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2002.08.31

 昨日ジムのランニング・マシーン上で転倒した.ベルトの脇の動いていないところへ脚が行ってしまい、右から倒れてそのままベルトにより床の上に放り出された.右肱と左膝をすりむき、今日はまだ膝が痛い.運動能力の低下を思い知らされる状況なり.

 今日は姉と新宿で、「増田彰久と行く上海クラシック建築紀行」の事前講座を聴講した.普通の旅行では見られない戦前の建築を見られるというので、すぐに仕事に生かす目処は立っていないのだが、やっぱり行くことにした.深春ファンの姉は「そういうところで深春が活躍して欲しい」と勝手なことをいう.

 ああ、八月が終わってしまった.週明けには角川スニーカーのホラー・アンソロジーのゲラと、小説ノンの第一回ゲラを戻さなくては.そして次回を書き出さなくては.ムハンマドのはずが聖徳太子が出てくることになったので(イスラムも出すけど)、いっそ夜行バスで斑鳩へ行ってこようかしら.サウジアラビアは行きたくたって行けないもの.

2002.08.30

 以前有栖川ファンの若い友人から某サイトを教えてもらい、そこにアップされている火村シリーズのパロディ小説を読んでいた.おもしろいので感心した.日常の淡いエピソードというのが、こうした読者の書くパロディの相場だったが、この人はアクションやハードボイルドが好きらしく、ハイジャックものや連続爆弾魔事件なども扱って、それなりに読ませてくれる.その人が初のオフ本(活字の本のことをこう呼ぶ.手紙をアナログ・メールと呼ぶがごとし.時代だねえ)を作るというので、友人に頼んで買ってもらった.パソコンの画面で読むのと、紙上で読むのとはやはり印象が違う.残念ながら今回の感想は「けっこうがんばっている、でもプロにはまったく及ばない」だった.
 篠田は別段、プロは常にアマに勝つとは思っていない.先日紹介した光原百合さんは大学の先生で、ことばの意味から言えばセミ・プロである.しかし彼女の作品には、当然ながら「アマチュアの素人っぽさ」などない.彼女はふたつの仕事を持っているというだけで、どちらにもプロとして立ち向かっているのだと思う.また、他に仕事を持っている人が、趣味として小説を書いて本を作ったりネットに発表する、そして楽しむというのは、それはそれでありである.純粋に書く楽しみを味わっているのは、きっとこういう人であろう.
 しかし今回の本は体裁を某社文庫そっくりに作っているというお遊びもあって、その分ダイレクトに足らざるところが見えてしまう.まず視点が混乱している.三人称ではあるものの、登場人物全員の主観描写が登場してしまうのだ.それでなぜいけないと言われるかも知れないが、その理由は長くなるから略す.とにかく少なくともあと30年は、プロの作家なら「これでいい」とはいわれまい。さらに登場人物全員が感情過多である.感動を盛り上げるための方便だとはわかるが、読者にそのような内部の事情が透けて見えるようではまずい.高村薫の禁欲的な描写がそそるのを感じる人なら、ここは押さえ気味の方がいい.さらに、せっかく東京地下鉄におけるテロという現代的なモチーフを設定したのだから、もっと紙を使い、ことばを使ってそれを描写しなくてはならない.あまりにたやすく首都が壊れ、あまりにたやすく解決に向かう.それは作品全体をうすっぺらにし、ひいては作者が書きたかったのだろう主人公二人の感情の交流すら薄くしてしまう.悪役の描写も惹かれるものがある分、もう一工夫欲しいところだ.
 面識のある人ではなし、当の作者にこんなことを告げるつもりはない.彼女が趣味の小説を書き続けたいのなら、別に進歩を求める必要もないのだから.ただ、見るからに楽しみの同人小説に向かって、篠田は批評したりはしない.つまりこの作品が、批評し、作者が改良できるように欠点を指摘したいと思わせる程度の、それだけの力は持っていたということだ.お局はね、叩き甲斐のあると思う人しか叩かないのだよ.当たり前でしょう.だれにいったって恨まれるんだから.

2002.08.29

 新聞で見た高崎市美術館のおもしろそうな展示を見に行く.深井隆という造形家の作品は主として樟(クス)を素材としていて、クラシックなソファの背もたれに金色の翼が生えていたりする.非常にゴージャスで幻想的.それを素材に短編を書いてみたくなる作品.「本の表紙に使ってみたいものだ」と、連れ合いと同感しきり.九月二十三日までやっているので、近隣にお住まいの方は一見の価値有り.高崎駅から徒歩五分.
 昼は公園近くのロシア料理店で、クーラーが壊れている中でボルシチ、ピロシキなどを食する.ロシア紅茶も飲んで汗ふつふつ.うちは昔旅行に出たとき、最初の国がソ連で、いろいろ大変だったりおもしろかったりしたものだから、そのときの味がけっこう覚えているのだ.
 仕事場に戻ると昨日買った本の山がもう届いていた.早く仕事を進めないと、すべてつんどく本になってしまう.

2002.08.28

 東京に出ると必ず池袋を通るので、そこの本屋に行くことが最近一番多い.小説ノンの第二短編はまた書き出せていなくて、世界史年表を見ていたらまた別のことを思いついてしまい、買う資料は増えるいっぽう.おまけに吉田秋生の『YASHA』最終巻とか、『百鬼夜行抄画集』フィギュア・プレゼント付きとかまで買い込んでしまうので、とうてい持ちきれなくなって、宅急便で送ってもらうことに.
 午後、友人柿沼瑛子先生に同人本の作り方を講義してもらう.
 夕刻、神保町の本屋をちらっと見て祥伝社へ.三省堂でフェアをやるので、既刊本と新刊『幻想建築術』にサインをするという用事だったのだが、なんと新刊は百冊の山.呆然としつつ働く.ポップも書いてくれというので、「見本に」と小池真理子さんのを見せられると、字は上手いし、バランスは決まっているし、「こんなもの見たらもっと書けねえ」と涙した.

2002.08.27

 ここ数日残暑.昨日は寝そびれて転々.篠田はわりと不眠症っぽくなりやすい.別にそれほど神経質な方ではないと思うのだが、寝る前に仕事のこととか考えるとどうもダメだ.
 自分の欠点を上げればそれこそ数限りが無く、不眠症くらいなら二、三日寝られなければいずれ眠るけど、特にいけないと思うのが頭の切り替えがへたなこと.つまりいろんな仕事が並行してできない.昔はひとつずつ片づけていれば良かったのだが、最近はそうもいかなくなってきて、いよいよ頭がぐちゃぐちゃだ.
 結局とりあえずK書店のライトノベルの書き直しを、一度最後まで終わらせておくことにした.入稿は11月なので、いったんプリントアウトして読み直す.データがなくて手打ちにしてもらったので、誤植がやたらとある.『綺羅』なんか念校まで見たのに、いまのところ誤植四カ所.早く増刷になってくれ.というわけで、増刷にはもともとなりそうもないライトノベルは、もっと慎重にやりたいのだ.再校は著者に見せないとか、空恐ろしいことをいわれてたまげたよ.手抜きじゃないかい.
 しかし数年前に書いた作品を読み返して、それは文章書き直し書き足しは多々あるが、これってけっこうおもしろいじゃん、と自分で悦に入ってしまった.こんなこといって嘲笑うのは、もともと篠田が嫌いな人だろうから、別にいいけどね.ジャパネスクでエコな異世界ファンタジーです.来年の二月三月に続けて四冊出ます.昔中公のノベルスで出たもののリニューアル.未読の方はぜひよろしく.

 明日は祥伝社のフェアのため、サイン本を作りにいく.その前にK沼先生に同人本の作り方を教えてもらいに.「エッセイ・インタビュー・建築探偵番外編再録ぷらす書き下ろし」の豪華内容本は、A5だけど100頁越すことが確実.今年の冬コミ売りですが、通販いたします.問題は何部刷るかってことなんだけど.200じゃ少ないか、300じゃ多いか.足りないで困るのもなんだから、300刷って置こうかな.
 というわけで明日は日記の更新休みます.

2002.08.26

 仕事の方はあまり代わり映えがしない.このページは一般読者のために書いているのだし、某出版社のぐちなど書き並べてもあまり益することはないであろう.読者は知らないだろうけど、作家は大変なんだよ、みたいな話題はいくらでもあるけどね.
 というわけで今日は一冊の本を誉める.光原百合著『十八の夏』双葉社、1600円と税、であります.表題作は今年度推理作家協会賞短編部門受賞作だが、必ずしも知名度の高い作家ではないから、いきなりハードカバー1680円というのは二の足を踏む読者もいるかも知れない.でも、これはちゃんと金額に見合った本だから、安心して買ってください.どうしてもお金を出したくない人は、学校なり地域なりの図書館に購入申請を出そう.
 光原さんの作品は、どちらかというと「日常の謎」派である.今日「日常の謎」派の中興の祖といえば北村薫さんだが、「日常の謎」というのは実は「バラバラ死体続出の奇想天外な本格ミステリ」なんかよりずっと書くのが難しい.連続殺人事件なら容易に醸し出される緊張感が、たとえばお隣の猫の誘拐事件では相当の筆力がないと描き出せないからだ.北村薫さんはこれに「人間の中に潜む悪意」というビターを垂らすことで、「日常」と同時に戦慄や恐怖や悲嘆を作品化することができた.
 しかし光原さんの作品には、これまでその種のビターが欠けていた.それは無論彼女の信念であったかもしれず、やさしい人柄から来る必然だったかもしれないが、無責任な読者としては物足りない気持ちがどうしても残ったんである.落ちよ、汚れよ、光原、と篠田は心の内でつぶやいた.
 だが、彼女はここにいたって見事脱皮してみせたではないか.「日常」でありながらさりげないビター、しかし上品さや美しさはまったく失われていない.文体は良き水のごとく喉を通り、美酒のような色鮮やかな幻影を読者に与える.落ちも汚れもせぬまま、彼女は美しい日常のミステリの花を咲かせた.
 万歳、光原百合.君に薔薇の花束を.そしておいらは物書きの穴蔵に戻るよ.これ以上由無し事を書き連ねて、嫉妬の馬脚を現さぬうちにね.

2002.08.25

 昨日はビールをたらふく飲んで沈没.しかしまさか二日酔いにはならないのである.「龍」の次を書きたいのだが、ムハンマド、いわゆるマホメットだね、を出すなんぞといってしまったことに後悔しきり.イスラム教に対する教義的な素養がなきに等しいからだ.それにムハンマドがどんな顔をしていたのか、さっぱり想像ができない.ローマ皇帝はいやに写実的な肖像が残っているので楽だったが、ムハンマドはアラブ人だから、昔シリア、ヨルダンあたりで見かけたアラブ男の顔を思い浮かべればいいのかなあ.風俗的にも現代のことはわかるが、六世紀はどうだったのかよく分からない.
 考えあぐねて『根の国』の手直しを始めてしまう.それでも「龍」はさっさと書かないとなあ.イスラムでもオスマン・トルコあたりなら資料はあるんだが.

2002.08.23

 遠出をする暇がないので、近場で一泊二日の夏休みをした.鎌倉浄妙寺の境内にある大正期の洋館が、石窯焼きのパンのレストランになっている.緑美しい庭のそよ風を楽しみながらビールを飲む.夜は横浜のホテルに泊まり、シーバスで山下公園に出て、中華街で食事した後、ギリシャ・バーでレツィーナ・ワインを飲む.松ヤニをまぜたギリシャのワインは、昔旅行をしたときにおぼえた思い出の味.
 翌日は赤煉瓦倉庫の前を通って大桟橋へ.1980年ここからふたりでソ連船に乗って旅立ったのだ.いまは木の板で波打つような不思議な建造物が桟橋上に造られている.中華街で昼食と買い物.その後横浜そごうで北原照久アート・コレクション展を見る.ご本尊がいた.
 めいっぱい遊んだせいで、今日は沈没状態.明日は友人とビール・パーティなので、またしても日記は休み.すみません.来週からはまじめに働きます.

2002.08.20

 台風一過でさわやかな気候.
 ちょっとのんびりと同人本用エッセイを書く.これまで秋月杏子さんの同人本に書いた建築探偵の短編から、すでに売り切れになった古いものを数編、エッセイとインタビューからなる本で、ページ数は小説が50,それ以外が50というところ.小説を書き下ろししようかと思ったが、分厚くなりすぎるかも知れない.問題は何部刷るかだ.200では少ないかも知れないが、300では多いだろうな.
 イスラムそのものはやりにくいので、もう少しリアルさを減らして暗殺教団で行こうかとも思うが、資料はあるだろうか.祥伝社担当から電話.イスラム事典を買ってくれたそうな.うーん、とにかくがんばります.来週祥伝社にサイン本を作りに行くので、そのときに神保町を歩いてみるか.少しは涼しくなってきたようだし.
 明日明後日は夏休み.でも資料は持って行きます.というわけで次の更新は金曜日の夜.

2002.08.19

 結局龍の短編は前後編で238枚になった.祥伝社の担当に連絡を取ったところ、一回150枚までは大丈夫だといわれ、ほっ.しかし、バランスの問題があるから、その後の短編もそれくらいの枚数で行きませんかといわれ、シーン.古代ローマは山ほど資料があったから、おまけに舞台もわかっていたから書けたけど、イスラムの話はなあ.ムハンマド(マホメットのこと)の生きていた時代の人は、どんな家にどんな服を着て、なにを食べていたか、全然わからないもの.こりゃ小説にはならんわ.
 仕事が一段落した夕方、冬に出すインタビュー本の資料としてエッセイを書きとばす.さて、どんな本になるやら.
 講談社文庫の部長から、八重洲ブックセンターで売り上げのランクに入っていましたと嬉しいお知らせ.しかし一カ所誤植があるんです.ああ、早く増刷して.

2002.08.18

 今日も台風の接近を横目にじりじりと.結局前半が105枚で、後半は130枚になってしまう.果たしてこの枚数で掲載は可能なのだろうか.二度に分けると少ないし.場合によっては情景描写等を削って短縮バージョンを作るか.メフィストみたいな枚数制限のない雑誌に慣らされると、他へ行ってから苦労いたしますね.

 最近若い友人から教えてもらった某ミステリ・サークルで、そこにアップされているパロディ短編を読んでいる.キャラの日常を写したサイドストーリーというのはどこでも見かけているが、この人はちゃんと事件を起こしてミステリにしているのもある.ちゃんと謎があり、意外な解決があり、キャラも生き生きとしている.やはり「やおい」なわけなんで、そういうのを許せない人はダメだろうけど、篠田は「こいつぁもったいねえっ」とか思ってしまう.
 最初はパロディのつもりで書いていたものを、キャラの名前とプロフィールを少しいじってオリジナルとして出す、というのは、ミステリの場合特におかしなことではない.この前カッパノベルスでデビューしたうちのひとりも、カーのオマージュ長編だった.サイトに作品をアップしている人は、むしろキャラクターの書き込みが厚いので、元となった作品と印象は必ずしも重ならない.ちょいと変えればそれが元パロだった、とは気づかれないかもしれぬ、と思う.ハイジャック事件を扱ったのなんかサスペンスも落ちも見事だったし、爆弾事件に巻き込まれたふたりの話も、もう少し背景や描写を足したら「いけるっ」という感じだった。
 そうはいっても、なにがなんでもプロにならなくてはいけないというものではなし、趣味で書いて満足しているなら、なにも獣道に足を踏み入れることはない、とも思うのだよね.篠田も仕事しなくても暮らせるくらい金持ちの子だったら、好きな小説を好きなように書いて、同人本でも作って満足していたかもしれない.でも篠田は天才でも秀才でもないので、読者や編集者から叱咤されなくては、自己満足なダメ作品しか書けないままだったろう.んで、同人本作ってもちっとも売れない、というだけだったろう.だからまあ、獣道もありがたいと思うし、十年経ってそこそこ居心地が悪くもないんだけどさ.

2002.08.17

 「龍」をじりじりと書き直す.結局前半は105枚にて終わり.夕飯を作る暇がなかった上に遅くなってしまったので、車でファミレス風の飲み屋に行くが、篠田が失敗したような料理(つまりもともと素人の料理がさらに失敗してるような)の上に、またしても味の素攻撃でげんなりする.待てよ.この前のG角も今回のG風も、福岡あたりが本店の店だった気がする.あのへんは味の素が好きなんだろうか.

2002.08.16

 やっとこすっとこ次回「龍の黙示録」短編集、タイトルはたったいまとーとつに思い浮かんだが『時空の漂泊者』(いまいちかなあ)の第一編「終わりなき夜に生まれつくとも」の前半を手入れし終える.結局これだけで100枚になってしまった.後半はすでに百枚超えているので、もしかしてもっと増えてしまったらどうしよう.古代ローマ編だけで半分になったら、「あんまり漂泊してないぞ」ってことになってしまうかも.まあ、ともかくこの週末で後半も決めてしまうのが目標である.それともいっそ居直って、三分載にするつもりでもっと書いてしまおうか.物語は、それを求めている感じもあるんだなあ、実は.角川の仕事を後回しにしたおかげで、前倒しにできた余裕もそろそろ危うくなってきた.
 その角川、「根の国」リニューアル版はいまのところどうなるか、皆目不明である.あちらは一週間の夏休みになる直前に、データと「10月末までに戻してください」というメールをよこしたきりだが、シリーズ・タイトルの変更の件がまだ解決していない.それなのに直しなんかできるはずがない.そもそも12月刊行という予定を了承した記憶もない.待っていてくださる読者にはきわめて申し訳ないが、これは決して篠田のせいではないのだ.物書きの使命は良い物語を読者の手元に送ることで、その「良い物語を作る」という根本が揺るがせられるなら、それは断固鬼婆のように文句を言い、戦わなくてはならない.
 最近『中島梓小説道場』全4巻を頭から読み返しているので、「小説を書くと言うこと」「小説を書くことを職業として選択すること」「小説家であること」といった主題がしきりと頭に浮かぶ.篠田はひとつの賞も取ったことのない、来年でプロ10年といっても、まことに片々たる三文小説書きでしかない.出版社から声をかけてもらう有り難さも、理解してくれる編集者と出会う喜びも、渡した原稿にいつまで待っても返事がもらえない心細さも、忘れることなどできないくらいつい先日のことだ.
 そんな人間が、所詮庄屋に対する猟師でしかない身が、お買いあげ下さる庄屋様に苦情をいっていいのだろうか、というような弱気は常に胸の内にある.そんな自分を支えてくれるのは「良い物語を作るために」という一点のみだ.もちろん無情な庄屋の圧制に耐えて、我が身を削って理想を追求しているのがおおかたの我が同志たちだろう.彼らのためにも、上げられる声は上げたいと思う.いつか篠田は庄屋に対して楯突いた罪で、流罪を申し渡されるのかもしれない.それでも黙っていたらなにも変わらない.と思うのはたぶん篠田が全共闘世代の生き残りだからだ.49歳目前でこれほどファイトを湧かせてくれるのだから、庄屋様にもありがとうというべきだろうか.

 明日は更新できたとしてもかなり遅いです.

2002.08.15

 午前中、文庫の担当に『灰色』のゲラを渡す.9/15刊.そのまま地下鉄で有楽町へ.国際フォーラムでやっている、なんだかコンセプトがわからない現代芸術の展示を見に行く.というか、その中で「レオナルドの最後の晩餐の食卓を再現している」というのを見に行ったのだが、食べ物の現物を標本のように並べただけなのには、ちょっとがっかり.どうせならそのまんま食卓を作って見せて欲しかった.もっともパンやオリーブ油やニシンの薫製をそのまま試食させる、というのはちょっと面白かったけど.あ、ワインが抜けてましたぜ.おかげで口の中がニシン臭くて.
 銀座を少しうろうろするだけでエネルギーを使い果たし、神保町へ行く元気はなくして池袋で参考書を買って帰る.この前までは古代ローマづくし.今度はイスラムづくし.不死者が歴史の中をあちこち動くのは楽しいが、資料代がかかってかなわぬ.
 帰宅すると徳間の担当から「天使の血脈」シリーズのチラシが届く.コミケで配るつもりでいたのだが、結局間に合わなかったのだ.こりゃ、冬まで持ち越すしかないなあ.A4カラーの美麗なチラシ、欲しい人は篠田まで.ただし「折らないで」というひとはそれなりの大きさの封筒と、120円切手添付のこと.不足したらその分の送料は持ちます.

 昨日は高殿情報に一部不正確な点があった.篠田の早とちりなのであわてて訂正.好きな物語が終わってしまうと突然いわれたので、かなり逆上していたらしい.グイン・サーガほど書けとはいわないが、せっかくいい設定なんだから、もう少し続けて欲しかったなあ.
 というわけで篠田はいまだにグインを読み続けている.小生意気でも意気盛んだったイシュトバーンの無惨な変貌、レムスの無惨、アルド・ナリスの悲惨、そして今回はシリーズの巻頭を飾った美花が一輪散った.こういう感慨は確かに、86巻読み続けただけのことはある.まあ、誰もが50巻だ100巻だと書けるわけでもないし、篠田は建築探偵本編15巻だってふうふういってるんだが.

2002.08.14

 あっと驚くことに、またサイン会をやることになってしまった.今度は祥伝社のハードカバー本です.『幻想建築術』というファンタジー.あまり売れそうもない本だから、こういうかたちで広告しようといわれれば、嫌ですとは言えない.でも、本は高いし、やったばかりだし、シーンとして誰もいない状況はいやだなあ.どうかお時間のある方は、お助け下されい.
 9/6金曜日 午後六時から三省堂書店神田本店です。

 午前中は『灰色の砦』チェック.二度読み返して満身創痍状態.でも、文庫は決定版を造るつもりなので、それなりに面白くなっていると思うよ.
 午後からやっと『龍』の短編直しを始めるが、そこに友人に貸してくれと言ってあった『中島梓小説道場』が届いて、手元がお留守になってしまう.だって、おもしろいんだよ.彼女の作品の熱心な読者とはいえぬ篠田だが(グインだけは読んでるけど)、小説を書くことに対する真摯と熱情、書き手を指導し引き上げてあげようとする思いはひしひしと伝わってくる.

 さて、ここでちょっとショックなニュース.以前日記で紹介した角川ビーンズ文庫の高殿円『遠征王シリーズ』が次回で終わってしまうらしい.篠田はこれがとても好きなので、まだまだ話のたねはあるだろうにと大変に残念である.評論家じゃないもので、「世紀の傑作」とかそういう評価はできない.でも、とにかく面白くて好きなの.自腹を切らずに送ってもらったりすると、ああ、ごめんなさいねといいたくなるくらいに.応援の意味で買いたいじゃないですか、好きな作品は.
 コミケやサイン会で読者の方にお会いして、「日記のおすすめ本が参考になります」といってくれた人が何人もいた.つまりそれは篠田と本の好みが似ているんだろうから、安心してお勧めします.指輪以来の異世界ファンタジーと、グインの成功で一ジャンルを築くに至った疑似歴史小説は、魔法や神話の要素とリアルさの配分がとても難しい.それを高殿さんは上手に成功させている.その上キャラもいいんだ.私は主人公のアイオリアにべた惚れである.
 女性の王様というと十二国記の陽子だが、彼女はくそまじめでいささかつきあいにくい.アイオリアは女のくせに女たらしで、戦上手で、そうは見せないけどいろいろ悩みながらちゃんとがんばって王様しています.いつも男にしか惚れない私を惚れさせたキャラです.なくならない前に買って読んで読んで.
 『わが王に告ぐ』『ジャック・ザ・ルビー』『エルゼリオ』『ドラゴンの角』『黎明に向かって翔べ』
 よろしくね。オスッ。

2002.08.13

 青山ブックセンターで妙なものを買ってきた.「青色結晶製造キット」.昔理科の実験で、飽和食塩水から大きな塩の結晶を作るという実験があったが、これは同じようなもので、ただし硫酸銅のきれいなブルーの結晶ができるらしい.理科系でもないくせに、こういうのが好きなのだ.しかしミステリ作家だから、「子供に触れさせるな」って、毒性はどれくらいかなー、などとも思う.
 まだ疲れが取れないまま、メフィストをぱらぱらと読む.笠井潔先生が「カケル・シリーズの外伝」という連載を開始された.第一回は短いが、ラストでいきなりドキリとさせられる.どうしてドキリかは、お手にとってご覧下さい.いつも楽しみにしている竹本健治さんの(なんで彼は「先生」でなく「さん」なのか。心理的な距離感かなあ)『ウロボロスの純正音律』、今回もページ数は少ないが、これまたラストでどっきり.でも、ここに出てくる篠田真由美はあんまり本物と似てません.なぜか自分以外の人は、とっても似ているんですけどね.
 午後から『灰色の砦』文庫版再校のチェック.困ったくせでまたあちこち訂正を入れてしまう.お手数で本当に申し訳ない.しかし、馬鹿でおナルなことをいうと思われるだろうが、この話読み返しても結構おもしろい.特に犯人限定の手際など、ミステリ的にいってもわりといい線いってるんじゃなかろうか.文庫の発売予定は九月半ば、解説は尊敬するミステリ評論家の鷹城宏さん.たぶんこの解説だけでも、買ってみる価値はあるんじゃないかと.だって、篠田の作品で論じられることがほぼないでしょ。評論家の視点を知るのも、作品味読の一助になりまっせ.ちなみにここまでの解説者は順に、笠井潔、千街晶之、倉知淳の各氏です.いずれも力作.

2002.08.12

 さすがに頭も身体も死んでいる.ずるずると片づけをしてはまた寝っ転がって本を読んだり、サイン会でいただいた手紙の返事を書いたりする.すると祥伝社の担当から電話があって、9/1刊行の『幻想建築術』でサイン会をやりませんか、という.おいおい.しかしこの本はわずか5000部である.とすればサイン会で50部でもさばければ、馬鹿にならないということはではないか.ううう、である.

 最近読んだ本 『オルファトグラム』井上夢人 講談社ノベルス もてあますくらい分厚い本だが、これはひさびさにページをめくる手がもどかしいくらい面白かった.特殊な嗅覚を持ってしまった青年と、殺人鬼の動きがスリリング.だがそれより圧倒的なのは、嗅覚情報を視覚的に受容することになった青年に見える、さまざまなにおいの図像だ.これが信じられなければ、小説は瓦解する.しかし読むにつれて、読者の視野にもそれが見えてくるような気がするのだ. 

2002.08.11
 
 午前中、連れ合いと落ち合って新宿へ.いつになく心臓がどきどきいってきたので、生ビールを一杯あおって景気をつける.サイン会に来てくださった皆さん、本当にありがとう.あんな暑い中を並んで、篠田のへたくそな字をもらって下さったというだけで恐縮の極み.差し入れもお気遣いいただいてすみません.でも、篠田は読者からのお手紙が一番好き.整理券に書いていただいた感想もすべて読みます.どうか、これからもよろしく.
 終了後講談社文3の部長と文庫の部長と担当で会食.与太話の間に新企画が勃発した模様.自分で自分の首を絞めているというか、かえって忙しくしてしまうな、と反省もあるが、できるときは無理をしてもやってしまうのが仕事、という気もする.これも詳細が決まったらお知らせだが、メフィスト誌上で掲載になるような仕事です.でも、小説ではない.

2002.08.10

 ひとりの宿泊なのでのんびり朝食をルーム・サービスで取る.しかし紅茶を頼んだら、ポットが来ずにティーバッグがついていた.部屋に電気ポットはあるが、紅茶というのはたとえティーバッグでも、ポットを熱湯で温めて、十分蒸らして、ということをやると全然味が違うのだよ.つまりカップにバッグをほりこんで、沸騰もしていない湯で、というのは、篠田をしていわしめるなら紅茶ではない.せっかく高級ホテルだと感動したのに、いささか割引の感あり.
 高校時代からの熱心な読者と池袋で落ち合い、その夜はこゆいトークとアルコールで過ごす.

2002.08.09

 7時25分のゆりかもめで国際展示場入り.暑い暑い一日でかき氷をかっこむ.やはり金曜日のためか、入場者はいまいちで、特に退けが早かった.サインをさせてもらったり、汗ばんだ手で握手を求められたり、差し入れをいただいたり、いろいろありがとうございました.夏コミの「大沢探偵事務所」の新刊には篠田も寄稿している.夏コミ後そちらのサイトから通販が開始されるはず.これも決定したらお知らせします.

2002.08.08

 コミケの前泊で台場のホテルへ.到着後スーツケースのハンドルが壊れていることが判明.宅急便にかけて問い合わせたりしてから、あわてて友人と待ち合わせ場所へ.途中で今度は買って間もないバッグの金具が紛失していることが判明.占いなど信じない篠田だが、なにも一日に続けてこわれなくとも、私がなにかしましたか、という気はした.
 ハンドルの壊れは宅急便で補償してもらおうと思ったら、ホテルからお金をもらってしまい、かえって申し訳なかった.さすがに高級ホテルだけのことはある.

2002.08.07

 『綺羅の柩』の英文翻訳英会話監修でお世話になった女性と、一杯やった.彼女もかなりの酒豪だから、無論一杯とはいかないけど.以前から話していた篠田の10周年記念インタビュー本、なんとかこの秋に実行しようという話になる.同人本として作って、可能なら冬コミと通販で裁く予定.詳細が決定したらお知らせします.

2002.08.06

 龍の短編古代ローマ編の後編を、一応終わらせる.しかしラストの一行がしっくりしないので、プリントアウトを後で手入れするということで、一応コミケ前の仕事は終了.あわてて仕事場の掃除.眠気が差してきて昼寝.まことにだらしがない.
 『綺羅の柩』で誤植を発見.念校まで見たのに、と情けなくなる.

 明日はジム.夜はインタビューをしてくれる友人と打ち合わせ.これは来年本にして出したいと思っている.プロ生活10周年記念本だ.ページが少なかったら、同人本に寄稿した建築探偵の短編を合わせて載せる.
 8日は外出、9日はコミケ、10日は友人が遊びに来て泊まる.11日はサイン会.というわけで日記の更新は次の月曜日までお休み.皆様も良い夏休みを.日曜日にお暇でしたら新宿紀伊国屋にいらして下さいませ.

2002.08.05

 メール、ネット専用のパソコンが急にキーボードを叩くたびにぴーぴー言い出して、なにごとならんと思ったら電池切れだった.そんなことが判明するまでに半日かかる.まことにふがいない.
 仕事の方は105枚まで来て一応終わりに近いが、ラストの文章がぴったり決まらないので明日に持ち越しである.どうにかこうにか終わりそうだ.この調子で行けば九月中に半年分の連載の原稿が作れる計算.今年はあと一回『アベラシオン』があるが、なんとかビーンズ文庫の『根の国』の直しと、U山さんご注文のジュブナイルミステリにも手をつけたいものだ.
 篠田のページトップにある「篠田真由美の館」リンクをクリックしてもらうと、幻想文学のサイトの中の篠田のページに跳ぶ.石堂藍との「大火通信」七月末にまた更新した.ぜひ読んでやってください.

 最近読んだ本『ツール&ストール』大倉崇裕 双葉社 作者の顔を知っているからといって、それと作品世界を安易に結びつけるのは禁物だ.しかし『三人目の幽霊』に続く大倉氏の本作品には、前作と似た「涼しさ」「スマートさ」「やさしさ」が流れていて、作者が私に与える印象と重なってくる.おもしろいだけでなく、作者が人生に払い込んだ経験という名の通貨が見事に輝いている作品.といってもまさか作者がすりや万引きをしているとは思わないが、うっかり読んでいると自分でもできそうな気がしてくるから、作中の探偵ほど道心堅固でない我々は要注意である.

 『作者不詳』三津田信三 講談社ノベルス 作者の前作『ホラー作家の棲む家』では見事にだまされた.なにがって、作中に登場する庭園が名称由来ともまさか実在のものとは思わなかったら、そのまんま現実に存在したのだ.これ、ほめているわけではない.ちょっとがっかりしたのだ.今回の作品もつまらないとは思わないが、読み終えて充実感はさらにない.この妙に索漠とした気分はどこに由来するのだろう.叙述トリックも『十角館』で出会ったときは清新な驚きだったが、このトリックはミステリという身体を病ませ、弱らせる毒があるように思う.本作のように「これでもか」と叙述トリックの連打を浴びると、驚くより「あーあ、もう好きにして」という気分になってしまった.

2002.08.04

 週明けでしか直らないはずのサーバーがなぜか直ったらしくて、今朝になると使用可能になった.昨日はサーバーは異常ないからおまえのハードがいかれたんだ、というような対応をしたくせに、変だと思ってたらやっぱりそっちのせいじゃないか.といっても津早く使える分にはありがたいのでまあいいや.
 龍の続き、やっとこ87枚.コミケ前にぎりぎり上がるか、というところだ.そろそろ荷物も作らなくてはならない.夕方になったらまた雷が鳴り出したので、使用中に落雷されたらそれこそパーだと思って、あわてて電源を切ってしまう.

2002.08.03

 朝仕事場に行くと、メールも送れなければネットにもつなげない.どうやら昨日の雷雨でサーバーがどうにかなってしまったらしい.電話で問い合わせるも、結局のところ週明けでないとわからないそうで、いささか憂鬱な週末である.というわけで金曜日以降篠田宛にいただいたメールは読めていません.どうか悪しからず.

2002.08.02

 銀座で土砂降りの雷雨に会う.『綺羅の柩』の見本刷りをもらってくる.今回は前より少し薄いのだが、やはり1000円越してしまった.若い読者には申し訳ない.ところでサイン会の整理券は8/7から,紀伊国屋新宿本店で配布されるそうだ.なにとぞよろしく.来てさえいただけたら、整理券なしでもサインさせてもらいますので.

2002.08.01

 講談社からファンレターが何通か回送されてきたので、それの返事を書く.基本的にもらった手紙には返事を書くことにしている.今回も、一生懸命返事を書きたくなるような手紙ばかり.若い人がこずかいを削って小説を買ってくれていると思うと、「厚い本で単価が高くなってごめんよー」と頭を下げたくなる.でも、ありがとう.
 しかしたまに変な手紙が混じっていて、今回も差出人住所氏名がないものがあった.当然のことながら、こういうものは読まずに捨てる.非常識であり無礼である.間違っても名前をどこかで出されたくないという人は、その旨中に書き添えればいい.といって、手紙をくれた人の名前を外に漏らしたりするはずはないが.とにかく、どんな理由でも封筒に差出人が明記されていないものは、篠田の手元には届かないのでそのおつもりで.
 
 龍の続き、ちょっと足踏み.後一週間で書き上げればいいのだ.

 明日は帰りが遅くなるので日記の更新は休みます.