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2002.04.30

 300頁を超えた.やっと終わりのかたちが見えてきた気がする.350頁以内で終わるだろう.

 正直言って日記は今日で止めようと思っていた.これは篠田読者に対する情報提供とお楽しみのつもりで書いてきたので、必ずしもあったことを全部書くわけでもないし、読者に興味の持てそうなことを、それなりに面白そうに書いている.多少の誇張はあるし、ギャグもある.ところが、どこをそう取ったか教えてくれないんで困るのだが、日記の記述が気に入らない人がいるらしい.イタイんだそうだ.性格に問題があるんだそうだ.そりゃ自分だって、人格円満だとは思ってないけど、不愉快ならもう見ないでくれればいいんだけど、それなら止めようか、と思った.
 しかしなぜかそういうタイミングを見計らうように、読者からの手紙が届く.日記で篠田の感想を書いたある人の作品を読んで、とても感動してくれたのだそうだ.篠田が日記で書かなければ、まず読まないだろうジャンルだった.嬉しいと思う.そういうふうに使ってくれれば本望だと思う.
 だからあっさり考えをひるがえして、当面続けることにした.頼むから、嫌な人は読まないでください.これはお遊びです.作品じゃありません.作品として書いていません.どうしても耐えられないことがあったら、講談社経由で手紙を下さい.ただし封筒の裏に住所と名前を記入のこと.匿名無名は読みません.捨てます.

2002.04.29

 仕事の方は粛々と進んでいるだけなので、書くことがない.徳間のゲラがまもなく来てしまうらしいから、あまり余裕が無くなってきたが、まあともあれ粛々.しかしそれでは見に来てくれる人に悪いので、もう少し昨日の話題を蒸し返す.

 小説の読み方は、ご飯の食べ方同様人それぞれなんで、自分と違う読み方をする者に異議を唱えるというのがよくわからない、という話.そんなにみんな、自分と同じでなくちゃいやなの? 自分と違う人が目立っていると、自分の読みが脅かされそうで嫌だとか? そりゃまた自信がないこったねえ.
 でもまあ、別にそれが重大な問題だから石を投げているわけじゃなく、誰かと悪口で盛り上がるのが楽しいんで、叩きやすいテーマのひとつにミステリ・マニアから見たキャラ燃え邪道読者、というのがあるかのも知れない.それならわかる.悪口をいうのって楽しいからね.篠田もやります.気の合う友人と、そりゃもう絶対誰にも聞かせられないというくらい激烈なのを.ごみためじゃないよ.必殺の毒ガスだ.
 だけどそれはそこだけの話.しかも相手が信頼できる友人だから.そうでなくちゃ危なくて思い切りいえない.聞こえよがしの悪口なんて嫌らしいし、聞こえよがしにできるほど安全な悪口なんていわないさ.それじゃフラストレーションが解消できないもんね.まあともかく、こういうしょうもない話題は今月限りにしたいと思います.
 篠田の作品の嫌いな読者は、できれば悪口の種拾いに日記を読むようなまねは止めて欲しいけど、読みたいならどうぞご勝手に.幼稚きわまる悪口もお互いで好きなだけいって下さい.干渉しませんから.

2002.04.28

 短編ホラーのネタがもうひとつ落ちてきて、こちらの方が面白くなりそうなので、角川はこれでいくことにする.といってもいま書くわけにはいかないので、ノートにちらっと書き付ける.建築探偵は相変わらず粛々.

 ところでなんで一部のミステリ・マニアはキャラ燃え読者を蛇蝎のように嫌うのだろう、というのが今日の疑問.自分は違うならほおっておけばいいじゃない.同人本だって、サイトだって、見たくないものは見なければいいんだから.それともキャラ燃えに引きずられてご贔屓の作家が堕落するから? だったら作者に直接文句いえばいい.
 すっかりおなじみになってしまったキャラ燃えということば(なじみじゃない人ごめんなさい)、本当を言って篠田はよくわからない.小説の主人公に感情移入するのは、エンターテインメントを楽しむときにはごく当たり前のことじゃないか.無論そうでない読み方の出来る小説というのがある、というのはわかる.感情移入できなくてもおもしろい、という小説もあるだろう.本格ミステリというのはかなりそういう物かも知れない.小説の種類が違う場合も有れば、読者によって読み方が違うというのもあるだろう.
 だけど、感情移入できる小説が出来ない小説より価値が低いなんて誰が決めた.そのへんがちっともわからない.それとも感情移入できるキャラが出てくる小説を楽しむというのと、キャラ燃えというのは違うわけか.やおい(判らない人ごめん)が嫌だというのはわかる.だって篠田も、同人本で京介と蒼がセックスしてたら「勘弁してくれ」と思うからね.でも、そうやって遊ぶのは読者の権利なんだから仕方がない.自分が「嫌だ」と思うことと、それを「あってはならない」と決めつけることは別だ.
 念のためにお断りしておくが、建築探偵のレギュラー・キャラ同士がセックスするような同人本を、篠田がそそのかしたり奨励したりしていると考えている人間がいたら、それは見当はずれです.黙認はする.それだけだ.だって、それはお客さんの楽しみだからね.あんたの書いた文章がそういうふうに誘導しているんだよ、とでもいうだろうか.揚げ足を取るのじゃなく、本気でそう思った人、あんたは小説の読み方を知らないお馬鹿さんだ.読者は自分の資質に応じて、文章から物語を読み取るもの.作者が明確に書いている以外のものを読みとったら、それは読者の中にあったものが鏡に映っただけです.

2002.04.27

 残念ながら『山荘綺談』はぴんとこなかった.建築ものは好きなので、微妙にゆがんだ館、人を迷わせる奇妙な間取り、同心円上に配置され窓のない部屋があって、といったあたりは「いいぞいいぞ」と思ったのだが、そうです、このあたりは小野不由美さんの傑作『悪霊になりたくない!』と似ているというか、小野さんがこちらを下敷きにしたのかも知れない.で、小野さんの方がおもしろかった.作者のシャーリー・ジャクスンは『ずっとお城で暮らしてる』学研というのがすごくおもしろかったので、期待したのだが.

 『綺羅の柩』は粛々と進行中.たぶん月末には300頁に達すると思うが、ページ数が稼げたって話が終わらなきゃしょうがないんだよねえ、ふう.

2002.04.26

 仕事.

2002.04.25

 午前中鶴川にある白州正子記念館を訪ねる.農家を改造した住まい.午後、小金井の江戸東京たてもの園に「東京建築展」のカタログCDを買いに行く.途中ブックオフでシャーリー・ジャクソン『山荘綺談』をゲット.幻想文学の「建築幻想博物館」ブックガイドに載っていて前から読みたかったもの.

 歩き回っている間に、今度角川スニーカーのアンソロジーで書くホラー短編のプロットを思いつく.タイトルは渋い目に「祖母の寝台」.枚数制限を確認しておかなくては.とはいえ実際書き出すのは少し先の話.

2002.04.24

 女流**家ということばは一般的な呼び方なのだろうか.篠田には少し時代遅れの響きを感ずる.しかしことばが時代遅れになったからとって、そこに含まれるニュアンスや定義付けが消滅したわけではない.「**ちゃん、女の子でしょ.そんなこといわないの」というのと同じような枷が、いい年をした女の物書きに向かってもなげかけられる.同時に女というのは若いほど商品価値があるのであり、歳食った女は女ではないという種類の罵声が、別に肉体を売っているわけではない女の物書きにも同様浴びせられるのである.ばかばかしい.女が自分の肉体に訪れる生理現象を書き留めることがなぜ恥知らずのようにいわれなくてはならないのか.
 だが、同時に篠田は、小説家に男も女もない、とも考える.精神の次元では人は両性具有であり、だからこそ異性に感情移入することも出来るのだ、と.というわけで、これから日記を書き次ぐ「篠田真由美」は女でも男でもない.肉体性に関わる表現はこれを差し止めるということで、続けることにする.

 本来の仕事日誌はこれだけ.『綺羅の柩』続行中.
 明日は外出のため仕事と日記更新は休む. 

2002.04.23

 この日記は仕事のことだけを書こうと思っていたのだが、やってみるとなかなかそうはいかない.考えてみればこの身体が仕事をしているのだから、体調が悪くて進まなければそう書きたくなるし、どこまでがプライヴェートという線引きは思った以上に難しいものだ.果たしてこれを続けることに意味があるのか、ちょっと迷いが生じている.
 物書きの肉体性に関わることをいっさい書くまいとすれば、日記は一行だけで終わってしまう.今日も『綺羅の柩』続行中.

2002.04.22

 原稿の続き.日本から直接マレーシアに行くことでカメロン・ハイランドまで書いたが、その前にバンコクを出した方がいいと思い直し、またまた訂正開始.先は遠い.

2002.04.21

 本格ミステリ作家クラブ執行委員会に出席.5/17は公開投票会.今年は出席しないわけには行かない.それを励みに働こう.
 午後から業界の友人と「ここだけの話」炸裂のお茶会.それにしても***というのは大変な仕事だ.大変でない仕事などないのだろうが.

2002.04.20

 早起きして早稲田へ.大隈小講堂で建築史学会の研究発表会を聞く.別段なんのチェックもなく入れた.しかし建築史といえば当然ながらいろいろで日本が後、日本以外が前になっていたが、日本以外の中でも、アテナイのゼウス神殿を建てた建築家の話有り、ベトナムはフエの都城の配置の研究があり、伊東忠太のノートによる帝国大学の建築教育の研究があり、震災直後のライトとアメリカにおける新聞報道の研究があって、まことに多彩.当方本命はライト研究の谷川先生の発表だが、先生どんどんすごいところへつっこみつつあるようだ.それとは別に、京介がこの壇上で発表している姿など想像してひそかににやついた.
 とんぼ返りで戻ってくるが、結局原稿はあまり進まず.
 明日は終日外出なので更新は休む予定です.

2002.04.19

 ページ数はやっと231頁.しかしようやくカメロン・ハイランドのホテルに到着.これでこの夜は失踪したシルク王の真相に関わるミステリ談義で更けて、事件は翌日に起こる、予定.目標今月中に300頁.できる、かなあ.

 明日はライト研究の第一人者谷川正己先生の建築学会の発表があるので、早稲田へ行くことにしているのだが、送っていただいたちらしを読んでいたら、一般人が入場可能なのか不確かで心配になってしまう.もっと早くに気づいたら、問い合わせをするのだったが.仕事にかまけてしょうもないったら.

2002.04.17

 まったくもって目がシボシボで、ほんともう困ったもんである.夕方になると目薬を射してもあまり持たなくなる.というわけでどうしても、日記も短くなってしまうのだ.本も読む気があまりしない.
 今日はやっとこマレーシアに話を持っていった.取材したのが12月だから話の中でもカメロン・ハイランドに行くのは12月にするつもりだったのだが、書いているうちにやはりこれは違うだろうということで、モデルにする過去の事件が起こったのと同じ三月にする.となると2001年はどういう年始だっけというのが気になってきて、急遽ネット本屋で「イミダス」など注文してしまうが、まあいいや、とそのへんをごまかして、カメロン・ハイランドへ向かう車中に話を向けた.
 というわけで、明日も仕事場に泊まり込みします.なんとか目を休めて、もう少し執筆時間を延ばせるようにしなくては.日記は金曜夜に更新します.

2002.04.16

 午前中は耳鼻科、午後から仕事場.
 ここのところどうも眠りが浅い.昨日は眠かったのに、いざ寝ようとすると原稿のことをいろいろ考えて、眠れなくなってしまう.きっとこれだけ頭を絞っても、誰だってあっさり真相は見抜いてしまうだろうなあ、とか.
 なんとか明日中にはカメロン・ハイランドへ到着させてしまいたい.あ、しかしその章のタイトルがまだ決まっていないんだ.しかしそんなことばかり考えていると、また眠れなくなってしまう.
 午後祥伝社の担当から『幻想建築術』のことで電話.どうやら本当に出してもらえるらしい.まあ、絶対売れないと思うけど、でも、おもしろいよ.自分では気に入っています.自分だけ気に入ってもしょーがないんだけど.

2002.04.15

 やっとこ200頁を突破.しかしまだマレーシアには行っていない.もちろん次章では、どんとカメロン・ハイランドに到着するぞ.とはいえ目がしょぼしょぼししまって、かなりピンチ.

2002.04.14

 どうも体調がいまいち。おかげでパソコンに向かったが、また直しで一日経過.

2002.04.13

 西麻布のおしゃれなタイ・レストランにランチを食べに行く.しかし味の方はかなり日本化している印象.グラス・ワインはいけた.
 その後半沢氏の知り合いのいる都内某所のアパート、昭和初期建造の鉄筋コンクリート集合住宅へ.戦前から暮らしている老婦人の案内で内部見学をさせてもらう.これが実に、見ないで書いたのに「センティメンタル・ブルー」に登場させたグラン・パのアパートにそっくり.中庭があるのだ.しかしこれも来年春に取り壊される.いずれグラン・パと彼の劇団は長編に登場させたかったのだが、無くなる前にもう少し取材させてもらった方がいいかもしれない.
 帰りに本屋で参考文献用タイ料理の本などを購入.

2002.04.12

 二日間仕事場に泊まり込んで原稿をやっていた.しかし最近はあまり長くパソコンに向かっていると、目がシバシバしてきてしまってどうにもならない.座右に目薬をおいて射しながらやっているが、結局の所12.3時間もやっていれば使い物にならなくなる.
ともあれ本日で188頁.出だしと最初の事件の顛末まで書き終えて、いよいよマレーシアに行くのだが、もうずいぶん前からマレーシアといっているようで、自分でも嫌になってしまう.

 ところでこれは余談だが、篠田の取引銀行は先般名前の変わったあそこで、しっかり二重引き落としの被害にあった.すぐに取り消しされていたのだが、これにかかった手数というのはいったい手数料換算するといくらになるのだろう.普通個人が振込をすれば、最低100円以上手数料を取られる.いえ、そんなにかかりませんというなら、手数料の値下げを検討してほしいもんだ.

 明日は知り合いに会うため外出するので、ちょっと取材ぷらす息抜きに、タイ料理のランチを食べることにした.おあつらえ向きに小説の中でそういう場面が出てくるのだ.というわけで、明日は帰りが遅くなる模様.日記の更新はできないかも知れない.毎日見に来てくださる皆さん、休んでばかりですみません.

2002.04.09

 つくづく今回は不調である.建築探偵を書いていると、どうしてかミステリの本筋よりも
レギュラーたちのあれやこれやに筆が流れてしまう.つまり今回は、本筋とそのあれやこれやがあまり関わりがないので、よけい寄り道しているような気がしてしまうらしい.とはいえ前の作品を読み直すと、それでもけっこうあちこち道草を食っているのだが、今回は妙に自分でそのへんが気になる.
 というわけで、明日明後日は仕事場に泊まって夜まで働くことにした.日記の更新は金曜日になる.

 合間に読んだのが『世界は密室でできている』舞城王太郎.おもしろかった.ただし、端正な本格ミステリを読みたいような人が、これに手を伸ばしては断じていけない.はっきりいってはちゃめちゃである.密室が出てくると、あっというまに解決される.しかもその解決が、謎よりもっとひどいという.あ、この「ひどい」はほめことばです.とにかく、カーの不可能犯罪物を読んで良く感じる、出だしは面白いけど真相がわかればなあんだ、というのとは逆.
 興味深いのは、この人の物語に常に家族の問題がからんでいること.そしてその家族がこれまた暴力的でとんでもないのだが、結論が妙にハート・ウォーミングなのだ.きっとよい家族に恵まれたんだろう.

2002.04.08

 朝から胃が痛くてまいる.ストレスが胃に出るのはいつものことだが、いまはまだ寝込むわけには行かない.消化不良なら納豆だ、という納豆博士のことばを信じて、納豆一パックを食べたところとりあえず胃痛は収まる.
 後は仕事.ひたすら仕事.結局一番前まで戻って直して、やっと夕方前線に到達.それにしてもこんなにちんたらしていてはらちが明かぬ.今週は週中に仕事場に泊まって、少しまとめて進めることにする.

2002.04.07

 休んだ後は例によって調子が出ない.ついつい読んでしまった、芦辺拓氏の新刊『メトロポリスに死の罠を』.これはおもしろい.芦辺さんは最近どんどん面白くなっている気がする.サービス精神旺盛はデビュー作当時からだったが、ときどき細部の豊饒が作品全体を弱めてしまうような印象があった.それが最近はぴしっと整理されて、豊かで有りつつ全体に奉仕するようになった.今回の作品も、謎解きにポリティカル・フィクション風の大事件が配され、四人組のおっさんのエピソードなど、とても魅力的なディテールも十分でした.

 と、人様の作品をほめている場合ではない.山梨で仕入れた資料を加えながら、他にもあちこち気になっている所をさわりだしたら、またまた直しで時が過ぎた.そろそろまた仕事場に泊まり込みをしなくてはならんかも.

2002.04.06

 午前中塩山の旧高野家を見学.執筆中の『綺羅の柩』の最初の舞台モデルは軽井沢にある移築民家だが、そのオリジナルと形も規模もよく似た農家.非常に参考になった.午後は目的であった、勝沼某ワイン会社主催のコンサートへ.

2002.04.05

 午前中は執筆続行.午後から車で山梨へ.夜はホテル泊まり.この日まで途中で我慢していた『オイディプス症候群』を、眠気をこらえて読了.これからは孤島物を書こうとしたら、これを頭に置かないでは書けないということになるのだね.ところでいくつか誤植を発見.

2002.04.04

 原稿は131頁まで.最初の事件の外郭に到達.この章の終わりで事件が発覚し、次の章で捜査的な当たりをさらさらっと流して、ようやくカメロン・ハイランドに行くのだ.やっと行くのだ.400頁以内で終わるといいが、ついついミステリのプロットとは直接関係ないところに寄り道してしまうのでなあ.すまん.そういうのが嫌いな人はささっと抜かして読んでくれ.

 午後はジムに行ったので(体調不良で中途リタイアしたが)、行き帰りの車の中で講談社ノベルス『芙路魅』積木鏡介を読む.篠田はこれまでこの人の作品をわりと評価していたのだが、これはダメ.申し訳ないが、好みの問題というよりは、もう少し積極的にダメだと思う.
 まず少なくとも本格ではない.いまさらメフィスト賞にそんなのは期待してない? それならいいんだけど、もう少し本格でないという話を.本格の定義はマジック・ロジック・ガジェットというのはつい最近MISCONで聞いて、いたく感心したのだが、とりあえずここにはロジックはない.ほぼない.ガジェットはそもそも作者の興味の外だろう.マジックは、マジックだけではかろうじてミステリではあっても、本格ではないわけだが、無論本格でなくてもいい.しかし、この作品ではマジックもいけてない.要するになんにも、いいな、と思えるところがない.
 なぜマジックがいけてないか.ミステリ読みならこの話の仕掛けの1つが、島田荘司の傑作のひとつとまんまだということに気づく.それは承知の本歌取りだというのかもしれないが、取った方の趣向がこれまた「いまさらこれかよ」である.本歌取りなら本歌よりも面白くなくてはいかん.篠田はミステリと同時にSFも愛しているので、ミステリ紛いの言い訳に変なSFもどきをやられるのはほんと、嫌なんだ.
 積木さんには期待していたのに、今回はちょっと失望させられたので、あえてきついこと書きました.

 明日の午後から明後日いっぱい留守にします.次回日記は従って日曜日.

2002.04.03

 午後角川のマンガ編集者と会う.建築探偵の漫画化は六月刊の「ブルー・ハート、ブルー・スカイ」で終わることになった.長編も見てみたかった気持ちはあるが、基本的にミステリはマンガには向かないと思う.
 原稿は121頁まで.まだ死なない.困ったもんだ.金曜日の午後から土曜いっぱいは留守にするので、なんとか金曜の午前中までには殺したい.って、なんという殺伐たるせりふ.
 しかし今回は舞台が転々とするので、その説明ばかりで頁を使ってしまうところもある.次回は死体を冒頭にごろりの他、ひとつの舞台だけで済むような話にしよう.閉鎖空間ものは、建築探偵としては『玄い女神』しかない.うん、なんとかやってみよう.なんて遥か未来、来年の話ですがー.

2002.04.02

 手紙の返事など書いていると、あっという間に時間が過ぎる.やばい.結局午後から仕事再開.しかし書いた分のほぼ半分を見直しするので、それで一日使ってしまう.150頁どころじゃない.ほんとにやばい.

 ところでカッパノベルスが本格ミステリを積極的に出していくことにしたらしく、四冊どさっと来る.装丁はあまりに講談社ノベルス調.それを仕事の合間に(合間だよ、それに『オイディプス』は封印してるよん)読む.意外と面白いっていったら、作者に悪いけど.
『密室の鍵貸します』 端正なトリック、ユーモアのある文体.泥臭いユーモアではあるけど、それは良しとしよう.総じていい感じ.しかし推理の過程で、潰しておいて欲しい可能性が気になった.それと動機がね.安直にこれを持ち出すのは、そろそろ止めて欲しい気がする.
『アイルランドの薔薇』 びっくりするような舞台設定.しかし残念ながら「嵐の山荘」物のサスペンスは薄い.外国を舞台にするには、筆力が及ばない気も.ただし、日本人の探偵役は良く書けていると思う.
『見えない精霊』 これまたぶったまげるようなオープニング.おいおい、真面目に読む気がしねえよ、と思っていると、だんだんそうでもなくなってくる.トリックがそれこそ良くも悪くもぶったまげなので、相乗効果というか.これはこれで良し、という気になってきてしまう.
 もう一冊は分厚いのでとりあえずはパス.

2002.04.01

 案の定体調はどんより.午前中鼻が悪化したので医者に行き、午後から仕事場入りしたが、仕事に手が着かない.しょうがないので、まずは本格ミステリ作家クラブの投票コメントを書く.200字以上400字以内のコメントをつけなくてはならないので、いい加減な投票はできないし、己れの見識が問われることになる.
 その後は手紙を二本書いて、角川のリレー小説『堕天使殺人事件』文庫化のゲラをいじる.風呂に入ってようやく気を取り直してファイルを開く.また前に戻って書き足しを始める.前途遼遠.

 MYSCONで、殊能将之『鏡の中は日曜日』の読書会に出ていて思ったこと.まことにこの作家はくせ者である.たくらみに満ちた作品である.議論は紛糾異論続出.語るに足る、また語りたくなる小説ではある.
 しかし、篠田が書きたいのは「あーおもしろかった」とだけいわれる小説である.不遜な望みですが.

 久しぶりの友人から手紙をもらう.ほとんど顔を見たことのない、手紙だけの知り合い.しかし、嬉しい.彼女も自分と同じ空を飛んでいるのだ、同じ時を生きているのだ、ということがわかっただけで.