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2006.11.30

 仕事とジムで終わった、あまり代わり映えしない一日。といっても、ネットが通じなくなったり誤植が見つかったりするような代わり映えなら、ない方が良いね。
 送られてきた本を一冊ご紹介。
 『犯行現場の作り方』 安井俊夫 メディアファクトリー 専門の建築士でミステリ・ファンの方が、作中に登場する建築の図面を書いて、建築的にも色々コメントをつけましたという本。登場するのは十角館から斜め屋敷、本陣など10.篠田は『玄い女神』に登場する建築が取られています。『館を行く』と踵を接するようにこんな本が出た、というのがとても面白い。ぜひご一読を。

 読了本『月蝕領映画館』 中井英夫 文庫版全集の最終巻。なんとなくしみじみと味わうように読み終えた。人は死に、すべては過去になっていく。でも、だからって死なないことが素晴らしいとは思えないんだ。トールキンが書いたように、人が死んでこの世界から立ち去るということにも、きっと意味はある。

2006.11.29

 結局問題はマンションの中継器の故障だったのだ。それなのにこっちは有料のサポート電話にかけて、関係ないことをいろいろ聞かれたりさせられたりして、いったい電話代はどれくらいかかったやら。おまけに連絡をよこすはずがずーっとほっておかれて、またこちらから有料電話にかけて、そうしたら「工事に行ってます」ひとこと連絡しろ、ひとこと。おかげで半日仕事にならなかったやないか。時間返せ、こらっ。

 読了本『モノレールねこ』 加納朋子 文藝春秋 ノンシリーズの短編集。ミステリではないがやはりミステリ出身の加納さんというか、それぞれに小さな謎とその解決が含まれていて、それが少しの無理もなく、するするするりと腑に落ちていく感覚がなんとも快い。推協賞作家を捕まえて口幅ったいが、「加納さん、上手くなった」と思わず横手を打ってしまった。猫好きには表紙も秀逸、表題作に登場する猫がなぜ「モノレールねこ」と名付けられたのかも、一日に何度も思い出し笑いをしたくなる。作品としては「マイ・フーリッシュ・アンクル」が好きや。こんな身内、いられたらたまらんけど憎めない。とにかく、睡眠不良で頭痛がずーっとの篠田が、なぜかこれを読んでいる間だけは全然頭痛がしなかったというのだから、アロマオイルより効く癒し系だぞ。

2006.11.28

 東京に出て婦人科の医者に行った後、柴田よしきさん、加納朋子さんと座談会。仕事がこんなに楽しくていいんかいなと思って帰宅したら、案の定後には恐ろしいことが。いきなり仕事場のパソコンがネットに繋がらなくなったので、またマンションのサーバがダウンしたのかと思ったら、そっちはどうもないという。かといって部屋の中のLANケーブルにも異常はなく、結局わからないまま明日に持ち越しになる。もしもこの日記を見ている人で篠田に急ぎの用のある方、緊急連絡は電話かFAXで願います。少なくとも明日の午前中はメールもらっても読めない可能性大です。

2006.11.27

 昨日は耳栓だけでやはり4時起き。当然頭痛。天気も悪いし外に出る気もしないというわけで、エアロバイク30分漕いでも一日で万歩計せいぜい4000歩というていたらく。我ながら、全身退化して芋虫になりそうだ。「桜の園」ようやく41枚。毎度毎度の手探り足探り。
 明日は医者と座談会の仕事で外出いたします。まあ、最低1万歩は歩いてこよう、というささやかな目標と共に。

2006.11.26

 昨日はマイスリー四分の一錠と、グッスミンという快眠サポート飲料ってのと、耳栓でわりと眠れた気がしたのに、頭のぼー感が抜けない。こうなると不眠でぼーなのか、薬でぼーなのか、他の原因があるのかもようわからん状態で、しかしこれがくる前とは違うということだけがわかっていて、なかなかにたまらんものがある。しかしいくらたまらんといっても取りあえずはどうにもならんわけで、対症療法のつもりで濃いお茶を飲んだりコーヒーを飲んだりエアロバイクをほいほい漕いで汗を掻いたりしつつ、どうにかこうにか己れをなだめすかしてパソコン前に座らせ、「なまけたいよー」というのに鞭打って、ようやく原稿24枚まで。理論社のげらが12/15頃に出るというので、それまでは「桜の園」に取り組む予定。

2006.11.25

 どうも不眠症がいけない方向に来ている。くよくよしないようにしたからといって、夜中に目が覚めることがなくなるわけでもなく、頭が重い。今日から「桜の園」第二回に手を付けたが、ぼけていて10枚書いただけでギブアップ、ソファでうたた寝。もうこれはあきらめて、睡眠導入剤を飲むしかない。
 明日は年に一度のジャパンカップの日で、よんどころない用事が無い限りは府中に行くのだけれど、今年は外国招待馬は二頭だけだというし、なにより天気が悪いみたいなんで、テレビ観戦で済ませようかなあ。

2006.11.24

 午前中理論社と打合せ。もしかしたらそうなるのではないかと予想していた通り、篠田が理論社のために書いた『王国は星空の下 北斗学園七不思議』の刊行が繰り上がって、2007年3月、創刊ラインナップの一角を汚すこととなった。原稿自体はすでに出来ているので、それは全然かまわないのだが、編集さんと別れてからハタと気が付いた。「龍」トリノ編は2月。『風信子の家』は3月か4月ということなので、これを4月にしてもらったとすると、なんと2.3.4月と連続刊行ではないか。たった三月だが「月刊篠田真由美」だあ。
 だがよく考えてみたら、喜んでいていいのか悪いのか。来年の頭の三ヶ月はまるまる建築探偵のために明ける、という予定なのに、どこまでその時間がきっちり確保できるか、いささか心配になってきた。いずれも原稿は上がっているので、ゲラだけの問題であるとはいえ、間に年末年始が挟まるしね。
 しかし、そーゆーことは考えても仕方ないので考えない。考えてたら、ただでさえやばい不眠がもっと悪化してしまう。それよりは目の前の仕事をひとつずつ片づけていく方が肝心だ。「桜の園」のプロットの続きを立てていたら、これはもうどう考えても100枚ずつ三回に決まりだよね、最初っから、という気がしてくる。書き出してみなきゃわかんないといっていたのはつい10日前なのに、我ながらいい加減なやつ。

2006.11.23

 昨日は渋谷のBUNKAMURAで、映画「上海の伯爵夫人」を見る。亡命ロシア人の未亡人と失明したアメリカ人元外交官のロマンティック・ラブ・ストーリー。映画というのは小説とは違って、物語を見せるのではなく映像を美しく踊らせるものだなと、いまさらのように思う。この映画も物語はわりと単純というか、寡黙で、入り組んでもいない。ただ、多くのものを失ったすでに若くはない男女が、激動の時代を背景に、次第に心を寄せ合っていきながら容易に互いの距離を縮めない、その床しくももどかしい古風な上品さに満ちた愛の情景が実に良い。篠田はいまだに直球勝負の恋愛小説というのは書いたことがないので、一度くらいやってみたいのおと思う。しかしやっぱりこういうロマンティシズムは、現代では成り立たないよね。謎の日本人をやった真田広之が、なかなか美味しい儲け役であります。
 昨日はまたまたちゃんと眠れなくて、今日はぼろぼろ。たれぱんだのごとく垂れながら、仕事場の洗面所を掃除片づけ。年末が近づいてくると、あちこち掃除したくなる。夕方になってやっと、2.5枚ほどの短文の仕事を片づける。明日は打合せがひとつ。ぼけていると迷惑だから、今日は薬を飲むか。

2006.11.21

 昨日は以前もらったレンドルミンを半錠飲んで、そうすると一度同じくらいの時間に目は覚めたがまたすぐ眠ってしまったので、睡眠不足に関してはずいぶんと楽。ただし、今度は薬のせいで微妙にぼけている気がするのだが、そんなことばかりいっていても仕方がない。今日は友人が遊びに来るので、朝から音楽(モーツァルト、ウィンダム・ヒル、エンヤなど)をかけながら掃除と料理。後は友人とタイ風ローストチキンにトムヤムクンのランチでしゃべりまくる。
 講談社のPR雑誌、大きな本屋に置いてある薄い冊子みたいなあれです、「本」に、『建築探偵桜井京介館を行く』の宣伝エッセイを書いている。これまで建築探偵には全然ご縁がないという人のための文章なのだが、ご興味がおありの方は捜して見て下さい。

 つれあいのところに東京12チャンネルから「テレビチャンピオンの木工家具職人チャンピオンに出ませんか」という電話があったそうだ。彼は速攻断ったとか。欲のないやつめ。
 明日は一日お出かけにつき、日記の更新は休み。「上海の伯爵夫人」を見に行って来ます。

2006.11.20

 「桜の園」第一回を手直しし、取りあえず102枚で仕上がりとする。パソコンを新しくしたときに、前に作った名刺のデータは取り出したはずなのに、それがどこへ行ってしまったかわかんなくて、もう一度名刺ソフトをインストールして名刺を作る。しかし印字がずれてしまったり、これでよしとなったら今度はURLを間違えていたりで、しかたなく名刺の紙を買いに行って、ようやく一仕事終える。それから『風信子の家』のデータを字組に合わせ、頁の配置や白頁などを入れてみる。
 これまではとにかく、ページ末をまたがらせたくないというのが脅迫観念的にあったのだけれど、機械的に行を合わせるために中身が間延びしたらあほやな、と最近は思うようになってきて、とにかく一度読み直してと思って、いまの状態でプリントアウト。
 今朝は三時半に目が覚めてしまったので、頭が痛重い。婦人科で更年期障害用にホルモン治療をしていても、結局睡眠の質は改善しないで不眠症が再発してしまったので、これは不眠症外来みたいなところを捜すべきなのかしら・・・

2006.11.19

 昨日は仕事場で昼間だらだらし、夜になってから仕事。どうにか夜中の一時近くに、「桜の園」第一回100枚アップする。夜型の方がまだしもなのか。しかしそれは無理。つれあいはかたぎの人だから。
 昼間車で外出。その間ずっとプリントした原稿に赤を入れる。国際基督教大学で、オルガン演奏会のチケットをもらったので聞きに来たのだが、曲目が好みに合わなくて前半でリタイア。19世紀以降現代の芸術って、ジャンルは違ってもなんでこう押しつけがましくて攻撃的なんだろう。今日のオルガンもやたら音量がでかく、けたたましくて耳が痛い。

2006.11.17

 あんまり代わり映えしない。「桜の園」続行。昨日は耳栓をして寝て、わりと寝られた気がするのに、それにしては頭が冴えなくて能率が上がらないので、明日は久しぶりに仕事場に泊まり込むつもり。日曜日は外出予定だし、火曜は友人が遊びに来て、水曜はまた外出、金曜は打合せ。ジムにも行かないとならないし、うかうかしていると今年の予定が終わらないうちに年末が来てしまう。というわけで、明日の日記の更新はお休みです。

 北海道新聞から『館を行く』の著者インタビュー、という話が来た。正直いってそういうのはあんまり得意ではないのだが、マイナーな本だし、少しでも売り上げに反映すればいいなということで、受けることにした。といっても、北海道地区の方にしか関係がないですね。

2006.11.16

 昨日の夜は突然がつんと不眠に入ってしまい、全然眠れない。まんじりともせぬまま朝が来た、というのが実感なのだが、今日頭は重痛いにもかかわらず、昼寝するほど眠くもならなかったので、少しは寝ていたのだろう。とにかく「眠れない」ということで悩まないようにしようとそれだけは思う。
 昨日わしたショップで買ってきた紅型のクラゲのコースターを、透明アクリル板ではさむ額で飾る。ゆらゆらとクラゲが泳いでいるみたい。今の季節向きの装飾ではないが、わりときれないので気に入る。沖縄行きたいなあ。友人のK君は北海道出身で、「沖縄に住みたいなんて人の気が知れません」というのだが、篠田も若い頃は寒いところが好きだったが、最近は次第に南方憧憬が募る。仕事しないでいいなら、暑いところだって悪くはないですよ。
 「桜の園」は66頁まで。それから来年春に刊行する神代ものの第一作『風信子の家』のデータをもらったので、それを頁立ての書式に流し込んでみる。いつもページ末で文章が終わるようにこだわって直しているのだが、そのことを重視しすぎでテキストが間延びするようなのは本末転倒だろうが、という気が最近してきたので、よく考えてみよう。

2006.11.15

 本日篠田53歳の誕生日。朝から東京に出てまず池袋リブロで本を買う。浅羽莢子さんの訳したキャロルの文庫とか。新聞の読書欄切り抜きを片手に籠の中に本を放り込みながらエスカレータを上がり、建築書のところで「あれもこれも」状態になって、配送を頼むことにするが、気が付くと藤森照信さんなんかの本と並んで『桜井京介館を行く』が平積み。うわっ、恥ずかしい。それから、しまった、配送の伝票に名前を書かなくてはならんのだ。あんまり汚い格好してなくて良かった。籠の中にボーイズラブとか入ってなくて良かった。ヤングアダルトと猫マンガと文鳥マンガは入ってるけど・・・
 リブロになかった文庫をジュンク堂で買い、東池袋の古本屋で注文していた本をゲット。新橋に出て、復元された新橋駅停車場の中の資料館を覗いてから銀座をぶらぶら。予約してあったサバティーニ・フィレンツェでランチをして、漬け物の銀座若菜と、沖縄県アンテナショップわしたに寄って帰宅。わしたショップで見つけたクラゲ柄の紅型布が本日のヒット。

 読了本『海上タクシー〈ガル3号〉備忘録』 多島斗志之 創元推理文庫 『二島縁起』と同じ主人公の短編集。主人公はあんまり好きになれないんだけど、短編はむしろスリムで、見せ場やこの設定ならではの海上アクション、アリバイ崩しのアイディアなんかが満載。お買い得感有り。

2006.11.14

 やっぱりちょい不眠。薬を飲むか飲まないか悩む。篠田の場合寝付けるけど夜中に目が覚めて再度眠ることが出来なくなるので、その時点で薬を飲むと朝ぼけてしまうという問題があるのだね。更年期障害なら時期が過ぎれば直るはずなんだけど。
 先日新聞の家庭版投書欄で、ほぼ同世代の女性がやはり更年期の不眠に悩んでいるのに、夫が「楽をしているからだ」と心ないことばを投げつける、でもこの人は悪意なしにこういうことをいうので、もう仕方がないとあきらめる、でも更年期は夫の態度で良くも悪くもなるというから、こんなことでこの先も一緒に暮らしていけるのだろうか、といったことが書いてあった。
 えーっと、まずこの人の問題は「あきらめる」というくせにあきらめてないことだと思います。ほんとに夫の理解を得ることをあきらめたなら、もうなにもいわずに自分ひとりで医者行って、体を治すよう努めるしかない。夫の態度が悪いとしても、態度が悪いから更年期が出たわけじゃなく、それはただ病気なんだから、誰が悪いという話じゃないわけで、どんなに仲の良い夫婦でも相手の苦痛はわからない。自分の体は自分でいたわるしかないわけです。
 それを、あきらめきることも出来ず、かといってわかってもらう努力も放棄して、ただなんとなく黙ったまま恨みがましい目で夫をちらちら睨んでいたりしたら、そりゃまああちらだって腹も立てようさ。やっぱり人間関係ってお互い様で、でも自分のことはわかりにくいという例なんでしょうね。いえ、篠田だって「眠れない」といって「寝てた」といわれて喧嘩しましたから。

2006.11.13

 最近また不眠が少し出て頭が痛いのだけれど、今日は頑張って「桜の園」34枚まで。ミステリの場合は特に、書き出したばかりだと、先が長いよー、と思ってしんどいのだけれど、なぜか神代ものはわりと楽しく書ける。不思議だ。篠田がおやじ好きーだからか。

 今日は練馬のMさんからのお便りが転送されてくる。本好きで、書店でバイトされている大学生の方。『聖女の塔』の某登場人物と姓が同じで、そいつが悪役だったのでいささか憤慨しておられた。ごめんなさいね。ただの偶然ですから。悪役や被害者につける名前は、こういうことがあるんで、あまり変わった名前はつけないようにしようと逆に思うのです。西澤保彦さんは、「私の名だ」ということがないように変わった姓をわざわざ選んでつけられるそうですが、でもね、それでもしもだぶったらよけいやばいでしょ。
 Mさん、上野の国立博物館、私も好きですよ。メニューがちょっと古めかしい食堂も好きだし、地下のミュージアム・ショップなんかもかなり好きです。変なグッズがたくさんあります。もしもお時間があったら、その左手に国際子ども図書館があるから、外見だけでも眺めて来て下さい。11/8の日記に書いた建物です。本好きにとって、図書館というのもなにか特別な気持ちのする建築物ですよね。

2006.11.12

 コミケにはもう行くことはない(たぶん)けれど、同人本を通じて知り合った人からお便りを頂いたりして、嬉しかったり励まされたり、ということはいまだにある。そういう繋がりがたとえ少数でも残されるなら、いや、それがなんらかの形で終わってしまっても、繋がっていた時期があったことが事実なら、イベントに参加したり同人本を作って売ったりした事は、自分にとって意味のあることだったのだな、と思う。

 今日からやっと神代ものの新作「桜の園」を書き始めた。100枚で終わるのか300枚を超すのか、いまだによく解らないという困りものだが、プロットを立てることに時間を費やすのは止めた。舞台があって、登場人物が揃っていたら、もうそこからトンネルを掘り始める方が早い。どうも篠田は「物語を作る」のではなく「発見する」らしいのだ。
 今回書き出して面白かったのは、神代視点で文章を綴っていると、たとえば蒼視点では絶対に出てこないボキャブラリがひょい、と出てくるのだね。今日書いた中では「棒組」と「冷や飯草履」というのがそれ。こんなことばは篠田の日常的使用語ではないのだが、ひょいと出てくる。で、心配だから辞書を引いて、語義を勘違いしていないか確認してから使う。
 今は亡き山本夏彦翁が、ことばには完全に死んでしまったものと、瀕死のものがある。完全に死んでしまったものはさすがに使えないが、瀕死のものならせっせと使えば生き返るかも知れない、と書いていた。そこで若い読者には「これなに」と思われるかも知れないが、敢えて使います。無理に辞書を引かなくても良い。なんとなく前後関係で読み流してくれていいのです。ことばってたぶんそういうものだから。
 本日12枚まで。

2006.11.11

 ジャーロのゲラが届いたのでチェック。日本語的に変な文章などいくつか見つかって、我ながら「なに書いてんだよ、自分」と反省。そちらを終えてから、創元の仕事は明日からやろう、と決めて読みかけの本を読み上げてしまう。まあ、この程度のだらだらっとした労働がストレスも少なくて、更年期のだらけた心身には有り難い。

 読了本『邪魅の雫』 京極夏彦 つまらなくはなかった。少なくとも途中で放り出したくはならなかった。ただ、とにかく長い。ただしこのとにかく長いことが、ミステリとして必要だとは言える。なぜならプロットは、わかってしまえば比較的単純だからだ。その単純さを「複雑怪奇」「混沌」と思わせるために、視点の節ごとの交代と登場人物の多さが必要になってくる。ただ、結果的に見出された風景が驚異に満ちているかというと、あまりそういう気はしない。「ああ、腑に落ちた」とは思うものの、その腑に落ちた感がこれまで読んできた作品の長さと見合っているかというと、少なくとも篠田にはそうは感じられなかった。昨日書いた各登場人物の「お考え」も、関口や益田や青木らレギュラーの会話も、贅肉を落としてもっとスリムに書けると思う。その辺の贅肉が落ちれば全体にテンポが速くなって、「混迷」が「解決」に繋がる驚きも強まる気がする。
 某サイトの書評欄で、篠田も面識のあるプロの若手評論家がこの作品を誉めていたけれど、その誉め方はやっぱり深読みのような気がした。レギュラーの長閑な会話が長く続くのは、シリーズのファンには嬉しいものだろうし、読み応えはどーんと弁当箱ほどあるのがいいに決まっているし、ミステリなんて腑に落ちれば十分なのかも知れないが、「誉められる作家はいつだって誉められるんだな」と思った。いつも誉められない更年期零細物書きのひがみかもね。

2006.11.10

 自動パン焼き機でパンを焼いたり、だしをとってインスタントでないおみおつけを作ってご飯を炊いたり、コピーを取ったり、荷物を出したり、デジカメ写真の焼き増しをしたり、と雑用で半日。ジャーロのゲラが来るかなと思ったが来ないので、今日はもう半日も休みにして京極夏彦『邪魅の雫』を読む。まだ半分も来ていないが、なんていうか、長い。なぜ長いかというと、節ごとに視点人物が代わり、その人物がどうかすると延々と主観的な「お考え」を語りまくる。そのへんはまったく場面も物語も動かず、映像でいえば正面から顔のアップ、後はひたすら語り、といった感じ。なんだかなあ。いまのところ、つまらなくはないんだけどね、一応。
 えーと、今後ここで読んだ本をけなす場合は「すごく有名な人」「権威のある作品」「確実に篠田よりたくさん売れていてほめられる本」のみを取り上げることにしました。世の中の書評のプロは、そういうものはけなせないらしいからです。そらまあ、書評でご飯を食べるためにはそうしないとならないんでしょう。王様は裸だ、といったらいけない。それが大人の慎みというものです。篠田は大人じゃない、ババアですから。日本の伝統において、老人は幼児同様、発言はフリーなもんです。ただし、権威を持たない老人は、です。重んじられないからなにをいっても許される、アウトカーストの道化みたいなもんだと思し召して。

2006.11.09

 『建築探偵桜井京介 館を行く』の見本が来た。A5変形版。ノベルスとも文庫とも、かといってハードカバーとも違うので、本屋さんも並べづらいかも。おまけにジャンルについても,小説か、エッセイか、旅ものか、とか、迷うだろうしね。本の感じとしては「とんぼの本」とか、ああいうのとちょっと似てるんで。それと、部数も少ないので「買います」と思うて下さる方は、書店に注文するなりネット書店を利用するなり、早急に手を打って下さった方がよろしいかと。自分が本を探すときは、ほんとに書店の店頭で行き倒れそうになったりするもんね。頭がくらくらしてきちゃって。
 前にISBNコードを教えてくれ、という手紙が来たことがあるんで、一応思い出したときに書いておきます。ISBN4-06-213703-8です。

 読了本『チョコレートビースト』 加藤実秋 東京創元社 第10回創元推理短編賞の受賞者の第二作品集。ミステリっけが薄れて風俗小説性がより強く出ているが、読み味は良い。ただ、意外性を演出するために視点人物の高原晶を馬鹿で鈍感にしすぎるきらいがあると思う。安直すぎる手は要注意。

2006.11.08

 昨日は上野の東京文化会館でコンサートがあったので、そのついでに国際子ども図書館でやっていた「旧帝国図書館建築100周年記念展示会」というのを見てくる。ここの図書館は日本で最初の図書館のために作られた建築なのだが、不幸なことに日露戦争が勃発したために金が足りなくなって、当初計画の三分の一以下しか建てられないままに終わったのだが、それでも戦前は唯一の国立図書館として多くの文人らが訪れた場所。たとえば宮澤賢治の「図書館幻想」という掌編に、ここが登場する。戦後は別に国立国会図書館が建てられたために、ここは一応分館とはされたものの修復もされず、立派な天井レリーフや木製の扉廻りのある大閲覧室は閉鎖されたままだった。
 実は篠田はちょっとしたコネで、この閲覧室を見学させてもらったことがある。写真も撮りいろいろ資料を集め、デビュー前の話だがなんらかの文章にまとめたいと思いながらついに果たせないままだった。そんな複雑な思いが少々あって、かえって安藤忠雄による修復、子ども図書館としての再出発後もちゃんと見ないままだったのだが、いや、これは行って良かったというか、近々もう一度ゆっくり訪れるつもりだ。ところで安藤といえば本格ミステリファンは、『摩天楼の怪人』のアイディアのひとつが安藤の設計プランから出ていることはご承知の通り。ここ、子ども図書館も近代建築にガラスの構造を貫くように付加して新しい美しさを生み出すという意味で、ニューヨークの摩天楼リニューアル計画と発想を同じくしている。というわけで、ミステリマニアもぜひご覧あれ。
 夜はバッハのミサ曲ロ短調でした。
 今日は「龍」ローマ編のプロットをこねこね。しかし広げた風呂敷を畳むのはつくづくしんどい。これだけあっちこっち向いた人間にそれぞれ決着をつけつつ、プロットをまとめることを考えただけで血圧が上がる。もー死にそう。「龍」はとくにテンション高くないと書けないんだけど、いまなんとなく低いんだよなあ。

 読了本『シュミじゃないんだ』 三浦しをん 新書館 直木賞作家のボーイズラブマンガ論。篠田もわりとそういうものは好きだとは思っていたが、彼女の愛には到底及ばない。しかし趣味はひとそれぞれで、なかなか「同じッ」とはならんものだとつくづく。いやね、篠田もショタは苦手、男女を男男に替えただけみたいなボーイズラブも嫌い、リバーシブル万歳、おやじやじじい大好き、ばばっちいアラゴルンは王様アラゴルンより好き、というあたりまでは三浦さんとばっちり同感ではあるのだが、胸毛体毛系はちょっと辛い。生の人間でもマンガでも。それからファンタジーとしてならSMもあり。現実じゃないよ。妄想だよ。なにいってんだかわかんなーい、という人は心おきなくスルーしてください。極めてコアな趣味嗜好のお話でございます。

2006.11.06

 仕事の方は今日も変わらず「龍」の直し。明日は夜出かけるので(コンサートです、ランラン)日記の更新はお休みです。

 読了本 『ニコリ「数独」名品100選』文藝春秋 読了といっていいのかどうか、パズルの数独の本。全問クリアするのに、8/3から丸三ヶ月以上かかりました。やり遂げられて満足満足。ぼけた頭に活を入れるには役に立ちます。
 『ソフトタッチ・オペレーション』西澤保彦 講談社ノベルス チョーモンイン・シリーズの新刊ですが、これはあとがきに思わず涙さしぐむ。亡くなられた宇山さんの肉声を聞く思いがして・・・

2006.11.05

 自宅近くで赤いカラスウリを発見。取ったところで食べられるわけでもなし、なにに使えるものでもないが、あざやかな朱赤の実には妙に心惹かれてしまう。蔓の先のコイルみたいなくるくるもかわいい。

 仕事は依然として『魔道師と邪神の街』の直しを続行。仕事中の気晴らしに、昨日は残り物を使ってヨーグルトパンを焼いたが、今日は新聞に載っていたキノコのマリネを作る。ワインのつまみ向きって感じ。上高地でしっかり食べてきたにもかかわらず、体重が戻らなかったので、少し気を緩めています。まあ、これから年末年始に向かって要注意ではあるんだけどね。

2006.11.04

 ガラス瓶に梓川の川縁で採取した白い砂を入れて、金茶色の落葉松の葉を詰めて、赤と黄色の落ち葉にマガモの羽毛一枚。「晩秋の上高地」の瓶詰めが出来上がり。しかし残念ながら同じようにして、「初夏の上高地」の瓶詰めは作れないなあ。緑は生きてないと。

 今日から「龍」トリノ編のノベルス版原稿チェックを開始。すでに一応の手入れは済んでいるのであまり時間はかからないが、次のローマ編の構想もある程度立てておかないとなあ。これが終わったら神代短編集のために、雑誌掲載原稿の手入れ。それから次の神代ものを書き出す。それと理論社のゲラも今年中に出してもらえる予定。なんだってこんな、来年の仕事をいまからやるのかっていえば、これはすべて建築探偵を書く時間を確保するため。ええもう、あれさえ無事に終われれば、もっと余裕持ってのったらのったら仕事出来ますってばさ。

2006.11.03

 取材で晩秋の上高地に行ってきた。次回建築探偵『一角獣の繭』の舞台モデルとなる。とはいっても建物のモデルはないので、土地環境の方。上高地の一年は4/27から11/15まで。それ以外の期間はバスが運行せず、宿も店もビジターセンターもみんな閉まってしまう。もう紅葉も終わりで、落葉松以外はほとんど葉を落とし、森の下草も茶色く末枯れているような状態だったが、観光客はかなりたくさんいてびっくり。6月に行ったときの人の少なさの方がむしろ例外だったらしい。幸い天候には恵まれて、木々の中を歩く幸せを満喫。夜は少々思い切った贅沢をして、上高地帝国ホテルに宿泊。しかし上高地は物価が高いのだ。なにもかも外から運んできて、ゴミは運びだすという手間が掛かっているから仕方ないけどね。おかげで梓川の水は奇跡のように青く澄んで、鴨はすぐ目の前で遊んでいる。今回は猿の群れとたぬきを見た。
 車で来たので帰りは秋の長野をドライブ。海抜1500メートルの上高地から下れば、まだ里は紅葉の盛り。新蕎麦を食べて、途中で行き会った農協の売店で安い農産物や野生のキノコをたんまりと買い込む。柴田よしきさんがキノコ好きで、よくブログにそのへんの話を書いているので、食いしん坊の篠田としては今回出かけるたびにキノコ狩りならぬ、野生のキノコの販売を鵜の目鷹の目。結局本年はショウゲンジ、ムキタケ、クリタケ、シャカシメジを食することが出来た。
 今日は変わって一日仕事場でのんびりと垂れる。本すら読まずに数独をやったり、友達と電話で長話をしたり。明日からはまた働きますので。はい。

 読了本『オランダ水牛の謎』 松尾由美 東京創元社 物言う安楽椅子が小学生の少年を話し相手にアームチェア・ディテクティブをする、という、そこだけ聞いたら「バカミスでしょ」としかいいようのない設定で、それが全然馬鹿でないというのは、こりゃもう作者の筆力が為した偉業以外のなにものでもない。ほっ、と体から力が抜ける、といっても脱力系ではないよ。手に取って軽い仮フランス装の装丁もグッド、たたずまいが良い本、と申し上げたい。