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2004.02.29

 今日は本格ミステリ作家クラブの執行会議。行き帰りの時間と合わせて、仕事時間のど真ん中4時間が削られるので、今日は実質的に仕事は休み。その代わり行き帰りにずっと本を読む。評論部門の二冊目。千街晶之氏の『水面の星座水底の宝石』は久々に楽しめる評論だった。
 明日は朝から夜まで不在なので、日記の更新はたぶん3/2の夕方。通販要領もそのときに削除します。まだ残部はあるのだが、『アベラシオン』もようやく刊行でその告知のページや、冬コミ向けの挨拶のページは意味が無くなったし、いつまでもだらだらやっているのもどうかな、と思うので。篠田のイベント参加もこれからは不可能になるはずで、こうしたオフセット印刷のペーパーは今度が最初で最後になる。なぜかというと通販でさばけたのは100部ほどで、それだと印刷コストが高くて赤字になってしまうからであります。ご理解下さい。
 そんなわけで、以前ちょろっと書いた「趣味の小説」の刊行についても、いまのところ具体的な時期や販売方法などは未定です。当初予定では五月の有明で、というつもりだったのだが、たぶん篠田は行けないと思います。なにか決まりましたらサイトに告知させてもらいます。

2004.02.28

 本格ミステリ作家クラブの大賞候補作品5作のうち、未読だった1冊を読み終えたので選評を書く。考えていたことをがーっと書いて書式を整えたら、規定通り20字かける20行にぴたりと収まって思わず会心の笑み。
 しかしこの後に評論部門の未読4冊を読まなくてはならない。アマゾンからまとめて届いたので、読みかけの小説は置いてこちらにかかるしかあるまい。正直言って負担ではありますが。
 その後『AveMaria』のゲラがきているのでページのずれがないかだけチェックを始めるが、出力の具合で行のずれているところがやたらと多く、半分過ぎる頃にはわけがわからなくなっていて担当にSOS。我ながらつまらないことにこだわっているようだが、とにかく行がページにまたがるのは嫌なのだ。だから文章も練って練って書いているのに、それをめちゃくちゃにされてはたまらない。出し直してもらうことに。
 その後『失楽の街』に戻る。113頁まで。100過ぎてやっとレギュラー三人登場。タイから帰国したというところになる。本日は三朝庵のきつねうどん(早稲田出身の人だけ反応してください)と、桜餅の話題が出る。まったくもって食べ物づくし、それも東京B級グルメの世界となった。

2004.02.27

 『アベラシオン』は3200円です。税込みかどうか確認してないんだけど。それと部数は6000部なので、買おうかなと思っている人は見つけたら買わないとたぶんなくなるよ。装丁にお金をかけた本は簡単に増刷しにくいので、なおのことゲットしそこなうとそれきりだよーん。これだけいって売れなかったら、もう仕方がないやっと。少しやけくそになっている篠田でした。
 今日は午前中贈呈リストを作ったりして、午後はジムに行ったのであんまり仕事が進まなかった。やっと100頁。でも『AveMaria』のゲラが来てしまった。うう、やっぱり『失楽の街』6月刊行は難しいかなあ。

2004.02.26

 『アベラシオン』の発売日が決定しました。3/10です。しかしいまはたと気がついた。定価を確認するのを忘れました。たぶん3200円でいいんだと思うけど。高くて本当にごめんなさい。

2004.02.25

 まったく今回の建築探偵はどうしてしまったんだろう。やたらと食べ物出現率が高い。篠田が間食を断っているせいで、いつも以上に食い意地が張ってしまったのだろうか。今日も刑事二人が深刻に情報交換するはずが、「刑事なんてあんまり書きたくないなあ」とぐずぐすしていたら、なぜか突然会う場所が有楽町ガード下の焼鳥屋になり、そうしたら筆がばんばん進んで94頁まで。まあ工藤さんという人は、全然神妙なタイプではないので、こういう暴れん坊世にはばかって憎まれずみたいなタイプは、書くのに楽しくて早く進む、ということはあるんだな。
 しかしそれにしてもなんで食べ物が、と思ったら、ひとつ気づいた。今回は100頁過ぎるまで京介が出ない。あいつが出るとたいてい食事シーンは「モクモク」あるいは「まずそう」だったりして、書く方も熱が入らない。京介がいないと食事シーンになりやすいというのは、あるよなあ。でも『AveMaria』でも飲み食いのシーンはほぼまったくなかったな。蒼はもっぱら悩んでたから、食事どころじゃなかったもんな。

 明日は友人が遊びに来るので、もしかすると更新お休みするかもです。

2004.02.24

 深酒はしなかったので今日は普通。仕事を続ける。81頁まで。担当に「3月いっぱいで書き上がるかも」などといってしまったが、ほんとにどうなるのか全然自信がないぞ。『アベラシオン』は来月上旬に刊行になる模様。正式に決定したらお知らせします。前にISBNを知りたいといわれたんだけど、本が手元に来ないとそれは篠田にもわかりません。

2004.02.23

 旅行中いきなりぶっこわれたカメラを、新宿のミノルタに修理に持って行く。修理代17000円。高かったら新しいカメラを買おうかと思っていたが、なんとなく修理することに。池袋に出て本屋。本格ミステリ作家クラブのノミネート作、小説は1冊、評論は4冊未読のものがあるので買おうと思うが驚いたことにただの1冊も棚にない。いずれも去年刊行されたもののはずなのに、びっくりである。
 夜は祥伝社の担当と、イラストの丹野忍氏と飲む。

2004.02.22

 仕事69頁まで。章の切れ目に来たのでここまでをプリントアウトして、少し手を入れてみることにした。やっぱりミステリだと一日10頁、20枚程度が限界かも知れない。

 しかし仕事をしていると本もあんまり読めないし、日記の話題がなくなって困る。今日はとうとう仕事場から出なかったし。仕事の他にやったことは、ブレッドメーカーで天然酵母のパンを焼いたこと。といっても自分でしたことは分量を量って機械に入れる程度だから、作ったというのもおこがましい。ただ天然酵母は発酵に時間がかかる上、温度も低いとふくらまないので、昨日から元種を混ぜて電気ラグを低温にして温めておいた。まだ味は見ていないけど、見たところはちゃんとふくらんでいる。
 しかしパン焼き機を見ているといつも思うのは「材料をほうりこんでスイッチを入れればパンが焼き上がるみたいに、小説が出来上がったらいいのになあ、という実にしょうもない妄想だ。

 通販のお手紙の中に「お勧め本」を読書の参考にしています、という方があったので、少しお勧めしておこうかな。神林長平さんのSFはいかがでしょう。かなりハードな思索を誘うSFもたくさん書かれていて、そういうのはいきなり荷が重いかも知れませんので、ハヤカワ文庫の「敵は海賊」シリーズをまずはプッシュ。昔懐かしいスペース・オペラ、宇宙時代に宇宙海賊と戦う警察海賊課の大活躍。篠田が好きなのは黒猫型宇宙人刑事のアプロ。はちゃめちゃな性格ですが、かわいらしくもあったりして。しかしわはははと笑いながら読んでいると、「存在とは」みたいな深遠なテーマにも自然と導かれちゃうという優れものです。神林さんは猫がお好きなので、どの作品にも魅力的な猫が出没し、それもまた猫好きにはこたえられません。
 なんでパン焼き機から神林長平にぶっ飛んだかといいますと、そこにはちゃんと理由があるのですが、それを語り出すと長くなるのでまた後日。
 明日は夜の外出があるゆえ日記の更新はお休みです。


2004.02.21

 通販を処理した後、いただいた手紙の返事をやっと一通書く。いつまでも置いてあるのは忘れ物をしているようで気になっていけない。しかしそんなことをしていると午前中の時間があっという間に経ってしまうので、それも困ったものである。
 そんなわけで今日の仕事は57頁まで。工藤と神代さんの酒盛りである。この前の章は紅茶にバナナブレッドだし、飲み食いばっかりしているなあ。今回の作品は都市東京というものをモチーフに置いているわけだけど、気がつくと常に過去から現在という時間軸が登場している。つまり篠田にはそういう発想が一番しやすいのだろう。前に話題にしたとみなが貴和さんの作品だと、世界把握は常に空間的なんだけど。

 小説ノンの3月号が届いた。龍シリーズのイラスト、いよいよかっこいいです。イメージにぴったんこ。

2004.02.20

 仕事は47頁まで。首尾良く四人目と五人目が登場。ただし今回レギュラーは神代教授しかまだ出てこない。全員がぞろぞろ出てくると物語の説明をしたり、伏線を張ったりする余裕が無くなるから、彼らはまだマレーシアにいる。『綺羅の柩』の最後が進行している時点とかぶっているわけ。
 しかしミステリのレギュラーはやっぱり、名探偵とワトソンのふたりというのがシンプルでいいよね。多すぎるとうざいもんね。読者から、「あの人が出ない」とか「みんな仲良くさせろ」とかいわれちゃうし。いえいえ、そういっていただけるようなキャラを作ったのは他でもないわたくしでござんす。

 読了本 『ジェシカが駆け抜けた七年間について』歌野晶午 原書房 玄人好みのミステリだなあ、という感じ。なにをやろうとしているのか、どう読者を引っかけているのか、いろいろ考えてしまうのである。ということは、ミステリとはどうやって書かれるか、みたいなことを意識している人間の方がおもしろがれる気がする。もっと書きたいこともあるのだが、そうするとネタバレになってしまうからこれ以上書けない。歌野さんのミステリって、たいていそうなんだから困っちまう。

2004.02.19

 仕事をしている。今日は36頁まで。まだ物語は動いていないが、おっさんふたりの会話に女性が加わった。明日は四人目と五人目が登場するはず。どうにかこうにか10頁は書けているから、取りあえず今月中に100頁という当初目標はクリア出来るはずだ。全体の完成はどの程度延びるか、まだわからないけれど、来月の仕事は他には小説ノンのゲラしかないので、気を散らさないで済む。
 篠田は小説の中に食べ物を出すのが好きである。食べるということは人間にはなくてはならない行動で、だからこそ登場人物に食事をさせたり、食べるという行為を語らせたりすると現実感が増す気がする。今日はバナナブレッドが登場。好きなんだけど、これというレシピに当たっていない。最近はネットでレシピが調べられるので、そういう点は活用させてもらっているが。

 そんなわけでいまちょっと余裕がなくて、いただいたお便りの返事が書けない。来月になって通販を終わらせれば、そっちに時間を割けると思う。

2004.02.17〜18

 前橋に取材に行くついでに足を伸ばして、前から見たいと思っていた沼田の土岐邸を見てきた。大正末期に東京に建てられた洋館を移築保存したもので、意匠は「ドイツ式」と呼ばれるが、あんまり他に類例がない。特徴はアーチにレリーフを入れた三連窓と、二階部分の下見板張り、天然スレートの屋根の牛の目窓。和洋折衷にこだわる篠田としては、一階二階とも玄関に近い部分に洋間、外見は完全に洋館、ただし裏側のプライヴェート空間は和室、という混ぜ方が面白い。どうして面白いか説明すると長くなるので今日は省略。
 ここで愛用のカメラ、ミノルタTC1がいきなりいかれてしまい、取材のお先が真っ暗になる。電池を入れ替えたら大丈夫かと思ったがやっぱりダメだ。
 夜は法師温泉で雪見の温泉と洒落る。そうしたらまじでがんがん雪が降ってきて、翌朝は車がパウダースノーに埋もれていた。山道から脱出すると雪はたちまちウソのように無くなった。
 関越で月夜野から前橋へ。萩原朔太郎生家の一部を移築した敷島公園に行こうとするが、なかなか道が解らなくてうろうろ。紅梅がほころんでいた。この周辺はちらっと小説に使う予定。しかしきわめて不穏当な使い方をするので、関係者には内緒である。
 朔太郎の原稿などを展示した朔詩舎というレストランで昼食をして、今度は前橋近代文学館へ。ずいぶん豪勢な設備だが観覧者がまったくいない。朔太郎愛用のギターや子供のとき使ったという舶来品のベビーベッド、自分でデザインした机と椅子といったものが展示され、彼の作曲したマンドリンの曲が流れる。自著の装丁もしたというし、ずいぶん多才な人だったのだな。自作の詩を朗読している声も聞いた。なんとなく予想していたような声と口調だった。
 しかし前橋は風が強くて寒い。

2004.02.16

 昨日書いたところを直していたので、今日は10頁しか進めなかった。まだ物語が本格的に動き出していないので、妙に時間がかかるんである。
 しかし明日明後日は不在。小説の最初のあたりに前橋がちらっと出るので、前橋を見てこようと思う。萩原朔太郎の詩もちらっと出るので、記念館なんか廻ってみる。篠田は中学生のとき朔太郎の詩を読んでたまげて、そのころはもっぱら『月に吠える』あたりの口語詩だったんだが、後になるほど『郷土望景詩』や『氷島』の文語体詩が好きになってきたんであります。中央公論の全集「日本の詩歌」を購入していた母親に、いまさらのように感謝。ってもおふくろは、自分の本として買っていたんでしょうがね。
 次回更新は木曜日に。

2004.02.15

 本屋に行くとなんと『ロード・オブ・ザ・リング』のフィギュアつき雑誌が出るらしい。創刊号は白いガンダルフで2号がレゴラスだというので「ううん、なんとぐっさり来るセレクション」と思いながら置いてある書店を探すと、なあんだ、へぼい。人間の顔、それも役者のモデルの場合動物やなんかより難しいとは思うが、全然欲しくなるような出来ではありませんでした。安ければいいというものではない。海洋堂ではなかったね、というわけで、要らぬ出費を防げました。めでたしめでたし。

 やっとこすっとこ『失楽の街』を書き出せた。本日13頁。今月中に100頁が目標かなあ。まだいろいろ試行錯誤の余地があるので油断大敵。資料として買ったフジテレビのBSの「同潤会アパート」というDVDを見たが、あんまりたいしたことはなかった。タイトルに「深田恭子」とくっついているので、ドラマ仕立てなんだろうかと思っていたら、ただやけに丸顔の女の子がときどき画面に登場して、内容とろくに関係ない文章を朗読したりするだけ。その女の子が深田恭子なんだろうけど、彼女のファンで買った人がいたら、かなり怒るだろうな。ほとんどはじいさんやおばさんばっかりの画面なんだもの。

2004.02.14

 装丁家の柳川貴代さんから、「どっちがいいでしょう」というわけで『アベラシオン』の装丁の見本が届く。布張りはさすがに予算の関係でだめということだったが、薄水色の皮革を思わせる紙に厚みを持たせ、箔を置いた表紙は重厚にして高雅。うおーっ、こんな立派な本にしてもらってええんかいのお、という感じである。
 漢詩の思い出しはまだ続いていて、昨日のはまだ小説のタイトルに使うから理由があるのだが、そうでないのまで次々と思い浮かんで「どこで読んだんだっけ、正確なところはどうだったっけ」と落ち着かないことおびただしい。でも今日は自宅の本棚で元の本が見つかった。李白の「少年行」という詩でした。「銀鞍白馬薫風を渡る」というやつです。こういう漢語の字面とリズムがめっちゃ好きだったのだ、といまごろ思い出す。中華もの歴史小説や、中華っぽいファンタジーは、書いてる方がたくさんいるしいまさら参入したいとも思わないのだが、漢詩は好きだったんだよなあ、いまさら。意味がすごく凝縮している。七言絶句のほとんどを思い出せて、ちょっと満足。しかし、いまだとパソコンで出ないような文字だらけだ。

 まだきちんと最後までプロットが出来たわけではないのだが、そろそろ書き出してしまおうかなあ、という気がしております。二月も半ばを過ぎたし、いつまでもうだうだしてたらあかんよね。そんなわけでいまから通販を申し込まれると、返信がやや遅れるかもしれません。でもある分はちゃんとお送りしますので、今月中に届くようにどうぞ。

2004.02.13

 頭に着いた詩句の出所がなかなかわからなくてじたばた。さすがに漢詩の一節まではネットでもぽんと出てこない。というわけで本屋で立ち読み。漢詩なんて高校の教科書で読んだものだけだから、と思って参考書を立ち見するが空振り。岩波文庫の『唐詩選』を購入後、さらに他の本屋で岩波新書のその手の本を開いたら真っ先に出てきた。
「江は碧にして鳥はいよいよ白く 山は青くして花は燃えんと欲す」というやつです。でもわかってほっとしたー。
 久しぶりにジムに行ったが体調不良で30分でリタイヤ。どうも胃が反乱を起こしかけている。前にこんな風になったのは『月蝕の窓』を書いているときだ。はたと気がついた。あのときも番外編と二作刊行の年だったじゃないか。うーん、体力が。というわけで、本日は非常に珍しいことに休肝日とするぞ(自慢するほどのことかって)。

2004.02.12

 今日も『失楽の街』のプロット作り。クライマックスはともかくとして、なんとなく形がついてきたかな、という感じ。出るのは夏だが作中はひたすら春。舞台の中央に満開の桜の大木。
 それをやりながら友人から借りたマンガを読む。前から読みたかった羅川真里茂『ニューヨーク・ニューヨーク』。このマンガ家さんは『赤ちゃんとぼく』というのしか知らなかったので、「リアルなゲイ・ピープルのドラマ」というのにほんまかいね、とおっかなびっくりな気分も半ばしつつ。やたら丸っこい絵柄に最初違和感があったものの、なじむとあまり気にならなくなる。しかしこれは「リアルなゲイのドラマ」というより、「リアルさに意を用いたボーイズ・ラブ」という方が近いだろうなあ。カップルの片方で性交渉のときに受けになる方が、性格的にも女性的で、きわめて美貌で、しかもトラウマ持ちで、作中でもひたすら受難に遭う、というのが実にボーイズ・ラブ的だ。むしろ相方になるゲイの、男性的な身勝手さや無神経さに、ある種のリアリティを感じた。

2004.02.11

 やっとこすっとこ頭を『失楽の街』に引き戻して、プロットの続きを進める。半分は超したな、という感じ。いつもはもっと出たとこ勝負なのだが、今回は出来るだけプロットを詰めてから取りかかってみることにした。ある程度詰めておけば書くのも早く済むんじゃないかなあ、という感じで。それにともなって神代先生のプロフィールを書きました。建築探偵告知板のラストにアップしてあります。ちと短めなので、またおりおり書き足すかも知れません。
 読了本『恐怖』筒井康隆文春文庫 篠田は高校の時が日本SFの豊饒な時代で、小松左京や光瀬龍に耽溺した。頭の柔らかい感性の新鮮な時代にむさぼり読んだ作品の、至福の読後感というものは生涯の宝である。筒井康隆なら初期長編の『幻想の未来』が忘れがたい。もちろんそれは読んだ時期、という理由もあるのだと思う。作品自体の初々しさに、こちらの未熟な感性がぴたりとはまったのだ。
 断筆宣言撤回後の作品では『敵』が圧倒的だった。奇想やスプラッタは敢えて抑えて、ひえびえとした怖さや悲しみが胸に迫ってくる。円熟の境地だなあと思ったもの。今回の『恐怖』は『敵』の再来を期待したのだが、ちっとも怖くないし、ギャグはぬるいし、ミステリとしてもしょうもない。どんな天才だって外すことはあるだろうけど、薄い文庫にしても薄すぎる内容だった。

2004.02.10

 ジャーロのゲラを喫茶店で読んでそのまま駅前から投函。仕事場に読みたい本がたくさんあるときは、よけいなもののない喫茶店の方が仕事が進むこともある。そして本を読むのは車中が良い。というわけで東京へ。ショッピングを楽しむ趣味はほとんどなくて、なにか買うときは、特に自分のものは即断即決だが、唯一買うこと自体が楽しいのは本、というわけでまたずっしりと買い込んで、バレンタインデーのプレゼントも買って帰宅。
 通販の処理。しかし、宛名カードを入れてくれていない人がまたいた。そういう人に限って自分の封筒に書いたリターン・アドレスが読みにくい。ちゃんと届くかどうか心配にならないんだろうか。こっちがすごく気を遣ってしまう。たいして難しいことをお願いしているわけではないのだから、それくらいは守ってください。さもないと通販なんてやっていられなくる。

2004.02.09

 朝から歯医者で疲労困憊。結局仕事に手がつかず、「趣味の小説」の版下作りに一日過ごしてしまう。で、昨日の読了本の話題の続き。
 キャッチセールスなんてものは基本的について行く気はしないからいいとして、かなり驚いたのが「あなたの原稿が本になる」というやつ。最近もやたらと広告が出ていて、それは単なる自費出版ではなく、「共同出版」というやつ。経費の半分を出版社が持つという形だそうだが、この本の著者の経験によるとそれは限りなく詐欺に近い。B6版48頁表紙二色印刷500部で50万取られたそうだ。使用紙や表紙の作りまでは書かれていないのでわからないが、もしも出版社が本当に半額負担しているなら制作費は100万ということになる。どう見てもそんなにかかっているようには思えない。「増刷がかかれば印税も払う」といって、たった500部の本が書店に並ぶはずもなく、当然のように増刷などかかるのは奇跡でしかない。原稿のチェックや校正などおしるしばかりのようだし、これなら自分でワープロ打ちの原稿を紙に貼る同人本の方がずっとましである。こんなあこぎな商売をしているとは思わなかった。

2004.02.08

 昨日書いた「館を行く」の原稿を手直ししメール送稿。ちょっとやれやれという感じで、アマゾンから届いた本を読んでしまう。それが下記の読了本。

『ついていったら、こうなった キャッチセールス潜入ルポ』 多田文明 彩図社
 これはかなり面白い。道ばたでやっているさまざまな勧誘活動に、敢えてのってみたらという主旨のルポ。実は篠田、昔昔に「人相見女性」にキャッチされたことがある。それは忘れもしない1993年のこと。はっきり覚えているのは92年に東京創元社から『琥珀の城の殺人』が出て、その後仕事がないに等しいままの一年のことだったと記憶しているからだ。本が一冊出たけれど、という状況は、全然出ないよりましなはずなのに、主観的にはもっと苦しい。そんな迷いっぱなしの気分が顔に出ていたとしたら、相手もまんざら「人相見」の力がなかったわけではあるまい。いきなり渋谷の駅頭で話しかけられて、後から別の女性が合流して、というのは典型的な手口だが、そのときはなんと30分も立ち話をし続けて、相手が「事務所に来ませんか」と言い出したときには、「あっ、もう帰りますから」とさっさと別れてきた。キャッチとしては大失敗というわけだが、こちらは悩んでいたことを吐き出せて妙に気分がすっきりした記憶がある。
 この本の件はまだ面白いこともあるので、明日も続きを書きます。

2004.02.07

 長崎に行ってきた。わざわざ旅行記を書くほどでもないし、建築関連のことはメフィストの連載エッセイに書くのでここでは簡単に。
*とっても寒かった。雪に降られてびっくり。
*平戸までは遠かった。でも隠れキリシタンのことに興味が湧いた。新しい興味に目覚めさせてくれる旅というのはやはり嬉しい。
*平戸銘菓カスドース、カステラの卵黄砂糖漬け。甘い甘いと脅されて好奇心で買ってみたが、さほどのことはなかった。これならトルコのヴァクラワの方が遙かに甘い。
*長崎の醤油は甘いんでびっくり。これでお刺身を食べるのは辛い。今度行くときはマイ醤油を持って行くぞ。
*カステラは確かに甘いし、ザボンのまるごと砂糖漬けとか恐ろしいものもあるし、長崎人は甘党なのかな。
*雲龍亭の一口餃子350円が絶品に美味であった。
*謎のB級グルメ料理トルコライスを初体験。カレーピラフの上に卵とじにしたトンカツがのっていて、キャベツとトマト味のスパゲッティがついている。味はいいのだが多すぎて完食できなかったのが申し訳なかった。
*長崎のタクシーはやたらと、自分を雇って観光しろ、と営業がうるさい。まったくもって閉口した。

 今日はたまっていた通販を片づけてから、「館を行く」の原稿を書く。明日チェックして、明後日送稿したらジャーロのゲラを見て、それからまた建築探偵。ああ、離れてしまった頭をひっぱり戻すのがしんどいぞ。

2004.02.03

 節分、といっても豆まきはしない。海苔巻きも食べない。しかしあんなでかい海苔巻きを黙って丸かじりする人、ほんとにそんなにたくさんいるんでしょうか。考えただけで喉に詰まりそうだ。
 今日は一日『失楽の街』のプロット作り。いつもはそんなに綿密にプロットを立てたりはしないんだけど、今回はやっております。半分くらいは出来てきた。そうしたら祥伝社の担当から、現在連載中の『聖なる血』のノベルス化は7/10発売で、といわれる。しかし5/15にジャーロの連載の〆切が来て、その前に『失楽の街』を入稿していないとまずいので、かなり予定がタイトである。この程度で「タイトだあ」などとぼやいているようでは、柴田よしきさんの爪の垢でも煎じて飲めってなものだが、仕事を並行して進められない人間だからしょーがない。しかしまあ、これで今年の予定もだいたい決まってきそうではありませんか。
 明日から2/6まで「館を行く」の取材で長崎に行ってきます。日記の更新は2/7になるかと思います。通販の返信は来週になります。

2004.02.02

 曇って寒い一日。昨日から今日にかけて長崎の下準備として、グラバー邸を建てたトマス・グラバーの伝記のたぐいを五冊立て続けに読む。同じ事を語っていても、叙述の仕方でずいぶんと違うものだ。白石一郎の歴史小説『異人館』が一番グラバーには好意的。日本に骨を埋めたイギリス人という意味ならジョサイア・コンドルと同じだが、性格は対照的だったみたい。もっとも共通点もあって、どちらも三菱財閥の岩崎家とご縁があった。コンドルの建築は長崎にはないが、グラバー邸の湾を挟んだ対岸にコンドルの弟子曽根達蔵が建てた三菱造船の迎賓館がある。
 2/4から6まで担当ともども不在になるので、今週通販の申し込みをしてくれた人は少し返信が遅れます。悪しからず。

2004.02.01

 2/4から二泊三日で長崎に行くので、その準備をする。以前行ったときに買った資料類の未読のものを開くが、やはりやり始めた建築探偵の方が気になって、午後からはまたそちらに戻ってしまう。プロットじりじりと進行中。
読了本 『黄金蝶ひとり』 太田忠司 ミステリーランド 狭義の本格ミステリではないが、いかにも児童文学らしい楽しさのある作品。ガンダルフみたいな老人がすてきである。
 昨日竹本さんの作品名を間違って書いた気がする。『闇の中の赤い馬』が正しい。