←2006

2006.05.29

 今日もジャーロ。ゴシック・ロマンスなのでねちねちと。ミステリとは自然書き方が違う。しかも、篠田の小説は美形ばかりなどといわれるが、今回は非常に醜悪な女性が話の中心にどーんといるので、これはまあいままでの読者には受けづらいかも知れない。でもしゃあない。そういう話が出来てしまったんだから。

 少し訂正。ダン・シモンズなどとこの前書いてしまったが、あの小説の作者はダン・ブラウンですね。ダン・シモンズは篠田の好きなホラー作家です。本屋で映画のさわりをやっていて、爺さんのナニはまぶしいライトでごまかされてました。まあ、要するにぼかしですな。イアン・マッケランにジョン・レノという豪華なメンツには驚いたけど、見に行くことはないな、全然。

 明日明後日、柴田よしきさんと近藤史恵さんと一緒して某所へ旅行。柴田さんは取材ということで、こちらは別に書く予定はなく建築物見遊山。というわけで日記は二日間お休みします。

2006.05.28

 吉田さんの追悼文をいっぺん書き上げてプリントして、一日に二度三度と読み直しては少しずつ手を入れる。そうするとまた読み返したくなってスニーカー文庫を取り出す。カバー袖の作者のことばなんか読むと、いつもおちゃらけていて、「死ぬかも」とか書いてるんだよね。そういうの別に珍しくないけど、ほんとに死んだら洒落になんないでしょうよ、吉田さんッッ、と詰め寄りたくなる。
 最近前よりは眠れるみたいでずっと薬無しで来たんだけど、今日は早くから目が覚めてちゃんと寝直せなかったようで頭が痛くてどうにもならず、午前中はうだうだする。それから一時間ばかりジャーロをやって、雨が上がったので今日はエアロバイクではなく外に散歩に出る。あんまり歩いて楽しい道もないのだが、2時間近く歩き回って6千歩くらい歩いて戻りジャーロをやる。
 吉田さんみたいに持病の爆弾を抱えてなくても、いつなんどき天災が襲ってくるかわかんないし、そのときに原稿を書きかけで放り出すような真似は出来る限りしたくないから、少々体調が悪くても書けるときに書くってことで。今夜は睡眠導入剤飲もうかな。

2006.05.27

 今は亡き吉田直さんの回顧展をふるさと福岡県の芦屋町でするというので、そのときに出すパンフレットに寄稿して欲しい由、角川書店を通じて依頼が来る。個人的に親交があったとはとてもいえないほどの淡い出会いではあったが、慰霊の気持ちに劣るところはないので快諾、早速書いてみる。そうするとまた本棚に行って最後のスニーカー文庫「トリニティ・ブラッド神学大全」を読み返してしまう。

 いつまでもプロットをやっていてもしょうがないというか、もともと隙間のないプロットまで作ったら書く気がしなくなる性分なので、ジャーロを書き出してみる。前回の連載も書きためではなく、各回ごとに100枚ずつ書いていくのでうまくいったので、今回もまた早め早めに、しかし時間をかけて書いていくことにしよう。

2006.05.26

 今日もだらだらとジャーロのプロットをやる。篠田の場合トリックがあってそれにふさわしい舞台を決めて物語を作るのではなく、書きたい舞台と設定を先に決めてからその中で穴を掘るような作り方をする場合がけっこうある。今回も架空の島に架空の歴史を作り、架空の小説家の経歴を決め、登場人物を作って物語を掘り出す。あまり一般的ではない書き方かも知れない。
 講談社文庫の建築探偵シリーズをもっと売るためにはどうしたらいいか、という話を担当としていて、これまではテキストに全面的に手を入れて文章をいじったりしていたのだが、同じ手間を掛けるならおまけの書き下ろし短編といったものをつける方が販売促進には役に立つのではないかといわれて、なるほどと思う。

2006.05.25

 久しぶりに銀座に出て、資生堂ギャラリーで写真展を観て、お茶を飲んだりする。けたたましいところや人が多すぎるところは苦手なので、やはり銀座は好きである。
 台湾語版の建築探偵の見本が届いた。『未明の家』が『黎明之家』。なかなか渋くてすてきな装丁なり。つきましては、台湾語が読めるのでぜひ読んでみたい、あるいは台湾の友人にプレゼントしたいというような方、一名様にこの本を贈呈させていただきます。ただし、篠田の送り先は日本国内に限る。ご希望の方は講談社文芸第三気付篠田まで。複数になった場合は抽選。でも全然希望がないかもしれないので、〆切は特にもうけません。
 『エマ』が完結しましたね。と、唐突に。知る人ぞ知る、ヴィクトリアン・ラブ・ロマンスまんが、本格的メイドもの。ちゃんとハッピーエンドだったんでやれやれ。ところで9月発売のジャーロ秋号から始まるゴシック・ロマンスにはメイドも出ます。執事は出ないけど。

2006.05.24

 仕事場の片づけをしていて、クローゼットの奥を見たら空きダンボール箱や手提げの紙袋がどっと出てきた。越してきたばかりのとき、空間が余っていたのでついそんなものまで取っておいてそのまま。どーっと捨てる。
 六月に上高地に行くことにした。次の建築探偵の取材。まだその前の本も出ていないのに、ずいぶん気が早いが、どうしても六月の新緑が見たくなってしまったのだ。書くのは来年でも、今見ておかないともっと先になってしまう。五月末に近江八幡に行って、こちらは純然と建築物見遊山だが、6/10に本格ミステリクラブの総会があって、そのすぐ後。というわけでなんだかせわしない。

 読了本 『出口のない部屋』岸田るり子 東京創元社ミステリフロンティア 鮎川賞受賞者の第二作。読みやすい。頁をめくらせる力は強い。ただ、後味は悪い。ネタバレになってしまうからそのわけは書けないんだが、こういう問題をミステリの謎を構成するためだけに持ってくる、というのは、どうもね。
 『配達あかずきん』 大崎梢 東京創元社ミステリフロンティア 書店を舞台に書店員が謎を解く日常の謎もの。こちらは非常に読み味は良い。謎の提示も解体も実に無理がなく嫌みがない。ただしその分印象は弱い。さらさらっと読んでするするっと忘れてしまう感じ。まあ、いまどきの流行の線ではあると思う。ところでタイトルはやはり、怪傑黒頭巾の語呂合わせだろうか。

2006.05.23

 パソコンが調子悪い。立ち上がらずにハードディスクが止まってしまう。不吉だったらありゃしない。
 今日は友人が遊びに来たので仕事はお休み。いつもはちゃんと手料理でもてなすのだが、ダイエット中なので野菜スープとサンドイッチで勘弁してもらう。それでもついついこちらも食べてしまい、もう元の木阿弥だろうか。

2006.05.22

 一応ゲラ直し完了。あとは校閲を通したゲラが来るのを待つ。先に白ゲラを読ませてもらわないと、校閲の指摘が気になってテキストがちゃんと読めないのだ。それでも今回は直しは比較的少ない。

 ダイエットは、いきなり昨日よりどんと増えていて真っ青。なにせ秤が細かいから、少々の体重変動でもすごく大きく感じる。というわけで昼飯を抜く。無意味だなあ、という気もしないではない。アルコールを断つのがたぶん効果的なんだろうけど、そうまでして健康を維持しても心の健康の方が・・・

2006.05.21

 『聖女の塔』のゲラ直しを続ける。

 ダイエットをすることになった。このところじわじわと体重が増えて、落ちなくなってしまった。それでも身長と体重の比からいったら標準の中に収まるのだが、血中コレステロールが高い。つまり隠れ肥満なのである。50グラムまで測れる体重計を買う。これでわずかの努力も数字に換算できる。しかし難点はあってそのたびに裸になって測らないとならない。だってジーパンとシャツで700グラムもあるんだから、正確を期するためにはね。夕飯を減らすのが一番効率がいいことはわかっているが、一日に一度くらい食べたいものを食べないとストレスが貯まってしまう。と言うわけで、結局減らすのは昼。いまは原稿中ではないので減らすのは簡単。というか、もともとそんなに食べてないんだけどなあ。

2006.05.20

 やたらと蒸し暑くてへばっていたらすごい土砂降りの雨で気温下がる。やれやれ。
 ゲラが届いたので読み始めたが、アマゾンで頼んだ本が来たのでそっちに手を伸ばしてしまう。
 読了本 『ダ・ヴィンチ・コード最終解読』皆神龍太郎 文芸社 と学会の著者の本なので期待して読んだが、やっぱり面白かったというか、我が意を得たりで溜飲が下がった。だいたい『ダ・ヴィンチ・コード』を読んで篠田が思ったことといったら、デニケン本に昔はまった人間が『神々の指紋』を目にしたときの気分。つまりネタ元が全部透けて見えるぜ、なんにも目新しくないぜ、まったくもって釈然としないことばかりだぜ、という感覚だったから。『レンヌ・ル・シャトーの謎』も読んでるしね。最後の晩餐の聖ヨハネがマグダラのマリアだとか、ナイフを持った手が聖ペテロの手じゃないとか、左手のポーズが手刀だとか、全然そんなふうに見えないし、と思ったのは篠田だけではなかったのね。シオン修道会の正体とか、ソニエール神父が贅沢を出来たわけとか、なーんだ、なーるほど、と間然とするところがない。
 オカルトは好きです。夢を見るのも妄想するのも好きです。でも、妄想を解体するのも好きです。幻想文学も本格ミステリもどっちも好きなの。オカルトとんでもネタの総ざらいと解体と、なおかつ人間がそこにはまる魔と、そのへんはエーコがとっくの昔に『フーコーの振り子』でやっちゃったことなのに、でも大ベストセラーになるのはそれよりはるかにつまんない『ダ・ヴィンチ・コード』の方なんだな、と思うとちょっとため息。
 でも、ダン・シモンズってかなり変な趣味の人だと思うよ。しょっぱなはダイイング・メッセージだからって、瀕死のじいさんが真っ裸で大の字になった死体。映画、どうやって撮すんでしょう。じいさんのナニにぼかしでもいれるのかしら。前作の『天使と悪魔』では、誘拐された枢機卿が次々と惨殺されるんだけどこれが全員じいさんで、しかも必然性なく真っ裸で殺される。じじいのオールヌードに萌える嗜好がある人らしいです。せめて美青年にしてくれませんか。あっ。それとトム・ハンクスはどう考えてもミス・キャストだよ。

2006.05.19

 読み上げた本がすごかったので、未練がましくいじりまわしていた建築探偵次回のプロットが頭から吹っ飛ぶ。これをチャンスに意識を切り替えてジャーロの連載用のプランを立てることにする。と思ったら、もう『聖女の塔』のゲラが出たらしい。校閲の入っていない白ゲラなので、先にとっとと読み上げて直すところは直して、校閲が入ってくるまではジャーロをやろう。で、その本。
 読了本『人間の暗闇 ナチ絶滅収容所長との対話』 ギッタ・セレニー 岩波書店
 原著は1974年に出た、終身刑判決を受けた男に70時間に渡るインタビューを行い、関連する周辺人物の証言を併せて一冊とした本。元収容所長のタイプは、例のアイヒマンとも似た、地道で善良な役人タイプで、「仕方がなかった」「命令だった」「あの当時、自分に何が出来たろう」という弁明も重なる。残酷なことを好んだわけでもなく、命令に従って迅速に、能率良く、ことを進めることだけを企図した能吏タイプ。しかし彼は最後の最後に「私がまだここに生きている。それが私の罪だ」ということばを口にする。そしてそれから十数時間後に、持病の心臓発作で死ぬ。たぶんアイヒマンは処刑されるまで口にしなかっただろう己れの罪を認めることばに、読者はいくらか救われる。しかしそうやって予定調和の中でやすやすと安心は出来ないというのは、それまでに読んできた証言があまりに恐ろしいものだからだろう。人間がいかにたやすく道徳的に退廃できるかということに、暗然としてしまう。
 『夜と霧』なんかを読むと、生き抜いた収容者は英雄だ。しかし絶滅収容所トレブリンカの生き残りは、あまりにも率直に己れの罪を認める。ほとんどのユダヤ人が到着後二時間以内に殺害される絶滅収容所で、作業に従事させられるために選び出された生存者は、到着するユダヤ人が持ち込む食料で飽食し、彼らから剥がれた衣類で身ぎれいに装う。汚れて弱っているように見られると、ガス室に送られる危険が増すからだ。しかしユダヤ人の移送が途切れると、たちまち物資は払底し飢餓が迫る。そして彼らは、明日からまた移送が始まるという知らせを、朗報として受け取るのだ。これでまた腹一杯食べられるぞ、と。殺されるために運ばれてくる人間を、彼らから奪い取れる食料のために喜んでしまうというのは、そんなところまでたやすく追いつめられてなお生きたいと願ってしまう人間というのは・・・言葉を失う。
 よくぞ翻訳してくれたと思うが、訳文に妙な無神経さが目に付いたことは事実。カトリックの聖職者を「牧師」としたり、「教皇」と「法王」が数行をへだてただけでどちらも頻出したり。校閲、いないの?

2006.05.17

 仕事場のマンションが点検のため停電するというので、落ち着かないから池袋まで買い物に行ってきた。といっても、どうも体調がいまいちなので、リブロの本屋と他の売り場一カ所だけ行って、あとはとっとと帰る。買った本はまだ未練がましくというか、次の建築探偵のための資料本。しかし考えただけのことはノートに書いておかないと、いざ来年になって書き出そうとしてもそんな記憶は空の彼方だからな。
 明日はマンションの理事会で帰りが遅くなるので日記はお休みします。

2006.05.16

 『聖女の塔』を書き上げたところから頭が離れないまま、次作についてのメモを取っていたが、それもそろそろ湧いてきた分だけは吐き出した感じなので、明日あたりから違うことが出来るかもしれない。〆切として気になるのはジャーロだけど、まだ三月先なのでまあ気は楽である。
 純文学の雑誌「群像」六月号に載った「『虚無への供物』論」が面白いと聞き、しかし篠田のいるど田舎では群像なんて売ってないよ、といったらくれた。読んだ。大変に面白かった。しかし作者中井英夫がなぜこの小説を書いたのか、そこになにをこめたのかということが指摘されて、それがたぶん正しいのだろうなということになったからといって、この小説を受容するのに大きな変化があるかというと、実は別段無い気がする。これまでも、作者が自分の伝記的な事実をフィクションに溶け合わせていたことは知られているしね。でも愛してしまった作品というのは、はっきりいって作者はどうでもいい。作品だけがあればいい。少なくとも篠田はそう感じるので、ファンレターも書かなかったよ。エンタテインメントの楽しみ方というのは、そういうものではないのかな。桜井京介や蒼や龍を、篠田真由美という現実に存在する人間が書いたということは、別段忘れてもらっていいんだ。ていうか、忘れてもらう方がいいんだ。

2006.05.15

 疲労感残りで体調が良くない。あとがきと著者のことばを書いてメール。体調は悪いのに文章のテンションは我ながら異様に高い。これでもしも元気だったらどういうことになるのだろう、と変な呆れ方をする。
 建築探偵NO.12『聖女の塔』は結局7/10刊予定となった。話が転々として申し訳ないが、これでほぼ決定であります。またこの本は篠田の著作40タイトル目となる。文庫の再刊などは除き、上下巻や三部作、4冊一組はいずれも1と数えてなので、実際に出ている本の数はもっとずっと多いが、まあ一番タイトに数えて40である。
 これが出たら久しぶりに、お便りを下さる方へのお返事ペーパーを作ろうと思うので、ぜひご購読の上感想をお寄せ下さい。まだ二月近く先の話なので、また本が出ましたらその辺のご案内をサイト上でさせてもらいます。建築探偵完結のときには、なにか個人的に記念になることをやりたいとは思ってますが、それはそのときになってみないとわからないもんで。

2006.05.14

 一日自宅で沈没。ベッドの上でひたすら本を読む。というわけで、
 読了本『チョコレートコスモス』 恩田陸 毎日新聞社 『ガラスの仮面』である。ふたりのヒロインが天然の天才少女と「演劇界のサラブレッド」といわれる若い女優だったりするところからして。後半、オーディションが始まってからが俄然面白くなるが、案の定肝心の舞台は幕も上がらないところで終わる。そんなところまで『ガラスの仮面』を踏襲しなくても・・・ というわけでボリュームの割にはちょっと食い足りない。
 『キャメロットの鷹』『聖杯の王』『最後の戦い』 ひかわ玲子 筑摩書房 アーサー王宮廷物語三部作。そもそもアーサー王伝説には、魔法の島アヴァロンや妖精の原ヨーロッパ的ファンタジーと、聖杯伝説のキリスト教ファンタジー、相矛盾するふたつの地層があって、多様で豊饒なエピソードを拾い集めながらこれを現代人の鑑賞に堪える物語に再編することは非常に難しい。本質的な部分は前者だが、騎士道というものは実のところはキリスト教と切り離せないから、そのへんを糊塗しようとするとどうしてもゆがみが出る。この作品はキリスト教要素を極限まで切りつめ、騎士道を武士道のような非宗教的な道徳律に近づけることでその矛盾を回避してみせた。特に原アーサー王伝説に知識も興味もない、一般的な日本人ファンタジー愛好者にはアッピールする良質な作品だと思う。

2006.05.13

 本格ミステリ大賞は確定したのだけれど、今回は候補作が傑作、問題作ぞろいなので、ミステリが好きと思う人は大賞受賞作だけでなく、この五作をぜひ読み比べてもらいたい。そうすると「あ、自分はこのタイプが好きなんだ」とわかるのではないか。
 道尾秀介 向日葵の咲かない夏 新潮社
 石持浅海 扉は閉ざされたまま  祥伝社ノンノベル
 島田荘司 摩天楼の怪人     東京創元社
 東野圭吾 容疑者Xの献身    文藝春秋

 ちなみに篠田が投票したのは摩天楼でした。

 今日はやはり疲れ気味なので、バスソルトを入れた風呂でゆっくり半身浴。そうしたら少し復活してきたので、『聖女の塔』のあとがきを書き、なんとなく建築探偵の次のプロットが浮かんでくるのでメモ。タイトルを考えるので辞典をめくり続ける。仮題、くらいまではたどりついたが、まあ、NO.12も出てないんだからその先の話はもうちょっと後にしましょう。なんとなく7月かなーと思っていたけど、講談社ノベルスは月頭の刊行なので、たぶん8月になりますね。
 自慢するほどのことでもないとは思うけど、これだけ巻数があって作中の人物が一貫して年齢を重ねてきている、いわば大河ミステリというのはあまり例がないんではないかと。まあ、栗本薫大先生の伊集院大介なんてもっとたくさん出てますし、探偵は年を取ってますが、少し違いますでしょう。もちろんいつからでも読み出せるのは本の良いところだけど、最終巻が出てしまったらやはり「桜井京介の謎」は絶対の謎ではもうなくなる気がするんですよね。となると、それが明かされるときにリアルタイムで居合わせてくれる読者にとっても、やっぱりそれは一度きりのイベントではないか。
 まだ間に合います。グインみたいに100巻のはずが終わりませんでした、だから豹頭の謎が解けるのもその分延期です、なんてはいいません。あとたった4冊。また間に合いますぜ、お客さん。

2006.05.11

 原稿の直しを終えて五時過ぎメール送稿。323頁。しばし虚脱する。出来については自分ではとても判断がつかん。とにかく走ったぜ、走り終えたぜ。きつかったぜ。
 明日は本格ミステリ作家クラブの公開開票会。篠田も開票の手伝いをするので、その前に医者に行くことにし、午前中から外出します。というわけで明日は仕事はお休み、日記の更新もお休み。
 この週末は仕事場をざーっと掃除してから、手紙をいただいた読者様にお返事を書いて、後は昼ビールでも喰らいながら読まずにとっておいたひかわ玲子さんの新作ファンタジーを読むことにしよう。あ、恩田陸さんの新刊も手つかずで置いてあるぞ。とにかくそうしてよそ様の本を楽しんで頭を洗って気分転換を図るのじゃ。ほんとはどこか温泉でも行くとか、腰が抜けるほど飲むとか、それくらいのことはしたいんだけど、温泉行くほどの暇も無し、深酒したら二日酔いが怖いし、と情けないお話。歳は取りたくないのお。

2006.05.10

 原稿手直し中。

 読者からのお便りが転送されてくる。原稿が片づいたらお返事を書くつもりなので、今日はこの場でお礼を。新潟のSさん、「龍」も読んで下さっているようで有り難うございます。新刊出ましたよ。横浜のIさん、もー、お便り最高です。しかし京介とカゲリの友情というのは、なかなかに作者の意表をついておられましたです。
 それから一通住所氏名まったく無しのハガキが来ていまして、無記名の封筒は開かずに破棄するのですが、ハガキなんで読んでしまいましたら、『アベラシオン』に対する批判でした。文字もきちんとしていたし、文意もよく伝わりましたし、自腹を切って買って下さって最後まで読まれた本がお好みに合わなくて、お気の毒であったと思います。
 しかし、なんで無記名なんでしょう。それは篠田も人間ですから、批判されたら嬉しくはないですけど、それに反論するほど暇ではないし、カミソリや爆弾を送りつけもしませんよ。ちゃんと正統な批判だと自分で思うなら、リタンーン・アドレスと名前をお書きになるべきだと思います。無記名だと嫌がらせのようにしか見えません。絶対作者が読むようにハガキにしたんだろう、としか。まあ、金返せといわれても返しませんけど、特に批判論は匿名にした途端にうさんくさく、論旨も割引されてしまうということを、ご存じないなら非常識だし、ものを書くと言うことについてそんな程度の認識しかない方があまり人の小説をけなすわけにもいかないだろうと思います。

 トリノのマッシモさんにトリ・ブラについて、「女性の枢機卿はいくらなんでも違和感があるのでは」と聞いたら「むしろ少年教皇の方が違和感あり、かも」というお返事が来ました。確かにローマ教皇というのは、ごく初期の時代を除いてはそう若い人はなりませんね。枢機卿はルネサンスの頃とか、若い人もなってますが、教皇は治世が長くなりすぎるのはまずいからという理由もある。でも篠田は別に違和感なかったというのは、たとえば日本の院政時代、若い天皇を傀儡に上皇や教皇が権力をふるう、という構図があったせいかなあ、などと思いました。

2006.05.09

 頭に戻って原稿をぼちぼちと直していく。本当は少し放置して頭を冷やしてから読み直した方が良いのだが、ちょっとそこまでの余裕はない。ジムに行ったのでまだ半分ほどまで。
 次の次の号からジャーロの連載が始まるので、それと同じ号に長崎取材記のようなものを載せましょうという話があったのだが、雑誌の都合でそれを次号に間に合わせてくれないかという話が突然来て、まかりなりにも建築探偵にエンド・マークを打っていて良かったーということになった。実は今回の建築探偵とジャーロの連載には多少の関連がある。相当手間をかけて作った架空の舞台が建築探偵に登場するのだが、同じ舞台の何十年か前に起きた事件、というのがジャーロの話になる。だから内容的にはクロスはしないが背景に共通する部分があるんであります。
 まったくの虚構ではなく、史実のかけらに砂糖の衣をかけて金平糖のようにふくらませていく作業は、伝奇的想像力というべきで、篠田の得意技というのは結局そこにあるんだろうなと思う。日本の現代伝奇の祖は荒巻義雄や半村良だけど、平井和正を通過してヒーローをそこに外挿した伝奇アクションのスタイルを完成させたのが菊地秀行。篠田も基本的には菊地さんを下敷きに、伝奇部分と、主人公たちのキャラクター表現を充実させている、のでしょう。分析は好きじゃないけどさ。
 ジャーロのゴシック・ロマンス、前回はそれでも若い男女をたくさん出してキャラクター的な部分も強かったけど、次回はその辺の比重が減ってもう少し重厚に陰鬱にホラー的になります、予定です。

 トリノのマッシモ・スマレ氏から、「トリ・ブラのアニメDVDがイタリアでも発売になるし、すでにファンサイトも出来てますよ」というメールが来た。まったくもー、グローバル・オタク・ワールドというか、オタク・カルチャーは世界を繋ぎますな。しかし未来の話とはいえあのとんでもねーヴァティカンを見てイタリア人はどう思うんだろーな。いよいよバチアタリな状況にほくそ笑んでしまったりして。吉田さーん、天国で見てますか。まさかイタリア人に見られるなんて思わなかったでしょ。ちょっと汗っ?(笑)

2006.05.08

 昨日今日と頑張って、『聖女の塔』ラストまでこぎ着ける。最後の40頁ほどはまだ決定稿ではないが、頭から読み返して手入れをすることにした。かなりへろへろです。書き上げた後にがこんと反動が出たりするんで、要注意というかね。それでも睡眠の方も、ホルモン治療が聞いてきたのか前より少しは眠れている気がする。5時前には目覚めているんで、4時間では駄目だけど5時間以上ならぎりぎりOKということかも。

 吉田直氏のご遺族から、献本お礼のハガキを頂戴する。地元の方で展覧会のようなイベントをなさるらしい。トリニティ・ブラッド。かくも鮮烈な一群の物語を、篠田は一生忘れないでしょう。

2006.05.06

 相変わらず話題払底状態であることには変わりがない。今日は仕事の他に鯖の押し寿司と鶏レバーの煮物を作った。鯖はちゃんと鮮度のいい真鯖を探して三枚に下ろし、一晩きつめの塩を振って身を締めてから軽く酢で洗う。酢締めにはしない。味の方は成功しているかどうか、今晩食べるのでわかりまへん。鶏レバーの煮物はショウガたっぷりにみりんと醤油で濃いめに味を付けた佃煮風。

 明日は同居人が展示会の搬出で帰りが遅くなるので、篠田も残業。日記の更新は休みます。

2006.05.05

 世間はこどもの日でも、以下昨日と同文。話題に乏しいな。書いている最中の作品についてはあまりいろいろ書けないので、来週書店に並ぶ「龍」の新作について少し宣伝をする。
 なんでも世間はメイド・ブームから執事ブームが来た、らしい。いや、よくわかんないけど活字倶楽部でもそんな話をしていたしね。メイド喫茶に続いて執事喫茶も出来たというのだが、それってなにか違うと思ってしまう。私見によれば、20代30代の執事なんてその年齢だけで失格である。40代もまだ駄目。脂ぎった執事なんて、それだけでまずそうではないか。ぎらぎら感の枯れてきた年代でなくちゃね。酸いも甘いも噛み分けてしかし訳知り顔がいやらしかったりは絶対しない、かっこいい初老以上の、というわけで『水冥き愁いの街』には篠田の理想とする執事が出ます。ブームに乗ったわけじゃないよん。この原稿書いたのは一年以上前だもんね。
 年齢はとりあえずそういうことで、しかも執事は高い事務能力、人事能力、家政力そしてなにより知性と教養があり、ご主人様に絶対の忠実を誓い、なおかつ篠田の好みとして紅茶をいれるのがうまくあって欲しい。そんな執事が執事カフェなんぞにいるわきゃあないんで、妙なコスプレ兄ちゃんを金払って見に行くくらいなら自分の頭の中で空想しておりますよ。というわけで、執事に萌えポイントをお持ちの篠田読者は、ぜひぜひ「龍」の新作をお見のがしあるな、と申し上げたい。

2006.05.04

 世間がゴールデンウィークでも、なにも変わらないのがマイナーな小説家の一日。これが売れっ子の方だと、休みの日は出版社から電話がない点が違うのではないかと思うが、こちらはもともと電話なんかめったにないからね。
 毎朝仕事場に行くと一番にネットに繋いでメールをチェックする。98%はスパムメールである。最近はフィルタにかからないように、文書名は「お久しぶりです」「お元気ですか」など当たり障りのないもので、発信者も普通っぽいフルネームだったりする。小説の脇役にでもこの名前を利用してやろうかなどと思ったこともあるが、いくら脇役でも自分の作中にそんな出所の怪しい名前を使うものか、と考え直す。それにそういうところに出てくる名前って、妙にかっこつけたような名前が多い。たとえていえばホストの源氏名みたいな感じ。
 執筆中の新作、久しぶりに蒼が本編で主要人物になったのに、これまでにもましてひどい目に遭っている。ファンの方、ごめんなさい。覚悟して読んでね。しかもこの次の作品でも彼はひどい目に遭うことが決まっているのであります。それしか決まってないというか。活字倶楽部では久しぶりにイラストが三枚も載って、かーいい蒼君が絵にしてもらってるというのに。あ、でも「初対面」というお題で『原罪の庭』の中のエピソードが絵にしてもらえていたのは、ことのほか嬉しかったです。もうちょっと、シリーズ完結まで頑張るからね。

2006.05.03

 昨日はマイスリー四分の一錠飲んだのでまあ眠って、仕事続行。でもなんか少し頭痛有り。建築探偵268頁まで確定。で、いよいよクライマックスだーというわけで、プロットを立ててるが、まだもうちょっとかかる。結局ちいとも短くないじゃん、自分。もう少しコンパクトに話を作る練習をした方がいいのでは。

 「龍」の新作見本出来。『水冥き愁いの街』 ゴールデンウィークあけの来週末10日から12日あたりに書店に並ぶようです。ほんまに透子がかっこいい表紙。ほれぼれします。そして本文イラストでは429頁にご注目。丹野さんに特にオーダーして描いてもらいました。しかし今回長いであります。高くてゴメン、であります。でも絶対に面白いです。

2006.05.02

 今日もぼろぼろだー、といいながらだらだらパソコンに向かう。新キャラというか、これまでもちらちらと出てきていた門野老人の美人秘書美代ちゃん、ようやくフルネームで登場。しかしカーマイン・レッドのボディコンスーツを着た180センチの美女、というのは実際に見たら相当すさまじいものだろうなー。篠田ワールドでは男がきれいどころ、女が荒事という原則はここでも。って、美代ちゃん脇役ですが、あくまでも。

2006.05.01

 薬飲まなくてもそこそこ眠れる日が何日かあったので、安心して飲まなかったらまた夜中に目が覚めてしまう。だもんで今日はぼろぼろのれろれろ。
 ぼろぼろだと困るのは小説が書けないというより、書いた文章の適不適がわからなくなってしまうこと。飛躍しすぎてわかりにくくないか、わかりきったことをくどくど書きすぎてないか、どっちも気になる。書き慣れていない人の小説というのは、しばしばこのどちらかが出ます。せっかくじっくり描写してる濡れ場なのに、人の姿勢が次のセンテンスでいきなり飛んでしまうとか、謎とサスペンスで引きながら読ませるべき場面なのに、くどくどなにもかも説明してしまうとか。