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2007.07.31
 原稿がひとつ終わったので仕事場の掃除。取りあえず連載は終了なのだが、資料本はノベルスにするときまた要るので、ひとまとめにして別の部屋に移動。床に掃除機をかけてフローリングを拭き掃除。余勢を駆ってスーパーからゴム手袋とスポンジを買ってきて、台所のレンジ周りまで掃除してしまう。
 あとはのんびり読書。取りあえずは仕事に関係ない本を少し読む。

 読了本『朝顔はまだ咲かない』 柴田よしき 東京創元社 日常の謎系のミステリだが、ミステリ色はわりと淡いめで、青春小説の短編連作という感じ。読み味がとてもいいのは、ヒロイン小夏と友人秋の女の子同士の関係が、さらっと嫌みなく描かれているためだと思う。こういうの、篠田には書けません。
 『聖餐城』 皆川博子 光文社 17世紀のドイツ三十年戦争を、傭兵隊の中で成り上がっていく孤児の少年とユダヤ人商人を視点に活写した大長編。もっと悲惨にぐちゃどろになるかとこわごわ読んでいたけど、けっこうエンターテインメントでした。もちろん戦争は悲惨なんだけど。それにしても皆川先生といい辻真先先生といい、70過ぎて次々と大長編を執筆される、そのエネルギーはどこから。

2007.07.30
 午前中はすさまじい雷雨。近くに落雷したような音も。心配なので一時パソコンを切って待機する。夕刻、ジャーロの最終回を直し終えて送稿。雨も上がってやれやれ。

2007.07.29
 気温のせいか気圧のせいか頭が重くて、駅のスタバに原稿を持って出かけるが、そのうち頭痛+視界がハレーション。戻ってぐったら。とても仕事にならないので、読書と数独で時間つぶし。

2007.07.28
 朝はミンミン蝉の声で起こされた。気象庁より先に蝉が梅雨明け宣言をしたみたい。家の近所に見事な蓮池があることに去年気がついたので、早朝に起きて見物に行く。前にベトナムで蓮を撮って建築探偵の表紙に使ったが、あのときはずいぶん遠目だった。今回は手に触れられる近さに大輪の蓮。改めて『極楽のイメージに使われるのも当然かあ』感嘆した。濃ささまざまの紅色に、黄緑の特異なかっこうの花芯、そして黄金の蘂。
 朝から仕事をしようと思ったのだが、昨日買ってきた『フランスの常備菜』という本を見ていたら、いろいろ作りたくなって、昼過ぎになったら暑くて眠くて伸びてしまった。いかん〜 明日は夏休みの宿題のように、朝涼しい内から始めます。

2007.07.27
 めちゃめちゃ暑い。梅雨は明けたんだろうか。予定通り医者に行き、その後池袋のリブロで、新聞などでチェックしてあった本を買う。新刊ばかりなので、目的のものはみんな買えた。持って帰るにはちょっと、という嵩と重さになってしまい、配送を頼んだが、それでも東京のシティホテルでシングル一泊した程度の金額。本は決して高くないと思う。脳力のトレーニングという点でも、主体的に思考する必要のある読書は優れているはずだしね。問題は置き場所だけでしょう。篠田も小説については、どうしても読みたい新刊以外は出来るだけ文庫を買うようにしているのだが、既刊の文庫が恐ろしい勢いで書店の店頭から消えている印象がある。もちろん消えているのは文庫だけじゃないんだけど、文庫というのはもともと良い作品を長く売るためのものだったんだけどなあ。
 読了本『五足の靴』 岩波文庫 明治四十年の夏、五人の若い詩人たちが連れ立って九州へ一ヶ月の気ままな旅に出た。与謝野鉄幹や北原白秋、吉井勇ら。鉄幹以外は全員20代、まだ学生服姿。新聞に連載されたその旅行記。この時代の旅行事情もわかるし、日本耽美派の出発点、白秋の『邪宗門』など、明治の南蛮文学が書かれる契機となった。なんか、とても楽しそうな旅でありましたよ。柳川、行ってみたいなあ。

2007.07.26
 ジャーロ、一応書き終えた。数日冷やしてから読み直して入稿することにする。あらっ、わたくしときたら、明日で間に合うことは今日しないのがモットーだったはずなのに、〆切は8/15ですわよ。早すぎますわ。ん、もう。
 でもまあ、それじゃ明日は医者に行って、それから池袋に出てチェックしている本を買おうっと。仕事の必要だけでなく、依然として篠田の最大の娯楽は本を買って読むことだったりするんだよねえ。いくら本が高くなったといっても、都内でホテルに泊まってレストランでご馳走食べるか、温泉に一泊する分のお金でどれだけ本が買えるかと思うと、我ながらつつましー。

 読了本『毎日かあさん4 出戻り編』西原理恵子 ああ、カモちゃんが死んでしまった。というわけで、いつもながらの抱腹絶倒に加えて、泣けます。

2007.07.25
 理論社の担当から連絡が入ったので、ジャーロが終わったら次の仕事は北斗学園の第二作になると思う。もっとも他の作家さんの刊行予定が目白押しなので、本が出るのは確実に来年だとは思うけどね。その辺の予定などは、ミステリーYAの公式サイトに随時掲載されていくでありましょう。検索エンジンで「理論社 ミステリー」でお訪ね下さい。早見裕司さんや山田正紀さんの小説連載、綾辻さんと牧野修さんのホラー映画対談など、読み物も充実しておりますぞ。
 そんなわけでジャーロはあともうちょっと。明日中に書き上げられれば、明後日は医者に行って、月末に直しをして、入稿出来るわけだなあ。そうしたら今度こそ、次の仕事に入る前に皆川さんの『聖餐城』を読むんだッ。落ち着いて読めないともったいないから、いままで取ってあったのだ。美味しいものは大事にするんです。

 読了本『密室キングダム』 柄刀一 光文社 力作だと思う。趣向を異にした五つの密室が登場する本格ミステリ。トリックも目新しく、不可能興味満載。だけど、なぜか萌えないし燃えないんだなあ。なんでなのか、ミステリ・プロパーではない篠田にはわかりませんよ。事件は充分派手でケレン味たっぷりだし。ただ展開にスリルがない、物語に緊迫感がない、というのはある。殺される人間がみんな人形めいているから、読んでいて殺されても痛くもかゆくもない、というのもあるな、確かに。ゲームだとしたらあんまり冗長だ。それから、これは篠田個人の趣味だけど、こんな構造の洋館は絶対ありません。明治時代の石造建築という設定だけど、現代の鉄筋コンクリートのビルです、これじゃ。二階のある家の一階なのに、梁が剥き出しでその上に空間があるというのも、どう見ても変。天井が張られてないなら、壁が立っててもそれは密室ではないでしょう。校閲、突っ込まないのか。
 というわけでごめん。篠田は楽しめませんでした。

2007.07.24
 今日もたらたらとジャーロの続き。93枚まで。もうじきオーラス。ああしんど。

2007.07.23
 昨日は上野にバッハのヨハネ受難曲を聴きに行く。決してクラシック・ファンというわけではないのだが、合唱をしている知人が出来たので、声をかけてもらうときは勉強のつもりで出かけることにしている。懇切丁寧な解説のパンフと歌詞の対訳があるので、それを片手に。「そうか。バッハはドイツ人だから歌詞もドイツ語なんだね」と感心する程度の人間。カトリックだと近代以前はこういうものって基本的にラテン語だったけど、バッハはルター派プロテスタントなので、自分たちのことばで主の受難の物語を歌うわけだ。それならいっそ日本語に訳してくれないかな、などと乱暴なことを考える。
 終わった後は上野のコリアンタウンで焼き肉。まあ、なんというミスマッチ。久しぶりの大量肉に消化器がびっくりして、昨夜はいまいち安眠できず。というわけで本日はややボケ。ジャーロはやっと81枚。

2007.07.21
 ジャーロはようやく71枚。まあ、ここらがクライマックスかなという感じだけど、いつも迷うのは「この謎って読者的にはもうとっくに見え見え?」というあたりで、見え見えなことをもったいぶってたらたら説明するのはださいし、かといって意味わかんないじゃまずいし、そのへんの案配だ。
 『風信子の家』が有線放送の朗読番組に取り上げられるのだそうだ。有線放送なんて、お店で流れてる音楽くらいしか思い浮かばないんだけどって、古いか。視覚障害者の方からの反響が大きいということで、図書館からテープ録音の許諾なんかはときどきあるけど、放送ならそれより聞いてくれる人も多いのでありましょう。放送は11月だそうです。
 明日は外出するんで、日記の更新は出来ないかも。

 読了本『収穫祭』西澤保彦 幻冬舎 昨日の夜から読み出したら、途中で止められなくなって仕事せんとずっと読んでしまった。ミステリで、意外な犯人と意外な動機があって、展開の派手さに目を奪われるとあっさり足下をすくわれる。登場人物ほぼ全員が、変態か、狂人か、人格破綻者。見事に鬼畜であります。かなり、あんまりやあという感じではあるが、読ませる作品ではあります。

2007.07.20
 今日はどうにか、一応、もそもそとジャーロ。63枚まで。それとともに数独をやってます。『激辛数独』はさすがに手強くて、最初の方のはそうでもないけど、最後のレベル9とか10とかはもうっ。何度やっても途中で手が止まってしまう9と10各2問は「ちょっと無理かな」という感じになってしまったのだが、もう一度だけというつもりで紙に書き出して再トライすると、9の方の2問はするりと解けてしまった。しかし10はやっぱりあかん。『激辛』は4巻まであるので、残った問題はまた時間をおいて再トライすることにしよう。しかしこれって、本当に脳のトレーニングになるのかな。読書時間を減らしてるだけだ、という気がしないでもない。

2007.07.19
 どうも一日お休みすると、翌日は仕事に身が入らない。なにをしていたかというと料理をしていた。冷たいニンニクのスープである。夏になると必ず何度かこれを作るのだが、今年はまだ梅雨が明けず気温も低いけど、気分先取りという感じで作ってみた。
 二人前としてニンニク2株。バラして皮は剥かないまま茹でる。水を取り換えて三度ほど茹でこぼす。このとき篠田はたっぷりのローズマリーを一緒に入れることにしてます。ベランダのプランタにやたらと増えちゃってるもんで。ある程度匂いが抜けて柔らかくなったニンニクの、皮を剥いて裏ごし。コンソメキューブ一個に水200CCを鍋で煮立て、これにニンニクマッシュと生クリーム100CCと卵黄一個を混ぜたものを入れてかき混ぜながら沸騰させないように煮て、塩味を付ける。もう一度漉してよく冷やし、青みを浮かせてサーブ。カップも冷やしておくのをお忘れ無く。口で言うと面倒みたいだが、技術は要らないし時間もさほどかからない。
 これは深春の夏メニュー、特に京介が夏バテしてなにも食わなくなったときに食べさせる料理。元気が出ます。というわけで、作れるものなら作ってみたいですな、『栗山深春のクッキングブック』。こないだ書き上げた神代ものでは、彼は正統ラーメン屋さんスタイルの焼き餃子を作ってました。レシピまでは出てこないけど、作者的にはちゃんと想定があります。なにぶんにも食い意地が張ってる上に器用な男なので、ピザも捏ねれば梅酒も漬けます。飾りに凝った懐石やフレンチじゃなく、素材を活かした豪快系、あるいはエスニックやお総菜系が好みでありましょうね。

2007.07.18
 今日は仕事はお休みして東京。まずは中央区の「タイムドーム明石」というところでやっている「幻の万国博覧会」という映像を見に行く。戦争前の1940年に現在の晴海で万博が計画され、入場券を発売するところまで行ったのに1938年に中止、日本は戦争へ、という歴史事件についてのもの。そこは郷土資料館になっていて、江戸からの銀座の歴史に関する展示もあり、近代建築好きには入場料100円でいいんですか、という充実した内容だった。聖路加タワーのてっぺんでランチ、歩いて佃島に行って、老舗の佃煮屋でうなぎの佃煮を買い、銀座に出て、加藤俊章さんのイラスト展を見て、若菜のおつけものなど購入して帰る。

2007.07.17
  今日はなんだか昨日よりもっと気が滅入ってしまって、さすがに集中力ゼロで頭が働かない。しかもうっかりして『すべてのものを〜』とキャラの名前がだぶっている。全然続き物ではないので、ただのケアレスミス。本にするとき直します。みっともなくてどうも。と言うわけで、今日はやっと5枚。明日は外出するので仕事はお休みです。

2007.07.16
 やっと今日で50枚。だいたい100枚の予定で50枚というと、改めて考えるまでもなく半分来ているんだけど、これでちゃんと終わるんだろうか、よくわからないという、相変わらず綱渡りは続く。でも、きっとどうにかなるでしょう。しかし今日書いたところはかなりダークでグロい。実はいろいろあって少し落ち込んでいるので、そういうときの方がダークな場面は書きやすいのかも知れない。派手なクライマックスは、もうちょっと気分が上向いたときに書きたいもんなんだけど、果たしてこの後数日中に落ち込みが解決するかは全然わかりまへん。ドツボに落ちてるかも。

2007.07.15
 いつまでも「進まない」だと首が絞まるよというように、光文社から連載原稿の依頼書が来る。土砂降りの雨なので出かけることも出来ず、エアロバイクに載るのもさぼってパソコンにしがみついて、どうにか35枚まで進めた。しかしこの最終回、100枚で終わるのかね。例によって例のごとく、一寸先は闇の小説家である。人生いつも綱渡り。

2007.07.14
 土砂降りの雨、雨だというのに選挙の連呼、それにくわえてお祭り、と、仕事場の周囲はやけにうるさい。そんなせいだけでもないけれど、今日は原稿進まず。面目ない。
 読了本『ワーキング・ホリデー』 坂木司 読み味の良い軽いコメディとでもいうのだろうか、さわやかで楽しくテンポもいいが、出てくるのが善人ばかりのおとぎ話でもある。いかにもそれらしいホストクラブに、いかにもそれらしいおかまのママに、いかにもそれらしい金持ち娘、ヤンキー上がりのホスト、けなげで家事能力に長けた小学生、とにかく全員が「いかにもそれらしい」。あんまりにもそればかりなので笑ってしまう。まあとにかく、さくさくと読めて嫌みがないということだけはいえる。嫌みなのはおいらか。

2007.07.13
 やっとジャーロを書き出し15枚まで。これを10日くらい続ければ終わるのだ、と自分に言い聞かせる。文庫のゲラが31日に来るそうなので、それまでに目鼻が付けば恩の字。

 読了本『天使の牙から』ジョナサン・キャロル 創元推理文庫 キャロルは誰にでもお勧めできる小説家ではない。なにしろ意地が悪い。この作家はベッドの中で眠る前に「自分にとってなにが一番嫌か」「なにが一番起きて欲しくないことか」をいつも考えているような気がする。描写力が抜群なので、奇をてらってもいない代わりに魅力的なキャラやシチュエーションが描かれて、開幕からすっかり物語の中にのめり込んでいると、そろそろと不穏になってくる。幸せな恋や順調な人生に、さりげなく現れる不幸の翳り。ひとつならまだ耐えられる。ふたつでもまだなんとか。それまで持っていた幸せに身を支えて、雄々しく立ち向かおうとするが、しかし。まったく情け容赦もない。不条理で残酷。しばしば超自然的、しかも説明抜き。どっかーんとやられて、ばっさり断ち切られて、一巻の終わり。呆然と立ちすくむ。絶対好きなタイプの小説ではないのに、なぜか「これこそ小説だ」という感覚がくっきり心に刻まれて、新しい本が出ると手が伸びてしまう。
 しかしこの小説は、キャロルには珍しく救いがある。あるんだけど、そこまでの展開がなあ。痛いのなんのって、ちょっと忘れられない。死に神と人間の闘争の話なんだけど、凡手が書けばあほなファンタジーか薄い寓話にしかならない話を、ここまで恐るべき小説にしたキャロルの手腕に戦慄。付け加えるなら翻訳家故・浅羽莢子の名人芸にも、心からの哀惜を。彼女の訳でないキャロルは、実を言うと読みたくない。

2007.07.12
 東京創元社ミステリーズ8月発売号に載る、神代もの「桜の園」の完結編ゲラが来たので、ジムに行くまでこれを読む。まあ、わりと面白く書けたかなと思う。篠田はもともと根っこがミステリマニアではないので、物語とミステリの配合具合はこれくらい、つまり建築探偵よりはややミステリ少なめ、の方が肌に合う気もする。
 本格ミステリらしい謎を設定して、それが論理的に解かれるようにすると、たいてい物語に不自然な部分が出る。どうもこれが気に障って、あまり好きではないのだ。篠田が「日常の謎」ものが好きでないのは、こちらの方がより強く不自然さを意識させてしまう場合が多いせいだ。密室だ、首切りだと派手々々しい世界の方が、もともと人工的な分不自然もへちまもねえ、というふうに思えるから。
 ジョナサン・キャロルについて書くつもりだったが、それは明日にする。

2007.07.11
 郵便関係の用事が溜まったので、ペーパーや台湾版の発送もまとめて一気に片づける。しかしまだ平常にはほど遠く、お便りの返事はパスさせてもらい発送業務のみにした。ちゃんとした手紙をつけてとなると、また先送りにしなくてはならなくなるから。ペーパーの残部はまだあるので、ご希望の方はどうぞお早めに。
 午後からはまた仕事場の床に打ち倒れている。少しだけ昼寝出来たので、少しだけ回復した。それほど自覚症状はないのだが、夜ちゃんと眠れていないらしい。仕事をするまでには回復しないので、倒れたままジョナサン・キャロルの『天使の牙から』を読み出す。やっぱり浅羽さんの訳文はすごい。もちろんキャロルという作家がすごいことはあるんだけど、浅羽さんでなかったらこんなにするすると目から心へ入ってこないだろう。読了後にまた書きます。
 家に帰ると和歌山の神代ファン、Nさんからお便りが届いている。彼女とはいま、若き日の神代と辰野の「明朗少年漫画」ネタで盛り上がっているのだ。番長なんかが出てきちゃうやつです、と篠田が話を振ったら、彼女からは商店街の肉屋のおばちゃんからもらったコロッケを嬉しそうにかじる神代少年と、敵に囲まれて背中合わせに闘う神代・辰野というイラストが送られてきた。いいかも〜 しっ、しかし、ミステリじゃないと創元では書けないっすー。

2007.07.10
 体調絶不調。動く気になれず仕事場の床の上に転がったまま、本を読む気にもならないしお茶を入れる元気もない。もちろん食欲もゼロ。それでも午後からは『センティメンタル・ブルー』のゲラが来たのでこれを読む。集中力ゼロだけど、文庫なら書き下ろしと違ってすでにノベルス段階でチェックされているものだし、まあどうにかという感じ。しかし転がったままゲラを読むと、首が凝ってまた不調感がつのる。
 ペーパーのお便りが届いたので、明日はもう少し元気だったらこれの発送をやる予定。

2007.07.09
 駅前のスタバに行って最終回のプロットを立てる。いつもは空いていて静かなのだが、今日はわりと混んでいる上に、近くにカップルがいておしゃべりしているものだから、どうしても耳がそっちに行ってしまう。それでも漠然とだが一応形は見えてきた、というくらいで今日は断念。また読書に逃げてしまう。

 読了本『幻詩狩り』 川又千秋 創元推理文庫 84年の作品だが未読だったので。これは面白かった。ミステリ、幻想、ホラーのジャンルには、仮に名付ければ「幻の書物もの」とでもいうべきモチーフがある。ある「至高の書物」を巡ってストーリーが展開する作品で、たとえばミステリなら有栖川さんの『46番目の密室』、たとえばホラーなら笠井さんの『梟の大いなる黄昏』。同じく笠井さんの『黄昏の館』もこれに含められるだろう。一読災難を呼んだり人を殺したりする呪われた本、さもなければこれまでになく素晴らしい作品、天上の密室トリックとか、そういうの。当然ながらその「本」そのものを読者に提示することは出来ないので、その「あるけどない」本をどれだけ読者にリアルに幻視させられるかが成功の分かれ道になる。『幻詩狩り』は無名の青年が書き残したシュルレアリズムの詩で、それを読むものを陶然とさせ、ついには肉体から魂を彷徨い出させてしまう。「あるけどない」詩の存在を幻覚させる話の運びが非常に巧み。話のオチはちょっと『果てしなき流れの果てに』を思い出させるが、やや急ぎすぎて物足りない。もっと大風呂敷を広げてくれても良かったのになと思った。ともあれ、近来お薦めの一冊。しかし、なんで解説がないのかな。論じたくなる作品だと思うんだけど。

2007.07.08
 ジャーロの続き。どうもここに来て、伏線が足らなかったという苦い後悔がこみ上げる。今更遅い。本にするときに手を入れるしかない。いつも「ままよ」で書き出すからこういうことが起きる。しかし気がめげて読書に逃げる。

 読了本『サハリン脱走列車』 辻真先 講談社 『あじあ号吼ゆ』と『沖縄軽便鉄道は死せず』を合わせて、辻真先戦争鉄道冒険三部作と呼びたい。篠田は鉄ではないが歴史オタクなので、こういう激動する歴史の中で必死に悪戦苦闘する群像劇には弱いのだ、萌えてしまうのだ。いずれも敗戦直前の、日本領土の辺境と現地の鉄道という組み合わせは共通しながら、沖縄の「どこへも行けない島で上陸してきたアメリカ軍に追われながらの絶望的逃亡」、満州の「背後にソ連軍の侵攻の足音を聞きながら、唯一の逃げ道である港へ必死に走る旅路」、樺太の「同じくソ連軍の脅威に怯えながら、海峡を挟んだ北海道との往来というダイナミズムが加わり、さらにサプライズの仕掛けもある」本作。ああ、こんなすごい作品がなんでどれもろくに話題になっていないんだろうね。日本の評論家なんてめくらだらけだね、と差別的に叫んでしまうのだった。

2007.07.07
 ジャーロの続き。といってもまだ全然書き出してはいない。今月中に上げるとして、月中に書き出せればまずなにか突発事態が起きても〆切に遅れる危険はないから、もう少しうだうだと頭をさまよわせることにする。雨降りになればもっと気温が下がって、頭を働かせやすくなるのにな。どうも、曇ってもこう蒸し暑いのはね。
 そろそろミントのまわりに羽虫が飛び出したので、ざっくり刈り取って乾燥させる。レモンを入れて、ミントレモンティーにするのだ。それから明日は鶏肉を買ってきて、ベランダのローズマリーとタイムとセージをオリーブ油に合わせたハーブ・オイルでマリネするのだ。(料理に逃避しているのであります)

2007.07.06
 ジャーロ連載『美しきもの見し人は』の続きを書くべく、これまでの連載四回分の抜き刷りを読み返す。こういうときは思考をゆるめて開きっぱなしにしているので、小説の続きとはあまり関係ないことがいろいろ頭に浮かんでくる。いうなれば雑念だが、それが何かの役に立つこともあるので、雑念ウェルカム。
 先日の読了本にも書いたのだが、「女の子が男子寄宿舎ものにときめくのと同じように、男の子は女子寄宿舎ものが好き」なんだろうか、というのが本日の雑念。早見さんの作品はホラー・ファンタジーというべきものだが、他の例として思い浮かぶのはミステリで、綾辻さんの『緋色の囁き』、竹本さんの『緑衣の牙』、小森健太朗さんの『魔夢十夜』。いずれも女の子だけの閉鎖空間で連続して事件が起こり、百合っぽいムードも醸成される。
 なんでいまさらそんなことを考えたのかというと、男性の欲望と女性の欲望は非対称的で、女がやおい的というか、ジュネ的というか、男同士の恋愛を想像することが楽しい嗜好を持つ者がいる一方で、男のおたくが性的な視線を向けるのは幼女とか、フィギュアだとか、そういうもので、あくまで自分とそれらの対象との関係が問題なのだと一般に言われている気がして、でも必ずしもそればかりでもないのかなと思ったから。上記4作品の女子校が、女の目から見るとリアルとはいえないファンタシィである点なんかも、ヤオイ作品の男子校が全然リアルじゃないのと相似だな、と。
 男性が楽しむポルノにも「レズもの」というジャンルは昔からあるけど、これらの作品はそういうのとも違う、ロマンティシズムがあるように思えた。ただ、こっちにあって「女が読む男子校もの」にないのがホラー・テイストで、そこには男性の女性に対する憧憬と、裏返しの女性恐怖が反映しているのかも、なんても思いました。

2007.07.05
 いきなり暑い。篠田は暑いのが苦手だ。特に今頃は、まだ身体が暑さになれていないからよけいしんどい。ジムにいくくらいで、後はなんとなく一日が過ぎてしまった。いかんなあ。そんなとき、ひとつだけご褒美のような知らせ。文庫の『未明の家』が増刷になった。17刷め。有り難や有り難や。
 読了本『復活のヴェヌス』 タニス・リー 四部作のラスト。第一部の『水底の仮面』と話が呼応している。色彩的な文章と凝った仕掛け。しかし薄い色つき水みたいな「ケータイ小説」がどかどか売れる現代には、こういう小説らしい小説は駆逐されてしまうのかしらん。
 『四神金赤館銀青館不可能殺人』 倉阪鬼一郎 講談社ノベルス 脱力のミステリ。ゆるい倉阪節が全編に流れ漂う。表四の「驚天動地のトリック」はあんまり真に受けない方が良い。でもきっと、こういうのが好きな人にはたまらないのだと思われ、一芸とはいえるかも。

2007.07.04
 『月蝕の窓』の手直しを終えてメール送稿する。やれやれ。あんまりのんびりもしていられないけど、ちょっとだけやれやれ。

 読了本『満ち潮の夜、彼女は』 早見裕司 理論社 「男子校寄宿舎もの」と同様に「女子寄宿舎もの」というジャンルがある。面白いことに前者に惹かれるのは女子であり、後者に惹かれるのは男子で、前者にはボーイズラブ的なイメージがつきまとい、後者には百合ロマンティシズムが香る。そして男性の描く女子校や女生徒に女がある種違和感を覚えるのと同じように、男性は女の書く男子校を、違う、と思って読むんだろうな。そりゃもちろん、リアルな高校生男子なんて、あんまりロマンティックなしろものでないことは確かですから。実は、篠田は女だが「百合っぽい女子寄宿舎もの」を書いてみたいのおと前々から思っていた。しかし早見さんの本作とかなり設定がだぶる感じが強いので、これはちょっとお蔵入りですね。

2007.07.03
 今日は一日仕事場から一歩も出ずに仕事。8月発売のメフィストに載せるコラム「あとがきのあとがき」1000文字を手直ししてメール送稿。その後『月蝕の窓』をプリントアウトして読み直すが、やっぱりこれって分量多いよねえ。なかなか読み終わらないんだわ。今回文章的にくどく感じるところとか、さくさくと少し削ったのだけれど、講談社文庫の字組が粗くなったこともあって、なんと600頁を大きく超えてます。

2007.07.02
 文庫直しが一応最後まで来たので、今日は仕事は休んでいただいたお手紙の返事書きや、上記ペーパーの発送をする。仕事の合間に週一くらいのペースでやるつもりなので、送って下さった方は少しお待ち下さいますよう。
 今日拝見した中で、印象に残った方がおふたり。どちらも初めて手紙を下さった方だが、おひとりは大学生で、『灰色の砦』の大学一年生深春の覚える気持ちがとてもリアルです、とのこと。篠田は無論自分の覚えた感情を元にして書いたので、30年以上時が経過しても変わらないものはあるのだといまさらのように驚いた。だって1972年のことですよ。この学生さんは生まれてもいない。パソコンもケータイもネットも存在しない時代のことなんだもの。
 もうひとりの方は、たぶんファンレターの最高齢。70歳代のご婦人でした。本当に有り難うございます。

 読了本『星の海を君と泳ごう』『時の鐘を君と鳴らそう』『宙の詩を君と謳おう』 柴田よしき 光文社文庫 最初の作品はみずみずしいジュブナイルSFなのだけれど、第二作で同じヒロインはワーキング・ウーマンになり、第三作ではすでに大きな娘がいる。柴田さんならではの大胆な物語展開。ワープ航法が一般化した未来世界を舞台に、非常に緻密な設計がなされた世界なので、これはアシモフかダン・シモンズ並の大河小説にしてもらっても良かったんでないの、という気もした。世界が大きい割に、ヒロインが等身大過ぎてもうひとつ魅力がない。まあそこは好みの問題なんだけど、篠田は美貌の天才少年ウィニーの方が好きです。

2007.07.01
 相変わらず文庫の直し。『月蝕』はやっぱしんどい。それと、次回のメフィストに「あとがきのあとがき」というのを書くので、これに着手。
 読了本 『目黒の狂女』 戸板康二 創元推理文庫 歌舞伎役者中村雅楽を探偵役にした短編ミステリ連作。日常の謎というより、もうちょっと淡い感じのお話で、歌舞伎の外題とか知っていないとちょいとわかりにくいところはあるが、雰囲気は枯淡の境地。