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2003.11.30

 季節はずれの蒸し暑い雨もよいの中、半沢氏と東京競馬場へ。最近はG1レースも買わなくなってしまったが、年に一度ジャパンカップだけは事情が許す限り出かけることにしている。今回はフランス馬で「アンジュガブリエル」という名前の馬が来ていて、天使ガブリエルですよ、これは名前買いしないわけにはいくまい。だが馬柱を調べると好走は常に良馬場。今日は完全に不良。ダメだなとは思いつつも、パドックを見ると美しい葦毛の馬で、やはり買ってしまいやはりダメ。毎度波乱のジャパンカップは今年もよもやの人気薄日本馬大逃げで終わる。しかしその前の第八レース、身体は鹿毛なのに顔だけ白いという変な馬を見て、面白いからそれの単勝を500円買ったら、これが来て10倍もついてしまった。まったくもって競馬というのはままならない。

2003.11.29

 LED公演「163人の目撃者」観劇。以前見た西澤作品の劇化「麦酒の家の冒険」は、長い原作をいかに要領よく、わかりやすくまとめるかに直塚氏の手腕が表れたが、今回はいかに原作をふくらませて、シンプルな謎解きミステリを人間と人間のドラマに持って行くか、という問題だった。原作で印象に残る俳優を断念した舞台監督の屈託が、他の登場人物とのからみによって、より厚みを持って描かれている。橋本健氏の好演もあって、特に魅力的な役どころとなった。
 幸い公演中は咳は出なかったが、夜寝ようとしたら延々咳が止まらなくなり、眠れなくて往生。今年の風邪はまったくもってけったいだ。

2003.11.28

 今日は午後から半沢氏の木工展に行く。小さな町の畑の中に、こじんまりとした喫茶店兼ギャラリー。なぜかこういう店は、当方の地元にはない。
 というわけで原稿は126頁まで。
 明日は新宿にLEDの芝居を見に行く。都合により日記は休みます。

2003.11.27

 完全に咳が出なくなる、まではいかない。もうだいじょうぶかなと思うと、またげほげほ。しつこい。
 今日は祥伝社の担当が来る。菊地秀行さんの新作書き下ろし『闇の恋歌』をもらう。一般読者よりは一日早い。楽しみ。

 原稿116頁まで。いよいよ蒼いじめで、痛いったらない。ところで幾人かの読者から、カゲリが京介たちとどう出会うか楽しみです、ということをいわれたのだが、今回の話の欄外で会わせてしまっている。そこを書くとどうしてもカゲリ視点にしないとならないし、そうするとひたすら追いつめられていく蒼の心理の緊迫感が外れてしまう、というのが理由の1。もうひとつは、そこの話は前に友人秋月杏子さんの同人本で短編に書いてしまっているから、という理由。その話を書き直して、ということも考えないではなかったが、やはり小説一本の統一感のためにも、そこは入れ込まないことにした。
 視点人物を定めると、「重要なシーンだけど読者に直接は見せられない」という部分が出てくる。「間接的に見せる」ことで物語がより面白くなるはずなのだ。たとえば今回も後半の方で、カゲリと京介が会って話すシーンがあるはずなのだが、これも蒼はいないところなので、カゲリの口から語られるだけになるだろう。
 それでも気になる方、同人本が買えなかった方のために、『AveMaria』刊行に合わせてその同人本短編をサイトに掲載する予定。ごく一部だが訂正も入る。だがまあミステリではないし、深春を美人女性と勝手に勘違いしていたカゲリがガビンとショックを受けるというだけのお話です。

2003.11.26

 やはり風邪は外気に当たらないのが一番かも。咳はほとんど出なくなった。同業者のMちゃんが「加湿器がいい」というのだが、それって本やパソコンに影響は出ないのか聞き忘れた。
 原稿99頁まで。蒼に対しては感情移入の深度が深くて、蒼が嫌な思いをするところではこっちも「いてえ〜」という感じがしてしまう。今日は痛いところ少しの後はカゲリとの楽しいクリスマスの場面だったが、明日あたりまたずんと痛いところに。事件が動くほどに痛い目に遭うのが篠田の主人公の宿命なり。

 本は読めないが今日はビートルズの「レット・イット・ビー・ネイキッド」を聞く。篠田はリアルタイムのビートルズ世代よりはちょっと年下なのだが、ほとんど聞いてみると聞き覚えのある旋律。もはや懐メロか。いや、それだけ感性に浸透しているという意味です。

2003.11.25

 ひどい雨。駅前まで買い物に行っただけでひたすら仕事。昨夜は咳で目覚めることもなくて済んだので、ちょっと能率が上がって85頁まで。ミステリ的な仕掛けは非常にシンプルだし、主眼はそこにはない話です。ただもうこれは『原罪の庭』から派生した『センティメンタル・ブルー』『Angels』に続く蒼三部作のラストである、ということ。いかにもな人工的謎よりも、人間っていうものの本質的にはらむミステリに筆を及ぼすことが出来たら。って、ずいぶん大変なこといっとるわ。
 ようやく篠田ごひいきのカゲリ君が出てくる。会話を書くのが好きなので、モノローグよりダイアローグになれるのが嬉しい。12月はなにかと行事が多くて出歩くことも増えてしまうが、一月前半には書き上げたいものです。あ、でも本編と連続刊行を目指すので、刊行日はちょっと後ろにずらします。

2003.11.24

 冷たい空気に触れると咳が出て止まらなくなるので、昨日今日と仕事場から一歩も出ないで過ごす。『AveMaria』68頁まで。こうなると話題がありませんな。新しい本も読んでないし。柴田よしきさんの新作ノベルスをいただいたのだが、これを読み出すと確実に半日は仕事しなくなるから、やはりちょっとまずいです。来年は5月のイベントで趣味の小説を本にして出すので、仕事が一段落したら早い内にそれも書かないとまずいしね。趣味の小説というのは例の特殊なジャンルのものでして、通販はせずにこそこそっとイベントだけで売ります。仕事はちゃんとやるから、なにとぞご容赦。

2003.11.23

 急に冷え込みがひどい。『AveMaria』54頁まで。ノベルスの字組で書いているので、文字数に換算すると1頁が二枚弱。これまで禁欲していた蒼の自分語りが全開なので、書いていてもなんとなく不思議な感じ。それにしても篠田のキャラは、場面や相手によってきっぱり印象が変わるなあ。読者はそういう点ひっかかるものだろうか。わりとどこでも、誰に対しても変わらないのは深春だけど。
 寒いし、少し風邪っぽいし、明日も引きこもって仕事しようっ。

 『白い兎が逃げる』有栖川有栖カッパノベルス この作品集の中では、篠田は「地下室の処刑」が一番感銘を受けた。動機探しが見事に着地している。動機は篠田がミステリを書く上で一番こだわる部分だけれど、書くのも一番難しい。短編でこういうあざやかな技を見せつけられると、有栖川さんはすごいなあといまさらのように思う。

2003.11.22

 またまた予告なしに日記をさぼってしまった。昨日は友人でメフィストの連載『桜井京介館を行く』に緻密な建築のイラストを描いてくれている今井ゆきるさんと会う。12/29の冬コミに売る8頁の有料ペーパーの原稿を作成。内容は1頁表紙と挨拶、2〜3頁に桜井京介インタビュー、4頁『アベラシオン』の自筆広告、5頁今回の館を行く裏話、6〜7頁建築探偵番外短編、8頁は今年の著作解説付き。
 通販をするほどのものでもないが、たくさん余ったら送料などは来年1月にサイトに書きます。予価100円なり。

 今日は『AveMaria』再開。明日は一日真面目に働こう。

2003.11.20

 二日間のご無沙汰。長野の温泉に行ってきた。昭和初年建築の木造四階建て県の指定文化財の、折り上げ格天井の部屋にお泊まり。温泉は最高で、食事も蜂の子が出た以外はすべて美味しくいただく。篠田は好き嫌いがないのが自慢だが、昆虫だけは食べたくないのであります。地獄谷の猿を見て、小布施で栗のアイスクリームを食べ、造り酒屋で日本酒を飲み、最後に軽井沢によってパンの浅野屋で遅いランチ。スーパーで大好きなよなよなエールを購入して帰宅。
 今日は新宿紀伊国屋本店へサイン本を作りに参上。20冊だけ。落款つきです。早いもの勝ちよ。その後神保町に廻って大学の友人の版画家の個展を見学。そうしたらやはり大学の友人で群馬で考古学をやっている男が、大した古墳を発掘したそうだ。みんながんばってます。
 神保町のごひいきケーキ屋エスワイルで、マロン・シャンティを食べて帰宅。ここ数日食べ過ぎである。明日からダイエットを誓う。

 冬コミで8頁の有料ペーパーを配布することにした。あわてて原稿を作っている。申し訳ないがいまのところ通販の予定はない。でもそう少しの印刷も出来ないから、余ったらまたここでお知らせします。
 
2003.11.17

 朝からずっと『AveMaria』を書いている。蒼の心情に入り込むことはわりと簡単なのだが、これまではネタバラシになってはいかんと思って、蒼の過去にまつわることはすべて立ち入らないようにしてきた。そのことがいかに不自然だったか、ということをいまさらのように気づいている。もちろんそれはそれで仕方がない。というか、レギュラーたちのドラマは、やはりそれぞれの巻のミステリの脇に流れるものとして書いてきたから、それが正解なのだった。しかし今回はまさしく蒼の過去がメインになって、蒼自身が過去からやってきたもの対決して乗り越える話なので、ネタバラシも仕方ない。売れないかもしれないけど、それも仕方ない。こいつを書かないと、篠田も先に行けないのだ。でも、ちゃんとミステリですよ。コアな本格ファンからすると本格じゃないといわれるかもしれないが、少なくとも篠田は本格ミステリを愛しているし、自分なりの本格を書いているつもり。

 転送されてきたファンレターが、ちょっと心が病気の人の手紙だった。きっと大変なのだろうなとは思うが、作家は悩み相談室でも感情の捨て場でもないので、正直な話こういうのを読まされるのはかなり辛い。こっちだって病すれすれで生きてるんです。

 明日明後日留守にするので日記はお休みします。木曜日は新宿紀伊国屋に『魔女の死んだ家』のサイン本を作りに行きます。たぶん20冊くらい書くと思うので、もしもへたくそなサインでもいいから欲しいぞ、と思う方はどうぞよろしく。

2003.11.16

 昨日は予告なしに日記をさぼってすみません。篠田50歳の誕生日は娘のような年齢の友人と東京都庭園美術館にアールデコ展を見に行った後、「陰陽師2」を見て、夜はバーからベトナム料理という、文化的なのかミーハーなのかよくわからん一日を過ごしました。アールデコ展は庭園美術館の建物を活かして、一般展示プラスという感じで毎年行われるが、今年は新公開の冬の温室が見られ、展示もラリックの美しいガラス器など見応え充分。「陰陽師2」はひどいといわれたほどひどくはなかったけど、悪役の中井貴一がやたらと悪役笑いばっかりしているのがしらけた。野村萬斎の巫女姿ダンスはやはりそれなりに見物で、しかし若い役者が大根なのが辛いところ。鬼になりかけた出雲族(ところで出雲って京都に隣接しとるんかい?)の若者も、式神のはずの少女も、退場のときはただもうばたばたと駆けていくのがどっちらけ。最後は晴明と博雅が顔を見合わせて笑って終わったりして、そりゃテレビの時代劇だぜ。

 今日はぼちぼちと『AveMaria』続行。長編はいつも書き出しに迷って何通りも書いてしまうのだが、どうやら今日ので決まりみたい。蒼が回想する、かつて京介のそばで満ち足りていた自分、からです。甘くない話だけど、ちゃんと最後はめでたく終わるから、そこはがんばってついてきてね。読者がいなけりゃ小説家なんて、まったく無意味な存在ですもの。この10年ありがとう。次の10年もよろしく。

2003.11.14

 風邪薬を止めたら下痢が止まった。やれやれ。
 建築探偵番外編始動。今回は蒼視点蒼一人称で、蒼が抱えている悩みや苦しみを真正面から取り上げる。もちろん話はちゃんとミステリだけどね。『原罪の庭』から引きずってきたそのへんをネタバレ覚悟でどーんとやってしまう。タイトルは『Ave Maria 我が母の教え給いし歌』。

 先日ミステリーランドの担当U山さんとした話。イラストの力というのは大きいですね、と。小野不由美さんの『くらのかみ』はあのかわいらしいイラストに飾られているが、内容はがちがちのフーダニットであるだけでなく、早死に伝説のある旧家に、古井戸に、底なし沼に、遍路殺しの民話に、と横溝そこのけのおどろおどろしさ。そこを強調すればもっと見るからに怖い本が出来上がっただろう。それを敢えて避けて、さとうさとるのコロボックル・シリーズで知られた村上勉を起用した編集者の目配りの良さが、すてきな本を作り上げたのだと思う。ちなみに講談社文庫『だれもしらない小さな国で』に始まるコロボックル・シリーズを作ったのもU山さんであった。

2003.11.13

 暗くて寒い日。どうにも体調がよくない。風邪は治ったのに風邪薬が強くてひどい下痢になってしまった。

 しかし嬉しい知らせがひとつ。『魔女の死んだ家』が増刷かかりました。あわてて冒頭から二行目の形容詞のだぶりを訂正。すでに買って下さった皆様、申しわけ有りませんがおゆるしを。
 初版 けっして大柄すぎるということはないけれど、背がすうっと高くてお顔が小さいので、ひとりで立たれると丈高く見えます。

 訂正 けっして大柄すぎるということはないけれど、背がまっすぐに伸びていてお顔が小さいので、ひとりで立たれるとすうっと丈高く見えます。

 本になる前になぜ気がつかない。いやあまったくお恥ずかしい。

2003.11.12

 今日はパルコ劇場に「ウーマン・イン・ブラック」という二人芝居を見に行った。ホラーものなのだが、劇場全体をどう恐怖に巻き込んでいくか、という方の興味は残念ながら達成されなかった。落ちが早々と見えてしまう。そこにいた女性が実は幽霊だった、と知らされて慄然としなくてはならないはずなのに、そう思えなかった。だがまあ、つまらないわけではなかった。

 読んだ本。『危ない精神分析』矢幡洋 亜紀書房 タイトルが軽いが内容は重い。篠田の『月蝕の窓』を読んで抑圧記憶の偽造というテーマに興味を持った人がいたら、非常に分かりやすくそのあたりの事情を現代までたどっているのでお勧め。

2003.11.11

 今日は装丁家辰巳四郎さんの告別式に東京幡ヶ谷の斎場まで出かけた。辰巳さんは非常にキャリアの長い装丁家で、ミステリ関係の本を多く手がけたから、ミステリ読者なら必ず棚に辰巳さんの作った本が入っているだろう。篠田の本棚で一番古い辰巳作品は新潮文庫のアルセーヌ・ルパン『水晶栓』昭和35年だ。建築探偵の装丁も『桜闇』までやってもらったし、その後も辰巳さんのレイアウトをそのまま継承している。
 享年65歳。最後まで仕事を続けて机に向かって亡くなったらしい。決して大往生という年齢ではないが、己れを全うした死に方には羨望さえ覚える。

2003.11.10

 一応『Ave Maria』のプロットを立て終える。あ、蒼の学生生活を入れ忘れた。それじゃあと一章どこかで増やさないと。短めの長編という感じで、無論ミステリだけどわりとひねりは少ない。こういうのを書くと「ミステリじゃない」と文句を言う人がたぶん必ずいるけど、そういう人はなにを書いても文句を言うか無視するようなので、こっちも無視します。
 刊行順、こちらを後でと思っていたが、こちらが2000年の六月から01年の四月、つまり『月蝕の窓』が終わってから一部『綺羅の柩』とだぶって進行し、『失楽の街』はその直後から始まる予定なので、やはりこっちから出そうという気になってきた。ただし「番外編しか書かないのか」と思われても困るので、連続刊行のために先に書いてもこれは待たせておくことになるだろう。どちらにしろこの二冊で第二部が終わる。
 第三部も本編五本を予定していて、作中の時間経過はあとせいぜい二年のうちに納める。そうでないとキャラが歳食ってしまうから。シリーズラストでも蒼はまだ大学生です。それと、「深春に幸せな結婚をさせてやる」という予定はかなり難しくなってきてしまったという感じ。第三部に入ると作中世界も風雲急を告げるので、そういうサイドストーリーは入れられないかも知れないのだ。まあ、これについては「その方がいい」という読者もそれなりの数おられることでありましょう。

2003.11.09

 薬が効いてるおかげで鼻はばっちりだが、薬の副作用か口の中が苦い。でもまあ、においがしないと何食べても味がしないからね。
 蒼の番外編のプロット、だいぶ出来てくる。この話は『綺羅の柩』と重なるというか、その間につっこむように起きるので、時間的には『失楽の街』より早い。後者は2001年4月が予定。でも内容から行くと第二部の締めになるのはこっちなので、書くのは先に書いて刊行は本編の翌月にしたいと思ってます。連続刊行はゲラが混むのでしんどいのだが、それくらい読者にサービスしたい気持ち。タイトルはいまのところ『アヴェ・マリア』を考えているが、ちとべたすぎるかも、という気もするので考え中。

 『南京戦』をまだ読んでいる。ひたすら中国人女性に対するレイプの話と虐殺の話が続くので、読むのが遅いというか早くは読めない。戦争中は性欲が昂進するんだか知らないが、ジャンヌ・ダルクの時代から軍隊に娼婦の集団がついて回るのはあることでした。ジャンヌはこれを嫌って娼婦を自分の軍隊からは追放したという。復権裁判のときの証言なので、誇張のある可能性もあるが。
 だったら第一次大戦以降の近代戦の戦場に、その手の人たちはいたのかしら、というのが気になった。つまり日本はほんの50年前まで、それをやっていたわけだ。女が欲しいから敵国人をレイプ、それが目に余るんで慰安所を作らせ今度は朝鮮人女性を犯す。補給が届かないから戦場で略奪。なんだかねえ、日中戦争の戦場での日本人のふるまいは、100年戦争の時代と同じなんだよ。
 日本の戦争はすべて侵略戦争か、なぜ日本だけが叩かれて欧米植民地支配の暴虐は免罪されるんだ、という主張に一脈の正当性があったとしても、このお行儀の悪い、正義もプライドもかけらもない戦場の様を知らされれば、げんなりして情けなくなることは事実。「どうしてそんなに謝るの」と故山本夏彦翁はおっしゃったが、「謝ったところで追いつかない」だけのことをしてしまったんだよ。ひとりひとりの兵士より、率いた支配者に罪はあると思うが。そして南京戦当時の現場責任者は有栖川宮、あの美しいアールデコの館を建てさせた有栖川宮家の殿様だったんだ。

2003.11.08

 こりゃダメだ、というわけで耳鼻科の医者に。いい医者だが遠いのでつい行くのが遅れると、こじらしている、と叱られ、鼻の奥までなんか管をつっこまれて痛さに身がすくむ。しかしまあ、これで治ればいいんであります。
 妙になま暖かく郵便局まで歩くと汗まみれ。異形のゲラを返し、帰って『アベラシオン』の初校をようやっと終わらせる。これは明日の宅急便。というわけで、さあ、やっと建築探偵なんだけど、明日一日くらい沈没したい気分。面白そうな本をいろいろ買ってきたのだが、まだほとんど手をつけられないのだよー。でも11月も足早に過ぎ去ろうとしている感じたしなあ。
 読んだ本 『MAZE』恩田陸 双葉文庫 文庫化で再読。実は初読のときはあんまりぴんと来なかったのだが、今回はなんかけっこう楽しめてしまった。ほどほどの健忘症がいい感じ。それにしても恩田さんって、変なことを考えるなあ(誉め言葉である)。

2003.11.07

 完全に風邪がぶり返してしまった。鼻づまりと嗅覚消失、微熱と少々の咳。というわけで今日は家から一歩も出ず、『アベラシオン』のゲラ読みで過ごす。ジャーロのゲラが来ませんなあ。ともかく皆様、風邪にはくれぐれもお気を付け下さい。

2003.11.06

 『アベラシオン』のゲラ、まだ終わらない。やっぱりどっちにしろ11月刊行は無理だったな、こりゃ。手を入れて返したときは「ほぼ万全」とか思ったけど、ケアレス・ミスのたぐいが出てくるわ出てくるわ。文章を直したところもそう多くはないがあるし。
 帯のコピー、担当が書いてくれたのだがやっぱり気に入らず、自分で書いてしまう。とはいえ「絶賛」とか自分で書くのはなんとも面映ゆく、むずむずして困る。
 ゲラというのもまとめてくるもののようで、異形コレクション、もうじき「館を行く」と「ジャーロ」の分も来るはず。ああ、落ち着いて建築探偵に取り組めるのはいつになるやら。長編の構想時点は他の仕事と一緒には無理なんだよお(涙)。

 治ったはずの風邪がまだうずうずする感じで、昨日から体調いまいち。もうしばらく出来るだけ外には出ないで暮らす予定。といっても10月と違って11月はけっこう予定があるんだが。

2003.11.05

 前にちょっと触れた『南京戦』をまだ読んでいる。内容がきついので一日数頁しか読めないが、それでもどーんと落ち込む。50年経って元兵士達は、忘れたり忘れたふりをしたり、否定したりごまかしたり、真摯に反省したりしながら当時を語るが、中には中国女性をレイプしたことを語りながら「へへへ」と笑う老人もいる。性犯罪は耐え難く忌まわしいが、中国人数百人をトタンの倉庫に閉じこめて火をつけて焼き殺した、というようなことを聞くとさらに落ち込む。小説資料としてナチ関連の本をかなりの数読んできたのだが、この焼き殺しはアウシュビッツの虐殺とためを張れるくらいおぞましい。あちらは組織的構造的な犯罪で証拠が明確だが、日本軍の残虐行為は現場の混乱、という言い訳をつけようと思えばつけられる、という程度の違いだ。犠牲者の数が少ないのは、単に日本人がドイツ人ほど虐殺においてマメでなかったから、というに過ぎない。
 人間というのは嫌なもの、己れを正義と信じて疑わないのは健康的だが健康とは嫌なものだと故山本夏彦翁は繰り返し書いた。まったくその通りだな、とつくづく思う。

2003.11.04

 昨日は寝る時間はいつもなみ、あさもいつもの時間に目が覚めたので、「なんだ。これなら二日に一度眠ればいいんじゃん」と思わないでもなかったが、やはりそうはいかない。いささか頭がぼけている。
 昨日の夜はトリニティ・ブラッドの新刊『茨の宝冠』をあわて読み。アベルの安否が心配だったのだよ。出番が少なくて残念だったけど、おっと、これ以上はネタバレだ。しかしこのシリーズを「菊地秀行さんの吸血鬼ハンターと設定が似ているから」という理由で忌避している人がいると聞いた。実は篠田も文庫の裏表紙を見たときはそう思ったのだが、読者で「面白い」という人がいたので読んでみて「これはすごい」と思った次第。似ている部分も初期設定の一部というだけなので、それくらいのことでこんな面白い小説に手を出さないのは正直な話もったいない。篠田も菊地さんのファンだけど、それとはまるで別のおもしろさなんだから、だまされたと思って一冊読んでみてください。
 『アベラシオン』のゲラ読みを続ける。早く切り上げて建築探偵をやりたいのだが、読み直すとまだまだいけないところや間違っているところが目についてしまう。延びたついでで腰を据えてやります。来年の早くて一月末だが、なに、また延びるかも知れない。というわけで、3200円の本代を使わないようにして待っていてちょうだいませ。

2003.11.03

 篠田は日記を休むときはいつも「明日は休み」と書いて、毎日見に来てくださる方が空振りしないように気をつけているのだが、一昨日はやはり刊行延期の件がショックで、それを忘れてしまった。すまぬすまぬ。
 どうせ仕事をしていてもその件が頭にもやもやして、腹立たしいことだったろうが、不幸中の幸い。2日3日は遊ぶ予定が入っていた。池袋に出て、神田古本祭りにでも行こうかと思ったがそれはめんどくさくなったので、リブロでまた山のように本を買い宅急便にする。CDを買う。さらに文庫を買って友人と待ち合わせのホテルへ。彼女は観劇に行っているので、その間はホテルの部屋で剛しいらさんの『ボクサー&ドクター』シリーズを頭から心ゆくまで読む。いわゆるボーイズラブジャンルだが、性愛のみならず人間の成長、愛することの意味、闘うことの意味、といった青春小説的なテーマが物語と渾然一体となった傑作シリーズ。
 夜はホテル近くのイタリアンからホテルのバーへ。ごいっしょしたのはたぶん篠田よりアルコールのはるかに強いTさん。彼女はヤングアダルトで仕事をしている人で、年齢をいえばまさしく篠田の娘世代なのだが、歴史オタクな部分で篠田と趣味が合い、さらに小説を書くことについての方法論など共感できる話題が多い。朝の四時までしゃべって、翌日はサンシャインシティで開かれたイベントに行って、三時に別れるまでずーっとしゃべっていた。いやあ、喉が嗄れましたが楽しかったっす。
 日頃引きこもった生活をしているから、人と会うと頭が興奮状態になってしまって眠れないのだが、眠れない時間来年の建築探偵のプロットを考えていた。第二部終了となると、ここらでネタバレしても蒼の過去問題にきれいにけりをつけたいのだ。というわけでまずは番外編の話をこねる。
 いまになって読み返すと『綺羅の柩』の蒼はいささか挙動不審である。京介と綾乃が親しいのかと気にしたり、気遣われたのに腹を立てたり、死んだ老人のことを考えて泣いたり、子供返りしているような感じすらある。ということは、実はこの間「もうひとつの事件」が蒼を巻き込んで起こっていた、そのために蒼が不安定になっていた、ということでしないか、と。こじつけっぽい? いいんだよ。作者はおいらなんだから。

2003.11.01

 今月は篠田の誕生日月だが、あんまり楽しくないお知らせから月が始まった。11月末発売と予告していた『アベラシオン』は今月中には出なくなった。決して出し惜しみをしているわけではない。篠田は急げば10月に出せるなら出したいといっていたのだが、担当の交代という事態もあって、結局そういうことになっていた。金曜日にやっとゲラが届いて、今朝メールを開けてみたら寝耳に水でそういわれたんである。
 どうせ12月になるなら、いっそ来春くらいまで延ばしてもいいのじゃないかと編集部には連絡したが、うちの担当は土日祭日にはいっさい連絡がつかないので、致し方なくゲラの見直しを始めた。どういう事態になるのかいまのところさっぱりわからない。だが篠田がいわれたままにあわててゲラを返しても、これから月末に向かってメフィストの校了時期とも重なるし、12月の何日になるかも知れたものではない。それくらいなら心ゆくまで再校も念校も取って万全を期したいと思うのだ。
 期待して待っていてくれる読者には大変申し訳ないが、そういう状況であります。