←2006

2006.06.30

 時間があったら読もうと思ってアマゾンに頼んだ本が、24時間以内発送となっていたので安心していたのに4日経ってもまだ来ない。来るのを待っていたゲラは二本とも明日到着するらしい。本も。とかくこの世はままならぬ。というわけで、12月に刊行を延ばして貰った建築探偵『仮面の島』文庫版の直しに手を付ける。しかしなぜか一度ファイルを閉じてまた開こうとすると「読み込めません」が出る。他のファイルに貼り付けると開けるということは、ファイルの形式が壊れているのだ。二度同じことが起こったので、別のファイルに文庫用の書式を作ってそこへ貼り付けたら今度は開けた。理由はさっぱりわかりません。しかし、他のフロッピーもそうなんだろうか。

 読了本 『迷宮レストラン』河合真理 NHK出版 歴史上の人物のためのメニュを考えてほんとに作って写真を撮ってレシピを公開している本。といっても、ちょっと真似してみようというにはハードルが高すぎる。入手困難な素材が多かったりして。篠田的には「ドラキュラ様に捧げる料理」がちょっと嬉しかった。ブラム・ストーカーの吸血鬼ではなしに、歴史上のヴラドをイメージておられたんで。歴史伝奇『ドラキュラ公』講談社文庫って、もう品切れだとは思うけど。

2006.06.29

 ジャーロの原稿を直して入稿。同人本の原稿を早く入稿すると割引になるみたいに、原稿を早く入れると原稿料がアップするような制度があればいいのに、と非常にせこいことを考える。
 後は「ミステリーズ」と「小説ノン」のゲラが来ればいいのだが、これが来ないので待っている状態。なんとなく落ち着かない気分で、あっちゃこっちゃと本を読み散らす。
 それから理論社のミステリーYAで書く話はシリーズタイトルを「北斗学園七不思議」とすることにほぼ決まった。ミステリーランドの仕事より、もう少し明確に中高生向けになると思う。
 建築探偵台湾版の『玄い女神』と『翡翠の城』が来た。前にここでプレゼントしますという告知を出したのだが、さすがに応募がないので、「日本人でも興味のある方、申し出てくれたら差し上げます」ということにする。漢字なので微妙に意味の解るところがけっこう面白いよ。たとえば今回の帯は「独特的空間美学 全新的閲読体験」だそうだ。

 再読本 『カリオストロ伯爵夫人』 モーリス・ルブラン 創元推理文庫 昔ポプラ社版で呼んだきりだったルパンもの。ちょっと必要があって再読。すごく面白かったという記憶があったのだが、今読むとそうでもない。カリオストロ伯爵夫人はとても魅力的な悪女のような気がしていたのだが、ただのヒステリー女なんだよね。悪女対決なら『黒蜥蜴』の方が遙かに上です。おまけに若き日のルパンはただのスケコマシだ。南洋一郎の翻案が上手かったのかなー。

2006.06.28

 月刊連載をしていれば毎月決まったときに〆切が来て、それが仕事の区切りになるのだろうが、篠田のように書き下ろしベースでやっていると忙しさにはずいぶんとむらが出来る。昨日は建築探偵の文庫下ろし用データをもらったのだが、今年はちょっと都合もありまして『仮面の島』は12月ということになった。その代わりというか、来年は『センティメンタル・ブルー』と『月蝕の窓』を8月9月に連続して出す予定。
 それでまあ、『仮面』に手を付けるのはもうちょっと後にさせてもらうことにして、今日はまず8月刊の東京創元社「ミステリーズ」に掲載する神代先生シリーズのゲラを読み返して赤を入れる。この後に校閲を通したゲラが来るから、それを待ってもう一度チェックして返すのである。
 それから9月から始まる光文社「ジャーロ」で連載の新作『美しきもの見し人は』の第一回原稿に赤を入れる。しかし〆切が8月の「ジャーロ」の原稿がすでに書き上がっている、というところから見ても、篠田がいかに売れない物書きであるかはよくおわかりいただけるだろう。売れっ子というのは、〆切を非道に踏み倒して編集者を泣かせるのが毎度、というふうでなくてはならぬ。野坂昭如のように、編集者がベルを鳴らせないようにそれを引きちぎってしまったり、缶詰にされた旅館から脱出するためにセンサーの鳴らない経路を見つけ出すことに苦心したりしなくてはならぬ。しかし自慢ではなく、篠田はデビュー以来今日まで、ただの一度も〆切を破ったことがない。この不景気な時代、自分の子供のような新人がどこどこ出てきて世の注目を浴びている時代に、どうしてそんな恐ろしいことが出来ようか。とはいえああ、なんというつまらない小心者であることよ。自分の小市民的良識と貧乏根性が恨めしい。
 そのままパソコンで直しをやろうかと思ったが、外が機械で植木の刈り込みをしているもんで大変にうるさく、原稿に集中するのがしんどい。無理はせぬことにして、来月後半に予定しているローマ取材のために買ったガイドブックを読む。月曜日に西武のリブロで買った本が宅急便で届いたので、その中からローマの本を取り出して読み出す。
 ジムで汗を掻いて、ローマ本の続きを読み上げて、今日はおしまい。こうやってうだうだと呑気に過ごすために、前倒しで仕事を片づけたいというのは、せっかちなのか怠け者なのか、自分でもよくわからないけど、貧乏性であることだけは間違いないな。

2006.06.27

 最近どうも日記を休む予告を書き忘れる。昨日は理論社との打合せだった。前にも書いたと思うが、来年の春から児童書の理論社がヤングアダルトでミステリの書き下ろしシリーズを開始する。講談社ミステリーランドの後発企画かと最初は思ったが、すでに同社では翻訳もの青春小説をかなりの数出して売り上げていて、それと同じようにフランス装ソフトカバーの単価抑えめの双書になるらしい。ミステリーランドの凝った装丁も素晴らしいが、2000円を越える価格はやはり子供が自分で買うには高すぎるわけで、こちらは1400円以下にするそうだ。翻訳物の方はポップなデザインと軽くて読みやすい本の作りがはまっていると思うが、ミステリだと「ポップ」というのとはちょっと違うだろうなあというわけで、デザインの方も楽しみではある。
 創刊ラインナップはすでに決まっているそうだが、それは理論社の発表まではナイショということなので、自分のことだけ書く。学園もので軽い目のミステリをやります。リアルな学校現場や日本の現代社会は全然描かず、ミステリではあるがどこか現実べったりの世界とは少し違う、子供が「ああ、こういう学校で生活してみたい」と思えるようなひとつの別世界を築き上げてみたい。蒼の学園ものではやり足りなかった学校行事とか、季節の移り変わりとかもからめ、そして主人公たちの成長や、前には脇役だった子が別の話では主人公になるということも。はい。1冊で終わらなくてもいいという流れで、ただいま話が進んでおります。メイン・ターゲットは中学高校といっても、もちろん大人の読者にも楽しんでもらえるような世界を。

2006.06.25

 昨日はふくれ気味だったプロット段階の妄想を、回収引き締め気味にしつつだらだらと続ける。主要登場人物の名前を決めた。なんとなく適当につけるのではつまらないので、その名前に理屈をつけつつ漢和辞典と「赤ちゃんの名付け方」なんて本をひっくり返しつつ。でも、いますぐ書き出すわけにはかないので(その前に雑誌連載のゲラが来るはずなんだがまだ来ない。しかしなんだってゲラって、来るときは固まってくるようになるんだろう)、ぎりぎりにモチベーションを上げるのはもう少し先にした方が良い、と理屈をつけていただきものの本を読む。
 というわけで。
 読了本『福家警部補の事件簿』 大倉崇裕 東京創元社 コロンボ大好き作家のコロンボ・オマージュ的倒叙ミステリ。探偵役の動作やせりふが本家そっくりで笑えるのだがその分「そうは見えない女刑事」という設定が飲み込みにくくてちと困る。コロンボっぽいと思うほどに、そこにいるのは童顔小柄な女性ではなく、愛嬌はあるがずうずうしい中年親父にしか思えなくなってきて。
 『猫は引っ越しで顔あらう』 柴田よしき 光文社文庫 ファンであります。特に正太郎シリーズは好きなのだ。猫犬大好き人間としては、いま同居獣がいない渇を活字で癒してしまう。でも無論それだけではなく、特に今回の第一話なんか「日常の謎ミステリ」として秀逸。みんな誤解しやすい気がするんだが、「日常の謎」をちゃんと面白いミステリにするのは難しいんだぞー。

2006.06.24

 だらだらとプロットを作り続ける。辞書引いたり、手元の本棚を睨んだり、ネットに繋いで検索したりして、謎を作るというよりは掘り出す。しかし調べものというのは、どうかすると最初狙ったのとは全然違うところに流れてしまったり。それが面白いということもあるのだが(『アベラシオン』なんかはそうやって逸脱しまくっているのだが)、今回は400枚程度ですきっと纏めなくてはならないので、あまりマニアックに変なところへつっこむわけにもいかないのだ。暴走しかかる伝奇的な妄想力にはみを噛ませて引き戻しながら、少しずつ形が見えてくる気もするのだが、自分がよく知らないところに向かってプロットが伸びる気配があってひやひや。まあ当面はゲラ待ち状態、といっても来週にはすぐ複数のゲラが来るはずなんで、それまではこいつを編んだりほどいたり。

 読了本 『乱鴉の島』有栖川有栖 新潮社 火村シリーズ孤島もの 内容については、なにを書いてもネタバレになりかねないので自粛。ひとつだけ、詩句の引用ミスに気が付いた。しかし、校閲というのはこういうミスをチェックするのが一番の得意技だと思うのだが、どうして誰も気が付かないんだろう。まさか、これの方が正解だとか???

2006.06.23

 昨日はサッカーを見る連れ合いにつきあって4時まで飲んで、開幕したところでベッドへ。しかし7時には目覚ましラジオで起こされて、夢うつつに敗戦を聞く。そのまま、また寝込んだから目が覚めたとき一瞬、「なんで自分は日本の敗戦を知っているんだろう」と思う。あほです。
 昨日の昼間は理論社からもらったヤングアダルト翻訳本をイッキ読み。アメリカのジュニア・ハイや、ハイ・スクールの生活というのは、日本のそれとはずいぶん雰囲気が違うものだが、なんとなく昔見たテレビドラマのイメージを思い出したりして妙になつかしい。ポップな装丁もすてきです。
 今日はぼけた頭で、それでも月曜日に理論社担当と会うので、空手で顔を合わせるのも心苦しく、プロットを立て始める。学園ものにしようと思うのだが、恩田さんの『麦の海に沈む果実』ほど空想的な学園ではないけれど、そこそこ非現実的な舞台がいいなというので、篠田はなにを始めるかというとまずその学園に名前をつけるのである。学校の名前というのは当然創立者の理念がこめられているわけで、どういう名前を選ぶかでそれから先の世界構築が大きく左右される。当然、どういう時代背景でそれが作られたかというようなことも考え、同時に学園の地図が書かれなくてはならない。
 そうして縦軸の時間と横軸の空間を創造すると、そこにはどんなミステリ(推理小説という意味より広義の、謎とか神秘とかいった意味合いで)が孕まれるかは自然と浮かんでくる。これに登場人物を配置すると、自ずから物語は流れ出すであろう。理想はね、うん。問題は、あまり多くを詰め込みすぎないように注意すること。

2006.06.21

 今日は川崎のチネチッタにある本屋さんで、篠田の短編を含めて日本作家の幻想短編と、イタリアおよび英語圏の同じくが収録されたアンソロジーが購入できますよ、というお知らせ。篠田は前回のALIA2に、『夢魔の旅人』収録の某短編を載せてもらい、今回のALIA3には、「龍の黙示録」のプロトタイプ短編「聖なる血」を入れてもらいました。先日のミステリーチャンネルのインタビューで触れていたもの。もちろん篠田はイタリア語はできんのですが、会話の部分とかを拾い読みして「うふ」とか思っているのでありました。「Ti amo」なんてところをです。イエスの遺体を抱いて彼がかき口説くシーンですがね。
 というわけで、その本屋さんのサイトと広告を転載しておきますので、もしもご興味がお有りでお近くの方はぜひお運びのほどを。

         ■■■新入荷商品のお知らせ 1■■■

***日本文学のイタリアでの紹介本、輸入しました。

●ALIA L'Arcipelago del Fantastico 監修・訳者サイン本●  publisher: C.S. Coop. Studi Libreria Editrice author: 監修・訳:Massimo Soumare'(マッシモ・スマレ)、ダーヴィデ・マーナ(Davide Mana) 監修:シルビア・トレヴェース(Silvia Treves)、ヴィットーリオ・
カターニ(Vittorio Catani) price:  3150(税込)
イタリアのトリノのC.S. Coop. Studi Libreria Editriceから出版された国際幻想文 学アンソロジープロジェクト『ALIA』。三つの章(イタリア、日本、アメリカ及びイ> ギリス)に分かれた約400ページに及ぶ分厚い本で、優れた短編が並ぶほか、各章にそれぞれの国の幻想文学の特徴を紹介する序文が掲載されているなど、イタリアでの初めての本格的な幻想文学の紹介となったアンソロジー。特に、これほど多くの現代日本の幻想短篇小説が、イタリアで一挙に紹介されたのは、ALIA以前には例がなく本当の快挙である。
 内容:「イタリアの章」序文:ヴィットーリオ・カターニ(Vittorio Catani)。収録作家:レナート・ペストリニエロ(Renato Pestriniero)、ジャンルイジ・ピル(Gianluigi Pilu)、ディエゴ・ガブッティ(Diego Gabutti)、リッカルド・ヴァッラ(Riccardo Valla)、ダニロ・アローナ(Danilo Arona)、ヴィットーリオ・カターニ(Vittorio Catani)、ジャンルカ・クレモーニ/“クレモ”(GianlucaCremoni/“Kremo”)、マリオ・ジョルジ(Mario Giorgi)、ファビオ・ラストルッチ(Fabio Lastrucci)、シルビア・トレヴェース(Silvia Treves)、ダーヴィデ・マーナ(Davide Mana)、マッシモ・スマレ(Massimo Soumare')、マッシモ・チーティ(Massimo  Citi)、 アレッサーンドロ・デフィーリッピ(Alessandro Defilippi)。
「日本の章」序文:マッシモ・スマレ(Massimo Soumare')。収録作家:朝松健(あさまつ・けん)、坂東眞砂子(ばんどう・まさこ)、菊地秀行(きくち・ひでゆき)、久美 沙織(くみ・さおり)、恩田陸(おんだ・りく)、瀬名秀明(せな・ひであき)、篠田真由美(しのだ・まゆみ)、上田朱(うえだ・あけ)、井上雅彦(いのうえ・まさひこ)、

PROGETTO
http://www.progetto.co.jp
〒210-0023 川崎市川崎区小川町4-1 LA CITTADELLA内 tel: 044-211-4616  fax: 044-211-4617 営業時間11:00〜21:00  無休

2006.06.20

 梅雨の晴れ間というのはまったくめちゃめちゃ暑いね。もう夏は目の前だということを、いやでも思い出させる。篠田は夏が苦手。昔クーラー無しで生きていたとはどうしても信じられない。それでもまださすがにスイッチは入れていないのだが、午前中うちの仕事場の近くでへたくそなトランペットの練習をしているやつがいて、これがもう気に障るっつたら。
 仕方なくエアロバイクを漕いだ後は散歩に出たが、あまりの暑さに閉口して一時間で戻る。後はだらだらと建築探偵次作のプロットを作る。こういうときは物語の一番深いところの層をこしらえているので、これはもう毎度自分でもうんざりするくらい暗くて嫌な話であります。建築探偵の場合特にキャラ・ベースで書く「現在時の語り」はあまり暗くしないようにしているので、その向こうにかいま見える基層の話は暗すぎるくらいの方がバランスは取れるんだと思う。美形や可愛い子のキャラを前に出すと、それだけで軽いと思われてバカにされる部分というのは絶対ある、という気はするんだよね。でも、篠田は読んで滅入る話は嫌いだから、書きたくもないから、「世の中嫌なことはいくらでもあるけど、それだけじゃないよ」という話を書き続けます。とはいえ、これからだんだんと暗くはなるんだけど、でもそれはラストのための準備だから。

2006.06.19

 昨日の夜はサッカー帰りの連れ合いに起こされたがすぐ寝た。相変わらず朝は早めに目が覚めてしまうが、最悪の時期は一応脱した模様。更年期のホルモン治療とダイエットが多少なりと効いたのかどうか、因果関係はわからないんだけどね。しかし昼飯をダイエット用のシェイクやビスケット、カロリーは低く必要な栄養素は入っている、に置き換えると、夕方頃からガス欠な気分。ジムに行った日は腰が抜けそうになる。

 『聖女の塔』は再校ゲラを戻して、表紙も決まったので、ほぼ作者の手は離れた感じ。ファンレター用のペーパーも作成済み。まっ、無料配布ですから大したものではありませんが、手間と送料だけはかかるんでご納得を。

2006.06.18

 ゲラをしつこく見直していると、まだ表現のだぶりとかが見つかって「ああ、なんと文章の下手くそなことよ」と嘆かずにはいられない。どっちにしろあまり精神衛生的には嬉しくない作業だ。しかしそこを通らないことには本は出来ない。篠田が結局同人本から手を引いたのも、e-novelsサイトでのテキスト販売に積極的になれないのも、校閲を通らないとどんなミスが山積しているか全然自信が持てないからだ。本が売れない、出してもらえないということになれば、同人本なりネット配信なり、そういう産直システムを否定してもいられないわけだが、私的に校閲者を雇ったりしたらたぶん大赤字になっちゃうだろうしなあ。というようなことを考えると、気分がどーんと落ち込むのでありました。
 今日はサッカー日本対クロアチアで、きっと連れ合いは10時から、身体は目の前にいても魂はドイツ、状態になっちまうんでありましょう。篠田はさびしく本でも読もう。

2006.06.17

 永六輔さんの「土曜ワイドラジオ東京」を朝仕事場に行くまでにちらっと聞いているのだが、今回は野坂昭如特集だというので、仕事場でも普段はつけないラジオを聞く。しかし離れたり、自転車を漕ぎながらだと聞こえなくて、結局1時まで仕事にならなかった。永六輔とか野坂昭如とかいっても、篠田の読者で「ああ」といってくれる人はめったにいないだろうなあ。
 『聖女の塔』の再校ゲラが来た。今回は初校の直し部分を全部パソコンのデータとプリントアウトに転記してあるので、それと照らし合わせをする。するとやはり人間のしていることで、まだまだ見落としミスはあるし、初校で直したはずの場所が直っていなかったりする。増刷もなかなかかからない状況になりつつあるので、そのためにも直しは慎重な上にも慎重にやらないとならない。

2006.06.16

 昨日は上高地取材の記憶が薄れないうちに、冒頭の森のシーンをちょっと書いてみたら、わりと良い感じ。物語の構想もぼちぼちと書き付けるが、それで最後まですらっと話が出来上がるわけはない。そんな簡単にはいかねーよ。毎度漠然たるイメージや場面から、首尾一貫した話が出来上がるまでの七転八倒が一番しんどい。

 今日は『聖女の塔』の感想手紙をくれた人に送るお返事ペーパーを作ってみる。最近はイベントに出なくなったし、同人本も作らなくなったので、ひところよりいただける手紙が減って大変に寂しい。篠田は基本的にいただいた手紙には返事を書くことにしているが(それですぐまたいただいたりすると、そこらでいったん間を開けることはある)、しかし中には返事を書く気にもなれないような手紙もある。文字がやたらときたない人は、読んで欲しいと本気で思っているのか、と首をひねってしまう。字の上手い下手ではありません。下手なら下手なりに丁寧に書けば、読めるし決して感じも悪くはないものです。それから、おそろしくぶっきらぼうに要求だけをつきつけてくるような手紙。別に「先生」と呼んで奉れ、というわけじゃないけど、見ず知らずの相手に対しているのだ、という常識的な自覚を持っていない人がときどきいる。そんな場合は、昔は丁重に説教したりもしない。さすがにこの年になるとそこまでしんせつにっているだけのエネルギーがない。返事しないこともあります。
 ペーパーを作った後、前から考えている日常的ほのぼのファンタジー少しミステリ風味な連作短編、といった話の設定とプロットを作ってみる。いままでの篠田のテイストとは明らかに違う、誰だおまえはっ、と口走りたくなる。しかしいまのところまだ、他人が書いたような話の気がして、それでも篠田の作品です、というまでの掘り下げは出来ていないなあと思う。それからいま頭の隅に転がしている話は、神代先生シリーズの別の話で、神代、辰野に、大島教授(彼がどこに出てきたか即答できる人はえらい)というおやじ三人組が、桜屋敷と呼ばれる館に暮らすババア三人組と対決する渋い話。悪いか。年寄り書くのは好きなんだ。あと、そろそろ考える必要があるのは理論社さんの書き下ろしだなあ。こっちはキーワードしか決まってないんだ。

 読了本『証言の心理学』 高木光太郎 中公新書 いかに人の記憶は信じられないかというお話で、本格ミステリには大変困った本(笑) ン年前の何月何日にホテルにチェックインした容疑者の特長を平然と証言するフロント、とか。おいおいって、それはいわない約束でしょ、というところで成立している部分は確かにあるんだよなあ。

2006.06.14

 本格ミステリ大賞については、ご興味がおありの方はぜひ「本格ミステリ作家クラブ」のサイトにお越し下さい。結果だけでなく投票した作家評論家の選評も、順次アップされるはずです。本日発売のジャーロ夏号にも掲載されています。あなたのごひいき作家はどの作品になんといって投票しているか。あるいは候補作をご自分も読んで、抱かれた感想と近いことをいっている作家の作品を次には読んでみる、なんてえのも面白いんじゃないかと思います。

 篠田はパーティの翌日夜行バスで上高地へ。建築探偵の来年書く作品に、どうしても新緑の森が見たくなり、いま見ておかないと来年書けない、というわけでばたばたと出かけることに決めた。天気は悪いよなー、と覚悟して雨具や防寒下着などをリュックに詰めていったのだが、意外や曇りから晴れへ。しかし暑過ぎはせず最高の条件の中で、一泊二日連日3万歩歩きも歩いたり。緑の美しさと山野草の花のかずかず、そして野生の鴨やおしどり、キジバト、ニホンザルまで出た。鴨は水を泳ぐ雛集団とも遭遇。人を見ても全然逃げない愛らしさにほとんどボーゼン。なるほど、上高地は日本最後の聖域だわいと感動したが、火曜日の河童橋からバスターミナルは団体や修学旅行生の群れで「ここは新京極か」といいたくなるような雑踏。いまの季節でこれなのだから、そりゃー夏の最中はとんでもねーでしょう。
 ただし河童橋からさらに上流へ向かうとずんと人は少なくなる。徳沢のキャンプ場近くで、雌に振られかけているようにしか見えなかった雄のおしどりを眺めて爆笑。明神池では人を見ても逃げない巨大岩魚に感動。近くで食べたキノコソバにも感動。篠田はソバは御前ソバより黒くて太い田舎ソバが好きなので、信州のソバは口に合うのだ。泊まりは明神館という山小屋に近いが山小屋としては大変にデラックスな宿で、飯は山菜の他にとんかつがついているあたりがなんとなく「くすっ」。つれあいは篠田に強引に連れ出されて「日本対オーストラリア戦が」と泣いていたが、ここでは部屋にテレビがないどころか、「自家発電だから夜9時過ぎると電気が消えます」。すまんな、マイ・ハズ。君が応援しなかったから日本が負けた、ってなわけはないだろう。
 ミステリ者としては、道路が落石で埋まっていたり、携帯が圏外になっていたり(ドコモは通じるらしい。auは駄目)するとなぜかニコニコしてしまう。なんでかといわれても困るんだけど、この21世紀にクローズド・サークルに近い場所というだけで、なんか特別に思えるんですな。ついでにもうひとつのニコニコは野草観察で毒草を見つけることで、ハシリドコロとマムシグサを確認。篠田の記憶力も捨てたものではない。これはぜひ秋に来てヤマトリカブトを、いや、見るだけだけどさ、と思ったら、秋の花のはずなのに本には7月に咲いていて、いやあ、そんな人の多い時期にはちょっとね。でも小説は上高地をモデルにしたある場所で、初夏の6月に始まって11月に終わるつもりなんで、最低あと2回は行きます。 

2006.06.09

 今日もジャーロだけ。明日は本格ミステリ作家クラブの総会とパーティなので、日記の更新はお休み。

 読了本 『不機嫌なメアリー・ポピンズ』 平凡社新書 マンガの「エマ」を読んだので、こういう本も手に取ってみました。イギリス社会と階級の話。日本社会にだって日本社会の差別や格差の構造は山ほどあるわけだが、こういうのを読むとやっぱり違和感があるというか、不自由だなーっという気がしてしまう。逮捕前のホリエモンの下品な贅沢三昧なんか見てると、「いくら金があっても一代じゃアッパークラスにはなれないよな」なんても思うけど。ところで篠田は映画のチャーミングなメアリー・ポピンズではなく、原作の不機嫌な彼女の方がずっと好きでした。高校の時の担任の先生と妙に似ててね。
 『架空の王国』 高野史緒 ブッキング 復刊本。久しぶりに読んで思い出した。この話って少し構造的に『アベラシオン』と似てたんだよね。ヨーロッパに単身留学に来た日本人のヒロインが到着早々殺人事件(のような事件)に遭遇し、謎めいた美青年とともに事件に巻き込まれていく、という。すごく丁寧に作り込まれた舞台が魅力的。

2006.06.08

 ジャーロをやって、ジムに行って、それで今日も終わり。書くことがないっす。

2006.06.07

 ダイエット中にもかかわらず、カレーを作りたくなって作ってしまう。しょうが、にんにく、たまねぎ、にんじん、セロリを炒めてカレー粉を入れて、というごく当たり前のカレーだが牛すじでやってみました。どんな味になるか、一日寝かせてみよー。

 ジャーロに戻って65枚まで。しばらく離れていたので、頭を引き戻すのに時間がかかる。

2006.06.06

 映画の試写会に行く。「サイレント・ヒル」というホラー映画。もっとミステリっぽいのを期待して行ったのだが、それは違った。もとはゲームだそうで、ゴーストタウンの中でヒロインが失踪した娘の行方を捜してさまよう。ヒントを見つけて次のポイントに行って、迷路の中をうろうろ。そのへんがゲームのまんまなんだろう。
 ゴーストタウンのセットは非常に良い。建築好きだからそういうのには目が行く。しかしお化け屋敷みたいな迷路の中をさまようとでろでろした怪物が行く手を阻む、というパターンが繰り返されるシナリオははっきりいってぬるすぎるし、その怪物が気持ちは悪いが怖くないというか、お決まりのパターンでなんかしらける。
 それとこれはホラーのお約束なんだろうね。登場人物が確信を持って、もっとも危険な、あるいは無謀な選択をして事態を悪化させるというパターン。夢遊病の娘がある町の名前を叫ぶからって、母親が9歳の娘を連れて、夫を置き去りにろくな準備もしないまま下調べもしないまま閉鎖されたゴーストタウンに出かけるという発端。あまりにも馬鹿すぎるよ。そのせいでちっとも感情移入できない。
 サイレント・ヒルの謎というのは、一応ミステリのネタだからここではばらさない。ただその描き方も類型を一歩も出ない。ネタとしては非常に怖い話なんだが、映画の中からその怖さが迫ってこないの。あ、そーですか、くらいで。ほんとにゲーム並にうすっぺら。ついでにヒロインの夫役をショーン・ビーンがやってるんだけど、なんの見所もない気の毒な役です。
 でも、こういう映画を見ると「この手の話を自分ならどう小説にするか」といったことを考えたくはなるね。もっとちゃんと伏線を張って、人間の業みたいなものを感じさせる怖い話に。

2006.06.05

 講談社のこれまでの担当がメフィストの編集長に昇格してしまったので、また担当が変わった。というわけでゲラを受け取りがてら新担当来る。建築探偵ラストまで、これ以上担当が変わらずに済むだろうか。
 今日は後は手紙の返事を書いたり、部屋の掃除をしたりして一日終わる。

2006.06.03

 小川町でつれあいの知人の画家が油彩の個展をしているのを見に行く。有元利夫とルオーを足して二で割ったような。
 午後はゲラの続き。今回はしつこく読み返している。まだ訂正点は出てくる。明日の夜は都合により残業。日記の更新はお休み。

 読みかけ本 『ユダの福音書を追え』 日経ナショナルジオグラフィック エジプトの墓から発見された古文献は、失われたと思われていたユダの福音書で、ユダがイエスに命じられて彼を官憲に引き渡したと書いてあった、というもの。そんなものが発見されていたならなんで全然ニュースにならなかったんだろう、というのがまずあって、これは実は小説、あるいはトンデモ本、という疑惑が消えない。しかしよく考えてみれば、これが史実だったというわけではなく、紀元後三百年あたり、つまり実際にイエスが刑死したときから三世紀も経ってそうした文書が書かれた、というだけの話なんだなと思い直す。それにしても翻訳の文章が非常に読みづらいのと、正典である四福音書の成立についての説明がまったく不正確というか、現代の研究以前の書き方をしているせいで、信憑性がますます危うい感じがある。まあ、こんな本が我が町の本屋に平積みされているというのも、『ダ・ヴィンチ・コード』の御利益でしょうな。映画はけなされてるけど、客はそれなりに入っているらしいし。

2006.06.02

 ダイエットといいながら、スーパーで美味そうなシチュー肉を見つけたので、赤ワインたっぷりのビーフシチューを煮てしまう。まあ、どうせそんなに急激に体重を減らしても、皮がたるむだけだしさー。
 仕事はゲラチェック。校閲の鉛筆というのは、毎度毎度腹立たしい。漢字の統一、というのはひとつの作品中で「私」と「わたし」が同居しているような場合に、それをひとつに決めろという指示を出してくるの。あんまり意味がない気がするけど、まあいいかと思って原則的には従う。あ、でも一人称の用字は、人によって使い分けることがわりと多いので、そういうのは変えない。桜井京介は常に「ぼく」ではなく「僕」なので、かなになっていたら間違い。逆に蒼は「ぼく」。ミスもたまにあるよ。
 文章のチェック。文法的に間違っている場合とか、省略している場合に、やたら杓子定規な訂正が入るが、これは80%くらいけっ飛ばす。小説は学術論文ではない。漢字の用法。例えば「出会う」と「出合う」、「計る」と「図る」と「謀る」。後者は音は同じでも意味が違うけど、前者の場合けっこう微妙なところがあって迷う。日本語というのはどうもなかなかに厄介な言語なんであります。

2006.06.01

 昨日一昨日は滋賀県の琵琶湖周辺にウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築を訪ねた。「桜井京介館を行く」の番外編のような旅。ただし今回は柴田よしきさん、近藤史恵さんとご一緒で、柴田さんのガチンコ取材に篠田がおまけでついていったような案配。いろいろと面白いことはあったのだが、いずれ作品に使う部分もあると思うので、そこはそれ、です。
 昨日はわりと眠れたと思ったが、なんとなくモーローとしている。荷物を片づけて洗濯をして、『聖女の塔』のゲラが来たので見始めて、ジムに行く。そんな感じでたらっと一日過ごした。

 読了本 『不思議島』 多島斗志之 創元推理文庫 黒川博行さんとか、いままで読んでいない作家の本格作品を創元が次々と文庫化してくれるので、こんな機会がないとなかなか読めない作品に出会えるのが嬉しい。これも瀬戸内の風物や情景が細やかに描かれた中にトリッキイな本格ミステリが溶け込んだ佳品。
 『銃とチョコレート』 乙一 講談社ミステリーランド この人はやはり短編作家なんではないかな、という印象に尽きる。基本プロットに他の要素がいろいろと入ってくると、妙に散漫でごたついた印象ばかりが先に立ってしまうのだ。本格っぽい伏線と謎の解決なんかもあるのだが、そのごたついた中に埋もれている感じ。もっとも、この種の暴力や裏切りやどんでん返しに満ちた物語は、子供が結構好きかも知れない。