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2006.10.31

 上高地に行くので荷造りや買い物。活字倶楽部の恒例アンケートがきて、いままでの担当者が今月一杯で退職するということなので、せっかくだから彼女がいるうちにと、はやばやと書き送る。その後は『仮面の島』文庫のゲラ。ずいぶん分厚い。字組が粗くなったせいもあると思うが、こんなに厚くては敬遠されるのではないかとちょっと心配。内容は手直しのときにかなり見たので、今回は校閲の鉛筆の指摘だけをさらっと見て返却する。

 そんなわけで明日明後日の日記更新は休みます。

2006.10.30

 新宿に「ルートヴィヒ」を見に行った。4時間の長尺にもかかわらず、客席はほぼ満員でびっくり。「イノセント」はもっと全然空いていたのに。ヴィスコンティの映画というのはなんというか、実に不思議でへんてこりんだ。波乱に富んだストーリーや、魅力的なドラマがあるわけでもないのに、画面から目を離せず飽きもしないというのはひたすら、その絢爛豪華ですみずみまで本物感に満たされた映像の密度ゆえだろう。
 しかしこの、ある意味とっても王様らしいというか、王様以外の何者でもない人物が生きたのが封建制も絶対王政も遥か過去のものとなった19世紀末だ、というのが悲劇的なアイロニーなんだなあ。現代の王様、王家の人々って、どこか変で悲しいと思いませんか。だって結局は飾り物だもの。形骸化した過去の伝統と文化を体現してみせるのがお商売。24時間舞台に載せられてるようなもんだ。そしてそんなことって、普通の人間には基本的に不可能なのに、やれないとものすごく非難されたりする。ルートヴィヒは狂人として退位させられたし、オーストリアのエリザベートは逃げ回って「流浪の王妃」なんて呼ばれたあげくにテロリストに殺されるし、現代の日本でもねえ。
 伝統と文化の保存が無意味だとは言わないけど、それって雅子様のような有能で美しい女性を、檻に入れて見せ物兼子産み装置におとしめたあげく、病気にさせるほどの犠牲と釣り合うのかしら。皇太子は、マジで彼女を愛したならプロポーズなんかするべきじゃなかったと思います。
 帰ってきて、氷栗優さんのマンガ「ルートヴィヒ二世」を再読。
 同業者の愛川晶さんから、『仮面の島』の解説をメールしてもらう。とても暖かく、懇切丁寧な解説にしみじみと嬉しい。だいたい小説家なんてものは、自分を含めてあまり性格が良くない、社会不適応者が少なくないのだけれど、愛川さんは現役の先生でもあることだし、数少ない手放しで断言できる「いい人」。学科は高校の世界史だそうだ。篠田も高校のときは世界史が一番好きだった。愛川さんの授業を聞いてみたいものだな、なんて思いました。

2006.10.29

 昨日は家の都合で仕事場から戻るのが遅くなり、日記の更新が出来なかった。その分残業で夜の11時まで働いたので、今日の午前中で「龍」トリノ編最終回の直しが終えられた。しかしこの回の原稿は自分としてはかなり悔いがあり、ノベルスでは思い切って手入れ。雑誌の方も出来れば直したいのだが、文字数がずいぶんと増えてしまうので、果たして可能かどうか。
 ここ数日またちょっと不眠が募ってきて、頭が痛い。今日の午後はそんなわけで仕事がひとつ片づいたので、まだゲラはあるがそれには敢えて手を付けず、だらっとして休息する。少しだけ昼寝できた。詰めて仕事をするとすぐ反動が来る。もう無理は利かない感じだ。
 明日は新宿に「ルートヴィヒ」を見に行く。

2006.10.27

 午後に医者の予約があったので、洗濯をしたり、冷蔵庫に残っていた白神こだま酵母とこれも残り物の種なしプルーンでパンを作ったり、活字倶楽部のアンケートを書いたりして、それから医者。しかし篠田は「医者に行くと気分が悪くなる」。今日もね。

 伊勢原市の読者様、外封筒にご住所だけで名前が書かれていませんでした。それから手紙を書かれるときは辞書を引く習慣をつけましょうね。中学生くらいの年頃ならともかく、40歳とご自分で書かれている方が誤字というのは、あまり見よいものではありません。

2006.10.26

 今日は暗い内から起きて紅葉見物のドライブ。塩原渓谷はまだ紅葉には早かったが、塩の湯の旅館で混浴露天風呂に入り、妙雲寺門前で精進料理をいただき、日塩もみじラインではリフトで山頂まで上がり、その後奥鬼怒から山王林道までは紅葉の盛り。金精峠を通過して帰宅。日帰りにしては濃い内容の一日だった。

2006.10.25

 ぼちぼちと「桜の園」のプロットを作る。頭の部分をちょっと書いてみる。非常に平均年齢の高い話になります。三婆VS三親父、親父といっても1992年の神代さんなので、歳は40半ば。これに高校からの剣道のライバルで、いまは飲み友だちの辰野と、大学の同僚大島氏(以前建築探偵に登場しています)という40代トリオ。対する婆は70代と60代というわけで、親父たちもガキ扱い。ひとりだけ、溌剌とした若いメイドさんを出すつもりだけどね。
 『桜井京介館を行く』は11/10発売。定価は1500円です。ちょっと高めでごめんなさい。でもこの本で、「あなたも建築探偵」をやってもらえたらとても嬉しい。

2006.10.24

 今日もたれぎみの一日。冬服を出したり、駅前まで買い物に出たり、エアロバイクを漕いだり。行方不明だったメモリーカード発見。やっぱり捜し物を見つけるには、捜さないに限る。『邪魅の雫』を読もうかなと手に取るが、なぜか乗れず。最近あんまり他人様の小説が読めない気がする。というか、続けて読んでいると疲れて「まあ、無理にそうがつがつ読まなくても良いか」という気になってしまう。というわけで、結局来月から書こうと思っていた小説の創作ノートを取り出す。来年の連載予定なんですがね、これ。しかし篠田は近頃ますます「書いてみないと解らない病」だもんで、連載させてくれといいながら、その小説がどれくらいの長さになるのかさっぱりわからない。話の形とか雰囲気とかは結構見えてきているのに。そんなわけで先に書いてみてでないと、安心して仕事の話が出来ないというていたらく。一応タイトルは「桜の園」で、春爛漫の話なんで、ミステリーズの4月号からやらせてもらおうというつもりではあるんですが。
 昨日のガイ・ヤーン、美味しかった。鶏の手羽元に醤油、砂糖、シーズニング・ソース、唐辛子、ニンニクを合わせたたれをからめてしばらく置き、オーブンで焼いてレモンをしぼって食べる。本来なら丸ままの鶏をざっとさばいて、炭火で焼きたいタイの料理。外国で食べた料理を再現すると、そのときの空気や気持ちまでよみがえるというのが嬉しいもの。食べ損ねたKくん、次回に期待して下さい。

 読了本『誰もわたしを倒せない』 伯方雪日 創元推理文庫 プロレス・ミステリというと数年前の乱歩賞にあったね。でもこっちの方がずっと面白い。プロレスや格闘技に興味がなくても面白く読めて、本格ミステリ味も濃厚で、でもちゃんと人間ドラマでもあります。トリックはシンプルで説得力有り。連作としての妙が遺憾なく発揮されているので、必ず前から順に読むこと。

2006.10.23

 またちょっと不眠が出て頭が重い。今日は思う存分たれまくる。一日の歩数1500歩。読書は山田正紀デーで、『チョウたちの時間』『ジャグラー』そして『マヂック・オペラ』。夜はタイ風のローストチキン、ガイヤーンと汁そば、ココナツゼリーなどを作る。味の方は、これから食べるんでわからないよん。

 読了本『マヂック・オペラ』 早川書房 『ミステリ・オペラ』の続編のようなもの、と思って読み始めたが、時空間入り乱れての前作と比べると今回はずっとすっきりしていて見通しが良く、リーダビリティも高い。2.26事件陰謀説に抹殺されたN坂の殺人事件、ドッペルゲンガーに萩原朔太郎の「猫町」と次々に現れる素材も魅力的。クライマックスの国会議事堂を背景に、検閲図書館黙忌一郎と敵が対峙するシーンなど舞台を見るがごとし。ただ残念なのは、真相が二転三転する殺人事件の謎と真相が、ミステリ的にいまいちだったこと。でもまあ一読の価値有りです。今年の乱歩賞受賞作2点の、過去の日本を舞台にしていながら時代の空気も全然感じられないスカ小説を読まされた後なので、ちゃんと昭和の匂いのする小説が読めたというだけでも上々吉。

2006.10.22

 ジャーロの第三回続きを最後まで直し終え、原稿を整える。なんかすごーく趣味的な話に終始しているので、こんなものを人が読んで面白いんだろうか、という不安な気持ちがそぞろ兆してくるが、連載も始まっちゃってるのに、いまさらそんなことを考えたってしょーがない。手遅れである。
 でも取りあえず今月予定していた仕事を終え、これで少し時間が出来たので、今月の残りは部屋の掃除とか、ほったらかしにしてある写真の整理とかをすることにする。それからお天気を見計らって紅葉を見に一日ドライブに行くのと、もう一度新宿へヴィスコンティを見に行くのと。
 でも明日は雨降りらしいし、そういうのもしないで、一日沈没して本を読もう。こういうときは落ち着いて読める長編ミステリに限るな。山田正紀さんの『マジック・オペラ』にしようかしら。

2006.10.21

 明け方なぜか目が覚めてその後眠れず。おかげで少しボケ。講談社の「本」に載るエッセイのゲラ直し。宅急便で来た『館を行く』の再校ゲラチェック。終わらせてコンビニから宅急便。ついでに一時間弱散歩。ハイキング・コースの切れっ端のようなところを歩いて戻る。コーヒーをいれてジャーロ第三回の直しの続きをやる。半分くらいで時間切れ。のこりは明日。

2006.10.20

 今日は新宿までヴィスコンティ映画祭の「イノセント」を見に行った。例によって「面白い」というよりは「美しい」映画。物語的には欲望のままに生きる無神論者の貴族のおっさんが、愛人と別れて冷たくほっておいた妻と再び愛を育もうとした途端に彼女の一度きりの浮気と妊娠がわかり、妻と別れることも出来ないまま生まれた子供を殺してしまい、妻の心を永遠に失って自殺するという、あんまり感情移入出来ないしろものなのだが、貴族の邸宅のインテリアや衣装がとにかく美しく密度が濃くて、それだけで堪能してしまう。「山猫」は去年見たがこちらは1860年代、今回は世紀末で、その数十年の間に女性のファッションががらりと変わっているのが面白い。クリノリン、つまりお椀型に広がったドレスが、世紀末には後腰だけをふくらませたバッスル・スタイルになってるのね。スイートからクールに。こういう映画はもう撮れないだろうなあ、と思うと、「映像遺産」ということばが本当だとつくづく。

2006.10.19

 午前中、ジャーロの連載第三回分を102枚で一応終わりとし、直しを入れ始めるがまだ四分の一くらい。昼間近所の河原で火を焚いてサンマを焼く。煙臭い服のままジムに行って運動。
 明日は新宿に「イノセント」を見に行く予定。

 読了本は色々あるのだが、最近同業者の人でここを見ている人がいたりして、篠田の好き勝手な感想に反響が戻ってきてしまったりすると、それはちょっと当初の心づもりとは違ってくるわけで、ま、以前も書きましたがあまり気楽な放言がしづらくなりました。

2006.10.18

 昨日に同じく。96枚まで。これが終わったら続けて第四回は、書かない。講談社のゲラが来るはずだからそっちはやって、後はヴィスコンティを見に行くぞー。

2006.10.17

 えーっと、ごめなさい。書くことがない。仕事72枚まで。本も読まずに働いてました。数独は少しやったけど。

2006.10.16

 定期検診で歯医者で歯石取りをした後は、仕事場に帰ってひたすら仕事。47枚まで。ほんとに代わり映えしない。

 読了本『UMAハンター馬子』 田中啓文 ハヤカワ文庫 濃い大阪のおばさんと、祭文語りと、未確認動物という、三題噺にしても繋がるかいなそんなもん、という組み合わせで見事な連作短編をやらかしたシリーズ、全2巻。しかし『落下する緑』のジャズ、『酔笑亭梅寿謎解噺』の関西落語と並べると、舞台芸術に関する作者の愛情と見識とでもいうべきものが透けて見えてきて、これはまたこれで趣深い。

2006.10.15

 今日もだらだらと仕事。ジャーロ第三回26枚まで。

 読み終えた本もないので、ちょっと無駄話。今出ている東京創元社の雑誌ミステリーズに、第十六回鮎川賞受賞者発表と、第三回ミステリーズ新人賞の選評、作品、受賞者挨拶が載っている。それを読んで驚いたというのが、今回のミステリーズ新人賞で見事に金的を射止めた方のおひとりが第二回鮎川賞の最終候補に残った、とご自分で書いておられることだった。当時の受賞作を取り出して後の選評を読んでみたが、ペンネームが違うらしくてどの方かわからない。それでもわざわざ出してみたのは、他ならぬ篠田がデビューするきっかけとなったのがこの第二回鮎川賞だったから。1991年、初めて書いたミステリで鮎川賞に応募するという暴挙のあげく、なんと最終候補に残って、翌年改稿の上本にしてもらい、なんとか生き残って今日に至る。そんなことにならなかったら、果たしてこの方のようにずっとがんばれたか。まあ、無理だろうなあ。それもこれも、本を書かせてくれた宇山さん以下たくさんの編集さんと、買ってくれ、読んでくれた多くの読者様たちのおかげと、いまさらのように感謝致します。
 しかし連れ合いが「賞も取らないで作家になれたなんて、おまえってラッキーなんだね」といったときには、「うん、ラッキーさ」と胸を張りました。運も実力の内なんて、えらそうなことをいうつもりはない。書き続けられたから少しはデビュー作より上手になれたんだと思うし、紙一重だったんじゃないかな、なにもかも。中井英夫さんがその『琥珀の城の殺人』を手にとってくれたことも、宇山さんに向かってそのタイトルを口にしてくれたことも(けなされたんだとしても結果的には一緒)、宇山さんがそうして私に声を掛けてくれたことも、そして始めた建築探偵がたくさんのご声援をいただいてまだ続いていることも。すべてはラッキー。だから、すべてに感謝。

2006.10.14

 ジャーロの連載第三回を書き出す。順調に12枚書いたところで、新聞の地方版に川越の大正期の洋館が限定公開という記事が出ていたので、カメラ持参で出向いたところが、今日明日は川越祭りだとかで駅前から大変な混雑。不吉な予感を抱きつつ現地まで赴いたところ、公開時間の10分前で長蛇の列。住宅規模の洋館なら自ずからキャパは限定されているわけで、一定人数ずつ区切って入れていたらたぶん日が落ちても終わらない。明らかに川越市の判断ミスである。行列と人混みはナメクジ、ミミズと同じくらいきらいな篠田はあっさり断念して駅に引き返す。それにしても、古い洋館が好きな人ってあんなにたくさんいたのか。
 気を取り直して車で30分ほどの大好きなキムチ屋に行くが、半年ぶりだったら店自体が消滅していて大ショック。今日は不幸な一日だった。

2006.10.13

 上高地の写真ファイルは見つかったが、メモリーカードが一枚行方不明。こうして今日も粗忽者の一日が暮れていく。
 昨日転送されてきた苫小牧の読者の方にペーパーを送り、後は仕事。ジャーロの第三回以降のプロットを立てる。どうにか夕方までに三回の分だけは終了。明日から書き出すつもり。来週中にめどがつけばいいな。そうすれば仕事場の掃除と片づけと冬物衣類の取り出しといった雑用が出来る。

 読了本『求愛』 柴田よしき 徳間書店 女性作家による、女性読者のための、女性主人公のサスペンス、というジャンルについては柴田さんが当代の第一人者だと思う。安心して楽しめる連作短編集。従って帯の「異才が贈る」ということばはちょっと不満。だって「異才」ということばにはどことなく、ど真ん中じゃない、というニュアンスが感じられるもんね。まっ、篠田には一生書けない世界。なぜか。女性文化を学び損ねたからだよん。そもそも化粧出来ないし、化粧しないで外に出られない、という感覚からしてわからんの。いつか小説すばるのエッセイで、わかぎえふが、化粧しないで平気な女はコワイ、というようなことを書いていて、ふうんと思った。そうか、コワイのか。こっちは塗り前塗り後で別人のようになる女の方が怖いけどな。あっ、全然柴田さんの小説に関係ない話になってしもた。

2006.10.12

 昨日は一日外を歩いていたので、今日は疲労と筋肉痛でジムも休んで沈没。それでも「本」と「ミステリーの館」の掲載原稿をメール送稿。
 篠田はいたって粗忽な人間で、いつも家の中でものをどこかにやってしまって捜し回っている。この捜し物の時間がなければ、どれだけ人生が長くなるかと思うくらいだ。今日もぼけた頭で、上高地の写真を入れたファイルを捜し回っていた。結局見つかってない。あほだなあ・・・
 昨日今日で広義のミステリを二冊読んだ。で、どっちもあまり感心はしなかったのだが、ここにタイトルや内容を書くのは止めにする。というのは、どっちも新人の作品なので、主観的な感想で売り上げを少しでも落とすようなことになるのはまずいかな、と思ったのだけど、まあそれだけではない。実のところここではこれまで、わりと好き勝手なことを書いていた。それはひとつにはこの日記があくまで篠田の読者に対するサービスを目的としているので、読者であれば「篠田がどんな本を面白いと思い、またつまらないと思うか」に興味を持つのではないかと思ったからだ。しかしどうも、別の目的でここを読む人がいるらしい。篠田の読者ではなく、ただネット書評的なものを探して検索をかけてくるようなケースが。そういう人は当然篠田が読み手として想定していた「一般的な篠田の読者」ではない。だがここに書かれているのはどこまでも私的な感想に過ぎず、書評でもなければ評論でもないのだ。「篠田の」だから多少意味があるか、といった程度のものなのだ。
 そんなわけで、先日の某大先生のようなヒットメーカーで、篠田の100倍以上は本が売れている人のなら、つまらなかったら心おきなく叩くし、気に入った本は心おきなく誉めるけれど、気に入らなかったものについてはこれまで以上にタイトルを出すのは慎むつもりです。

2006.10.10

 どうにかジャーロの第二回を仕上げて送稿。少しお休みという感じで読みかけ本を一冊最後まで読み上げる。最近いただきものが多くて、未読本が溢れている。
 『桜井京介館を行く』の発売まで一月を切ったが、メールマガジン「ミステリーの館」にもコメントを載せてもらえることになった。担当編集者が積極的に売り込んでくれているのかも知れない。
 明日は一日外出なので、日記の更新は休みます。

 読了本『シャドウ』 道尾秀介 東京創元社ミステリフロンティア この人は本当に小説が上手い。暗くて救いのない、悪夢めいた、いまどきの若い人の書くぐちゃどろ小説なのかなあと思わせておいて・・・ この後をあまり書くとネタバレになってしまいます。今回のはむしろ、理に落ちすぎたのが残念かも、なんて無理ないちゃもんをつけたくなってしまうのも、とにかく上手いからでしょう。一読お勧め。 

2006.10.09

 ジャーロの第二回を100枚書いて一応終えたのだが、読み直していたら一度作ったプロットをもう一ひねり二ひねりしたくなってきてしまい、そうするとあちこち書き直さなくてはならないし、実をいうと第一回の伏線も不足という気はする。辛うじて、矛盾してるというところはないと思うんだけど。万一雑誌でチェックしている人は、本にするときにちゃんと直すから勘弁ね。というわけで、明日はちょっと終わらないかも。

 読了本『ヴェサリウスの柩』 麻美和史 東京創元社 本年度の鮎川賞受賞作。帯に書いてあるとおり、リーダビリティは高い。つまり、読者に先へ先へと頁をめくらせる力が高いということ。しかしそれが本格ミステリの面白さからきているか、と問うと、そうではないかも、という気はしてしまうのだね。サスペンス、乃至は通俗ミステリ、という印象が強い。つまりそれだけ本格マニアではない読者を惹きつけられるだろう、ということ。通俗ということばはこの場合否定の意味ではありません。
 頁からフォルマリンの臭気が漂い出すような、グロテスクを描写する筆力も高い。つまり小説としては十分出来上がっている。ただ、それならラストはもう少しぴしっと、文章で決めて欲しかった、という気はするね。
 純度の高い本格ミステリというやつは、前にも書いたかも知れないがもともと一部のマニアのものだし、そこにツボがないからといって非難されるべき筋合いのものではない。純度が高い本格ミステリで、なおかつ小説としても優れているというのは、これはもう奇跡を毎回起こせといっているような無理な注文なんだと思います。

2006.10.08

 今日はもうまったく仕事しかしていない。依然としてジャーロ。でも100枚くらいなら、せっせと書いていればわりと終わる。長編一本だと、書いても書いても終わらないよおという気がしちゃうんだけどね。しかし、こんなにしんねりむっつりとした話、読者が読んで楽しいかなあという気がしないでもない。まあ、一応ミステリです。ゴシック・ロマンの方が主眼だけど。密室からの消失と、非常にいけずうずうしいオチが予定されております。トリック、なんてえらそうにいえるものじゃないわ。そのオチを「馬鹿もんッッ」じゃなく、「まあかなり無理だけどありっちゃあり」に感じさせるべく、それまでの話がある、と。そういう意味では、篠田にとっては本格ミステリなんですけどね、これでも。

2006.10.07

 昨日は荒天の中を鮎川賞パーティに。若い作家さんに紹介してもらい、自分の年齢をしみじみと感じつつおしゃべりしたり。今日は少し疲れ残りでだらっと歯医者に定期検診。ごりごり歯石を削られ、最近油断して戻った体重を再度減らすべく節食に努め、講談社のPR雑誌「本」12月号に『館を行く』に関連してのエッセイの依頼を貰ったので、それを書いてみて、後はジャーロ。

 読了本『ボトルネック』 米澤穂信 新潮社 一種のミステリ・ファンタジーというか、とても面白いんだけど、見事に救いがない。で、読み終えて考えた。いまの若い子の実感というのはやっぱりこのへんなのかな。人生は暗くて、将来に希望はなくて、嫌々なんとか日々をごまかして生きているんだろうか。そうすると篠田が書いた理論社の主人公達なんて、元気が良すぎてすげえしらじらしい、うっそでー、ということになるのかな。でもここまで暗い話は書けないし書きたくないなあ。子供と動物はあんまり悲惨な目に遭わせたくないんだ、やっぱり。

2006.10.05

 理論社の書き下ろし、担当から丸をもらってほっと安堵した。自分の作品を、それも本になる前は特に、絶対客観評価できないことは、まさしく森にいて森が見えない状態だから、第一読者に読んでもらって初めて「ああ、どうやらだいじょうぶだ」となる。しかしまあ、書いている間に物語と主人公達が、手の内に入ったな、という感じはあったんだけどね、それが独りよがりでない証拠はないから。
 現在はジャーロの連載を進行中。こちらはけっこうグロい系の話になっていますので、明るく健全な篠田が好きな人はお手に取られませんように、とあらかじめ申し上げておきます。前の『すべてのものを』も、作者の忠告を聞かずに読んで落ち込んだという手紙が来たけど、そこは自己責任でよろしく。はっきりいって、今回はさらに後味が悪くなると思う。そんなことを宣伝してどうする、という気もするけど、黒い篠田というのもやってみたいんですよ。そういう系が苦手な方は、建築探偵を読んでて下さい。龍も、少しグロあるけど、基本線は健全。理論社もちろん健全。
 しかし健全が好きというのは、篠田の根が健全だから、ではなくて、まるっきり逆なんですけどね。根は暗いですし、ペシミストですし、いじけやすいMですし。だから自分とは正反対の、健全であることに憧れるんだと思う。

 いつも手紙をくれるMさんからのお便りで、前回ローマのヴィラ・アドリアーナがすごく暑かったんですよ、ということを返事に書いたら、「ここに龍の入った壺があったらパリンと割れそう」(作中の話題です。未読の方、失礼)とあって、受けてしまった。吸血鬼の天日壺焼き、とか思って。

2006.10.03

 ようやっとジャーロ連載の第二回を書き出す。新しい話を書き出すのはしんどいが、始めた話を続けるのはそれより楽、みたいなことをいったが、第一回を書いたのが夏前だから、すっかり記憶の彼方で思い出すのに一苦労。
 明日は夜用事があるので、日記の更新は休み。

 読了本『三年坂 火の夢』 早瀬乱 乱歩賞受賞作。確かに一風変わった、定型にはまらぬミステリを読んだ、という感覚が残る。しかし、なんといいますか、明治が明治に見えないんだなあ。明治らしい若者を書こうとしている意志は見えるけど、いまどきの子にしか見えない。第一、明治20年代に「アルバイト」なんてことばがあったろうか。建築のシーンで耐震ということが本格的にいわれるようになるのはもっと後だし、エコロジー的な意識を明治人が持てるとも思えない。『東京ダモイ』でも、その種のアナクロニズムは感じられたけど、そういうことを書き手も読み手も気にしない時代にすでになった、ということなんだろうか。

2006.10.02

 小説ノンの連載分直しを終えてゲラを返送する。トリノ編は次回で終わりだが、その次はローマ編で、でっかく話を広げて畳まなければならないのだが、いまちょっとそれを考える気力が湧かない。人によって違うのかも知れないが、新しい物語を書き出すときが一番エネルギーを必要とする。書き出すまでがなにより一苦労だし、書き出しても、起承転結なら前半の起承の部分の方がしんどい。
 というわけで、明日からはジャーロの続きをやることにして、今日は午後はお休み。エアロバイクを漕いで、ゆっくり風呂に浸かる。数独をやる。マンガを読む。

 読了本 『東京ダモイ』 鏑木蓮 本年度の乱歩賞受賞作。結構面白く読んだが、その面白さというのはどうもミステリの面白さではなかった気がする。作中作として登場する元シベリア抑留者の手記と俳句が、なかなか雰囲気もあって読ませたのだ。そういう点では先日読んだ『トーキョー・プリズン』がどこまでも作り物臭さから抜け出せなかったのと比べても、良く書けましたという感じはある。といっても、文体なんかを詳しく見始めれば、それがこの年齢の老人、それも散文を書きつけていないだろう老人のものとは思えないんだけどね。ミステリ的な結構は、残念ながらいまいち。分量とストーリーの割に、登場人物が多すぎる。

2006.10.01

 昨日はつれあいの展示会の打ち上げと、こっちの理論社の書き下ろしが終わったぜ祝いということで、久しぶりに飲みに。その前に石神井公園を一回り散歩。ここらは高級住宅地で家を眺める楽しみもあり、夕方は犬の散歩が引きも切らないので、その犬を眺めるのも楽しみのひとつ。さらに北の三宝寺池周辺は、ちょっと23区内とは思えないような雑木林が広がって自然を眺める楽しみがあり、もうひとつ楽しいことに猫がたくさんいるのだ。
 今日はゲラがふたつも来ているので、朝からまず『館を行く』のチェック。発売の予定は11/10です。よろしく。
 昼過ぎにこちらを終わらせて宅急便で発送し、続けて小説ノンで連載中の「龍」のシリーズ、トリノ編をチェック。そのまま手元のデータにゲラの訂正点を転記しながら、ノベルスへの改稿作業も進める。これで、連載終了と同時にノベルス用の原稿が出来上がるという寸法。刊行予定は来年2月なので、こうしておかないと正月に落ち着いて酒が飲めなくなってしまう。
 こっちが終わったら、今度はジャーロの連載の次を書く予定。来年の建築探偵の時間を確実に空けるためには、二度分書ければそれに越したことはないのだが、果たしてそううまくいくか、いまんところは不明。というわけで、今月もなんだか忙しい。