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2006.07.31

 パソコンが壊れた機会に、そこらに散乱するフロッピーを整理。紙の原稿をとっておく時代からすればこれでもずいぶんかさばらないというべきだが、中身を覗くにはいちいちドライブに入れなくてはならないわけで、そのへんの便と不便はどっちもどっちという気がする。なんとなく仕事に身が入らず、ついつい未読本の山に手を伸ばしてしまう。だらけきってます。

 読了本 『運命の鎖』 北川歩実 東京創元社 理系ミステリ、というんだろうか。この人の作品は医学とか遺伝子とか、人間存在の闇に科学の刃で切り込んでいくことで、二転三転するプロットの謎を作り出しているのだが、その人間がみんな切り紙細工のような感じで、読んでも頭の表面を滑って過ぎていってしまう。好みの問題ではあると思うが、自分向きではない。
 『絵小説』 皆川博子 集英社 装丁から見返し、目次、イラスト、そして本文にいたるまで美しい本。作品は天馬空を行き人魚海を翔るがごとき自在さで、しかしこれもまた読者を選ぶ作品でもあろう。もちろん篠田は好き。

2006.07.30

 昨日はちとよんどころない事情で日記の更新が出来なかった。毎日チェックしてくれている皆様には失礼をば。
 昨日はだらだらと読書日。読んだ本については下記。
 パソコンは新しいのを購入することになったが、まさかそれが来るまで遊んでるわけにもいくめえ、というわけで、理論社の書き下ろしに頭を向ける。実のところいまは懸案の小説が何本も転がっている状態で、といっても篠田のメモリはそんなに多くないので、勢い外部記憶装置に頼ることになる。なあに。アナログなノートです。それとあるものに書き付けたメモ用紙や、かき集めた資料本がコンテナやダンボールに放り込んである。それが小説の数だけ仕事場の中に点在している。「ジャーロ新連載」「来年の建築探偵」「龍・ローマ編」「ミステリーズ、神代」そして「理論社」。
 理論社のノートが見えなくて一時間ばかり青くなるが、幸い発見。これは少年小説の王道を恥ずかしげもなくやるつもり。「謎の転校生」「真夜中の学校の冒険」「宝探し」という感じで。

 読了本『猫島ハウスの騒動』 若竹七海 カッパノベルス 猫たっぷりのコージー・ミステリ。事件はあり、殺人もあってもなぜか読み味はほのぼの。痛いものは読みたくないけどミステリは読みたい、という人にお勧め。読み終わったら家の近所で猫を探したくなります。この季節、やつらは日陰でだらっとしてるから、ウォッチングには最適。もっと暑くなると潜伏しちゃうからね。
 『千一夜の館の殺人』 芦辺拓 カッパノベルス 間違いなく意外な犯人意外な結末。作中にちりばめられた平面図も装飾ではなくちゃんと意味がある。建築フリークとしては「そこちょっと変」という箇所も実はあるのですが、それを指摘するとネタバレになっちゃうし、99%の読者にとってはそんなの関係ないだろうから。
 『銀の犬』 光原百合 角川春樹事務所 ケルティック・ファンタジーときどきミステリ風味。出来たらもう少しミステリ色を強めて、ミステリとファンタジーの融合をやって欲しかったかな、あるいはキャラ色を前面に出してヤング・アダルト風な冒険ファンタジーにしてもいいよな、とは思うのだが、そのどちらにもいかないのが作者の持ち味か。はんなりとやさしいお味です。

2006.07.28

 そして不吉な予感はまたしてもしっかり的中したのだった。再セットアップ、出来ませんでした。ハードディスクのフォーマットの段階で、待てど暮らせど先に進まず。これはもうハードディスクがいかれましたね、というわけで一日の徒労のあげく、断念致しそうろう。でもパソコンはネット用のもう一台があって、FDドライブをつけてあるので、そちらにデータを移して作業。昨日書き上げたつもりでパーになった掌編を改めて完成させた。これは、東京創元社ミステリーズに掲載の中編シリーズ来年『大学教授神代宗の日常と謎』の単行本に、書き下ろしとして入ります。
 ところで我が母校の文学部も、大きく組織改編が行われ、キャンパスも工事されて様子が変わるらしい。まあ、作中の大学はあくまで架空のという建前で、W大学としているからいいんだけどね。いずれにせよ時の流れはとどめがたい。生々流転と申しますか、すべては変わってまいります。建築探偵開幕の1994年以来13年、多くの方に愛されて、「終わりが近づいていることがさびしい」といっていただけるというのは、思えばなんと幸せなことでありませう。
 終わりといっても、別に彼らの生きている世界が滅亡するわけではありません。たとえ篠田が小説に書かなくても、彼らは私たちの生きているこの世界のつい隣で、それからもずっと生きていると思います。幸せに、という意味では、なまじ小説に書かれない状態の方が彼らには幸せです。だって、ミステリにするには絶対なんかしらの事件が起きてそれに巻き込まれる羽目になるわけだものね。エンドマークのその後でも、読者の皆さんが、京介や蒼と街のどこかですれ違うような気持ちになれる、ずっと心の中で彼らが生きている、そんな存在になれたら、これはもう小説家冥利に尽きるというか、そのまま死んでもいいやと思うくらいです、マジで。

2006.07.27

 だいたいパソコンに関しては、不吉な予感は必ず悪い方へ的中することになっている。今回も最悪とはいわないが、かなりいやあなタイミングでいかれてしまった。午前中に打っていた短編を、ジムとの行き帰りの車中で赤を入れて、帰って直してさあ完成だ、とプリントしようとしたら止まってしまい、保存も出来ずバックアップもされず、パー。30枚程度の短いものだというのと、赤を入れたプリントが残っているのが不幸中の幸いである。これはもう仕方ないので、明日再セットアップをすることにして、ハードディスクに残っていた文書ファイルを全部コピーする。
 ネットから切り離して執筆専用にしたときから、不要なソフトは全部抹殺してしまったし、安定して動いていたんだけどなあ。なんでいきなりいかれたんだろう。この湿気のせいか、くらいしか原因が考えられないんだけど、単に寿命か。いい加減ウィンドウズ95は無理か。えええ、そうですよね。人が見れば笑う骨董品です。でも最近のパソコンって、いよいよ山のようなソフトが入っていて、そんなのなにひとつ要らない。もう、篠田はワープロ専用機に戻りたいっす。

 昨日の読了本『光と影の誘惑』 貫井徳郎 集英社文庫 これについては集英社に文句をいいたい。西澤保彦さんの解説を先に読んだのですよ。そうしたら、左頁から解説が始まるところで、右頁に最後の短編のネタが、というか解決が、〆の一行で明かされる驚くべき真相が、見えてしまった。これはあんまりです。作者にとっても、読者にとっても。これからこの本を手に取る方、絶対に解説を先に読んではなりません。

2006.07.26

 洗濯とか片づけとかペーパーの発送とか、なんだかんだ雑用をだらだらやっているだけで時間が過ぎてしまう。久しぶりにエアロバイクを漕いでシャワーを浴びたら、ぐったらして少し昼寝してしまう。夕方になってやっとパソコンの電源を入れ、旅行中に考えた話(なんと12月の話です)に関する調べ物をネットでし、仕事用の古ボロパソコンを立ち上げたらなんか調子が悪い。一太郎で原稿を打つと、特定の言葉が変換されないのだ。しかたなくスキャンディスクとデフラグをしたが、全然改善されない。それで再度スキャンディスクを、標準でなく完全でやったら、一時間半もかかってしまった。やはり壊れていたセクタがあって、試してみたら今度はちゃんと変換されたが、全体に作動スピードが妙に遅い感じ。この湿気でハードディスクにカビでも生えたのだろうか。不安なり。

2006.07.25

 今日は旅から持ち帰った洗濯物を洗って、外には干せないから風呂場で乾燥をかける。ああ、ガス代がかかる。デジカメのメモリーカードを専用のプリンタに入れて、絵葉書がわりにイタリアの写真を印刷し、読者からの手紙に同封。感想お手紙に対するペーパーを発送。余裕がある間は貯めずに順次お送りするようにします。
 いただいた手紙の中では、72歳の女性の方から、自分は建築探偵の結末が読めるだろうかなどという文面に遭遇。人生の最後を楽しませてくれなどといわれると、絶句してしまう。吹けば飛ぶよなたかがエンタメ作家に、あんまりきついプレッシャーをかけんといて下さい。ちゃんと一生懸命働いてますから。
 とはいいながら、仕事については今日もお休み。雨は降っているがけっこう暑い上にえらいこと湿気が強い。そこら中にカビが生えてきそうで、台所の流しや廻りをごしごし洗う。連日晴れしか見なかったローマが別世界。しかし少なくとも、お肌にはいいだろうな。

2006.07.24

 今朝日本に帰着しました。雨なんでびっくり。ローマは晴れしかなくて、しかも連日35度くらいになるとんでもない晴天。顔は帽子でカバーしたが、腕がしっかり土方焼けです。そして、ひとつ困った結論。夏のローマに吸血鬼は似合わない。ぜんっぜん、似合わない。
 それはともかく飛行機の中では寝てないので、今日は寝ます。明日には復活の予定。

2006.07.17

 いきなり雨で涼しい。この数日の耐暑訓練がぱーになるようで悔しい。それに湿度が高いとやはり体調がダウンする気がする。
 旅行に行く前は台所なんかは片づけてゴミは捨てて、洗濯物も極力洗って片づけるが、部屋自体は掃除しない。留守の間に部屋がきれいすぎるのって、なんだかさびしいじゃありませんか。いや、けっしてものぐさの言い訳ではありまへん。
 で、後は部屋でうだうだと余暇を楽しみ、いま頭の中で動いている長めの中編ミステリのプロットを書き出す。こういう隙間な時間には、思いの外とんとんとプロットが出来たりするのだ。それに旅行に行くと、たぶんいまの頭の中はクリアされちゃうからね。
 数日前からそのオープニング・シーンを考えていたら、ひとつうろ覚えの俳句らしきものが浮かんできて、たぶん有名な句なのだが誰がどういう状況で作ったものかは全然思い出せない。しかし、こういうときは本当にネットはありがたい。覚え間違っていたにもかかわらず、ばっちりヒットしました。

 というわけで、篠田は明日から一週間留守です。ローマに取材。といっても行き帰りで三日かかるので、実質は四日間だけですね。多分あっという間だ。7/24の夜には、帰りましたと更新する予定。しばしさらば。

2006.07.16

 幸い旅行前に片づけねばならない仕事と雑用はほぼ片づいたので、吉祥寺のTRICK+TRAPに行く。光原百合さんのサイン会だから。彼女がお客さんの応対をしている間に店の中をうろうろしたりして、ちょっと隣で本の表紙を押さえたりして、本は何も買わずに引き上げる。旅行前なのに銀行休みで金がないのだ。いや、手数料払えば下ろせるけど、ゼロ金利のいま意地でもそんなことしてたまるか、な気分。しかし吉祥寺ってのは、なんだってこう人が多いんだ。

 昨日『戦闘美少女の精神分析』斎藤環ちくま文庫を読んで、今日『銃姫7』高殿円MF文庫を読んで、やはり男おたくと女おたくの創作するものは似ていても異質なものなんだなといまさらのように感じた。アマゾネス・タイプのマッチョな女性戦士ではない、可憐で無垢な、しかし内実を持たない戦闘美少女は日本独特の産物だというのが斎藤の論だが、高殿作品に多数登場する女性たちは、アマゾネス・タイプではなく、ほとんどが高度な戦闘能力を持つものの、内実は過剰なほどに詰まっている。しかしこの小説がヒットしているということは、決してこれが男おたくに受け入れられないわけではないのだろうな。そらまあ、アニメやゲームとYAノベルは違うにしても。

2006.07.15

 写真の整理を終える。池袋にちらっと行って、ユーロの両替と本を少し買う。人がやたらと多いのでとっとと帰る。耐暑訓練をかねてエアコン無しで本を読む。わりと調子は良い。
 読了本『桜宵』 北森鴻 講談社文庫 小説の中の食べ物描写の美味そうなことでは、まず当代ぴかいちの北森さんであります。本の中の食べ物を堪能する分にはカロリーの心配もいらないので、ダイエット中も安心だし。

 昨日書こうと思ったこと。ジダンの頭突きのこと。「母親を侮辱した」「しない」という話だけど、これは誤解というのではなく、ことばの理解の仕方にずれがあったのではないかと思ったのだ。
 日本人の大人が「おまえのかあちゃんデベソ」といわれて、「母を侮辱された」と怒るかといえば、たぶん大半の人は怒らないだろう。それは「おまえのかあちゃんデベソ」ということばが、あまりにも言い古されていて、悪口としての衝撃力をすでにすり減らしてしまっているからだ。しかしジダンは、イタリアでプレーしていたからイタリア語は理解する、というが、その理解はやはりネイティブとは違うのではないか。「おまえのかあちゃんデベソ」ではなく「おまえの母親は腹部に奇形的な部分を持っている」といわれたら、これは明らかに侮辱でしょ。でも「意味」としてはふたつのことばは同じなんだよね。彼の脳内でそういう翻訳が行われたとしても不思議はないと思う。
 マテラッティは「プロリーグではよくある相手選手への悪罵」のつもりで口にしたことばが、ジダンには「決まり文句」ではなく「生の侮辱」と受け取られたのじゃないか。それをジダンが理解し損ねたから悪い、といったら傲慢だ。国際試合というのは、国内の試合よりはるかにその種の誤解が生まれる危険があることくらい、一人前の選手ならわかっているべきだと思う。というわけで、この件に関しては篠田はジダン支持。イタリア人は比較的人種差別をしない国民だと理解していたので、マテラッティの悪罵の底にそうした感情があるとしたらすごくいやなんだけどね。

2006.07.14

 今日もめちゃ暑い。梅雨は明けたのか、といいたくなる。夏のローマに行って詩文がへたってはまずいので、帽子をかぶってせっせと外を歩いて耐暑トレーニング。それから講談社で撮ってきた写真を整理する。他に書こうと思っていたことがあるんだけど、今日は遅くなったので明日にします。

2006.07.13

 午前中は郵便局が荷物を持ってくるのを待つ。昨日チャイムを聞き落としたので、エアコンを入れてドアを閉めるのは危ない。なんとなく落ち着かなくて講談社の取り壊される別館で撮影してきた写真を眺め、もらった平面図とキーボックスに残っていた部屋名を当てはめようとするが、これがパズルのようには上手くはまらない。だいたいこの平面図が極めていい加減なのである。ドアの位置も窓の位置も入ってないのは最初からわかっていたが、一階と二階を重ねても合わないのである。こりゃどーゆー建築だい(無論平面図の方が間違っているだけの話ですが)。
 それでも自信持って決定できるのは「御後室様御寝室」。後室というのは未亡人のことなので、たぶん主の母親であろう。キーボックスの名称でも、「御」がふたつもついているのはこちらの関係だけ。そして「御後室様ベランダ」という鍵の名前もあるが、ベランダがついている部屋はひとつしかない。他に「御後室様納戸」というのがあって、「御寝室」の隣に続き部屋があるが、庭側の、つまりグレードの高い部屋の位置にまさか納戸は置かないだろう。となると、元は和室だったらしい建具の痕跡が残るこの部屋にふさわしいのは「御仏間」だ。その隣には作りつけの書架が美しい部屋と、バス、トイレが付属したロココ風の部屋。こちらは主人の書斎と夫妻の寝室ということになるだろう。「御後室様御寝室」の中廊下を挟んだ向かいの部屋には、物置に使っていたらしい屋根裏部屋に通じる階段がある。ここなら納戸にふさわしいのじゃなかろうか。
 えーと、まあ、そんなことをいろいろ考えてました。まんま小説になるわけではありませんが、こういうことをああでもないこうでもないとやるの、好きなんです。せめてきちんとした図面があればね。講談社、まさか壊す前に実測図面ぐらい引いてるんだろうなあ。あるならくれ。

2006.07.12

 暑いのである。篠田は暑いのは苦手である。ましてやこのじめじめの暑さは最悪である。ローマ関係の資料を読もうにも全然頭に入らないので、喫茶店でも行こうかと外に出たが、コーヒー代よりは冷房の電気代の方が安いだろうと思って引っ返して、小部屋でエアコンをつけていたらチャイムを聞き逃して、郵便局が小包を持って帰ってしまい、電話して宅配ボックスに入れてくれといったら「届け出をしていないと入れられません」。そんなしょうもないこといってたら、やっぱり客が逃げるわ、郵便局。
 暑いだけでなくとにかく頭の中がとっちらかっている。というのは、今後書く小説のプロットや材料がランダムに頭の中に広がっていて、整理が付いていないからである。メモリが足りないのにやたらとファイルが開いてしまっている状況というか。来年の建築探偵と、理論社の書き下ろしと、来年の神代先生物と、ジャーロの連載と、来年の「龍」がぐっしゃらめっしゃら。自分で開いているというより、開けてしまって閉じない感じだから、まったくもって始末に負えない。ひとつに絞って作業を開始すれば、そういうことはなくなるのだが。そんなわけで結局資料は読めず、小説を読んでしまった。
 読了本『笑酔亭梅寿謎解噺』 田中啓文 集英社 非常に面白い。とにかくむちゃくちゃなんである。暴力的で酒乱の落語家に強制的に弟子入りさせられた元ヤンキー青年が実は落語に天分があって、しかし当人はそれをまったく自覚していない、という基本設定があって、そこに古典落語のネタと、そのネタと微妙に絡む事件があって、それをヤンキー青年が探偵役になって解き明かすという、ひとつ間違えば下手なマンガにしかならないような話だが、作者の話術の巧みで抱腹絶倒。ツイストが利いていて、なおかつちょいと人情物であったりする。えええ、もう、篠田が近来これだけ心の底から楽しめたミステリはござんせん。唯一の問題点はとにかく装丁がひどいこと。友人からの推薦があって、ネットで買ったんだけど、この表紙じゃ書店に平積みにされててもまず買わないでしょう。というわけで、篠田の強力プッシュを信じてやろうという方は、表紙は見ないでネットで購入のこと。買ったら上からカバーをするか、あるいはこのださいカバーをひっぱがすかして読んで下さい。

2006.07.11

 昨日は講談社第一別館の公開最終日なので、カメラマンの連れ合いと再訪。今日は記録を取ったり調査をしたり、という、どこか大学の研究室だろうか、人がたくさんいてかなりざわざわ。通常公開されている保存洋館というのは、きれいに整備されてしまっているし、そうでなければ現役で使われていて見られない場所が多かったりする。しかしここは使っていた講談社の部署はみんな出てしまったし、そこで使わないままうち捨てられていたような部屋、壊れたトイレとかはそのまま埃がたまっているし、地下室から屋根裏まで全部見られるしというわけで、なかなか独特なものがある。惜しむらくは施主が出た後、進駐軍に接収されていた時代に日本間を洋間にして建具にペンキを塗るといったことがたくさん行われているし、どこの部屋がどう使われていたかわからない部分が多い。しかし部屋の名前を書いたキーボックスが残されていて、それからいろいろと推理してみたりする。これはもう、使わないわけにはいかないっすね。ちょっと準備している話があるんです。来年書きます。でもたぶん講談社ではない。わはは。

 昨日はそれから夜10時まで「龍」の文庫下ろしをやって、今日も朝からやって、終わらせてから医者に行って血液検査して、今日はダイエット中休みだっ、とラーメン食べて本屋と無印で旅行用のものなど買う。新刊『聖女の塔』は一応並んでおりましたが、やはり池袋リブロでノベルスは冷遇されてるなあという印象は否めない。いや、冷遇されているのは「篠田の本」か。既刊本なんか全然ないもんね。

 夕方は休憩。買ってきた本を読む。杉並区のN田さん、お便り有り難うございました。お返事もさしあげたいと思いますが、いまはちょうど期末試験中でしょうか。勉強の邪魔になったらまずいですよね。もう少し時間が経ってからの方が安全かな。来週ローマに行くんです。イギリスは、実は苦手です。食べ物がまずいんだもん。

 読了本『知ってる古文の知らない魅力』 鈴木健一 講談社現代新書 あらすじ本が流行る時代だからこれもその手の本かなと思ったのだが、それよりはもうちょいましな内容だった。「伊勢物語」の露と答えて、のエピソード、マンガ版『陰陽師』で博雅くんが感激の涙を流してるあれね、が「更級日記」「今昔物語」「西鶴諸国ばなし」「雨月物語」と変奏されていくところなど、なかなか興味深かった。
 『狂気の偽装 精神科医の臨床報告』 岩波明 新潮社 本日の衝動買い本。トラウマとかPTSDとかアダルト・チルドレンとか、マスコミが流通させる根拠に乏しい精神関係の妄言について、臨床の現場からびしばしと指摘している。PTSDは実は非常に稀なものである、というので、蒼の描写が「おかしい」ということになったらどうしようと少し心配だったのだが、幸い設定としてとんでもなく非現実的なことは書いてなかったようだと、胸をなで下ろした。

2006.07.09

 昨日に続いて「龍」の文庫下ろし。ようやく最後までざっと手を入れて、プリントする。外は雨だし、全然運動していないのでエアロバイクを漕ぐ。プリントに目を通し始めるとまたあちこち変な箇所が見つかって、正直な話めげる。自分はちっともまともな文章など書けていないのではないか、という思い。
 明日は昼間外出、夜は残業で日記の更新はお休みです。

 読了本『レオナルド・ダ・ヴィンチ 伝説の虚実』竹下節子 中央公論新社 『ダ・ヴィンチ・コード』のヒットを背景に、レオナルドの伝説ではない実像を明らかにし、なんでレオナルドはトンデモ本やオカルト説に利用されやすいのかを解明する。残念ながら読み物としてのおもしろさはいまいち。しかしレオナルドがエキセントリックで世をすねた天才ではなく、むしろ淡々と自由に生きた中庸の人だった、という分析には共感。

2006.07.08

 昨晩『唯一の神の御名』のデータが届いていたので、朝からそれにかかる。旅行の準備はなにもしていないので、あまり時間をかけるわけにはいかない。しかし直しのときはじーっとパソコンを睨むことになるので、気が付くと目は疲れているし肩はこっているしというわけで、やはりいっぺんプリントして紙でも見ることにする。それとこの元本は変にルビの間違いが多いので、ノベルス版もルビをメインに読み直す。

 読了本(今日の、ではなく、昨日一昨日の)
『文章探偵』草上仁 早川書房 SF作家さんの初ミステリ。小説講座の講師役が主人公で、という設定のミステリは前にも複数読んだ覚えがあるが、これは匿名で提出された生徒の作品をその文章から特定してみせる、というところが目新しい。けっこう説得力もあるが、そんなにうまくいくかなー、などと思っていると、そこが全体のトリックに関わってきて・・・
『骸の爪』道尾秀介 幻冬舎 最初に読んだこの作者の『向日葵の咲かない夏』がかなり驚いたので、こっちはすごくまっとおな本格ミステリであることに逆に驚いた。ただ篠田はけっこう仏像マニアだったので、仏像がらみのトリックにはそんなに意外性は感じなかった。怪奇現象を合理的に解明するタイプのミステリというのは、ともすると謎解きがつや消しに感じられてしまう。それにしても達者な書き手だ。なんでこれくらいのレベルの作品が鮎川賞に来ないんだろう。

2006.07.07

 暦の上では七夕、といってもこれは旧暦でやらないと季節感もなにもあったものじゃないのだから、そのへんは旧暦に替えたらどうなんだろう。こんなむしむしの天気で空は雲に覆われてるのに、星なんか見えやしねえ。
 昨日は講談社の第一別館という、昔から幽霊話などもある洋館が取り壊されるというので、見学できますよといわれたので出かける。ひたすらもったいねーもったいねーといいながら見てまわる。せめて映画でも撮りたいよお。といっても、館物ミステリではなく館物ホラーになりますね。地下から屋根裏まで見られて、たった一時間では足りないべし。7/10までだそうなので、もう一度行ってしまおうかなあ。
 建築探偵新刊『聖女の塔』出来。970円ぷらす税。来週には書店に並ぶものと思われます。どうぞよろしくお願いいたします。かねてここでも書いておりましたし、講談社のメルマガ「ミステリーの館」にも書いてもらいましたように、感想のお便りを下さった方には作者からお返事ペーパーをお送りします。80円切手1枚同封でお願いします。また返信用住所は明確に外封筒に記載のこと。これがない場合は開封せずに破棄しますのでご注意。配布期限は今年いっぱいです。一応「感想を頂いたお礼」という主旨ですので、ただ「ペーパー下さい」というのはご勘弁。

2006.07.05

 午前中ジムに行ったあと、なんとなくくたびれてるっぽくてだらあっとしていたら、祥伝社の担当から「龍」の文庫下ろしの三冊目を八月末に、というたまげる電話があって目をひん剥く。ちょっと待て。いまはもう七月だ。イタリアにも行くのだ。いつ直しをしろというのだ。といっても、しがない物書きには拒否する自由はないのだった。前へ前へと仕事をしていても、なぜか余裕は作るそばから消えていく・・・
 明日は外出なので日記は休み。

2006.07.04

 『仮面の島』を一応最後まで手入れする。今回は字組が粗くなったので改行を減らしぎみに、文章も引き締め加減で。あまり厚すぎる本は売れないんじゃないか、という気もするものでね。
 午後は東京に出て8月に出る「ミステリーズ」の短編ゲラを戻し、この後の掲載の予定などを確認。この神代先生シリーズも来年前半には本に出来ると思う。幸い版元のお許しをいただけるなら、続きの予定もある。忙しいという意味では、来年はけっこう忙しい年になりそうな気がしてきた。今年はのんびりしている時間もわりとあるんだけど。でももしうまく時間が作れたら、冬になってからひとりでローマに行きたい。アパートでも借りてぼおっとしたいんだ。

 マンガ「デスノート」が終わりましたね。最初は熱中して読んでいたけど、最後はもうわりとどうでもいいなという気分でありました。みなさんはどう思われますか。なんかね、最近世の中で「いい」といわれるものと、自分が「いい」と感じるものにずれがどんどん大きくなるような不安感があるんですよね。それでもまあ、「おまえの本なんか売れないからもう出さないよ」といわれるまでは書き続けますけど。

2006.07.03

 すごく暑くて頭がぼーっ。『仮面の島』の手入れをしているが、しばらくやると疲労してしまって使い物にならなくなる。半日くらい寝っ転がって買ったミステリを読む。でも「素晴らしい」というほどでもなかったので書名は上げない。基本的にここでは誉めたい作品か、すごく著名で売れているけどけなしたい本しか取り上げないことにしているんで。

 建築探偵の新作『聖女の島』は7/5見本なので、書店に並ぶのは週末か来週あたりになるかと思います。講談社のメルマガ、「ミステリーの館」にもちらっと宣伝など出ているそうです。ご感想お待ちしております。

2006.07.02

 朝から暑い。小説ノンのゲラが早々に届いたのでこれをやる。今回は来年2月にノベルスを出すために五回で連載を終わらせるので、初回はなんと200枚である。当然ゲラを見るのも時間がかかる。しかし担当はこれを終わらせて今月下旬には一緒にローマに行くことになるので、ぐずぐずはしていられない。とにかくせっせとやって終わらせる。忙しいときにはダイエットの昼食は手っ取り早くていい。今日は一日の必要な栄養素の三分の一が含まれているというビスケットに豆乳をぶっかけて。あとはお茶や低脂肪牛乳を飲み、口寂しさはキシリトールガムでごまかす。
 終わらせたゲラと一緒に、ついでだからトリノの写真集などをダンボールに入れて宅急便に。コンビニに出た後そのまま散歩しようかと思うが、あまりに蒸し暑くて無目的にぶらぶらする気になれない。結局駅前に出て、駅ビルの本屋で立ち読み。こないだオリジナルを再読したルブランの『カリオストロ伯爵夫人』、ポプラ社の子供向けを読んだときはすごく面白かったのになーと思い、本屋の棚で発見。装丁やイラストは変わってしまっているが、訳は昔のままの南洋一郎。小学生のときに読んだそのまんまの文章がそこにあるので嬉しくなってしまう。驚いたことにけっこう覚えているのだよ。その本には載っていないイラストまでありありと目の中によみがえる。昔の本は処分してしまったのだ。とっておけば良かった。
 オリジナルでは20歳のルパンは貴族の令嬢クラリス(!)と肉体関係有りの恋仲になっていたのに、カリオストロ伯爵夫人の色香に迷ってたちまちクラリスなんかもういいやとそういう関係になってしまう。だけど後で悪女が嫌になって、またおめおめとクラリスと復縁する。なんてやっちゃ。そのへんは南版ではすっぱり省略されていて、クラリスは後から登場するけどルパンとの仲はプラトニックなまま。伯爵夫人もきっぱり堂々とした悪女ぶりで、オリジナルの変にヒステリーなところはなく、最初のすり込みのおかげでオリジナルに違和感があるんだなといまさらのように納得した次第。

2006.07.01

 取りあえず朝一で「ミステリーズ」のゲラが来たのでこれを見る。神代さんシリーズではあるが、今回は蒼が主役。それから昨日の『仮面の島』の続きを少しやり、駅前に銀行と買い物に行って、戻って少しうだうだ。アマゾンの配達が来るが、頼んだ本を取りあえず急いで読む必要はなくなったので、もうしばらく『仮面の島』をやる。エアロバイクを漕ぐと汗だくになってしまい、その後しばらくまともな服装が出来ないので、宅急便が来る可能性があるときは後回し。そのうち祥伝社の担当からゲラは明日になるという電話が来たので、なんじゃい、というわけでバイクを漕ぐ。いつも本を読みながらうだうだと漕ぐのだが、今日はミステリマガジンに掲載されている『容疑者Xの献身』論争のコピーが手に入ったのでこれを読む。
 だいたい篠田はいたって脆弱な論理脳しか持っていないので、論文のたぐいを読むとすぐに「なるほどー」と説得されてしまう。その後で違う論旨の論文を読めばまたたちまち「なるほどー」になってしまうのである。アホですね。ただまあ『X』に関してはこれまでいろいろな意見を耳にしては来たので、「なるほど」「なるほど」と二転三転しつつ、最終的には自分が感じていたままのところへ落ち着く。これだけ世間的に評価され賛美されまくっている作品なのだから、こういう場で好き勝手をいっても許されるだろう。篠田にとってはこれは「どってことのない本格ミステリで、あんまり面白くない小説」である。
 補足説明すると、「本格か否か」という論議については「タイトに先鋭化したジャンル定義を遵守することは自分は取らないので、本格ミステリに含まれると考える。しかし素晴らしい本格ミステリかといわれれば、そうは思わない。小説としてはきっぱりつまらない。というか、小説としてつまらないものは優れた本格ミステリだとは感じられない、というのが篠田のスタンスだから。
 じゃあなんでつまらないかといえば、「石神が天才的な数学者だとは全然感じられない、つまりその点でリアリティに欠けるし、彼の献身にまったく共感できないし、やってることはキモチワルイし、その彼に献身を捧げられる母娘もキモい。プロットも後味が悪いだけ」とまあそこに尽きる。
 でもみんなが書いていることを読み比べると、誉めてる人は「自分で好き勝手に深読みをして、自分が見出した部分を誉めている」んで、その手の深読みを誘い込んで賛美に転化させた作者の手腕は大したものですね、ということになる。東野さんが大変なテクニシャンだってことはよくわかっているんだから、そろそろ彼の才覚に踊らされて大騒ぎするのは終わりにしませんか。他に盛り上がる話題がないとしたら、そっちの方がさひしすぎますぜ。