←2002

2002.12.31

 朝通販の封筒に封をしてひとまずおしまい.コミケで売り切れ後に来られた方の分を袋詰めし、せめて今年中に出そうと思ったらすでに郵便局は閉まっていた.やむなく戻って重さを確認し、コンビニで切手を貼って投函したら、直後に集配の人が来た.ラッキー.
 仕事場の掃除をおざなりに済ませて、しかし疲労感がどんより.再版を決めたので校閲のつもりで読み返すと、ミスがあるわあるわ.データがなくなっていた分はスキャナで取り込んだので、そのための間違いも多いのだ.買ってくださった方、心から申し訳ない.正誤表は来年早々アップします.

 さて、あと五時間弱で今年も終わり.いろいろ大変なことや嫌なことがあった人も、カレンダーという制度の良いところを活用するつもりで、その嫌なことは全部今年に置いていこう.嬉しいことだけ持って新しい年を迎えよう.
 篠田は通販をやったおかげで、北は北海道釧路から南は九州宮崎まで(沖縄はなかった、残念!)、日本全国にこんなにたくさん篠田の作品を見ていてくれる人がいたということが改めてわかり、心から勇気づけられました.この嬉しさと力を作品に反映して、皆様にお返しできるよう努めたい、というのが新しい年を前にしての決意です.この年末はひとしお冷え込むようです.初詣に行かれる方も、家事で忙しい方も、どうかお体大切に良いお年をお迎え下さい.
 明日はまたこのページから新年のご挨拶をいたします.

2002.12.30

 疲労抜けず.ますます眠い.しかし通販の山を前にしてはほっておく気にもなれず、結局掃除はせずにせっせとそれを片づける.今回はお便り同封の方が多かったので、それの返事は今回は本と同封させてもらうことに.それでもついつい読みふけってしまう.建築探偵ファンだけでなく、「龍」や「幻想建築術」「夢魔の旅人」の読者さんもいらして、とても嬉しい.ほとんどの方が手紙を下さるのは初めて.お手紙がいただけるというだけで、通販の仕事の多さも耐えるに足る.しかし夕方仕事場に来たつれあいに、「掃除できなかったよー」というと「もっとちらかったみたいじゃない」とクールにいわれて、いささかめげる.うっうっう.
 「秘密の本棚」は再版することにした.というわけで、まだの方、来年で間に合いますので安心して申し込んで下さい.詳しくは告知板へ.

2002.12.29

 コミケから帰ってきました.疲れております.さすがにもう体力がついていかない、という感じ.そして、ああびっくり.200冊完売してしまいました.正確には見本が1,あげたのが11,足りなくなって「送ります」とお金だけ預かったのが4で、192冊.たくさんの皆さん、本当にありがとうございました.
 そして戻ってきたら、また回送された通販の山.というわけで在庫に赤信号が点ってしまいました.今後のことは告知板に書きます.さすがに疲労が山のように押し寄せてきて、今日はもうアキマヘン.

2002.12.25

 昨日まで書いたところを書き直す.最初のうちはこうして何度も行きつ戻りつ.昔はもう少し自己陶酔して書けたと思うのだが、最近は書き終えるまではちっともほっとしないし、「これでいい」という安堵も覚えない.うーむうーむ.行くほどに険しくなる山道.ひとつ登って降りてもまたすぐ次の山が.でも立ち止まったらリタイヤだ.

 思いがけないクリスマスプレゼントを、思いがけない方からいただく.それでまた、がんばらなくちゃ、と思う.

 明日は我が家の忘年会で留守.その後はコミケの前泊と後泊.戻りは29日.というわけで日記も29までお休み.そこでコミケの報告もいたします.

2002.12.24

 読者の皆様、メリー・クリスマス.篠田は何も変わらないうだうだお仕事の日ですが、それでも夜はローストチキンを食べてワインを飲みます.車で30分ほどのところにフランス系の巨大スーパーができて、そこにチキンを買いに行ったんだけど、ローストチキンの売り場は大行列だったので、生の鶏を買ってきました.

 ミステリは書き出してから半分くるまでがしんどい.いろいろ伏線をばらまきながら書いていくわけだが、不安なのはその伏線がちゃんと利くか、ということ.自分ではわからないことだからね.
 これで明日まで仕事して、明後日からお休み.我が家の忘年会とコミケの後は仕事場と書庫の片づけなどしなくてはならない.特に自宅の書庫、壊滅状態.書庫といえば図書館のように整然とした、笠井潔先生の書庫が目に浮かぶ.整理の良さが思考能力の反映なら、こちとらはまさしく壊滅しとります.
 
 神谷悠という漫画家さんがいる.篠田はほとんど読者ではないのだが、ミステリもののシリーズがあって、そちらの探偵役の雰囲気がちょっとだけ京介に似ている.相棒は蒼を大きくして深春の性格を加味したようなタイプ.正直言って「あ、読んでいたら真似したと思われても無理はない」と思ったくらい.
 その方の「花ゆめ増刊」だったか、いま書店にある、それのページ端に「建築探偵を読んで面白かった」と書かれてあった.篠田も読者さんに教えてもらったのだけれどね、嬉しい気持ちがしましたです.がんばろうっと.

2002.12.23

 鮎川哲也先生の短編集、『五つの時計』『下りはつかり』創元推理文庫を読了.いまにしてみれば素朴すぎるトリックもあるけれど、本格の心棒の確かさと細部の周到さをこもごも感じた.自分も含めて、本格から出ながら本格を壊す方向に行ってしまう、そこへしか行けないのがいまの書き手の宿命だとして、「なにを壊すのか」をもう一度見直すとき、鮎川作品というのは本格の魂のような物を見せてくれる.
 小説というのは時が経つにつれてどうしても「古くさくて読めない」部分が増えてくるけれど(特に女性観の古さはかなり辛い)、にもかかわらず読むことが出来る作品集として、読み嗣がれて行って欲しい.

 ようやく『angels』を書き始める.例によって考えながら書くことになってしまった.鮎川先生も「本格というのは最後まできっちり出来ていないと書き出せない」とおっしゃっているのに、自分はその辛抱が出来ない.

2002.12.22

せっかくの三連休と思う人には何とも気の毒な天気であるけれど、出勤もタイムカードもないプー同然の人間には、郵便も届かないしいたって呑気な昨日今日である。いまは小説のプロットを考える合間に、鮎川哲也先生の短編集と山本夏彦翁のエッセイをチャンポンに読んでいる。どちらも今年物故された方。亡くなられてあわてて読むのもみっともないようだが、物書きのすべては書かれたものの中にあると思うから、それはそれでかまうまい。なにかときどき勘違いをされる方もいるようだが、作品に感服されたからといって書き手と会うのはあまりお勧め出来ない。少なくとも篠田真由美に関しては、作品にすべてを放出してしまった後の、抜け殻を見たところで失望するのが関の山だ。話がずれた。

 ご報告をひとつ。徳間デュアル文庫から昨年出した『聖杯伝説』を、NHKが連続ラジオドラマにしてくれるらしい。篠田が解説を書いた稲生平太郎氏の『アクアリウムの夜』をラジオドラマにしたのと、同じ番組である。それで以前角川からもらった『アクアリウム』のドラマCDを遅まきながら聞いてみた。まあ、一生懸命やっているとはいえる。だがある程度の完成度をそなえた作品は、別の媒体に置き換えることがたいていの場合プラスにはならない。うまくできていればいたで「それで?」といいたくなるし、たいていの場合は噴飯物である。『アクアリウム』は、誠実にはやっているけど原作の方がずっといいや、という気がした。
 にもかかわらず、今度の話にはOKの返事をする。いちおう若い人向けの番組らしいので、これを機会に篠田の作品に触れる読者がひとりでも増えてくれたらいい、という期待からである。だがまあ、原作をお気に召した人は、聞かない方がいいだろう。脚本家というのは、必要なものをはぶいて不要な物をつけたすことがままある人種のようだから.

2002.12.21

 昨日届いた通販を全部袋に詰め、お便り同封の方に返事を書き、ついでに手元に残った50冊あまりにすべてサインと落款を押してペーパーを挟む.こうしておけば正月明けにまたどばっと来ても、さくさく終わらせられるだろう.しかし結局の所、通販でさばけるのは150未満かな.わざわざ小為替買って切手買って封筒買って、というのはかなり面倒だものね.一月末には活字倶楽部のインタビューといっしょに、通販のお知らせも載せてもらうことにしているのだが、さて、400刷ったのはあたりかはずれか.

 午後は仕事.蒼が高校三年生のときは1997年.ふと携帯電話の普及のことが気になってネットで調べる.結論から言うとこの時期高校生特に女子に流行していたのはポケベルで、携帯やピッチはまだ高くて、この世代には特に広まっていなかった.しかしベルは女子高生の43%が所持、というわけで、ここに登場する子たちの誰も持っていなかったら変であろう.
 ポケベル機能の年代別発達といったことも載っていて、非常にありがたかったのだが、ひとつ頭が痛いのはどこにも写真が載っていないんだ.携帯も.だから形がぴんと来ないのだよ.後は新聞の広告でも探すか.また担当に泣きつくか.どっちにしろ来年だなあ、そのへんは.

 どしゃどしゃ雨が降っています.夜更け過ぎに雪へと変わるかしら.

2002.12.20

 朝、昨日ついた通販六件を袋詰め.その後歯医者に定期検診.表面を磨かれただけだがかなりくたびれる.戻って通販に同封された手紙の返事を八件.それからジム.しかし今日も封筒の山が到着.ジムから戻ってそれを袋詰めする.というわけで今日は仕事はできなかった.通販というのはなかなか大変なものである.

2002.12.19

 ちょっとめげることがあった.メフィスト掲載の建築エッセイ内の一部記述について、取材先が「事実と違う」と抗議してきたのだ.篠田が文章を書く元にしたのは、某個人サイトの記述だった.取材場所には資料本のたぐいが完備されていないし、学芸員も特に説明してくれなかったので、疑うこともなくそちらを資料にした.確かに個人サイトならなにを書くのも自由だし、それが事実と違う可能性もあるわけで、こちらとしても不注意だったというしかないが、一抹の疑いは残ってしまう.相手の名誉を毀損するようなことを書いたわけじゃなし、「抗議」なんかされるとかえって釈然としない.それなら事実と違う記述を載せているサイトも、ひとつひとつ注意して廻らないとまずいんじゃないの.

 角川からゲラと一緒に高殿円さんの遠征王シリーズ新刊と、トリニティ・ブラッドの新刊を送ってもらったので、つい仕事の手を止めて読んでしまう.好きな作品を自腹を切らないで読むというのはいささか後ろめたいが、田舎住まいでうっかりすると見逃す新刊をすばやく手に出来るというのは嬉しい.遠征王はギャグ抑えめシリアス増量.女たらしのすちゃらかな主人公が好きな篠田は、ちょっとさびしい.トリニティ・ブラッドは、今回はいささかマンネリ系か.
 午前中通販の袋詰めを済ませる.夕方にはまた新しい封筒が届く.でも在庫はまだまだあるので、速達にしなくていいですよ.いよいよ減ってきたらもこちらで告知します.それまではお金がもったいない.
 午後からはまた『angels』のプロット練り.そろそろ世界が見えてきた感じ.これはわりと薄いめの、すっきりした本になりそう.ただ、閉鎖空間を作る言い訳をいま考えているところ.
 本日告知板に蒼のプロフィールをアップします.

2002.12.18

 寒いと身体がちぢこまって血の巡りが悪くなる.体調がぱっとしないのはそのせいもあろう、というわけで、マッサージに行く.裏表まんべんなくがんがん揉まれて、非常に気持ちがいい.
 仕事場に戻ると角川から『根の国』の3.4巻のゲラが来ている.とりあえずはルビと鉛筆の所だけ見る.今回のルビ間違いは、「振幅」と「市松さん」.それぞれ「しんぷく」と「いちまさん」です.これを間違える人ってどれくらいいるのかな.有名出版社というのはたいそうな狭き門らしいのですが.
 角川は28から5までお休みだそうなので、ああうらやましい、戻すのは来年早々ということで、ルビだけ見終えたら蒼に戻る.前に買った赤ちゃんの名前付け事典が出てきたので、それも参考にキャラの名前をつける.というか、まず名前をつけてから彼らの性格付けを考える.篠田はトリックを考えるのが苦手なので、先に事件が出来ていてそれに合わせてキャラを作る、ということができない.「なんとなあくこういう舞台でこういう事件」「で、真の動機と犯人はこれ」「それがわからなくなるのはこれこれこういう理由で」くらいのことを考えて、後はキャラを作っていく.しかし今回は登場人物が全員高校生なので、性格付けがちょっと難しい気もする.

 また通販の封筒が届きました.ざっと数えて13通.この調子だと年内に100通は行きそうです.ありがとうございます.年始早々だと郵便事故が心配なので、発送は1/6にしようと思います.たぶん講談社も角川同様28から5はお休みだと思います.お申し込みを送って下さる方は、そのへんに引っかからないようよろしくお願いします.

2002.12.17

 昨日届いた通販を袋詰め.お便りを同封いただいた方にはお返事.蒼のプロフィールを少し.それから『angels』のプランを練る.今年中は練って、正月明けから一月一杯はこちらをやって、終わっても終わらなくても二月に入ったら『アベラシオン』というのが現在の目算.いくらなんでも正月は数日休むし、壊滅状態の書庫の整理もしないとならないから、蒼は四月刊行は難しいなあ.しかしその間に、というか今年中に、小説ノンと『根の国』のゲラが来るんだよなあ.二月は建築エッセイの方もやらないとならないしなあ.
 あんまり先のこと考えるの止そうっと.憂鬱になっちゃうから.
 いまは高校生諸君の名前を決めているところ.どうしても本などから拾うと、名前が年上っぽくなってしまう.どうしようと思って、そうだ、とひとつひらめいた.アンケートハガキからから、年齢的に若い人の名前を探すのだ.もちろん姓との組み合わせは変えますけどね.

2002.12.16

 熱でも出れば休めるが、なんとなくぱっとしないでは休むわけにもいかない.といっても労働意欲は湧かない.仕事場には未読本が山とある.当然むずかしげな資料本には手が伸びない.他人様のミステリを読む.今月のジャーロは力作揃いだ.光原さんはほとんにすごみが出てきた.来年はここに連載するのかと思うと、なんだか気が退けてならぬ.体調が悪いと精神的にへこむのだ.『千年岳の殺人鬼』意外性たっぷり.『猫は聖夜に推理する』最近柴田さんファンの篠田、猫の正太郎も大好き.そしてこの本には、物書きにぐっとくる一節が.引用するには長すぎるので、興味のある人はカッパノベルス172ページ下の段を見て欲しい.ううう、そうだねー.

 しかしいつまでも「ぱっとしないままでどうする」というわけで、敢えてコーヒーをマグカップいっぱい入れて仕事態勢.篠田は頭を動かすときはコーヒーが要る.しかし腹の調子が悪いとコーヒーを飲む気がしなくて、つまり働けないのだ.『アベラシオン』を前倒しにしてやるべきかと思ったが、やはり蒼からすることにした.ことのついでにお手紙でリクエストをいただいた「蒼のプロフィール」を執筆し始める.数日中にアップしますのでお待ち下さい.
 本日も通販のお申し込みをいただいた.まだまだ在庫はございます.たぶん余るだろうと思いますので、そんなにあせらなくて大丈夫です.

2002.12.15

 本格ミステリ作家クラブの執行会議.会議に連なるのはせいぜい二時間だが、行きはメール・チェックもそこそこに仕事場を飛び出して、帰りは本屋を見たりするので戻るのは夕方.というわけで結局一日つぶれてしまう.申し訳ないが、後一年したら改選時に辞退させてもらおう.寒いせいもあるのか妙に体調が悪い.胃がむかついて肩が凝る.戻ってきても結局なにもできない.
 買ってきた本、美術品贋作について、芸術のパトロンについて、真言立川流について、洗脳について、住宅建築について、という具合に見事にてんでばらばら.

2002.12.14

 朝から昨日の通販を処理.こんな事をしているといつまで経っても仕事ができないのだが、乗りかかった船である.しかし中の一通が、小為替の他になにも書いていない封筒、送料の切手も無し、しか入っていなかった.しばし悩む.送料を負担してあげるのは簡単だが、その費用よりもたかだかあれだけの「通販方法」さえ実行できない人の、投げやりさがむかつく.というわけで、メモをつけて丸のまま送り返した.通販をたくさん扱う人たちは、こういう場合どう処理しているのだろう.今度機会があったら教えを請うことにしよう.

 榎田さんのサイン会in渋谷某書店.二週間続きのサイン会だったが、本屋によってその処理の仕方、巧拙もさまざま.先週の書泉グランデは開始十五分前に全員がスタンバって番号順に階段に並ぶ、という方式だった.最後の方の人は二時間待ちなわけで、かなり辛いとはいえる.だが整理番号の意味を考えるなら、この方が正解である.
 今回の渋谷の本屋は篠田の取得した番号が163番で、「開始は二時からだけど三時に来てくれ」といわれた.しかるに三時に行ってみるとすでに番号順ではなくなっていて、それも空気の悪い暑い店内で並ぶものだから、せっかくの薔薇の花束がみるみるしおれていくのが情けない.まあ、いっしょに並んだ名前も知らない読者さんと、おしゃべりして時間を潰したけれど.
 自分のサイン会は何度かやったけど、お客になったのは先週の西澤さんと今週の榎田さんが初めて.それなりの時間並ぶのはやはりけっこう大変で、改めて自分のサイン会の時来てくれたお客様に感謝の気持ちが湧いた.

2002.12.13

 昨日の通販到着分19件.やはり気になるので蒼の話はお預けにして袋詰めをする.返信用の封筒に住所氏名切手まで貼ってもらったので、後は簡単かと思ったらどうしてそうでもない.まず1000円送ってきてしまった人と、800円の人と分ける.小為替と封筒、メモ、手紙等を確認.ノートにメモ.本の遊び紙にサインと落款を押す.ペーパーと残り物のちらしを畳んではさむ.ペーパーが足りなければコンビニへコピー、200円返金する人の分は郵便局で切手を買う.しかる後に袋に入れて封筒に入れて、開封のかたちにはさみを入れて、自分の名前を書いて、冊子と書いて、テープで貼って完了.ふう〜 というわけで、こういうことをするのも今度が最初で最後でありましょう.仕事がお留守になるのはまずいものね.
 しかし今日は通販と一緒に入っていたおたよりが、どれも楽しい物で、そういう意味ではとても楽しませていただいた.小説ノン連載中の「終わりなき夜に生まれつくとも」で、ちょっとしたせりふに反応してくださった方.こういうことがあるから、小説書きは止められません.自分でもちょっとニヤリとしつつ書いたから、でも誰もそんなこと気にしないだろうと思ったもの.ちゃんと見てくれる人はいるんだ.ほくほく.

 夜家に帰るとさらにもう四通到着していた.
 明日は友人の榎田尤利さんが初のサイン会なので、雪が降っても槍が降っても花束を担いで渋谷に行くのだ.

2002.12.12

 『根の国』のゲラを通して読む.かなり細かく指摘が入っているが、必ずしも用字を統一する必要はないと思うし、場合によっては正しい日本語ではない言い回しを使いたいときもあるので、そういうのは指摘してもらって、でも直しません、とするのがいいわけだ.最初は「全部この通りにしなくてはならないのか」とびびったものだが.
 著者の判断を求める場合は鉛筆が入る.そうでないときは赤ペンで書き込みがある.しかし今日、変なルビが次々と見つかってしまって唖然.「磐座」これを「いわくら」と読むのは古代史マニアでもないと無理か.でも「いわざ」じゃ「訓と音」がごっちゃでしょうに.「神代風」これを「かみしろふう」と平気で書くセンスがあたしゃわからない.あんたはもしかしてW大のべらんめえ教授のファンですかい、と聞きたくなる.これが複数登場.頼むから辞書引きなさいよ.最後は「灰燼」を「はいじん」と来た.おかげであたしゃ頭が「廃人」ですわ.
 同潤会アパートの資料をコピー、雑用.密室本の『闇匣』を読む.これはまあまあでした.それにしてもミステリに登場する人物って、どうしてこう男も女も絶対友達になりたくないような人ばかりなんだろう.
 通販の申し込み到着.この調子なら増刷する必要はなさそう.

2002.12.11

 メフィストが出た.今回から「京介館を行く」という建築エッセイが掲載されている.桜井京介と篠田が旅先で建築談義をする趣向のエッセイ.どうぞよろしく.

 昨日馬力をかけて出る前に祥伝社を終わらせたので、今日は『M』をやる.このテキストは読み直すのがいささか恥ずかしい.書いているときはそれなりにテンションが上がっているのだが、ゲラのときは覚めているので、なにか気恥ずかしいのはどの場合も同じだか、これはエロティカなのでよけい.『この貧』はボーイズ、こちらはヘテロだけれどSM.まあどっちにしろ、官能物はこれで打ち止めでしょう、たぶん.少しくらいプライヴェートな想像の領域も残しておかないとね.
 その後もう一度『根の国』を読み直し始める.これを明日終わらせて、明日からは蒼のことを考えるぞ.やっぱり篠田はこの子が好きなんだなあ、と最近つくづく思う.いっとき読者からあまりに蒼コールが強い気がして、書く気をそがれるようにも感じたものだった.ファンの方、ごめんなさい.物書きの心理は微妙です.同じ事の繰り返しを求められると、一気に嫌になるというところはある.
 でも、蒼という人格はすでに私の中で確固として存在していて、作者を含めて誰がなんといおうと、蒼は蒼なんですね.行きつ戻りつ、やけに大人びたり子供っぽくなったり、それを繰り返しながらちゃんと彼は成長していく.京介や深春は初登場の時からある程度は人格が出来ていたけど、蒼はほんとに赤ん坊のときから作品の視野に入っていた.そうしてひとりの人間を育てていくというのは、子供を持たない篠田にとっては育児に等しい事業のようにも思われます.

 さて、アルド・ナリスが死んだ.グインの読者以外はなんの意味もない感慨だが、さすがにこれだけ読み続けてくると、彼の変貌と死は単なる読者に過ぎない篠田にとっても、小さからぬ慨嘆めいたものをもたらしてくる.数十巻前の、彼が元気にくせ者をやっていたときを読み返したくなる.長く書くこと、たくさん書くことでしか出せない効果というのは、確かにあるものなんだねえ.だからって、建築探偵を百巻書く気は毛頭ありませんけどね.



2002.12.10

 今日は夜は外に出るので日記は簡単に。
 昨日は『綺羅』のアンケートはがきが来たので目を通す。みんな見てます。
 『レデイM』のゲラも来た。後回し。
 今日は龍の直し。明日あたり送りたい。そしてゲラをとっとと見て、少し休んで、蒼のお話を考えたい。
 高校生の蒼。ブレザーにネクタイの蒼。あ、でも夏休みか。だとしたら制服じゃないなあ。 

2002.12.09

 なんと朝起きたら雪.ひょえーっ、である.雨や雪の時眠くなるのは動物の本能だそうだ.つまり眠くて動く気がしなければ、食事もいらなくて狩猟に出かけて濡れて体力を消耗することもない、というわけ.実際今日は眠くて参った.
 郵便局まで行く元気もなくて、一日仕事場に沈没.ビーンズのゲラを最後まで見終えたが、どうもここの校閲は変な感じがして、いつにも増してしんどい.文字の統一をしたがるのは校閲者の修正らしいが、一巻でなく二巻の頭に混在している文字の抜き出しがあって、どうするか決めろとかいわれとる、一巻の分はどうなんだといいたくなる.そういうのは一番最初にいってくるものじゃないのか.これ、関係ない人には分かりにくい話だから止めよう.
 自宅に戻ると通販の申込3通.そろそろ終わりだろうか.残ったら新刊の後ろに広告するとしよう.「レディM」の再校ゲラ.講談社文庫のグッズのカレンダーがおまけに入っている.しかしこれ、講談社文庫の発売日にマークが入っているというのが、どうも紛らわしくていまいちだねえ.

2002.12.08

 通販の袋詰めをする.サインをして、お礼の一筆を作って、ペーパーを畳む.贈呈の忘れた分を作り、お手紙を下さった方に返信を書く.結局これが夕方までかかってしまう.夜は半沢氏の木工グループの忘年会.篠田は門外漢なのでお話を聞いてもちんぷんかんぷん.ひたすらがぼがぼと酒を飲む.しかし、自分の知らない世界の人とふれあうのはおもしろい.いつもいつも同業者ばかりじゃ、煮詰まってしまうからね.

2002.12.07

 昨日の夜『レディM』の再校ゲラを出すから16日までに戻してくれといわれる.あうーっ.午前中通販のためのペーパー作りとコピー、切手を戻さなくていい分から袋詰めをする.お礼の言葉をプリントする紙が無くなる.出がけにサインペン、紙、切手等買い込む.
 思ったより行くのに時間がかかって、神保町到着午後2時.同潤会の資料探しで明倫館を見て、南洋堂に行こうとしたら劇団LEDの直塚氏とばったり.さらに高田崇文さんとも行き会い、高田夫人も交えてお茶.高田夫人は美女である.あ、しまった、コーヒー代を払い忘れた.
 すでに書泉グランデ一階は人だらけ.階段に整理番号順並ばされる.会場は非常に手狭で、せっかく持参の缶ビールを陳列する場所はない.ぜひ次回は三省堂本店でやっていただきたいものだ.ともあれ170名を越す読者が詰めかけ、西澤さんはビールも飲まずに二時間の奮闘.お疲れさまでした.お気をつけてお帰り下さい.
 あしまった.西澤さんにお歳暮のお礼を言い忘れた.いろいろ頭の中がとっちらがっていて、忘れることばかり.しかし同潤会資料は無事ゲット.18.000円ほど本代としてすっ飛ぶ.建築探偵は仕込みに時間もお金もかかるのだよ.

2002.12.06

 やっと「唯一の神の御名」が最後まで来たと思ったら、タイトルに繋がるせりふを入れ忘れたよ、というわけでもういっぺん読み直していろいろ直さないとならない.しかるに今週末は土曜日は西澤さんのサイン会で、日曜日は夜忘年会がひとつ.それから角川ビーンズのゲラが二冊分来て、そして今日第一回通販転送分38件!
 というわけで、これから通販分にサインを入れて、ペーパー作って、お礼のことばを書いた一枚も作ってそれぞれお名前を入れて、それから千円送ってくれちゃった方には二百円分の切手を用意して同封して、ということになります.あ、おたより下さった方には返事も書きたいし、というわけで、年明けということにしておいて良かったなあ.いまから仕事の合間に少しずつ.
 いや、それができない人間なんで、ついそっちのけでやっちゃうんですけどね.
 しかし、ひとつお願い.自分の名前住所を外封筒に必ず書いてくれえっっ.
 これって常識じゃない? それから、せめてメモの一枚くらいは入れようね.なんにもなしに返信封筒と為替だけ放り込んである封筒というのも、篠田は別に通販屋じゃないんでね、ちょっとお愛想があってもいいのに、なんては思うわけだよ.
 いろいろうるさくてすまん.

2002.12.05

 まだ原稿やって終わらないので、そろそろ書くネタが尽きてきた.

 西澤保彦さんの新刊『ファンタズム』を読む.うーん、こういう作品は評価が難しい.作者いわく本格ミステリの意匠を借用しているけれど、「本格」でもなければ「ミステリ」でもない。その通りなのですよ.ちょっと『奇偶』を思い出した、そういう意味で.
 ミステリ専業作家というのは、やはり煮詰まってそれ以外のものを書きたくなるものかなあ、とも思う.ただ西澤さんの場合一連のSFミステリがあるから、読者の期待の外し方、外れ方は山口さんとはまた全然違ってくる.

 「J’sミステリーズKING&QUEEN」という本が出た.これまたミステリのガイド本である.原書房の本などと比べても、特に目新しさもない.売れるのかしらね.はっきりいってミステリを知ろうと思ったら、自分で目を引かれた本を二冊でも三冊でも読む方がずっと有益だと思う.せっかくとりあげてもらったのに、ほめなくてごめんなさい.

2002.12.04

 今日も一日原稿やってました、だ.というわけで、それ以外の雑談.

 榎田尤利さんの新刊『聖夜』を読む.ボーイズラブだからそういう趣味のない人には勧めにくいけれど、すごく切ない話であった.ちなみに篠田が涙ぐんだのは全然そういう場面ではなく、主人公が幼いころさんざん殴られた暴力親父が死病で入院したところに会いに行って「やっぱり俺、父さんのこと赦せないわ」「いいんだよ」という会話をするシーン.篠田は父親を赦せないまま死に別れたからね.いまも赦す気は全然しないんだけどね.
 以前からここに書いていた講談社の「少年少女ミステリー図書館」のこと.シリーズタイトルに少年少女と書くと児童書売り場に置かれてしまうので、「かつて子供だった大人と子供のための ミステリーランド」となるそうです.来年七月の初回配本は島田荘司、有栖川有栖、小野不由美、殊能将之.ちなみに殊能さんはすでに入稿しておられるんだと.うおうっ、でありますね.
 担当A氏から、同人本の申込が多数来ています、という電話.皆様ありがとうございます.もしも不足が百冊以上出たら、増刷しますので.でも、五十冊くらいだったら、困るねえ.
 無事切り番が三万を超えたようです.たくさんのアクセスに感謝します.みんな大好きだよ.大好きなみんなのために、まだまだ頑張るからね.これからもよろしゅう.

2002.12.03

 一日仕事場で原稿やってましたー、というのではまったく日記のねたにならない.おまけに二日間お休みしたら、筆が進まないこと、まったくもう.というわけで、後は雑報.

 昨日青梅のブックオフで皆川博子先生の『妖かし蔵殺人事件』ノベルス版をゲット.中公文庫版は持っていたのだが、ノベルスは先生の若いときの写真が載っている.先生ったらきれいっ.と、ただのミーハー.
 以前巨大な猫の抱き枕をくれた講談社文庫が、またまたグッズを作ったそうで、ビーズ・クッションとアイ・ピロウをくれるそうだ.あの色っぽい猫がアイ・ピロウというのはかなり笑えるような.
 活字倶楽部からインタビューのゲラが来たらなんと14枚.ひょえーっ.読み返すのがかなり恥ずかしい.
 とみなが貴和さんに影響されて、「次の建築探偵は都市小説だ」と勝手に決め、「同潤会なら都市小説になるもんね」とは思ったものの、メガロポリスと個人が四つに組むとしたらやはりテロでしょ、爆弾でしょと陳腐な発想にたどり着き、しかるに理系はからっきしの篠田、爆弾の構造がわからない.責任取ってととみながさんに泣きついたが、「素人にも作れる爆弾の手引き」みたいな本はないらしい.教えていただいた本も絶版なり.やっぱりなー(涙) 昔「腹腹時計」という伝説の爆弾教本があったそうなんだけどね、あのころは小説家になれる見込みもなかったものなあ.だから資料は目に付いたときに買っておかなくちゃ.

2002.12.02

 半月遅れで誕生日の行楽をしてきた.多摩川の上流に建つ日本旅館.大正から昭和の初めに建てられたというのだが、斜面に沿って渡り廊下が延び、そこに離れ風の小体な日本座敷が幾棟もある.案内図を見ていると、日本建築というのは西洋建築とはまったく違ったものなのだなあ、と改めて感じる.無論玄関はあるのだが、どこが正面ともつかず、中心軸もなければシンメトリーもない.地形に従ってフレキシブルに伸びる生物めいた建築物だ.
 アングロサクソンにおいて発達した本格ミステリでは、日本に来ても舞台としては西洋建築が圧倒的に多い.だがこういう西洋的な目から見れば奇妙きわまりない建築に泊まると、こんな建物をミステリに使ってみたいな、という気がしてくる.西欧的価値観から見れば奇妙、しかし日本的な視点でなら変哲もないという、落差が面白い.島田荘司氏の『龍臥邸事件』は、渡り廊下によって環状に連結された日本旅館が登場するが、まだ他にもやれることはありそうな気がするのだ.