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2007.11.30
 「龍」ローマ編の第一回ゲラをチェックして戻す。最後まで書き上げずに連載が始まってしまった。最後までどころか、ラストはまだずーっと先だ。ほんとは一日くらい休みたいところなのだが、それほど気持ちの余裕がないし、かといって仕事場を掃除するほど散らかっているわけでもないので、今日はちょっくらリクリエーションとしてタマネギを炒めた。いま、料理は篠田のルーティン・ワークではないので、なにか作ることそれ自体が遊びっぽいものに感じられる。特に薄切りにしたタマネギを厚手のフライパンでじっくり炒める、というような単純作業は、頭を使う必要が無くて楽しい。全部オニオングラタンスープにしてしまうにはたくさんあったので、半分はバターで炒めてスープ用、もう半分はオリーブオイルで炒める。なにを作るのかというと、チーズを使わない南フランス風のピザにする。ふっくらしたパン生地の上に炒めたタマネギを載せ、アンチョビと黒オリーブを載せて焼く。タマネギの甘みとアンチョビの塩気が、あまり食べたことがないのに違和感のないマッチングで、赤ワインに合う。
 そういえば最近読んだ漫画『きのう何食べた?』よしながふみ、の中に、「料理をすることでいやなことがあっても気分をリセットできる」というくだりがあって、これはそうかもしれん、と思った。ちなみにこの漫画は、大ご馳走ではなくふつうのお夕飯のレシピが、手順付きで読めるのに、ちゃんと物語もそれに調和しているという、食べることにこだわっているらしいよしながさんらしい快作。こんなん、小説でやってみたいなと思ったが、手順が絵で見える点で漫画の勝ちかな。

 読了本『松風の記憶』 戸板康二 東京創元社 歌舞伎役者中村雅楽を探偵役にしたミステリの最終巻で長編2編とエッセイを収録。小説に関しては「やはりこの方は短編作家やなあ」という感じ。表題作の殺人トリックは、捨てトリックの方が無理筋だけど面白かったのに。エッセイでは、戸板氏が乱歩といった「美少年のいるバー」が、美輪明宏の働いていたところなのかなあ、としょうもないことが気になった。

2007.11.29
 結局昨日は仕事場に泊まって、残業してようやく104枚脱稿。メールで送稿しました。ミステリ風味のファンタジー『緑金書房午睡譚』第一話。ま、ミステリとしては他愛ない話です。ただそれをファンタジーとミックスするというのが、少なくとも篠田的には新しい試みで、その辺のさじ加減を手探りしながらだから2週間もかかっちまったい。編集部からOKがもらえれば、来年のメフィスト春号に載るはずなんだけど、とりあえずは下駄を預けましたぜって感じで、さあ、あとは年内ほかのゲラもこないし、安心して「龍」ローマ編の続きだけ書いていられる。この、だけっていうのがなかなか贅沢な、ゆったり気分だったりして、でも師走だからね、いい気になってのんびりしてると、年賀状だ忘年会だって、あっという間に時間がなくなりかねない。

2007.11.27
 昨日はまたパソコンが変になったおかげで日記更新できず。なにが起きたのかは聞かないでくれ。機械音痴の篠田にはわかりまへん。どうしてもう少し簡単に、馬鹿でも使えるような機械を作ってくれないものかとつくづく思う。
 仕事の方は相変わらずなので、食べ物話の続きをする。昨日は餃子を作った。いつもは料理の本を見て、わりと本格中国系を目指すのだが、今回はコンセプトが違う。ラーメン屋の焼き餃子、野菜たっぷりの餃子が食べたかったのだ。そうしたら、かなり理想に近いのができてしまった。白菜4分の1株は電子レンジでしんなりさせてみじん切り。軽く塩してしばらく置き、ふきんに包んでぎゅっと水気を絞る。これにニラ半束、ネギ1本、ニンニク、ショウガ、塩コショー、ついでにオイスターソースとか紹興酒とかごま油とか。肉は100グラムくらいちょこっ。で、よくまぜまぜ。あとは薄目の皮に包んでぱりっと焼く。最後にごま油を垂らして水気をとばすと、くっつき防止につけあった片栗粉が焼けてクレープ状になり、まことに軽くていくらでも食べられる。本格はニンニクは入れないとかニラも入れないとかいろいろうるさいが、これはこれで日本的に変化展開した餃子だ。 実は今度12月の東京創元社ミステリーズに、神代ものの新作が乗るのだが、その中で冒頭深春が作る餃子のイメージがこれなのだ。いつの日にか「建築探偵お料理本」が出せるときには、このレシピ採用ね、という感じ。
 それはともかく仕事の方にいまいち集中力を欠いているので、急に日記の更新が無くなったら、仕事場に泊まっていると思ってくれい。まあ、さもなきゃまたパソコンのトラブルだ。

2007.11.25
 昨日は篠田の好きなシンプル料理の対極にあるような料理を外で食べてきたのだが、それはまずくなかったしというか、これでまずかったら暴動が起きますよってなお値段で、腹の方がびっくりして今日は不調だった。54歳になっていよいよ、そんなに大量のご飯は食べられないし、ましてや技巧を凝らした料理というのもそれほどありがたくない。最近「美味しい」と随喜の涙を流したのは、10日ほど前に行った福島の山の中の温泉で、ここは岩魚の養殖をしているから岩魚づくしの料理が出てくる。岩魚の塩焼きと山椒みそ焼きと骨せんべいはいろりで焼いて、他に唐揚げと中華ドレッシング和えと巨大岩魚の刺身に肝をそえたものが出て、鍋は岩魚の中落ちに豆腐を入れたもの。これが実に上品なだしで、他にも地元の赤蕪の漬け物とか行者ニンニクをのせた木綿豆腐とか、どれもこれもシンプルながらすばらしい。我ながらメモもとっていないのにこれだけ覚えているというのは、実に口が卑しいというか、しかし美味いものはしょーがない。この宿で二食つきでなんと7800円なのだ。温泉は内湯の他に、少し歩くと共同浴場がふたつあって、泊まり客はただで入れる。片方は男女別の清潔なお湯屋で、もう片方は河原から湧出する源泉を囲っただけの野趣満点混浴風呂だから、混んでいるときはちとつらいがでもいいお湯だ。檜枝岐のとなりの木賊温泉と申します。岩魚民宿は福本屋。ただし冬季休業。

2007.11.23
 仕事の方は相変わらずなので、今日は食べ物の話。篠田は美味しいものが好きだが、あまり技巧を凝らした料理にはそんなに惹かれない。元からその傾向はあったが、最近ますますそういう感じになってきて、素材の美味しさを生かしたものが一番いい。そういう意味で好きなもののひとつに、トルコ料理がある。しかし日本のトルコ料理レストランに行っても、たいてい満足できない。というのは素材が違うからだ。トルコの野菜は味が濃い。オリーブ油で焼いてヨーグルトをかけたくらいで立派な一品料理になる。トルコのヨーグルトがまた濃くてうまい。我が家のヨーグルト好きはトルコで植え付けられた嗜好だ。だいたいトルコ料理はシンプルで、スパイスもそんなに使わない。だから日本の野菜では、どうしてもトルコで食べたのと比較して物足りない感じがしてしまうのだろう。
 それから、篠田は甘いものはそんなに得意ではないのだが、トルコには強烈に甘い菓子がたくさんあって、これが案外やみつきになり、日本にいてもたまにふっと食べたくなる。これはトルコレストランでも見たことがないので、どうしようもないなあと思っていたのだが、ものは試しでネットで検索してみたら、驚いたことに作り方が出ていた。今度トライしてみるつもりだ。それはバクラワという、シロップ付けのナッツパイである。篠田は、かの『ホビットの冒険』に登場する熊人ビヨルンの蜂蜜菓子というのが、このトルコのシロップ付け菓子に近いのじゃないのかしらと勝手に思っているんである。ただ問題は、絶対にとってもカロリーが高いということなのだ。寒くなってから、体重が49キロを切らなくなっちゃったんだよねえ。

 明日は夜外食なので日記の更新はお休み。体重もまた増えるだろうなあ。

2007.11.22
 やっと風来舎のサイトがまた使えるようになった。まったくもってパソコンというやつは便利だけどやっかいだ。仕事場のパソコンもネット用はVISTAに変えたけど、執筆用はその前のままで、書いた原稿をフロッピーに落として隣のパソコンに持って行ってメールする。繋がないのだ。ローテクなのだ。それでいいのだ、と居直る。
 この一月なにをしていたかというと、少しだけ遊んで後はたらたらと仕事をしていた。この12月にでる祥伝社文庫版の『聖なる血』はたぶん校了した。12月と2月に東京創元社のミステリーズに載る神代ものの新作はゲラを戻した。12月発売の1月号から小説ノンで始まる「龍」のローマ編は、まだ3回分しか書けていない。年内に6回までは書きたいんだけど。来年の二月に出す北斗学園2のゲラは現在再校中。で、いまはなにを書いているかというと、来年にメフィストでやるちょっと毛色の変わったファンタジー『緑金書房午睡譚』を書いているのだ。新しい話というのは、手探り状態だからなかなか進まないが、今月中には書き上げたい。それをいうなら上記ゲラも30までに戻さないとならないし、「龍」の第4回も途中までは書いているので、できるだけはやく書き進めたいというわけで、けっこうてんぱっているわりには、なんかたらたらと働いている篠田でありました。

 読了本のほんの一部 『タルト・タタンの夢』 近藤史恵 東京創元社 これは面白くて美味しいミステリ。ここに登場するビストロに行きたい、とつくづく思ってしまう。小説の中で美味を幻想するのって、腹がふくれないという言い方もあるけど、カロリーを気にせず美食に耽ることができる、ともいえますわけで。ミステリとしては「割り切れないチョコレート」の一編がことのほか好きであります。
 『澁澤龍彦のイタリア紀行』 新潮社 とんぼの本 横須賀美術館で行われた澁澤展を見にはるばる出かけて、そこの売店で買ってきた。ここに登場する場所の四分の三には行っている。つまり篠田のイタリアは、ほぼ澁澤印がついているというわけで、そこからはみ出た部分は塩野七生印がついているんだけどね。
 『パンドラ's ボックス』 北森鴻 光文社文庫 初期短編にエッセイをプラスして、北森氏の手の内を余さずお見せしましょう、という趣向の本。彼の守備範囲の広さがひかる。