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2001.09.01

 そろそろ秋の気配といっても、自転車をこぐと全身汗まみれになる程度には暑い.ようやく小説ノンの連載『東日流妖異変』第三回のために、資料本の読み返しを始める.このシリーズは、建築探偵などとは違って、資料といっても面白そうな所をあちこち食い散らかして話のネタにするようなものなんだけど.
 それにしても少し時間が経つと、その話から頭が離れてしまっていて、なにを書くつもりだったか思い出せない.決まっていたのは出だしと、クライマックスの場面だけなものだから.あんまりこういうことを書くと、ノートにみっしりせりふのやりとりまで書き込むという倉知さんなんかと比べても、なんといい加減な仕事の仕方をしているのだろうと思われてしまいそうだけど、嘘を書くのもなあ.

2001.9.02

 なまった頭を叩きながらプロットを立てる.『龍の黙示録』は最初80枚5回といわれていたのを、とても終わらないからと6回にしてもらい、一度の枚数も100枚くらいは書かせてもらったのだった.今回も最初は80枚だが2回目はすでに100枚.一応主人公たちの設定は前作で書いているから、その分はスリムになるはずなのだが、ページの見当を立てるのが篠田はきわめて苦手である.
 どうにか第三回の分のプロットは立った.しかし次の回になるとかなり曖昧.5回で終わるのかやはり6回か.後の予定もあることだし、5回で終わらせたいというのが本音なのだが、物語というのは延びる傾向にあるんだよね.
 夕方になってやっと書き出す.来月になると月末がメフィストの締め切りで、あちらがまた長くなってきたものだから、前になにを書いたか思い出すのに時間がかかる.その上新しい資料も読まなくてはならない.なんとか今月中にこちらはめどを立てたいが、九月というのはパーティの月.明日はパソコンに詳しいW氏が仕事場に来てくれるので、仕事はお休みだし.あああ、頭が三つほしい.

2001.9.03

 W氏K嬢はるばる神奈川県から仕事場に来訪.W氏には古いパソコンの不要なアプリケーションをきれいに削除してもらう.たった五年前の機械なのに、PC−VANナビゲータとか、化石化したものがたくさん入っている.たった五年で、と思うのはもはや頭が古いのか.
 週刊現代の来週月曜日発売号「文庫と私」に掲載のゲラを見る.主語は私になっているが、インタビューをまとめたもの.なんとなく違和感があるが、やたら直すわけにもいかず断念.まあ、この雑誌の購読者で篠田を読んでいる人というのは、きわめて少ないのではないか.
 徳間から入校のSF中編に一応了承の返事.表紙と口絵は『イティハーサ』の水樹和佳さん.
 自宅に戻る.編集部から回送されてきた読者からの同人誌、文庫の編集部からは、文庫書き下ろしの重ねての催促.いくら難しいといっても承知してくれない.小説ノンの連載を最後まで書いて、『アベラシオン』の次回を書いて、学研に『ルチフェロ』の直しをやったら今年は終わっていると思う.
 文庫の書き下ろしは篠田始めての官能エロチカで、書きたくないわけではないので、断ることもできぬまま懊悩.いや、とても書きたいのだよ.しかしいまの状態では、時間に追われるばかりでじっくり盛り上げる余裕もないではないか.頭が三つほしい.

2001.09.04

 忙しがっているわりに、本日はお休み。連れ合いと『千と千尋の神隠し』を見に行く.ひさびさに楽しめました.『もののけ姫』はたくさん好きなところもあったけれど、どうも理屈とテーマが突っ立っている気がしていまいち乗れなかったけど、これはおもしろい.
 しかしどうやら監督が描きたかったらしい、10歳の少女の成長というメインのプロットより、テーマより、みっしりつめこまれたディテール、建築フリークの心をくすぐる不思議な背景美術とか、魑魅魍魎さまざまとか、そのへんで楽しんでいた気はする.それにしても宮崎監督、そうご本人がテーマを解説するってのはどうなんでしょう.
 書き忘れたが昨日読んだ『呪禁官』牧野修ノンノベルも傑作.『スタンド・バイ・ミー』みたいな少年四人組の活躍が、また読みたい.続編を切に希望.

2001.09.05

 『東日流妖異変』第三回を書き続ける.40枚まで.五回で終わるか否かまだわからない.ただ、けっこういけてる感じはある.
 異形コレクション『玩具館』光文社文庫発売.以前と違って毎度お座敷はかからないので、篠田の短編集がもしも出せるとしてもずっと先のことになるだろう.というわけでぜひお手にとってご覧下さい.しかし扉絵のイラストはひどくて泣く.高橋葉介ってこんなにへたくそだっけ.
 明日は夜間留守にするので日記の更新はない.

2001.09.06

 祥伝社担当と飲む.『月蝕の窓』を絶賛されて照れくさい.編集者というのは自分の作った本には評価が甘いので、担当にほめられても三割引くらいにしておかないといけない.しかし担当でない作品をほめられるときは、そういうことを気にする必要はないので、安心して喜べる.

2001.09.07

 大酒飲んだ翌日は、二日酔いにはならなくともやはり疲労残り.『東日流』65枚まで.この期に及んでも五回か六回か決められない.
 講談社ノベルスの新刊から、石崎幸二『長く短い呪文』を読む.この人の第一作は、ちょっとこれは勘弁だな、だったのだが、第二作は結構おもしろい、で、今回の第三作は良かった、落ちまで気持ちいい、になった.これまで「だめだ」と思った人も、女子高生二人組とおっさんの掛け合いにめげずに、読んだ方がいいよ、これは.
 『月蝕の窓』三刷り決まる.登場人物表を一部訂正.やれやれ.もうないだろうな.

2001.09.08

 午前中で76枚.午後から友人が遊びに来る.彼女は篠田と同じ近代建築好きという奇特な人なので、最近行った山陰の近代建築の資料をもらい、こちらは青森の写真を見せたり、趣味の話に花が咲く.菜切り包丁で鰺を三枚に下ろすのはやはり難しい.

2001.09.09

 友人が『レッド・シャドウ』(なんとこちとらの年齢には懐かしい「仮面の忍者赤影」のリメイクだ!)を見たいというので入間まで行くが、人気がないのか打ち切りになっていた。やむなくふたりして二度目の『千と千尋』.しっかり楽しんでしまう.このアニメはやたらと情報量が多いので、一度見たくらいでは見切れない.湯婆婆の御殿にアールヌーボーのランプと光琳写しの菖蒲の屏風があった、とかね.
 もっともいくつか不満はある.どう考えても千尋の両親の不敬な振る舞いが危機をもたらしたと思われるのに、彼らはなにも覚えていないし変わっていない.千尋も果たしてこれからどうなるのかわからない.この作品はいろんな意味で『天空の城ラピュタ』とパラレルだが、少なくともパズーは冒険を成し遂げることでステップをひとつ上がったと信じられたのだが.
 それからハクはどうなるのか.帰って来るにも彼の河は埋め立てられているんじゃないか、とか、千尋達の車が草に埋もれていたということは、実はすごく時間が経過していて、千尋一家は蒸発したと思われてるのか、とか.でもまあそれはそれとして、ひさびさに楽しめましたです.
 今日から舞城王太郎の『ザ・チャイルディッシュ・ダークネス』を読み出す.篠田は彼の第一作『煙か土か食い物』を気に入っているので、これも期待.実のところこのタイトルが意味する、身も蓋もない世界観は篠田のものである.作品にはそういうことはあまり書かないし、書くときも相対化しているけど.それはある程度若い読者に対する配慮です.

2001.09.10

 朝からひどい風雨.通勤しないで済むありがたさを噛みしめながら仕事『東日流』続行.仕事の合間に読む本、舞城を忘れてきたのでメフィスト賞『ドゥームズデイ』を読み出す.ひとつわかったこと.「支那人」は校閲ではねられる以前にパソコンの変換にも出てこないが、アメリカの俗語で「チンク」といえばひっかからないらしい.「ニガー」も平気.『ちびくろサンボ』を絶版に追い込んだ人たちはどーしたのかね.

2001.09.11

 まだ降る雨.午前中やっとこ『東日流』の第三回が終わる.じりじり延びて119枚.それにしてもひえーっ、もう九月が三分の一過ぎてしまった.後二回で終わらせられるだろうか.かなりスリルとサスペンス.
 第四回をやる前に、光文社で出る推理作家協会アンソロジーに再録される、建築探偵の短編「迷宮に死者は棲む」のゲラを見る.篠田はおよそ自分の書いている小説が、ちゃんとミステリかということに自信がないので、こういう機会をいただけると、お墨付きをもらったようでとてもうれしい.しつこくあちこち直す.なにせ初っぱなから、ワンセンテンスに表現のだぶっているところが見つかってしまったのだ・これくらい気づけよ、自分.

2001.09.12

 舞城氏の新作を読了.残念ながら今回はパス.物語の壊れ方が篠田の許容範囲を超えていた.ネタバラシになるので詳しくは書けないが、奇妙な矛盾がいくつかあって、これはきっと伏線として回収されるか、メタで落とすかするのだろうと思っていたら、最後までそうはならなかった.しかし篠田は評論家ではないので、作品の評価をするというのではなく、「自分には合わなかった」というのみ.
 なんだか責任回避のような気もするが、篠田なりの誠実を通すとそういうことになる.だから本を読んだことは書かない方がいいかとも思っていたのだが、夕飯になにを食ったかよりは、物書き篠田の仕事とも関わる話題だから、そっちのことも少しずつは触れている.「おまえはあの作品をけなしたくせに、今度のおまえの作品は何だ」といわれるのは仕方がない.クレームはいつでも手紙で受け付けます.

2001.09.13

 アメリカでひどい事件が起こったようで、気分が落ち着かぬことはなはだしい.フィクションが楽しめるのは世の中が平安だからこそ.それにしても新聞の写真で、人が真っ逆様に落ちていく場面を見たときには、腕に鳥肌が立った.
 アメリカでの大量殺人に喜ぶパレスチナの人々よ.予言者ムハンマドだって、こんな戦いは誉め讃えはしなかったと思うよ.こんなときに喜んでしまえる自分の、精神的な退廃に気がついてほしい.あなたの兄弟があそこにいたら、とは思えないのか.アメリカで働いているやつなんか死んでもいい、とでもいうつもりなら、それはもはやなんの正義でもない.
 ようやく『東日流』の第四回を書き出す.本日16枚まで.来年二月がノンノベルのフェアなんだそうで、それに間に合わせるとすると、五回で終わらせなくてはならない.タイトである.

2001.09.14

 昨日の日記に書いた「テロの成功を喜ぶパレスチナ難民」の映像は、実は以前の祭りの時の映像を流用していた、という書き込みが某掲示板にあった.ニュースソースが明記されていないので真偽のほどは不明だが、ありそうなことだという気もする.たぶん実際に喜んだパレスチナ人はいただろう.だからといって、そんな流用が実際になされたのだとしたら、それを是としていいはずがない.そこには報道関係者のずさんさというよりは、パレスチナ人差別があるような気がする.テロは絶対に是認できない.だが、だからといってイスラエルのパレスチナ政策が正しいということにはならない.

 少し違う話題.『千と千尋の神隠し』の主題歌がなかなかいいのだが、難しい歌で簡単には覚えられない.仕事のバックにサントラをかけつづけていたら、今度は夜寝ようとして頭の中にその曲がぐるぐるぐる.寝付けなくなった.あほである.にもかかわらず、まだ歌えないんだなこれが.ちなみに篠田は喉音痴である.
 本日は午後からジムに行ったので30枚まで.ストレスのせいか食べ過ぎて体重増加気味なり.

2001.09.15

 ジャーロの秋号巻頭は倉知淳さんと笠井潔さんの対談.写真多数.でも「カドカワミステリ」のときと比べて笑顔がない.さすがのクラチッチも笠井さん相手で緊張されたか.しかしやっぱりラブリィ.こんなラブリィな写真がたくさん掲載されると、よこしまな倉知ファンが増えるのではないかと心配.って、おまえが一番怪しいってか.うん、そりゃあそうだ.でもやっぱり倉知さん、かわいいっ.猫丸先輩が生でいるようなものです.こんなに作品と作者のイメージが密着している人も珍しいす.
 本日ものろのろとしか原稿が進まない.半日でも15枚、一日でも15枚かと思ったら、夕方近くになってばたばたと進行.58枚まで.別段篠田の頭が突然冴えたわけではなく、場面が動くところになってきたから.少し多めに二回書かせてもらえば、全五回で終わるかという気分になってきた.問題はどれくらい増やさせてもらえるかだな.だいたいクライマックスになると延びるんだ.

2001.09.16

 前にも少し書いたが、篠田と連れ合いが学生時代から行っている銀座のビヤホール「ピルゼン」が今月20日で閉店するというので、お名残に飲みに行った.この店は昭和三年に建てられた交詢ビルディングという建物の一階にあるのだが、このビルが取り壊されるのだ.福沢諭吉を中心に日本で初めての社交クラブの本部として作られたというだけあって、物の本で見る上階のインテリアは重厚華麗なイギリス風、ゴシック・リバイバルで、翻訳ミステリ好きならピーター卿あたりを座らせてみたいような感じになっている.金がないわけでもなかろうに、どうしてこんなすばらしいビルを壊すのか.
 店は満員盛況.したたか食って飲んで胃腸は満足したが心は寂しい.先日西澤保彦氏、光原百合氏をご案内してこの店で一杯やったのだが、それが無くなってしまうとは夢思わなかった.諸行無常である.

2001.09.17

 先号のメフィストをぱらぱらやっていて、早くウロボロスの続きが読みたいのお、などと思っていたのだが、次回を読む前に自分も次の回を書かなくてはならないのだ、というすごく当たり前のことにはたと気づいてショックを受ける.くそおーーー、小説というのはほとんどの場合、書くより読む方が楽しいです.
 あ、でも念のため.『ウロボロスの基礎論』に登場する実名人物のうち、篠田の存じ上げている方たちはみなそっくり.竹本さんうまい.ただし、篠田は全然似ていません.保証します.

 今日も『東日流』の続きをひたすら.昨日今日でやっと95枚まで.担当Y氏より電話.やはり五回であげて二月にノベルス.当然ながら年末進行が入ってノベルス用の手入れも年内に初校上げ.講談社ノベルス担当A氏より電話.突発性難聴により入院とのこと.編集者は意外と病気が多い.不摂生の結果か激務のゆえか.早く戻ってきてちょうだい.徳間書店デュアル文庫の担当K氏より電話.『聖杯』のゲラが明日つくので週末戻し.たって金曜は乱歩賞だぞっ.異形コレクション担当光文社M氏より電話.次回の原稿依頼.2002年の正月ないような気がしてきた.って、まだ九月だってえのに.

2001.09.18

 コーヒー豆が切れたので駅前まで買いに行こうと思うが、ゲラがつかないので出られない.と思っていたところに幻想文学の石堂藍から電話.次号特集が「都市幻想」なのでエッセイの依頼.ふううーっ.ついでに最近読んだ本のことなどでおしゃべり.彼女は辛口の女だが、人にそういわれると心外そう.まあ、ふたりしてしゃべっていると、相乗効果でより辛口ではある.誰にも絶対聞かせられん.
 新潮社の編集氏より初めての電話.依頼をいまもらってもなああ.時間を節約するためにこれもパーティ前の打ち合わせとする.かくてパーティ二回にうち合わせ四回.なんでそんなに篠田のところへ.こんな中古作家のところへ来なくとも、有望な新人さんはいくらでもおるでしょうに.
 ゲラは結局今日は届かないことがわかる.しかも週末に取りに来る.こんなせわしいのは初めてだ.こっちはいわれた期日までに原稿を入れているぞ.おまけに『堕とされしもの』の文庫下ろしを一月か二月といわれて切れそう.頭はひとつしかない.
 夕方角川のまんがの編集から電話.バスのステップから落ちて捻挫と靱帯損傷だとか.祥伝社の担当はつい先日扁桃腺で寝込んだと言うし、講談社は突発性難聴だし、まさか篠田がタタリ神だったりして.うわあっ、しゃれにならん.
 『東日流』114枚まで.明日中にけりをつけたいので、明日は仕事場に泊まる.日記の更新はお休みです.

2001.09.19

 本格とミステリの関係は、アルコールと酒の関係に似ているかも、などと、ふとよしなしごとを考える.本格好きは本格度の高いミステリを好む.しかし本格100%というのは、すでにアルコール100%が酒とは呼べぬごとく、小説ではない.アルコールに加わった雑物が酒の味となるがごとく、雑物が本格を小説にする.しかし、本格抜きのミステリはアルコールの含まれない酒を酒とは呼べぬごとく、ミステリとは呼べない、とか.しょーもない.
 『東日流』第四回136枚にて終わり.

2001.09.20

 『東日流』の続きをすぐにも書き出さないとならないが、頭の腰が抜けて立ち上がれず.妙な表現だが実感.一応プロットを半分だけ立てる.あと何ページで終われるのか自分でもわからない.
 例の銀座のビヤホールが今日で終わりなので、また行ってしまう.こうしてなじんだものが少しずつ消えていくというのが、年を取るということなのだ.

2001.09.21

 本日は乱歩賞パーティ。その前に打ち合わせ二件。富士見ファンタジアでは、デビューするずうっと以前、某純文学誌の新人賞で二次選考まで残ったファンタジーを、ハードカバーで出すという話になる.たぶん捨てた覚えはないので、ごちゃごちゃになった原稿用紙がどこかに埋もれているだろう.落選した後また書き直して、直し切れぬまま断念したので、そういう状態.角川では中公Cノベルスでやった『根の国の物語』の出し直しと続き.まるで在庫一掃セールなり.
 スニーカーの編集者が、以前は柏書房で『悪魔を思い出す娘達』を作り、今度は『アクアリウムの夜』を文庫に入れるという.前者は翻訳、後者は著者が横山茂雄さんである.これに喜んでわいわいいっていると、解説を書けといわれてしまう.篠田なんぞが書いていい物か、いささか疑問.著者が嫌だというかも知れないぞ.
 これでくたびれて、後のパーティはろくに記憶に無し.昔と比べては、ご歓談の隙を縫って料理をかっこむ技術が上達した.しょーもないっ.

2001.09.22

 昨日はさっさと帰宅したが、やはり疲労残りか筆進まず.『東日流』第五回たったの六枚.やばいぞよ.午後徳間の担当来訪.『聖杯伝説』のゲラを渡し、『堕とされしもの』のスケジュールの話をする.作業にかかれるのは来年二月以降.どこまでも予定が詰まっているなあ.自由業者が暇では困るのは承知の上だが、なんとなくため息が出る.がばっと半年くらい休みたい.半年というところが、気が小さいけどさ.

2001.09.23

 日曜日だが角川のまんがの担当がサイン色紙を書いてくれと来訪.マンガ家さんの色紙なら絵が描いてあっていいだろうが、篠田のへたくそな文字の色紙なんてしょうもないと思いつつ、サイン.しかしほんの30分でも人が来ると思うと落ち着かず、というのもいいわけだが、ついに仕事せずだらだらと過ごしてしまう.心の疲れがたまっている気分、というのもいいわけか.しかしストレスがたまるとつい食べ過ぎて、体重は増えるし胃は重いし.
 友人の掲示板でおまけ菓子の「妖怪根付」というのが流行していて、気まぐれでひとつ買ったら、これが200円のしろものとは思えないほど良くできている.というわけであっさりはまる.以前、深層海洋水の清涼飲料に深海生物のフィギュアがついていて、ちょいと面白かったのだが、500ミリの甘ったるい飲み物をそうそう飲めずにいる内にあっさり終わってしまった.というわけで、スーパーに行くたびに買ってしまう「妖怪根付」、かたちが12種類に彩色と赤で24種.同じ物が出たらトレードする.これもストレスのなせる技よ、といいわけ.

2001.09.24

 いただきものの柴田よしきさん『ふたたびの虹』が実に良くて、途中で止められずに読んでしまう.おいしい小説だった.午後からやっと仕事再開.25枚まで.本日の根付は番外らしい閻魔大王が出た.

2001.09.25

 ひたすら仕事、やっと51枚.明日は午後ジム、夜三輪明宏様のリサイタル.あさっては友人が遊びに来るので、28日の鮎川賞パーティまでに終わらせるのは無理になった.しかしまあ、多くともあと100枚書けば終わるはずなので、予定よりそうひどく遅れることはなさそうだ.10月の9.10はまんがで『捻れた塔の冒険』を書いてもらうため、福島取材に付き合う.温泉でちょっと骨休め.しかし月末は『アベラシオン』の締め切りなので、あんまりのんびりもしていられない.なんかひたすら予定に追われている気分.
 少しはいいニュースもあって、入院中の担当氏から電話.今週いっぱいで退院できそうだという.何せその話題を日記に書いたら、先日のパーティの席で「よっ、担当殺し」なんぞといわれてしまったので、さっさと退院していただきたいもの.
 本日の根付、猫またの彩色物.
 近頃読んでおもしろかった本.『予言がはずれるとき』頸草書房.いついつ洪水が起こる、空飛ぶ円盤が降りてくると予言して、それがはずれてもカルトは意外に消滅しない、というのは「そうだろーな」と思うのだが、某カルトに潜入してそのへんを調査した記録本である.ただし半世紀前のアメリカの田舎.むしろ予言がはずれた後でカルトの活動が活発化する例のひとつとして、原始キリスト教団のイエス処刑後の発展があげられているのにちょっと感動.感動というとニュアンスが変だが、じゃあなにかというと話が長くなりすぎるので、そのへんはまたいつか.

2001.09.26

 朝いきなり車が壊れた.おかげでいろいろ予定が狂う.なんとなく落ち着かなくて、仕事が進まない.言い訳だけど.
 夜は数ヶ月前からチケットを買ってある美輪明宏リサイタル.実は数年前、このリサイタルで初めて『花』、泣きなさい笑いなさいというやつです、を聞いて、篠田はぼうだの涙を流してしまったのである.あの感覚は宗教的法悦に近い.幸いいっときのことではあったが.
 来年は『卒塔婆小町』『葵上』の再演.前者は『美貌の帳』のモチーフであります.

2001.09.27

 「幻想文学」の石堂藍が遊びに来た.人には聞かせられない辛口な話から、「幻想文学」の将来的企画の話、さらにはまたキリスト教の話とか.宗教の話を宗教的でなくニュートラルにできるのは彼女とくらい.次回特集は「都市幻想」.しかしそれを決めた途端にニューヨークのあれだ.テロを許すべきでないのは当たり前だが、犯人達の目にあの巨大都市は悪の渦巻くバビロンと見えていたのだろう.絶対的貧富の差、国家権力の差、そしてアメリカの対イスラム政策が犯してきた数々の過ち.それを忘れてはいけない、一方的に正義を振り回すのは愚劣だとは、何度繰り返しても繰り返し過ぎることではないと思う.
 明日は鮎川賞パーティ.というわけで明日の更新はありません.

2001.09.28

 鮎川賞の前に打ち合わせ.初めて会う新潮社の人.カタリ派にナチス、十字軍に少女マンガと、妙に話の合う男性だった.ヨーロッパの歴史小説を書きませんかといわれて、嬉し悲しい.なぜ三年前にそういってくれなかった、という気分.
 その後光文社で本格ミステリ作家クラブ執行会議傍聴.来年でメンバーが替わるそうだ.
 エドモントに戻って着替え.六時からパーティ.間があいたせいか、ものすごい雑踏で、あまり人と会う余裕もない.パーティというやつ、昔はけっこう面白かったし、営業しなくちゃ、とも思ったから出たけれど、最近は疲労残りばかり.それでも地方にいる仲のいい作家さんが上京するので、こういうときでもないとおしゃべりできないからな.とはいえ、そういう皆さんも忙しくなってきて、前後に打ち合わせとか、のんびり飲む時間も少ない.今回の収穫は、柴田よしきさんに『龍の黙示録』がすごく好きよ、といっていただけたこと.

2001.09.29

 前夜は2時でカラオケを引き上げてホテルに戻る.篠田は音痴なので聞き役専門.
翌朝は同宿の光原百合さん、濤岡寿子さんと朝食後チェックアウト.仕事場に戻ると昼で、さすがに夕方までぐったり.その後あわてて『聖杯伝説』の再校ゲラを読む.あちこちにだぶり語があって愕然.なにを読んでいるんだよ.さて、明日からは『東日流』のラストスパートだ.

2001.09.30

 久しぶりに石堂藍から大火通信の原稿が来たので、別に急ぐものではないのだが、そちらの原稿を書き出してしまう.大火通信というのは季刊幻想文学のサイトで、そこに篠田のコーナーがあり、詳細な作品目録、プロフィールなどとともに、交換日記ならぬ交換エッセイが掲載されている、そのタイトルである.仕事抜きなのだが、差し支えない範囲で書きたいことを書くので、これが毎度けっこう熱が入ってしまう.アドレスを書こうとしたら、今手元にそれがなかった.明日書きます.見に行ってください.
 やっと『東日流』再開.しかしあまり順調でなし.いよいよクライマックスなんだけど、ずるずる延びる感触.そんなでつい、幻想文学のエッセイ「都市伝説」を書き出してしまう.結局今日は75枚まで.
 六時過ぎ、徳間の担当から電話.『聖杯伝説』の電話校了.それにしても、日曜日まで仕事してんじゃねーよ、K山っ.といってもどうせ、こんなとこ見てる暇はないんだろーけどっ.
 かくて九月も果てた.予定大遅れ.やばい.しかし異形コレクションの依頼は無事辞退できました.書いて書けないことはないだろうけど、全然練る余裕がないから.それにしても頼むから、しばらく新しい依頼はパスさせてくれ.他にいくらでも、仕事のほしい書き手はいるはず.さらにいうならなんで篠田が暇だった少し昔に、そうやって依頼をくれなかったんだい.