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2002.06.29

 きびしいのである.それでもどうにか終わりが見えてきた.しかし150枚は突破確実である.ページ数の制限がないのはとても嬉しいが、制限があるからここはすっとばそう、というわけにはいかないので、そのへんしんどくもある.
 明日は泊まって残りを一気に、とか思ったら、ワールドカップ決勝戦だ.うーん、どうしよう.

 少し前に読んだ本一冊『ナチ将校の妻』ウィーンの中流家庭に生まれて法律を学んでいたユダヤ人女性が、ナチの侵攻により教育の機会も親兄弟も恋人も奪われて、名を偽ってドイツ国内で暮らし、ナチの青年と結婚する.青年は彼女の告白を聞いても、かまわないと答えてくれたが、彼女は夫の機嫌を損ねぬようひたすら従順な妻として戦中を生き延びる.すごい人生だと途中で止められなくなって読み通した.しかしドイツ人の亭主というのは、一昔前の日本の亭主族そっくりだ.

2002.06.28

 昨日は珍しく二次会はパスして仕事場に戻ったが、やはり仕事はできず.今日再度書き続けて、節の切れ目で一度メールするが、メールした後でまたそこを直してしまう、まことに非能率的な篠田です.しかし今日は120枚突破.なんとかこの調子でつっぱしらないと、イラストが入らなくなってしまう.竹本健治さんは「どうしてそんなに速く書けるの〜」などといつもの竹本調でいっておられたが、お尻に火のついたネズミ状態です、篠田.へたすると長編のゲラが三本たまってしまう.昔はパーティで編集さんに声をかけてもらうのが嬉しかったが、いまはちょっとこそこそしてたり.やはりここは倉知淳さんの爪の垢をいただかないといけませんな.

2002.06.27

 今年の推理作家協会賞パーティはいろいろびっくりすることがあった.
 その1、『アラビアの夜の種族』で受賞された古川日出男さんの挨拶が抱腹絶倒.4枚の短編を朗読する迫力に一同大爆笑.
 その2、乾杯の音頭をとった小松左京さんのぼけ二連発.光原百合さんを法月綸太郎の奥さんと間違え、法月さんには法水麟太郎のご親戚でしょうかといわれた.冗談だと思う、たぶん.
 その3、篠田が某女性人気作家と間違えられた.似てはいないと思うんだが.しかし間違えたお嬢さん達、あせったのはわかるけど、そういう場合はきちんと挨拶していってくださいね.人としての礼儀です.
 その4、山田正紀さんにお別れの挨拶をしたら、「いつも日記拝見してます」といわれ、取り乱した篠田は「うそ、なんでそんなもの見てるんですかっ」と叫んでしまった.そしたら「笠井さんがいつも見てるっていうから」ですって.いえ、嬉しかったんですけど、でも照れくさいです.あんまり変なこと書かないようにしなくちゃ.(これで?)

2002.06.26

 最近だいぶぼけていると思ったら、マジぼけていた.推協のパーティは明日だったのだっ.行っちゃわなくて良かった.わざわざメールをくれたO君K君ありがとうございました.
 というわけで今日は仕事のまま.温泉行きたい温泉行きたいと唱えつつ.しょうもないので昨日のアンケートはがきの質問から1つ.
「篠田さんは少女マンガはお読みになりましたか.京介は『はみだしっ子』のグレアムがモデルでは」
 お答えします.篠田は三原順がたいそう好きでした.『はみだしっ子』も大好きでした.一時はかなりのめりました.でも、あの中で一番好きなのはサーニンでした.私がいうことじゃないけど、グレアムは少々うっとおしかった.それとラストがねー.なんか、読者を道の途中に放り出したまま終わらせたような感じがして、これはないだろー、と思ったものです.
 たぶんグレアムと京介の共通点は、あのうっとおしく物事を突き詰めて、かつ自己嫌悪チックに考え込む性格ですね.そういえばグレアムもあんなにマックスに慕われながら、「ぼくはいつか行くんだ」みたいなことをいって、ほんとに行ってしまったりしましたっけね.私もあれを読んでいたときは、「かあーっ、グレアムの馬鹿たれっ」とか怒ったものなのですが.
 そういわれてみれば似ていますね.意識的にモデルにしたわけではありませんが、どこかで影響がある可能性は否定しません.というか、影響って与えるものと与えられるものに共通点があるから、呼応してしまうものですよね.というわけで、私の中にはグレアム的なものがございます.読んでいて腹が立ったのは同族嫌悪だったのでしょう.

2002.06.25

 原稿が進まなくて胃が痛い.ホットミルクを飲んだらいくらか楽になった.本日やっとこ84枚.
 講談社からアンケートハガキが送られてきたので目を通す.早く書け早く書けといわれても、質を落とさないようにするにはいまのペースで精一杯だよお、と思いながら見ていたら、70歳の女性から「長生きして次も次も次も読みたい」と書かれていて、思わず粛然とした.あああ、ごめんなさい.一生懸命いいものを書きますから、どうか長生きなさって下さい.
 それ以外の方、早く読みたいも、京介の秘密が知りたいも、それは早く終わらせろ、というのと同じです.本編は全部で15巻.だからあと6巻.番外編は数に入れませんが、泣いても笑ってもあと6年で終わりますので.6年なんて過ぎてしまえばすぐですよお.

 明日は推理作家協会授賞式とパーティ.光原百合さんが短編賞を受賞されたので、「いいなー」とかいわないで祝福しに行かないとならない.でも、原稿が詰まっているのだから、二次会には行かずにさくさく帰ってきて、夜は仕事場で働くつもり.というわけで、次の日記更新は木曜日になります.

2002.06.24

 案の定お休みした後はうまく頭が動かない.というわけで今日はやっとこ69枚.あー、危機の日々は続く.パーティで宇山さんに会ったら「なんか、追いつめられているような顔してるじゃない?」といわれてどきっとした.当てずっぽうにしても鋭いよ、うー様.
 この前大阪であった読者からお手紙.この人は長いつきあいだが、自分の考えていることをきちんと文章にして伝える力を持っているので、こちらもすぐに返事が書きたい気分になるのだが、うーん、これも少し我慢だよね.
 ここんところで読んだ本.今日読んだわけではない、念のため.
 『家族の行方』出たときに読んでいたはずなのだが、文庫になって読み返したらなぜか前よりおもしろく感じた.
 『紅の悲劇』霞田志朗好きです.ちょっと離れていたら彼をいじめる怪しい準レギュラー・キャラが出ていた.なんだろう、こいつ.
 『誰がツタンカーメンを殺したか』古代エジプト大好きだった昔を思い出して読んだ.
 『ジャンヌ・ダルク リュック・ベンソンの世界』映画の資料本.ところで、この映画で初めてジャンヌの髪型が歴史通りに描かれたということに、気づいている人はあまりいないらしい.

2002.06.23

 ホテルの部屋がたばこ臭くて安眠できなかった.昼前に有楽町で連れ合いと落ち合って、建石修志さんの個展を見る.壁がもっとあったら一枚欲しい感じ.ランチはプランタン上のベトナム・アリス.演出に偏っている感あり.ベトナム料理はもっと美味しいぞ.
 読んだ本『わからないという方法』橋本治 彼のファンです.『クリムゾン・リバー』宮部みゆきさん大絶賛らしいのだが、それほどでもなかった.精神分裂症に関する記述が、非科学的で差別的でもあった.もちろんそこがメインではないんだが.それにしても、悪の扱いというのは難しいものだのお.

2002.06.22

 本格ミステリ作家クラブ総会がもよおされる.大賞は『ミステリ・オペラ』.山田正紀さんはラブリィだ.パーティ、ばたばたしている間に時間が過ぎて、いろんな人と話も中途半端になってしまう.西澤保彦さんは篠田以上の修羅場状態らしく、去年は光原百合さんと三人で前夜から食べて飲んでしゃべって過ごしたのに、たった一年でみんな忙しすぎてゆっくりおしゃべりもできないというのは、なんや悲しいものだなあ.
 会った人、講談社文庫の部長と担当、文三の担当、元文三の部長、祥伝社の担当といろいろ、徳間書店の担当、東京創元社の仕事してないけど一応担当、新潮社の方、文春の方からも名刺をもらったが.もっとさくさくどんどん仕事をしたいものだなあ.

2002.06.21

 今日は久しぶりに気分がハイである.昼間はだらけて過ごしてしまったのに、夕方からがんばって62枚に達したからだ.それならずっとがんばればもっといく、とはなかなかいかないんですが.ちなみにノベルスの時は頁の字組で書くので*頁、だが、雑誌掲載の時はそうはいかないので30かける40で打って400字換算で書いてます.
 読んでいる本は大阪の古本屋で入手した『ヒトラー最期の真実』.ソ連から放出された資料で描く自殺直前のヒトラーの生々しさ.

 しかしちょっとむかつくこともあって、某ネット本屋の書評に、「蒼がキモチワルイ」と書かれていた.男が20歳で泣くな、という.泣かせたかな.「センティメンタル・ブルー」の観劇シーンくらいしか思いつかない.そうか.感動して泣くのがキモチワルイのか.書いた人は男性らしいので、いやどっちにしても、こんな親に育てられる子供は不幸だと思う.でもきっとこういう人は、40過ぎのおばさんが感動して泣いてもキモチワルイというんだろう.悪かったな.『ラマンチャの男』のクライマックスで泣いたのは俺だよ.それから何度でも書くけど、建築探偵に「やおい」を見る人は、そういう感覚は自分の中から出てくるものだと知っておいて欲しい.もちろん篠田は「やおい」を否定しないけど、自分の作品のすべてが「やおい」だなんてことはない.そんなふうには書いていない.誤解するのは読者の特権だが、誤解だってことは承知しておいてもらいたい.あなたたちは自分の影を見て笑っているのですよ.

 明日は本格ミステリ作家クラブの総会と授賞式とパーティなので、日記の更新はお休みします.山田正紀様『ミステリ・オペラ』受賞おめでとうございます.

2002.06.20

 だいぶ腹の調子が戻ってきた.しかしコーヒーは飲む気がしない.篠田は仕事中はほとんどコーヒーなのだが、しかたないので今日はミント・ティー.ベランダのプランターで伸びすぎたミントを切って、やかんで煮出す.別にうまいわけでもないのだが、お白湯よりはいいかも.
 仕事はようやく40枚突破.しかし先は長い.まあ、明日までに50枚越せば、来週で100枚は過ぎるだろうし、そこで出来た分まで入れて、残りは第一週までにどうにかするのだ.「承前」にして次号回しにしたい誘惑がなくもないのだが、延ばせば結局自分の首を絞めるだけでしょう.といって、あんまりゆっくりやっても次の仕事が来ちゃうんだけどね.

2002.06.19

 日本負けましたね、サッカー.まさかそのせいでもあるまいが、突然胃が失調.痛いというよりは重くて、食欲ゼロ.というわけで半日なにも食べていない.断食道場にでも行ったつもりで、とは思っても、食べないと身体に力が入らなくて、仕事ができないではないか.ほええ〜

 というわけで、やっぱり今日も仕事は出来なかった.七転八倒するほど苦しいわけではないので、仕事場でごろごろしながら本を読む.祥伝社400円文庫の、架空の町を舞台にした競作集、4冊のうちの3冊読んだ.いまのところでは我孫子さんのが一番おもしろかった.しかし、せっかく同じ町を設定した効果はそれほど上がってない気がする.
 以前異形コレクションで、「グランドホテル」という、ひとつのホテルの特定の一日を舞台にした競作という企画があった.設定があまり緻密ではなかったが、ホラーなのでそのへんは気にしないということで、井上雅彦さんが繋ぎを書いて本一冊の統一感を演出していた.
 その「グランドホテル」を念頭に置いて、「そういうミステリの競作ができたらおもしろいるね」などと他の作家さんと話したこともある.無論その場合、どうやってか祥伝社でのより綿密な整合性と、事件相互の関係性をふくめなくてはならないので、まさしく至難の業だ、というわけで実現には至らなかったのだが.

 ま、それはともかく当面の締め切りじゃん.雑誌だから限界は明確だし、延ばせば延ばしたで次の仕事にぶっつくしねえ.あー、本格ミステリのパーティもう週末だよお.昔作家の「締め切りの苦労」なんてのを読んで、かっこいいなあ、とか思ったことがありました.どこかでこれを読みながらそんなことを思っている方、ちっともかっこよくなんかないです.胃に穴が開きます、はい.
 
2002.06.17

 案の定本日は沈没.カレンダーを見たら今週末は本格ミステリ作家クラブのパーティだ.まずい.非常にまずい.しかも次の週は推協だ.光原さんの授賞式だ.とてもとてもまずい.ひょっとしたらデビューしてから一番なくらいまずい.50枚でも笑わないでくれっ.

2002.06.16

 荷物をホテルから送って、徒歩で中之島へ.やっと建築探偵.日銀大阪、図書館、公会堂を外から観察.しかしこれだけ密集して大規模な近代建築が建っているというのは、建築フリークにとってはぞくぞくするような快感である.
 地下鉄に乗って道頓堀へ.川を眺めながらたこ焼きを食べる.水掛不動にお参りする.土産物屋でたこ焼きのファスナー飾りを買う.古本屋で中世の食文化の本を買う.昼飯は「はり重」でビーフカツとビール.このカツが火の通し具合といい、衣の加減といい、ドミグラスソースの味といい絶妙であった.あまりのうまさにレジをするとき「おいしかったですー」と声を上げてしまった.
 でもたこ焼きは意外とそれほどでもなかった.行列のできている大だこで食べたのだが.それとたこ昌の明石焼きもいまいち.愛のビンボーに出てきたひっぱりだこというのは、ついにどこにあるのかわからなかった.この次行ったらお好み焼きを食べようかな.
 その後また古本屋へ.送ってくれるというので山ほど買ってしまう.買いたくなるようないい本がたくさんある古本屋だったのだ.グッチャルディーニのイタリア史とか.まったく大阪は古本屋がいい.これでは古本屋だけの目的でも来たいくらいだ.もちろん建築も良くて飯も旨い.それに東京より人の愛想がいい.

 明日からは仕事であります.メフィストです.一週間後は本格ミステリ作家クラブだもの.それまでにある程度目鼻を付けないとなあ.

2002.06.15

 朝から昨夜のNさんにもうひとり先輩のHさんがホテルまで向かえに来てくれる.お互い二日酔いの影などないことを確認.たのもしいやっちゃ.阪大は緑に囲まれた、うらやましいような環境だが、建築的には早稲田や東大のようなおもむきはまったくない.
 午前中は近藤史恵さんの講演.不勉強で彼女の作品をほとんど読んでいない篠田、逆に「むむ、おもしろそう」などといまさらのように思う.そして午後はこちら.それについては実のところ、あんまり書きたくない.くだらないことばかり口走って、いうつもりだったことやいうべきだったことは全部忘れたような気がするのだ.どうか勘弁してやって下さい.くくくくく.
 夜は打ち上げに行くが、そこで初めて「イッキ」なるものを目撃.ミス研で「イッキ」というと『十角館』で、「まだやってるのか、死ぬぞ」と思う.もっとも「いまどき他ではやらないし、関ミス連でもいつもはやらない」という証言もあり.真相は不明である.まあ、それはそれなりに興味深い見聞だったが、篠田は正直騒音に弱い.ちゃぶ台をはさんで真向かいの人の声すら聞こえない上に、こめかみがずきずきしてきて、どうしようかと思った.というわけで、早々に退出.光原百合さん、近藤さんふくめ少数の人たちと歓談して帰る.喉がかれた.

 ともあれお世話になった関ミス連の皆さん、いろいろありがとうございました.不出来なゲストでつくづくごめんなさい.でも、「イッキ」にはくれぐれも気を付けてください.

2002.06.14

 徹夜明けでへろへろと彼女の家を辞し大阪へ.チェックインタイムに間があるので、昼飯を済ませてから阪急本の町という古本屋をチェック、塚本邦雄の『雨の四君子』、フェルメールの絵画盗難についての本、詐欺の事典を買う.さすがに疲れていてその後はホテルで休憩.夕方関ミス連で質問役をしてくれるNさんと落ち合い打ち合わせ.を兼ねた飲み会.
 彼女は高校の時から手紙をくれていて、文通は久しいがほとんど話したことはない.にもかかわらず、たぶんそうだろうとは思っていたが、旧知の友のように話がはずめば酒が進む.親子のような年齢差でそういう関係を持てるというだけでも、プロになれたことが嬉しい.
 サッカー日本代表予選突破.道頓堀川に全裸で飛び込んで逮捕された若者が二名いたそうな.

2002.06.13

 宝塚在住の漫画家さんと会って、本場の宝塚大劇場に見参.オーケストラ・ピットがあるのには驚いた.つまり音楽は生なのである.
 夜は彼女とワインを飲みながらよっぴで話す.彼女とは西洋時代劇好きという共通項が会って、パーティで挨拶したときお互いの作品に注目していたことが判明.以来機会があればゆっくり話してみたいと思っていた、その念願が叶った.
 篠田が原作を書いて彼女が漫画化をするというのはどうだろうという話になって、篠田が漠然と語るストーリーを彼女が鋭くつっこむというので延々.岡嶋二人さんの『おかしな二人』のエピソードそのものである.おかげでひとつまた新しい物語の芽が芽生えた.それがなにより嬉しいというのは、篠田もつくづく物書きが好きなんである.

2002.06.12

 昨日の夜暑くて眠れなかったので、今日はへろへろしている.旅行の支度、買い物などばたばた.『綺羅』のゲラは返送.
 連城三紀彦『黄昏のベルリン』読了.けっこうおもしろかったが、先日ヒトラーゲイ説を読んだばかりだったので、ちょっとぴんとこないところがあった.ヒトラーはたとえゲイではなかったとしても、愛妾を持つようなタイプではなかった気がするから.

 明日から大阪.日記の更新は16日になります.

2002.06.11

 仕事から逃げ回るように本を読んでしまう.『中野本町の家』すまいの図書館出版局 働き盛りの夫と死に別れた妻とふたりの子供が20年暮らした家を取り壊すにあたって、その家が出来るいきさつから暮らし方、そして決別の意志までをインタビューでつづった本.写真で見た限りでは、あまり好きな家ではない.家族を欠落させた三人の心がそのままかたちになったような家だった.住まいが人の心を映す実例のような家.
 やっと『アベラシオン』第七回を書き出す.ミステリの場合基本的に一視点であるべきだとは思うが、今回敢えて別の視点の場面を書いてみる.いまのところ、これでいい気がしている.
 『綺羅の柩』の校閲ゲラ到着.さぼっていた報いだ.持ち帰って夜チェックしよう.

2002.06.10

 今日も仕事はほとんど進まなかったので、関ミス連の質問と答えの話を.
「最初に読んだミステリはなんですか」 六歳上の姉が購読していた中学生雑誌、**時代とか、**コースとかいうやつ、にリライトされたミステリの付録がついていた.それでエラリィ・クイーンの「生者と死者と」を読んだ.もっとも覚えているのは、昔々鬼婆が靴のお城に住んでいた というマザーグースの歌詞とイラストのみ.
 他にもいろいろ読んだはずだが、覚えているのは作者不明の「自殺ホテル」というの.ニューヨークの場末のボロホテルで、決まった部屋で飛び降り自殺が起きる.トリックに感心した記憶があるが、いま思うとかなり馬鹿トリックである.
「自分が殺人事件に巻き込まれたとき、依頼したい探偵は」 修道士カドフェル.名探偵の理想です.こういう性格のいい探偵役を書いてみたいものだ.誰かさんみたいに、いうことをきかないキャラは最近いやになっちゃったよ.

2002.06.09

 関ミス連の世話役さんから、質問の一覧が送られてきたので、答えを書いて司会者にメールする.「ライバルと意識する人はいますか」とか、苦笑するしかない質問もあった.勝ち負けがはっきりわかるスポーツやけんかではないのだから、ライバルなんてもののいる作家さんの方が珍しい気がするが、そんなことはないのだろうか.
 他に、前にも聞かれたことがあるのは「なぜペンネームでないのか」.簡単にいってしまえばめんどくさいのだ.公私を使い分けている人なら、作家としての名と私人としての名が別にあった方がいいかも知れないが、篠田には私人の部分があまり残っていない.だからつい、開けっぴろげになんでも日記に書いたりして、思わぬ所から失笑を買ったりするわけだ.こうなると、やはりペンネームがあった方が良かったかも.
 これはありふれた質問だ、「無人島に一冊持っていくとしたら」.漢和辞典と答えた.暇を潰すのに一番いいのは自分で物語を作ることだから、その素材を持っていくのが暇つぶしには良かろう.

 『アベラシオン』、全部読み返すのは大変だから、前回だけ見直すがことばのだぶりとか目についてげんなりしてしまう.すみませんが、本になるまでちゃんと読むのは待っていてください.幾何学の話が出るので資料本を読みながらコンパスを回す.我ながらひどい不器用でちゃんと正五角形が書けない.その上これに関して、一般人の常識がどの程度がまったく見当がつかない.すっとんきょうな間違いがあったらごめんなさい.

2002.06.08

 暑くて労働意欲が湧かない.古本市で買ってきた小池真理子さんのサスペンスものを読む.年に三度の連載だと、前になにを書いたか細かいことを忘れてしまう.だから始める前にはこれまでの分を読み返さないとならないのだが、それもいい加減長くなったし、自分の小説を読み返すというのは、あまり楽しいことではない.
 自宅に戻るとこの前徳間の編集者から教えてもらった、皆川博子先生の朝日に載ったエッセイのコピーが、当の編集者から送られてきた.うれしい.先生の少女時代はそのまま『ゆめこ縮緬』の世界につながる.そのすぐそばに幻想がある.
 エッセイに登場したドクダミ、ヴェトナムではこれを生春巻きに入れて食べることを、先生はご存じだろうか.今度お会いできたら、申し上げてみよう.それにしても先生は、私が「皆川先生」というたびに、「止めて止めて」と笑いながらおっしゃる.私が「先生」とお呼びしたいのは皆川先生だけなので、ついそういっては「止めて」といわれてしまう.そのくすぐったがっておられるような笑顔が好きだ.

2002.06.07

 またうだうだと過ごして、クリスティの『開いたトランプ』読了.古本市にもう一度出かけて、文庫本を少々.いくらなんでも、明日から仕事にかからないととてもまずい.

2002.06.06

 夜学研の伝奇大賞パーティ.皆川先生とお会いできるのが楽しみで出かける.今年も大賞はなし.確か去年も思ったことだが、応募要項の「プロ、アマを問わず」を見て、応募してみたいーーなどと考える.しかし最終候補にも残らなかったら、正直な話悲惨だからなあ.はきっりいって自信はない.

2002.06.05

 近場で古本市をやるので出かけた.リュックサックを持っていった方が良かったかも.値段より重さに負けて一度取った本をあきらめる.収穫はヴィクトリアン・スタイルのインテリア写真集、皆川博子先生の『骨笛』、『エーデルヴァイス海賊団』これはナチス政権下の抵抗運動の話、『パリの断頭台』こちらは死刑執行人の家系サムソン家の物語など.
 皆川先生の絶版本は古本屋に行くたびに探している.『骨笛』は文庫は持っていたがハードカバーなので喜んで買う.装丁が美しい.小説を読む分には文庫で十分ではあるのだが、版型が違うと物語もまた違って感じられる.先生の作品はハードカバーがふさわしい気がした.

 明日は夜外出のため日記の更新はありません.

2002.06.04

 『綺羅』のゲラ、いじりまくってしまう.あとがきも大幅書き直し.編集さんにはなんとも申し訳ない.次第に蒸し暑さのつのる天気で、仕事進まず.やばい.
 昨日買ってきたCDの中で、12世紀に生きた幻視者ヒルデガルド・フォン・ビンゲンの聖ウルスラ伝説のチャントというのが、なかなかいい感じである.仕事をしているときに音楽をかけても、たいてい途中から聞こえなくなってしまうのだが、いまのように集中力を欠いているときは、慰安のつもりでいろいろな音楽を試している.

2002.06.03

 「スパイダーマン」を見に行った.おもしろかった.この前に見たのが「模倣犯」その前が「指輪」で、どちらも原作と映像、シナリオが問題になってくる作品だったから、こちらもアメコミの原作があることは事実として、2時間でちょうどよく楽しめる内容に堪能した.特に映画で見て楽しいのは糸をとばしながら宙を渡っていくスパイダーマンの妙技で、これは純然たる視覚の快楽だ.

 読了本『パンドラ・真紅の夢』アン・ライス 物語に入りやすくておもしろかった.しかし彼女の書く女というのは、どうも友達にしたいタイプじゃないね.恋人としてはもちろん、とんでもないことになりそう.マリウスはそういう相手に惚れる体質なのかも.

2002.06.02

 朝皆川博子先生にファンレターを書く.『冬の旅人』は『死の泉』を超える傑作だ.
 郵便局に行きがてら古本屋により戻ってきてから買った赤江爆『青帝の鉾』を読む.表題作のさりげない叙述トリックが気に入った.ついでに『ヒトラーの秘密の生活』を読み終えてしまう.ヒトラーはゲイであったという話.読んでいるとなるほどなあ、とは思うものの、「それがどうした」という感は否めない.へたをするとゲイ差別か、逆に免罪になりかねないテーマだ.でも、彼がドイツ第三帝国の頂点に立った時代から、ゲイ説はささやかれていたらしい.
 夕方から『綺羅の柩』のゲラを見始める.どうもまだメフィスト連載に取りかかる気分になれないのだ.
 明日は午後から仕事はお休み.

2002.06.01

 月が変わってようやく六月である.建築探偵のゲラが早くも届いている.ふだんは校閲を通してからもらうのだが、せっかくもらったのだからと、さっと字組のミスなどについて目を通す.
 官能小説をともかくも書き終える.数年前から約束していたものなので、出来はともかく一応果たしたことにしたかったのだ.しかし、これを篠田真由美の名前で出すというのは、また読者をとまどわせることになりそうだ.十八禁にでもしてもらおうかしらん.