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2007.05.31
 粛々と文庫直しを続行。しかし今日は雷雨だ。雷が近づいてくると、心配になってパソコンを閉じてしまう。一度収まったのに、夜になったらまた雨と雷。車で走っていると、夜空がぱっと明るくなる。なんというか、根元的な畏怖を覚えます。これだけ人工照明が明るくてもそう思うんだから、昔はそりゃあもう「神」をイメージするしかなかったろうね。

 読了本『宗教vs国家』 工藤庸子 講談社新書 フランスにおける「人権」と「カトリック」の相克の歴史。いままであまり日本では語られてこなかった、歴史の部分だから面白いし納得もいった。日本では明治維新のときにキリスト教も人権思想も一緒に来たから、歴史の中での両者の格闘というのは、確かにぴんと来ないね。それが「宗教からの市民社会の独立分離」という意味になって、イスラム教女子生徒のスカーフ問題まで繋がってくる。でも、フランスのそういう社会もすでに機能不全が来てるよね。
 『新・UFO入門』 唐沢俊一 幻冬舎新書 と学会の本はけっこう読んでいるのだけど、これは少しスタンスが違う、「人間は空飛ぶ円盤を見てしまう者なのだ」という本。新書の宿命で、その先が読みたいんだよーっ、という木がしないでもないんだけど。ただ日本にも1960年代にUFOカルトがあって、終末思想を流布していた、なんて知らなかった。北海道に会員の労力奉仕でピラミッドが作られ、全員が頭上に舞うUFOの群れを見てしまったり。なにかに似てると思ったら、これって聖母マリアのご出現とそっくり。

2007.05.30
 新緑の上高地へ命の洗濯にいってきた。去年の6月より二週間ばかり早めに行ったら、それだけでもう緑の色も咲く花も違う。カモやオシドリはつがいでラブラブである。雄ザルは目があった途端に威嚇してきよった。やはり春というのはいろいろ大変である。こっちも一日6時間も歩いたりして、でもその分岩魚の骨酒なんか日のある内からやってしまったりして、ほんと極楽もいいところ。
 帰ってきたら当然のように下半身筋肉痛で、ああ、労働意欲が湧かん。それでもいつまでも遊んでいるわけにはいかないので、書きかけの神代ものは一度お預けにして、6月半ばまでに上げなくてはならない『センティメンタル・ブルー』の文庫用直しをやることにした。いやあ、それにしても忘れてるわ、なにを書いたのか。

2007.05.26
 今日は打って変わってさわやかなお天気。干ばつは困るが、やっぱりこういう天気の方が気持ちよく感じてしまいますが、仕事の方はちょっと難航。昨日書いた部分がどうも我ながら釈然とせず、別のエピソードを前に持ってくることにしてどばっと書き直す。最近の悪癖で集中力が持続しない。そのうち泊まり込みして、集中してやるしかないだろうなあ。
 自宅に戻るとファンレターの転送が。横浜市のIさんの厚くて熱いおたよりに思わずクラクラ。すみません。いろいろとご期待に反しているので、『一角獣の繭』には失望されてしまうかも知れません。ごひいきのカゲリ君も出てきてないし。大いに意外な要素もあって、ええっ、これはどうよー、とかいわれてしまいそう。まあ、いまさら遅いんですけどね。でも、先の展開で貴兄の予測が的中している部分もあります。どちらにしろ多くの不確定要素を孕みつつも、物語は最終局面に向かいつつあるんで、死なない程度にがんばりたいと思っております、はい。
 明日の夜行バスでお出かけして、戻りは29の夜です。仕事は28と29全休なので、日記の更新は30に再開です。

2007.05.25
 久しぶりの雨。四国はからからだというが、いくらかはお湿りが届いただろうか。雨の中駅ビルへ買い物に。ここの本屋の棚で、理論社の『王国は星空の下』が一冊減っていた。そんなささやかなことで、半日は幸せで暮らせるわたくし。地味小説家の日常はかくも微視的であります。
 神代もの「花の形見に」後半20枚まで。今月はちょいと泊まりがけで遊びに行くので、5月中に完成はちょいときつそうだ。

2007.05.24
 スタバでコーヒーを飲みながら神代もの、タイトルは「花の形見に」で決定、の後半プロットを立てる。今回の話はまたあまり動きが多くないくせに、いろんな筋が込み入っているので、読んで面白いだろうか、という不安は感じつつ、自分の書いているものが面白いかどうかなんて、少なくとも書いている最中はよくわからないよね、というわけで居直り半分書き出す。
 やはり若者を出さないと読者がご不満な感じはあるので、こっちの話にはちゃんと彼らが出てきます。神代家のお夕飯シーンなんかもちらりと。ちなみに献立は、鰺の塩焼き、冷や奴、焼き餃子、コロッケ。四人それぞれのリクエストをそのまま活かしたらこうなった。誰がどれをというの、わかるかな。
 読了本『パズルゲーム☆はいすくーる』15巻 野間美由紀 白泉社文庫 これだけ長く、しかも質的な水準を守って書き継がれている本格ミステリまんがはないです。今回はひねりの効いた短編らしい短編ぞろい。いずれも粒より。シリーズの前を知らなくとも、この一冊で充分楽しめる。

2007.05.23
 昨日は二月に一度の医者に行って、その後祥伝社の担当と会う。飲みかつ喰らい、考えてみたら全然仕事の話をしなかった。今日は少し沈没気味だが、神代ものの前半を一応書き終える。
 理論社ミステリーYA! が韓国で翻訳刊行されるそうだ。読者カードのコピーももらった。今回はけっこう年配の方が多かったな。

 読了本『カワセミの森で』 芦原すなお 理論社 ミステリーYA!シリーズの新作。しかしこれはミステリ読みとしては大きなサプライズがある。それがなにかはネタバラシになるのでいえないのだが。ヒロインがとても魅力的なので、彼女が登場する前作を読もうかと思ったら、アマゾンで検索したらすでに古本しかない。ああ無情。

2007.05.21
 昨日は芦辺拓さんの結婚報告パーティということで、神保町の学士会館へ。さすがの選択というか昭和初期のレトロな建築が渋い。良き配偶者を得ていよいよのご健筆を。
 こっちは夜出歩いた翌日は、というわけでやや沈没気味。それでも神代ものを進める。あとちょっとで半分。
 明日はまた夜間に用事があるので、日記の更新はお休みいたします。

2007.05.19
 神代ものの続き、書いてます。やっぱり叙述の順番を訂正して、出来るだけ時間軸に沿ってやるように変更中。だんだん話の輪郭が見えてきた。
 創元からサイン会に来て下さった方のおたより2通転送されてくる。ありがとうございます。お返事は今月末あたりに、少しまとめて送らせてもらうと思います。担当も喜んでいることでしょう。8年編集者をやってるけど、担当作家宛のファンレターが届いたことなんて数えるほどだ、というてますから。そら、篠田は照れもせず、しつこく「おたよりちょうだい」「おたよりちょうだい」っていってますもんねえ。しかし若き乙女には、40代おっさんの心情というのはいささか理解しがたいところもあるらしい。あなたが30代40代になって読み返してくれれば、きっと「ああ、そうねえ」と思えると思いますよ。
 明日は夜に用事があるので、日記の更新はたぶん出来ない。

 読了本『オカルトの帝国』 一柳廣孝編 青弓社 1970年代に流行したさまざまのオカルト的な事象、超能力とか、心霊写真とか、ノストラダムスとか、そういうものについての論考。面白いんだけど、それぞれのトピックが短いのでどうも食い足りなさが残る。そういやあ映画「エクソシスト」、見てないんだなあ。流行物というのを、よろず無視するヘソマガリでした、当時大学生の篠田。

2007.05.18
 今日は仕事全休。まずは早起きして「スパイダーマン3」を見に行く。面白かった〜。篠田は映画マニアではないし、映画に第一義的に求めるのは娯楽である。重いテーマは欲しくない。というわけで、これもはらはらどきどきを楽しむ上では文句ない。敵が3人になった上に、ヒロインとの恋に関してもダブル三角関係になったりして、かなり忙しい分、それぞれのエピソードの掘り下げが浅くなっているとか、つっこむ余地はいくらでもあるんだけどね。サンドマンと病気の娘のエピソードが置き去りになったまま終わるのはどうよ、とか。ハリー、あっさり改心しすぎ、とか。でも脇役ではピーターのおばさんがとても好き。彼女が、愛する夫を殺した犯人が「殺されたよ」「当然のことだと思わないの」といわれて、「人の生死はそんなふうに扱っていいものじゃないわ」「赦すことが大切」と語るところが印象的だった。9.11以後のアメリカでも、ちゃんと赦しがテーマになる娯楽作品が作られていて良かった。
 その後は東京オペラシティギャラリーに「藤森建築と路上観察」の展示を見に行く。昨年のヴェネツィア・ヴィエンナーレの凱旋展。これまたなかなかに印象深く面白い。イタリア人は路上観察の「変な物件」を見て受けただろうか。案外向こうでも流行ったりしてね。でもイタリアはもともと新しいもの古いものがそのまま同居する都市だから、「変な物」だらけだろう、という気もしたりして。
2007.05.17
 今日はなんだかやたらと眠くて、頭が上手く働かない。神代ものは新しい節に入ったが、また「語りの順番はこれで良いのか」という疑問が浮上。多少効果的である気がしても、意味のそれほど大きくない「記述の逆転」はやっぱり止めて、時間軸に沿って書いていくべきか、ということなんだけど、我ながら小説初心者のような悩みだなあ。10年以上やっていても、ちっとも進歩しないのが情けないぞ。というか、昔はあんまり悩まずにやっていたことに、ふっと疑問を感じてしまったりする。
 本格ミステリ作家クラブの公開開票会後に立ち話をした方から、お手紙を頂く。「下さい」とはいったものの、本当に下さる方はあまり多くないので嬉しい。来月のサイン会は6/23土曜日の午後、旭屋大阪天王寺になるようです。お顔を見せて下さるのを楽しみにしております、Oさん。お願いついでに『風信子の家』の感想もぜひお聞かせ下さい。
 さて。明日はスパイダーマン3を見に行くので仕事はお休み。

2007.05.16
 今日は一日仕事場おこもり。神代もの、43枚まで。まあ、わりと順調といいますか。
 読了本 『ブラック・ダリアの真実』上下巻 ハヤカワ文庫 1947年のロサンゼルスで起きた著名な殺人事件の謎を、元警察官が解き明かしたノンフィクション。ここに描かれる真犯人像は、かなり衝撃的だ。ミステリではないし、そういう書き方もしていないのでばらしてしまうが、それは書き手の実の父親なのである。天才で、魅力的な男性で、音楽家であり医師、事業家。晩年は息子とも和解して91歳で若い妻に看取られて死んだ。しかしその遺品から、ブラック・ダリアとして知られている殺人被害者の写真が出てきた。犯人と目される男性は、サディストで独占欲の強い誇大妄想狂で、性欲が強く情緒不安定でもあった。しかし邪悪には見えなかった、だからこそ恐ろしいと実の息子は書く。紳士の顔をした異常者というイメージは創作の世界では珍しくもないが、現実にはなかなか見いだせない。だがそれは、単に彼らが極めて巧みに保身を行っていたからではないかと、切り裂きジャックまでさかのぼって考えてしまう。人間というのは、まったく底が知れない。

2007.05.15
 今日は雷雨あり。空が暗くなって雷鳴が聞こえてくると、おちおちパソコンに向かってもいられない。以前一度仕事場のマンションに落雷して、ブレーカーが落ちて、セーブされていない原稿数行が消えてしまったことがあるのだ。それでもまあ、数行で済んで良かったんだけど。幸い今日はそんなにひどい雷でもなかったが、その後急に冷たい空気が来て、昨日の暑さがウソのような涼しさになってしまった。
 今週は「スパイダーマン3」を見に行って戸外でビールを飲もう、といっているのだが、実はその目当てにしている店、去年も出かけたらちょうどその時間に狙ったような土砂降りになって涙を呑んだことあり。果たして首尾良くウッドデッキでビールにありつけるか、予断を許さない。
 仕事はぼちぼちと。本日、シスコン神代先生のお姉様が初めて直に登場。なぜか書くこっちの方も少し緊張したりして。いなせな美女だけど、作法を間違ったりするとびしっといわれてしまいそう。

2007.05.14
 春は田舎暮らしには一番目と耳が楽しい季節かも知れない。朝はウグイスを初め、名前を知らないいろいろな小鳥の鳴き声で目覚めさせられるし、車で近場を走っただけで実にさまざまの花が眺められる。今日は満開の真紅のポピーを見た。花を自分のところで咲かせようという気はないのだけれど、道行くだけで眺められるそうした花々には目が嬉しいし、我がベランダでもローズマリーの花が終わったら今度はタイムが咲き始めた。ハーブの花は派手さはないけれど愛らしい。
 仕事、昨日書いた部分をほぼ全部書き直し。どこから語り出すか、というのがいつも迷う。よくやるのは最初に印象的な場面やフレーズをぽんと出して、後からそこへ繋がる場面を続ける形。ミステリだったらまず死体を転がして、その後に事件前の経緯を続けるようなね。まず事件で読者の目を惹く。しかしそこでいったん時間が逆転するので、下手すると効果的というよりかえってわかりにくくなってしまう。

2007.05.13
 朝、前歯の詰め物がぽろっと取れてしまって、いたしかたなく急遽歯医者に予約を入れる。好きな人はいないと思うが、篠田は歯医者が嫌いだ。とってもを何百回繰り返してもおっつかないくらい嫌いだ。がはーっと口を開けっぱなしにしていなくてはならないアホ面は考えるだけで気が滅入るし、なによりあの音がいけない。拷問だとしか思えない。
 夕方になってからようやく気を取り直して、神代ものの新作に着手。まだ文体がちゃんと身体に入らないので、時間がかかる。三人称でも神代先生の視点なので、先生が入らないといちいち考えねばならないのだ。いま掲載中の作品はおやじとばばあばかりだが、やはり若い連中を出さないとセールス的にはうまくなさそうなので、我ながら邪心だのおと思いつついつもの三人を取りあえず出す。10枚。

 読了本『夢館』 佐々木丸美 創元推理文庫 篠田は少女ではないし少女であったこともないから、たぶん佐々木丸美に押されるツボがないんだと思う。理性的に、読者がつくのだろうなというのは理解できるけど、感性的にはぴんと来ると言うより、なんか照れくさい。すごい七五調の美文は「うはあ」という感じだし、輪廻転生っていったら泡坂妻夫の『妖女のねむり』だよなあ、という、つまり幻想を解体するベクトルの方がぴんと来るのですわ。

2007.05.12
 ジャーロの連載原稿のゲラをチェックして郵送で戻す。これでゲラ三点ともクリア。というわけで、今日はあとは読書タイムとする。

 読了本『小袖日記』 柴田よしき プロットと無関係に話のキモをいえば、かの世界で初めての長編小説『源氏物語』の、柴田らしいフェミニスティックな読み替えとでもいうべきもの。しかし驚いたのは、これってちゃんとミステリではないか。しかし帯にも袖にもミステリのミの字もない。装丁とか、すごくきれいで内容にもあっているすてきな本だけれど、その点だけはちょっと複雑なものがあります。すでにミステリって、カクレキリシタンみたいね。
 『赤い夢の迷宮』 勇嶺薫 児童向けのミステリで有名な「はやみねかおる」さんの初の大人向けミステリ。ずっとハートウォームで善良な作品ばかり書いていると、こういう毒が溜まるものなのかも知れないが、とにかくとーっても読み味が悪い。毒っぽい。正直言って、篠田のひ弱な感性では耐え難いものがありました。もちろんこういうのが大好きな人はいると思う。

2007.05.11
 今日は本格ミステリ大賞の公開開票会だが、ついでなので少し早めに護国寺に出て鳩山邸を見に行く。いわずと知れた政治家ご一族の邸宅。前にも見学したことはあるが、今度ちょいと小説の舞台モデルにするつもりでチェックしに。バラの季節のせいか見物客が多かった。
 その後、講談社の担当に6月の建築探偵の再校ゲラを渡してから光文社へ。執行会議の後開票会。結果、大賞は小説部門道尾秀介『シャドウ』東京創元社、と、評論研究部門巽昌章『論理の蜘蛛の巣の中で』と決定した。受賞者の到着を待つ間、アンソロジーを買ってくれて応募した中から選ばれた一般招待者の女性たちと立ち話。楽しんでいただけたならいいのだが。

2007.05.10
 今日は朝なんとなく仕事場の掃除をしてから、読みかけの本を二冊読み上げ、ミステリーズ六月号のゲラをやってからジムに行った。しかし手元には建築探偵の再校があり、さらに速達でジャーロのゲラが来たから、なんと一時的にではあるが手元にゲラが三本重なったことになる。こんなことは滅多にないんだけどね。
 明日は本格ミステリ作家クラブの公開開票会の手伝いをするので、日記の更新が出来るかどうかはちょっとわからない。
 読了本『バール、コーヒー、イタリア人』 島村菜津 光文社新書 イタリアのバールからイタリア人の文化を見る、イタリア好きにはにやりの文化論。ああしかし、ユーロが高すぎてイタリア行けないよ〜。
 『こどものためのドラッグ大全』 深見填 理論社 中学生以上のための新書の一冊。どきりとさせられるタイトルだが、内容は全然際物ではなく、頭から脅したり禁止したりするより正しい知識を与えるべきだという主張に基づいて、精神を変成させる薬物と嗜好品を広く取り上げ、その功罪を説いている。教育現場や子を持つ親にこそ読んで欲しい本。

2007.05.09
 昨日はサイン会をやった丸の内オアゾの丸善に行く。サイン会のときは店内が全然見られなかったので。すでに昼近くなっていたので、まずカフェに行き名代のハヤシライスを食べる。思ったより甘みが強かったけど、「日本の洋食食べてます」という感じがひしひしとして美味しかった。それから、4階の洋書売り場を皮切りにじっくりと店内を見る。床面積はそんなにすごく広くはない感じだが、とにかく天井が高いので棚のキャパは大きい感じ。昼休みになってきて、かなり店内は混み合う。結局洋書売り場で三冊購入して配送を頼む。昔々大学生の頃、京橋の古い丸善で洋書を頼んで、イギリスからの取り寄せに数ヶ月かかったことを思い出した。値段も実勢レートよりずっと高いレートかける定価で、ずいぶん贅沢な買い物だなあと思ったものだ。それから東京創元社にサイン本を作りに。テーブルの上の本の量にまずげんなり。それでも米澤穂信さんよりはだいぶ少なかったよ。
 今日はだらっとしていたが、『一角獣の繭』の再校ゲラが来たので仕事した。ミステリーズのゲラも昨日もらったし、ジャーロのも速達で届くそうだし、なんでゲラって重なるのかな。
 『風信子の家』の感想お便りが届いています。少し纏まってからお返事させて貰いますので。『王国は星空の下』の読書カードのコピーももらう。建築探偵とは違って、11歳や13歳の読者というのはやはり新鮮。自分の子供か孫のような年齢の方から、「おもしろかったです」となんていわれると、「やりぃ」って感じがします。まだ大丈夫か、ロートル篠田。

2007.05.07
 休みが明けてもあんまり関係ない。だらんだらんと神代もののプロット。だいぶ形になってきたので、そろそろ書き出してしまおうかなー。6月の建築探偵の表紙ラフが来た。上高地の写真にタイトル文字はシルバーの箔押しだそうで、なかなか美しい。それと今回は、作中スタートの季節と刊行の日付がきれいに一致するという、わりと珍しいことになった。
 明日は東京創元社にサイン本を作りに行く。おまけにサイン会で配ったのとほぼ同一のペーパーが付くはずなので、予約済みのかたはお楽しみに。どちらにも間に合わなかったがどうしてもペーパーが欲しいぞという方は、宛名カード同封で上記東京創元社までお便り下さい。もちろん文中にペーパー希望と明記のこと。感想抜きでペーパーのみの請求はご容赦。

2007.05.06
 さすがにこの雨では散歩というわけにもいかない。近くのスーパーとコンビニに行った他は、ソファにへたくれて本を読んだり、相変わらずたらたらと神代もののプロットをやったり。ようやく前半部分がはっきりしてきた感じ。150枚から200枚程度で終わると思う。
 新しい話を考えるというのは、目をつぶって泥水の中に手を入れて、そこに沈んでいるものを探っているような気分。初めはなんだかさっぱりわからなくて、とりとめもないばらばらな印象しかなく、これがある全体に纏まっていくなどとは想像もつかないのだが、やがてそれが少しずつ、「ここが頭」「ここが背びれ」「ここがしっぽ」というふうにわかってくる。作り出すというより、見つけ出す感覚。
 ところで、昨日読了本として書いた、エイリアンによる誘拐という「記憶」を人が生み出してしまう話だが、催眠術で誘導したりしなくても、想像力の豊かな人に「自分がエイリアンに誘拐されたと想像してみて下さい」といってそちらに思いを向けさせるだけで、そうした記憶を思い出す人がかなりいるのだという。言い換えれば、もちろんそうした下地があってのことではあるにしても、想像したことを実際にあったことと混同してしまいがちな人間というのは結構いるということだ。
 そこから考えると、小説家みたいな職業の人間は、そういう架空の記憶をやすやすと信じ込むことだけはあまりないだろうな。なにせ「いまここにないもの」をしょっちゅう考えて、想像して、生き生きと喚起することに努めながら、同時にそれが「自分の心から生まれたもの」であることを決して忘れられないのがこの仕事に就いている人間だもの。いや、中にはその辺を混同しちゃう人もいるみたいだけど、桜井京介や蒼が「真実」ではあっても「現実」ではないことは、篠田にはちゃんとわかっております。

2007.05.05
 天気が良いので今日も買い物がてら散歩。住宅街には園芸趣味の人が多いらしくて花多数。商店街で柏餅を買う。エアロバイクを漕ぐともう汗ばむほどだ。神代新作少しずつ固まり始めている。
 読了本『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』 ハヤカワ文庫 偽りの記憶の研究から、アブダクションの研究に向かった女性心理学者の著作。日本でだと心霊現象と思いこまれやすい睡眠麻痺、いわゆる金縛り現象が、アメリカだとエイリアンに誘拐された結果だと思いこむケースが多い、とは初めて知りました。超常現象を科学的に解体することに興味のある人には、とても面白く読めます。

2007.05.04
 昨日は連れ合いと吉祥寺で彼の友人の作品が出品された展示会を見て、そこで会った人たちとお茶。少し前ならミステリ書店TRICK+TRAPに寄るところなのに、残念。バスで石神井公園へ行き、新緑と散歩する犬とマイペースな地域猫を眺めてから、サイン会の晩には満席で入り損ねた某居酒屋で飲み食い。我が町には、こんなとき安心して入れる美味しい飲み屋が払底しているのであります。
 本日は、夕飯用に近藤史恵さんからレシピを教わった「黒豆とベーコンのトマト煮」を作る。近藤さんがブログに載せているお夕飯は、いつもシンプルで美味しそう。こちらは手作りの皮付きベーコンの端切れをたんまり、ローリエの代わりにローズマリーを一枝入れて、カイエンペッパーで少し辛めにした。なかなか満足の味。それからベランダで、育ったアジアンタムをマグカップから鉢に移植。勝手に種が飛んで増えたのです。仕事は神代もののプロットを少しだけ前進。

2007.05.02
 天気が良くなったので散歩に出る。駅を越えて南の丘の住宅街の中にあるハーブガーデンへ。レストランはこみこみ。パン屋で買ったパンをベンチで花を眺めながらかじるが、いや暑いこと。帰りに思わず茶店に入ってアイスコーヒーを飲んでしまう。篠田は基本的に真夏でもホットなのだけど。
 相変わらず神代もののプロットをいじっている。サイン会のときに「神代教授の日常と謎、の、との字に傍点が付いているのはなぜですか」と聞かれた。「日常の謎ではなく、日常と謎だから」とお答えした。「謎」というものは基本的に非日常だと思う。だからこそ魅力的なのだ。日常の現実に亀裂が入る、その瞬間。でも、神代さん達の日常も描かれるから「日常と謎」。謎が解決されれば日常に戻る、という言い方も出来るだろうが、亀裂は閉じられてもまったき日常が回復するわけではないと思う。一度あらわになった謎という亀裂の存在は、人を日常に安住させることを許さない。いうまでもなく、その方が我々の現実認識には近い。サザエさんの世界じゃないんだから。

2007.05.01
 神代シリーズの新作のプロットを練り始める。今回、神代の実家である江東区の藍川家の話が出てくるので、彼の実父母やきょうだいを含んでの年表をまず作らないとならない。あまり細かいことを決めずに書いているもので、後で「うっ。こんな年齢になるのか」と焦ったり。でもまあ、そこをどうにかこじつけてしまうんですが、ほとんどの場合。たまにどうにもならなくて、こっそり文庫版で訂正したりしております。今度の話は、神代の亡き実母にまつわるエピソードと、現在ミステリーズで連載になっている「桜の園」の登場人物が再登場する話が三つ編みのように絡む予定。相変わらず、登場人物の平均年齢がとても高い。少しは若い者も出したいものだ。蒼君は、出るかなあ、まだそのへんはちょっとわからない。
 読了本『グリーン車の子供』 戸板康二 創元推理文庫 推協賞を受賞した名作の誉れ高い表題短編を含む、歌舞伎役者中村雅楽シリーズの第二弾。解説の巽さんが「黄金の閑雅」ということばを使っていたが、それをゴールデンウィークに読むというのも一興か。「枯淡の境地」ともいえるな。どぎつさはどこにもない。上品でさらっとしてするする読める。ミステリが大好きというような若者には物足りないだろう、たぶん。でも、こういう読み味の小説って近頃は珍しいというか、ミステリ界では特に珍しいような気がする。最近の「日常の謎もの」って、甘みが強すぎる気がするんだな。それと、表題作についての「佐野洋推理日記」の当該部分を収録してくれたのが親切。物書きにも読者にも興味深いと思う。