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2002.02.28

 朝からジム.体調いまいちで運動も控えめにする.戻って祥伝社にプリント・アウトとフロッピー郵送.この本はかつて中井英夫氏の著書の装丁を多く担当した建石修志氏のお世話になることになっていて、とても楽しみである.
 最後の荷造りなどをだらだらとこなしつつ、恩田陸さんの新刊『図書室の海』を読む.かっては自分にも、学校というのが世界のほとんどだった時代があったのだなあ、などと考える.秋に出るスニーカーのホラー・アンソロジー参加作品は、まだなんにも決まっていないのだけれど、やはり学園ホラーにしようかしらん.ネタがつきているかな.

 というわけで3/1から7は留守にします.メールチェックと日記の再開は8からになる予定です.

2002.02.27

 次回建築探偵のプロットは、12月の取材前に調べものもして少しは立ててあったのだが、いまは完全にそちらから頭が離れてしまっている.せっかくバンコクに行って、なにか後で必要になるものを見落としてくるとまずいので、早く頭をそちらに戻さないとならないのだが、なかなかどうして思うようにはいかない.
 それで、どうせ落ち着かないならと建築探偵以後にやるつもりだった、『幻想建築術』の直しをやってしまう.これは祥伝社が四六で、夏のフェアあわせでやってくれるというので、あまり延ばすわけにはいかないのだ.季刊幻想文学で連載していたときは枚数制限がきびしくて、いつもは「何枚でも」のメフィストや「20枚くらいは増えてもどうにか」の小説ノンでしか仕事していないので、こういうときは困って、四苦八苦したことも幾度もあった.
 しかし一度縮めたそれを、さあもう一度増やしてやろうと思うと、それが意外に難しいのだ.祥伝社の編集さんにお誉めいただいた「偶像彫り」の章など、いくらか覚えているところは削る前に戻すが、かえって間延びしているのではないかという気持ちにもなってしまう.
 昨日の夕方から今日一日かけて直し終了.これで五月一杯までは建築探偵がやれる.となると、刊行は八月頭です.お待たせしてすみません.

2002.02.26

 午前中にデュアルのゲラ、メフィストのゲラ、両方とも終えて送り返す.それにしても「悪口雑言」の件はあんまりびっくりしたので、自分の見間違いではないかともう一度取り出して確認してしまった.しかしこれってまさか、確信犯ではないだろうな.どっちにしてもそんな校閲に、自分の原稿をいじり回されるのはまっぴらだ.
 昼飯の時に山田風太郎の『あと千回の晩飯』を読んでいて、アル中状態で死んだ若山牧水の遺体は、炎天下にもかかわらず数日腐らず死斑も出なかった、という記述を読む.ほんとかね.ほんとだったらミステリのトリックに、ならないかー.

 本日の雑談.東京に住む我が姉からメールが来るようになった.去年からパソコンを買いケーブルも入れていたのだが、なかなか日常に使用するところまでいかなかったのだ.姉は一人暮らしなので、これで安否の確認がしやすくなるとホッとした.別にする話もないときに電話をかけるのはおっくうなので.
 しかし昨今のパソコンとネットの普及は、高齢者にとっても大きな恩寵の気がする.足腰立たなくなってもネットで情報が得られ、他人と連絡が取れ、娯楽も得られるというのはやはり結構な話ではないか.弊害がないとはいわないが、所詮は道具なので、利用する人間の力量次第でどうにでも使えるだろう.
 もちろんこれからも世界は予測しがたく変わっていくだろうが、ともあれこういう便利な道具を利用できる年齢だったということはありがたい.やはりある年齢以上になると、新しい道具になじむのは難しくなるだろうから.

2002.02.25

 デュアルのゲラを再読していたら、校閲のミスがいくつも見つかってなおのこと腹が立つ.最悪のひとつは「悪口雑言」に「わるぐちぞうごん」とルビが振ってあったことだっ.他にも正しい漢字を訂正しているのとかあって、校閲者の能力がとことん信じられなくなってしまう.

 嬉しいこともあった.和歌山の読者で受験生なのに建築探偵にはまってしまいました、という方からお手紙をもらったので、がんばってね、と返事を書いたところ、私の返事が届いた日が志望校の発表日で、無事合格されたとのこと.別に篠田の手柄でもなんでもないのだけれど、胸がほっこり暖かくなる.

 前にここのサイトで「やおいの法則」という自費出版本を通販したのだけれど、それの続編として篠田真由美ロングインタビュー本を作れることになりそうだ.話し相手になってくれる友人が、そちらの方の研究をしている大学院生なので、やはりそちらの話が多くなるとは思うが、それ以外の作品や篠田の物書きとしての姿勢などについても語ってみたい.えらそうじゃなく、でもプロの小説家になったおかげでわかったこと、というのは読者の方たちにも興味深いんじゃないかと思って.
 それでも触れるつもりだけど、ボーイズ・ラブの好きな皆さん.篠田ももちろんそれは好きですが、現実とファンタジーをごっちゃにするのだけは止めようね.物語の世界では美しい男と男の愛が燃え立っているけど、現実のこの世には同性しか愛せない人はたくさんいます.私たちが決して物語の世界の美女ではないのと同様、現実のゲイ・ピープルだってボーイズの中の美青年美少年ばかりじゃない.こんなすごく当たり前のことを、物語にひたるあまりに忘れちゃって、現実に迷惑かけるようなことだけはしないでください.ふと、心配になったんです.そんなことがいまさらのように.

2002.02.24

 本格ミステリ作家クラブという組織があることが、一般読者にどの程度認知されているのか私にはわからないのだが、現在100名弱の会員がいて、その年のもっとも優れた本格ミステリを選んで賞を贈る.去年は第一回で倉知淳さんの『壺中の天国』が選ばれた.今年も選考が進んでいるのだが、選出方法を公明正大にするためにいくつかの手順があり、まもなく会員に最終候補作五作から一作を選ぶ投票用紙が郵送される.
 非常に優れていると思うのは、投票者は必ず五作全部を読んだ上で、記名、200字以上400字以内のコメントを付けて投票する.しかもそれは「ジャーロ」誌上で公表されるので、いい加減な参加は出来ない.
 たとえば私は去年受賞作には投票しなかったので、パーティで倉知さんを祝福するのは少し気がとがめる気もしたのだが、自分なりに考えて書いたコメントである以上、恨みっこ無しはいっそすっきりしている.いや、たぶん倉知さんはドラ猫のように太っ腹な方だから、そんなつまらぬことは気にしないであろう.
 なんで長々とこんなことを書いているかというと、5/17には都内某所で公開開票会があるので、会員の皆さんはこぞって参加して盛り上げましょうね、といわれたからである.去年は『月蝕の窓』の追い込みでとうてい無理だった.しかし今年はお役をおおせつかってしまったので、それまでに原稿をあげずばなるまい.しかも有栖川さんの『マレー鉄道』と舞台はかぶるし.そう、火村ファンのみなさん、とうとう出るんですよ。今年の五月か遅くとも六月には.それにしても、あー、ごめんなさい、有栖川さん.私の話には鉄道は出ないのですが、まさかそちらもカメロン・ハイランドだとは.

 最後にまた少しぐち.徳間の校閲は「農夫」を「農民」に直せという.全然ニュアンスが違うじゃないか.絶対直せなんていわれたら、出すの止めてやる.ただ働きだってかまうもんか.ちくしょーめ.

2002.02.23

 なにしろやたらと眠いのでまいってしまう.それでもどうにか旅の後かたづけは済んだので、『アベラシオン』のゲラを読みかけるのだが、こちらにはまだ校閲が入っていない.講談社の場合ノベルスの書き下ろしでも、雑誌でも、校閲は二度入る.校閲の入らないゲラを読んでも後でまた校閲の鉛筆を二度は見なくてはならないと思うと、ちょっと面倒になる.
 午前中は有栖川有栖さんにいただいた『作家の犯行現場』を読む.ダ・ヴィンチ誌上で「ミステリー・ツアー」として連載されたもののまとめ.とてもおもしろい.こういう試みは楽しそうだなあ、とうらやましくなるが、ミステリのネタで旅が組み立てられるほどの知識は篠田にはない.
 午後になって徳間書店デュアル文庫の『堕とされしもの』の校閲入り初稿ゲラが来たので、これを読み始める.以前ノベルスになったときに当然ながら二度の校閲が入っているのだが、書き足してない部分にも縦横に鉛筆が入れられていて驚く.校閲者の個性にもよるわけで、今回の校閲はやたら漢字用法の統一にこだわる人らしい.無意味なばらつきはない方がいいのかも知れないが、読者の立場になるとあまりそんなことは気にならないのだが.
 それと、『乞食』はダメで『物乞い』ならいいらしい、というのも変な話の気がする.この場合、それほどの違和感はないのでマルにしたが、さて乞食というのは差別用語だろうか.日本にホームレスはいるが乞食はいない、たぶん.実際社会に存在する対象が差別として問題になるなら、乞食よりはホームレスの方が問題では.それと、マーク・トゥエンの『王子と乞食』はいま絶版なんだろうか。『オリバー・ツイスト』あたりも差し障りがありそうだ.
 毎度こういう話題を、それも批判的に取り上げているので、篠田は作家の権利ばかり主張する差別者だと思われてしまうかも知れない.ことばが差別を作る、繰り返される差別語が差別を助長するという側面があることは否定しない.小説作品はどこまでも虚構であり、現実と混同するのは間違いだといって、混同してしまう人間はやはりいる.私は言語を用いて表現を行う人間として、その責任は痛感する.しかし『ちびくろサンボ』を絶版にすることが、黒人差別根絶の道だとはどうしても思えないのだ.
 
2002.02.22

 昨日今日で一応出すべき郵便物を片づけ、荷物もだいたい整理したものの、身体の方はどうにも調子が戻らない.なんとバンコクへ行くまでたったの一週間.出かけるまでに頭を建築探偵に戻して、プロットの続きをやろうと思っているのに、その前に『アベラシオン』のゲラも見なくてはならず、日曜日は東京に出る用事も出来てしまった.

 ともあれ今日も大半は沈没で、辻真先先生の『天使の殺人』を読む.辻先生は新本格の明らかな先輩のひとり、それが意外に知名度が低いのは早すぎた活躍が災いしたからだろうと思う.

 ところで話は違うが、帰りの機中でディズニーの『アトランティス』を見て、そのつまらなさに唖然とした.なにせ『天空の城ラピュタ』の粗悪な模倣品なのである.絵のレベルは低く、シナリオは粗雑で、キャラに魅力はない.いったいどうしてしまったのか.

2002.02.20

 先ほど帰宅いたしました.いまはダイニングのテーブル上に山積みになった献本やら封書やらを片づけつつ、睡眠不足でふらふらしております.ヨーロッパから日本に帰ると八時間の時差、八時間分がはしょられてしまうので、そのぶんちょうど一日分の睡眠が消えてしまったことになるんですねー.キーボードを叩いていても頭がふーらふら.気持ちいいような悪いような.
 しかし今回は純然たる遊びの旅でした.ヴェネツィアを舞台に新作を書く予定はないので、ひたすら町を歩いて立ち食い買い食いそして買い物.といってもブランド・ショップに興味はありません.写真集やきれいなカード、スタンプ、ガラスの小物といったものをあちらこちらで買い集めると、「あっ」という間にお金がなくなってしまう.恐るべし、ヴェネツィアの商人.

 というわけで、明日から仕事を再開しなくてはなりません.『アベラシオン』のゲラも来ているし.それから、せっかくのヴェネツィアだから「建築探偵資料・ヴェネツィア編」のコピー本でも作りたいなあ、などと懲りないことも考えています.地図と写真と本文引用と参考文献でつづる『仮面の島』ってわけですが、こんなものでも読んでみたい、という方がおられましたら声を聞かせてください.
 それと私信ひとつ、トークショウに来てくださった埼玉県のOさん.いただいたチョコが菊地先生のところへ行ってしまって、それを先生が送って下さいました.というわけで遅ればせながらお手紙も拝見しています.ありがとう.

 明日の昼間に旅行の片づけを済ませて、でも夜はさぼります.なんとなれば結婚25周年の記念日が今日なものですから.

2002.02.11

 昨日で旅行前に終える仕事は終わったので、最後の荷物づくりといっしょに仕事場を片づけ、ついでに冷蔵庫の残り物をせっせと食べて片づける.仕事の最中は仕事場は悲惨で、そういうときに限って必要な辞書などが見つからず、後になって片づけているときに出てきたりする.ともあれ、旅行の予定のおかげで仕事も早く済めば掃除も出来るのはありがたい.

 借り物の皆川博子先生『ライダーは闇に消えた』を読む.これは1975年の作品で皆川先生の著書としては3冊目、しかし第一作は児童向き歴史小説、二冊目は短編集だったので、大人向けの小説、それもミステリとしては第一作である.短編集『トマト・ゲーム』の表題作は基地の町の青春群像とでもいいたい作品だったが、こちらもオートバイにとりつかれた若者達が織りなすドラマ.バイクのメカを利用したトリックが多数、自然にちりばめられて、現在の耽美風の作品とはずいぶん印象が違うが、若さの持つ暗さや痛みの切実さをすくいとる筆さばきは『死の泉』まで通じている.この前にやはり青春群像と死と狂気を扱った『冬の雅歌』を読んだが、私は『ライダー』の方が好き.

 この三月に『指輪物語』の映画が公開されるというので、オンライン本屋でも宣伝がされている.昔アニメで『指輪物語』があって、がっかりした代物だったが、今回はかなりいけてそう.というわけで読み返したくなった.さすがに旅行前でとても読めないが、せめてと一冊だけ持ってくる.昔友人にこれを勧めたところ、最初のゆるやかさに音を上げて「これが終わったらもういいや」といっていたのが、一巻目を読み終えたところで「早く次を貸して」になったことを思い出す.これは十分時を越える名作だろう.『ハリー・ポッター』は、たぶん読まないだろうな.

 というわけで2/20まで日記はお休みします.旅行日記のようなものは公開しないと思いますが、冬のヴェネツィア、カーニバル直後で一番空いているという季節に、『仮面の島』で神代先生が召し上がったカフェ・フローリアンのチョコラテ・コン・パンナをいただきに、行って参ります.ではでは、しばらくさようなら.

2002.02.10

 昨日の昼間、親衛隊の髑髏指輪複製を下北沢の某所で購入してきた.というわけで、それをキーボードの脇に置きつつ眺めつついじりつつ、『アベラシオン』の修正をする.普通なら今日当たり絶対仕事をさぼっているところだから、遊びに行く予定が入っているというのはいいことである.
 夕刻、プリントアウトを終えてデータはメール送稿.ただしこれは特殊ルビが多いので、プリントは郵送する.別に初稿ゲラで入れてもいいんだけど、校閲に見てもらった方がいい、ときどき間違えていることがあるからなあ.
 旅行から戻ったらすぐ建築探偵なのだが、旅の間は例の頭に浮かんだ『緑金の午後』の構想を練ろうかと思う.イラストのイメージは波津彬子さんだと勝手に決めているんである.依頼と関係なしに書きたくなった、というのはいささか久しぶりなので、大事にかわいがりながら育てたい.
 しかし菊地秀行先生は現在270冊ほどの著書があるのだそうだ.篠田の10倍以上なり.お年は3.4歳しか違わない.デビューがお早いからキャリアは全然長いとはいえ、まさか10倍以上も違わないしなあ.ああ、枯れず尽きせずお客に逃げられず、そんなにたくさん面白い小説が書きたいものです.

2002.02.09

 菊地秀行先生とのトークショウ、サイン会は無事終了.たくさんの方に来ていただきました.しかし非常にびっくりしたのは、イラストレーターの丹野忍さんが、黒いコートを着せたら秋せつらのコスプレができそうな、28歳の美青年でしかも彼女募集中だということです.加えて菊地先生の担当さんが、栗山深春のようなひげ男で、もっともこちらは中身は違いました.
 ともあれ、美青年の彼女になってみたいという方は、写真同封の上祥伝社気付丹野忍様でファンレターを出しませう.

 さあ、仕事だ仕事.

2002.02.08

 朝は医者とジム.戻ってからちょいと買い物がてら茶店に行って『アベラシオン』の読み直し.かなり赤は入ったが、心配していたほどおもしろくない、ということはなかった.だがこの作品、本にするときはまた相当手を入れなくてはならないだろう.
 それと、原稿を書いていたら例の髑髏の指輪がまたぼんと出てきてしまい、これはやはり買わないとダメかなー、という感じになってくる.最初にこれが登場したときは、手元に写真も無くて、想像で書いたらあとで写真が見つかり、それだけでもだいぶイメージが違っている.今回はそれがまたアップになるので、手元の写真をためつすがめつ書いたが、うーん、やはり複製品でもあった方がいいか.
 明日は三時からトークショウだが、その前にひとっ走り下北沢まで行くか、という気持ちになってきた.買っておけば良かったって、22000円は安くないよ.男物の指輪だから、太くてどうせ使えないしさ.
 『灰色の砦』の増刷で一冊届いたら、表紙の色が劣化していて愕然.これはひどいよー.ちょっとショックである.『ルチフェロ』文庫版の新表紙も届いた.これは言って良かったねばって良かった.

2002.02.07

 朝は美容院、トークショウの用意.それから買い物はスーツケース.昔は荷物など背中にしょって旅に出るのがあたりまえだったのに、しだいにものぐさになってしまう.今回はスケルトンのツアーなので、航空券ホテルの他送迎がついている.外国へ行くのでなにが大変って、空港に着いた直後慣れない場所で町へ出るのが大変なので、やはり出迎えがあると楽だ.
 夕方、秋月杏子さんが今回のコミック『桜闇』で企画した読者プレゼント豆本用の短編を書く.コミックを買っていただくと応募方法がわかるので、ビニールかかってないところで立ち読みしよう、などと思わぬように.
 明日は医者とジムと、午後は原稿の読み直しを始めよう.そうでないと、旅行前に入稿はできなくなってしまう.どうせ戻ったら少し虚脱するだろうから、余裕なんかすぐなくなるだろう.

2002.02.06

 今日の午後で『アベラシオン』第五章がようやく初稿脱稿.171枚.無論読み直して手を入れなくてはならないが、まずまず予定に先んじることができてほっ.今日は後は休憩と言うことで、本格ミステリ作家クラブ大賞のノミネート作品で唯一未読の『たったひとつの』が、ちょうどアマゾンから届いた、それを読む.作者斎藤肇氏は、『十角館の殺人』から始まった新本格第一期とほぼ同じ頃、同じ講談社ノベルスで、あっというようなあざやかなミステリを数点書かれた後、ミステリからは長く離れておられた.
 ところで本格ミステリ作家クラブ大賞というのは、主として作家からなるクラブ会員の互選で決められる賞.今年はすでに『ミステリ・オペラ』はじめ五作の候補作が決定.これを全作読んでコメント付きで投票、その結果は氏名と共に公表されるので、無論いい加減な投票はできない仕組み.
 これで五作全部読んだわけだが、やはり今年は『ミステリ・オペラ』しかないと思う.他の作品は正直な話時期が悪かったのである.こういう超ど級の作品と同じ年に出会わせるとは.

2002.02.05

 幸い秋月さんが今回の必要部数を送ってくれたので、発送完了.ただ、これ以降に送られた方にはごめんなさいである.
 『アベラシオン』は165頁まで来て終わるかと思ったらもうちょっとかかる.しかしこれなら旅行前に初稿だけは上がるだろう.
 学研の表紙も写真の渋いめのやつに決定.やれやれである.

 新聞の書評を見て買った『差別語から入る言語学入門』という本を読んだ.「小説トリッパー」に連載したらなぜか途中で打ちきりにされたという.著者は「ことばは時代により変わっていくのだから、差別を醸成するようなことばは消されるべきである」という立場.それはわかるのだが、篠田の知りたいことは、そのことばが存在した時代を書く歴史小説でも、それは書いてはならないのか、ということだ.
 世紀末のロンドンに日本の同和問題のような意味での、食肉処理業者差別はなかった.しかし同時に現代の日本で3Kの職業が尊敬よりも忌避の対象になるような意味での、差別はあったと思う.そのような社会を日本語で書くとき、「食肉処理場」では表せないものがあるのだ.
 差別は、される立場にならなくてはわからない、という.では篠田は女であるから、女性差別には被害者の立場でものがいえるとしても問題はあるまい.むろんのこと、女が男より劣っているなどといわれて、平気ではいられない.しかしそのような観念が、過去はいまよりずっと強く存在したことは事実だ.そんな私が歴史小説を書くとき、フェミニストの男性ばかり書かなくてはいられないだろうか.まさか.
 もっともそのような男権主義者の価値観を肯定的に書くことはしない.できれば念入りに殺してさしあげるだろう.それが小説の方法だと思う.そして、そのような時代があったことを認識するためには、差別語も保存されてしかるべきだと思うのだが、どうだろう.

2002.02.04

 秋月杏子さんに連絡を取ったところ、同人本の残部が乏しいことが判明.先週転送された方の分は確保できる可能性が高いのですが、場合によってはおわびしなくてはならないかもしれません.その節はどうかお許し下さい.

 学研の文庫の表紙がいやだいやだと騒いでいたら、差し替えてくれることになった.やはり我慢しないで主張すべきことか主張すべきか.
 『アベラシオン』は145頁まで.たぶん160頁くらいで終わるだろう.最悪刷り出しを持って旅行に行って、飛行機の中ででも赤を入れれば、二月中に送れる.ああ、なんだってこんなに綱渡りなんだ.そのくせ篠田は「これが終わったら、蒼の高校生物を連載なんてのもいいなー」とか考えているんだよ.

2002.02.02

 やはり休んだ後はどうにも調子が出なくて、昨日古本屋で発見した皆川博子先生の『散りしきる花』に読みふけってしまう.直木賞受賞作品『恋紅』の後日談で、お嬢様だったヒロインゆうが場末の役者に恋をして彼の元に走った後の、苦闘と自立の日々が流麗な筆でつづられる.あーあ、いうても詮無いことながら、どうひっくりかえっても届けやしない皆川先生であります.
 家に帰ると講談社から回送された封書がなんと30通あまり.ほぼ全部が通販の申込である.この前の10通ほどで終わったものと思っていたのでびっくり.実は秋月杏子さんとの合同本はすでに品切れで、彼女から送ってもらわなくてはならない.そのほか、ペーパーのバックナンバーご希望の方には、改めてコピーしに行かなくてはならず、この日記をご覧の方はご承知のことと思うが、ちょっといまはきびしい.お金をいただいたまま放置して置くのはとても気がとがめていやなのだが、2/12の旅行までにお送りするのはちょっと無理かもしれない.どうかご容赦下さい.
 というわけで、明日は仕事場に泊まり込み.原稿の他に封筒を買って発送の準備などすることにします.可能な限り旅行前の発送を目指しますので.

2002.02.01

 (1/31も書き込みましたのでご覧下さい.)
 東京ドームホテルに泊まった翌日は、次回のマンガが「ブルーハート.ブルースカイ」なので、舞台になっている篠田の生まれた町を歩くが、久しぶりですっかり様子が変わっているのに愕然となる.神代教授の家に設定した住宅街が、立て替えが進んでマンションだらけになっている.
 さらに歩いて坂から神社、あっという間に終わってしまった.小説は印象や記憶で書けてしまうが、マンガとなるとそうはいかないので申し訳ないというしかない.
 一日本屋を覗いたり洋服屋をひやかしたり.さあ、かくて休日は終わった.あとはなんとかイタリア旅行までに「アベラシオン」の目処を立てること.仕事の他に秋月さんちの同人本にも建築探偵の番外編を書き散らすので、そのための時間も見なくてはならない.作家が自分の作品の同人本を書くのか、とあきれるなかれ.公にした作品は読者みんなのものだが、趣味で書く同人本はそれよりもう少しは篠田の楽しみのためである.それでももちろんそれなりの節度は保っているのでご安心.
 ちなみに夏コミは『月蝕の窓』本です.篠田は「白銀の罠」の直後の、本編では書こうと思って刈り込んでしまったいきさつなどを書きますが、相棒の秋月さんは「やおい」をやるそうなので、通販はしない方がいいかなああ.ちょっと迷っています.詳細など決まりましたらまたサイトに書き込みますので、もしも「やおい」マンガがいっしょに載っていてもそれでも手に入れたい、通販してくれ、という方は早めにハガキの一枚でも講談社宛送っておいて下さい.よろしく.