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2002.07.31

 お外で食事などしてくるとたいてい翌日はぐったりしてしまう.でも龍の続きを書き続けて68枚まで.うーん、100枚くらいで終わるかなあ.いざとなったら書いた部分を切りつめないとならないかも.

2002.07.30

 講談社文庫書き下ろしエロティカのために、イラストレーターとしてご指名させていただいた加藤俊章さんと、担当のHさんとで打ち合わせ.篠田は自分がイラストレーターを指名した以上、気にしないで好きにやってねという気分だったのだが、それは加藤さんにしてみれば嬉しい意外だったらしく、とても喜んでいただいた.美しくてエロティックでスタイリッシュな本が出きるものと期待してしまう.わりと18禁ではありますが、解禁されたら読もうと思って買っておいてくれてもいいかもよ.

2002.07.29

 龍の続きを書き続ける.41枚まで.やっとハドリアヌス帝が登場したが、主人公はまだ出てこない.あと2.3枚のうちには出てくれるはずだが.今回はいつにもまして先が見えない.書きながら「あっそうだったのか」などと口走っている.

 明日は夜打ち合わせのため日記はお休み.

2002.07.28

 土日は近所の郵便局が休みなので、歩いて15分ほどのショッピングセンターの中の郵便局に行く.帰りに茶店でコーヒーを飲みながら、龍の一回目の赤を入れる.わりといい感じだと思うのだが、小説というのは苦労して書いたのがいつもいいとは限らないのと同様、作者が満足しているからいいとはいえない.少なくとも篠田は自己作品を客観評価できないのだ.評論家体質の友人など、自己批判が強すぎて小説など書けないといっているから、多少陶酔癖があった方が小説家は安泰である.

 最近読み終えた本から.
 『黎明に向かって翔べ』高殿円角川ビーンズ文庫 篠田はこの人の小説をわりと買っている.日本語がちゃんとしているし、キャラは立っているだけでなく整合性があるし、異世界を想像しようとする意志がある.今回は遠征王シリーズの外伝で、同時代の東の国の事件を描いたもの.おもしろかったが、中国風異世界ファンタジーというのは、なべて「十二国記」シリーズの成功で、その驥尾に付す感が強くなってしまった.
 『紅一点論』斎藤美奈子ちくま文庫 この人の著作は初めて読んだが、とてもおもしろかった.アニメや特撮に現れる女性性の問題をフェミニズムの観点から読み解いたもので、タイトルはウルトラマンの科学特捜隊(だっけ?)に女が常にひとりしかいない、というところから.知らない人はフェミニズムの分析などというと、頭がいいだけの女がヒステリックにあれもこれも切り捨てているような印象を持つかも知れないが、そういうことはない.私もそういうのは苦手だから.でも女である以上フェミニズムの視点を捨てることはない.エボシ御前は好きだけどね.男性ならどう読むか知りたいところだ.

2002.07.27

 昨日メフィストのゲラが来た.いつまでに戻すんだろうな、と思ってカレンダーを見ていたら、来週の月曜日は29じゃないか。八月の一週に出るはずの雑誌のゲラが今来たりしていいんだろうか.なんか今回はすごく綱渡り.予定では今回を含めてあと三回.無事に終わりますように.
 今日から龍の続きを書きだした.やはり資料固め読みの効果は上がっている感じで、書けそうだなというわくわく気分がある.さあ、がんばるぞ.

2002.07.26

 仕事場に泊まったがなぜか眠れず、徹夜で龍のラストを書いてしまう.ラストといっても連載一回分、100枚弱.あちこちの時代を転々とするという当初の趣旨からすると、ちょっとバランスを欠くのだが、どうしても皇帝ハドリアヌスを出したいので、もうひとつこの続きを書く.この調子なら少なくともコミケ前に二回分は書けるな.ある程度そちらを進行させたところで、角川のデータが来たら「根の国」をさくさく直すべし.しかしシリーズ・タイトル、変なのにされたら嫌だなあ.
 少し寝たがクーラーを切ったら汗まみれで起床.元中井英夫の助手氏から、来年の十周忌にあわせてオマージュ本を出すから短編を、という話が来る.一も二もなく承諾.パスティーシュとはとてもいえないが、『薔薇奇譚集』の逸文という想定で、薔薇の話をひとつ、夢幻能の形式で書いてやろうか.来年はいよいよ大変なことになりそうである.
 自宅に戻ると倉知淳さんから献本お礼のハガキ.なるほど、なんとなく倉知さん、いままでになくアグレッシブだ.この調子だと「まほろ市」に続いて猫丸短編集が出て、今年度は著書二冊ということになるのではないか.すごいぞ、倉知さん.がんばってね(はあと).

2002.07.25

 午後光文社のH氏と打ち合わせ.メフィストの終わるまで待ってくれといい続けていたジャーロの連載だが、八月刊をふくめてあと三回でというつもりになったので、そろそろ開始時期を決めなくてはならない.結局お願いして来年秋からということにする.こちらは一回100枚程度なので、メフィストよりは楽だろう、と思う.
 三時から本格ミステリ作家クラブの執行会議.議事とは別に北村薫さんが発するギャグがおもしろくて、ついつい吹き出してしまう.一番面白いのはここで書けないブラック系なのでご容赦.釣りのリールの話をしていて突然「上海帰りのリル」を歌い出す北村さんはとってもお茶目だ.
 後で会食.二階堂黎人さんから新世紀謎倶楽部の新しい企画が出てくる.大変そうだけどおもしろそうだねえ、という感じ.なんか来年はすごいことになりそう.

2002.07.24

 昨日の続きの同人本短編直しをする.いますぐ本にする予定もないのに、ページ末で文章を終えるように整えずに入られない、もはや脅迫神経症だわ.
 午後からは龍の続き.今日で幸いティベリウスを殺せました.エピローグをつけてとりあえず最初は終わりか.しかしハドリアヌスを出したいので古代ローマ編続く.
 半沢氏、翻訳ソフトで工具のマニュアルの翻訳を試みるが、なぜか「種馬」は跳梁するわ「角笛」は鳴るわでわけがわからない.こいつは翻訳ソフトではなく、自動ファンタジー作製ソフトだったのか.

 明日は本格ミステリ作家クラブの会議で遅くなるので、日記はお休みします.

2002.07.23
 
 ペーパーのコピー、郵便局へ本の箱をかついでいくだけで汗汗汗.データがクラッシュでなくなった建築探偵同人本短編を、スキャナで取り込んでみるが、印刷が悪いとてきめんに文字が変になる.きれいなのをやっても油断はできない.記号はほぼ全滅だし、。と.とかみんなだめ.そもそも本のままでは影ができたりして読み込みにくいので、コピーをとってやったのだ.
 そんなことをしていたので、本番の仕事は60までも行かなかった.まだローマ皇帝をぶち殺せない.それはまあ痩せても枯れてもローマ皇帝.しかしイエス・キリストを処刑した当時の皇帝ティベリウスというのも、相当ひどい皇帝だったらしい.晩年の七年間はカプリ島の豪華別荘に閉じこもって、どこまで史実かしらないが美少年と酒池肉林をしていたともいう.最後は反乱の親衛隊長に暗殺された.まあ、無論皇帝が自ら「イエスを殺せ」といったわけじゃないが、怒りのぶつけどころはそこにしかないものね.

 角川の編集さんからデータの件で丁重なお電話をいただき、かえって恐縮してしまう.打ち込みを下請けに出していたら、そこでクラッシュしてしまったそうな.下請けというのは、もしかするとそれで数日分の労働がパーになるんだろうか.同情に堪えない.

2002.07.22

 午前中『首断ち六地蔵』霞流一を読む.読み切りの短編がそれぞれ解決されていて、最後でもう一度きれいにどんでん返しする.おもしろかった.でも、お寿司はいくらトロが美味しいって、トロばっかりだと飽きると篠田は思うんです.美味しいものは最後にとって置きたいほうなんで、じらされじらされ最後でたどり着く方が楽しい.好みの問題だと思いますが.このへんの話は、上記本の霞さんのあとがきを読んでいただくとわかることになっています.
 後はひたすら仕事.今日で40枚を越してしまった.何枚ぐらいで終わるんだろう.150くらいかなあ.一挙掲載できるか、前後編か、まだ時間があるから編集さんに考えてもらおうっと.

2002.07.21

 仕事の前にお返事用ペーパーの原稿を作成する.新刊情報だけでは申し訳ないので、今回のおまけは「建築探偵キャラの夏はどうして過ごしますかインタビュー」.登場は京介、蒼と翳、深春、朱鷺と遠山.ほんとは門野老人も書きたかったが、紙が残らなかった.たぶん彼は伊豆あたりの高級旅館の離れで、専用露天風呂に浸かって、浴衣の美女に背中を流してもらうのであろう.ちなみに京介は「昼間はできるだけ外に出ないようにする」.
 というわけでペーパー17号希望の方は、できれば長三の封筒に宛名と80円切手をつけて、17号希望と書いて講談社の住所までお便り下さい.長三の封筒だと折り目が少なくて済むのです.手元にない人は宛名カードにしてください.住所は、篠田は「**様」とつけない方が好みです.そろそろバックナンバーの配布はうち切ります.その代わり、おまけページはいずれサイトの方に復活させる予定です.

 夕方からやっとこ龍の原稿再開.15枚ほどになる.これはわりと気持ちよく書けそうな感じ.今月中に書き終えられれば、来月は忙しくてくたばっていても少し気持ちに余裕が持てるなあ.

2002.07.20

 午前中は頭の疲れない小説を読むことにしたので、クーラーはなしでも平気かと思ったが、やっぱり我慢しきれずつけてしまう.午後はマルグリット・ユルスナールの『ハドリアヌス邸の回想』をやっと読み上げる.昔読んだときより、老いや身体の病を意識していくハドリアヌスの心情が実感的に感じられて、ちょっときつい気もする.きっと60代70代になれば、また違った感想が出てくることだろう.書き出し近くの「私は死の横顔を見定め始めている」というあたりがいまの実感.最終行の「目を開いたまま死の中に歩みいるよう努めよう」はたぶんいつになっても実行できない憧れだろうけど.
 明日からは龍を書き出すぞ.古代ローマ編のタイトルは「終わりなき夜に生まるるとも」.

2002.07.19

 ダメを出された書評原稿を最初から書き直す.いまさらのように思ったのは、この雑誌の対象読者がよくわからないということだ.ライトのタリアセンといってパッとわかる人なのか、そうでないのか.建築家など専門家向けではなく一般読者に向けた雑誌だといわれたが、現物を見るといかにもプロっぽいおしゃれさで誌面が作られている.かといって建築史に詳しくて興味を持っている読者が読むような雑誌には見えない.どちらかといえばデザイナー向けっぽいというか.
 ともあれもう一度できた原稿を送る.電話で編集者と話していても、依然として読者のイメージが湧いてこない.

2002.07.18

 一足早く夏休みをもらって先ほど帰宅.これは仕事日誌なのでレクリエーションのことは書かない.戻って日記をチェックすると、休み前に入稿した原稿にダメだしが来ていた.世の中甘くない、というわけで明日はそれをやってから『龍』の読書を続行する.

 読んだ本.『花面祭』山田正紀さん.生け花のことはからきしわからないのだが、とても面白く拝読.知っていればきっともっと面白かったに違いない、と思わせる.予備知識がないから理解しにくい小説、なんてものは二流の作だ、と自戒も込めて.
 『終りなき夜に生まれつく』アガサ・クリスティ.なるほどなー、だった.これの変奏曲を書いてみたくなった.なぜ突然クリスティかというと、このタイトルが頭に浮かんで、タイトルしか知らないので、読むべしと思ったのである.古典を馬鹿にしてはいかん.

2002.07.16

 台風の雨の中池袋へ.ラーメンを食べてリブロをささっと見て本を買い、講談社の担当と会って『綺羅』の念校を返す.初校再校念校とあって、普通は念校は著者は見ないものらしいが、今回二度は他の仕事に追われて鉛筆の指摘だけ見て済ませたので、読み返すとことばのだぶりなどがやたら目につき、さらには説明していない伏線もひとつあったりして、行をずらさないように四苦八苦しつつ直した.『アベラシオン』のゲラも戻す.家に戻ると『綺羅』の表紙が再度来ていて、やっと決定.まったくもって面倒な書き手である.担当A氏に心から感謝.

 行き帰りで読んだ本.「瑠璃城殺人事件」トリックは本格、構造は幻想.前作の「クロック城」よりはずっと好感を持った.しかしこれだけのトリックなら、こういう幻想小説の構造をやらかさなくとも、十分読み応えのある本格になった気がする.本格マニアはずっと喜んだことだろう.それを敢えて、というのは作者の好みの問題なのかな.
 ひとつだけ、どうでもいいことだけど12世紀のフランスでは、シルクのドレスは着ていないと思う.『アベラシオン』とか、建築探偵でも、蘊蓄部分がものすごく校閲からつっこまれるのだが、こういうのは見落としてしまうのかしらん.

 明日明後日外出.次の更新は金曜日の夜になります.

2002.07.15

 昨日から読み始めた書評対象のの本『タリアセン・ウェスト』を読む.フランク・ロイド・ライトがアリゾナの砂漠に作った工房兼建築学校の写真集に、当時からそこにいた人のエッセイがついている.書評の足しにしようと谷川先生の『タリアセンへの道』を再読.ライト見学旅行記だが、これが面白くて読みふけってしまう.タリアセンの説明は先生の文章を借りて、一応書き終えたがやや後ろがつまった感じ.しかし明日も外出、明後日から二日も出かけるので、とりあえず送って見てもらうことにする.
 そうしたら今度は原書房から「新本格15周年本」のアンケート的な文章の依頼が来ていて、こちらも月末までとあまり間がないので、書いてしまう.九月に刊行されるそうだ.書誌的な意味のある本になればいい.
 講談社Uさんから電話.例の企画、菊地秀行さんは年末までに書かれるのだと.おお、篠田もがんばらなくては.こちらは来年六月までに、と約束する.でも、時間が取れたら早めに書いた方がいい.時間に追われて不本意なことになったら嫌だから.

2002.07.14

 昨日の夜暑くてちゃんと眠れなかったので、今日は眠くて仕方がない.労働意欲に欠けることおびただしいが、昼寝している場合ではない.昨日から始めた『綺羅』のゲラにつぎつぎとあらが見つかってしまう.それがやっと終わると、今度は『アベラシオン』のゲラ.誰のせいでもない自分が悪いのだが、やたらと参考文献が多いので、校閲の人もいちいち確認するからすごく大変で、しかしそれに「?」がつくと今度はこちらが再度調べることに.無論間違っていることもままあって冷や汗ものなのだが、なかには向こうの勘違いとか、説は両方ある場合とかもあって、なかなか時間がかかる.机と本棚の間を立ったり座ったりの繰り返し.レオナルドの「最後の晩餐」の遠近法の焦点の位置とかねー.キリストの右のこめかみか右目か.篠田の参照した資料は後者であったのだ.

 幻想文学のサイトで載せてもらっている「大火通信」が久々の更新.篠田のトップからリンクがありますので、ぜひご一読を.今回は小説におけるキャラの名前のことなので、読者の方にも興味はおありでないかと推察.ちなみに「大火」とは蠍座の主星アンタレスの中国名で、蠍座生まれの篠田にちなんでいるのだが、こんな季節だと字を見るだけで暑いのである.

2002.07.13

 郵便局と買い物に出たついでに、駅の本屋でコミケカタログが売られているのを発見.まさかこんなところで見つかろうとは.
 『タリアセン・ウェスト』を読むつもりだったが、考えてみれば『綺羅』に目を通した方がいい.で、読み直しを始めると、この期に及んで直したいところが続々.あー、申し訳ない.
 午後担当A氏から電話.出張はどこへ行っていたのかと思えば、某有名作家の趣味に付き合って、台風で荒れる南海の海で船に乗りゲロを吐いていたそうな.物書きがどれほど大変な仕事でも、編集者よりはいいと思う.
 夜、この前の焼き肉屋があまりにまずかったので、手近なところで口直しをする.我がベスト焼き肉屋は新宿の長春館なのだが、さすがに遠くてなかなか行けぬ.

2002.07.12

 こういうのは勢いなので、『レディM』をいっきに直し終える.かなり消耗.夕方徳間書店のK氏来訪.『堕とされしもの』の下巻見本をいただく.書店に並ぶのは一週間程度先になる模様.徳間はSFジャパンも快調なようで、いっとき冬の時代だったSFも勢いを取り戻したらしい.明日明後日は島根県山中でSF大会が開催される由.交通不便な山中の温泉地と、SFのマッチングがなんとも楽しい.
 講談社から『綺羅』の念校、『アベラシオン』の初校.X−knowledgeからは雑誌見本と書評用の『タリアセン・ウェスト』.明日からさっそくこちらに入る.角川には悪いが、おかげで安心して他の仕事ができる.

2002.07.11

 捨てる神あれば拾う神ありというわけか、新しい仕事がやってきた.建築知識社、現在は改名して横文字の社名になったらしいが、そこが去年から刊行した一般向けの建築雑誌「HOME」にフランク・ロイド・ライトの本の書評を載せるので書いてくれという.どういうご縁かいまいちわからないが、篠田のようなど素人にこういう話をいただけるとは光栄の限りである.文字数も2000字とわりとまとまっているので、きちんとしたものを書かなくてはいかん.
 午後講談社文庫のH氏来訪.官能小説『レディMの物語』は今年の11月か12月に刊行の運びとなりそう.加藤俊章さんのイラストがとても楽しみだ.というわけで早速なおしにはいる.角川のおかげで七月が開いたので、祥伝社を前倒しするつもりでいたが、これで少しは埋まってしまった.ありがたやありがたや.
 自宅に戻ると角川から詫び状が.詫びてもらうより、こういうことがないようにして欲しいのだよね.結果的に他の仕事を安心して受けられるようになってしまったのだが、物書きというのは基本的に口約束の世界なので、相手が信頼できないとどうにもならないのだ.あちらは旦那、こっちは猟師ってなもんで.じゃあ狐は読者か.これ藤八拳の話です.若い人はわからないかな.

2002.07.10

 今日もなんだかあわただしい.仕事場に行くと角川のマンガの編集部からFAXが来ていて、10/1発売の建築探偵コミックにはあとがきを2頁書いてくれというので、今回はレギュラーの座談会にする.こういうお遊びはすぐやってしまうのだ.外は嵐でなんとなく気分が落ち着かず、資料を読むのも集中できない.上記コミックのおまけは、担当に大いに受ける.と゜んなものでも受けるのは悪い気がしない.
 午後メールチェックすると、徳間からは『堕とされしもの』下巻の見本が上がる由.講談社からは『綺羅』の表紙案.角川ビーンズからはやっと担当のメールだが、まだデータはもらえないらしい.来週ということはすでに月中で、いくらなんでも予定通り今月中に四冊分の手入れをするのは無理である.こういうことで腹を立てるのは「わがまま」だろうか.良い仕事をしたいというだけなのだが、どうもこういうことが起こりやすいので、角川の体質かなどと思いたくなる.結局『根の国の物語』はいつになるのかわからない.シリーズ・タイトルのこともさっぱり決着しないし、篠田も責任を持てないのだ.

 久しぶりにジムに行って、夜仕事場近くの焼き肉チェーン「G角」というのに行ったが、あっと驚くまずさだった.味の素味しかしない.店の混んでいるのに索漠たる思いを味わう.こんなものでもうまいと思う人間が大半なら、外食なと゜できません.

2002.07.09

 本日は『ローマ皇帝ハドリアヌス』と『ローマ五賢帝』の二冊を読了.完全に趣味的読書と化しつつある.まあ、いずれ芽が出ることも.というのは、一番知りたいことを書いてある本が見つからないから、というのもあるのだ.
 そもそもイエス・キリストの処刑に責任があるのは誰か、ということなのです.当時ユダヤはローマの属国だった.福音書ではイエスを処刑しろと主張したのはユダヤの大祭司たちで、ローマから派遣されていた総督のピラトはその気がなかったけれど押し切られて「私は知らない」と匙を投げたということになっている.しかしそもそも十字架刑というのはローマの、奴隷や反乱者を処刑する方法だし、処刑したのはローマ兵だし、最終的な責任はやっぱりローマにあったのでは.というわけで当時のローマはどうなっていたかと思ったら、ティベリウスという皇帝は統治に嫌気が射してカプリ島の別荘でジル・ド・レのごとく美少年をいたぶって遊んでいたらしい.政治は側近に任せっぱなしだったというのだから、驚いたね、まったく.というわけで、ローマは別に「イエスを殺せ」ともいわなかったらしい.これこそ「事実は小説より奇なり」だけど、責任の所在を追求したい者にとっては、なんともやりきれん話であった.というのはお話に入れよう.というわけで頭をちょこっと書き始めた.

 サイン会の日取りが決定.8/11午後三時から新宿紀伊国屋本店.とはいえ前回と違って、本の発売からサイン会まで間がないので、来てくれる人は不便かな.

2002.07.08

 ひたすら古代ローマ関係の本を読んでいる.こんなにゆっくり資料を読めたのも久しぶりだが、よく考えてみると、短編一本にしてはずいぶんたくさん資料を集めてしまったと今更のように思う.しかし好きなのだ、資料読みが.
 まだアマゾンに頼んだ資料も全部届いてはいないのだが、冒頭場面が浮かんできたので、龍の前作を持ってきてぱらぱら読み直す.意外とおもしろいぞ、などと思う.建築探偵については最近毀誉褒貶誤解偏見が多い感じで、少し創作意欲がそがれたりもするのですよ.こうなったら意地でも、妙な誤解はさせないようにしないと、とか思って.いや、誤解するのは読者の自由なんだけどね、頼むから自分の誤解と作者の意図を混同しないで.さもないと続けられなくなる.

 最近読み終えた本.『青空の卵』坂木司 主人公二人の雰囲気としてはまんがの「迷宮」シリーズを思い出した.最初はちょっと文章にひっかかったが、なれると気にならなくなって、楽しく読了.ひとつだけどうだろうと思ったのは、この主人公「引きこもり」というけれど、ちゃんと外出もできるし、他人とコミュニケートできるし、「引きこもり」とはいえないのではないか.というか、いう必要はないのでは.本当に深刻な悲惨な「引きこもり」というのは社会に存在しているので、こういう引きこもりとはいえない状況に「引きこもり」ということばを使うのは、まずいのじゃないかとちょっと気になりましたです.

2002.07.07

 梅雨は明けたのだろうか.朝からめちゃめちゃ暑いのである.池袋の本屋へ資料探しに.しかし本は重い.非常に重い.帰りの電車の中で『はじめて話すけど……』フリースタイルというインタビュー本の、皆川博子先生のページを爆読.しかしいくら先生の読書の後をたどっても、「皆川博子」にはなれないと思うぞ.
 古代ローマ史の資料読み.だいたい資料を読んでいると目的以外のことに頭が向いてしまうのだが.
 このところ夕方に一時間程度、いまは仕事になってない原稿を書く.知り合いのまんが家さんと、原作と絵で共作しようというプランが持ち上がったので.これはなかなか楽しい.本当は西洋史ものがやりたいのだが、けっこう大変だから、とりあえず現代物でやってみることに.
 最近読み終えた本 祥伝社文庫のまほろ市もの、最後の一冊になった摩耶さんの.ラストの意外性に関してはこれが一番だった.

2002.07.06

 『灰色の砦』のゲラを少し離れた郵便局まで持っていく.それだけで汗だくだ.午後は龍のシリーズの続きのために、古代ローマ帝国の資料を読む.昔々高校生の時、古代ローマを舞台にした小説を書きかけたものだ、と久しぶりに思い出す.なんのことはない、趣味は三十年前も今も変わってない.
 もう少し本が欲しくなったので、明日は東京に出よう.ほんとは日曜は人が多くて嫌なのだが、編集者から電話がかかると悪いので.こういうときの場合は、携帯があった方がいいのかなあ.

2002.07.05

 妙にせわしい一日.午前中から『灰色の砦』のゲラチェック.昼過ぎU氏より電話.来年早々には彼の旗振りによる少年少女ミステリ図書館に参加することになる.夏の第一陣はすでに錚々たるメンツで埋められたそうなので、こちらは早くとも秋の第二陣になる.予定タイトルは『魔女の死んだ家』.メインのトリックはごくささやかなものだが、演出できれいなひっくり返しができないことはないと思う.
 講談社文庫のHさんからは、官能小説のイラストのことで、篠田がお願いしたイラストレーターの加藤俊章さんと打ち合わせをする話.加藤さんがお忙しいようなので、本になるのはいつかまだわからないが、チャレンジャー篠田としてはとても楽しみ.
 三時から祥伝社の担当と、編集長来訪.仕事とはあまり関係ない話が多かったが楽しかった.とりあえず『幻想建築術』は9/1予定.建石修志氏の表紙挿画を得て、美しい本になりそうだ.小説ノンはぎりぎり八月末に最初の原稿を渡し、九月売りから開始.今回は中編連作なので、まずは古代ローマから.アイディアが生まれつつあるので、ちょっと楽しみである.
 祥伝社が帰ってからゲラの残りを済ませる.直しが多いから、少しでも早く返さないと悪い.たぶんこれは九月になるのだろう.
 メールのチェックをすると角川から、まだ『根の国』のデータはもらえないらしい.シリーズ・タイトル変更の問題もあって、いささか憂鬱な状況.こちらが来るまでは古代ローマの資料を読んでいることにしよう.

2002.07.04

 鎌倉の神奈川県立近代美術館に野中ユリさんの個展を見に行く.とても美しい.無意識にしみ込んでくる作品群.

2002.07.03

 朝コンビニからゲラを送って、車で国際基督教大学の博物館でやっている「日本の箱展」を見に行く.キャンパスの広大なること、世にもせせこましい我が母校を思えば落涙というくらい.誰も他に客のいないところで、ゆっくりと花見弁当のたぐいを眺める.こういうのを持ってお花見に、というのは、粋でいいね.いくら無礼講といっても、花の下で焼き肉をやっちゃあいけねえ.
 比較的近くなので深大寺方面に走ってそばを食うが玉砕.帰り道、ガス資料館に寄った.赤煉瓦の建物が美しいが展示はちゃちい.
 仕事場に戻ると担当から留守電.サイン会は8/10でいいか、と.夏コミの翌日だ.しんどいだろうなあ.

2002.07.02

 午前中は昨日書いた原稿に赤を入れ、手直ししてプリントアウトの作業.また少し伸びた.午後担当来訪.締め切りを破ってしまったが、篠田が最後ではないのに少しほっとする.『綺羅の柩』のゲラを渡される.いつになっても校閲の指摘が入ったゲラを見るのは嫌だ.文法的に正しくない表現でも、それを全部直してしまったら自分の文章ではなくなってしまう.今回はミスも見つけてもらったが、どう考えても読み間違えの指摘が二カ所もあって、ますます気分がささくれ立つ.
 夜は近所にホタルを見に行く.実はホタルの名所があるのだ.幸い誰もいない.蛙が鳴く、ホタルが点滅する.それをじっと眺めていると、ささくれもだいぶ落ち着いた.自宅に戻るとU氏から新シリーズの企画書がFAXされていた.野心に満ちた企画.篠田にはこれに答えられるだけの力があるだろうか.

2002.07.01

 ワールドカップ決勝戦の行方は気になったが、元からのサッカーファンでもないのにそれを口実に仕事を滞らすのはやはりあかんだろう.というわけで、日曜日は仕事場でがんばった.サッカーはラジオで聞きながら夕飯にしたが、あれは音声ではやっぱりぴんとこないね.
 だいたい篠田はいつも原稿は終わり近くなる方が速くなる.というわけで、無事今日の午前中『アベラシオン』の連載第七回を書き終えた.結局190枚超えた.連載の途中だというのに、この疲れ方はなに、というくらいへろへろになってしまった.普通ならこれをプリントアウトして、少し経ってから読み直して赤を入れるのだが、今回は自分のせいでその時間がない.明日担当が取りに来てくれる.というわけで、ちらかりまくった仕事場をあわてて掃除した.
 夏に祥伝社から出る『幻想建築術』の表紙ラフが届く.建石修志さんはやはりいい感じだ.久しぶりのハードカバー.若い読者には『センティメンタル・ブルー』の値段でも高すぎるといわれてしまったが、やはりたまには出したいものです、四六判も.たとえ悲しくなるほど売れなくてもね.篠田は出したハードカバーは少ないけど、それぞれみんな気に入っている.これも好きな一冊になりそう.

 自宅に戻ると前から手紙をくれている男性読者からお便り.この方はまめに日記をチェックしてくださっている.蒼のことでちらっとこぼした愚痴をフォローしてもらった.ありがとうございます.篠田はもともと根暗で気弱で消極的な人間なので、けなされればすぐにへこみます.それでも慰められればまた立ち直ります.キモチワルイには、マジで蒼の気分になって嫌でしたけど、蒼もどこかでそんなこといわれてるかも知れない.でも彼は篠田より強いから、なにをいわれても踏みとどまって前を向いていてくれるでしょう.彼は篠田の「こうありたかった自分」のひとつの表現です.