのだそうだ。釣りに行ったら草むらにされこうべが転がっていて、それに酒をかけて供養してやったら幽霊が成仏する前にお礼に来た、という古めかしい噺を、さすがミステリ作家、といいたい展開と落ちにしているので、ご興味のある方はぜひご一読ご試聴のほどを。

 今日は午前中ジムに行った後、池袋で映画を見る。前から見に行こうと思っていたのが、なんと今日までだとわかったので焦った。「エリザベス ゴールデン・エージ」 9年前に公開された「エリザベス」の続編で、有名なイギリスの女王エリザベス一世を主人公にした歴史映画。最初のときは新人だったケイト・ブランシェットが、いまや女王役者と呼ぶにふさわしい堂々たる成長ぶり。物語は正確な歴史の再現というより、私生活を捨ててキャリアを獲った女性、という現代的な視点から再構成された物語だが、西洋時代劇フェチの篠田は、マントのひらひらや白いシャツの袖のギャザーを見ただけでうっとりしていたりして。つぎつぎと変わる女王ファッションも眼福なり。お召し替えや入浴といった珍しいシーンも。そして迫り来る無敵艦隊を前に、兵士を鼓舞するために銀色の鎧をまとい白馬にまたがって登場した女王の雄姿や良し。思わずガラドリエル様の出陣姿を思い浮かべてしまったぜ。ただし歴史は相当にはしょっていて、なんだか妙にあっさりとスペイン無敵艦隊が敗北してしまったりするので、海戦フェチには物足りないでしょうな。

2008.03.19
 天気は悪いが今日は外出。文京区千駄木にナショナルトラストが管理する旧安田楠雄邸を見に行く。和風住宅だし、大して期待せずに行ったのだけれど、これが非常な優れものだった。家自体普請道楽の建て主が建材に贅を凝らしてあるのだが、それだけでなく所有者が現状を変えまいという強い決意のもとに住み続けたことで、大正9年の家具調度や、その後の昭和初めの富裕な市民の生活がそっくりそのまま博物館のように残されているのかすごいのだ。住宅としてはまだ家族生活より接客に重点を置いた作りではあるけれど、大正期には明治のような仰々しい様式の誇示は影を潜め、美しさだけでなく居心地の良さを大事にした設備がなされている。二階の本座敷の窓の前はしだれ桜が枝を広げ、まもなく咲き出そうという赤みを帯びたつぼみが一面に付いている。和館と洋館の違いはあるが、拙作「桜闇」の場面を思い出したりする。
 ランチの後は谷中銀座を抜けて朝倉彫塑館へ。彫刻家朝倉文夫の自宅とアトリエで、ここはいままで何度も来ているがとても好きな建物。しかし木造の住居の方は耐震強度に問題が発見されたとかで見られず、ほぼ半分が非公開となってしまったのは残念な限り。しかしここのアトリエに隣接した書庫は、五メートルを越す天井まで書架で埋め尽くされた様が圧巻なり。

 明日は夜不在なので日記は休み。

2008.03.18
 午前中にようやく『緑金書房2』脱稿。150枚足らずの作品に一ヶ月もかかっていたことになる。我ながら情けない。今週は予定がいろいろあるので、今日医者に行ってしまうことにして出かける。やたらと気温が高くてびっくり。こりゃもうセーターもコートもクリーニング行きじゃないか。なんか季節の変わり方が極端だ。しかしなんとなく街が埃っぽい。晴れているけどピーカンではない感じ。これが黄砂か。
 医者のついでに池袋のハンズに行く。壊してしまったティーポットの茶こしと、パン・ド・カンパーニュの発酵用バスケットを買う。ずっと探していたのだ、これ。別にざるでもボールでもいいようなものだけど、やっぱりこう気分がね。今度は水分量を増やして、ふわっと気泡が入ったパン・ド・カンパーニュに挑戦しようっと。
 明日は出かけるので、もしかすると日記は休むかも。

2008.03.17
 朝からプリントアウトに赤を入れる。そのときは「あんまり直すところは大くないな」となぜか楽観的に考えたが、いざパソコンに向かってテキストを読み直していると、あちこちあらが見えてきてせっせと直すことになってしまう。で、今日は終わらなかった。これで良しとなってまたプリントアウトするのだが、これを少しして読み直すと、たぶんまたまたあちこちにあらが見えてくるというていたらく。実は前回は、といってもまだそっちがメフィストに載ってもいないんだけどさ、ゲラが出てから全面的にテキストの順番を入れ替えたりして、校閲も通していたのに結局再入稿をさせてもらう羽目になった。ごめんなさい。こういうのを「拙速」というんでありますねえ。だから担当さんには早いところ読んでもらいたいんだけど、今度はもうしばらく手元に置いておくことにしようっと。
 今年初めての新刊、カッパノベルスの『美しきもの見し人は』が出来ました。そろそろ店頭にも並ぶかな。表紙は上野の国立博物館蔵「親指のマリア」です。これは江戸時代になってから日本に潜入してきたイエズス会宣教師シドッチが持ってきたという聖母像でありまして、本当は長崎の二十六聖人記念館蔵のカクレキリシタンのマリア像がベターだったんだけど、許可が下りなかったみたい。そりゃねえ、内容が内容でありますから。ええ、例によって罰当たりな話です。敬虔なクリスチャンの方は間違ってもお読みになりませんように。

2008.03.16
 緑金書房2,ようやくラストまで到達。これを2度くらい、読んで直してプリントを繰り返して、雑誌掲載稿として入稿する。1を書いていた時に思ったより、ファンタジーっけが強くなってきた。我ながら、毎度書きながら考える人間なんである。しかし、ゆるい感じの日常ファンタジーを書くつもりでいたのに、少なくとも書くときはちいともゆるくないわい。むしろ異世界ファンタジーの方が、一定の世界観を構築すればそれで統一すればいい分は楽だろう。ただし、それは既製品との類似を避けることがとても難しいという意味の、別の困難に出会うことになるわけだが、一応現実世界に足を置いて、別の世界観と常にせめぎ合うというのは、これけっこう困難な道なんだなあと、いまさらながら痛感している。っていうか、それくらい書き出す前に気が付けよ、自分。

2008.03.15
 本来なら野菜室に入れるパン生地だが、仕事場の冷蔵庫は小さいので野菜室が分かれていない。冷たすぎるのが心配だったがそこそこ膨らんでいて、暖かい場所で少し追加発酵させてからベンチタイム、型入れ、成形発酵。これも今少し膨らみが足りない気がしたのだが、オーブンの中でけっこう生地があがってくれたので、前回の過発酵よりはずっときめの細かいパンが出来た。あとはうちのオーブンが小さいので、焼き温度を少し考慮すべきか。
 緑金書房の方はどうにか終わりが見えてきた。

2008.03.14
 昨日のカンパーニュは発酵不足かと思ったら、そんなことはなくてちゃんと美味しかった。やわやわの白いパンより、ライ麦や全粒粉を混ぜたハード系のパンの方が、我が家の好みには合う。こねる手間が少なくて済むのも、しょっちゅう作ることを考えればベターだ。よしよしという気分になって、今日は前回いまいちだった長時間発酵食パンに再チャレンジ。一晩室温で置くとすでに長すぎるようなので、冷蔵庫に入れてみることにする。これで明日発酵が足りなかったら、また温度を上げてみるのだ。
 仕事は代わり映えなく緑金書房2.しかし今度の水曜日に出かける予定が出来たので、火曜日には書き上げることにする。なにか予定が入った方が、それに間に合わせる気でがんばれるのは毎度のこと。

 読了本『美の死 ぼくの感傷的読書』 久世光彦 ちくま文庫 実をいうとここで取り上げられている本は、読んでないものの方が遙かに多いのだが、それでも面白く読めるエッセイ集。しかし、己れを含めて教養の衰退というのはもはや止めがたいね。つまり日本人はすごい勢いで坂を転がり落ちている。落ちながら、それでも自分より教養のないとしか思えぬ人とはたくさん出会ってしまう。これは怖い。なにがって、気をつけないと自分は利口だと思ってしまいかねないからね。
 『殺人現場を歩く』 蜂巣敦 ちくま文庫 昔藤原新也という写真家が、金属バットで家族を殴り殺した少年の家を何度も訪れて写真を撮る、というのをしていたっけ。今回の本は18の現場をもっとクールにたんたんと語り、かつ撮しているんだが、著者写真が一番怖かったっす。なんかこの人、目がイッちゃってるんだものさ。

2008.03.13
 午後からジムに行くので、それまでと思ってまじめに仕事をする。でも仕事しながらパン・ド・カンパーニュを作る。あんまり長時間こねなくていいレシピなので、手間はかからない。その代わりイーストを通常の三分の一程度に減らして、発酵時間を長くする。だが思ったより生地のあがるのに時間がかかり、ジムへ行く時間になってしまったので適当に切り上げて焼いたらやはりやや発酵不足。パンへの道は厳しい(それより仕事しろって、自分)

2008.03.12
 一昨日マイスリーを半錠飲んで寝たら、昨日は反動のように寝付けず、ずっと夢ばかり見ていた(とんねるずが出てきた気がする、しょーもなっ)。おかげで今日は体調最悪。それでもやっとこ夕方になって『緑金書房』8枚書く。
 理論社から「北斗学園」の「1」のカバーを掛け替えてくれる、という話が来る。イラストレータのサボタージュでデザイン変更を余儀なくされたので、今度出る「2」と合わせてくれるというわけ。増刷がかかればカバーだけでなく、中もデザイン替えしてもらえるそうな。しかし前の巻を買っていただいたお客様には大変申し訳ないので、うれしさも中くらいなり。

 『神は沈黙せず』 山本弘 角川文庫 ひさびさに巻置くあたわず、という気分で一気に読了したSF。「神」という存在については、以前からひとかたならぬ関心を持っていた篠田だが、ここに描かれた神は、篠田が漠然と思っていたのとかなり近い。と学会会長らしい、トンデモ系の蘊蓄をたっぷり取り入れて、さらにコンピュータの近未来的展開と、「神すなわち造物主」の正体へ至る解明を結びつけた。ただしそうして見いだされた神の像が新しいかというと新しくはない。ぶっちゃけ「善ならざる創造者、デミウルゴス」というのは、とても古い神イメージのひとつなのだよ。たぶんこの物語の先を書き継いだら、人類はやっぱり「デミウルゴスの上に存在する善なる超越者」を思い浮かべて礼拝すると思うな。でも、「善なるもの、人が信ずるべきものは彼方にはない。ここに、人の中にこそある」というのは、篠田も思うけどね。

2008.03.11
 昨日は東京に出る用事があったので、ツレと待ち合わせて昔住んでいた浦和に行き、日本茶喫茶でお茶をして、イタリアンを食べた。浦和も変わっているようで変わらない。しかし、昔はいって酒を飲んだそば屋が消滅していたりすると、そぞろ寂しい気分になる。
 読了本『イヌネコにしか心を開けない人たち』香山リカ 幻冬舎新書 篠田もどちらかというと人間よりは動物が好きな方であります。しかし文字数が少ない本だ。なんで売れてる文化人って、こうどんどん本が薄くないようも薄くなるんだろう。
 『迷宮遡行』 貫井徳郎 新潮文庫 書き換える前の『烙印』は読んだ記憶があったけど、確かにこっちの方がはるかに面白い。『烙印』はテイストがハードボイルド、ネタはあっと驚くどんでん返しだったのが、そのドンで返しを敢えて捨てた作者の英断。それと主人公がとてもいい。でも、読後感は救われない。

2008.03.09
 ウォッカに氷砂糖と国産レモンをつけ込んだ自家製リモンチェッロが、一ヶ月経ったので実を出して茶こしでこす。甘いけどけっこう苦みも効いてグッド。土曜日から干した小松菜はかつおだしを引いて油揚げと煮浸しに。この歳になるとこういう婆くさい料理が食べたくなる。同じく乱切りにして干した大根は冷凍しておいたラフテの残りと煮る。干しキュウイはブルーチーズでものせてオードブルにしようか。リブロで買った本が届いたので、さっそく手持ちの材料で可能な、イースト少し一晩発酵の食パンを仕掛ける。生地こねは機械にやらせて超手抜き。
 と、今日も仕事から食欲に向かって逃避しまくる篠田だが、さすがに『緑金書房』の続きも進行させました。ちょっぴりだけど70枚まで。この先大きな波乱が予定されているんでもくろみ通りいくかちょいと心配。でも後二週間くらいでこいつを完成させられれば、そろそろほったらかしにしてある『龍』の後半戦に頭が回せるだろう。それから理論社は結局のところ四月の頭にずれこむらしい。篠田のせいではないよ、くれぐれも。本が出来たら一日書店回りというやつを初体験させてもらうことになっている。一応独立した話ではあるが、最初の巻も合わせて読んでもらった方が通りがいいからね。書店さんで合わせて並べてもらわんことにゃあ。でも篠田がシリーズものを書くと、「シリーズだから」といって読んでくれる人より、読んでくれない人の方が多い気がするのは単なる被害妄想か? いや、客を逃がす筆力のなさを反省しないといけないんだろうなあ。

2008.03.08
 昨日は出かけるまで『緑金書房』、63枚到達。名刺入れが見つからず、出際にあわてて印刷したり、例によってばたつきながら東京へ。リブロで今回は主として楽しみのための本、パン作りのテキストやSFの文庫などを購入。めんどくさくなったので宅配を頼んで有楽町へ。講談社の担当と会って、二転三転ようやく落ち着いた『緑金書房』初回のゲラをその場でチェック、返す。文3の部長がまた人事異動で変わったので、その方とご挨拶。少し遅刻してパーティ会場へ。相変わらずの混雑だが、無事近藤さんにお祝いをいい、友人の作家さん数人とも軽くおしゃべり。しかしこの日は編集さんと仕事の話をする方が多くて、それも特に音沙汰がなくて、今年は「もういいんだろうな」と予定に入れていなかった仕事ばかり。光文社さん東京創元社さん徳間書店さん。
 そうですよ、この日記をチェックしているというT書店のK山くん。君が仕事場に依頼に来たのは一昨年の話でしょうが。あれからなんにもいわないから、てっきりその話は流れたんだとばっかり。君はもしや時間感覚が地球人とは少しずれているんではないのか。一年が600日くらいある惑星のカレンダーで生きていたりして・・・
 二次会に出ると絶対翌日に響くなと思って、誰にも呼び止められないのをいいことにはやばやと電車で帰宅。マイスリー0.5錠飲んで7時間しっかり眠ったというのに、今日はなんだかんだって雑用でつぶれてしまって、結局労働意欲もすっ飛んで全日没になってしまった。

 読了本『サクリファイス』 近藤史恵 新潮社 自転車ロードレースを主題にした青春ミステリというか、近藤さんがジロとか、ツール・ド・フランスとか、ロードレースのファンなことは知っていたけど、「そうかあ。ずいぶん独特な部分があるスポーツなんだなあ」という心地よいトリビアもあって、読み味がいい小説に仕上がっている。選考委員の中には「男の汗の臭いがしない」的な批判が見えたけど、プロスポーツにつきもののそういうクサイのを敢えて抜き取るのが近藤流なんだと思う。近藤さんが大藪賞って意外〜と聞いた時は思ったけど、野郎の感性を振り切って栄冠を勝ち得た近藤作品に乾杯。

2008.03.06
 仕事は『緑金書房』2の続き。ゆるゆると書き進めている。カッパノベルスから出した『すべてのものをひとつの夜が待つ』が光文社文庫に入れてもらえるのだそうだ。ノベルスを文庫にするというのは、定価的にはそれほどすごく安くなるわけでもないし、読者からするとどうなんだろうと思わないでもないのだけれど、実際問題としてすでに元本が書店店頭にはないわけで、形を変えて前回は見落とした人、買うのを見合わせた人のお目に触れれば嬉しい。
 明日は近藤史恵さんが大藪春彦賞を獲ったパーティがあって、お祝いに行くので日記の更新はお休み。

 読了本『ぼくたちのアニメ史』 辻真先 岩波ジュニア新書 本当にテレビアニメの草創期からシナリオライターとして関わっておられた辻先生によるアニメ史。ああ、あれもこれも辻先生が、と懐かしいタイトルがどんどん出てくるが、何せ篠田がテレビアニメの現役視聴者であった時代はそれこそ有史以前という古さでありますから、いまなお先生が最先端のアニメを見続けていて、あとがきは『ほしのこえ』だというのが、なんというかガーンなのでした。皆川先生といい、辻先生といい、なんでこんなにお元気なの。その活力の爪のあかでも分けてやってください(切実)。

2008.03.05
 仕事は『緑金書房』2の続き。それだけで日記の話題がない。たらたら仕事をしながら、同時にパン焼き機でパンを焼いたり、またキュウイを干したりはしておりました。実は昨日のランチで体重がぱーんと500グラム増えてしまったので、パンなんか焼いても味見は、してしまいました(笑)。

2008.03.04
 今日は一日仕事はお休み。朝から目黒の庭園美術館に「建築の記憶」展を見に行く。「近現代の日本の建築を、同時代の写真家がどのようにとらえたかを辿りながら、建築史と写真史の変遷と接点を概観する試み」だそうだ。美術館のもくろみはもくろみとして、篠田は例によってモダン以前の建築写真を興味深く見た。明治最初期の江戸城や熊本城、建築中の東京駅舎、竣工したばかりの東宮御所(現在の赤坂離宮)、伊藤忠太と写真家小川一真が同行しての北京紫禁城の写真。同じく伊東がかかわった、焼ける前の那覇首里城の写真なんかも面白かった。
 庭園美術館は建物も庭も好き。庭はいま白梅が見頃。庭を見下ろすサンルームのスタイリッシュな空間もいつ来ても嬉しい。
 それから銀座に出て、イタリアンのランチを食べて、若菜でお漬け物を買って帰宅。ワインでとろっとして、やはり仕事する気にはならなかった。しかし春めいて風も弱く、遊びに出かけるには大変結構なお日和でございました。

2008.03.03
 仕事は『緑金書房』2の続き。昨日の干し野菜、キュウイのサラダは味が濃縮して秀逸。カボチャのバルサミコ風味ともども定番料理に決定。
 それから昨日の『ほしのこえ』の話の続き。子供に限らず現代人の胸に兆す無力感というのは、情報化社会の弊害だという気がする。海の向こうの悲惨は情報として怒濤のようにやってくるのに、実感には乏しく、いいことではないとはわかっても自分に何が出来るとも思われない。関係があるような、ないような。でも自分に何が出来るか。何も出来やしない。そう言い換えれば、『ほしのこえ』の中の少年が覚えるむなしさは、そのまま我々の実感だ。かつては異国の戦争のことなど、知ろうと思わなければ知らずに済んだ。いまは知りたくなくても知らされてしまう。でも情報は情報に過ぎず現実ではない。といっても、出来てしまったものは無い昔には帰れないんだと故山本夏彦翁もいわれましたがね。

 読了本 『裁判員法廷』 芦辺拓 文藝春秋 裁判員ミステリ。社会派と本格の融合を目指す芦辺さんのお仕事はこれからも注目せざるを得ない。
 『人魚と堤琴』 石神茉莉 講談社ノベルス 美しいイメージと魅力的なディテール。それに反して構築性に乏しいプロット、散漫なヒロイン、収束しない結末。むしろ短編連作にでもした方が良かったのでは。

2008.03.02
 カッパノベルスのゲラを明日到着の宅急便に乗せようと必死こく。昨日もっと早い時間からやっていれば、そんなにせっぱ詰まることはなかったのだが、つい嫌いな仕事は後回しにして、結局泡を食うことになる。しかし幸いどうにか2時半にはコンビニに持って行けてホッ。反動で今日はもう仕事をする気がしなくなる。
 佐原ミズさんが人気のアニメをマンガ化した『ほしのこえ』の単行本をもらったので、これを読む。セカイ系とか聞くけれど、はあこういうものかいな、と。ハイティーンが戦闘員にされて巨大ロボットに乗って敵と戦う、という設定の元祖は、永井豪の『マジンガーZ』だろうか。篠田はもはや全然リアルタイムでは読んでいない時期以降なわけで、ほとんどなにも語ることはできないんだけど、「遙けくも来るものかな」という感慨は湧く。まあ、少年マンガの世界で、どう考えても未成年の子供が主役を張ってスーパーヒーローになる、というのはもっとずっと昔から延々と描かれていて、でもその場合主役たちは正義を信じたりして、使命を自覚して、嬉々として「活躍」していたわけだ。
 それが、「気の進まないヒーロー役」が描かれるようになったのは、いつからなんだろう。『エヴァンゲリオン』からなのか、もっと前からなのか。『ほしのこえ』のヒロイン、ミカコにとって宇宙に出て戦闘機械を操ることはなんら望みではなく、正義の実感もなく、ただ逃れられない運命として彼女を、淡い恋心をいだく少年との日常から引きさらっていく。ここで篠田が感じたのは、圧倒的な無力感だ。実態の見えない戦争、情報だけで知らされる「どこかでやっている戦争」、それに巻き込まれて抗うすべもない個人。主人公が少女であるというのを、いわゆる「戦闘美少女の系譜」から読むのは的はずれのような気がする。それは「望まざる戦いに巻き込まれる者の無力さ」を強調するがための選択だと思う。
 理論社で、一応未成年の読者をメインにした小説を2作書いて、たぶんいまの子にとって篠田の書く子供は実感からは乖離しているだろうな、と思った。彼らは「子供はいやだ、早く大人になりたい」とは考えていないだろうし、学校に謎があったらそれを解き明かしてやろうなんては思わないんじゃないか、という気がする。でも、「違うよ」といわれても篠田は、無力感にさいなまれながら鬱々と日常に耐えている子供、は書きたくないんだ。いつかは書くかもしれないけど、それは子供向けの小説にはならないだろう。篠田が若い世代に向かって書きたいのは、基本的に応援歌であり、なぐさめのお菓子なんだから。

2008.03.01
 仕事は3月にでるカッパノベルスの再校ゲラ。二度目のチェックなわけだが、まだ直したいところがいくつも見つかって焦る。正直ゲラチェックは苦手である。
 その他では昨日買った『干し野菜クッキング』で今日は、カブ、カボチャ、キュウイを干す。キュウイはサラダになるのだ。どんな感じになるかちょっと楽しみ。カレーはまことに金星で、定番メニュー入りが決まったくらいなので。しかしスーパーに行くと、中国産の野菜がすっかり消えている。特にニンニクなんか、この事件前までは青森産の半額以下の中国物がいっぱいあったのに、きれいに無い。なんとなく売り場がすかすかしている感じ。これを機会に食料自給率を上げる方向へ転化していってくれないだろうか。どうせ、いまは中国が安い安いといっているけど、中国の所得が上がれば、いつまでも安いはずはない。国内で美味しいものがどんどん売れるようになって、頼んでも売ってくれなくなるよ。