アントニオとパトリシア

バーモント州にストウェという町があります。
映画「サウンドオブミュージック」の熱烈なファンなら知っている人もいるかもしれません。
この映画の原作「トラップファミリー物語」の実在する主人公マリアとトラップ大佐とその子供たちが母国オーストリアを逃れスイスを経由し安住の地として選んだ場所がこのまちでした。
彼らはオーストリアの風景に良く似たここにロッジを建て自給自足の生活をしながら旅人をもてなしています。
現在もトラップ家一族によって経営されているのです。

ストウェはスキーエリアとしても有名ですが秋の紅葉が美しいことでも知られています。
ペンション風の小さなベッド&ブレックファーストが点在し一年を通して観光客が絶えません。

今回宿泊先に選んだ「トスカーナイン」はオーナーのアントニオと妻のパトリシアが経営するイタリアレストランを兼ねたベッド&ブレックファーストで、この宿の最初の日本人客として私は温かく迎え入れられました。
彼らはかなりの日本びいきで寿司が大好物だそうです。
アントニオの弟は腕利きの料理人でレストランではおいしいイタリアンを堪能させてもらいました。

翌日はマウンテンバイクを借りて秋のストウェのまちを肌で感じることができました。
落ち葉に覆われた未舗装の道を走るとのんびりと牧草を食む牛や美しい風景が流れていきます。
小川に架かる小さな吊り橋や湿原、屋根に覆われた大きな橋を渡り、純白の小さな教会のある町の中心に到着。
絵葉書を購入し郵便局で投函してみました。
昼食にはスーパーでパンと水を調達しおいしい空気と一緒に味わいました。

ニューイングランドと呼ばれるアメリカ北東部はイギリスから多くの移民が定住した地域です。
ここバーモント州は非常に保守的な土地柄なのか白人以外の姿を見かけることはほとんどありません。
最近では日本のツアー客も押し寄せているようですがいつまでも静かにゆっくりと時間が流れていく場所であって欲しいと思います。

ほんのわずかな滞在でしたがイタリア人の陽気で心温まるもてなしに親近感を覚えました。
アントニオ夫妻にプレゼントした招き猫を見にストウェを再訪できるのを楽しみにしています。

【1997年9月】