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2001.7.2

 毎日更新するつもりだったが、それほどネタがない.平穏な物書きの日常というのは、ひたすらパソコンに向かってキーボードを叩いているだけだ.何枚書いたというほど、どんどん進んでいるわけでもないしね.
 しかしそれなら平穏でない方がいいかというと、そんなことは決してない.数年前、「美貌の帳」を書いていた頃はかなりトラブルがあって、仕事のまったくできない日が続いた.そんなとき久しぶりにパソコンの前に戻ってこれたときのうれしさ.自分はつくづく書くことが好きなのだな、と痛感した.あの気持ちをわすれちゃあいけねえ..

2001.7.5

 翻訳家のK先生と、友人Mさんと、ホテル・ニューオータニに泊まって遊ぶ.今年の夏には三人で「やおい」論の本を作ります.

2001.7.8〜12

 祥伝社小説ノンで連載を始める『龍の黙示録』第二部の取材のため、夫とともに青森へ.四日間の旅行で見たもの.キリストの墓、盛美館、弘前の洋館多数、日本中央の碑、恐山と仏ヶ浦.食べたもの、取れ取れの生ウニ、初めてうまいと思ったほや、しじみの冷たいスープ、ケーキとコーヒーなどなど.ただし美食ミステリを書くわけではないので、後半は取材というよりは趣味か.あ、いやいやそんなことはない.うちの吸血鬼は趣味でご飯も食べるのであります.

2001.7.13

 そろそろ仕事場引っ越しの用意も本格化しなくてはならないのだが、『アベラシオン』第四回のゲラが来ている.

2001.7.14

 今日は『月蝕の窓』の再校が.この期に及んでもまだ、見落としがある.あーあ.
 午後には校閲の鉛筆が入った『アベラシオン』のゲラが.しかしどうみても納得のいかない指摘があり、確認しようにも資料はどこかのダンボールの中でいらつく.思いついてヤフーの検索をかけ、やはりこちらが正しいことを確認.校閲者が見た資料はどうやら誤植らしい.くそっ.

2001.7.15

 引っ越し準備はだいたい終わり.箱だらけの部屋では落ち着かないので、喫茶店に出かけて小説ノンの構想を立てる.だいたい二回分のプロットと、クライマックスのイメージが浮かんできた.この調子ならどうにかなりそう.だがこちらに着手する前に、明日引っ越しが一段落したら、大至急辞書と資料を探して、講談社のゲラ二点を終わらせなくてはならぬ.当面は仕事場泊まり込みかな.ビール飲みながら働こう.

2001.7.16

 仕事場の引っ越し.距離はたかだか歩いて五分だが、荷造りの手間はいっしょ.だから壊れ物なんかは、少しずつ運んでしまっていた.
 午後から講談社文庫の担当氏が手伝いに来てくれる.

2001.7.17

 まだ片づけも終わっていないのに、講談社の二件が校了.担当氏がゲラを取りに来る.頭が熱していて、文章の善し悪しなどまったくわからない.それにしても今回の『アベラシオン』の校閲は、完全な向こうのミスがあって唖然.資料本がダンボールにもぐっているので、ネットの検索で確認した.これは便利.

2001.7.19

 角川から建築探偵コミックの増刷の知らせ.まずはめでたい.しかし平塚らいてうの本名は明子ではなく明だからそこを直すといわれる.篠田の記憶では明子.しかたなく一応承知したが、やはり気になるのでまた検索.やはり明子の表記がある.というわけで角川に連絡する.戸籍名ということなら、あるいはそちらが正しいのかもしれないが、固有名詞はすべて講談社の校閲を通っている.

2001.7.20

 夕方からようやく『龍の黙示録』第二弾を書き出す.15枚.

2001.7.21

 本日は東京で友人とお茶、ついでに少し買い物を済ませるので仕事は休み.世間の連休と無関係な自由業者は、自分で休みを取るしかない.

2001.7.22

 駅前に買い物に出た帰りにころんで膝をしたたかすりむく.そのせいでもあるまいが、労働意欲が湧かず、床に寝転がってだらだら.夕方少しだけ仕事.計27枚.

2001.7.23

 午前中最低限の買い物に近所のスーパーに出た以外は、ひたすらパソコンに向かう.長編の最初というのは毎度筆がすべらないので、仕方ないか.夕方ようやく49枚.少なくとも今週中には連載の一回目が完成するだろう.

2001.7.24

 一応81枚でラスト.後半は筆が乗ったので速くなった.資料用に買った『キリストは日本で死んでいる』を読み始める.泥縄だ.いわゆるトンデモ本.しかし著者が真面目だと言うことはわかりすぎるほどわかる.真剣に宗教や人生について考えたあげくに、こういうところに落ち着いてしまった人という感じ.

2001.7.25

 篠田は一度原稿を打ち終えると、プリントして赤を入れてフィニッシュする.だいたい誰でもこんなもんだと思っていたが、聞いてみると違うスタイルの仕事の仕方をする作家さんもいるらしい.昨日打ち出しておいたのを持って喫茶店.冷房に震えながら赤入れ.仕事場にいると他の本を読んでしまったりするからね.実は昨日ももらいもののミステリを読んで、つまらなかったのだけど、最後まで斜め読みしてしまった.出版社からもらったものだから、つまらなかったといってかまわないと思うんだけど、差し支えがあると困るのでタイトルは書かない.
 『キリストは日本で死んでいる』も読了.原稿をメール送稿して、青森取材の写真をスクラップブックに貼り始める.ためておくといつまでも終わらないし、いまならアイディアを練る足しにもなる.と思っていたら『アベラシオン』の再校ゲラが届く.いつも校閲の鉛筆を読むのは腹が立つ.いわゆる差別語の問題.美辞麗句だけで小説を書けというのか.人を絶対に傷つけない表現などというものが存在すると思うのか.
 感動も笑いも涙も、傷つけることと同一線上にある.ミステリを書けば人の生死をもてあそび、犯罪を誘発しているといわれても大差はないのだ.私はそういう仕事をして、飯を食っている.傷ついたと糾弾されれば甘んじてそれを聞こう.自分に表現の是非を問い、どうしてもそれが必要だったなら、そういおう.先んじての自主規制はなにも生まない.講談社校閲部、考えを聞かせてほしい.あんたらは本当に差別という問題を真剣に考えて人の原稿を削るのか、単に臭い物に蓋、危うきに近寄らずの考えなのか.

2001.7.26

 小説ノンに原稿を送ったので、読者向けのペーパーを作るかたわら、青森取材の写真をスクラップブックに貼る.写真は基本的にA4のスクラップに貼ることにしているのだが、生来ものぐさなので、どうかすると何年も前の旅の写真がそのままになっていたりする.今回は仕事のことを考えながらの作業.キリストの墓は期待通りというか、やはりねー、という有様だった.第二回はここから始めよう.なにが期待通りだったか、興味のある人は雑誌を見てね.

2001.7.27

 ペーパーをコンビニでコピーして、しばらくご無沙汰の人やおなじみの読者に発送.すべて手作業なので、これが意外と時間がかかる.ノンの担当はけっこう掲示板とかチェックしているので、彼にここのアドレスを教えたら、あんまりこういうことは懸けなくなるね.第二回の原稿を書く気がないわけではない.決して.
 メフィストの『アベラシオン』第四回電話で校了.なんと今回の発売は第二週にずれこむらしい.しかし恩田陸ファンにはうれしいニュース.『黒と茶の幻想』最終回は400枚だそうだ.それにしてもなんとまあ、アバウトな雑誌でありますね.

2001.7.28

 20通ほどの発送を終えて、ちらっと池袋に本を買いに行く.仕事のネタとか、雑念にとらわれることなくなのしめる楽しめる読書といったら、マンガくらいになってしまった.好きなことを仕事にした報い.ちなみに今回まとめ買いしたのは、岩崎陽子さんという時代劇の描き手.あすかミステリーDXで、新撰組ものを連載中.

2001.7.29

 『龍の黙示録』第二部、というよりいい加減タイトルを書いておこう。『東日流妖異変』という。読み方は『つがるよういへん』。ただし、編集部から異論が出ているようなので、ノベルス化のときは変わるかもしれない。とにかくそれの第二回を書き出した。15枚。
2001.7.30

 今日は仕事場を出たり入ったりなので、あまり原稿が進まない.泊まり込んだが結局ネットを眺めている間に12時。

2001.7.31

 暑さが戻ってきた。この調子ではやはり8/11の有明は暑いか。原稿を進める.ようやく57枚.あと二日くらいであげたいぞ。そうしたら今度は徳間のSFだ。