←2004

2004.12.31

 残りの大掃除も後回しにしてパソコンに向かっていたのだが、ふと窓の外を見れば降りしきる白い雪。下手をすると仕事場から自宅に戻れなくなる、というわけで昼過ぎでパソコンを閉じて戻ってくるしかなかった。雪は明日の元日まで降り続くらしいし、これでは初詣も無理っぽい。活字中毒者の篠田はそれでも読む本が無くなるのがなにより怖い、というわけで仕事場からいろいろと担いできた。どちらにしろ正月は本と酒と寝正月なのである。日記の再開は多分三が日を過ぎてから。
 では、皆様どうか良いお年を。また来年もよろしくお願いします。

2004.12.30

 昨日の有明には参った。篠田がコミケに参加し始めたのは確か『灰色の砦』が出た年の冬からだったが、こんなに寒かったのは、そして雪が降ったのも初めて。その間にコミケのミステリファンサークルは膨張し、また縮小した。サークルが減っただけでなく客足が遠のいている。数えてみればたった10年あまりの賑わいである。人気を集める作品やジャンルの変化はますます早くなり、ほんの1年前まですごいスペースを占めていたハリ・ポタの人気もすでに見る影もない。
 ハリ・ポタはともかく新本格を中心にしたミステリのファンサークルは、もともと一種のバブルだったのだろう。読者としての篠田はまだまだ謎とトリックとロジックの本格ミステリを読むことに飽きてはいないが、ミステリ・ジャンル、それも「本格ミステリ」を継続的に嗜好の中心に据える読者というのは、本来それほど多くはなかったのではないか。少なくともコミケに並ぶサークルの描き手達は、「京極」も「有栖川」もミステリとしてよりは物語として享受していたようだ。それが悪いことだとはちっとも思わないが、彼らの移り気には苦笑をもらすしかない。ただ最近どうかすると「もう本格ミステリはいい」といった言説を弄する向きもあるという。そうして今度はライトノベルをもてはやすということか。移り気な罪作りは若い読者より、たぶんこういう連中だ。
 悪天候の中せっかくスペースに来て頂いたのに、篠田が席を外していてお会いできずに差し入れだけ置いて帰られてしまった方がおひとりいた。大変申し訳ない。人の少ない朝の内に買い物と挨拶を済ませて、その後はずっといたのだが、身体はひとつしかないのでこういうことも起きてしまう。年賀状は送らせてもらうつもりです。
 ただ取りあえず篠田のコミケ売り子参加は今回を持って終了としたい。これまで何度も「物書きは書斎に帰ろう」と思いながら、それでも年に二度は有明で友人のスペースに立たせてもらったのは、その合間に読者の方と交流できる、その喜びが大変に大きかったからだ。しかし現在の衰退し減少しつつある小説ファンサークルのスペースで、本来の目的とは違う理由で参加することにいささか疲労した感がある。友人は建築探偵パロディを描き続けているが、いよいよこの物語も終盤に入ってきて、その手のお遊びに加わる気持ちの余裕もなくなってきた、というのも正直なところだ。
 「建築探偵桜井京介の事件簿」は篠田にとって11年書き続けてきた最長のシリーズであり、これを完結させることは自分にとって『アベラシオン』1500枚を書き上げるよりさらにきつい、しんどい仕事になると思う。この先の数年はこれと、もうひとつのシリーズ「龍の黙示録」のセバスティアーノ編(これは現在連載中の『紅薔薇伝綺』の後に三作で一応の区切りがつく)を書き継ぐ。篠田の50代前半はそのために捧げられるだろう。
 それが終わったら、「バートリ・エルジェベトの話」とデビュー作『琥珀の城の殺人』と同じ探偵役が出る「カリオストロがからむ話」と「フランス革命恐怖政治時代の話」の2作と、「ルネサンスのフィレンツェの哲学者ピコ・デラ・ミランドラが主人公の歴史小説」と、建築探偵の続編でも「神代教授の安楽椅子探偵」とか「喫茶店のマスターが狂言回しで高校生京介が登場する話」とか(このふたつは連作短編)、とにかくもー書きたいものは山のようにある。問題は気力と体力がいつまで保つかだ。あっ、それとお客様がいつまで本を買ってくれるか。これの方が大事です。商業出版が出来なくなったら、それこそほそぼそと有明で売りますか。

 今日は仕事場の掃除と、たたきごぼうと田作りを作製し、洗濯をし、後はだらだらしてしまった。明日は何とかもう少し仕事をしたい。というわけで例年とは違い、明日も日記は更新することにします。ここで「やっぱり出来ませんでした」と書くのはみっともないものね。篠田にも見栄はある。トイレの掃除は適当に済ませて、朝からカフェ・バッハの豆を挽いてていねいにいれて、パソコンに向かいます。

 読了本『生首に聞いてみろ』 法月綸太郎 角川書店 名探偵ものというよりは「モース警部もの」みたいに、探偵がドジを踏み試行錯誤しながらようやく真相にたどり着くタイプのミステリ。楽しめたのだが、登場人物がいずれもリアルに造形されている分、ラストの救いのなさがきつかった。本格ミステリは探偵が真相を看破することで秩序を回復する物語だと思うのだが、ここで探偵が見出し説明される真相はひたすら無惨で誰をも救済せず、なにも回復しない。法月綸太郎は「名探偵なる存在の意味と無意味」について悩み続けた書き手だが、彼がその問題を棚上げする解決策として行き着いたのはこれ、つまりもはや「名探偵」ではない「凡人探偵」への転換だったのだろうか。

2004.12.26

 参ったねー、もう。建築探偵今回は、過去の事件と現在の事件が絡み合うという、まあよくある趣向なのだが、現在の事件がまだ起きない。この調子だと200頁めぐらいになっちゃうんじゃないだろうか。一応ミステリだろう、そんなのありかい。自分で自分につっこみつつ、いいよ、別に、普通のミステリっぽく書いても誰も誉めてくれないもん。このシリーズに関しては、どうせこれからますます普通のミステリから逸脱していく可能性が高いんだから、ついてこられる方だけついてきて下さい。途中で脱落した人は、15巻まで完結したら気を取り直してチャレンジして下さい。すべての伏線は最終15巻へ。

 仕事場に泊まり込んで、つい未読本の山から一冊取り上げて読んじゃった。
『螢』 麻耶雄高 幻冬舎 大学生サークル クローズドサークル そして**トリックだった。篠田はミステリを読む場合ほとんど推理はしないので、というのは求めているのは納得より驚きなんで、**トリックも当然見抜けなかったが、真面目に推理する人がきっちり読み込めばこのトリック、というか犯人、かなり早い時点でわかってしまうかも知れない。だけど、もしもわかったとしたらつまらないんだよね。犯人が分かっていても読める、或いは再読できるミステリというのは多くはないんで、昨年の某作家の新刊、頭の10頁で犯人がわかって、最後まで読んでもやっぱりそいつが犯人だったということがあったとき、「それつまらないよ」としか思わなかったもん。

 明日明後日は家の買い物で留守、29は有明。でも今年は仕事場の掃除は最低限にして、原稿書き続けることになりそう。というわけで、次の日記の更新は12/30かな。

2004.12.24

 平成になって12/23が天皇誕生日の祭日になってから、いつの間にかそれがクリスマス・イブイブと化しているらしい。天皇制をありがたがる気持ちはないので、日本人のちゃっかりさ加減に少し笑う。そして今夜はスーパーのローストチキン売り場がめちゃ混み。うちは鶏はパスしてワインとチーズとフランスパンとルッコラ。肉の代わりにばかでかいマッシュルーム。

 今日はジムに行ったので建築探偵はようやく140頁まで。しかし正しい道を歩いている感じはあるので、明日は仕事場に泊まって残業することにした。黒豆もどうにか上手に煮えそうだし、なんとか原稿をもう少し進めたいものだ。というわけで明日の日記はお休み。

2004.12.23

 丹波の黒豆を買いに行ったり、なんだかばたばたしていてとうとう一日10頁のノルマを割り込んでしまった。うっうっう。年賀状を書き終えたら一晩残業します。たぶん土曜か日曜に。というわけで日記の更新がなかったら、そのときは篠田が夜まで頑張っていると思ってやってください。

 お手紙2通回送。いま返事を書いている余裕がないので、ごめんなさい。建築探偵を上げたらペーパーを作って、まとめてお返事にします。
 でも山口県の読者さんが、長崎県の天主堂についての新聞の切り抜きを送ってくれました。すごくツボです。有り難うございます。それから金沢のUさん。伝奇ものは苦手でいらしたのに、篠田の口車に乗って(笑)龍シリーズを読んでみたら、後になるほど面白くなって、とおっしゃって下さいました。最初はそれほどでもなかったのに、頑張って続けて読んでくれるなんて、なんて有り難いのでしょう。もう、金沢方面に足を向けて寝られません。
 寒いの、若いときは好きだったんですよ。でもこの歳になると、次第に辛いものがありますね。ただ冬は鍋を食べる幸せが。って、結局おまえは食い気かい。はい、食事のときは篠田は深春です、基本的に。

 さて。年賀状を書きます。

2004.12.22

 本日125頁まで。どうも進みが遅い。ほんとに一日10頁しか進まない。これでは年内に200頁となると、大掃除もろくにしないでパソコンに向かわなくてはならないじゃないか。いや、あと九日あるったって、その間に年賀状も書かないとならないし、コミケもあるし、東京まで買い物にも出かけるし、黒豆も煮るし。いざとなったら久し振りに、仕事場泊まり込みで働こうっと。でもその前に年賀状だっ。

 小説ノンの1月号が出ました。『紅薔薇伝綺』の第二回が載っております。
 メフィストの冬号が出ました。「桜井京介館を行く」が載っております。どっちも面白いです、と臆面もなく宣伝しておこう。

2004.12.21

 近所の本屋に今日発売の雑誌を買いに行ったので、「ほぼ」引きこもりで仕事を再開。本日で114頁まで。最低一日10頁。いまはまだ伏線を引いている段階なので、書けども書けども終わらない気分。これが後半四分の一くらいになると、どどどどどっと動き出すはずなんでありますが、とにかくなんとか今年中に200頁までは進めたい。そうすればあと半分で、なんとか1月中には終わるはず。
 でも合間に冬コミのカタログをチェックしたりはしてました。小説サークルは西1ですっぽり納まってしまう少なさになってしもうたので、お買い物に行くにもあんまり歩かないで済みますな。篠田は例によって秋月杏子さんの「大沢探偵事務所」にいる予定ですが、あまりいる場所がないので、友人のスペースにふらふらしていたりするでしょう。配布物は今回はきっぱりなにもありません。建築探偵が上がったらペーパーを作ります。そうしたらサイトに告知しますので、欲しい方は郵便でお申し込みください。
 冬コミ中に篠田を見かけた方、サインのご希望はいつでもウェルカムです。筆記具持参で行きますので、お気軽に声をおかけください。色紙を書くほど字が上手くないので、お好きな一冊を持ってきて下さるのが一番です。名前を入れて欲しい方、ネームカードなどのご用意があると速やかです。よろしく。差し入れはお気遣い無用ですが、くださる場合は必ずご住所お名前を添えて下さい。お礼代わりに年明け、年賀状をお送りします。

2004.12.20

 風邪の調子が相変わらずすっきりしないのだが、そんなこともいっていられない。いよいよ12月も下旬で、使えるのは今週いっぱいという感じだ。というわけでやっと建築探偵。前に書いておいた文を読み直して、明日から新しい場面に入る。ごちゃごちゃ先の展開に悩んでいるより、とにかく書いちゃえ。今週は引きこもりのまま仕事まみれに突入します。あっ、でも年賀状書かなくちゃ・・・

2004.12.19

 写真の整理を終えて、「地球の歩き方」に投書を書いて、明日からは仕事に戻らなくてはなりませぬ。今回はちょっと旅行記を書いている暇はなさそうだし、そこで投書に書いた内容だけをここに書き記しておこう。楽しいことじゃないんだけどね。

 その1 ハノイの町中で高校生くらいの女の子二人組に、赤十字の募金を求められた。それが本当の募金か、新手の詐欺かわからなくて、でも金を出しても断っても悔いは残りそうな気がして、結局比較的少額(日本円に換算すれば350円くらい。つまり日本人としては大した金額ではないが、現地の感覚だと汁そばが5杯は食べられる。肉まんやフランスパンサンドなら10個買ってもおつりが来る)を寄付した。旅行者の善意を悪用する行為ではないことを、ベトナムが好きな日本人としては心から祈りたい。
 その2 ハノイの国際空港の待合室で、ベトナム土産の店があったので、使い残りのベトナム通貨を使おうと思った。表示は米ドルだが、申し出れば換算してくれるはず。北ベトナム名産のバッチャン焼きの、小さな急須と猪口を4つプレートに載せたセットに4$の表示があったので、それを買おうとしたところ、four dollarsではなくfourteen dollersだという。聞き間違いかと思ったら、4ドルというのは値段シールを貼ったプレートの値段で、全部では14ドルなのだという。無論ばら売りはしない。ベトナム・ドンならと聞いたら、市中のレートからははるかに高い、常識はずれの値段を言われた。しかもその間相手の男性店員は終始一貫高圧的で、英語のヒアリングの苦手な日本人をびびらせて、4を14と強弁して売りつけてしまおうという意図が見え見えだった。
 他にも空港の本屋で合計金額をごまかされた。抗議して差額を返してもらったが。
 というわけで、ベトナムに行こうとする人は空港で残りの現地通貨を使い切る、という普通ならどこの国でもすることは考えない方が良い。市中の店ならどこでも実勢レートに近いレートでドル表示の場合も換算してくれるので、全部使ってしまおう。

 以前ベトナムに行ったとき、この国はタイあたりと比べればずいぶん穏やかな、おっとりとした空気を残しているなと、特にホーチミンと比べてもハノイにはそう感じたものだったが、街がこぎれいになった代わりにバイクはとてつもなく増えたし、道ひとつ渡るのも命がけのような有様で、前のようにベトナムを大プッシュしたい気持ちは篠田にはもうない。特に空港の土産物店の感じの悪さと来たら、威張るのが大好きな共産圏の官僚が金儲けに目覚めたらこうもなろうかという有様で、ベトナムはリピーターが少ないというがこれはもうベトナム自体が「二度と来なくていいから来た人間からは金を出来る限りふんだくろう」と狙っているとしか思われない。
 もちろんそんな人間ばかりじゃないことは確実だけれど、旅行者として接触せねばならないところにこそ嫌な奴は現れる。これはベトナムに限らず、どこの国でもあることなのだが、なんとも悲しい話である。共産主義的全体主義は絶対にゴメンではあるけれど、資本主義的な欲望は人を腐らせるのだろうか。

2004.12.18

 旅行中というのは長くても短くても、気を張っているからわりと元気に過ごしてしまう。風邪を引きかけてもまずは一日で回復するし、不眠になって一睡も出来なくとも翌日はそのまま予定をこなす。そのつけは帰国後に来るわけで、しかもこの歳になるとやはり回復が遅い。今日もまだ頭がぼーっとしているが、いまでもそんなことはいっていられないので、焼き付けした写真を整理する。篠田はいつもA4のスクラップブックに写真を貼り、チケットやレシートといった細かなものも貼り込む。こういうことは一息ついてしまうともうなかなかやれなくなってしまうので、旅行のどさくさが続いているうちにやってしまわなくてはならない。しかし、そろそろ年賀状をどうにかしないとなあ・・・

2004.12.17

 ベトナムから戻りました。お久しぶりの篠田です。現在日本とベトナムの間を就航している日本航空ベトナム航空共同運航便というやつは、ハノイでもホーチミンでも出発が真夜中です。そして帰りは偏西風が追い風になるので、4時間程度で日本に帰れます。その間におしぼりが出て、飲物が出て、映画を一本やって、食事が出て、免税品の販売があります。乗務員はいうまでもなく大変ですが、こちらもかなり大変。眠れません、まず絶対に。出来れば食事なんかいらないから、そっとしておいてくれといいたい。だってベトナム航空の現地発便の機内食、これが昔のアエロフロート並みだ、といってわかる人だけわかってください。はっきりいってまずい。
 この歳で徹夜はきついです。その前もホテルのベッドのクッションや、枕が合わなくてあんまりよく眠れなかったし。というわけで、帰ってきた昨日はもちろん今日もまだ頭に霞がかかってます。そしてカレンダーを見るとまずいっっ。非常にまずいっっ。年賀状も作ってないっちゅーに。黒豆も煮たいのに。とはいいながら今夜はベトナム料理を作るんだい。というわけで、読者の皆様本日はこの辺で。頭死んでいる篠田でした。

2004.12.08

 ええええーっと、とにかくまあそういうわけで、ヴェトナム行ってきます。ひとりだけど完全な自由旅行というわけでなく、講談社様からお手配の手間を掛けて頂きましたという。そういう意味ではイレギュラーな旅。
 それから今日の夕方になって入ってきましたニュース。建築探偵シリーズが中国語に翻訳されて台湾で出版される模様です。さて、どんな本になるのか大変に楽しみです。『魔女の死んだ家』は先に決まったものの、まだ本は出来ていないようなので、結構先の話になるのかも知れませんが、中国語圏の方が読む建築探偵。うーむ、想像するだけでドキドキ。
 では皆様、しばらく失礼。帰国は12/16です。旅行記はもしかすると書けないかも。それよりなにより建築探偵1月末アップが先決なんでっ。

2004.12.07

 朝から上野の都美術館に「フィレンツェ 芸術都市の誕生展」という展覧会を見に出かけた。なにより予想外の人出にびっくりしたが、なんで展覧会って入ってすぐの部屋が一番混んでるんだろうね。フィレンツェの百合紋を打ったフィオリーノ金貨とか、ボッカチオが余白に挿絵を描いた「神曲」の本とか、かなりマニアックな展示で、中絶したきりになっている「天使の血脈」シリーズがまた書きたいな、などと思ってしまう。あと印象に残っているのはミケランジェロ作だという小さな磔のイエスの彫刻。十字架はないので、オールヌードの全身が背後まで全部作られていて、すごくリアルというのがよく見えて、しかも肌色に塗られているんで、ちょとなまなましいというか。だが一番良かったのはボティチェルリの「婦人の肖像」で、まったく装飾性を排した横顔の肖像画はクールでモダンですらある。
 アメ横でスニーカーを買い、池袋に出て本を見て、担当編集者からベトナムの航空券などをもらう。昨日書き終えた建築探偵の、ベトナムに出発するまで部分100頁を渡す。はい。今回はほんっとドロナワです。どうなることやら。出発は明後日。

2004.12.06

 仕事場の冷蔵庫を空にするために残り物をせっせと食べる。一番小さいスーツケースに荷物を入れてみたら、さほど無理をせずに納まったのでこれで行くことにする。今回は服もいっさい新しくは買わなかったし、サンダルも向こうで処分してくるつもり。そうすると少しは空くはずで、なにか買ってもだいじょうぶでしょう。
 建築探偵、タイトルはたぶん『胡蝶の鏡』になるだろう、ベトナム出発までの103頁を、ようやく確定という感じで、これで一段落。あとは旅行中と帰ってからの踏ん張り。年末年始を挟んでの仕事というのは、ひと休みした後の始動がしんどいので、出来れば避けたいところだが、いまさらいたしかたなし。

 読了本 『セント・ニコラスのダイヤモンドの靴』 島田荘司 講談社ノベルス 御手洗氏はやはり料理音痴だそうです。いえ、今回の建築探偵では京介は料理をしている(直接描写はなしだけど)ので。

2004.12.05

 本格ミステリ作家クラブの執行会議。今月と来月、講談社ノベルスから刊行されたアンソロジー「本格ミステリ01」が文庫版2分冊で刊行される。2冊買って帯のマークを送ると、なんと10名様を来年の本格ミステリ大賞公開開票式にご招待。この10名様には某人気ミステリ作家のエスコートがつく。希望があればサインもOKだそうだ。他の作家さんも、手が空いているときに礼儀正しくお願いすれば、たぶん応じて貰えるでしょう。というわけで、どうぞふるってご応募下さい。

 東京まで往復するので、取りあえず寄贈本を持って出たのだが、ちょっと今日のはあまり良くない意味でのため息。我々の住む現代の地球ではない、別世界に終始する物語を通常ハイ・ファンタジーというのだが、その別世界の造形に超自然性をほぼ完全に欠いたタイプが多く現れたのは、少なくとも日本に限って言えばグイン・サーガの成功からだろうか。グインにはそこそこスーパー・ナチュラルは入っているのだが、話が長くなっている要素の中には、複数の国々の戦争や外交、政治といった局面を物語に扱う部分があるから、そのへんをもっぱら肥大させた、これがファンタジーか? というような疑似ファンタジーもけっこうある気がする。しかし、超自然性のない架空世界ものって、あるのよりむしろ難しいと思うんだけどね。歴史小説の劣化再生産みたいになっちゃう。
 それとは全然別の問題として、小説とは描写するもので、説明するものではない、ということがあります。
 「特設した舞台では踊り子と歌唄いが卓越した芸を披露する。」 これは説明文。いいたいことはわかるけれど、なんのイメージも喚起しない。
 「白木の板を打ち付けた急ごしらえの舞台の上では、踊り子が身軽く跳ね回り歌唄いが喉を震わせる。」 これが描写。
 描写をいい加減にした小説というのは、紙の書き割りの前でのパントマイムです。ましてや無から有を生ぜしめるファンタジーにおいておや。

2004.12.04

 すみません、書くことがない。旅行準備。洗面道具とか、服とか、床の上に並べたりしてみる。ひとりだし、きれいな服が必要なところに行く予定もないので、全部着古したものばかりで、アクセサリもなし。便利なのはマタニティのジャンパースカート。腹の前に大きな深いポケットがあるので、ここに小型カメラを入れて、貴重品入れのポシェットはスカートの中に下げる。見てくれよりも安全一番です。

2004.12.03

 先月末に触れた小説推理の1月号、『虚無への供物』の原風景を探る という特集を読んだ。会員制のゲイ雑誌に4回連載された(中絶している)ゲイ小説版『虚無』の頭2回分が掲載されている。どうせなら、全部載せてくれればいいのに東さん。感想は、「『虚無』は一日にしてならず」です。講談社文庫版の洗練されたスタイリッシュな文体はまだ全然ない。エピソードは下町のゲイ・バアでセミ・ヌードの少年が「サロメ」を踊る、というあたりから始まり、視点人物は光田亜利夫という青年、氷沼藍司という少年が登場して目白の氷沼家のことを語る、とほぼ現行版と同じだから、なおのこと文体の違いは際立つ。洗練がなければそこにあるのは生々しさとグロさで、楽しんで読むというにはちょっと辛い。いくらボーイズラブは読んでも、ゲイ小説ではツボが違うのです。
 面白いのは、現行版では氷沼家の宝石は疾うに売り払われて幻想だけが残っているという設定なのに、こちらでは長男に伝えられる「青き虚無」と呼ばれるブルー・ダイヤを始め宝石は現実に存在する。また次男紅司と関わる無頼漢玄次も、現行版では限りなく幻想に近い存在だが、こちらでは実に生々しく存在しているということだろう。逆に言うなら物語を完成に導く過程で、作者はそうした「いかにもミステリらしいギミックや犯人候補」を次々と現実から追放し、逆にそうすることで、「すべてが幻のようでありながら極めてあざやかに存在し人々を翻弄する謎」という『虚無』の世界を小説に結実させたわけだ。

 あと、大沢在昌と光原百合が書くルパン三世小説、なんてびっくりなものも掲載されている小説推理1月号。お買い得感はあったのだが、それにしてもなんだって書店の店頭に並んでなかったんだろう。リブロにもジュンク堂にも。まさかbk1が買い占めたからとか?

2004.12.02

 まだのろのろと書き直しをしている。そろそろ旅行の用意もしないとならない。フィルムと電池。旅行保険は入った。夜ホテルで原稿を書くとして、資料はどの程度持って行くか、とかね。もちろんノートパソコンなんて持ってないから手書きだけど。
 読了本 『切断』 黒川博行 創元推理文庫 残念ながらわりと早くトリックがわかってしまう。前に同じトリックを使ったミステリを読んでいたのです。使い方はこっちの方がうまいと思うのだが、これ以前に復刊された関西弁ノリの警察ミステリと比べると、ダークでそのへんの楽しみもない分、トリックでも翻弄して貰えなかったのが残念なり。

2004.12.01

 月が変わった。いよいよ最終月。しかしベトナムに行く月、という意味合いの方が大きい。心ならずもこうなってしまったけど、次は絶対こんなドロナワな取材はしないぞー。書き上げた部分については、書き直し地獄にはまってしまった。何度も何度も書き直したくなってしまう。もう、いい加減にしないとね。
 今年はそんなわけで年末年始を挟んで修羅場になってしまうと思うので、冬コミには参加するとしても配布物は無しです。年明け、建築探偵が終わったらペーパーを発行しようと思います。そのときはサイト上で告知しますのでよろしく。