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2003.05.13

 本年度の本格ミステリ作家クラブ大賞は、篠田にとっては意外なことに乙一氏の『GOTH』に決定した.笠井潔氏『オイディプス症候群』とは一票差.前者を真っ先に消して、得票数としては最下位に終わった西澤保彦氏『聯愁殺』を押した篠田の本格観は、大半の会員のそれとは大きく離れているのかも知れない.
 開票会が終わってから、その場でミステリランドのゲラ付け合わせをする.担当U氏は篠田が今日物書きとして生き残っていることについての、最大の恩人であるといっていい.そのような人ともう一度仕事のできる有り難さを、つくづく噛みしめる.本の束見本も見せてもらった.小振りのハードカバーの、実に愛らしい双書になるようだ.そこにかねてからの憧れの的である波津彬子さんのイラストがつくんだから、もう、めっちゃ嬉しいのである.
 学生さんのふところにはちょっと高いけど、美しい本を手にする喜びというのも、無意味なものではありません.買ってね、です.

 明日から6月8日まで留守にします.イスタンブールです.その間は日記の更新も当然ありません.また帰ってきましたら、よろしくお願いいたします.

2003.05.12

 コンビニでスーツケースを出して、講談社ミステリランド『魔女の死んだ家』は明日担当さんに初校ゲラを返すことにして、後はだらだらとマンガなど読んでいたのだが、夕方になってまた少しごしょごしょと仕事をしてしまう.ノンシリーズの未刊行短編がそれなりの数たまったので、これをまとめて短編集にしようという話が出てきて、作品の選定をしてみたのだが、企画者の注文で一本を入れ替えることに.しかし前の短編はみんなフロッピーもデータもなくて、これをスキャナで読んで取り込む.
 家に戻ったら講談社文庫から『原罪の庭』のデータ・フロッピーが来ていた.これは10月刊行予定.というわけで10月は上記ミステリランドと二冊だな.年の後半も仕事がみっしり.やはり旅行でもしないと仕事からは離れられないでしょう.いや、たぶんイスタンブールでもプロットくらい練っていると思うけど.
 さて、明日は本格ミステリ作家クラブの公開投票会.今回の大賞はだれかな.

2003.05.11

 今日のお間抜け.スーツケースを開けて荷物を詰めようとしたら、番号錠の番号を合わせてもなぜか開かない.番号を忘れてしまったらしいというので大騒ぎ.店にまで電話したが日曜のことで、どうにかしてもらえるかどうか明日にならないとわからない.やけになって三桁の数字を000から順に回し続け、500過ぎたあたりでふと、「もしかしたら逆か」と記憶していた番号をひっくりかえしてみたら、めでたく開いた.そのときになって思い出す.番号の設定は裏からするので、そのつもりはないのに逆番になっていたのだということを.ほっとしたけど我ながらあほである.
 今日の喜び.『angels』に対するお誉めのことばをいただけたこと.ひとりは某サイトのネタバレ掲示板に、今年高校生になったという女性から、「リアルだ」といってもらえた.なにせ篠田が高校生であったのは四半世紀以上昔のことだから、「こんな高校生いるかよ」といわれるのが一番心配だったのだ.もうひとりは知り合いだが、読み巧者として篠田も認める、ミステリの造詣も深い青年であったので、これまた嬉しいのでありました.感謝感謝.

2003.05.10

 部屋の片づけと荷造り開始.昼は講談社ノベルスの担当が来たので、近くの蕎麦屋で昼ビール.ぼけた頭でゲラ見を始める.明日中には最後まで行くでありましょう.

 友人がはまった『ピンポン』という少年スポーツマンガを試しに読んでみると、これが実におもしろい.絵柄はデザインっぽいところのあるクールな絵だが、ハートは熱いというか.そして動きの激しいスポーツをありありと想像させる画力にも感動.

 今日届いたおたよりに簡単にお返事.篠田は手紙の筆記具がボールペンで失礼だ、とは思いません.でも、鉛筆だとちょっと「どうかな?」という気はします.このへんの感じ方は人それぞれだと思うのですが、簡単に消せる鉛筆はやはり手紙向きではないでしょう.ワープロの手紙はまったくOKです.私も字が下手なので基本的にワープロです.ただしその場合、最後の自分の名前は手で書きます.署名として.
 それから一応の常識として、手紙は頭に相手の名前をフルネームで、様をつけて書き、簡単な挨拶、最後にお別れの言葉を書いて自分の名前、というのが定型だと思います.定型というのは常に遵守しなくてはいけないものではありませんが、心得て置いて損はないものです.定型を知っていて崩すのと、知らないで最初から無手勝流に書くのとではおのずから違ってくるはずなのです.
 それからファンレターの場合、簡単な自己紹介を最初にしてくれると、読むときにあなたのイメージを浮かべられやすくて助かります.17歳の高校生です、とか、小学生の子どもがいる専業主婦です、とか、それくらいでいいですから.

2003.05.09

 二日続けて東京へ.リブロを覗くと昨日三列平積みになっていた『angels』がずいぶん減っていてちょっとうれしい.
 トルコにいる友人から「水着を忘れずに」といわれた.水着なんてこの20年くらい着ていない、というわけで池袋のデパートへ.腹の出っ張りを押さえる水着にしようかとも思ったが、温泉に入るのに使うのがせいぜいだろうから、ショーツとタンクトップのツーピースになっているのにした.旅行したら少しは痩せられるかな.
 そのほか米ドルを買ったりして、夜は祥伝社編集氏と.今回の龍シリーズ『唯一の神の御名』は色味がグレー系で、地味だけど美しい.龍が白い花を片手に見得を切っている.書店には5/15か6あたりに出るらしいのでどうかよろしく.

 飲んで仕事場に帰るとミステリランドの担当U氏の留守電が入っていて、出かける前にゲラを戻してもらえないかという.ゲラは今日届いている.勝手に三週間も消えるのだから、嫌とはいえまい. 

2003.05.08

 四谷の旅行社にトルコ航空のチケットを取りに行く.四谷駅前にキリスト教関係書を集めた本屋があるので、そこでバチカンやカトリック関係の本を数冊買う.池袋でも本を買っているので、たちまち背中のリュックが重くなる.新橋に出て軽く昼を食べて映画の試写会に.ヴィスコンティの「熊座の淡き星影」.ミステリーだとあったが、いわゆるミステリではない.ただ、これを元ネタにもっとミステリにすることはできるなあと思う.
 神保町に出て東京創元社の担当と会う.書泉グランデではなぜか篠田の本だけ並んでいなかった.そんなに校了が遅かったのか.おまけに誤植をひとつ見つけてしまった.いと悲し.

 友人からの忠告により自己宣伝します.今回の講談社ノベルス『angels』は建築探偵シリーズの番外編ですが、独立性も高く、これ一冊読んでいただいてもさしつかえありません.篠田のミステリをなにか一冊読んでみようか、と思ってくださる方には、入門編としてもよろしいかと存じます.
 それから一部で誤解が流布していると耳にしたのですが、篠田の建築探偵桜井京介の事件簿シリーズは決して「キャラ萌えのためのキャラ小説」ではありません.キャラ萌えとしても読めることは否定しませんが、作者の意図するのはどこまでも、本格ミステリの範疇に入る「意外性に満ちた物語」です.読んでもらえばわかります.読まず嫌いはしないでくださいませ.

 明日は遅くなるので日記はお休みです.

2003.05.07

 東京ステーションギャラリーの安藤忠雄展と、ワタリウム美術館の伊東忠太展をはしご.篠田は決して建築家安藤忠雄のファンというわけではないのだが、結果的に縁があるらしくて、関西で好きな近代建築ベスト3から外れない大山崎山荘には彼の建てた美術館が付随しているし、東京で以前から気になっていた上野の旧帝国図書館は安藤の手で子ども図書館として生まれ変わった.「桜井京介館を行く」で後者を取り上げるとすると、これまた安藤がらみとはなるが、次の建築探偵本編で予定している同潤会アパートメントでも、原宿のそれを立て替えるのは安藤忠雄だ.

 帰宅すると新刊『angels』の見本が届いている.わりといい感じの本になった.都心では明日あたりから店頭に並ぶと思う.どうぞよろしく.

 いまごろになって通販の申し込みが二件届いた.お断りする理由はないので送るつもりだが、旅行準備などでぎりぎりまであわただしいので、投函できるのは来週になりそうだ.

2003.05.06

 二泊三日イベントを挟んで東京で遊んでいた.よほど体力が落ちていると見えて、今日なんか洗濯したほかは仕事場でごろごろしているばかり.気候は暑くも寒くもなくて、夏冬のコミケよりよほど楽なのだが、おまけにお客も少なくて売り子としても楽なのだが、疲労感が山ほど残っていて、これはもー駄目だ、イベント卒業だと痛感する.夏はお盆明けにジャーロの連載第一回の〆切が待っているしなあ.さすがにそろそろ潮時でありましょう.
 通販も後かたづけ.別封筒で手紙をいれてくれた方以外は、置いておく場所もないので封筒すべてゴミに回す.ハガキをくれてそれっきりだった三名様は、一応ハガキを保管しておく.考えてみればいままでで一番忙しい年に、こんなひとりイベントをかませた方も無謀だった.500通近い通販を処理しきったが、こんなことはとっても二度とはできません.
 とかいいながら、また短い番外編なんか書いている.コピーのペーパー増刊のようなかたちで、手紙をくれる少数の方にでもお送りしようかな、とか.いまのところイベントでくばったペーパーにしか広告していない.トルコから帰ったらサイトで告知します.4000字程度の掌編に80円というのは、e−novelsと同じような値段だけど高すぎますか.

2003.05.02

 半沢氏が木工の展示をやっている小川町と、委託で作品を置いてもらっている大宮の店に車で行って一日終わり.仕事は朝「龍」のプロットを少し打っただけ.結局ぴっしりと隙のないプロットを作るまでは行かないだろう.でもまあ、ここまで考えておけば本番の時間はいくらか短縮できるはず.しかして旅行中は主に9月からのジャーロの連載を考えられる.
 通販70番さんの申し込み到着.しかし明日から出かけなくてはならないので、投函は5/6になります.日記の更新も5/6までお休み.どうぞ皆様よい休暇を.もしも有明のイベントに来られる方がいらしたら、篠田は「大沢探偵事務所」のスペースにおります.

2003.05.01
 昨日から考え始めた「龍」シリーズ新作のプロットをパソコンに打ち込み始める.いつもならプロットを書いたりはしないのだが、今回は旅行がはさまるので、メモリがクリアされたときの用心に、やや細かいめの筋書きを書いておくことにした.
 毎度毎度すごい敵役を出しては殺していると、刺激のインフレになりかねないので、今回の敵は殺さずに温存しようかと思っている.せこいかな.しかし伝奇というのは話が広がろう広がろうとするもので、新しい敵と新しい脇役を出すともう一冊では終わりにくいような感じになってしまう.新しい脇役はヴァティカンから来た神父です.トンデモな神父にはなるだろうけど、じいさんではなく青年、暗くてひょうきんな青年にする予定です.あくまでも予定ね.

 読んだ本.『赤ちゃんがいっぱい』青井夏海 創元推理文庫 申し訳ないけど、このシリーズは短編の方がミステリ的な興趣は濃縮されていると思う.もちろん作者の仕掛けた謎には最後まで翻弄されたのだけれど、赤ん坊にも出産にも興味を持てない人間には、ふくらんだディテールがちょっとしんどかった.

 読もうとしている本.『伊東忠太を知っていますか』王国社 東京のワタリウム美術館で伊東忠太展を開催中.それの関連書籍.しかしベトナム取材をする余裕がないので、ベトナムと伊東忠太の建築探偵はもう少し後になります.来年書けたらいいな.