ヒーローインタビューの「商業化」



日本の野球は、ここ最近、様変わりしている。
大衆の娯楽であった野球は、いつしかビジネスとなり、選手もカネで動く時代になった。

そして、いつしかヒーローインタビューにすら、この商業主義が持ち込まれることとなったのである。
20×0年のある日。

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ある日、広島球団は本拠地で、見事勝利を収めた。

観客(絶叫)

アナ「放送席、放送席!ヒーローインタビューです!今日は、投打のヒーローです!まずは打のヒーロー、先制タイムリーを打ったランナーを1塁に置いて、見事送りバントを決めた、瀬戸選手(仮名)です!」

観客(やや絶叫)

アナ「瀬戸さん、よく送りました。」

瀬戸「はあ、ありがとうございます。」

アナ「2回裏の場面、1アウトからディアス選手の2点タイムリーがありまして、球場が盛り上がった所での送りバント。どういったお気持ちでバッターボックスに入られましたか?」

瀬戸「いや、そのね、とにかく流れを僕のところで止めたくなかったんでね。なんとかランナーを進めたかったんで・・・」

アナ「2球バントを失敗した後の3球目。緊張しませんでしたか?」

瀬戸「そうですね、監督からは思いっきり行けと言われましたんで。思い切りいきました。」

アナ「そして、3球目でみごと、バントを決めました!ですが、その後の3打席は残念ながら凡退。でも、守備ではいいところを見せました!」

観客(拍手)

アナ「最終回、同点のランナーを2塁に出すピンチ。パスボールしたと見せかけるも、ランナーを飛び出させて、3塁タッチアウト!これで流れを断ち切りました!」

観客(拍手)

瀬戸「ええ、パスボールは狙ってやったわけじゃないんですけどね。うまいこと冷静に判断できましたね。」


アナ「これでチームも3連勝。波に乗れそうですね?」

瀬戸「ええ、僕は昨日、おとといと出てなかったんで何とも言えないんですけれども。僕が出たときは、一生懸命がんばります。」

アナ「最後に、スタンドに向かって一言!お願いします。」

瀬戸「これからもがんばりますんで、応援よろしくお願いします。」

観客(一応拍手)

アナ「さあ、もう一人、投げては9回
1イニングを、見事1失点に抑えた、ウルソー投手(仮名;以下「ウル」)です!」

観客(一応拍手)

アナ「今夜は、ナイスピッチングでした!」

ウル「Yes,I think---(ええ、今夜は出来がよくないと思ったんですけど、なんとか抑えることができて、よかったと思っています。)」

アナ「2対0で迎えた9回、満を持しての登板となりましたが、いかがでしたか?」

ウル「Yes,he was---(先発が8回までゼロに抑えてくれていたので、なんとか抑えとして、このまま行きたいと思って投げました。)」

アナ「登板されて、いきなりフォアボール。すかさず盗塁もされて、我慢のピッチングでした。」

ウル「Ahh, but,---(ええ、ですが調子自体は悪くなかったので、とにかくキャッチャーの指示通りに投げるよう心がけました。)」

アナ「2アウトを取った後、タイムリーで1点差。さらにはボークでランナーを2塁に進めてしまいました。このときのお気持ちは?」

ウル「I thought---(いつものことだと割り切って、気にしないでとにかく投げました。)」

アナ「一打同点のところで、瀬戸さんのあのプレー。」

ウル「Ah,I could---(だんだん球が切れてきたので、三振は取れると思っていました。できれば、自分の手で三振にきって取りたかったという気もします。でも、とにかく勝てて、本当によかったです。)」

アナ「それでは、最後にスタンドのファンに向かって一言!」

ウル「Ahh, thanks---(応援ありがとうございました。明日からも毎試合投げぬく覚悟ですので、応援よろしくお願いします。)」

アナ「本日の投打のヒーロー。瀬戸選手、そしてウルソー投手でした!皆さん今一度、盛大な拍手をお願いします!!」

 

観客(既に退出)

 

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瀬戸・ウルソー両選手は、共に今日の「ヒーローインタビュー権」を 落札 していた。

相場では、この権利を得るには、単独でのお立ち台が1日200万円。2人での登場では、1人あたり110万円は必要とされている。

この額さえ支払って、落札すれば本拠地で勝ったときに、どんなに活躍しなくても、無理やりこじつけて、ヒーローとなることができる。

人気なのは、2人で登場するタイプ。
1人だと高すぎるし、なにより、本当に見るべきプレーがない場合、さすがに恥ずかしいからだという。
さりとて、5人以上で登場されると、目立ちようがなくなるので、逆に不評である。
無論、客にも不評である。

ヒーローインタビューはやめたほうがいい、とも言われるようになった。
資本主義がスポーツ界に生んだ、逆効果である。

そして、

野球はやめたほうがいい、とも言われる日は来るのだろうか・・・

 

(以上の話はフィクションです)

 

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