←2003

2003.03.31

 いよいよ三月も終わり.このところ急に春めいてきた.うちの近くの桜はまだようやくほころびた、というところだけれど、来週の週末は格好の花見時となるだろう.篠田は正直な話、春は少し苦手だ.花粉症というわけではないのだが、子供の時からどうも精神的に落ち込むことが多かった.今年はそれでもどうにかやっている.正直な話、落ち込んでるような暇はないんですがね.
 明日祥伝社の編集が仕事場に来るので、掃除と片づけ.やっと床が広くなった.ミステリランドの方にかからなくてはならないのだが、龍のゲラが来るので、明日はそれをちゃっちゃと片づけて、それからということにしよう.というわけで、本格ミステリ作家クラブの大賞投票の選評を書く.この賞は作家が互選するというだけでなく、必ず200字以上400字以内の選評を書かなくてはならない.つまり適当に「これにしよ」とはいかないのだ.しかもそれは光文社の「ジャーロ」誌上に掲載されるから、いわば見識が問われるんである.小説は最初から決めてあったのでするっと書くが、評論はまだ迷いっぱなしだ.せめて誠実であることを心がけよう.

 通販、本日は34番さんと49番さん.なぜか10番台がさっぱり届かない.重ね重ね、四月中にはお申し込み下さいね.四月末時点で申し込まれない方の分は、5/4に有明で売ってしまう、かも知れません.ハガキには一ヶ月以内に、と書きましたから.

2003.03.29

 繰り返しになりますが、トリ・ブラプレゼントと通販のハガキ受付は終了しました.現在申し込みいただいた方に、順次発送中です.お便りはいただければ嬉しいですが、決して強制ではありません.
 本日は29 45 57到着.明日投函します.今日のお便りの心に残った一節.「本を読んでいるとき、私は自由です」 57番さん、なんかぐっさり来ました.悪い意味ではなく、物書きとして責任の重大さ、みたいなものを感じましたです.でも篠田も子供の時、本に耽溺することで生きるしんどさをやりすごしていたような所はあるからな.本はいい.でも他にも楽しいことはあるからね.ときどきは逃避しながら、みんな、めげずにがんばって生きようね.

 今日はずっと短編集用に旧稿の手直し.

 『ヴェネツィア 私のシンデレラ物語』 チェスキーナ洋子著 草思社 1400円 という本が出た.ヴェネツィアに留学してイタリア人の金持ちと結婚して、夫の死後遺族と相続の問題でもめて、というこの女性は、実をいうと『仮面の島』のあの人のモデルです.ただしそのときはちょっとした雑誌記事だけしかなかったので、モデルというほど似ているわけではない、と思う.まだ読みかけなんで.

 明日は夜出かけるので日記はお休み.

2003.03.28

 これから当面毎日書いておこう.トリ・ブラプレゼントは締め切りました.それから通販の受付番号をもらっている方、急かして悪いですができるだけ早く申し込みしてください.片づかなくて結構困っています.篠田は5/14から6/8まで日本から消えます.だからその間に送られても、どうにもなりませんぜ.
 今日は43番さん到着.新郷村の近くではやはり盆踊りはナニャドヤラだそうだ.うーむ、ちょっと不気味.
 ここで番号書いてなくても届いてますので.明日あたり、届いて送った人一覧を告知板に出すことにします.

 今日も郵便局などの用事の後は、古い短編をスキャナで取り込んで直す、というのをやっていた.前に異形コレクションに載せて、そのままになっている「象牙のラ・マン」という南方幻想エロティカ、わりといいかと思っていたのが読み直してみると、あわてて書いたのがありあり、という感じでかなり嫌になる.ううう、未熟者め.

 秋月杏子作画による建築探偵マンガ版、角川書店刊、が台湾で出る、という話はずいぶん前に聞いていたのだが、いまごろになってその本が届く.書き文字までかなり細かく訳してある.袖の著者略歴も.『天使の血脈』が『天使的血脈』わはは.『ドラキュラ公』が『吸血鬼公爵』違う〜、とにかくいろいろおもしろいのであった.

2003.03.27

 今日もだらだらと雑用で一日を終える.自分の数年前に書いた短編を読み直す、というのは大変にデインジャラスだ.けっこういい線行っていると思っていたものが、「てんでへぼいじゃん」という気分に襲われることもまれではない.ううう.まあ、そう思えるということは、いくらか進歩していると思うことにしよう.雑誌やアンソロに載せただけの単発短編は、数え上げてみたら結構な数になっていた.それにしてもスキャナというやつは、文字化けが多いもんじゃのう.

 今日になってまたハガキが一通来てしまったので、仕方なく75番を発行することにする.でも、ほんとにもう最後だからね.自分の分がなくなっちゃうからね.
 トリ・ブラも熱烈なお便りをくれた人にどかんと送ってしまったら、その後になって三通もハガキが来てしまった.近場の本屋で手に入らなかったら、ごめんなさいだなあ.その場合は篠田の旧著でも送らせてもらいますので、我慢してくだされ.

2003.03.26

 やたらと暖かい一日.頭がぼけてだるい.アンソロジーなどに掲載されたままの短編をリストアップ、コピーを取る作業をする.講談社ミステリランドをやらないといかんのだが、三月中は少し雑用を片づけるのに宛てることにした.だらしなくて整理が悪いので、いざとなると掲載のアンソロジー本が見つからなかったり、データがなかったり.データはパソコンのクラッシュ以前のものはフロッピーに落としてなかったらパーだ.というわけでスキャナで取り込みを始めたが、例によって文字化けの嵐.
 すっかり忘れていたが「聖杯伝説」がNHKのラジオドラマになるんだった.今日契約書と、シナリオにするに当たって原作との改変点を列記したものがFAXされてきたのだが、やはりかなり変えられてしまうのである.遺跡の星の番人が、実は流刑にされた歌人だった、という物語なのに、彼の故郷の話はぶちきられてしまうらしい.深く考えるのは止めよう.

 通販のハガキはもう届かないようなので、明日残りを全部返信する予定.結局74番まで出ました.篠田は5/14に旅行に出るので、それまでに申し込みしてくれないと送れませんのでよろしく.

2003.03.25

 ホテルでのんびりして、雨の中四谷の旅行社にトルコ行きの予約を入れに.しかしすでに週四便のうち二便がキャンセルになっているもよう.五月がどうなっているかはいまのところわからない、というしかない.模様眺めですな.
 飯田橋で東京創元社の編集さんと会ってしばらくおしゃべり.新雑誌「ミステリーズ!」の創刊はいよいよ6/10と迫ってきた.良い雑誌になって欲しい.そして継続して欲しいと切に願う.

2003.03.24

 『angels』の中にコントラクト・ブリッジの登場する場面があるので、そこをチェックしてもらうために友人のブリッジ・マニアに会う.なにかあってもゲラで直せる程度だと思うことにして、講談社の担当に原稿を手渡し.対談までの時間、講談社ミステリランドのためのプロットを練る.いつもあまりプロットは作らないのだが、今回は比較的短めにまとめなくてはならないので.
 恩田さんとの対談.いつの間にか「酔いどれ対談」というタイトルがついている.仕事というにはあまりにも楽しい時間を過ごさせていただいた.しかしあれをまとめるのは大変かも.

2003.03.23

 キリ番の申告がなかったので、流れてしまったかと思っていたが、無事本日メールがあった模様.ありがとうございます、これからもよろしく.

 『angels』の原稿をこれが最後しつこく直し、さらにあとがきを書く.書いていて思い出したのだが、知り合いの某掲示板で「あとがきはなんのためにあるのか.自分は作品の内幕なんか知りたくないから、あんなもの書かないで欲しい」という主旨の書き込みがあり、いささか呆れたものだった.自分には関係ないから、あるいは自分が好きでないから「無くしてくれ」というのはガキの言い分である.それを求めている読者は確実にいるし、執筆に当たって世話になった人に礼を言いたい、というのは人間としての礼儀である.自分に関係ないと思えば、飛ばしてしまえば良い.
 ところがこの人は、「書いてあれば気になって読んでしまうから、無くして欲しいのだ」というのである.もはや呆れ果ててなにもいえない.自分の行動に責任を持つのは一人前の人間として当たり前のことだ.読んで嫌だったら読まなければ良いので、私も某サイトなど二度と見ません.しかし自分にとって都合の悪いものだから、消えて無くなれというのはどっかの国の大統領みたいなせりふだ.独裁者がこれをいえば恐怖を呼ぶが、ただの庶民がいえば失笑を買う.
 しかし近頃、この手の要求をはきはきと言い出すのが良いことだと思っている人は少なくないらしく、「自分は建築探偵を文庫で買っているので、もっと早く文庫化して欲しい」という手紙をもらった.ノベルスで買っている人がどう思うか、というようなことは、この読者にとっては想像もできないことらしい.こういうことを書くから「怖い人だ」といわれるのかも知れないが、私にはこういうことを赤の他人に向かって平気で言える人の方がはるかに怖い.

 明日は恩田陸さんと対談するので、日記はお休み.対談は来月発売の小説ノンに掲載されます.お楽しみに.

2003.03.22

 トルコの友人から、現地では観光客が減っているから、むしろ歓迎してもらえるでしょう、とのメール有り.よし、行くぞ.絶対行く.

 今日は江戸川アパートメントの見学会.取り壊しを目前に、これまで見られなかった共用の浴場や室内のインテリアなどを見学.あわただしかったが面白かった.建ってから70年.インフラはすでに傷んで限界だが、設計の思想はむしろ新しく、手入れされてきたインテリアは壁紙さえ当初のものが残っているほど.これがすべて無くなってしまうのだなあと思えば、ただの感傷とは承知で胸が痛む.
 この春で残る同潤会アパートメントは上野下と三ノ輪二カ所のみとなる.次回建築探偵は同潤会をやろうと思ったものの、作品内時間はまだ2001年(だったよな、確か).困ったなと思ったが、むしろ2年のタイムラグが虚構性を保障してくれるかもしれないと思い直す.
 小説、しかもミステリなんだから、虚構が書いてあるのは当たり前だと自分で思っていたが、実際あったものやいた人を書くと、「これが事実」と思ってしまう人は意外に多い、ということが最近、遅いけど、わかってきつつある.だからまあ同潤会もなにか別の名称にして、ということを考えます.

 篠田の10周年記念本配布もいよいよ最終段階に入っている.ずいぶん手間もかかったが、これまで手紙を書くのは初めてという方からもたくさん心のこもったお便りをいただけたし、やって良かった、というのが偽らざる心境だ.全部終わったら県別人数とか出して遊ぼうかな.あ、それから感想のお便りを下さった方には次の新しいペーパーをお送りします.といっても、トルコ旅行の後かな.気長に待ってて下さい.

 今日は以前日記で書いた『トリニティ・ブラッド』の新刊と、『遠征王』シリーズの新刊(でも最終巻! 悲しいぞ)を入手.らんらん、はいいんだが、いつまで経っても本格ミステリ作家クラブ大賞の評論賞候補作が読み終えられない.ううう、笠井先生、すみませんがよく眠れます(爆)

2003.03.21

 通販の、60冊からあふれた分については告知板に決めたことを書きましたのでご覧下さい.適正部数というのはつくづく難しいものです.次があったら多めに刷ることにしましょう.
 今日は通販の処理をした他は沈没.いささか疲労気味.とうとうアメリカがイラクに参戦してしまった.どう考えても今回の戦争は、アメリカのごり押し以外のなにものでもない気がするなあ.トルコ、行けるんだろうか.

2003.03.20

 『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』を見る.最初の一作はキャスティングの妙で全部赦そうという気持ちだったが、今回はちょっとなあ.要するにこの監督は戦闘シーンが好きなのだ.どんぱちを大規模かつリアルにやりたい.それはやっている.しかし『指輪』ってのはそういう話じゃねーでしょうが.
 ファラミアが全然良くないと我がうるさがたの友がいっていたのだが、その通りだった.シナリオが変.ファラミアっていうのは原作では出番は少ないが、世界に対峙する人間のひとりとして非常に重いんだけどなあ.まだ見ていない人がいると思うので、詳しくは書かないが、原作のファンなら「なんじゃあれは」と思うだろうし、原作を読んでなかったら、話があっちいったりこっちいったりで、訳がわかんないだろう.
 ホビットを子供に描きすぎるというのは、まあしょうがないか(そうじゃないと侏儒になっちゃうからね)と思うんだが、フロドがやたらと白目を剥く演技はどーよ、とも.

 ハガキの受付は一昨日で締め切ったが、在庫切れ間近.あるだけ出して後は謝るだけだ.それから『トリニティ・ブラッド』プレゼントはいまのところおひとりだけなので、熱いお便りを下さった大津市のNさんに差し上げます.来週お送りしますので、待っててね.

2003.03.19

 麹町のギャラリーで増田彰久さんの建築写真展を観る.すでに消滅した建築が多数.モノクロの美しさにしばし陶然.
 美輪明宏主演『黒蜥蜴』 今回は脇役では令嬢早苗役の若い女性と、女中ひな役の年輩の女性、ふたりの女優が秀逸.雨宮順一役と明智小五郎役、ふたりの男優がぺけぺけ.三島のせりふは難しいのはもちろんだが、オーバーアクションで芝居がくどい.もっと素直にクリアにせりふを響かせることだけ考えなさいよ.最後に黒蜥蜴が自殺して、「ええ、本当の宝石はもう死んでしまったからです」という最後の決めぜりふを、高島某は絶叫しやがったんである.あほ.

2003.03.18

 朝から喫茶店に行って原稿の読み直し.戻って直しをして276頁で終了とする.考えてみると書き出したのは一月からで、しかもその間に短編を一本書いているので、篠田としては非常に早い脱稿だった.

 今度の月曜に恩田陸さんと対談するので、彼女の作品を再読している.かなりの数があるから、そうは読めないだろうと思っていたところが、止まらないのでびっくり.この人は上手いなあ.読ませるなあ.

 通販の受付は一応今日で打ち切りとした.出来るだけ、ハガキをもらってお断りするという数を少なくしたいと思うので.もっとも、ハガキをくれたまま音信不通の人がたくさん出ると一番困るのだが.

 明日は美輪明宏様の『黒蜥蜴』を見る.明後日は『ロード・オブ・ザ・リング』を見る.というわけで日記の更新は20日になります.一息ついたら次は『魔女の死んだ家』という長編を書きます.これはノン・シリーズの講談社のお仕事.

2003.03.17

 朝から雨.274頁にて『angels』一応脱稿.まだあとがきを書いて、頭に付ける図を作って、もちろん読み直して手入れして入稿といろいろあるのだが、ともかく最後まで来たというわけで、半日虚脱する.半日くらい虚脱させてくれ.今回どちらかというと目立ったのはミネオで、騒いでたのはカゲリで、蒼は淡々としていた.でもラストの美味しいところは、ちゃんと決めてくれました.やはり私はこの子が好きですが、ただ、嫌う人はいるね、絶対に.

 通販申し込み、11番、24番到着.
 11番さんへ、マンガでさえ「イメージが違う」という人はたくさんいたので、生身の人間が京介をやるというのは、やはり難しいだろうな、と思います.まったく別のものだ、と思えばいいのでしょうが、かえって作者はそういう見方をするのが困難なのかも知れません.お誕生日おめでとう.
 24番さんへ.「先生」ということばは、私もいわれる立場のときはちょっと照れくさいような、落ち着かない気分がします.ただ先輩の尊敬する作家さんに「先生は止めて」といわれると、今度はこっちが落ち着かない気がしたり.難しい物であります.篠田へは、どうぞご自分がお気に召す方をお使い下さい.

2003.03.16

 今日は仕事をお休みして、作家の光原百合さんと劇団桃唄309り公演を見に、下北沢のスズナリへ.まだきちんと決めたわけではないのだが、「センティメンタル・ブルー」に登場した空想演劇工房というセミプロ劇団をいずれ再登場させたい気持ちがあって、その取材の意味合いも兼ねていた.
 これがなかなか驚きいった芝居、原作があってそれを芝居にするというのとはまったく違う、演劇でしかできない表現の世界で、旧石器時代から縄文初期にいたる人類の進化をたどるという、破天荒にして大胆不敵なシロモノ.しかし、おもしろっかたっすよ.なんというか、肉体の動きと声とその動作から生まれる音によって世界を表現するという、演劇の原初的な創造であったと.ろくなことがいえなくてすまん.
 篠田の演劇体験は劇団四季のシェイクスピアと唐十郎状況劇場に尽きていて、いまどきの演劇にはろくに触れていなかったのである.いい刺激をありがとう.

2003.03.15

 体調はだいぶ回復し、「ああ、やっぱり具合悪かったんだわー」といまさらのように実感.だって身体が軽く感じるもん.というわけで本日は270頁.まだ終わらないが、あと数頁で終わるのは確実.そうしたら伏線を足したり(足りないのだ)削ったり(使わなかった)しないと.でも三月一杯に終わるのは確実だ.わ〜い.

 今日申し込み番号18番さんが到着.でも明日は出かけるので投函は月曜になります.それで18番さんのお便りにありましたが、篠田も「爺さんと僕の事件帳」大好きです.やはり孫よりも爺さんが好き.いいですよねえ、あの爺さん.無口でシビアで色っぽい.ええ、京介も無事あんな爺さんになって欲しいものです.
 知らない方のために書いておくと、「爺さんと僕の事件帳」は角川書店アスカコミックDXにてコミック発売中.マンガだからって馬鹿にしちゃあいけません.すごくミステリしてます.ちなみに作者のしかくのさんは、龍シリーズのメイド妖怪ライラが好きだそうです.おかげさまでついつい、ライルよりライラの出番が多くなってます.確かにあの子は、ライラのときの方が性格がはじけておりますな.

2003.03.14

 どうも体調が芳しくない.鼻づまりは快復の兆しだが微熱がある.そうするとどうなるかというと、小説を書いていても作品世界に没入できないんである.しかししかし俺はイスタンブールに行くのだあっというわけで、今日は256頁まで.順調にいけば明日にはラストに到達する.でも、今回は手直しが必要な気がするな.伏線が足らないよ.

 唐突であるが角川スニーカーでトリニティ・ブラッドというシリーズ物を書いている吉田直さんという作家さんとお知り合いになった.作品は未来社会の吸血鬼物で、ちらっとプロットを聞くと「それは菊地秀行先生の吸血鬼ハンターでしょう」といわれてしまうかもしらんが、これがとっても面白いんだっ.主人公は気弱で食いしん坊で泣き言の多い貧乏神父、だが実は、なのだけど、他にも多士済々の登場人物と雄大な構想で、最近コミケでもサークルが増えた増えた.お知り合いになった人柄もすてきな男性だったけどね.ふふふふふ.
 で、篠田は無論既刊本をすべて持っているのだが、今回吉田さんがそれも送って下さったのだよ.だぶった本を篠田の元に眠らせておくのはもったいない.いまだにトリ・ブラを読んだことがないが、篠田がそんなに面白いというなら読んでやろうという人がいたら、手を挙げてください.通販と同じ講談社の住所に、往復ハガキで欲しいと書いて送るべし.早い者勝ちではなく一週間程度のうちに、独断と偏見で当選者を決めてプレゼントします.通販申し込みハガキとは別にしてね.

2003.03.13

 通販の本申し込みが到着し始めた.受け取ったものは番号を告知板に書いておくので、心配な人はそちらを確認して下さい.いまのところ郵便事故は一度も起きていないので、大丈夫だと思うけど.

 鼻水は少なくなったが鼻づまりがひどく、頭がぼけてたまらない.しかしそんなことはいってられないので、今日はようやく243頁まで.書き上げたら少し置いて読み返さないと、意図したことがうまくいっているかどうか、わからないんだよねえ.
 唐突だが五月の後半にトルコに行くことにした.知り合いがイスタンブールに暮らしているので、メールを打ったら返事がもらえたのである.疲労回復のための旅だから、あまりうろうろはしない.基本的にイスタンブールでうだうだするつもりだ.でも、少しだけ取材の意味合いもあるので、それでいいのだ(なにが?)
 後半というのは5/13に本格ミステリ作家クラブの大賞公開開票会があるからで、しかたない、それが終わってから行く.その次は大賞のパーティまでに戻る、と.それなら一月くらいはいってられるな、うひひ.風邪なんか引いてはいられない.

2003.03.12

 今日も通販申し込みハガキ到着.この調子だとまた「ごめんなさい」をいわなくてはならなくなりそうだ.いったい篠田の同人本適当部数は何冊なのだろう.作家さんには求められればプレゼントしているし、担当編集者などにも配ったので、読者頒布は50以上マイナスなのだが.もしも次があったら、思い切って1000くらい刷って、ぼちぼち売るようにした方がいいんだろうか.その方が売値も下げられるが、問題は在庫の置き場だよなあ.

 今日は234頁まで.いよいよ終わりが近づいてきた.結局250くらいで終わるのかなあ.我ながらページ数が読めない.しかし、五月は旅行に行く.絶対行く.旅先ではもちろん仕事なんかしない.ほんとは数ヶ月たらたらしたいけど、まあそれは無理だとして、最低二週間は日本から消えるぞお.

2003.03.11

 今日は220頁まで.いよいよクライマックスから畳みに入らなくてはならない.しかしいつも気になって、しかしどうしようもないのは、読者はどこまでわかっているんだろう、ということだ.いや、もちろんわかる人もわからない人もいるわけだろうけど、つまりミステリの謎解きということですけどね.お手紙を読むと「びっくりします」といって下さる方も少なくないので、「いつも見え見え」ってことはないと思うんだけど.今回は最後に行く前にかなり大胆に手の内を見せてしまっている.でもまあ、最終的には意外な着地になるはずなんですが.

 篠田は仕事中あまりバックミュージックはかけない.かけても途中から聞こえなくなるんで.しかし仕事場の隣でギターの音とかすることがあって、そういうときは対抗手段としてCDをかける.クラシックである.今日はヴェルティのオペラ・アリア集をかけていた.実は神代教授の持ち歌はオペラ「リゴレット」の中の女心の歌だ、という設定がありまして、まだどこにも使ってないんだけど、今日かけたCDにそれが入っているのだが、これを神代さんが歌うと思うと笑えるんだな.女たらしの公爵の役どころで、実にそれっぽい歌いっぷりなもんで、いったい京介や深春や蒼がどんな顔してそれを聞くかと思うと、思わずぷぷぷ.「風の中の羽のようにいつも変わる女心」というやつです.

 西澤保彦さんの新刊『リドル・ロマンス』に解説を書いています.篠田は解説は苦手なので、パロディ短編を書きました.でも、本編を読まないとつまらないから、ちゃんと買って読んでちょーだい.集英社のハードカバーです.

2003.03.10

 マッサージに行く.今日やってくれた人はあんまり上手でなくて、効きがいまいち.
 午後あたりから喉がしくしくする.まさか風邪だろうか.困る.いま病気なんかするわけにはいかないんだっ.
 小説207頁まで.250では終わらないかもしれないが、300まで行くことは絶対ないはず.しかし今週は『アベラシオン』と『館を行く』のゲラも見なくてはならないし、日曜日は光原百合さんとお芝居だし、来週は美輪様の「黒蜥蜴」、再来週は恩田陸さんと対談、という具合でいろいろ忙しいのだ.本格ミステリ作家クラブ大賞候補作の、笠井潔先生の評論も読まないとならないのだ.しかもこれが手強くてねえ.
 というわけで、今日の日記は短めに終わり.

2003.03.09

 相変わらず仕事しかしていない.携帯電話を買おうかな、と思ったが、考えてみるとどれだけ利用するか、はなはだ心許ない.だって一ヶ月に仕事場から離れることといったらせいぜい数回、多くても10回はないわけで、そうなると固定電話で充分なわけだ.というわけで結局まだ買っていない.
 本日で196頁.しかし目に疲れがたまってきたので、明日あたりマッサージに行こうかと思っている.

 読んでいるものは相変わらず封殺鬼シリーズの読み返し.その中で岩手県の早池峰山が霊山であるという話が出てきた.篠田は宮澤賢治にはまりまくっていた時期があり、賢治ゆかりの場所はかなりの程度フォローした.というわけで早池峰山にも登ったことがある.しかし意外に簡単に登れたので「あ、時間が余ってしまう」と隣り合う山への縦走コースに入った.これが無謀だった.剣の峯みたいなところを延々と歩くだけでかなりの時間がかかり、ようやく下りに入った頃には木の下に闇が忍び寄ってきて、脚がくたくたなところに急な下り坂はめちゃめちゃ堪える.飲み水も切れてしまった.
 で、途中に「水場」という立て札があったんだな.それも林の中に入ってしまう細い道だ.当然暗い.でもそれを見たら水がすごく飲みたくなって、そっちへ行こうかな、とかなり強烈な誘惑を感じた.ところが腕時計を見てみると、すでに五時を回っている.ここで寄り道をしては降りるまでに真っ暗になってしまうかも、と思って水は断念して下り続けた.脚ががくがくで、場所によっては尻でずるようにして降りたのである.
 まあ、無事下について近くの民宿に泊まることが出来たのだが、後でわかったことに、腕時計が一時間以上も進んでいた.その日の朝に夜行で到着して、バスに乗って来たのだから、その前から時計が進んでいたわけはない.安物だけどそれまで狂ったこともない時計です.もしもあのとき四時前だと思ったら、水場に向かって歩いた可能性は高い.その結果体力を消耗して、降りられなくなったということもあり得たかなあ、と後で思った.篠田はオカルトのたぐいはまったく信じない否定論者だが、これは唯一の「不思議な出来事」であります.早池峰山が霊山だという話を読んで、久しぶりにそんなことを思い出した.

2003.03.08

 原稿を前に戻って大量に手直しした.従って今日はページ数的には進行なし.ううう、不安じゃ.

 テレビドラマ化の話を書いたら、やはり否定論が圧倒的に強いようだ.ついでだからもう少し、企画案に書いてあったことを転載しよう.みんなで笑おうね.40歳京介は渋谷の小さな建築事務所の一級建築士、深春は36歳で建築事務所の社長、京介の大学時代の友人.4歳の歳の差は何の意味があるのか、まったくわからない.4年も離れていたら、片方が浪人でもしていない限り知り合うのは難しいのでは.あ、そうすると浪人していたのは京介か.そして蒼は16歳で京介のアシスタント.建築事務所にアシスタントなんておるんかいの.この企画を作った人には、40歳/16歳が萌えポイントだったのだろうか.

 昨日人と会ったら、篠田の日記ウォッチャーで「篠田さんて怖い」といっている人間が複数いるといわれて、正直な話めげた.それはここではかなり、書きたいことを書きたいように書いているという自覚はあるけどね、誰かを傷つけるような言説は行った覚えはない.不特定多数某掲示板サイトに集う人々に暴言を吐いた記憶はあるが、喧嘩を売ったのは向こうが最初だし、篠田はパーティで高村薫に間違えられても、笑って「違いますよ」といえる程度には穏やかな人間です.もしもなにか「傷ついた」という感じをもたれたならば、手紙を下さい.自分が間違っていたら反省します.

2003.03.06

 通販の新方式はどうかな、と思ったが今日7通はがきをいただいた.ありがたいことである.友人の作家さんで「書店に委託すると楽ですよ」といってくれる人がいるのだが、うむ、と思う反面、それでは読者とのセッションという側面がなくなってしまってつまらないよな、と思ってしまうのだ.手紙を頂いて読むのが好きなので、郵便振替すら手紙がもらえないよ、などと思ってしまう.今回「初めてお便りしました」という方がとても多く、ふだんは書かない人から手紙をせしめてしまったぜ、ふっふっふ、とほくそ笑んでいる.だって、手紙欲しいんだもん.感想のお便りくれた方たち、返事書かなくてすまんです.でも全部読んでます.仕事が一段落したらきっと返事書きます.

 『angels』182頁まで.今日は前の所を直したりしていたので、パソコン前で画面をにらむ時間が長かったわりに、頁が進まなかった.しかしいよいよ起承転結の転に入りつつある.うん、この調子なら250頁くらいで、わりとコンパクトにまとまりそうな気がするな.

 明日はSF大賞のパーティなので、日記の更新はお休み.でもその前に特大のニュースを書いておこう.
 なんとテレビ制作会社から建築探偵二時間ドラマ化のお話が来たのだが、それがなぜかなぜかっ.桜井京介40歳だというんだよ.なんなんだ、それはっ.それにねー、前髪だらりを生身の人間でやったら、ブラックジャックをメイクで再現したのと同じくらい、変でばかばかしいと思うよ.せめて、せめて大学院生にして.
 それに篠田はミステリの二時間ドラマ化には、そりゃもー山のように不信感を持っておりますからね.忘れられませんよ、綾辻さんの『霧越邸殺人事件』のドラマ.というわけで、この話は断ろうと思っております.もしも、もしも楽しみだ、見たいという人がいたら、お手紙下さいね.

2003.03.05

 今日もおおむね順調.170頁.今回は殺人事件はひとつしか起こらない.建築探偵シリーズでは基本的に殺人事件は控えめで、首なし死体やバラバラ殺人は出てこないんである.歴史伝奇の方だと血みどろぬらぬらはけっこうやっていて、嫌いではないのだが、やはり建築探偵の世界にはそぐわないだろうから.あ、でも最後の方ではやるよ.

 「封殺鬼」シリーズの読み直し、してます.小学館 キャンパス文庫.これの10.11巻『花闇を抱きしもの』上下はシリーズ随一の名作だと思う.関東大震災から大正時代の終わりに向かう東京、張り巡らされた伏線が終幕にいたってきれいに収束していく見事さ、前に老女として登場した神島桐子が、10歳の屈折した少女として登場する興味、そして大正時代もあんまり変わらない不死の鬼たちふたり.これは買いでっせ.

2003.03.04

 『angels』はおおむね順調に進行している.本日で155頁.ミステリというのは起承転結がつけやすいものだが、いま書いているのは長い起の後の承の部分.これがじわじわと緊張を増しながら高まって、どどんと転があった後、二段構えの結、とまあ構想だけは決まっているのだ.

 今日も読んだ本の話をしよう.橋本治『ひとはなぜ「美しい」がわかるのか』ちくま新書.篠田は橋本治の評論がけっこう好きで、それなりの数読んでいる.これは最新の一冊だが、内容はある意味タイトル通りで、まわりくどくはあるがわかりにくくはないから、「くっきりした正論」を読みたい人にはお勧めである.
 篠田が取り上げたいのは子供時代の祖母との思い出の話で、「介入せずに保護して、その相手の中になにかが育つのを待つというのが愛情」というくだり.ぼんやり考えていたことが、このことばですっきりわかりました.抱きしめたり、なで回したりするのが愛じゃない.保護しつつ待つことが出来る、端からは素っ気ないとしか見えないようなありようこそが、もっとも正しい愛し方なんだというの.京介が蒼に対して、そうありたいと思っているのはつまりこれですね.彼は愛することに臆病で不器用な人間だけど、根本は間違ってなかった.

2003.03.03

 長編の仕事が始まってしまうと、つくづく書くことがない.話の内容を書くわけにはいかないし、ひたすらキーボード叩いてます、としかいいようがないんである.本日は144頁まで.今回のは300行かずに終わらせたいが、登場人物が多いので、全員に話させるだけでそれなりの時間がかかるのはいたしかたない.なんで14人も高校生を出したのだ、といわれそうだが、いやなんとなく.

 仕事中は新しい小説は読めない.本格ミステリ大賞の候補作に上がったうち、小説は全部読んだので、評論を読まないとならないのだが、これならまあ仕事中でも読めるだろう.と思いつついまは再読.さすがにグイン・サーガに頭から挑んでいたら、仕事が終わる方が早いだろうから、霜島ケイさんの封殺鬼シリーズにした.好きなんですよ、これ.陰陽道や日本のオカルトにはあまり興味がない(というわりに夢枕獏の「陰陽師」なんかも好きなんだが)けど、このシリーズのキャラに惚れているので.
 今日読み返した第八巻に、ぐっと来るせりふがあった.「いつまでもこのままやったらええな、思てしもて」これをいったのは千年生きている鬼で、普通の人間と楽しい時間を持てても、彼らはすぐ老いて死んでしまう、「いつまでもこのまま」ではあり得ない、という嘆きのことばなのだ.
 だけど、人間同士だって「いつまでもこのまま」ではあり得ないんだよな.みんな時の流れに流されて、変わっていかなくてはならないんだから.そんなこと百も承知だから、小説の中でだけは「いつまでもこのまま」でいてくれ、という願いは願いとして理解するけど、それじゃやっぱりサザエさんだ.でも通販に添えられているお手紙では、「時の流れるせいでよけい身近に感じられる」「最後まで見届けさせてもらいます」というような声も聞かれて、ありがたいことだと思ってます.はい、精進させてもらいます.

2003.03.02

 通販の申し込み分は全部投函した.ハガキで申し込みをしてもらう新システムで、どれくらいの応募があるのか、もういい加減終わってしまうのか、そのへんはさっぱり見当が付かない.ただ次回ダ・ヴィンチのe-novelsの宣伝ページに短い文章を書いて、そこにもサイトのアドレスと「秘密の本棚」のことを書いたから、そこから申し込みをしてくれる人もいないとはいえないだろうな.本のある分だけは来てくれ、というのは虫の良すぎる考えなんだろうけど、少なくともこれ以上増刷したら赤字にしかならないから、ほんとにこれで終わりでっせ.

 『angels』書いたところまでの直しを終えて、ただいま136頁.これは『アベラシオン』の時とは違って、ノベルスのページ立てである.一ページは23字かける18行かける二段で、ほぼ400字二枚分にあたる.さて、明日からプロットを組み直して本格的に再開.はたしてこれが月末までに書き終えられるのか.しかも途中には先月あげたもののゲラも来ることになるので、予断は許さない.がんばんべー.

2003.03.01

 三刷り分の『秘密の本棚』が出来てきたのだが、あわてて料金表も確認しないまま印刷に出してしまったので、請求書を見てびっくり.200冊と100冊では印刷原価が1.5倍くらいになってしまった.これでは八割売れないと印刷代が払えない勘定.というわけで、イベント売りを待っている気にもなれなくなったので、再度通販をします.システムを変更したので、告知板を見てやってください.

 感想のお便りをいただいているのだが、返事を書く余裕がなくてまったく申し訳ない気がしている.感想を下さった方には、夏前には必ず新しいペーパーをお送りするつもりです.

 『angels』を再開.まだ前に書いた部分を手入れしている状況.今回は篠田が惚れた現代彫刻家の作品写真を表紙に使わせてもらえないか、ただいま交渉中.これまでの蒼のイメージとは少しずれた感じもあるかもしれないが、一見忘れられぬ印象的な作品なのです.