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2008.02.29
 東京に出て駆け足で池袋リブロから神保町。それから講談社に行って『緑金書房』のイラストを描いてくださる漫画家の佐原ミズさんとお会いする。すらっとして美しい方、描かれているマンガ作品のイメージとも全然齟齬がない。こちらは作品イメージとは齟齬ありまくりだけど。
 リブロで買った本の一冊は『干し野菜クッキング』。新聞記事に載っていた干し野菜カレーの人の本。シンプルだけど美味という感じ。以前からその傾向はあったが、ますます技巧を凝らした料理よりは素材を生かしたシンプル料理が好きになってきた。いや、たまには外でプロの仕事をした料理も食べたいけど、それは本当にたまに、ね。でも季節の野菜を季節に食べるとか、そういうのが一番贅沢だ。以前から中国野菜は、いくら安くても極力買わないです。キノコとかニンニクとか倍以上値段が違ったりするから、そういう選択が出来るということ自体贅沢をしているとは思うけれど。

2008.02.28
 干し野菜カレー、美味でした。動物性の物はいっさい入れてないし、味付けもあれだけなのにとてもこくがあって美味しかった。おまけに食物繊維たっぷりで、朝もさわやか。
 今日は「龍」の第四回のゲラをチェックして返送。それから『緑金書房』をもう少し進めて、あとはジム。明日はイラストを担当してくれる漫画家さんと会ってきます。サインもらおうっと。

2008.02.27
 『緑金書房』続行。ヒロインの立ち位置がようやくわかってきた感じ。このところミステリと伝奇は書いていたけどファンタジーはご無沙汰だったので、ちょっと感覚が掴めなかったのだ。手探り脚探り、それがようやく堅いものに触りだしたというところ。
 三日ばかりかけて、新聞に載っていた「干し野菜カレーを作る。野菜を一日二日日に干してからカレーにすると、うまみが凝縮されて野菜だけで美味しいカレーが出来るというので、さっそく試してみた。入れた野菜はタマネギ、にんじん、小松菜、キャベツ、セロリ、ピーマン、ブナシメジ、なす、オクラ、レンコン、カリフラワー、トマト、リンゴで、これをニンニクショウガと炒めてカレー粉と塩醤油で味を付けただけ。まあ、食べるのはこれからです。

 読了本『僧正殺人事件』 うーん、こういう話だったか。正直言って素晴らしいとは思わなかったっす。だってこれって結局、なぜ殺したか、犯人は****でした、というに等しいんだもの。

2008.02.26
 祥伝社の新しい担当さんがゲラを持ってきてくれるので、朝から掃除をする。ここのところあまり訪問者がいないというか、面倒くさがって外で会うことにしてしまっているので、当然ながら掃除が先延ばしになっていて、こういう機会でもないとなかなかやらないのであります。おまけに近眼だと、床のゴミがめにつきにくかったりして。ひでえもんだ。
 仕事は『緑金書房』続行。『ガラスの仮面』もつい読んじゃったりして。

2008.02.25
 『緑金書房』の第一回を3度目の正直で送稿し、夕方から気を取り直して第二回を書き始める。どうせ今度もしぶとく直すことになるのだろうから、早めに書き出すのがまだましだ。
 実は少々必要があって、『ガラスの仮面』を取り出す。「真夏の夜の夢」の場が読み返したくなったのだが、このマンガの恐ろしいところは、ついついそれでは済まなくなるところ。野外劇が終わった後は「二人の王女」のオーディションで、あの「毒」の一人芝居。つい読みふけっていたのだが、そこへいきなりミステリ書きの血が。この毒殺(未遂)シーン、変じゃない? だってさ、ヒロインは台所にいるんですぜ。鍋に蛇口から水を受けて、大根輪切りにして鍋に入れて、塩入れてかき混ぜて、そこで毒を入れようか入れるまいか迷う演技がくるということは、ヒロインが殺したいのは「あの人」じゃなかったのか、「あの人たち」なのか。一家皆殺しかよ。それとも「あの人」は大食らいで、鍋一杯の料理をひとりで食べるのか。しかしヒロインが料理したものを食べて「あの人」が死んだなら、「私がこの毒を手に入れたことを知る者は誰もいない」で、「毒は身体に残らない」でも、犯人はばれるわなあ。「なんてリアルな毒殺シーンなの」とはとてもいえないのじゃないかと、いまさらのように思った次第でした。

2008.02.24
 風邪は治ったはずなのだが、鼻がぐずぐずいってどうも体調いまいち。今朝は風音がひどいのと、向かいの犬がクオクオ鳴くその鳴き声で速くから目が覚めてしまった。仕事はまだ『緑金書房』の第一回を直している。ゲラに赤を入れる程度の直しでは済まなくなってきてしまった。困ったもんだ。

2008.02.23
 午前中は暖かかったのに、曇ってきたら急に風が強くなって寒くなってきた。今日は沖縄ディナー。銀座の沖縄アンテナショップ「わした」であれこれ買ってきた沖縄食品に、ラフテーは自家製。トンボーロもラフテーも皮がついてなきゃいけません。そのほか島らっきょうの塩漬けとか、島豆腐のチャンプルーとか、ジーマーミー豆腐とか、アーサ汁とかいろいろ。

 読了本『トムは真夜中の庭で』 岩波書店 昔図書館から借りて読んだ記憶はあったのだが、読み直してみたら記憶とはだいぶ違っていてびっくり。そうか、こういう話だったか。かなりSFだったんだなあ。

2008.02.22
 歯医者に一年ぶりに検診に。虫歯が見つかるのじゃないかと戦々恐々だったが、着色を落としてもらっただけで無事終了。それから資料関係の捜し物で神保町。地下鉄で銀座のわしたショップに行って、沖縄食品を買いあさって帰宅。明日は沖縄ディナーである。島らっきょうも買ったぞ。
 マザーグースをもじったりタイトルに使ったミステリがちょっと気になって、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』を本棚に探すがなぜか見つからず。これはさすがに古本屋でゲットできたが、『誰が駒鳥を殺したか?』はなかった。戻ってネットでチェックしたら、一番安くて8000円。アマゾンのマーケットなんかもっととんでもない値段がついていてたまげる。マニアじゃないし、買わないよ。
 クリスティに限らず、マザーグースの伝承童謡をタイトルにしたミステリはとても多い。しかし読んでみると、内容とはあんまり関係ないものがほとんどで、そっちの興味で見るとがっかりする。『私が見たと蠅はいう』なんてのもそうだけど、ほとんど関係ないし。クイーンの『靴に住む老婆』はけっこう見立てだったな。クリスティでも『そして誰もいなくなった』ほど重要な使い方をされているのはあんまりない。なんとなく座りのいいタイトルになりやすいのかもね。『ポケットにライ麦を』とか。

 読了本『英国ミステリー紀行』 出口保夫 ランダムハウス講談社 我が母校の名誉教授が書いた本だそうだが、この人日本語がおかしい。主語と述語がねじれてるところがやたら目につくし、内容はえらくいい加減でガイドブックの丸写しみたいだし、なんだかなあというシロモノでした。

2008.02.21
 温泉に行ってきた。最近は新しいところより、同じところに繰り返し行くことが多くなってきている。そんな好きな温泉宿のひとつが群馬県四万温泉の積善。周辺に娯楽的なものはなんにもない。そのなんにもなさがなかなかにたまらんのである。翌日は車で軽井沢に抜けられる、というのもいい。軽井沢でなにをするかというと、これもたいしたことはなくて、万平ホテルに行ってお茶を飲んだりスーパーで買い物をしたりして帰るだけなんだけど。今回はパンの浅野屋が休みでアンラッキー。でもいつも行くスーパーのツルヤにミカドコーヒーが店を出していて、なかなか美味いコーヒーが飲めた。
 今朝体重を量ったら50キロを超えていた。積善の懐石は決してとんでもなく量が多いわけではないんだけど、朝もたんまり食べて、昼と夜は軽くしたんだけど、ケーキなんかも食べちゃったしなあ。またダイエットの日々であります。というわけで、今日は仕事。緑金の原稿をしつこくいじっている。

 読了本 『エコール・ド・パリ殺人事件』 深水黎一郎 講談社ノベルス わりと普通に面白かった。

2008.02.18
 いくら鬱入っていても、小説書きは小説書かなくてはご飯が食べられません。働かざる者食うべからずっていうより、働かざれば食えませんの方が正しい。働かなくても食えれば誰が働くもんかい。『緑金書房』の原稿にまたちびちびと手を入れてから、第二回のプロットを練る。ようやくどうにかなりそうな気がしてきた。とはいえ、まだアイディアが足りない。
 明日あさっては外出。仕事もお休みにつき、次回日記の更新は木曜日予定。

 読了本『有栖川の朝』 久世光彦 文春文庫 そういえばそんな事件がありました。といっても、いまいちよく意味のわからない事件でしたね、偽有栖川宮騒動。しかし久世光彦の小説は、事件のノンフィクションノベルではなく、それをもじった大人のメルヘン。やたら美しいファンタジー。70翁はリアリズムなど蹴飛ばして自在に翔る翔る。おまけにどう見ても幻想界の住民にしか見えない怪しい猫まで出るし。実際の事件はもっと生臭くてばかばかしいシロモノだったんだろうけどね。

2008.02.17
 風邪気味を押して酒を飲んだらやたらと効いてしまい、いい年をして醜態なり。翌日は沈没して仁木悦子をむさぼり読む。心温まる世界にちょっとだけ食傷して、今度は本格ミステリ大賞の投票のために『密室殺人ゲーム大手飛車取り』 歌野晶午 を再読したら、今度はどーんと鬱入ってしまった。今回の大賞候補作は堂々黄金パターン閉鎖時空間での連続殺人物3本に、鬼畜殺人ゲーム物2本。端正な黄金パターンもちと鼻につくよなあと思うと、本格ミステリの明日はゲームですか、殺し合いですか、と。ロートルの酔っぱらいはついていけまへん。なにかないのか、それ以外が。わたくしめが面白いと思えるものが。

2008.02.14
 とうとう風邪を引いたのか、それとも花粉症の先走りか、やたらとハナが出て出て止まらない。それ以外の自覚症状はなにもないんだけど、下向くと垂れるのは困る。なぜかジムでマシンをしているときは、出ないんだなあ、これが。
 今日はカッパのゲラの訂正点を手元の原稿に転記して、昼過ぎに終わってしまったので、どうせだから送り返してしまう。ここまでしておけば、明日はちょっと休める。で、明日は夜は打ち合わせなので、風邪でも出かけねばならない。というわけで日記の更新はお休み。

2008.02.13
 理論社の新刊、刊行が来月になった。これはまったく篠田のせいではありません。向こうの都合です。そういう都合に動かされてしまうという、まあその程度の書き手だということでもありますが。そんなわけで3月の刊行が二冊になってしまった。読者の方、申し訳ない。
 今日はその、光文社カッパノベルスのゲラが午前中に届いたので、ずっとそれをやっていた。戻すまで10日弱はあるのだが、その間に二日間留守になる日が混じっているので、今週末までに片を付けてしまおうと思って。その後には歯医者、なんて嬉しくない予定も待っているし。定期検診を去年はとうとう蹴飛ばしてしまったので、少しびくびくなのだ。
 久世光彦の書評集『美の死 ぼくの感傷的読書』 ちくま文庫 を開いたら、皆川さんの『ゆめこ縮緬』の感想が書いてあって、なんだ、久世さんたら皆川さん読んでるんじゃない、と思った。というのは以前、西条八十の詩「トミノの地獄」について書いていた久世さんの文章では、『聖女の島』を知らないようにしか思えなかったからで、しかしその文章は90年代、こちらの書評は98年で『ゆめこ縮緬』の新刊時、その間に皆川さんと出会った可能性はある。でも『聖女の島』はいつでも読める状況にはなかったので、これは知らなかったとも考えられ、久世さんが亡くなったのは2006,もはや確かめるすべはない。なんか、そんなことが妙に気にかかるのです。いくら読書好きの人でも、その人に読ませたいと思う本をみんな読める訳じゃないものね。

2008.02.12
 なまじ古本屋を舞台にした小説なんか書き出したので、参考にという感じで読む本の他にも、読み返す本が書庫から次々と出てきてしまう。ひところずっと買い続けていた荒俣弘さんの本なんかが。しかしこうやって見ていくと、あまりに自分は古書を知らないということがいまさらのように痛感され、本を読んで薄っぺらな急仕込みの蘊蓄なんかひけらかしてどうする、という気にもなってくる。それはきれいな本は好きだし、みっしりと本の詰まった書架を見るだけでぐっとくるけれど、それを買い集めて所有したいという深甚な欲望は乏しい。前に書いた西条八十『砂金』の復刻なんか、本文が活版でないのは残念だが装幀はとても良くできていて、それくらいで十分感じはわかるからいいよと思ってしまう。まあ、その程度の本好きだからね、篠田。
 反町茂雄『一古書肆の思い出』はようやく第二巻を読了。生年反町氏の青春修業時代を描く第一巻は出色の面白さだが、古書肆弘文荘を開店してからは、とにかく買い入れと販売がひたすら続いて、署名を聞いてもぴんとこない古典籍の名が延々と並ぶのはちょと辛い。まあ、こっちの教養が追いつかないのよ。それから仁木悦子の文庫をまた一冊読む。前に買った講談社文庫の仁木は、表紙のデザインが正直いって非常にキモチワルイ。角川文庫はみんな猫で、この猫のイラストが非常に洒落ていていい感じで、これは全部集めてみようかななどと思う。
 やっと少し「緑金書房」の2の頭を書き出した。実のところ、先のことまではちゃんと固まっていない。ヒロインを少しいじめてやろうかな、というくらいで。でも冒頭シーンのイメージは非常にクリアに、空気の感触や匂いまで感じられるので、まあ少し書いてみようかな、と思う。

2008.02.11
 昼間は少し暖かくて、エアロバイクを30分漕ぐと着替えをしなきゃならないくらい汗をかいたが、夜になるとまた寒い。まあ、まだ2月なのに寒くなくてどうする、というのも本当だが、省エネだ、というわけで、オイルヒータはごく弱く、読書は座椅子にアクリルのマット、膝には膝掛け、マットは電熱だが、体温だけでかなり暖かくなるのであまりスイッチは入れず、寒い時にはマフラーをしたりコートを着たり。エアコンをつけるとうるさいのと、熱風が気に障るのでどうも。
 リエットは最初やったときは塩がきつすぎて失敗だったが、今回は成功。豚肉のペーストみたいなもので、カロリーはそれはもう高いでしょうが、美味だからたまにはいいのだ。今日はそのほかに、リエットと同じく『フランスの常備菜』という本で見つけたレモン酒を漬ける。ウォッカにレモンと氷砂糖。余勢を駆ってバレンタインデーのお菓子でも作ろうかと思うが、どう見てもすごくカロリーが高そうなガトー・ショコラのレシピなんか見ていたらその気が失せた。篠田は同じカロリーならケーキよりチーズが食べたい方なんで。
 緑金書房の2のプロットを考え出す。ミステリとファンタジー、その配合具合が難しい。どうしても掲載誌がメフィストだと、なんとなく「ミステリ寄りかなあ」なんて思ってしまうんだが、フェアプレーのルールなんか遵守してみてもどうせ、ミステリマニア以外は気づきもしないだろうし、ミステリマニアは篠田の小説なんか基本的に読まないだろうしね。

 読了本『名探偵たちのユートピア』 石上三登志 東京創元社 普通評論というのは、読みにくくて頭が痛くなる物と相場が決まっているし、まして自分が読んでいない作品についてのうんぬんかんぬんを読まされてもどうしていいのかわからないが、この本は面白い。面白すぎて当該作品を読まなくてもいい気にさせるというのは、果たしていいことか悪いことなのかわからないが、少なくとも読んで楽しいし「ほおっ」「へええ」という気にはさせられるよ。

2008.02.10
 天気は回復したが路面凍結のため今日は電車で仕事場へ。昼間パンを買いに出たが、めちゃめちゃ風が寒い。大賞候補作で未読だった小説を読了。戦中から戦後の地方寒村を舞台にしていたが、その前まで読んでいた『完全恋愛』と時代がかぶる分、こちらの時代性の欠落が鼻について正直あまり楽しめない。本格ミステリとしては優れているのかもしれないが、小説としてはどうも。しかしそれを言い出すと、篠田が小説としても満足できる本格ミステリというのはとても少ししかないので、気がついてみると偏狭なババアの繰り言状態になってしまうのだった。評論賞の方はさらに困難で、そこで扱われている作品を読んでいない作品論を評価するなんて、味見もせずに料理を作るよりまだひどい。投票者が減らないように、極力がんばるつもりだけれど・・・

2008.02.09
 また雪である。仕事場も夕方の内に撤収してきた。昼間はちょいと料理の虫がうずいたので、ホットケーキミックスと剥けてる甘栗でさっぱりめのパウンドケーキを焼き、豚バラをゆでてリエットを作った。まだ途中だけど。そろそろ仕事再開というか、緑金書房の続きのプロットを考えようかなと思うのだが、本格ミステリ大賞の候補作が決まったので、未読の本を読まねばならない。小説に関しては読んでないのは一冊だけだし、自分の推薦作が候補になっていたので迷うことはないのだが、評論の方はな。頭悪いから読むだけで大変だし、そこから選ぶというのがそもそもおこがましいな、という気分なんで、いつも「今年はやめちゃおうかな」と思ってしまう。

 読了本 『伯林星列』 野阿梓 徳間書店 野阿梓のデビュー作「花狩人」が萩尾望都のイラストでSFマガジンに掲載された、その作品を立ち読みした記憶がある。ずいぶん昔のようだが、もう大学は卒業していた歳だ。どこへ投稿する当てもなく、進まない原稿を書き継いでいた、鬱屈した20代だったろう。それだけ鮮烈な作品であったし、羨望と嫉妬を苦く噛みしめたくなる作品であったのだ。どちらかといえば寡作家なので、彼の発表作品はたぶんすべて読んでいる。これまでの最高傑作は『凶天使』、フェバレイト1は『武装音楽祭』。残念ながらいずれも新刊書店ではすでに入手できない。
 今回の作品は、226事件で皇道派が勝利を収めた架空の世界を舞台にした、ポリティカル・フィクション+ポルノグラフィとでもいうか。主人公の亡き母親譲りの美貌を持つ16歳の少年が、兄嫁に恋をして彼女をレイプした過去を持つ叔父の策謀により、性の地獄に落とされてというあたりは今風ボーイズラブ以前の古式ゆかしいジュネ物ならよくあるパターンだが(篠田も書いたことがある・笑)、それがナチスが政権を把握した第二次大戦前夜のベルリンでの出来事で、そこに日独英露絡み合うスパイ戦が交差し、というわけで、政治史のお勉強と、エスピオナージュ物のスリルに翻弄されていると、周囲の思惑で性奴かつスパイにされた少年が、延々と変態に暴行される描写を読まされて正直辟易してしまう。226の行方以外にも、日本ベルリン間に空路が開設されているといったアナクロニズムがあちこちに仕掛けられているが、それが鮮烈にありえたかもしれぬ別の過去を照らし出すかというとそうでもなく、細部の描写の確かさや物語的な面白さ、ただの孫引きではない咀嚼され血肉化された蘊蓄は楽しめるものの、構成はゆるんでいる感が否めない。

 『完全恋愛』 牧薩次 マガジンハウス 見慣れない名前だが本格ミステリ界の長老が書かれた作品。まだこの月だけど、来年の本格ミステリ大賞にはこれを押したいと思う。気が早いか。

2008.02.08
 今日はジムに行った以外はずっと沈没して読書。それも仕事関係の資料では全然ない、楽しみのための読書。ああ、怠けるのって気持ちいい。癖になりそう。

2008.02.07
 増刷に訂正する点がないかどうか、久しぶりに『魔女の死んだ家』を再読。そういう必要でもなければ、自分の小説を読み返すことなんてあまりないものだ、少なくとも篠田は。で、やっぱりまた見つかった。小さなことでも書き手には気になるもの。そしてそのほかにももう少し大きな、描写上の食い違いを発見してしまったのだが、それはいずれ文庫にでもする時がくるなら、そこで手を入れることにして今回は断念。初版を買ってくださった読者の方、申し訳ありません。どこを変えているのか、知りたかったら講談社経由でお手紙ください。
 今日は仕事らしい仕事はそれだけで、後はずっと読書。去年からなんか気ぜわしいというか、借金取りに追いかけられているような気がずーっとしていたので、当面読書に精を出すことにする。

 読了本『顔師・連太郎と五つの謎』 日本舞踊の舞手に化粧をする顔師を主人公にした連作ミステリ。主人公が探偵役だが、彼にインスピレーションを与えるのがいつも持ち歩く古人形だ、というあたり、我孫子さんの連作を連想させ、対比するとよけい皆川さんらしさが際だつ。しかしなぜか作者ご本人が文庫化を承諾されないという。理由は不明。リーダビリティの高いミステリなのに。
 『祝婚歌』 短編集だが表題作は未読(だと思う。最近記憶力に自信がない)だった。腐食銅板画に憑かれた女性芸術家のデーモンが主題で、『彼方の微笑』から『冬の旅人』に繋がっていく作品。
 『殺人配線図』仁木悦子 古本屋の均一台で拾った一冊だがこれはかなりの傑作。素人探偵を事件に接近させる動機付けにまず感心させられ、少年のラジオ組み立て趣味といった昭和三十年代らしい要素が、うまく生かされている手際にも感銘。真相は「聞いてみればそんなに意外じゃないのに、なぜその可能性に気づかなかったんだろう」と首をひねり、実は最初に感心したところが煙幕の役を果たしていたということに気がついてまた感心した。「陰鬱な西洋館を舞台にして書いてみたのに、ちっとも怖くならなかった」と作者はいっていたそうだが、殺人は起きていても基本的に健康的で明るい終わり方をするのが仁木ミステリの持ち味。しかし作者は脊椎カリエスで一生を車椅子で送った女性で、その「健康的で明るい」作風は彼女の希求であり祈りであったろうと思えば一段と心にしみる。

2008.02.06
 天気は悪いが初志貫徹で神保町に行く。しかし今日はいろいろと外しが多い日で、その前に東京駅の丸善本店に行った。『ホビットの冒険』を再読したので、原書を買おうと思ったんである。『指輪物語』のペーパーバックは昔3冊とも買って、読もうと何度かチャレンジして、挫折してます。詩とか、気に入った文章とかを拾い読みしてるくらい。『シルマリリオン』は、全然歯が立たなかった。ところがないのですよ、天下の丸善に『HOBBIT』が。『The Lord of The Ring』もありゃあしねえ。ハリポタばっか並べおって、ぶちぶち。
 電車で水道橋へ。前回皆川さんのノベルスをゲットした本屋、篠田が持っていたのでスルーしたのも消えていた。均一台で仁木悦子のミステリを4冊各100円で。三茶書房でまた久世光彦を一冊、それから皆川さんがお好きで作中に登場させる西条八十の詩集『砂金』の複製本1500円。昔ほるぷというところがこういうのをたくさん作って、セット売りしかしなくて、宮沢賢治の一冊が欲しいばかりに金がない学生の時に1万円以上払って、残りを売り払った覚えがあるなあ。洋書の北沢書店は水曜休みでここも外し。でも九段に近い外れの方の本屋で、皆川さんの『祝婚歌』と『顔師・連太郎と五つの謎』を発見。前者は表紙に破れがあったけど初めて見つけた本なので無論ゲット。後者は図書館流れの判子つき本を持っていたが、知り合いに数年前に貸したまま戻らずなので。K君、それあげるからもう返さなくていいよ。『トマト・ゲーム』の文庫も要るならあげるよ。
 帰宅すると、古本屋ものの第一回、一応編集部OKとなる。それから、ミステリーランドの『魔女の死んだ家』が4刷りになそうだ。この本はだらしないことに増刷のたびに訂正箇所がある。4刷りでもあるんですよ、それもラスト近くの決めぜりふが。「ごめんなさい」と「ありがとう」で、宇山さんの墓前にお参りしたいなあ。
 読了本 『黒いリボン』『死の花咲く家』 仁木悦子 最近のひねくれこけたミステリを読んでいて、こういうシンプルというか、素直なミステリらしいミステリを読むと、なんか新鮮やなあ。

2008.02.05
 昨日の記述訂正。『古本蘊蓄』の著者は八木さんといわれたので、てっきり八木書店の社長だとばかり思って書いてしまったが、よく見たら編集者の方であった。今日は一日仕事場から出ずに原稿の手入れをして再度送稿。これ以上いじりまわしていると善し悪しがよくわからなくなるので、少し頭を冷やす。というわけで、明日こそ神保町に行くのだ。

2008.02.04
 原稿を手入れして送稿。それからは資料用の読書。『東京下町古本屋三十年』は葛飾区の古本屋さんの書いた本。タイトルを見て「日本の古本屋サイト」で検索購入したもの。『古本蘊蓄』は神田の老舗古書店の店主がさまざまな古書について語った本で、日本最古の印刷物百万塔陀羅尼から始まっている通り、篠田の書架とはまず関係がない。しかし東京駅に関する本について書かれたところで、ステーションギャラリーで行われた東京駅と辰野金吾展の図録は1万円以上する、しかも2001年時点で、というのを見つけて、売るつもりもないけどちょっとニヤッとする。これなら持ってます。しかし平成2年が昭和2年と書かれているのはちょっとびっくり。平凡社さん、こういう種類の本で誤植は困るな、などとえらそうに思う。
 明日は鼻歌交じりで神保町に行こうかしらなどと思っていたら、講談社の担当から早くも的確な指摘が返ってきて、まだ手を離れたとはいえないということになった。心おきなく古本屋巡りを楽しめるように、明日はパソコン前でもう一踏ん張り。

2008.02.03
 えー、寒いです。雪は苦手です。引きこもって仕事してます。古本屋ものです。というわけで、全然代わり映えがしなくてどうもすいません。一応もういっぺん読み返して良かったら送稿して、資料用の古本屋本を読み上げて、もういっぺん神保町にも行ってきます。今度はボンディのカレーにしようかなって、相変わらず食欲が突出しますけど。

2008.02.02
 代わり映えが無くてすいません。今日も一日仕事、古本屋。去年書いておいたパイロット版に手を加えて、一応初回の100枚分と、本にする時に付け加えるプロローグみたいなもの。篠田がデビューした時は長いのが良し厚いのが良し的なムードがあったけど、最近はあんまり厚いのは売れないにシフトしつつあるそうなんで、いい気になって書きすぎないようにしないといけない。

 読了本『写楽・考』 北森鴻 新潮文庫 例によってクール・ビューティどサドの蓮丈先生にもてあそばれる助手どマゾ内藤君の泣きの演技が冴える、って、ごめんなさい。でも、出てくる女性がことごとくクール・ビューティでうわばみというの、これはもう作者の好みなのでは。表題作の大胆不敵。タイトルがこうでも落ちにはなかなか気が付けなかった。

2008.
02.01
 風が強くてノウミソがしびれるみたいに寒いのであります。軟弱なわたくし。『緑金書房』の原稿をやりつつ、反町茂雄の『一古書肆の思い出』の1を読み上げ、2へ。文章が非常に平易で読みやすいのは嬉しいが、明治以前の古典籍のタイトルがだーっと出てくると、ほとんどおなじみがないのでいささかしんどいのは確かなり。他にも古本屋さんの書いた本があと2冊控えておるのであるが、今日は北森鴻さんの『写楽・考』文庫が出ていたので、浮気してしまう。まだ読み終わらないけど、これから読み終えるのだ。