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2007.10.24
 「龍」の為の資料とノートを取りあえず紙袋に収容して片づけ、北斗学園2のゲラをチェック。このゲラ読みというのが、篠田は正直な話嫌いだ。書いているときはとにかく必死だし、書いた直後はたいてい高揚しているが、しばらくして頭が冷えたところで読み直すと、なんか欠点や弱点ばかり目につくようで、ゴミ箱にたたき込みたいような気分になってしまうのだ。「いまからそんなことするわけにはいかないし」とひたすら我慢。ここを通過しないと本にはならない。
 読了本『昭和モダン建築巡礼 西日本編』 磯達雄 先日インタビューをしていただいた方の、戦後建築のルポ。写真だけでなくイラストが入っていて、どこを見るべきかをわからせてくれるので、篠田のような「新しい建築はわからん」人間にもとっつく余地がある。とはいえやっぱり一番興味が持てたのは、この本で取り扱われている中では一番古い1945年の岩国徴古館だというあたりが、すみません、つくづく昔好き人間です。

2007.10.23
 理論社のゲラが届いたので、今日で取りあえず「龍」は中断。第三回の原稿をまとめてメール送稿。今回やっかいなのは、いままでイタリア編で出てきた登場人物のほとんどにけりをつけてやらねばというので、とにかく登場人物がやたらと多い。場面はあっちいったりこっちいったりで、レギュラーの出てくるシーンになかなかならない。だから、なじみの連中の動く場面は書きやすいし熱も入る。主人公の龍よりも、トウコとセバ君の会話を書くのが妙に楽しい。
 なんで楽しいのか自分でもよくわからないのだが、セバがしゃべると「へえ、あんたってそういうこと考えてるんだー」とトウコと一緒になって感心したりする。彼は、いわゆる男らしい人物では全然ないのだけど、篠田の感じではとても「男」。センシティブで、ロマンティストで、すぐへこむくせにまたしぶとく立ち直るところがすごく男。真面目な顔をして冗談を言い、冗談のふりをして本音を語る、とトウコが評しているけど、そのへんも男だなあと思うんでありました。

2007.10.22
 今日も相変わらず「龍」。でも理論社のゲラが来るらしいので、いま書いている第三回が終わったらいったん休止する。今日はサン・ピエトロ大聖堂の場面を書いた。こないだヴァティカンで買ってきた詳しいガイド、日本語であります、と、自分が撮った写真、編集者が撮ってくれた写真、ガイドブック数冊を手元に置いて、見比べながら。そうしたら登場人物たちが勝手に自分のことばをしゃべり出した。案の定予定より長引いて、溢れた内容は次号回し。

2007.10.21
 今日も相変わらず「龍」。だもんで話題がない。外国を舞台にしていると、なんかご当地名所巡りになってしまうんだけど、今回もその例に漏れず、いまのところ篠田の好きなティボリのヴィラ・アドリアーナが出てきたが、今度はいよいよサン・ピエトロが登場する。こないだ炎天下行列してドームのてっぺんまで上がってきたからね、意地でも出すもんね。しかし、作中は暑い夏なんだよなあ。すっかり寒くなってきちゃったから、つい書きながらそのことを忘れてしまうよ。

2007.10.20
 相変わらず「龍」。いま書いているのは連載第三回の分なので、〆切は来年1月下旬なわけだ。そんな原稿をいま書いている篠田って、プロじゃないよなあ。でも、体調に自信がなくなってからはなおのこと、「書けるときに書いておかなくては」という気がしてしまうんだよね。
 読了本『奇想遺産 世界のふしぎ建築物語』 鈴木博之他 新潮社 あんまり本が落ち着いて読めないので、ビジュアル本。表紙の岩の上の教会の奇観に惹かれて購入。別にゲテモノ建築本ではなく、現代建築の名品から熱帯樹の根と合体したカンボジアの寺院まで、視覚的に刺激のある建築が多様に取り上げられている。写真と文章で2ページというのが、ちょいと物足りない感じはあるけれど。そう簡単に行けないところがほとんどだが、千葉県にある「笠森観音」というのは行ってみようかな。

2007.10.19
 一日外に出ずにパソコン前にしがみついていたわりには、進まないなあ。少し体重が増えてしまったので、今日の昼はダイエットフード、味も素っ気もないビスケット2枚と、150CCの薄いスープ。しかし腹が減って、あめ玉ひとつと栗せんべいを食べてしまった。空腹過ぎると仕事の進行にもいささか差し障りがって、他のもの食べたら一緒か。やれやれ。
 再読本『バチカン・ミステリー』 文藝春秋 小説資料として再読。在位33日で急逝したヨハネパウロ1世の毒殺説を検証した本。教皇庁で作者を待っていたのは、恐怖のたらい回しとはぐらかし。なにに似てるってお役所だわ、ヴァティカンって。漠然たる悪意の方が、暗殺者よりずっと怖い。毒殺はされなかったとしても、病気なのに誰も助けてくれなかったのは事実らしい。すごく気の毒な聖下だったみたい。

2007.10.18
 仕事を続行。書いていて、どうもよく解らないと思っていたひとりの登場人物が、その人の一人称を書いてみたら「恋をしていた」ということがわかって、初めて腑に落ちた。ああ、そうだったのか。しかし、つくづく我ながら普通の男女の恋愛は登場しないなあ。これも片方は人間じゃないし、人間な方も普通とはいえないし。ま、書いている世界自体がそういう話だからしょうがない。

2007.10.17
 晴れたので夏物の白い麻の上着を手洗いする。風が吹いて、まだ銀杏の葉は緑なのにギンナンが落ちてきた。本年2度目のギンナン拾い。後は仕事を続行。今日はあんまり進まず。

2007.10.16
 天気が悪いせいか、やけに肌寒くて、あわてて厚手の長袖シャツを着る。ローマ編の続きのプロットをやる。作中は炎暑の真夏である。そのことをときどき忘れてしまいそうだ。
 理論社ミステリーYAのフェアを宇都宮の書店さんがやってくれるというので、サイン用の本が10冊宅急便で届く。下手な字なのでせめてと、見返しに銀のペンで大書して、落款もべたべた。即返送。よろしくお願いします。
 妙な取材の申し込みがきた。世帯年収平均3000万円のセレブ様のための直販雑誌なんだそうだ。イタリア特集で、テーマが「甘い生活」「人間礼賛」なんだそうだ。いつのセンスよ、それ。桐野さんの『OUT』の表紙に、芸者の写真を載せるイタリア出版界のセンスを笑えないよね。第一篠田のイタリアは安宿と立ち食いのイタリアで、セレブともブランドとも無縁です。慎んでお断りした。

2007.10.15
 ローマ編の第二回を書き上げて送稿。ちょっとだけ伸びて110枚ほどになった。取りあえず、理論社のゲラが月末に出るはずなので、それまでは「龍」を続行する予定。連載式に一回ずつ送稿する形でやると、長編を一気に書き下ろすよりは毎度達成感があっていいな、とは思うのだけれど、次の回を書き出すたびに、書き始めのしんどさを味わうのも事実なわけで、どっちもどっちかな。そうなんです。小説って書き出すときがけっこう「よっいしょっっ」という感じなんです。
 読了本『アサシーニ』 トーマス・ギフォード 清流出版 資料のつもりで買ったヴァチカンもののミステリ。これもどっちかというと屑の方でした。
 『バチカン・エクソシスト』 文藝春秋 アメリカ人ジャーナリストの書いたルポ。これなら島村菜津の『エクソシストとの対話』の方が、掘り下げが深かった感じがする。こちらは取材対象は広範だけど。
 『あのひととここだけのおしゃべり』 よしながふみ 太田出版 マンガ家のよしながふみさんの対談集。この人はつくづく頭が良いと思う。自分が考えていること、やっていることを、きちんとことばにして表現し伝えられる人。篠田のように、やってみないとわからないどころか、やってみてもよくわからない人間から見ると、脅威だ。あ、いや、驚異だ。

2007.10.14
 今日は一歩も仕事場から出ずに仕事。来月に遊びとか、取材とか、他の仕事の予定とかいろいろ入ってきたので、書けるうちに書いておかねばと思うせいか、ここ久しぶりに筆が進んでいる感じ。しかし問題は、現在出来ているプロットが連載四回分だけで、つまりざっと400枚分で、内容的にはまだ序盤戦で、上下巻というと、最低でも千枚は書かなきゃならない計算で、なかなか前途遼遠であります。なぜ目指せ上下巻かというと、2冊並べると表紙の絵が揃うという、あれをやってみたいのねー。丹野さんの絵で。
 しかし本日はずーっと前から書いてみたかった場面を書いた。なにかと申しますと、本になるのはずいぶん先だからちょこっとばらしちまいましょう。透子がセバスティアーノを押し倒すシーンです。いや、押し倒しただけでそこから先はしません、いまのところは。呑気にえっちしてるような場合でもありませんのでね。でも、書いてて「押し倒す」という決めたことは一応決めたとおりになったけど、漠然と考えていたのとはニュアンスが微妙に変わっていたりして。いや、そういうのはちっとも珍しくない。っちゅーか、書きながらどんどん成長変化していくようなときの方が、調子はいいんです。

2007.10.13
 カナダ産松茸は味も香りも大変結構でした。まあ、一年に一度で充分だけどね。
 「龍」のローマ編連載は12/22発売の一月号から開始決定。今回はもしかすると上下巻になりそうなので、本にするには少し時間がかかると思います。

2007.10.12
 今日もずっと仕事。まあ順調。でも今回は長編を最後まで仕上げてしまうのではなく、取りあえず書けるだけ書くという感じなので、いくらかプレッシャーは少ないというか。
 仕事場の前の空き地の銀杏、まだハッパは全然色が変わっていないのに、少しだけギンナンが落ちていたので拾う。今夜はカナダ産松茸で松茸ご飯なので、初物のギンナンをトッピングしてやろう。
 読了本『結婚式教会の誕生』 五十嵐太郎 春秋社 いつの間にやら日本の結婚式は、6割がキリスト教会式になっているんだそうだ。そして昔はホテルや式場の中に礼拝堂がビルトインされていたのに、いまは独立した結婚式のための教会が建っているのだそうだ。信徒のいない、非信徒のための、結婚式のためだけの教会。宗教を欠く日本文化の特徴が現れた施設ですね。まあ、宗教のために人が死ぬような国よりはましだけど。
 『片耳うさぎ』 大崎梢 光文社 主人公=視点人物が小学六年生というのが、長所にも短所にもなっている。語り手の恐怖や困惑や過去の眩惑的な記憶を描くには子供である必要があった。しかし子供の視点では物語が十全に語りきれない。それを敢えてした結果、ラストにいたって主人公が急に大人っぽく頭の切れる冷静な人間に変わってしまい、なおかつ謎解きになっていない「真相はこうでした」の説明でラストがぎゅうぎゅうになるという、小説としてはかなり残念な出来映えになってしまっている。同じプロットを三人称多視点でねっちりと書いたら、横溝風の新展開という感じになったんじゃないかと思われるんだけど。

2007.10.11
 今日もわりと秋っぽく晴れたが、そうすると妙に陽射しが暑い。秋の晴れた日ってこんなに暑かったっけ。暑すぎるみたいに感じるのは気にしすぎだろうか。仕事は「龍」を続行。当面は粛々と続けるしかない。ああ、どっか温泉でも行きたいなあ。
 読了本『オチケン!』 大倉崇裕 理論社 落語ミステリ繋がりでこっちを読んでみたが、これはどちらかというと大学サークル青春ものギャグ・ミステリという感じで、落語がプロットやトリックに活かされる妙味は薄い。ギャグも全般にぬる系で、全体にもう少しキックが利いてテンポが良かったらなあという感じがした。このぬるさがいい、という読者もきっといると思うけど。

2007.10.10
 昨日はちょっと薬飲んで、夜は爆睡。少しぼけてるけど、眠れない状態よりはまあまし。天気も回復したので、買い物がてら1時間ほど散歩する。意外なほど陽射しが強くて、帽子をかぶらずに出たことを後悔。しかしいまの季節は、どこを歩いても金木犀の香りに呼び止められる。
 仕事は「龍」の第二回を続行。しかし、頭の中にはゲラを待っている「北斗学園2」と、来月に書く予定の来年からメフィストで新シリーズの第一回の構想がロンドを踊っていて、メモリの少ない旧タイプの頭脳はなかなかにアップアップであります。書き上げても本にならないと、メモリから消去は出来ない。その代わりほとんどの作品は、本にした段階であんまり未練もなく自分にとっては他人事になってしまう。いや、理不尽なけなされ方をしたら嬉しくないのは正直なところだけどさ、それほど自作に愛着する気持ちはないです。

 読了本『道具屋殺人事件』 愛川晶 原書房 落語ブームのせいか落語がらみのミステリが増えて、ここにまたひとつ。読み比べてみると、ニュアンスがいろいろで面白い。作家の個性が出る。本書は蘊蓄系というべきか。探偵役の隠居した噺家と、その妻がいい。しかし視点人物になる噺家の妻が、いまひとつ個性や魅力が感じられないのが残念。

2007.10.09
 今日はさらにぼけぼけ。あかん。それでもどうにか『夜想』のゲラを戻し、「龍」を送稿し、「龍」の2を書き出す。だいぶ余裕で進めているつもりだったが、イラストレータのスケジュールが取れれば12月号から連載が始まる。これまでは全部書き上げてから始める余裕の展開だったが、今回は尻に火がつく恐怖の連載となる。どうなりますことやら。

2007.10.08
 また早くから目が覚めてぼけぼけ。雑誌『夜想』のヴァンパイヤ特集のインタビュー、7月に受けたののゲラがやっと来たのでそのチェック。あんまり出ないから雑誌潰れたのかと思った。「龍」ローマ編の第一回書き終える99枚。まったくもって予断を許さず。

 読了本『心臓と左手』 石持浅海 カッパノベルス 一風変わった安楽椅子探偵もの。「いい話だと思いながらよく考えるとひっかかる」テイストはここでもあって、特にラストの「再会」かなあ。人間が「弱い人間」「強い人間」に画然と分類されうるという形式論理は、あまり気持ちの良いものじゃない。そんなことまで考えずに、さらっと流せばいいんだろうけど。

2007.10.07
 10/5は鮎川賞パーティ。早めにチェック・インして、部屋で缶ビールを飲みながらのんびり講談社ノベルスの復刊もの阿井渉介『列車消失』を読む。パーティ前に光文社と打合せ。ジャーロの連載が終わった『美しきもの見し人は』のノベルス化は来年3月にさせてもらうことに。会場の雑踏の中で人を見失い、面倒になって早々に部屋に引き上げ、缶ビールとワインを飲みながらもらったミステリーズ最新号などを読む。
 翌日は旧知の評論家濤岡寿子さんと合流しておしゃべり。彼女と別れてから講談社の担当と三田の建築会館に行き、建築学会の雑誌に載せるインタビューを受ける。その後神保町に移動して担当とおしゃべり。後つれあいとアド街で見たスペイン居酒屋へ。スペインらしい荒っぽい赤ワインが、ハモン・セラノとよく合って美味。
 本日はばたばたと外を動いた影響で、ぐんにゃり伸びて昼風呂に入ったりしつつ、鮎川賞受賞作を読む。『雲上都市の大冒険』山口芳宏 笑劇として読めばまあ楽しめる。トリックも、実現不可能と評するのは野暮というものだろう。ギャグなんだから。しかしせっかく魅力的な舞台を用意しながら、そのたたずまいがちっとも目に見えてこないのがもったいない。
 少しだけ「龍」を進める。明日中には第一回を書き終えたい。

2007.10.04
 ジムに行った他はずっと仕事、ずっと「龍」。やはり長引きそうな気がするなあ。しかし枚数の予想は、当たったためしがないからな。
 講談社ノベルスの記念復刊セレクションで、篠田が偏愛している皆川博子先生の『聖女の島』が出た。講談社文庫は疾うに品切れだし、光文社文庫もすでに店頭から消えているから、未読の人はアマゾンで注文してもお買い遊ばせ、である。この小説のことは言い出したらきりがないから、逆になにもいわない。しかし今月は理論社ミステリーYA!でも皆川さんの新作が読めるし、本当にホクホクの月だ。
 明日は鮎川賞のパーティがあって泊まりになるので、日記の更新は一日お休み。

2007.10.03
 今日は、来年メフィストでやる連作短編の取材のため、講談社の編集さんと待ち合わせて門前仲町から佃島月島を歩いた。Nさんは、篠田が知り合ったときは文庫の部長だったが、いまはもっとずっと出世されていらっしゃる。今回は生まれ故郷の月島を見たいというわけで、わざわざご出馬願い、ジモピーならではのディープな月島案内をして頂いた。月島は基本的に一ブロック5軒の長屋で構成されていて、それも地域によって二階建てのエリアと一階建てのエリアがあったとか、玄関側の路地と裏の路地、そして共有の井戸で構成される町の構造とか、すっかり変わってしまっているようで、実はあんまり変わっていない月島だった。

2007.10.02
 今日も7時に自宅を出て仕事場へ。ずーっと「龍」。あと、午後に理論社と打合せ。北斗学園2は来年2月に出ます。

2007.10.01
 今日から朝起きる時刻を一時間早くした。だいたいいつも5時前に目が覚めて布団の中でごろごろしているのだ。それだったら6時に起床しても大差はない。それに一時間早く始動したら、午前中の時間が長くてなんだか得した気分になれた。
 龍のローマ編、あんまり速くはないけれど進行してます。