中国 習政権のゆくえ

2014年11月15日 田代 直樹


  ここに来て、習政権の本質が見えてきた。2013年11月に中央国家安全委員会(中国版NSC+KGB)の主席に就任、12月に中央全面深化改革領導小組(改革を推進するための中央指導組織)の組長に、続いて、2014年2月には中央網絡安全和信息化領導小組(サイバー攻撃)、3月、中央軍委深化国防和軍隊改革領導小組(軍隊の改革)、中央外事工作領導小組、中央対台湾工作領導小組、6月、中央財経領導小組(経済運営の司令塔)のそれぞれの組長に就任した。特に中央財経領導小組は首相が兼務するのが慣例である。国家主席は担当部局を兼務しないのが通例で、日本で言えば総理大臣が6つの大臣を兼務するようなもので、あり得ない事態だ。習政権は明らかに独裁体制を築きつつある。チャイナ9、あるいはチャイナ7の従来の集団指導体制を反故に、党、国家、政府、軍の全権を習一人が独占しつつある。習の狙いは何なのか?

 現在中国では、所得格差どころではない富の独占が起こっている(*下記ジニ係数参照)。傍若無人な地方官僚と癒着した高級官僚と一部のブルジョアジーが富を独占し、それは闇の世界に蓄積されている。そして、下級官僚がそのおこぼれに群がっている。この状態が続けばやがて大衆の暴動、反乱が起こるであろう。最早武装警察、軍で大衆を弾圧するのは限界にきている。富の蓄積=大衆収奪は中央権力の許容する範囲で行われなければならず、制御不能と化した富は没収されなければならない。自己矛盾しているようだが、実際に自己矛盾しているのだが、中国共産党を労働者、農民の闘争から守るにはそれが唯一の道である、それが習政権の目的である。

 まず、官僚の摘発。「蝿から虎まで」である。2014年6月に人民解放軍幹部の徐才厚・元中央軍事委員会副主席を、7月には周永康・前政治局常務委員を摘発した。蝿では今年だけで5万人以上もの下級、中級官僚を逮捕した。ブルジョアジーに対しては、一つは不動産バブルを故意に放置することで、富の消失を狙う。第二には国有企業の強化である。世界は中国が改革開放政策を通じて、資本主義化、民営化が進展するものと考えていた。しかし、ここに来て市場開放派(江沢民、上海閥)から経済利権を奪い、国有企業を中心とした経済政策に転換する。国有企業では健康保険、年金が達成されている。

 富を官僚とブルジョアジーから取り上げる闘争は、かつての毛沢東の文化大革命に匹敵する権力闘争として、しかし静かに進行している。派閥間の闘争、上海閥、共青団、太子党の権力闘争、決して一つでない人民解放軍軍閥と、地方閥がこれに複雑に絡でいる。日本、欧米と異なるところは、中国では血で血を洗う権力闘争が可能だということである。このことによって中国が崩壊するような事はない。それは歴史が証明している。もう一つの闘争は、周辺、民族間の闘争、新疆ウイグル、チベット、台湾、香港の闘争である。

 習政権はこれらの闘争を勝ち抜き、そして、清朝を始めかつての王朝が築いた世界の中心、中華帝国を再建する。これが習の野望である。ちなみにアンガス・マディソンのGDP推計によると、清朝の絶頂期には世界のGDPの1/3を占めていた。当時のアメリカはわずか1.8%である。イギリスの日刊新聞ファイナンシャル・タイムズが、購買力平価での米国のGDPが今年中に中国に抜かれる見通しだと報じたのも習をその気にさせている。金融政策においてもBRICS銀行の設立構想、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立と着実に駒を進めている。しかし、習に政治思想があるわけではない。野望は中国のパワーそのものにあるのだ。ブルジョア民主主義ではない、まして社会主義でもない、この奇怪な国家、中国。中南海の頭が割れるとき、途方もない冒険主義が迷い出る。安倍はこの中国に現実的脅威を感じているのだ。

 我々はどうか。習政権がいかに強権的で、冒険主義的であろうと、必ずや労働者、農民が習に反対し、反撃に立ち上がると期待できるし、期待すべきである。習の冒険主義に対し安倍は軍事力の強化を対置するが、我々は労働者、農民の闘争を対置する。では我々の闘争は民主化の要求か? 残念ながら、民主化の要求は中国共産党打倒を目指すブルジョアジーと結合している。民主化の要求はまた、ウクライナ民主派(ウクライナ民族主義派)の闘争と同様に、固くアメリカのネオコンとも結びついている。だから労働者、農民は政治的要求を明確に示し、つまり民主化一般の曖昧な要求ではなく、中国共産党の官僚主義的一党独裁に反対するばかりではなく、貪欲なブルジョアジーやネオコンを自らの隊列から叩き出すことによって闘争を前進させなければならない。そのように闘争する過程でのみ民主化が勝ち取れるであろう。

農地の詐欺的強制収容糾弾!
労働者に自主・自立の労働組合結成の自由を!
少数民族に自治、独立を含む自己決定権を!

虐げられたる中国の労働者、農民諸君、毛沢東、鄧小平共産党を拒否し
真のマルクス・レーニン主義の共産党を建設せよ!!

*ジニ係数:主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。係数の範囲は0から1で、係数の値が0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。ちなみに、0のときには完全な「平等」つまり皆同じ所得を得ている状態を示す。1は一人が全ての所得を独占している状態。社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4、危険ラインは0.6である。(日本、米国を削除)北京大学中国社会科学調査センターは「中国民生発展報告2014」を発表し、ジニ係数が0.73に達したと報告した。ジニ係数が0.73とは分かりやすくモデル化すると、上位3%の富裕層が全所得の50%を独占していて平均所得の17倍を得ており、7%の中間層が30%を占めて平均所得の4倍を、残りの90%の貧困層がわずか20%のみで平均所得の1/5しか得られていない状態。

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