←2007

2007.06.30
 今日は普通に仕事。で、ネタがないのでもらった手紙に書かれていた質問について答えようかと思ったんだけど、考えてみるとそれをここでやると完全に『一角獣の繭』のネタバレになってしまうということに気がついた。ミステリとして書いているんだから、それはまずいよねー。
 仙台にお引っ越しになったSさん。あなたの手紙です。ペーパーをお送りするときに手紙を入れればいいんだけど、いまちょっとそれほど暇がなくて、手紙が書けるまで後回しにすると時間がかかりすぎて、ペーパーどうしたってことになっちゃうだろうから、勘弁して下さい。あなたが疑問に思われたようなことは、作者的には全部クリアしてます。ただそういう細かいことを、くどくど説明すると煩わしいし、クライマックスの効果を減殺しかねないのでさくっとすっとばしただけでありまして、そういうことって結構あるもんなんですよ。ああ、なんだかもどかしいねえ。まあ、普通の人はそんなことまで知らないだろうから、ちゃんと説明した方がいいのかも知れないけど。先行って文庫にするときには、もう少し考慮するべきかな。

2007.06.29
 作家の折原一さんが、石田黙という忘れられた画家に魅せられて、個人的にコレクションした作品の一部を公開する展覧会に、銀座まで行ってくる。ダークでホラーっぽいんだけど、上に透明な水が広がってるような絵。
 その後で清月堂ビルのレストランでひとりランチ。王子サーモンでスモーク・サーモンを買い、若菜で漬け物を買う。店から出たら隣のビルの二階で、深井隆の展覧会をやっていたので見に立ち寄る。『angels』の表紙に作品の写真をお借りしたアーティスト。クスノキの香りが小さな空間に立ちこめていた。こういう偶然に遭遇するから銀座は好きだ。
 最後にプランタンに寄ってBIGOのパンを買って帰宅。買い物は嫌いだが、美味いものを食べるためなら労はいとわない。

2007.06.28
 今日も文庫下ろしの手入れと、お便り書き一通。講談社ノベルスの担当から、読者のお手紙が続々来ていますとの電話。しかし、外封筒に自分の住所氏名を書いていない人がいるという。上には明記していなかったので、改めて書き加えたが、手紙に自分の名前と住所を書くのは常識の範囲。無名の手紙はたいてい人を不愉快にすることを目的に書かれているので、原則としては開けずに破棄することになっています。どうか皆さん、「書いてなかったじゃないの」などといわず、常識と良識を持って。
 東京創元社の担当編集者から、入稿した神代もの新作の感想メールが届く。簡にして要を得た的確な誉めことばに「この人には一生着いていこう」といまさらのように思う。 といっても、篠田の方が大幅に年寄りなので、「彼に死に水を取って貰おう」という方が近いかも知れないけど。

2007.06.27
 文庫下ろしの手入れを続行。間にサイン会でいただいたお便りへの返事を書く。このところちょっと忙しくて余裕がなくて、お便りへの返事が機械的になりがちだったので、今回は毎日少しずつゆっくり書かせてもらうことにした。読者との交流は篠田の原点でもあるので、このへんがいい加減になるのは良くない。自分の精神衛生の上からも。
 読了本『金印偽造事件』 三浦佑之 幻冬舎新書 漢委奴国王の金印は江戸時代の偽造品だ、という説。期待して読んだのだが、確かに状況証拠としてはいろいろ怪しむべき点がある、というところ止まりで、残念ながらなにか決定的な証拠があるとかいうことではなかった。論証としてはいかにも物足りない。

2007.06.26
 いつまでもぼけているわけにもいかないので、怠けたがる身体に鞭打って、建築探偵『月蝕の窓』文庫下ろしの手入れを始める。文章の拙いところを直すのと、字組が変わるページのバランスを取るための手入れなので、頭の作業というよりは目と手の作業。しかしやりすぎると眼精疲労と肩こりで大変なので、そのへんはときどき休みながら。
 しかし『月蝕』というのは、自分が書いておいていうのもなんだが、話が暗くて重い。ヘヴィでうっとおしい。深春と京介がさしむかいで深春の手作りお弁当を食べる、という、ほのぼのっぽいシーンなんかもあるんですがね・・・

 読了本『ヘルファイア・クラブ』 ピーター・ストラウブ 創元推理文庫 サスペンス・ミステリとでもいうのだろうか。ヒロインは49歳のトラウマ持ちの更年期なおばさんだったりして、登場人物は誰もあまり好きになれないんだけど、とにかくここに登場する悪役、ヒロインを誘拐してレイプしてつれまわして共犯者に仕立てる連続殺人鬼が超強烈。小説に登場する悪キャラとしては存在感たっぷりで、崩れたハンサムでマッチョのくせに、明らかに女性的な部分を持っていたり、それにリアリティがあってなかなかに魅力的でさえある。現実に知り合いになりたいとは絶対思わないけどね。物語はカルト的な人気を誇るファンタジー作品の、成立と刊行の謎だったりするんだけど、とにかく篠田にとってこの小説はかの悪役君がすべてでした。あー、怖かった。

2007.06.25
 今日も頭ボケボケ。サイン会そのものの疲れというより、眠りのパターンが崩れるとなかなか元に戻せない、そのせいである。おかげで今日はほとんどなにも出来ず。午後はちょっと用事で外出。ついでに本屋に寄ると、神林長平さんの「敵は海賊」シリーズの新刊が出ていた。なんと10年ぶり。シリーズものといっても、時の流れから隔絶されたSF者は気が長いなあ。でも嬉しいからいいのだ。
 このページを読んでいる篠田読者で、SFってなんか難しそう、と思っている方はぜひ、ハヤカワSF文庫で出ているこのシリーズをお手に取りあれ。痛快スペースオペラなのに思索的で思弁的でもある、お馬鹿な漫才も、ハラハラワクワクなアクションも、実験的なメタフィクションも、全部この中にある。んでもって、篠田はここに準主役を張る食い意地の張ったクロネコ型宇宙人アプロが大好きなんでありますよ。昔うちにいた黒猫が、このアプロとそっくりで。ああ、シリーズ全作読み返したい。

2007.06.24
 幸い大阪サイン会は、雨も降らず無事終了。多数のご来場有り難うございます。若い読者、男性読者が多かったのが心強い、とは担当編集者の弁です。いただいた整理券の書き込みはこれからじっくりと読ませて頂きます。やはり関東とは少し様子が違って、その1,一緒に写真、を希望される方が半数以上。こんなお粗末な顔でよろしいなら、喜んでお貸しいたしますです。その2,男性でも為書きを希望される方がほとんど。お名前を書くことでしみじみとひとりひとりの読者さんを確認させて頂くことになるので、篠田は為書きを希望して頂ける方が嬉しいです。
 ホテルだとどうしても眠りがちゃんと取れなくて、いささかぼけておりますので本日はこのへんで。しかし今回は、建築探偵本編終了以後の新企画の話なども進行し始めましたので、篠田にとってはそれもひとつの収穫でありました。建築探偵が終わっても、見捨てないでねっ。

2007.06.22
 明日は大阪サイン会。幸い雨は上がるようだ。懸案の原稿が上がったのでのんびり荷物を揃え、着ていく服を決め、あとは読みかけの本を読んだり、数独をしたりして一日沈没。講談社のPR誌「本」で、池内紀氏が紹介していた本、1987年刊行の『配色の手帖』というのだが、ネットの古本屋サイトで検索するとあっさり出てくるので、値段も安かったし注文。服飾関係のお洒落のための本らしいのだが、実をいうと『一角獣の繭』を書いているとき、登場人物たちに着せる服の色でかなり迷った。日頃自分はモノクロにポイントの色せいぜい一色か、それと同系で二色、という安直な選び方しかしていないので、いざキャラに洒落た格好をさせようというときに確信が持てないのだ。
 というわけで、明日もほとんど黒です。サイン会に来て下さる皆様、暑いようですので紫外線対策をお忘れなく。日記の更新は日曜になります。

 読了本『エンド・クレジットに最適な夏』東京創元社ミステリフロンティア 『監禁』講談社ノベルス ともに福田栄一 初めて読む作家なので他の作品の傾向は全然知らない。どちらも広義のミステリ、どちらかといえばプロットの構成で読ませるサスペンス。リーダビリティという点では、前者の方が青春ハードボイルドという雰囲気があって読者を惹きつけやすいだろう。ただ、それにしては主人公の青年がいまひとつ魅力的に感じられない。彼が次々とトラブルを引き受けて東奔西走する、そのことに必然性が感じられないのだ。徹底して金に困っているとか、病的にお人好しだとか、自らのアイデンティティを確認するためとか、なにかこう、もうひとつ踏み込んだ作りがあっても良さそうなのに、妙に淡々と山のような事件を抱え込んで、それがまたするするとうまく解決されてしまう。ラストのどんでん返しめいたオチもハードボイルドのお約束で、プロットの構成はうまくいっているだけに、ちょっともったいない気がした。同様の、うまくいきすぎる感は、後者にも感じられた。


2007.06.21
 昨日はこのように書いたのだが、結局今日の午前中で終了。自分の作品が成功しているか否かは、特に書き上げたばかりでは全然わからないので、とっとと編集者に送稿してしまう。書いている最中はなぜかちっとも意のままにならずに閉口したが、取りあえず終わらせるとやはりなるようになったというか、200枚と少しの作品だが、出てくる人物がほんのちょい役までみんな自分の物語を持っているような印象が残った。もちろんいつでもそうあれたらいいとは思うのだが、思うようにはなかなかならないものなんである。それから神代さんの姉上は、篠田がこれまで書いてきた女性像の中でも「書いた当人が気に入ってますランキング」のかなり上位に入りそうな人物になった。64歳の美女であります。若い頃は人呼んで「黙って立ってりゃ夢二美人」。

2007.06.20
 「花の形見に」はようやく最後までたどりついたのだが、プリントアウトをざっと読み直したらいまひとつなので、もう少し手入れなんかで時間がかかりそうである。今回は特に安楽椅子探偵的というか、事件はことばで語られることばかりなので、わりと淡々と進んでしまって、盛り上がりに欠けたのかも。しかしそれはいまさら変えようがないので、会話のメリハリで引っ張るしかなさそうだ。
 しかしぐずぐずしていると予定が押してしまうので、大変に困るんである。今週末は大阪サイン会だし。というわけでサイン会用のペーパー、畳み終えてまあその準備は出来た。爪くらい磨いていきたいけど、それだけの時間が果たしてあるか。
 今日、大阪の方と下関の方からお便りが届いたのだが、まだ『一角獣』はお手元に届いていないようだ。篠田程度の部数だと、なかなか行き渡らないんだねえ。結局どちらの方もネットで注文して下さったらしい。有り難いことであります。

2007.06.19
 神代もの、非常に馬鹿な錯覚に陥っていたことに忽然と気が着いた。単行本の字組で書いていたのに、そのページ数と400字詰めの枚数を混同していたのである。素人か、おまえ。というわけで、どうやら終わりが見えてきた。というか、なんでこんなに進みが鈍いのだろうと頭をひねっていたのが、そうではないとわかったので。ああ、いうほどアホが際立つ。
 しかし、これってやっぱりミステリかなあ。探偵と犯人の対決とか、いわゆるミステリらしい見せ場はみんな場外に追いやっちゃってるもんなあ。でもこうでないと小説にならない、気がするんだよなあ。おまけに20代の読者にはわかりませんでしょう的なものばかり出てくるし(傷痍軍人とか進駐軍のジープとか)、登場人物の年齢は高いもいいところだし。でも、今回はいつものレギュラーどももちゃんと出したからな。

2007.06.18
 今日は泊まりませんでした〜 相変わらず神代ものじりじりです。いやあ、なんか知らんしんどいわあ。

 読了本『モップの魔女は呪文を知っている』 近藤史恵 ジョイノベルス
 深夜のお掃除少女キリコの第三弾。近藤さんのミステリが面白いのはディテール描写の確かさゆえだと思う。スポーツジムのスタッフはいかにもスタッフらしく、看護婦さんはいかにも看護婦さんらしい。そのへんの書き込みがしっかりあるからこそ、ミステリ部分が生きてくる。
 『ユリイカ 臨時増刊号 腐女子マンガ大系』 知り合いが論文などを書いているので購入した。刊行の翌日には増刷が決定したそうで、まことにめでたいというか羨ましいというかだが、篠田は「腐女子」ということばは「負け犬」と同じくらい嫌いである。黙殺されてきたおたく女子が、自らの居場所を世間に認めさせ、自虐の呼称を進んで選び取って己れのレッテルとした、という上野千鶴子先生の論はその通りだと思うけれど、自虐は公言したら醜い、自分の腹の中で収めておきたいと思うのは篠田の美意識であります。醜かったらいけないのか、という問題の建て方はもちろんありで、人から醜いとされようとかまうものか、醜くてもこれが私の本音よ、という自意識もありだとは思う。でも、私は醜くはない、醜いといわれてもそんなのは認めない、という方が篠田です。同じやんかといわれるかもしれませんがね、当事者的には違う。違いますともさ。

2007.06.17
 すみません、日記のネタがない。じりじりと神代ものやってます。今週末はサイン会で大阪まで行くので、なんとかそれまでに初稿だけでも書き終えたいものだ。いきなり日記の更新がなかったら、仕事場に泊まったと思ってくだされ。そう、明日あたり泊まってくるかも。
 サイバラリエコの毎日かあさん連載復活。待ってたぜ。

2007.06.16
 神代ものやってます。しかし今日は体調いまいち。うっかり朝降圧剤を飲み忘れたせいか頭が痛い。仕事の傍らで、ブルーベリーパンを焼く。羊の水餃子を作る。水餃子の方は味はこれからみる。

2007.06.15
 昨日は雨で寒かったのに今日はまた暑い。出かけたときにスイカを紛失したので再発行をしてもらいに行く。記憶に間違いがなければ千円分使用されていた。ゼロでなくて良かったというべきか。
 サイン会用のペーパーを作る。あとは講談社文庫の担当が人事異動で挨拶に来たので、それの応対をした他は沈没してしまった。いい加減仕事しないとやばいっっっ。

2007.06.14
 昨日は午後から小石川植物園に行った。子供の頃遠足で行ったことがあるくらいで、ものすごく久しぶり。思った以上に広いし、樹はでかいし、みんな名札がついているのも嬉しい。つれあいは木工家だから材としてなじみのある樹木に反応し、ミステリ作家の篠田は毒草を見つけてほくそえむ。ジギタリスが花を付けていました。自然愛好家というには微妙に違う。
 ネイチャーな散歩のあとは千石のモンゴル料理店に突入。12チャンネルのアド街っく天国で見たのであります。あの番組を日本全国で何世帯の人間が見ていたかは知らぬが、「骨つき羊肉の塩ゆで」という呼び物料理を見た途端、生唾を飲み込んで、行かねばっ、と叫んだ家はそうはないと思うぞ、たぶん。美味しかったです。巨大な肉塊がどーんと出てきて、ナイフで削いでモンゴル産の岩塩を付けて食べる。しかし、コースを頼んだらひたすら羊・羊・羊っで、羊好きなんだけど、野菜料理も好きだからなあ、篠田。しかしモンゴル人は基本的に野菜食べないんだって。その点トルコ料理なら野菜もあるから、もとは中央アジアの騎馬民族でも、さすがオスマン帝国の文明は。
 羊疲れの今日は、お昼は寒天や納豆で済ませ、6/23のサイン会用ペーパーを作ったり、ファンレターの返事を書いたり、ジムに行ったり。

2007.06.12
 インタビューに人が来るので、朝から仕事場の掃除をする。ついでに夏物のスカートなんかも出して、ソファは別室に押し込んで、すっぱりと床が開かれて涼しい感じ。もちろん押し込まれた別室は涼しいどころの話ではないが、週末には担当の交代挨拶なんてのも来るし、しばしはこのまま広々とした状態でいようっと。
 明日は午後からちょっと遊びに出るので、日記の更新はお休み。

2007.06.11
 さすがに昨日は2時間くらい長く寝たが、今日はまだぼけている。しかしいつまでもぼけてはいられないので、仕事を再開。神代もの「花の形見に」の書いてある分に手を入れて、前半は100枚でほぼ終了。後半にも手を付け出した。今月はいろいろ用事もあるので、ぼっとしているとすぐ月末になってしまいそうだ。

2007.06.10
 昨日は本格ミステリ作家クラブの執行会議から総会、そして贈呈式パーティがあった。ちなみに受賞作は小説部門道尾秀介『シャドウ』東京創元社、評論部門巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』講談社。
 二次会のあとは柴田よしきさんの仕事場に、光原百合さんと寄せてもらっておしゃべり。徹夜してしまったら明るくて寝られなくて、自分の仕事場に帰ってきたが結局やっぱり眠れない。

2007.06.08
 信頼している友人から最速で『一角獣』の感想をもらう。もちろん当人に向かって嫌なことをいうような人間ではないが、それでも忙しい仕事の中で「読み出したら止められなくなって読み通してしまった。面白かった」といってもらえるのは本当に嬉しい。えらい評論家様にいろいろ理屈をつけて誉めてもらえるような小説家ではないのはもう百も承知。面白かったに優る誉めことばはないということをいまさらのように痛感。
 今日は休業。夜飯にハンバーガーを作ることにする。最初になにをするのかといえば小麦粉を計ってパンを焼く。ハンバーカー用の丸いバンズはこのへんでは売っていないし、マックがまずい原因のひとつはあのふにゃふにゃのえせパンだ。今日は歯ごたえ重視でフランスパンのレシピで。といってもこねは機械にさせて、成形だけ手でやる手抜きパン。パテは100%ビーフ。挽肉を白くなるほど手でこねて、これだけでは肉らしい歯ごたえに欠けるから、シチュー用の角切り肉を刻んで加え、繋ぎもゼロ。もっともまだ食べていないから、味の方は成功かどうかわからない。
 前に佐世保に行って、名物佐世保バーガーのうまさに仰天した。いくらなんでもバーガー食べに九州まで行けないから、自分で作ることにしたのだ。向こうでも出てくるのに時間がかかって驚いたが、パンから作ればこれも立派なスローフードである。

 明日は本格ミステリ作家クラブの総会とパーティなので、日記は休み。

2007.06.07
 今日も本の発送。台湾版プレゼントに加えて『一角獣』の見本刷りが来たので、これも知人に送る。それからジムまでの時間は、上高地で撮影してきた写真の整理。スクラップブックにレイアウトを考えながら貼るのが、時間はかかるが好きなんであります。

 読了本 『スラッシャー 廃園の殺人』 三津田信三 講談社ノベルス 西洋建築と庭園と廃墟は趣味なので期待していたが、ホラー映画には全然趣味がないので篠田的にはツボ外れ。犯人に意外感がないのは、そこにいたるまでの雰囲気のチープさがまさしくトリックと直結して、伏線となっているからだろう。つまり「あー、なんかそんな気がしてたもん」という感じになってしまうのである。

2007.06.06
 今日は手紙の返事書き。台湾版のご希望があったので仕事場のクローゼットを改めて眺めたら、建築探偵のノベルスがずいぶん場所を取っているなといまさらのように思った。著者のところには初刷りのときに見本として10冊、その後増刷になるとそのたびに一冊届く。友人知人への献呈はこれとは別に出版社に頼んで送ってもらうので、だいたい10冊近くは手元に残る。特にシリーズ物の場合、途中の一冊だけを人にあげるというのもなんだかやりにくくて、気がついてみるとその本が溜まりに溜まっているというわけだ。
 ひとつ思いつきなのだが、建築探偵が完結したらそのときの記念として、シリーズのご希望の一冊にあなたのお名前とサインを入れてプレゼントします、という企画はどうかな。送料と宛名カードは入れてもらうということで、応募を募る。新しい本の方が残部は多いから、希望を第三くらいまで書いてもらって出来るだけご希望に添えるように。実現できるかどうかわからないが、ちょっとそんなことを考えた。
 大阪のYさん、きれいな文字のお便り本日拝受。台湾版『翡翠』お送りします。ニフティのFSUIRIですか。なんか懐かしいですね。『美貌』のホテルが消防法違反だ、というご指摘をいただいたのは確かFSUIRIだったと。文庫版ではそのへんに手入れしました。当時はちょいと感情的に反発したりもしましたが、今思えば有り難いことだったと感謝しております。

2007.06.05
 ようやく『センティメンタル・ブルー』の手直しを最後まで終え、おまけとあとがきも書き終えて少しほっとする。たまっていた手紙の返事を書き出す。明日はこれをまとめて終わらせるとしよう。
 杉並のSさん、今日おたより届きました。台湾版の『原罪』まだあるのでお送りしますよ。それから西荻グルメ情報有り難うございました。お店のセレクトが実に篠田好みです。よくわかっていらっしゃる。いま篠田が行く気満々でいるのは、先週の出没アド街ック天国に登場したモンゴル料理店です。食べることに関しては深春な私でございました。深春のクッキング・ブック、作れたら楽しそうだけど、売れないだろうなあ(笑)
 読了本『フラワー・オブ・ライフ・4』 よしながふみ 新書館 今回で完結である。ええー、終わっちゃうのおと思いながら読み出して、最後泣いてしまった。よしながさんって、ほんと話の作りが上手いなあ。タイトルの意味がようやくわかる、その終盤の哀切さよ。また最初に戻って読み返そうっと。それとこういうのを読むと、やっぱりまた若い子の話が書きたいと思う。ジジイが好きとかいってるくせにね、中学生や高校生の話が書きたくなります。

2007.06.04
 『センティメンタル・ブルー』の手直しを続ける。この本で初登場した蒼の友人結城翳のキャラが少しぶれているような気がして、『angels』を再読してしまう。この話は篠田のミステリにしては珍しく、クローズド・サークル内の殺人を含む事件が限定された時間に起きて解決される。タイムテーブルを作るのにずいぶん時間をかけて、けっこう自信作だったのだが、いま読み返すと詰め込みすぎという感じもある。

2007.06.03
 新しいお仕事。「夜想」という雑誌で吸血鬼特集をするので、インタビューをとのこと。もちろん有り難くお話頂戴する。もっとも「どこからこういう話を思いついたのですか」とか「テーマは」とか聞かれると、篠田はたいてい「わかりません」「忘れました」「なにも考えていません」なんてことになっちゃうんだけどね。

 読了本『迷宮パノラマ館』 芦辺拓 実業之日本社 バラエティに富んだ芦辺さんのひとり雑誌。通読すると芦辺さんはミステリ作家だけどそのルーツは幻想文学にある、ということをいまさらのように感じる。
 『土の褥に眠る者』 タニス・リー 「ヴェヌスの秘録」の第三巻。ロマンティックでミステリアス。これまでの中の白眉といえる。

2007.06.02
 6月は人事異動の季節。講談社文庫の担当が異動になってしまった。大きな会社はどうしてもこれがあるけど、物書きにとってはなにひとついいことがない。恐ろしいことに、担当が異動した途端にそれまでの仕事いきなりがご破算になってしまう、などということもあるんでっせ。作家を切るときに、その作家の担当を異動してそれを機会にさりげなく、などという怖い話もあったりして。いや、どこまでほんとかは知らないけど。
 アマゾンは一度ある本を買うと、それと同ジャンルの本を「おすすめ」として頁に載せてくる。ニコリの数独、上級編2冊を終えて取りあえずやるのがなくなったなと思っていたら「激辛数独」などというシリーズが出ていて、我慢できずに注文してしまう。で、今日届いたのでさっそく取り組んでみたら、最初の方は上級編よりむしろやさしくてちょっと拍子抜け。あまり簡単なんだと困るのだ。後を引いて止められなくなるから。仕事の合間にちょっと考えて、あかん、と放り出して、また翌日考えて、数日がかりでクリアくらいのがコストパフォーマンスがよろしいね。上級編で一冊2ヶ月かかったから、せめてそれくらいはかからないと。しかし、これにはまると読書時間が減ってまたつん読本が増えてしまうんだよな〜

2007.06.01
 今日もひたすら仕事場から出ずに『センティメンタル・ブルー』の直し。いくらか時間があるから、なにかおまけをつけようかと思う。といってもそのために文庫を買ってくれる人がいるかというと、うーん、いないんじゃないかとも思うんだけどね。ちなみに今回の解説は野間美由紀さんにお願い致しました。

 読了本『ふたつめの月』 近藤史恵 文藝春秋 『賢者はベンチで思索する』の続編。ミステリとしては日常の謎派に属するのだと思うが、近藤さんのミステリは「日常」と「謎」のバランスがとても良く、無理がない。でも今回はそのミステリとしての側面は置いておいても、ヒロイン久里子の心情がひどく身につまされてしまった。いきなり不条理にも仕事を辞めさせられて、時間をもてあましもんもんとする彼女。求職活動の苦痛。そうそう、そうだよね。面接に行って落とされるのって、それだけですごい屈辱だよねえ。篠田にもありました、昔。ええそうですとも。嫌なことって逆に忘れられないもんだ。面接のときはすごい感じが良くて、「採否どちらでもお電話します」というからひたすら待っていたのに、全然電話くれないで、結局こちらからかけたら名前も聞かずに笑いながら断られたこととかね。なんかそういう辛い記憶がぶあっとよみがえってきて。もちろん久里子ちゃんは仕事も趣味も恋も得て、幸せになるんですけど。