←2003

2003.02.26

 一仕事終えると仕事場を掃除するのだが、今回は中断している『angels』に戻ることになるから、掃除も不徹底.積ん読本がじわじわと増加している.ついつい読みやすい小説のたぐいから読んでしまうので、資料になりそう、作品のヒントになるかも、というようなつもりで買った建築本や歴史本がいつまでも残ってしまう.しかしこの量をすっかり片づけるには、一ヶ月くらい仕事をしないつもりでないと無理だろう.できれば半年くらいはお休みしたい.そうすればきっと、いまよりもっと「あれも書きたい」「これも書きたい」が浮かんでくると思うのだが.

 午後から『angels』の書いた部分を再読して、手を入れる作業を始める.五月に刊行するためには三月中に書き上げないとならないのだが、三月は三月でまたゲラのたぐいが次々とやって来ることになっている.ああ、ベトナムに行きたい.いつ行けるんだろう.

 明日明後日は留守にするので、次回の日記更新は土曜日3/1になります.

2003.02.25

 昨日は本格ミステリ作家クラブ大賞の候補にノミネートされた、西澤保彦氏の『聨愁殺』を再読する.篠田はアンケートでもこれを上げたのだが、今回は笠井、有栖川、法月と強敵揃いなので、票が割れるだろうな.

 「館を行く」の原稿を仕上げて送稿.
 疲労気味ゆえ午後は休憩.以前活字倶楽部の書評で興味を持って買ってあったコバルト文庫『つばさ』を読む.素材はいいのにまだ小説が下手で、素材を生かし切れていない印象がある.しかしこれを学園ミステリーといったらやはり的はずれで、学園ファンタジーではないか.謎があって伏線があって解決があっても、推理がなくてはミステリとはいえない.謎と伏線と解決はミステリ以外にも広範に見られる小説のテクニックであります.

 サイトの広告をふたつ.
http://honkaku.com/index.html

 本格ミステリ作家クラブのサイトが出来ました.過去二回の受賞作のデータ、今年の候補作などが見られます.会員名簿には本人による簡単な略歴と、サイトを持っている人はリンクが張られています.まだ全員はそろっていませんが、本格ミステリ作家のサイトをあちこち覗いてみたい人には、便利だと思います.

http://www.so-net.ne.jp/e-novels/
 笠井潔さん、山田正紀さん、浅暮三文さんなど錚々たるメンツの参加する、作家による小説産直サイト、e-novelsです.いまここで連作企画小説「黄昏ホテル」が開始されました.篠田は第三回の担当で、テキストは3/11から発売されます.連載終了後は本になりますが、それは再来年のことになりますので、ぜひ見物に来てみてください.

2003.02.24

 今日も通販三件到着.残りの募集についてはこれをすべて発送してから決めます.

 今日はメフィストの連載エッセイ「館を行く」の第二回原稿を書く.イラストを描いてもらうのに、ろくな写真がなくて困惑.照明のない空き家ビルでしかも曇天だったから、みんな薄暗い.文章の方はどうにか初稿を書き上げた.

 今日非常に驚いたことがあった.通販の封筒を開けていたらそこに入っていた手紙で、篠田がサイトに桜井京介と栗山深春が恋愛関係にあると書いていた、とその人は思いこんでいるのだ.悪意は全くなく、むしろ喜んでいるようなのだが、自分ではそんなことを書いた覚えはない.逆のことを明言した記憶はある.というわけであわてて読み返したが、やはりそんなことは書いてない.強いていうなら告知板の京介のプロフィールに、「栗山深春を寒いときのこたつのように必要としている」とは書いたけれど、これをまさか肉体的な意味に取った人は、他にはいないでしょう? 
 こういう誤解をこうむると、全身脱力するというか、創作意欲が音立てて退いていくというか.やはり作者は小説だけ書いていて、日記とか他のものを人目にさらしてはいけないのか、などと思ってしまう.これを放置して自分の意図するところと正反対の風評が広がったりしてはたまらないので、野暮は承知で繰り返しいいます.
 建築探偵の原作世界で、京介と深春に限らず、レギュラーの誰の間にも肉体関係はありません.彼らの結びつきは家族的なものであり、篠田は近親相姦的なものは大嫌いであります.ただし読者が読者自身の責任において、夢を見ることを妨げるものではありません.どうか両者を混同しないでください.さもないと書けなくなります.篠田に建築探偵を中断させたいんですか?

2003.02.23

 昨日も今日も仕事はしていないので、本来なら仕事日誌は休載というところだが、それもあいそがないのでよしなしごとを書き付ける.
 これを読んでくれているのは基本的に篠田の読者だと思うのだが、さて、そういう人たちの目に小説家という職業はどう映るものか、実のところ自分ではよくわからない.身近に感じられるというのが、果たして作品にとって、あるいは読者にとってプラスかマイナスか、というのもいささか気にはなる.本来なら作品こそすべてで、作者の素顔なんて出すのも野暮、と思うのだが、そう言いきるのもなんだかきざったらしくて嫌みだよなあ、とも思うのだ.
 ただ、小説家になりたいという人の手紙と接する機会があって、改めて思うのだが、職業として志望するにはあまりいい稼業とはいえない、ということだけは明言していいだろう.少なくとも、お金が儲かるのはほんの一部の人だし、作品を作るのにかけた手間と収入がまったく正比例しない、という意味では不条理な稼業でもある.明日の生活についてはなんの保障もない.売れなくなれば終わりだし、書けなくなれば終わりである.それでもなりたいというなら、それはもう食えなくても小説を書きたい、生活の糧を他で稼いでも365日書かずにはおれぬ、という特異な業を背負ってしまった人間だけで、つまりはまともな人間ではない.余人は知らず、私は自分がまともな人間だとは思っていないんである.
 そんなに病膏肓に入ってもいないけど、でも書きたいという人には、自費出版という手もある、その本をコミケで売ったっていい.むしろそっちの方が、純然と小説を書く喜びは味わえるのではないかと思う.どんなに好きなことでも、それで口を糊しようと思えば、好きなだけでは済まないのが仕事だ.趣味なら「読んでわかってくれる人だけ読んでください」といえるが、物書きは客を拒めない.女郎のように、とは美輪明宏氏の至言である.「なりたい」と言うのは簡単だけどね.

2003.02.22

 午前中通販を処理.取り置きしておくつもりだった分も全部放出して、現時点で22冊不足が出た.最終的に何冊三版が出ることになるか.残ったからといってまた通販を解禁すると、また不足して、ということにもなりかねないので、申し訳ないけどその分はイベントで委託して裁く、ことになると思う.いろいろ文句もあるだろうとは予測するものの、これ以上通販を継続することは仕事の都合からいっても難しい.同様にネット環境にない人にまで販売できなかったのも、いまよりたくさん申し込まれたら処理しきれないからである.なにとぞご了承下さい.

2003.02.21

 「龍」の五月のノベルス用原稿を作り終える.巻末に短い短編を書き下ろした.

 通販さらに到着.これでは100部の増刷もやむを得まい.

 最近痛感したこと.通販の手間は大変だが、自費出版で本を出すのは、仕事と比べては楽しい遊びで、一種のリゾートのようなものだということ.仕事も遊びも本作りではあまりに情けない? いえいえ、芸術の女神は嫉妬深いものですから.

2003.02.20

 26回目の結婚記念日.でもなんのかわりもなく仕事.通販もしたがそれについては告知板を見てください.経過などそこに随時書きます.

 「龍」のラストに10頁程度の短編を書き下ろした.ただ本当はこれ龍とライルの出会い編として、もっと長くなる話を、透子がらみでちらっと書いたので、作者としてはいささか未消化の感あり.フランス大革命というのは篠田が高校生の時にミーハーしていた時代で、いえあなた、ベルばら以前ですよ.歳がばれる.隠してないけど.
 まあなんでミーハーしたかというとひとつにはサン・ジュスト.解る人は遠慮なく笑うように.革命時代一の美形キャラです.それで篠田は高三の時、テルミドール反動で終わるフランス革命ものを延々書いて世界史のレポートとして提出したんだから.悪役はやはりなんといっても、ジョゼフ・フーシェでしょー.
 ライルは200歳といったんで、200年前西暦1800年前後といえば、やっぱり革命よね、ともろ趣味で決めたんだけど、その時代を書くなら歴史上の人物も配してそれらしくやりたいな、と思ったら、どう考えても100枚以上いるわ、というわけで、いずれ書きます.ずっと歴史物をやるのもいろいろしんどいので、次回はまた現代の話をやって、次々回はまた過去、しかしフランス大革命の前に十字軍があらあ.テンプル騎士団とサラディーンと暗殺教団と.歴史オタクだから書きたいものが多くてもーっ.
 でも基本的に西洋史ね.今回聖徳太子をやったら、パソコンで出ない漢字が多くて、出してもテキスト・ファイルだと化けるし、やっかいでした.やっぱ西洋史がいい.でも篠田版聖徳太子もけっこうよく書けたと思うので、五月のノンノベルをお楽しみに.

 明日は日記の更新が遅くなります.

2003.02.19

 「龍」を続行.連載分だけで300頁近くなることが解り、書き下ろしは短めに済ませるしかない.
 通販がまとめて届いてしまった.あっという間に完売.

2003.02.18

 冬が戻った寒さの下、つれあいをカメラマンに都内某所へ「館を行く」の取材.第一回では、さっそく司馬遼太郎記念館と大山崎山荘に行きました、という声をいただいたのだが、申し訳ないことに次回はそうはいかない.取り壊されてしまう建物を、ぎりぎりのところで見てきたからだ.今後のエッセイの展開についても、考えなくてはならないことなのだが、篠田が行きたいところと読者に紹介したいところは、必ずしもぴったり重ならない、ということはあって.
 そしてまずい紹介の仕方だと、見物するべきでもない場所に人がたくさん行って迷惑を掛けてしまう、ということだってないとはいえない.自分の書いたものにそれほど影響力があるとは思わないが、絶対ないとはいえないわけだから.うーむ・・・

2003.02.17

 大阪で結婚式に出席.ホテルで夜眠れなくなって、「龍」のノベルスに書き下ろしを入れようか、などと考える.もっともこういうときにプロットを立てると、さらに眠れなくなるんである.ずっと過去編もしんどいので、次回はまた現代の話にしようと思うが、過去のネタもたくさんあるのでその次くらいにやる.ただその前に龍とライルの出会いを書きたいな、と思ったのだが、考えてみるとあんまり短くはできないか.フランス大革命の恐怖政治下で、なんていうと歴史上の人物も入れたくなるしな.その場合は、ちらっと匂わせる掌編くらいにしておきますか.
 今日は「龍」の直しをやる.それにしても『アベラシオン』が異例のスピードで終わったのだから、その分半月くらい暇になってもよさそうなものなのに、なぜか全然そういうことはない.実に不思議だ.
 明日はメフィストに載せる「京介館を行く」の第二回のための取材.都内なので日記の更新は出来ると思う.2月中にこっちの原稿も終わらせないと、『angels』が5月に出なくなってしまう.活字倶楽部には4月とかいっちゃって、なにを考えていたんだ、数ヶ月前の篠田は.これからはよほど確定した以外は、そういうことはいわないようにしないとなあ.

2003.02.14

 篠田はあまり買い物はしないというか、めんどうくさがりの人間だが、きゅうきゅう仕事をした後は気分転換がしたくなる.本屋はいつでも行くので、たまには本屋以外のところへ.知り合いが持っていていいなと思った鞄を、かなり高いのだが思い切って買ってしまう.14日なのでチョコを買うかと思うが、チョコ売り場だけでなく酒売り場とかも人だらけである.チョコ以外の渋めのお菓子と、リキュールを連れ合いのために買う.担当に「ハッピー・バレンタイン!」と彼は辛党なのでワインをあげて、原稿とフロッピーも渡す.どんな反響が返ってくるか、いささかびくびくだ.
 今年はプロ活動十周年であるだけでなく、建築探偵も十周年.ひさびさのハードカバー本『アベラシオン』も出るし、蒼の番外編の他に本編は間に合うかどうかってところだが、意欲はあります、がんばります.だからあんまり「頑張ってください」と言わないでね.プレッシャーかけないでね.これで二月中に『龍』の手入れを済ませて、三月中に書き終えれば五月には出せる『angels』.すると五月はノベルスが二冊だ.その後は「ミステリー図書館」の書き下ろしを書いて、『アベラシオン』の手入れをして、えーと、後はぼかす.

 ここへ来て通販の申し込みがぴたっと止まってしまった.まあ、残ったら五月のイベントに委託させてもらおうっと.
 明日はライトノベル作家の友人・酒は強いぜ高殿円嬢の結婚式に大阪まで行く.というわけで日記の更新は、月曜日かな.

2003.02.13

 未練がましく『アベラシオン』に手を入れる.昨日の夜、「あれも直さないと」「ここも足さないと」と考えて眠れなくなってしまったのだ.担当と明日会うことになったので、敢えてそれ以上は断念.195枚.単行本化のとき、細部では相当手が加わることになるだろう.ハードカバーは高いので特に若い読者には申し訳ないが、作家はどんな装丁になるかも楽しみ.買わない方は図書館に購入希望を出してね.

 同人で長くパロディ小説を書いている読者から、「より良い作品を書くにはどうすればいいか」というような質問の手紙をもらう.篠田はたいていのことは笑って済ませられるぱーぷーでいい加減な人間だが、こと小説に関してだけは真面目すぎるくらい真面目だ.だからどうしても返事はきびしくなってしまう.同人界の小説と、プロの小説は、やはり置かれている環境がまったく違うのだが、そのへんのことはなかなか伝えるのが難しく、ただいばりくさっているような感じになってしまう.しかしあちらは高い塀で守られた薔薇の花園で、こちらは茨に囲まれた未舗装の道、というたとえ.わりと感じが出ている気がするんですが.

 某社の新雑誌でいずれ「創作講座」のようなことをしようという企画があるのだが、今回その新雑誌の広告を見て「???」となってしまった.創刊号には短編を依頼され、すでに書き上げているにもかかわらず、広告に篠田のしの字もなかったんである.あら、いらんのかいね、と思ってしまったのはいたしかたないところ.某社の内幕もいろいろとあるようです.

 いま気に入っている本、「しばわんこの和のこころ」白泉社.かわいい絵で擬人化された柴犬のしばわんこが、日本の伝統的な生活や作法を解説してくれる.てぬぐいを姉さんかぶりして、割烹着を着たしばわんこなんて感涙ものだ.漠然と郷愁は感じるが細かいことはすでに知らない、わからないことを、いま犬に教えてもらう(笑) 現代人は日本人ではない、というのも故山本夏彦翁のせりふだが、まったくその通りだなあ.

2003.02.12

 終わった充実感と安堵感を楽しめたのは数時間で、すぐまた「これでいいのだろうか」「なにかミスしてないか」「伏線たらなすぎじゃないか」などと不安がもくもくしてきて、寝付きが悪くなってしまう.といっても疲労していたようで、朝八時まで眠ってしまったが.
 腕がだるい.頭が動かない.通販の処理をするが右手に力が入らなくて、下手な字がなおさら下手になる.11時前、近所の茶店に行ってコーヒーを飲みながら原稿に赤入れ.戻って直し.191枚になる.後はもう前からの問題だから、単行本にするときに直すしかない.

 それでも通販の中に入れてきてくれるお便りが嬉しい.「ミステリでは一番動機が気になるので、篠田さんの作品が気に入っている」といって下さった方がいた.篠田はどうしてもそっちにこだわらないと話が作れないので、ありがたいお言葉でした.

2003.02.11

 お、終わった…… 正確に言えばプリントアウトを見直して、入稿して、さらには単行本を出せたところで本当に終わりだが、とりあえずは最後まで書き終えた.181枚.金曜日から五日間で181枚.でも金曜はプロットを立てていて12枚しか書かなかったから、四日間で169枚.ひええ、ほんとか?
 これまでにもやたら早く書けたということはたまにはあって、『この貧しき地上に』とか、『ルチフェロ』とか.しかし最近ではまったくもって久しぶり.篠田えらい、と自分で自分を誉めておこう.週末は知り合いの結婚式で大阪に行くことになっていて、「そんな場合か?」とも思っていたのだが、火事場の馬鹿力が出たなら彼女のおかげでもあろう.ありがとう、T殿!!
 しかし今日は脳が死んだ上、右手の肱から先がだるいったら.というわけで、通販は来たが今日はもうお休みいたす.

2003.02.10

 さすがに疲労がたまっているらしくて、なかなか取りかかれない。 でも今日は残業することにした。担当編集者と話していて、2/11が祭日なことにやっと気がつく。 まあ、自由業者には関係ない。今夜は夜中までかかっても、クライマックスを書くぞ。と、自らを鼓舞するのである。 

2003.02.09

 これが火事場の馬鹿力というやつでしょうか、本日で計86枚.今回は最終回だがたぶん150枚くらいで終わるので、もう半分過ぎたことになる.そしてたぶん明日、篠田が落とし穴にはまったりしなければかなり確実に明日、クライマックスが書けるのだ.連載は2000年からだったので足かけ四年、延々と書き続けた末のクライマックス.と、ひとりだけで興奮していてもあほですね.これだけ仕事すると右手がもういけない.肱から先が重いです.

 創元推理21の03年春号、前から読者である大倉祟裕氏の落語シリーズ「無口な噺家」が載っている.ほんのさわりを読ませてもらっただけで、その噺が彷彿としてくるくらい落語を自家薬籠中のものとしたお手並みは毎度大したものだ.トリックもひねりが利いて後味がいい.ただ今回ワトソン役の女の子が、ちょっとお馬鹿さんすぎる気がした.いや、こっちが「なんでこれくらい考えつかないんだい」といらいらしたもうひとつ先に真相があるんだから、ミスリードとしてはちゃんと役に立っている.それを「こんなに馬鹿じゃ好きになれない」なんていうのは、いわば篠田のないものねだりだ.
 それで大倉氏に感想のメールを出したところ、これはシリーズの二番目の作品の予定だったのを、お蔵に入れて新しいアイディアをプラスして練り直した作だ、ということが判明.それでもワトソン役のヒロインのつたなさのようなものは、残ってしまったということであった.篠田膝を打って思うよう.「ヒロインの書き方に不審を感じた俺の目は、まんざらなまくらじゃなかったわえ」.最後は自慢話で失礼いたしました.せめては大倉氏作『三人目の幽霊』東京創元社より好評発売中、と宣伝をして終わる.

2003.02.08

 頑張りました『アベラシオン』計50枚.さすがにこれだけ書くと肩はこるし、右手はだるいし、目はしぼしぼ.だが途中で休みが入ると力が抜けるから、せいぜい走れるときに走らないとな.

 今日毎日新聞の永六輔さんのエッセイで、「テレビ50年」に触れ、その中で、テレビのレポーターが老職人たちに「がんばってください」を連発していた、テレビの50年はこのような若者を生み出したのである、と書いていた.説明が少ないので、なぜ「がんばってください」がいけないのか解らない人もいるのではないか.老人が若者に言うならまだいい、と永さん.しかし7歳年下の友人も、「がんばってくださいと人に言われても別に嫌な気はしない、目下の相手でも」という.
 篠田は永さんよりはるかに下の世代だが、やはり「頑張って」には変な気がする.だから何度でも繰り返して言おう.自分より年上の人間、あまり親しくない人間、上司や親戚のおじさんおばさんおじいさんおばあさんに向かって、挨拶代わりに「頑張ってください」をやるのは止した方がいい.少なくとも50代以上の人間なら、それに違和感を持ち、あまりいい気持ちのしない場合は少なくないだろう.だが、前にここでそのことを書いたときには手紙の反応があったが、いまはまたどこもかしこも「頑張ってください」の嵐である.年寄りは肩をすくめて「やれやれ」とぼやくしかない.

2003.02.07

 喫茶店に行って頭を叩き叩き『アベラシオン』の最終回プロットを作る.ミステリの連載というのは初めての体験で、きっと山のように伏線を回収していなかったり、矛盾が出たりしているのではないかと思うと心臓に悪いが、ここは敢えて目をつぶってつっぱしる.やばいところは本にするときに直そう.って、困難の先送りだが、いまはともかく書き終えることが大切だと己に言い聞かせる.これから毎日枚数を書くので、進んでいなかったら「ああ、篠田難航してるな」と思ってください.本日12枚.

 午前中は通販処理で時間が経つ.今日の到着は10件.いよいよ最終段階という感じだが、これまでひとつも事故の問い合わせがないのが幸い.

 それから先日高校生の方からの手紙で「建築探偵は終わるべきでない」とかなり強硬に主張された.でもねえ、あと5年くらいはかかるのよ.あなたが17歳ならそのときは22歳.進学や就職や、もしかしたら結婚もしてるかも知れない.そのときもあなたは自分がいまのように「建築探偵大好き、終わっちゃ嫌」といえると信じているの? 篠田は建築探偵の書き手であると同時に第一読者で、作品世界に対する愛は恥ずかしいことをいうようだが読者の誰にも負けない.あなたは「もう飽きた」と言えるけど、私は言わないし言えないんだ.その私が大喜びで物語を閉じると思うのかなあ.
 私はたぶんそのとき、自分の手を切り落とすくらいの喪失感を味わいながらエンドマークを打つんだと思う.その時が来て誰より辛いのは私です.終わる物語が嫌いなら、浅見光彦でもお読みなさい.あの万年青年とお友達になって、安心してその作品世界に遊びなさい.私はレギュラーの誰も殺さないと決めたから、エンドマークを打った後も彼らは生きていることでしょう.だらだら続ければ逆に、彼らは生命力を失って死ぬでしょう.そんな終わらせ方をしたいのか.私は嫌だ.私には嫌だという権利がある.

2003.02.06

 仕事がとどこおっているのに、今日は池袋の西武デパートに江戸川乱歩展を見に行く.非常に興味深い充実した展示.
 夜は池袋のベトナム料理.ベトナム料理も東京でわりとあちこち行っているが、基本的に器などが洒落すぎているところほど値段は高いくせに味は大したことない.今日の店は庶民的で、そのくせベトナム産のワインまで取りそろえて、味も感じも上々.

 通販今日も14件.やはり活字倶楽部の威力は大きいか.申し訳ないが増刷はしません.篠田の労力もあるが、仲介してくれる講談社にも手間ばかりかけさせて申し訳ないので、間に合わなかった人はお気の毒ですがあきらめてください.

2003.02.05

 『angels』が131頁で第二章が終わったので、ここで頭を切り換えて明日からは『アベラシオン』をやることにする.予定は5日遅れ.うーむ、きびしい.

 「ハリ・ポタ」は3冊読んだが、これは結局ミステリ風味のついた架空学園物語で、ファンタジーは本質的な要素でないという感じがした.魔法学園という設定はおもしろいかなあと思ったが、教えられている魔法があまり魔法っぽくない.箒に乗ってやるクィディッチというスポーツがあり、寮対抗試合があり、そのへんは全部イギリスのパブリック・スクールを下敷きにしたように思える.スポーツはラグビーとポロを下敷きにしたような.共学だというのが違うが、女の子の生徒で存在感があるくらい書き込まれているのはハーマイオニーだけだ.
 普通の人間の社会にこれだけ大人数の魔法使いが知られることなく、かといって完全な別世界でもなく暮らしているという設定も、リアリティに乏しい.篠田はファンタジーというのはなによりも、その世界構築の妙にあると思う.そういう意味で最高のファンタジーのひとつがロジャー・ゼラズニイの「真世界アンバー」シリーズだ.またジュブナイル・ファンタジーのおもしろさは主人公の成長とイニシエーションが、その世界との関わりで描かれることだが、ハリーはいつになってもあまり成長しない.翻訳者は成長したといっているが、ほんとにそう思っているんだろうか.
 もちろんこの物語が大好きで、心から楽しんでいる人がたくさんいるのはわかっている.これは決してその人たちを馬鹿にするような意味の感想ではない.ただ、篠田程度には本を読んでいる人間には、食い足りないだろうなということだ.

 通販14通.残は76冊です.

2003.02.04

 ダ・ヴィンチのe−NOVELSの頁に載せる短文を書いて送る.「黄昏ホテル」という連作企画の一編を書かせてもらった、それをこちらで売るので、それの宣伝を兼ねている.昨日の笠井先生からのメールは改めて「e−NOVELSに参加しませんか」というお誘いなのだけど、パソコンのスキルのない篠田は販売テキストを作るのにいちいち他の先生のお手を患わせなくてはならない.それがどうにも心苦しい.
 どうにかこうにか頭を『angels』に戻し、124頁まで書く.後少し書いたらメフィストに行かんとならんのだ.ひえーっっ.

 本日も通販到着.残は約90冊です.

2003.02.03

 昨日突然仕事場のサーバーがダウンし、メールもネットも使えなくなった。なにか大事な連絡があったらどうしようとあせっても、どうにもならない。サポートに聞くと月曜にならないとなにもできないという。
 今日の午後ようやく回復。あわててメール・チェックすると笠井潔先生からのメールがあってまたあせる。

 先週到着分の通販はすべて発送済みです。あと100冊。泣いても笑ってもこれで最後。絶対増刷しないし、こういうことも当面やる予定はないので、必要な方はお急ぎください。仕事しないとならんのです。

2003.02.02

 申し訳ないが土曜日にいただいた通販申し込みは発送が月曜以降にずれこんでしまう.数日中に必ず投函するのでいま少しお待ちを.
 いまごろになって「ハリー・ポッター」を読み出した.まだ1巻目の半分だが、ハリーが親戚の家でいじめられる描写が、いかにもしつこくて下品な感じがする.しかしハリーは一方ですごい有名人.つまりこれ、「シンデレラ」か.目くじら立ててけなすようなものじゃない、エンタテインメントとして楽しめばいいんだろうね.それから「ミステリー」だという人はけっこう多いけど、物語の一部を隠しておいて伏線を張って、徐々にそれを見せていくのは別に「ミステリー」じゃない.普遍的な小説技法に過ぎないと思うんだが.

2003.02.01

 1/29はイラストレーター加藤俊章さんと「レディM」の打ち上げ.1/30は角川のアニメコミック事業部のパーティ.パーティではスニーカーで「トリニティ・ブラッド」というシリーズを書いておられる、吉田直さんとお会いすることが出来た.かねてからファンだったのである.あまり表には出ておられないというので容貌などについては書かないことにするが、正直言って篠田の好みのタイプであった.京介よりは深春だが.
 二次会で柴田よしきさん、ひかわ玲子さんとごいっしょする.柴田さんからは『聖なる黒夜』の取材話を伺い、これが抱腹絶倒.ひかわさんは篠田は『銀色のシャヌーン』など美しいファンタジーの作者として記憶していたのだが、もっとアブナイ話でも妙に話題があって、これまた抱腹絶倒.「社長といえば受けも同然」とはひかわさんのすんばらしい暴言でありました.

 さすがに疲労残り、今日は使いものにならない.
 活字倶楽部に載せてもらったおかげで、また通販の申し込みが増えた.なんとか明日中に全部整理したい.それでもまだ100冊はあるので、当面在庫切れになる心配はなさそうだ.