・ 昔を振り返る・・・ 1992年 9月 13日、東京ドーム
まず、下の写真を見てください。
これは、私が東京ドームに行った数少ない試合、しかもバックネットのほとんど真正面で見る機会を頂いた時の、巨人×広島 戦のスターティングメンバーです。
(ただし巨人の6番は、スタメン レフト吉村でした。途中交代か? 、、その吉村も、98年で引退。お疲れ様でした。)これは 1992年のものである。 まだ 6年ほどしか経っていないのだ。10年一昔という言葉は、完全に死語となりつつある。別に、これを見て 「達川の打率は 2割3分しかないじゃないか」とか、「5回表なのに時計はまだ7時半だ」とか、そんな細かいことはどうでもいいんです(・_・)
カープで今も現役なのは、1番の野村・3番の前田・4番の江藤 の3人だけである。
一方、巨人でそのまま現役を続けているのは、2番の川相ただ一人である。
だからどうした、と言われれば返す言葉もないですが(笑)この日の試合のヒーローは、広島カープの3番だった。
この試合、テレビで見ていたカープファンなら知っているかもしれない、「前田涙のホームラン」と言い伝えられることになった試合である。5回の裏あたりに、巨人川相がセンター前に打ち返す。 当時センターにいたカープ前田が、ダイレクトで取ろうと前に突進する。その意気が裏目に出たか、ボールは前田のグラブに収まることなく外野を転々。もちろん前に突っ込んでいた前田の後ろでは誰も守っていない。・・・川相はランニング・ホームラン。ホームを駆け抜けた川相は疲れたのか、そのままグランドで転がった。「北別府さんの勝ちを消してしまった」とは、試合後の前田の弁。確かにうなだれていたが。
試合は終盤へ。巨人ベンチは、必勝パターンへと突入する。出された投手は、当時は絶対の抑えであった石毛。今で言う横浜の佐々木的存在である。
その評判通り、この日も快調なピッチング(だったと思う)。「こりゃあ打てんな」と思った。私は恐くて打者を見ることができず、双眼鏡でひたすら石毛だけを見ていた。ちなみに私はカープファンです。これを先に言うと、カープファン以外は見なくなると思って言わなかったんですが(^^;
カープファンも半分あきらめかけていたであろう時、前田に打順が回ってきた。
私は、依然として打者を見ないようにしていたが、投げ下ろした石毛が次の瞬間、1塁方向を向いた。
「ファーストゴロか?」 東京ドームにどよめきが起こる。1塁手がトンネルしたか?観客は1塁ではなくライトの応援席を見ている。 ここではじめて双眼鏡から目を離し、球場を見渡す。ボールは外野の悲しい巨人ファンの中へと消えていったようだ。
2ランホームラン。 広島カープ勝ち越し。
普通のホームランとは様相が全く違っている。打った前田がガッツポーズ一つ見せない。(後から判明したが、打った瞬間に一回ガッツポーズをしていた) 前田は完璧主義者なので、ホームランを打っても首をかしげることはよくある。ましてや笑うことなど稀な事象だ。(最近は、少しは明るくなったが...) しかしここだけは通常と違っている。これも後から判明したことだが、前田は泣いていた。
このあと、守備についている時も泣いていたようだ。 もちろん私はまさか泣いているとは知らず、「なんでホームラン打ったのに、うなだれているんだ?」と思っていた。
試合は、このあとカープの投手陣が守り切り、カープの勝利で幕を下ろした。
ヒーローインタビューのお時間が来た。私も3塁ベンチ前に飛んでいったが、誰もいない。呼ばれるべき人は当然前田、と誰もが思っていただろう。しかし、何分経っても彼の姿は現れなかった。
「カープが勝ったら、ヒーローインタビューは無しかぁ?」の声が所々で聞こえる。しかし、そんな声は少数派。3塁側内野もバックネット裏も、ほとんどが巨人ファン。インタビューには関心を示さず、出口へと急いでいた。確かにおかしい。本拠地でないとはいえ、インタビューはどこが勝ってもあるはず。どうやら出てきそうにないので、仕方なく帰る。その後、スポーツニュースで知ったが、どうやら前田がヒーローインタビューを拒否したらしい。そして、何を聞かれても「すいません」を連発するだけだったという。
人一倍責任感の強い前田に関するエピソードは、真偽が疑わしいものを含めて数多く存在する。この日の試合のことは、それらの中の一つとして、今でもカープファンが集う場所では話題に上がることも多い。
つい最近、似たようなことがあった。 いつか、誰かは忘れたが、横浜スタジアムでの 横浜×巨人 戦で、土壇場でエラーをした横浜の選手が、直後にサヨナラヒットを打った。たしか彼も前田と同じように涙を浮かべていて、お立ち台では「すみません」を連発していた。たまたまテレビで見ていたのだが、彼もまた、あの日の前田と同じ心境だったのではないか? と、一人想像してしまった。
実は、家にスキャナーが導入され、せっかくだからホームページに写真を取り込もうじゃないかと張り切って、さて何の画像を載せようかと写真を探していたら (雑談コーナーの 別府旅行 のときの写真も載せるつもりです。ただ、それらはまだカメラの中にあるので^^;)、上の写真が見つかったので、せっかくだからこれで書いてみるかぁ、って事になって、それでこの文章ができたわけです。 よくここまで読んでくれましたね。感謝しますm(_ _)m
1998年 8月 6日