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2003.10.31

 小説ノン12月号から始まる『聖なる血』第一回のゲラを見て戻す。
 『アベラシオン』のゲラが来た。しかしごっつく重い。読み直すのに一週間かかるなと思ったら、担当から11/6に戻しを予定しているとかメールが来て、著者に確認しないまんま予定なんかするな、とまたいらいらする。普通の建築探偵だって一週間で戻せなんていわれたことはないぞ。まったく疲れる。おまけに校了が11/20だというんで、それで本の刊行はいつになるのやら。賞レースの空白にはめるべく努めているみたいな感じだな。まあ、歯牙にも掛けられなくても理由がつく。って、めげる話。やっぱり来年にするべきだったか。
 明日一日ゲラと格闘して、11/2と3はお休みします。友達と泊まるホテルにゲラを持っていってもいいんだけど、重たいよ。

2003.10.30

 最近なぜか異様に原稿を書くのが早い気がする。別に体調はよくないというか、疲労していたりするのだが、書き出すと集中してしまって、後でへろへろになる。というわけでメフィストの原稿書き上がり。今度の日曜月曜は留守にするので、その前に小説ノンのゲラを返すところまでやれるであろう。帰ったら『アベラシオン』のゲラだ。あー、でもあの長いゲラは読みたくない。想像しても気が重い。

2003.10.29

 「館を行く」取材で新宿区の小笠原邸と講談社へ。詳細は次号メフィストをご覧あれ。よろしく。
 講談社文三K木部長より、『アベラシオン』の定価が3200円になってしまうとのこと。かなりショックではあるのだが、箱なしでも2700円くらいにはなってしまうのだそうで、読者の皆様には大変申し訳ないとは思うのだが、こんなことは10年に一度なのでどうか許してやって下さい。

2003.10.28

 今回は切り番流れてしまったらしい。初めてなり。
 雨が降って寒い。整体に行く。一ヶ月もしないで骨盤は元通りゆがんでしまうらしい。
 建築探偵の新作を考える予備作業として、レギュラー各自の経歴と作品年表作成中。京介と深春と作品年表だけ終わる。後は蒼と神代さんは作ろう。これが終わったら告知板のプロフィールも少しは修正することになるだろう。それから、蒼の高校生活も名残惜しいし、浪人時代のことも書きたいが、さっぱり大学生活を書いていないんだよな。そして気がついたらずいぶんキャラが年齢を重ねている。ピンチ。京介が中年になってしまう。深春が親父になってしまう……
 ところで明日発売予定の『魔女の死んだ家』はゆるく建築探偵ワールドともリンクしています。『アベラシオン』もそうなんだけど、気がつく人だけ気がついて下さい、という程度のことです。
 明日はメフィストの「館を行く」取材なので、たぶん帰りは遅く日記はお休みになると思われます。
 読んだ本 『ぼくと未来屋の夏』 はやみねかおる 講談社ミステリーランド いかにもはやみねさんらしい、ミステリ+現代の児童文学、という感じでした。子供には一番受けると思う。
 『男女の仲』 山本夏彦 文春新書 雑誌「室内」で編集者の若い女性を相手にもろもろを語る夏彦翁。これが最後だが、最後まで夏彦は夏彦であった。しかし、人は死ぬねえ。

2003.10.27

 ミステリーランドの贈呈は先週末から発送してくれているらしく、友人K君からメール。極道な会社に勤めて日曜日も夜遅くまで働かされていた彼は、帰って本に気づき、波津さんのイラストだけ眺めようとして読み始め読み終えてしまったそうだ。夜中2時過ぎの日付のメールに「軽い嫉妬さえ覚える」とあり、作家志望でもある彼の最大級の賛辞だろう。
 仕事場の掃除をして、建築探偵新作に備えて個人データの整理を始めるが、見本刷りを持ってU山氏来訪す。期待を遙かに超える美しい本である。表紙のおどろおどろしい邸宅から美しい口絵、二色の色合いが効果的な挿絵、そしてあとがきは紙代えで桜色になっている。宝物のような一冊だ。しかしひとりになって頭から読み返すと、いきなり冒頭でワンセンテンスに表現のだぶりを発見。向こうずねをぶつけたように「ううう」とうなってしまう。
 読み終えた本
 『東京駅の建築家 辰野金吾伝』わりと面白いが印象は散漫。せめて参考文献くらいは書いておいてもらいたい。
 『虹果て村の秘密』ミステリーランド 有栖川有栖 ミステリの教科書のような端正な小説。確かにこれが手に取る最初のミステリだったら、本格ファンが増えそうな気がする。 

2003.10.26

 本格ミステリ作家クラブの執行会議に参加。従って今日は仕事なし。
 
 読んだ本
『クレオパトラの夢』 恩田陸 双葉社 恩田さんはジャンル分けしにくい小説を書く人だが、これもまた「恩田小説」とでもいうしかない。リーダビリティは抜群。大山鳴動して鼠の一匹も出ない話を、ここまで面白く読ませる手腕はただごとではないなと思う。しかしこの作品の主人公神原恵弥、非常にかっこいいキャラなのだが、どうしてもお姉言葉をしゃべられるとオカマさんのようなお化粧顔がイメージされてしまう気がしてしまうのは、篠田のイマジネーションが貧困だからか。

2003.10.25

 栗山深春プロフィールを執筆。建築探偵告知板にアップしました。

 読んだ本
『玻璃ノ薔薇』五代ゆう 角川ホラー文庫 プレステ・ゲームのノベライズだそうだが、何だ、ノベライズかと読まなかったら損をする。設定はべたべたの本格ミステリ風で、「サイコサスペンス」と帯にあるからどうなることかと思ったら、落ちはむしろSF。しかしそれが妙な折衷作という感じではなく、まとまりも良く非常に面白い。本格風なのにトリックが、とかいうのは野暮でしょう。
『二度のお別れ』黒川博行 創元推理文庫 サントリーミステリ大賞佳作のデビュー作 これを「花がない」という理由で落とした選考委員はまったく小説を読む目がなかった、といってやろう。誘拐事件に裏があることは読みながら予想するが、こういう落ちになるとは思わなかった。刑事たちのキャラも特別珍しいわけじゃないが、可愛い。

2003.10.24

 ジャーロのプロットを立て直し、五回で終わらせるように調整。登場人物たちが可愛くなってきたので、彼らを殺すのが辛い。『そして誰もいなくなった』じゃないから、全員が死ぬわけではないけど、うーん、君たち殺したくないねえ、などとマジに思ってしまう。しかしこの話、本格ミステリといったら石が飛んできそうだし、サスペンスというほどサスペンスフルかどうか作者にはようわからんし、かといってホラーでもないし、ジャンルはなにになるんだろう。伝奇ミステリかいな。今頃になって頭をひねっている篠田は、もしかしたらすごいお馬鹿??
 どうやら風邪が撤退したようなので久しぶりにジムへ。しかし体力落ちているようでへろへろ。なのに体重は落ちていないのはなにゆえか。

2003.10.23

 久しぶりにエアロバイクを漕いだらやっぱり疲れて今日は一日沈没。ジャーロの次のプロットもまだ途中まで。まして建築探偵には手つかず。面目ない。トップページの刊行予定など改訂。

 読んだ本『アノニムス』野崎六助 原書房 申し訳ないが私にはこの本のおもしろがり方がわからない。
 読みかけの本『南京戦 元兵士102人の証言』 30万人ではなかったかもしれないが、やはりかなりたくさん虐殺したでしょう、という結論になる。そもそも兵站なしで戦争するというめちゃくちゃなんで、捕虜を取っても食わせられないから殺す、という、これはもう戦略的な欠陥というか、当然前線ではそうなるわな。日本には近代的戦争という概念がそもそもなかった。あんなに外国から学ぶことに熱心だった近代日本なのに、どこかでそれが抜け落ちたらしい。続けて読むのがきついので、ときどき読んでおります。

2003.10.22

 ジャーロ連載『すべてのものをひとつの夜が待つ』第二回仕上げてメール送稿。原書房『本格ミステリベスト10』の近況コーナーに送稿。ちなみに篠田はベスト10のアンケートには回答しない。もともとこういうものは苦手だし、ベストを選ぶほど自分に見識があるとも思っていない。本格ミステリ大賞には投票しているわけだが、あちらは候補作全作を読んだ上での比較、というひとつの枠があるので、まあいいかという感じ。ただしそれほど、このシステムがすばらしいものだとは思っていない。矛盾も多いしね。

 『アベラシオン』の箱デザイン到着。とても美しいものができそうである。図書館派の方、図書館では箱は見られませんぞ。お手元に置いて所有する喜びを覚える本になるのではないか、と思っております。内容はともかく(ギャー!)。

2003.10.21

 今日は静岡県天竜市秋野不矩美術館に行ってきた。秋野さんは一昨年九十三才で亡くなった女流日本画家で生涯現役を貫き、インドを題材にした絵を多く描いた。建物は元祖建築探偵の藤森照信教授の設計。というわけではるばる新幹線と私鉄を乗り継いで行ってきた。不思議な建物でありました。秋野さんが愛した南インドの民家を思わせる土色の漆喰壁に木の屋根なのだが、丘の上にあるので下から仰ぐと山賊の砦みたいに見える。内部も藁入り白漆喰塗りの壁に籐茣蓙が敷いてあったり、白大理石が埋め込んであったり。しかし見物人が多いのでびっくり。あまりたくさんの来館者をさばくようには出来ていないことは事実でありました。

2003.10.20

 101枚でジャーロ第二回ラスト。プリントアウトしてさっそく赤を入れなくてはならないのだが、熱のせいか気力がなくて毛布をかぶって寝てしまう。電話で起こされる。角川のミステリーデラックスが休刊になるそうだ。あの雑誌は「新本格系をばんばんやります」という話で建築探偵を勧誘したものの、思ったより数字が延びなかったので方針を転換して、内田康夫山村美沙赤川次郎といった超大物の長編一気掲載を始めたものの、ターゲットの読者が何歳くらいを考えているのかさっぱりわからない、鵺のような混乱しまくった雑誌になっていったあげくの休刊という感じだ。あ、でもしかくのさんの「爺さんと僕の事件帖」が読めなくなってしまう。清涼院のJDCも終わってない。こうなると建築探偵が打ち切られたのは不幸中の幸いかも。コミックになるには半端な原稿が取り残される、というような事態にはならずに済んだからね。

2003.10.19

 今回の風邪はほんと変。ひどく悪くもならない変わり、直りもしない。昨日はまた嗅覚が消滅してしまったし、熱は出なくなったかと思ったら今日の夕方また7度を超していた。しかしなぜか筆は止まらない。本日で81枚。百枚だから明日には終わるな。だけどこの話ほんとに五回で終わるのか、自分でも全然確信が持てない。まあ、死人が出だしたらあまり牧歌的なおしゃべりもしてられないだろうし、登場人物がかわいそうでとっとと終わらせたくなるかも。
 これが終わったら29日の「館を行く」取材までの間に、冬コミで出すつもりの有料ペーパーの構成を考えて、ずうっとほったらかしにしてある「深春のプロフィール」も書こうかな。有料ペーパーというのは、いつもコミケに来た人に配ってあとお返事用にコピーのペーパーを作っていたのですが、誌面を増やして短いお話やキャラインタビューといったお遊びのページを入れて、中綴じ16頁200円くらいのものを作って売ったらどうかしら、という企画です。残りは通販してもいいし。

2003.10.18

 風邪が治らないよー(涙) でも仕事はする。ジャーロ、昨日は13枚。今日で45枚。どう踏ん張っても篠田のMAXは30枚らしい。その代わり瞬間風速でなく、30だったらずっと書けるけど、あんまりやると身体壊すからほどほどに。

2003.10.17

 まだ鼻づまりは治らないがプロットは出来てしまった。いつまでのたくっていても風邪が治るわけでもないので、あきらめてジャーロの二回目を書き出す。この話は島のどでかい館の中で宝探しをする話で、取り敢えず参加者が十人に世話役がひとり。第一回はそこまでたどりつくので終わってしまい、今度はいよいよ館にたどり着いたわけだが、顔見せする人間がこれだけいるとなかなか話が進まない。とっとと殺すしかないが、ほんとに五回で終わるのかな。すごい不安なり。
 読んだ本。『無想庵物語』山本夏彦 いまではほとんど忘れられた大正昭和の小説家翻訳家武田無想庵。故山本翁が若年の頃つきあった武田と周辺人物を活写する、伝記というか回想記というか。翁の文章は決して達意の名文というわけではないのだが、一種のリズムというか、人を引き込む調子があって、その調子に引かれて、私にとってはさほど興味あふれるというわけではない世界を、するすると読まされてしまった。しかしこの時代の文士とか、編集者とか、会えば酒を飲むことと女を抱くことしかしてないんだねえ。もちろん飲みながら論壇風発というやつだけど、下戸と女嫌いには生きづらい時代だったな。

2003.10.16

 鼻づまり続く。おかげで頭が重く喉もひりつくが、微熱は出なくなってきた。柴田よしきさんはほとんど篠田と同じ症状なのに仕事はしているしお母さんはしているし、いつまでごろしゃらしとるんじゃい、われ、というわけでやっとこさっとこジャーロ連載のノートを取り出しぼちぼちプロットを立て始める。明後日あたりには書き出せるのではないかと。
 読んだ本。 
『ラピスラズリ』山尾悠子 国書刊行会 シュルレアリストのコラージュのような謎めいて美しい世界。篠田はどうしてももう少しは腑に落ちた話にしたくなってしまうので、こういうのは書けないなあ。
『劫尽童女』恩田陸 光文社 ジャンルとしてはSFだろうが、科学によって作り出された超能力者に関する科学的説明がほぼ全然なされていないのが、やはり印象を弱くしている。作者の書きたいのはそこではないということだろうが、たとえばマンガでは吉田秋生の『YASHA』など遺伝子操作のことがかなり書き込まれていて、物語に厚みと迫力を加えていることを考えれば、物足りないといっても無い物ねだりではないだろう。

2003.10.15

 風邪が治らない。嗅覚が戻らない。
 読んだ本。
『ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー』 日本の政策の犠牲となって1951年東京で窮死したベトナム王族の哀話。しかもベトナムでこの人を話題にすると公安が来るんだそうだ。最近ベトナムは流行の観光地にしか見えなくなっているが。
『マキャベリ、イタリアを憂う』 わりと面白く読んだがどうして研究者はこう自分の研究対象を手放しで絶賛するんだろう。
『翳りゆく夏』 今年の乱歩賞。手堅く書かれたエンタメですぐ売り物になる水準だがどこかで読んだような作品という印象がつきまとう。
『マッチメイク』 これも乱歩賞。プロレス界のことは全然知らないのでこれがどこまでリアルな話なのかさっぱりわからないが、この作者は一人称記述というものを誤解している。純朴な主人公が視点人物であるのはいいとして、子供の時からスポーツしかやっていなかったらしい高校出の青年が「通過儀礼」とかするっと地の文、つまり思考の中で使うのはどうよ。他にも絶対キャラに合わない用語が頻出。一人称ってことは、視点人物が理解できないようなことは書けないんだよ。

 乱歩賞のパーティに行くと受賞作をもらえるのだが、今年も「別にもらわなかったら読むこともないし読む必要もない」という印象しか残らなかった。やっぱりパーティはそろそろ遠慮かな。立ったままご飯食べるの疲れるしね。

2003.10.14

 風邪治らず。依然鼻と微熱。でも本が読めない程ではない。
『年を歴た鰐の話』故山本夏彦デビューの一冊復刊。
『独裁者の言い分』柏書房 失脚した独裁者たちに対するインタビュー本。誰も彼も凡庸な自己弁護か妄想に終始している。
『天上の愛と地上の愛』エディションq ルネサンスのフィレンツェを舞台にボティチェルリとメディチ家に嫁いだ美女の恋愛にサヴォナローラ没落までの歴史が絡む。凡庸な歴史小説。日本には辻邦生の『春の戴冠』がある。しかしあれ、ひょっとしていま手に入らない本かも。

2003.10.13

 蒸し暑くて妙な天気だが風邪っけが抜けない。エアロバイクを漕いでしたたるほど汗をかき、体温を下げてから仕事。異形を一応書き上げる。ページ立てにして34頁。メール送稿完了。昭和七年の上海を舞台にした、幻想ホラーというかなんというか。
 仕事がひとつ終わったので少し休みというわけで仕事とは関係ない本を読む。
『夏彦の影法師』新潮社 故山本夏彦氏の長男が氏の残した手帖を引用しつつ在りし日の父の姿を描く。父とは特に不仲ではなかったが、ほとんど会話がなかった。母が死にひとつ屋根の下にいるときも、それぞれ新聞や本を読んでいていよいよ最後の入院までろくに腹を割って話すことはなかった由。父と息子というのは案外こういうものかも知れない。

2003.10.12

 異形コレクション50枚で一応ラスト。そうか、異形の短編って意外と短かったのね、と久しぶりなので本を見返したりして驚く。でもまだ書き込みの足りないところがあるので、もう少し増えるでありましょう。

 『原罪の庭』刷り見本が来ています。表紙は白です。なかなかスタイリッシュで目立ちそうです。
 風邪です。鼻づまりと喉痛。微熱。というわけで今日は早々に失礼を。

2003.10.11

 講談社文庫情報誌INPOCKETに「もうひとつのあとがき」掲載されました。

 昨日の夜の読書『男装の麗人』村松友視 清朝王族の娘で日本人の養女になった女性の伝記だけど、村松の祖父が本人と会って彼女をモデルに小説を書いたことまでが含めて射程に入っている。まあおもしろいけど、文章がへたで臭くて閉口。
 今日の読書『「上海東亜同文書院」風雲録』 戦前上海にあって日中共存の道を模索した一学校の卒業生達が戦後にさまざまの分野で活動したあたりを記すノンフィクション。叙述の中心は戦後の話なので、そのへんはちょっと期待はずれだが、知らないことばかりなので興味深く読む。

 やっと異形コレクション書き出す。本日20枚。

2003.10.10

 デパートから送った本が届いたので今日は読書デー。それもそろそろ仕事しないとやばいんだよ、というわけで異形コレクションのプロットなんか考えながら、読んだのが
『上海プリンセス』光文社 上海の上流階級に生まれて、非の打ち所のない幸せに恵まれて青春時代を送った女性が、その後の歴史の流れの中で財産を奪われ、夫を獄死させられ、資本家と呼ばれて虐待され、という何十年を送りながら、常にプライドを失わず、政府を批判することもせず、身に付いた優雅さを失わずに1998年大往生を遂げる、というノンフィクション。これはかなりすごい。しかし仕事には全然関係なかったなあ。小説の資料を探す場合、こういうロスというか、無駄は仕方ないんだけど。

 次回館を行くの取材、目的にしていた某所に取材拒否され、講談社の敷地内にある「お化け屋敷」は老朽化のため立ち入り禁止になっていて、「外観なら大丈夫です」という担当にぶちぶちっと音立てて切れる篠田。我ながら修行が足りないわ。だけどさー、建物の外だけ見てなにを書けっつーの。それくらいわかってくれよ、担当。

2003.10.09

 昨日は池袋で前から買いたかった本と、資料本を買う。異形コレクションのアジアン・ゴシックで上海を舞台にするといってしまったので、戦前の上海についての資料を。我ながら何も知らないよな、といまさらのように痛感。結局三万円近くも本で使ってしまったよ。
 夜は祥伝社の担当と会う。
 今日は一日だらけて読書と昼寝。森達雄『職業欄はエスパー』、山田風太郎『戦中派不戦日記』。若き日の山風が普通の日本青年であるのがちょっと意外であった。

 次回のメフィストエッセイの対象にする予定の場所で取材を拒否された。いささかショックである。

2003.10.07

 昨日は美輪明宏様のリサイタルへ。「サン・ジャンの恋人」「恋のロシアンカフェ」「ラ・ボエーム」「群衆」「ミロール」と、美輪様のレパートリーの中でも篠田の大好きなものばかりが並んですごく嬉しい。これで「暗い日曜日」と「アコーディオン弾き」と「思い出のサント・ロペ」があれば完璧なんだが。「花」もあるといい。欲張りすぎか。特に「群衆」は『美貌の帳』で登場させたあれで、ノベルス版のときは美輪様の名前をあとがきにも挙げなかったのだが、気がつかない人が多すぎる気がするので、文庫版のときは載せることにする。この人と同時代に生まれた幸せを噛みしめながら、ボルドーの美酒に酔った一日。
 今日は竹橋の工芸館で日本の木工展示を見た後、谷中巡り。明日も所用ありで日記は休みます。

 美輪様の著書にいわく。この世には善人ばかりと思う方が甘え。憎まずにいられないような相手と遭遇することはあるのだし、憎んでしまう自分を責めることはない、と。そういわれると自分の気持ちがひとつ客観視できるようで、いくらか気持ちが落ち着くというもの。愚痴をこぼしてしまったが、心配しないでください。篠田はだいじょうぶです。あんな無礼なやつに負けてたまるものか。

2003.10.05

 疲労残りなので整体へ。その後本屋に行って、美輪明宏様の人生相談本を見つけたので購入。実はパーティで非常に不愉快なことがあったので、元気になれるパワーをいただきたいと思ったから。アフター・パーティではない。そのことに関しては思い出すたびに不快感で腹が煮える。たぶん加害者を追求すれば「冗談だよー、いやだなあ」と笑われるようなたぐいのことなのだが、当事者というか被害者にとってはナイフで刺されたよりまだ悪い、ということはあるものだ。衆人環視の中でありながら、誰も気がつかないからなおのこと。私自身にどんな不利益があろうとも、そのような人間とは完璧に交わりを断つことを誓う。
 午後は手紙書きと、美輪様本の読書で終わり。明日は美輪様のリサイタルなので日記はお休みします。

 『千年の黙 異本源氏物語』読了。最後まで読んでみるとまことにうまく考えられ、練られた作品だと言うことが分かる。選考委員笠井潔氏は「日常の謎」といっていたが、篠田はそうは思わない。この物語における犯人像は、現代では成り立ちがたいからこそ魅力的であり、「日常」ということばでくくれない。それでいながら優れて現代的なテーマを含んでいる。これについては「物語テキストの自立性」に言及した島田荘司選考委員の評の方がはるかに的確である。
 その上で、やはり長いという感じは残る。その感じがどこから来たのか、篠田の読書力の低下のためか、という可能性もあるので、これについては保留にしたいけれど、もう少しテンポを速められた方がミステリとしての興趣は増すような気がするのだが。特に前半、語り手の少女の恋は物語と絡んで美しく描かれているけれど、恋もミステリも、と欲張ったせいで印象を散漫にした気がする。

2003.10.04

 昨日は鮎川賞。会場のスペースに比べて人数が多すぎる。あんまり他の人とも会えないし、ろくに飲み食いもできない状況で、その上二次会の設定がなかったので、なんかいつもに増して物足りない気分が残った。
 受賞作『千年の黙 異本源氏物語』まだ読みかけ。とても好感が持てる作品なのだが、ちっょと長いかなあという印象あり。

2003.10.02

 祥伝社の仕事にけりを付けたので、ようやっと購入したてのDVDを動かして、「指輪第一部」を見る。劇場公開ではカットされていた40分がある、というのが売りで、かなり期待していたのだが、これは値段だけの価値はあったかな、という感じ。むしろ完成作品から無理矢理40分削ってしまったような印象がある。場面転換がごつごつして説明不足と感じたり、人物のせりふが妙に唐突だったり、という劇場公開版の不満がかなりこちらだと解消されている。描写のディテールが増した。そのへんはもう少し細かく見てから日記に書きたいと思う。しかし友人とふたりで鑑賞して、「ここを削るくらいなら戦闘シーンを削ってくれ」と切実に思ったことも幾度か。監督は「原作になにも付け加えていない」とかいっているのだが、どうみてもオーク三割り増しだ。

 明日は鮎川賞なので日記はお休み。